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The “All At Once” Universe Shatters Our View of Time
https://curtjaimungal.substack.com/p/the-all-at-once-universe-shatters
登場人物
- エミリー・アドラム(Emily Adlam): チャップマン大学の教授。量子力学の基礎、特に時間の本質と非局所性に関する研究者。
- カート・ジャイムンガル(Curt Jaimungal): インタビュアー、「Theories of Everything」YouTubeチャンネルのホスト。
対談全体のメインテーマ
物理学における時間の概念とその本質に関する根本的な再考
メインテーマの解説
この対談では、エミリー・アドラム教授が提唱する「一挙に全て(All At Once)」という物理学的視点を探求している。従来の物理学では、宇宙は初期状態から時間的に進化するという見方が支配的だが、アドラムはこれを「ドグマ(教条)」と呼び、むしろ物理法則は時間発展ではなく、全時空に同時に適用される制約として機能すると主張する。この「数独宇宙」モデルでは、過去から未来への進化ではなく、可能な歴史のパターン全体に同時に制約を課すという視点が強調されている。
トピックの背景情報や文脈
議論の主要なポイント
- 時間発展という物理学の教条: 従来の物理学では、宇宙は初期状態から時間的に前進するという見方が支配的だが、これは現代物理学の発見と必ずしも整合しない。
- 数独宇宙モデル: 物理法則は数独パズルのルールのように機能し、全体のパターンに制約を課す。時間発展ではなく、全時空の整合性を要求する。
- 時間的非局所性: 量子力学における非局所性は空間だけでなく時間にも存在する。これは相対性理論と量子力学を組み合わせると不可避となる。
- 因果性の本質: 因果性は基本的なものではなく、巨視的な現象として理解されるべきである。ミクロの世界では因果的構造よりも異なる種類の構造が存在する。
- 全て一挙に(All At Once)モデル: 物理法則は全歴史に同時に適用される制約として機能し、特定の時間点を特権化しない。
提示された具体例や事例
- 数独パズルのアナロジー: 数独のルールは左から右へという順序を指定せず、パズル全体のパターンが有効かどうかを決める。物理法則も同様に機能する可能性がある。
- 鳥の軌跡の例: ある点から鳥の位置と速度を知れば、その軌跡を予測できるが、なぜその点を「初期」と呼ぶのかは任意である。軌跡全体がすでに存在し、特定の点を特権化する理由はない。
- 相対論的参照系の変換: 空間的非局所性を持つ系を相対論的参照系で見ると、参照系の変換によって同時性が変わり、空間的非局所性が時間的非局所性に変わりうる。
結論や合意点
- 現代物理学の多くの分野(量子力学、相対性理論、量子重力)において、時間発展よりも全体的制約という考え方がより適している。
- 物理法則を「一挙に全て(All At Once)」モデルで捉えることで、量子力学の測定問題や時間の問題に新たな視点を提供できる。
- 因果性は基本的なものでなく、巨視的な現象として理解されるべきである。
特に印象的な発言や重要な引用
「私が心配するドグマは、物理学を時間発展の観点で考えるべきだという考え方です。初めから始めて時間的に前進するという図式です。これは物理学を考える上で非常に直感的な方法ですが、現代物理学で観察されていることとは明らかに合致しません。」
「数独の宇宙とは、現代物理学における時間と法則についての考え方です。物理学をコンピュータのようなものと考える伝統的な方法があります。初期状態を入力し、宇宙がその初期状態を時間的に進化させて歴史の過程を生み出すというものです。しかし、物理学のさまざまな部分からの証拠は、時間をそのような観点で考えるべきではないことを示しています。」
