書籍要約『パレスチナ実験場:イスラエルはいかにして占領技術を世界中に輸出するか』アントニー・ローヴェンシュタイン 2023

デジタル監視・デジタルID・テクノ封建制パレスチナ(ガザ)、イスラエル、シオニズム全体主義・監視資本主義

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英語タイトル:『The Palestine Laboratory: How Israel Exports the Technology of Occupation around the World』Antony Loewenstein (2023)

日本語タイトル:『パレスチナ研究所:イスラエルはいかにして占領技術を世界中に輸出するか』アントニー・ローヴェンシュタイン (2023)

目次

  • 序論 / Introduction
  • 第1章 誰にでも武器を売る / Selling Weapons to Anybody Who Wants Them
  • 第2章 9月11日はビジネスに好都合だった / September 11 Was Good for Business
  • 第3章 平和の勃発を防ぐ / Preventing an Outbreak of Peace
  • 第4章 イスラエルの占領を世界に売り込む / Selling Israeli Occupation to the World
  • 第5章 イスラエル支配の永続的な魅力 / The Enduring Appeal of Israeli Domination
  • 第6章 スマートフォンの中のイスラエル製大量監視 / Israeli Mass Surveillance in the Brain of Your Phone
  • 第7章 ソーシャルメディア企業はパレスチナ人が嫌い / Social Media Companies Don’t Like Palestinians
  • 結論 / Conclusion

本書の概要

短い解説:

本書は、イスラエルがパレスチナ占領を通じて開発・実証した軍事技術、監視システム、治安維持手法をどのように世界各国に輸出し、権威主義体制や国境管理に活用させているかを実証的に明らかにする。

著者について:

アントニー・ローヴェンシュタインはオーストラリア出身のジャーナリスト、作家。ユダヤ系の家庭に生まれ、リベラル・シオニストとして育ったが、パレスチナでの取材を通じて立場を変え、現在はイスラエル・パレスチナ問題における一国解決策を支持する。これまでに『My Israel Question』など複数の著作がある。

テーマ解説:

本書を貫く主要テーマは以下の三点である。第一に、イスラエルの防衛産業はパレスチナ占領を「実験室」として利用し、そこで実証された技術を「戦場でテスト済み」というセールスポイントで世界に販売している。第二に、このビジネスモデルは9/11以降の「テロとの戦い」を追い風に拡大し、エスノナショナリズムの理想的なモデルとして多くの権威主義国家に採用されている。第三に、イスラエルの監視技術やサイバー兵器は民主主義国家においても市民の自由を脅かす存在となりつつある。

キーワード解説:

  • パレスチナ研究所(Palestine Laboratory):イスラエルが占領地パレスチナを新技術のテストフィールドとして利用し、そこで得られた知見を商品化するシステム
  • エスノナショナリズム(Ethnonationalism):特定の民族集団を優先する国家理念。イスラエルはユダヤ人国家としてこのモデルの先駆者
  • NSOグループ(NSO Group):イスラエルのサイバー監視企業。ペガサス・スパイウェアを開発し、世界各国の権威主義政権に販売
  • 分離主義(Separatism):ユダヤ人とパレスチナ人を物理的・社会的に隔離する政策。ガザ封鎖や分離壁に象徴される
  • アパルトヘイト(Apartheid):人種・民族に基づく制度的差別体制。2021年に複数の人権団体がイスラエルをアパルトヘイト国家と認定

要点要約

本書は、イスラエルがパレスチナ占領を「実験室」として利用し、そこで開発・実証された軍事・監視・治安維持技術を世界中に輸出している実態を詳細に描き出す。著者のローヴェンシュタインは、ユダヤ系オーストラリア人ジャーナリストとして、自身の家族史と20年以上の取材経験を踏まえ、イスラエルの防衛産業がどのようにして占領をビジネスモデルへと転換したかを追跡する。

