哲学書『どこでもないところからの眺め』トーマス・ネーゲル 1986年

哲学意識・クオリア・自由意志汎心論・汎神論科学主義・啓蒙主義・合理性自己位置付け問題・独我論

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The View from Nowhere

タイトル:

英語タイトル:『The View from Nowhere』Thomas Nagel 1986

日本語タイトル:『どこでもないところからの眺め』トーマス・ネーゲル 1986

目次

  • 第I章 序論 / Introduction
  • 第II章 心 / Mind
    1. 物理的客観性 / Physical Objectivity
    2. 心的客観性 / Mental Objectivity
    3. 他者の心 / Other Minds
    4. 一般的意識 / Consciousness in General
    5. 客観的実在の不完全性 / The Incompleteness of Objective Reality
  • 第III章 心と身体 / Mind and Body
    1. 二側面理論 / Dual Aspect Theory
    2. 私的対象としての自己 / The Self as Private Object
    3. 人格的同一性と指示 / Personal Identity and Reference
    4. パーフィット / Parfit
    5. クリプキ / Kripke
    6. 汎心論と心的統一 / Panpsychism and Mental Unity
    7. 進歩の可能性 / The Possibility of Progress
  • 第IV章 客観的自己 / The Objective Self
    1. 誰かであること / Being Someone
    2. 意味論的診断 / A Semantic Diagnosis
    3. 中心なき視点 / The Centerless View
  • 第V章 知識 / Knowledge
    1. 懐疑論 / Skepticism
    2. 反懐疑論 / Antiskepticism
    3. 自己超越 / Self-transcendence
    4. 進化論的認識論 / Evolutionary Epistemology
    5. 合理主義 / Rationalism
    6. 二重視 / Double Vision
  • 第VI章 思考と実在 / Thought and Reality
    1. 実在論 / Realism
    2. 観念論 / Idealism
    3. カントとストローソン / Kant and Strawson
    4. ウィトゲンシュタイン / Wittgenstein
  • 第VII章 自由 / Freedom
    1. 二つの問題 / Two Problems
    2. 自律 / Autonomy
    3. 責任 / Responsibility
    4. 自由についてのストローソン / Strawson on Freedom
    5. 盲点 / The Blind Spot
    6. 客観的関与 / Objective Engagement
    7. 自由としての道徳 / Morality as Freedom
  • 第VIII章 価値 / Value
    1. 実在論と客観性 / Realism and Objectivity
    2. 反実在論 / Antirealism
    3. 欲求と理由 / Desires and Reasons
    4. 一般性の諸類型 / Types of Generality
    5. 快楽と苦痛 / Pleasure and Pain
    6. 過剰な客観化 / Overobjectification
  • 第IX章 倫理学 / Ethics
    1. 行為者相対性の三つの種類 / Three Kinds of Agent-relativity
    2. 自律の理由 / Reasons of Autonomy
    3. 個人的価値と公平性 / Personal Values and Impartiality
    4. 義務論 / Deontology
    5. 行為者と被害者 / Agents and Victims
    6. 道徳的進歩 / Moral Progress
  • 第X章 正しく生きることと善く生きること / Living Right and Living Well
    1. ウィリアムズの問い / Williams’s Question
    2. 先行理論 / Antecedents
    3. 五つの選択肢 / Five Alternatives
    4. 道徳的なもの、合理的なもの、義務を超えるもの / The Moral, the Rational, and the Supererogatory
    5. 政治と回心 / Politics and Conversion
  • 第XI章 誕生、死、そして人生の意味 / Birth, Death, and the Meaning of Life
    1. 生 / Life
    2. 意味 / Meaning
    3. 死 / Death

本書の概要

短い解説

本書は、主観的視点と客観的視点という二つの視点の対立と統合という問題を、認識論、心の哲学、倫理学、自由意志論など哲学の諸分野を横断して探究する。

著者について

トマス・ネーゲル(Thomas Nagel)は現代アメリカを代表する哲学者であり、心の哲学や倫理学における還元主義への批判で知られる。ニューヨーク大学哲学教授として、主観性の問題に一貫して取り組んできた。本書では、客観性の追求がもたらす認識的・実践的困難を包括的に論じる。