「相対性理論内で空間的非局所性を持つフレームを考えると、相対論において許容される参照系の変換を行うことで、同等に有効な別の参照系を得られます。その参照系では、それらの事象はもはや同時ではなくなります。こちらでのボブの事象はアリスの観測の未来か過去のいずれかになります。そのような変換によって、空間的非局所性が時間的非局所性に変わったように見えます。」
「自由意志について考える上で重要なことは、未来が真に開かれているという考え方です。私が行動しているこの瞬間に、私の行動がどうなるかという事実は存在しないという考えです。しかし、一挙に全てのモデルではそのような考え方は利用できません。宇宙全体が一度に存在し、無時間的な視点から見れば、私の行動がどうなるかについてすでに何らかの事実が存在します。」
サブトピック
量子力学の測定問題
量子力学における最大の未解決問題は測定問題である。この問題は単に知的好奇心からだけでなく、量子重力などの現代物理学の具体的な問題と密接に関連している。特に時間の問題は観測者の性質、観測の性質に関する問題である。通常の量子力学において観測者をどう考えるかが明確になっていないことが、さらなる物理学の進展を妨げている可能性がある。観測者を物理的に定義する明確な方法がないことが問題である。
数独宇宙モデル
数独宇宙モデルとは、現代物理学における時間と法則についての考え方である。従来、物理学はコンピュータのように初期状態から時間発展するという見方をしていた。しかし現代物理学の証拠は、時間をそのように考えるべきではないことを示している。むしろ自然法則は歴史全体に一度に適用され、数独のルールのように全体のグリッドを制約し、解全体が有効か無効かを判断する。自然法則はこのように機能し、時間発展のようには機能しない可能性がある。
時間の問題と時間の矢印
時間の矢印とは、我々の経験する世界に見られる時間的非対称性を指す。グラスが割れて自然に元に戻らないなどの明らかな非対称性である。時間の矢印の問題は、基礎となる物理学がほとんど時間的に対称であるにもかかわらず、これらの非対称性がどこから来るのかが明らかでないことである。一方、量子重力における時間の問題は別の問題で、特定の量子化形式において時間発展がゲージ変換となり、物理的に実在しないように見えることを指す。
非局所性:空間的と時間的
量子力学における非局所性は、局所的モデルでは説明できない強すぎる相関を示す現象である。一般的に非局所性は空間的なものとして考えられるが、時間的非局所性も存在する。空間的非局所性では、アリスの測定が瞬時に全世界の波動関数を崩壊させ、ボブの測定結果に影響を与える。時間的非局所性では、アリスの測定と後の時点でのボブの測定の間に直接的な関係が存在し、グローバルな状態を通じた伝達がない。相対論的制約と組み合わせると、空間的非局所性は時間的非局所性も意味する。
一挙に全て(All At Once)モデル
一挙に全てモデルとは、自然法則が歴史全体に一度に適用されるというアイデアである。可能なタイプの一つは、初期条件と最終条件を固定し、法則が間に何が起こるかを決定するモデルである。しかし、これは唯一の可能性ではない。自然法則が歴史全体を一度に決定するという見方では、歴史上のどこかの状態を固定するだけで十分である。それは初期状態かもしれないし、最終状態かもしれないし、途中の一つか複数の状態かもしれない。このような見方では、特定の時点が特別に特権化される必要はない。
観測者中心の量子力学解釈
観測者中心の解釈(キュービズムなど)は、真剣に観測者中心性の考えでは、物理的な実在は観測者に相対的であり、各観測者は自分自身の「実在」を持つとされている。そのため、各観測者が自分自身の現実を持ち、互いにコミュニケーションできないという図式に不可避的に導かれる。
これは科学の実践と相容れない。科学は非常に社会的な活動であり、科学の客観性は多くの科学者が観測を行い共有することに基づいている。したがって、異なる観測者間のコミュニケーションが不可能だと言うような量子力学の解釈は合理的ではない。しかし、観測者や視点が重要な役割を果たすより穏健な観測者中心の見解には興味がある。
確率の解釈