イスラエルの武器産業は、建国直後から発展し、1967年の六日間戦争以降、占領地での「戦闘テスト」を最大のセールスポイントとして世界市場に参入した。特に9/11以降の「テロとの戦い」はイスラエルにとって追い風となり、ホームランドセキュリティ市場で圧倒的な存在感を示すようになる。本書は、チリのピノチェト政権から南アフリカのアパルトヘイト体制、グアテマラのジェノサイド、ミャンマーにおけるロヒンギャ迫害に至るまで、イスラエルが非民主的政権と築いてきた共犯関係を膨大な資料で実証する。

イスラエルの監視技術は、ドローン、生体認証、携帯電話ハッキングなど多岐にわたり、NSOグループのペガサスはその代表例である。このスパイウェアはサウジアラビア、メキシコ、インドなど各国でジャーナリストや人権活動家の監視に利用され、民主主義の基盤を蝕んでいる。EUの国境管理機関フロンテックスもイスラエル製ドローンを運用し、地中海での難民監視に活用している。

ソーシャルメディアの領域では、フェイスブックやインスタグラムがパレスチナ人の発信を不当に検閲・削除する一方、イスラエル政府の要請には迅速に対応する二重基準が存在する。本書は、イスラエルの占領技術輸出が単なるビジネスではなく、世界規模でのエスノナショナリズム普及を促進するイデオロギー的プロジェクトであると結論づける。

各章の要約

序論

ローヴェンシュタインは自身のユダヤ系家庭の背景と、パレスチナ問題に対する認識の変遷を語る。かつては二国家解決を支持していたが、占領の実態を知り、現在はイスラエルとパレスチナが平等に共存する一国解決を支持する。2021年にはB’Tselem、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナルが相次いでイスラエルを「アパルトヘイト国家」と認定した。イスラエルのエスノナショナリズムがかつては国際的負債だったが、今や資産となったと指摘。ネタニヤフの長期政権はイスラエルを「西洋文明の防波堤」として売り込む戦略を確立した。武器産業はパレスチナでの「戦場テスト済み」を最大のセールスポイントとし、世界中の権威主義政権に販売している。

第1章 誰にでも武器を売る

チリのピノチェト政権下で父親を殺害されたダニエル・シルバーマンの証言から始まる。イスラエルは1973年のクーデター後、ピノチェト政権に武器を供給し続け、米国の武器禁輸措置を実質的に無効化した。イスラエルの防衛産業は建国前夜から発展し、1967年の六日間戦争後、占領地での実戦経験を武器に世界市場へ進出した。1980年代には既に世界有数の武器輸出国となっていた。イスラエルは南アフリカのアパルトヘイト政権、ルワンダのジェノサイド政権、ミャンマーの軍事政権など、非民主的体制と積極的に協力してきた。グアテマラでは1980年代、マヤ先住民虐殺にイスラエル製ライフルが使用された。イスラエルの外交政策は「ユダヤ人にとって良いことか」という基準のみで判断され、人権や道徳は二の次とされてきた。武器取引はイスラエル経済の基幹産業であり、2021年の防衛輸出は過去最高の113億ドルに達した。

第2章 9月11日はビジネスに好都合だった

冷戦終結後もイスラエルの権威主義政権支援は継続し、9/11以降は「テロとの戦い」を口実に防衛産業が飛躍的に成長した。ネタニヤフは9/11を「イスラエルにとって非常に良いこと」と発言した。イスラエルはホームランドセキュリティ分野でのリーダーとなり、ドローン、監視システム、サイバー兵器を「パレスチナでテスト済み」として販売した。『Start-Up Nation』はイスラエルの軍事・技術力を称賛したが、そこで語られなかったのは、これらの技術がパレスチナ人抑圧で実証されたという事実である。

イスラエルはミャンマーのロヒンギャ迫害、スリランカのタミル人虐殺に関与し、国際的な非難をものともせず武器輸出を継続した。2021年のベネット政権下でも赤道ギニアの独裁者一族にドローンを販売。国境監視産業は9/11以降に爆発的に成長し、イスラエルはその中心的プレーヤーとなった。イスラエル国内でも占領の民営化が進み、民間セキュリティ企業がチェックポイント運営を担うようになった。エイタイ・マックのような人権弁護士は、イスラエルの武器取引の透明化を求めて闘い続けている。

