
『あなたは何も所有しない:新金融世界秩序における富と自由への戦い』キャロル・ロス 2023年
『You Will Own Nothing: Your War Against a New Financial World Order and How to Fight Back』Carol Roth 2023年
目次
- 序論:来るべき戦争 – Introduction: The Coming War
- 第1章:社会的に受け入れられない – Socially Unacceptable
- 第2章:新金融世界秩序 パート1 – A New Financial World Order, Part I
- 第3章:新金融世界秩序 パート2 – A New Financial World Order, Part II
- 第4章:信じられないほど縮む ドル – The Incredible Shrinking Dollar
- 第5章:デジタルドルの困窮 – Digital Dollar Destitution
- 第6章:技術統治と デジタル権利 – The Technocracy and Digital Rights
- 第7章:社会的に受け入れられない ビジネス版 – Socially Unacceptable, the Business Edition
- 第8章:アメリカンドリームを賃貸する – Renting the American Dream
- 第9章:価値のない紙 – Worthless Paper
- 第10章:来るべき富の強奪 – The Upcoming Wealth Heist
- 第11章:全てを所有する – Own Everything
全体の要約
本書は、世界経済フォーラム(WEF)の「2030年にはあなたは何も所有せず、幸せになる」という予測を出発点として、アメリカ人の財産権と富創造の機会が組織的に破壊されている現状を詳細に分析している。著者キャロル・ロスは、この現象を「第三次世界大戦F(金融戦争)」と位置づけ、政府、大企業、ビッグテックという三つの勢力が連携して個人の財産権を剥奪しようとしていると警告する。
歴史的な文脈では、オランダ、イギリス、そしてアメリカという金融帝国の興亡のサイクルが詳述される。現在のアメリカは、過度な政府支出と債務により、基軸通貨としてのドルの地位が脅かされる段階にある。連邦準備制度理事会(FED)の量的緩和政策は通貨の価値を毀損し、インフレを引き起こし、一般市民の購買力を奪っている。特に2020年以降のCOVID-19対策として実施された史上最大規模の金融緩和は、ウォール街に富を集中させ、メインストリートから富を奪う結果となった。
技術統治の問題では、Apple、Google、Meta、Amazonなどの巨大テック企業が事実上の影の政府として機能し、言論の自由、プライバシー、財産権を脅かしている現状が分析される。これらの企業は、利用者がコンテンツを作成しても真の所有権を与えず、サブスクリプションモデルを通じて永続的な収益源とする構造を築いている。中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入は、この統制をさらに強化する可能性がある。
ESG(環境・社会・ガバナンス)は、BlackRockなどの巨大資産運用会社が推進する企業版の社会信用スコアとして機能し、実質的に企業の資本配分を政治的な目的に従わせる仕組みとなっている。エネルギー投資の制限により、インフレが加速し、消費者の負担が増大している。
住宅市場では、機関投資家が個人の住宅購入機会を奪い、アメリカンドリームの象徴である持ち家を賃貸に変換している。FEDの低金利政策により潤沢な資金を得た企業が、個人の最大の富創造手段である住宅を組織的に取得している。
教育制度は政府主導の略奪的貸付システムとなり、学生を長期間の債務に縛り付けている。政府が銀行を学生ローン市場から排除し、引受基準なしに融資を行うことで、大学の費用は急騰し、学位の投資収益率は低下している。
相続に関しては、今後25年間で84.4兆ドルの富の移転が予想される中、政府は富裕税や相続税の強化を通じてこの資金を狙っている。現実化していない キャピタルゲインへの課税などの提案は、事実上の財産の没収に等しい。
最終章では、この金融戦争に対抗するための具体的な戦略が提示される。多様化された投資ポートフォリオの構築、特に金や不動産などの有形資産への投資、ESGへの反対活動、技術プラットフォームの権利保護、地域コミュニティでの政治参加など、個人と集団レベルでの行動指針が示されている。著者は、この戦いはまだ勝利可能であり、財産権と経済的自由を守るためには積極的な行動が不可欠であると結論づけている。
各章の要約
序論:来るべき戦争
政府、エリート権力者、ビッグテックという三つの勢力が連携し、アメリカ人の財産権、富、自由を奪おうとする「第三次世界大戦F(金融戦争)」が始まっている。富は所有から生まれるが、WEFの「あなたは何も所有しない」という予測が実現に向かっている。新金融世界秩序の台頭により、債務と絶望が無秩序を生み、権力者たちは自らの生存のために一般市民の富を必要としている状況が分析される。
第1章:社会的に受け入れられない
COVID-19ワクチン義務化により、医療従事者や警察官など「エッセンシャルワーカー」が職を失った実例を通じて、社会信用制度の基盤が既に構築されていることを示す。カナダの自由護送船団への政府による銀行口座凍結、中国の社会信用制度、WEFが推進する代替信用スコア(ACS)など、政府による金融武器化の事例が詳述される。デジタルIDの普及により、この統制システムがさらに強化される危険性が警告される。
第2章:新金融世界秩序 パート1
