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ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)
概要
タンパク質の品質管理
タンパク質の品質管理(恒常性)はユビキチン-プロテアソーム(UPS)、シャペロン、シャペロン媒介の自己貧食、マクロオートファージ-などに複数のシステムによって維持されている。
タンパク質の恒常性(プロテオスタシス)の効率が低下すると、誤って折り畳まれたミスフォールドタンパク質が細胞内に蓄積して凝集し、細胞を破壊し細胞死を引き起こす可能性がある。
ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)
タンパク質の品質管理を行うシステムのひとつであるユビキチン-プロテアソーム系は、細胞内の損傷、ミスフォールド、不要なタンパク質を分解するための主要な経路として存在し、ユビキチン化とプロテアソーム分解という2つの連続したステップによって行われる。
またユビキチン-プロテアソーム系(UPS)は、神経変性疾患と関連する異常タンパク質も、分解することができる多くの証拠が存在する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4117186/
ユビキチン-プロテアソーム系の機能低下
ユビキチン-プロテアソーム系の機能低下は多くの神経変性疾患で報告されており、その病因に二次的な関与をしていることが報告されている。
αシヌクレイン、アミロイドβ、ポリグルタミンタンパク質などの凝集しやすいタンパク質はUPS機能を低下させ、プロテアソームによる分解を遅らせると考えられている(UPSの機能不全仮説)
未解明のメカニズム・プリオン関与の疑い
しかし、どの凝集体がプロテアソームを損なうのかなど、多くのメカニズムは解明されていない。
ある研究ではプリオンタンパク質であるPRPscが、プロテアソームのゲート通過を減少させることでプロテアソームを阻害することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21743439
ユビキチン-プロテアソーム系の活性
一方でUPSは神経変性疾患において保存されており、UPSの活性は有効であるという研究の証拠は増えてきている。
最近の研究では転写因子Nrf1、Nrf2を介してユビキチン-プロテアソーム系を調節できることが明らかになってきた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20385086/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21149573/
Nrf2
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22308036/
アブラナ科野菜、スルフォラファン、Nrf2によるプロテアソーム活性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14612418/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17664144/
HSP90阻害
USP14阻害 IU1
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20829789/
USP14阻害剤によるプロテアソームのタウ分解増強
神経変性疾患におけるUPSの役割
ミトコンドリア機能の品質管理
マイトファジーのPINK1 /パーキン経路
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22743996/
APPの分解に関与
UPSはアミロイドβの産生または細胞外アミロイドβのクリアランスに直接関与していない。しかし、UPSの小胞体関連の分解(EARD)を介したAPPの分解に関与している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20237263/
細胞内アミロイドβ凝集体はUPSを阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17544172/
タウの分解
タウの分解は機構的に行われており、UPSとオートファジーの両方がタウの分解に関わる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23528736/
不溶性タウの蓄積は、脳内の26Sプロテアソーム活性の低下、高いユビキチン化タンパク質レベルと関連していた。
www.nature.com/articles/nm.4011
プロテアソーム活性の増強は、神経変性疾患に関与する異常タンパク質レベルを低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20829789/
パーキンソン病
UPSの機能不全がパーキンソン病の一因となっている可能性
αシヌクレインはプロテアソームに結合し、UPS機能を阻害することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12551928
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16713278
プロテアソームは長い半減期をもつ 40~200時間
アンチエイジング
持続的なプロテアソーム活性は、生物の寿命と相関する可能性がある。
健康な百歳長寿の線維芽細胞を培養したところ、プロテアソームの活性を有することが見出された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11053662/
神経可塑性
UPSとマクロオートファージーの複雑な相互作用(クロストーク)
UPSとマクロオートファジーは通常共活性を起こすが、片方機能不全を起こしている場合、もう片方が代償機構として過剰活性となることがある。
マクロオートファジーの障害も、UPS基質の分解能力を低下させる。
www.lakeforest.edu/academics/students/journals/eukaryon/thesis/senegolage_thesis_2013.php
プロテアソーム阻害によるオートファージ活性
プロテアソームの阻害はオートファジー経路を活性化することがin vitroにおいて示されている。
journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0103364
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29535191
オートファージーの急性阻害はプロテアソームを活性する
オートファージーの阻害は、UPS経路による分解を妨げ、凝集しやすいタンパク質の蓄積をもたらす。
栄養欠乏による共活性
栄養素、アミノ酸、ホルモンなどによるMTORC1の活性はプロテアソームとオートファジーによるタンパク質分解を迅速に抑制する。栄養欠乏では逆に同時活性となる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5079674/
適切なオートファジーレベルは生物にとって好ましいものだが、過剰にアップレギュレーションされたオートファジーの活性は有害な結果につながる可能性がある。
オートファジーの活性はMCI、初期、中期で異なる戦略を組み立てる必要があるかもしれない。
プロテアソーム
20Sプロテアソーム
20Sプロテアソーム複合体は、酸化的損傷を受けたタンパク質、無秩序なタンパク質を直接標的とし、細胞を解毒することができる。(ポリユビキチン化を必要としない)
26Sプロテアソームの分解によって20Sプロテアソーム複合体の増加が生じる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1219826/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21139140
しかし、損傷したタンパク質の蓄積が分解量を超えると、プロテオスタシスが崩壊し、タンパク質毒性によるストレスの増加が生じる。これらはアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患で見られる特徴である。
26Sプロテアソーム活性の低下および、ユビキチン化タンパク質の蓄積が死後のアルツハイマー病患者の脳で観察されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3033674
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12641733/
ユビキチン-プロテアソーム系活性
UPS活性 天然物
オレウロペイン(オリーブリーフ)
オレウロペインは、3種全てのプロテアソーム活性を増強
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17518699/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17518699/
ベツリン酸/Betulinic acid(白樺の樹皮)