テーマ解説

  • 主要テーマ:主観的視点と客観的視点の対立と統合——人間は内側からと外側からという二つの視点を持つが、これらを完全に統合することはできない
  • 新規性:客観性の限界——物理主義的客観性だけでなく、心的客観性という新たな客観性の形式を提示し、完全な客観的理解が不可能であることを論証
  • 興味深い知見:義務論的制約の基礎——行為者相対的な理由が、単に個人的な欲求からではなく、意図的に悪を目指すことの規範的抵抗から生じる

キーワード解説

  • 客観的自己:個人的視点を超えた視点から世界と自己を理解しようとする自己の側面であり、個人的自己と対立しつつも統合を目指す
  • 行為者相対的理由:特定の行為者に固有の理由であり、行為者中立的理由のように全ての人に等しく適用されるものではない
  • 義務論的制約:帰結主義に反して、良い結果をもたらすためでも行ってはならない行為の制約

3分要約

本書の中心的問題は、主観的視点と客観的視点の対立である。我々は自分自身の内側から世界を経験するが、同時に外側から自己を対象として理解しようとする。この二つの視点は哲学のあらゆる分野で緊張関係を生み出す。

心の哲学において、物理的客観性は第一性質と第二性質を区別し、世界を観点から独立したものとして理解しようとする。しかし心的現象の主観的性格はこの枠組みに収まらない。物理主義的還元は誤りであり、心は独自の実在性を持つ。著者は心的客観性という新しい形式を提案する。これは心を主観的なままで客観的に理解しようとするものだ。我々は自分の心を一つの事例として、他者の心も含む一般的な心の概念を形成できる。ただし客観的実在は主観的経験を完全には捉えきれない。

心身問題では、二側面理論が提示される。心と脳は別個の実体ではなく、同一のものの二つの側面である。人格的同一性は主観的には単純に見えるが、客観的には脳という複雑な器官に依存する。この理論は多くの困難を抱えるが、心的現象と物理的現象の関係を理解する最も有望な方向性である。

客観的自己の問題では、「私はトマス・ネーゲルである」という思考の内容が問われる。客観的視点から見れば、私は世界の中の一つの個体に過ぎないが、主観的には私は世界の中心である。この二つの視点は完全には統合されない。客観的自己は視点を持たない普遍的な自己であり、特定の個人としての私とは異なる側面である。

知識論では、懐疑論が避けられない。客観性の追求は、我々の信念が世界との相互作用の産物であることを明らかにし、それらの信念の正当性を疑わせる。しかし懐疑論は克服不可能であり、我々はその影のもとで知識を追求するしかない。著者は合理主義的立場を擁護し、経験を超えた先験的な理解能力の重要性を強調する。

思考と実在の関係では、実在論が擁護される。世界は我々の思考能力を超えて存在し、我々が概念化できないものも含む。この立場は、ウィトゲンシュタインやデイヴィドソンの言語的観念論に反対する。我々の概念的能力の限界を認めることは、謙虚さの表れであって、知的敗北ではない。

自由意志の問題では、自律と責任という二つの側面が論じられる。客観的視点から見れば、我々の行為は因果的に決定されているように見え、自由の余地はない。しかし主観的には、我々は選択する存在である。この対立は解決不可能だが、客観的関与を通じてある程度の調和を達成できる。道徳性は自由の一形態であり、客観的視点を行為の基礎に組み込む試みである。

価値論では、快楽と苦痛に行為者中立的な客観的価値が認められる。しかし全ての価値が客観化できるわけではない。個人的プロジェクトや野心は行為者相対的な理由を与えるが、それらは普遍的な道徳的要請にはならない。過度な客観化は誤りであり、主観的価値にも固有の場所がある。

倫理学では、行為者相対的理由と行為者中立的理由が区別される。義務論的制約は、悪を意図的に目指すことへの規範的抵抗に基づく。自分の行為が悪い目的によって導かれることは、たとえそれが手段としてであっても、その悪の価値に真正面から逆らうことになる。この直観は強力だが、完全に正当化することは困難である。

正しく生きることと善く生きることの関係では、道徳的生活と幸福な生活は必ずしも一致しない。道徳的要求は時に個人の善き生を犠牲にすることを求めるが、これは道徳理論の欠陥ではない。道徳は他者の要求から生じるものであり、個人の幸福に完全に従属させることはできない。ただし道徳的要求は人間の動機的能力を考慮して調整されるべきである。