歴史的な金融帝国の興亡サイクルを分析し、現在のアメリカが帝国末期の症状を示していることを論証。オランダ、イギリスに続くアメリカの金融覇権は、過度な政府支出と債務により脅かされている。ブレトンウッズ体制からペトロダラー制度への移行、そして2022年のロシア制裁によるドル武器化まで、基軸通貨としてのドルの地位が徐々に損なわれている過程が描かれる。新金融世界秩序への移行は不可避であり、これがアメリカ人の生活水準と富創造機会に深刻な影響を与えると予測される。
第3章:新金融世界秩序 パート2
財産権の侵食とエリート勢力による権力集中を分析。WEF、国連、BlackRockなどが推進する「ステークホルダー資本主義」は、実質的に中央計画経済への回帰である。ビル・ゲイツの農地買収、ハーバード大学の水利権取得など、具体的な資源独占の事例を示し、「善意の発想から悪い結果へ」のモデルを用いて、いかに崇高な理念が権力と金銭欲によって歪められるかを説明する。COVID-19パンデミックは、このようなエリート主導の富の移転を加速させる触媒として機能した。
第4章:信じられないほど縮むドル
古代ローマ帝国のネロによる貨幣改悪から現代FEDの政策まで、通貨価値毀損の歴史的パターンを解説。FED設立以来ドルは購買力の97%を失い、特に2020年以降の量的緩和により史上最悪のインフレが発生した。「インフレは一時的」という政府の嘘、FED関係者の内部取引、小売投資家革命の挫折など、政策決定者とウォール街の癒着による一般市民の富の組織的略奪が詳述される。MMT(現代貨幣理論)の危険性と、通貨政策の政治化がアメリカ経済に与える破滅的影響が警告される。
第5章:デジタルドルの困窮
中央銀行デジタル通貨(CBDC)の脅威を分析。中国のe-CNYの失敗例を示しながら、CBDCが暗号通貨とは正反対の中央集権的統制ツールであることを説明。プログラム可能な通貨により、政府は個人の支出を完全に監視・制限できるようになり、社会信用制度と組み合わせることで究極の統制社会が実現する危険性がある。サイバーセキュリティリスク、プライバシー侵害、銀行システムの破壊など、CBDCの深刻な副作用と、これが「あなたは何も所有しない」状態への最終段階であることが論じられる。
第6章:技術統治とデジタル権利
ビッグテックが事実上の影の政府として機能し、憲法ではなく利用規約によって権利が制限される現実を分析。BMW の加熱シート月額料金制から始まり、Apple、Google、Meta、Amazonなどが構築した「あらゆるカルテル」により、競争と選択の自由が失われている。メタバースなどの新技術により、物理的な所有からデジタルな賃借への移行が加速し、利用者は永続的な顧客となる。政治への介入、選挙操作、NSAとの協力など、テックの権力拡大が民主主義そのものを脅かしている状況が詳述される。
第7章:社会的に受け入れられない ビジネス版
ESG(環境・社会・ガバナンス)が企業版社会信用スコアとして機能し、40兆ドル規模の利権構造を形成していることを暴露。BlackRockのラリー・フィンクを中心とする金融エリートが、ESGを武器として企業の資本配分を政治的目的に従わせている。スリランカの有機農業政策による経済崩壊、オランダの農業規制、テスラのESG指数除名など、ESGの実害を具体例で示す。これらの政策により、エネルギー不足とインフレが世界的に拡大し、結果的に一般市民の生活が脅かされている現実が描かれる。
第8章:アメリカンドリームを賃貸する
住宅所有がアメリカ人の最大の富創造手段であるにもかかわらず、機関投資家による組織的な住宅買収により個人の購入機会が奪われている状況を分析。FEDの低金利政策により潤沢な資金を得たTricon、Invitation Homes、American Homes 4 Rentなどの企業が、単独世帯住宅を大量購入して賃貸化している。政府規制による住宅建設費の増加(平均94,000ドル)、小規模大家への立ち退き猶予令による打撃、Airbnbによる住宅の短期賃貸化など、あらゆる角度から住宅所有が困難になっている実態が詳述される。
第9章:価値のない紙
政府主導の学生ローン制度が若者を債務奴隷化する仕組みを解説。2010年に政府が銀行を学生ローン市場から排除して以降、引受基準なしの融資により大学費用が急騰し、学位の投資収益率が急速に悪化している。年間25兆円規模の政府補助金が大学に流れる一方で、卒業生は長期間の債務に苦しむ構造的矛盾が分析される。ミレニアル世代は史上最高の給与を得ながらも最低の富蓄積率という逆説的状況にあり、学費債務免除が実質的に労働者階級から高学歴層への富の移転であることが指摘される。
第10章:来るべき富の強奪
今後25年間で84.4兆ドルの世界史上最大の富の移転が予想される中、政府がこれを狙った増税政策を推進している実態を分析。社会保障やメディケアの未積立債務は129.1兆ドルに達し、年金制度は実質的なポンジースキームとなっている。ジャネット・イエレン財務長官が推進する未実現キャピタルゲイン課税は事実上の財産没収であり、「億万長者だけが対象」という政府の説明は欺瞞である。ヨーロッパ9カ国が富裕税を廃止した失敗例があるにもかかわらず、政府は個人の富の組織的略奪を計画している。
第11章:全てを所有する
金融戦争に対抗するための具体的な行動指針を提示。多様化された投資ポートフォリオの構築、特に金・不動産・事業株式などの有形資産への投資が推奨される。ESGへの反対運動、技術プラットフォームでの権利保護、地方政治への参加、子どもの教育権保護、相続計画の策定など、個人と集団レベルでの具体的対策が詳述される。著者は、この戦いはまだ勝利可能であり、財産権と経済的自由を守るためには受動的ではなく能動的な行動が不可欠であると結論づけ、読者に「可能な限り全てを所有せよ」と呼びかけている。
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