確率の解釈は非常に難しい問題である。頻度主義的アプローチは多くの場合有用だが、哲学的に重大な問題を抱えている。主観的ベイズ主義は、特定の確率が単に私たちの心の中にあるのではなく世界に存在するという事実を適切に扱えない。傾向性説は神秘的で、一挙に全て物理学と調和させるのが非常に難しい。最近の興味深いアプローチとして「ノミック頻度主義」があり、確率を頻度が特定の形を持つことを要求する法則として理解する。これは相対頻度に対する制約として確率を考える有望なアプローチである。
多世界解釈の問題点
多世界解釈は、測定結果に確率を割り当てる意味を与えることが困難という実質的な問題を抱えている。特に、多世界の文脈では高確率の結果を期待すべきという主張を正当化することが難しい。しかし高確率の結果を期待できなければ、観測した結果を理論の証拠として使用できない。なぜなら理論によって高確率と低確率のどちらが割り当てられるか分からないからである。これは非常に深刻な認識論的問題であり、観測者相対的アプローチにも同様の問題が生じる。量子力学の解釈を議論する際、これらの問題をもっと前面に出すべきである。
ビギナー向け解説:「時間の流れ」を疑う物理学の新しい考え方
この記事では、エミリー・アドラム教授という物理学者が、私たちが当たり前に思っている「時間の流れ」について新しい考え方を提案しています。
「数独宇宙」とは何?
私たちは普通、時間は過去から未来へと一方向に流れていくと考えています。物理学でも長い間、「最初の状態から始まって、時間とともに変化していく」という考え方が主流でした。
でもアドラム教授は、これを「教条(きょうじょう)」つまり「疑われることなく信じられている考え」だと言います。そして、別の見方を提案しています。
それが「数独宇宙」という考え方です。数独パズルでは、左上から順番に埋めていくというルールはなく、パズル全体としてのルールがあります。同じように、自然の法則も「過去から未来へ」という順序ではなく、宇宙全体に同時に適用される「制約(せいやく)」かもしれないというのです。
時間を超えるつながり
普通、量子力学(物質の最も小さな単位の動きを説明する物理学)では、離れた場所にある粒子同士が不思議なつながりを持つことがあります。これを「非局所性」と呼びます。
アドラム教授は、この不思議なつながりは空間だけでなく、時間にも存在すると考えています。つまり、過去の出来事と未来の出来事が直接つながっている可能性があるのです。これは普通の因果関係(原因と結果)とは違います。
なぜこの考え方が重要なの?
この「一挙に全て」という考え方は、現代物理学の多くの難問に新しい視点を与えます:
- 量子力学の謎: 量子力学にはたくさんの不思議な現象があります。時間を超えたつながりを認めることで、これらをよりうまく説明できるかもしれません。
- 自由意志について: もし宇宙の歴史全体が同時に存在するなら、私たちの「選択」はどういう意味を持つのでしょうか?アドラム教授はこれについても考察しています。
- 科学の知識: 科学は「観測」に基づいていますが、「観測者」とは何かという問題は難しいものです。アドラム教授の考え方は、この問題に新しい光を当てます。
身近な例で考えてみよう
空を飛ぶ鳥を想像してください。その鳥の位置と速さを知れば、その先の動きを予測できます。でも、なぜその瞬間を「初期状態」と呼ぶのでしょうか?それは単に私たちが選んだ点に過ぎません。
同じように、宇宙全体についても、「初期状態からの進化」という見方は、私たちが選んだ視点に過ぎないのかもしれません。実際には、宇宙全体のパターンが最初から決まっているのかもしれないのです。
まとめ
アドラム教授の考え方は、私たちの時間についての当たり前の考えに疑問を投げかけます。時間は流れるものではなく、宇宙全体が「一挙に全て」存在するという見方は、難しい物理学の問題に新しい解決策を提供するかもしれません。
この考え方はまだ発展途上ですが、私たちの「時間」や「因果関係」についての理解を深める大きな可能性を秘めています。物理学は単に「物がどう動くか」を説明するだけでなく、「私たちがどう世界を理解するか」についても深い洞察を与えてくれるのです。