最後に、誕生、死、人生の意味という実存的問題が扱われる。客観的視点から見れば、我々の存在は偶然的で取るに足らないものに見える。しかし主観的には、自分の人生は圧倒的に重要である。この対立は解消できないが、それは人間存在の条件である。謙虚さと、特殊なものへの非自己中心的な敬意を通じて、ある程度の調和は可能である。

全体として、本書は主観性と客観性の統合という課題が哲学の中心問題であり、完全な解決は不可能であることを示す。しかしこの緊張関係を認識し、両方の視点を保持することこそが、完全に人間的であることの証である。

各章の要約

第一章 序論

人間の認識には根本的な分裂が存在する。私たちは世界を自分自身の特定の視点から経験するが、同時にその視点を超越した客観的現実を理解しようとする。この二つの見方の対立は哲学の中心問題であり、心身問題、知識、自由、価値、倫理、生死など多様な領域に現れる。本書の目的はこの緊張関係を体系的に探求し、その統合の可能性を探ることである。

第二章 心身問題

心身問題は客観的立場と主観的経験の対立の典型例である。物理的な脳過程と主観的な意識経験の間には説明のギャップが存在する。客観的科学は現象を第三者視点で記述するが、「何らかのものであること」の質的側面は捉えきれない。還元主義的アプローチはこの問題の困難さを過小評価している。

第三章 心と脳

心の物理主義的理論は、主観的経験の本質的側面を説明できない。意識の質的性質は単なる物理的記述では捉えられない独特の特徴を持つ。脳過程と心的状態の関係は、単純な同一視では解決できない複雑な問題を提起する。

第四章 客観的立場

客観性は単なる非個人的視点ではなく、特定の視点からの独立を目指す過程である。私たちは自分の視点の限界を認識し、より包括的な理解を求めて絶えず視点を拡大する。しかし完全な客観性は達成不能な理想であり、私たちは常に何らかの視点に縛られている。

第五章 知識

知識は主観的信念と客観的真理の緊張関係の中で成立する。私たちの認識は特定の視点から始まるが、知識の主張は視点を超越した妥当性を要求する。懐疑論はこのギャップを突くが、完全な懐疑は実践的に維持できない。

第六章 思考

思考もまた主観的過程と客観的内容の二重性を持つ。私たちは特定の視点から思考するが、思考の内容はその視点を超越した主張を含む。論理的推論は視点の普遍化を可能にするが、完全な客観性には到達できない。

第七章 自由

自由意志の問題では、行為者の内的視点と因果的連鎖の外的視点の対立が現れる。私たちは行為者として自由を実感するが、客観的観察者としては行為を因果的に説明する。この二つの見方の調和が自由意志の理解の鍵である。

第八章 価値

価値判断も主観的応答と客観的妥当性の間で揺れる。私たちは特定の視点から価値を経験するが、価値主張は普遍的な正当化を志向する。道徳的客観性の可能性はこの緊張関係の中で探られなければならない。

第九章 倫理

倫理的判断は個人の主観的立場と公平な客観的立場の調和を要求する。利己主義と普遍的道徳の対立は、視点の選択というより根本的な問題の現れである。倫理理論はこの対立を認識した上で構築されなければならない。

第十章 生きることと死ぬこと

生死の問題は客観的立場と主観的経験の対立の最も劇的な現れである。死は主観的には人生の終焉であるが、客観的には生物学的過程の一つに過ぎない。人生の意味もこの二重の視点から理解されなければならない。

第十一章 バラバラなものの統合

完全な客観性も完全な主観性も不十分である。私たちは両者の緊張関係を受け入れ、視点の多元性を認めながら、可能な限り統合を図るべきである。哲学的探求の目標は単一の視点への還元ではなく、多元的視点の理解と調和である。

エピローグ

「どこでもない見地」は到達不能な理想であるが、それに向かう過程そのものが哲学的探求の本質である。私たちは常に特定の視点に縛られながらも、それを超越しようとする不断の努力を通じて、より豊かな現実理解に近づくことができる。

 


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