白樺の樹皮など多くの植物に含まれるサポニン、チャーガ
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17904555
オレウロペインと異なり、キモトリプシン様を活性化し、トリプシン様及びカスパーゼ様活性への影響がほとんどか全くない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17904555
ベツリン/Betulin(樺の木)
オウゴニン/Wogonin/黄金花/Scutellaria baicalensis
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23371323
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24265759
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5228377/
onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/ijc.23182
オロキシリンA/Oroxylin A(コガネバナ/Scutellaria baicalensis)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3468516/
ゲニピン/Genipin
Eucommia ulmoides Oliver/トチュウ/Du zhong/Eucommia bark
アウクビン/Aucubin・ゲニポシド/Geniposidic
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S104346660290894X
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4438574/
スルフォラファン(Nrf2活性)
スルフォラファンは、マウスのプロテアソーム活性およびオートファジーを増強する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12551928
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17664144/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3997618/
ガストロジン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17327906/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21788698/
ラパマイシン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26669439/
エゾウコギ(Acanthopanax senticosus)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4628675/
26Sプロテアソームの調節サブユニットであるPSMD7を劇的にアップレギュレートすることで、26Sプロテアソームの活性を回復。
フォルスコリン
ガストロジン
フィセチン
熊の胆(タウロウルソデオキシコール酸 )
オレイン酸
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3890840/
リノール酸、リノレン酸などの脂肪酸(ほうれん草の葉)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8665092/
ドコサヘキサエン酸 DHA
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4260735/
セラミド
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1825464/
リゾホスファチジルイノシトール/Lysophosphatidylinositol
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8250860/
GPR55は、マリファナの成分であるΔ^9-テトラヒドロカンナビノール(Δ^9-THC)に対する新しい受容体。内在性リガンドがリゾホスファチジルイノシトール(LPI)である可能性。
kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21590076/
カルジオリピン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8250860/
漢方薬
カタールポール(catalpol)イリドイド配糖体
プエラリン(puerarin )クズ、プエラリアなどに含まれるイソフラボンの一種
ダイゼイン(daidzein)クズ、プエラリアなどに含まれるイソフラボンの一種
in vitroにおいてプロテアソーム増強、凝集抑制、抗酸化、抗アポトーシス効果が実証された。ダイゼインはカタルポール、プエラリンよりも広範囲の有効を示した。
www.worldscientific.com/doi/abs/10.1142/S0192415X19500046
ユビキチン-プロテアソーム系活性 化合物
メチレンブルー
メチレンブルーは非常に高い濃度では、Hsp70を阻害し、タウクリアランスを増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20731659
アルギニンを多く含むヒストンH3
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11735414/
合成ペプチジルアルコール、エステル、p-ニトロアニリド、ニトリル
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9228292/
USP14阻害剤
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20829789/
GHK
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4180391/
- リファンピシン
- メチレンブルー
- トレハロース
- タウリン
UPS調節因子
Nrf1
Nrf2
SKN-1
RP-CP プロテアソームホロ酵素
Blm10 / PA200-CP
PA28-CP
Rpn4
FoxO / DAF-16
有酸素運動
全身を使った有酸素運動訓練は、筋肉だけを使ったトレーニングと比較してプロテアソーム活性を増加させる。
erj.ersjournals.com/content/40/Suppl_56/4701
MTORC1阻害(強力)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26669439/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5079674/figure/f0001/
HSF-1活性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4821803/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4117186/figure/F3/
シャペロン活性
シャペロンタンパク質の発現を刺激することによるUPS活性作用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25132814
UPSの阻害
天然物・化合物
- レスベラトロール
- ケルセチン
- δトコトリエノール
- プテロスチルベン
- アスピリン
- EGCG
- クルクミン
- ゲニステイン(大豆イソフラボン)
- サリノスポラミドA
- ボルテゾミブ
- 加齢、NFT
- ラクトシスチン
- ベラトシン
- サリノスポラミドA
- アルギリンA
- セラストロール(HSP90阻害剤)withaferinA
- グリオトキシン
- ジスルフィラム(アルコール依存症の治療薬)
- アクリジン誘導体
摂食と運動
BCAA
持久トレーニング後の分岐鎖アミノ酸の投与は、運動に寄るPGC-1a、UPSシグナル伝達、DDIT4mRNA発現を部分的に抑制する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27913948
タンパク質の摂取
タンパク質食品の摂取は、ヒト骨格筋のプロテアソーム活性を低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21904247
絶食状態での長時間の運動
エネルギーバランスがマイナス状態での長時間の低強度と高強度の運動は、UPSの活性を増加させない。高タンパク質食品の摂食がUPS活性の増加を抑えた可能性。
physreports.physiology.org/content/5/23/e13518
摂食
筋タンパク質のユビキチン化は絶食時よりも摂食時が有意に低い。45%
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23965841