第3章 平和の勃発を防ぐ

イスラエルのパレスチナ支配は「ポリティサイド」(民族の政治的消滅)として特徴づけられる。ガザは完全封鎖下に置かれ、最新技術の実験場となっている。2018年の「大帰還行進」では、ドローンによる催涙ガス散布や「スカンクウォーター」など新兵器がテストされた。2014年のガザ戦争では、IDFがソーシャルメディアを駆使した情報戦を展開し、戦闘をリアルタイムで中継・宣伝した。

イスラエルのドローン技術はロシアに輸出され、シリア内戦で使用された。ユニット8200(イスラエル軍情報部)はサイバー兵器開発の中心であり、その退役軍人はNSOグループなどの監視企業の中核を形成する。2021年のイスラエル・ハマス衝突では、AI戦争の先駆けと称されたが、パレスチナ側の死者260人のうち少なくとも129人が民間人だった。コロナ禍では、イスラエルの監視技術が市民追跡に転用され、占領地で鍛えられた手法が国内のユダヤ人にも適用される皮肉な事態が生じた。

第4章 イスラエルの占領を世界に売り込む

イスラエルの国境管理技術は世界中に輸出されている。EU国境管理機関フロンテックスはイスラエル製ドローンを地中海の難民監視に使用。リビア沿岸警備隊と連携し、難民の欧州到達を阻止するシステムが構築されている。ギリシャはイスラエルと最大級の防衛契約を結び、国境での難民排除にイスラエル技術を活用。ドイツはホロコーストの罪悪感からイスラエルへの支持を強め、武器購入や政治的支援を続けるが、これはパレスチナ人の抑圧を黙認する形になっている。

イスラエルはアフリカ難民を排除するため、ルワンダやウガンダと秘密協定を結び、現金支給と引き換えに難民を追い出した。EU全体の国境管理予算は拡大を続け、イスラエル企業はその最大の受益者の一つである。同時に、イスラエルはハンガリーのオルバン政権など、右派ポピュリスト政権との同盟を深めている。

第5章 イスラエル支配の永続的な魅力

イスラエルのエスノナショナリズムは南アフリカのアパルトヘイトと深い親和性を持ち、バントゥースタン(黒人居住区)モデルがパレスチナにも適用された。インドのモディ政権はカシミール地方でイスラエル式の占領政策を採用。武器取引の最大顧客はインドであり、イスラエル製ドローンがカシミール上空を飛行している。ヒンドゥー・ナショナリズムとシオニズムは相互に影響を与え合い、両国は「テロとの戦い」を共通言語として協力関係を強化した。

米墨国境ではイスラエル企業エルビット・システムズが監視塔を建設。これはパレスチナの分離壁で培われた技術を応用したものだ。先住民族トホノ・オーダム族は、自分たちの土地がイスラエル式監視技術の実験場と化していると抗議する。中国は新疆ウイグル自治区の監視にイスラエル技術を導入し、両国の協力関係は深化している。

第6章 スマートフォンの中のイスラエル製大量監視

NSOグループのペガサス・スパイウェアは世界で最も悪名高い監視ツールである。メキシコではジャーナリストの携帯電話がハッキングされ、殺害に繋がった事例が発生。サウジアラビアはジャマル・カショギ殺害の前後にペガサスを使用し、関係者の位置情報を追跡していた。インドでは政権批判派の弁護士や活動家が標的となった。

イスラエル政府はNSOの輸出許可を厳格に管理し、この企業を外交手段として活用している。ペガサスはアラブ諸国との関係正常化の「報酬」として提供され、特にUAEやバーレーンとのアブラハム合意締結に重要な役割を果たした。バイデン政権は2021年にNSOをブラックリストに指定したが、これは米国の監視技術覇権を脅かす存在としての懸念が背景にある。セルブライト社のような他のイスラエル監視企業も、ロシアやフィリピンなど権威主義政権に技術を供給している。

第7章 ソーシャルメディア企業はパレスチナ人が嫌い

2021年5月のイスラエル・ハマス衝突時、フェイスブックとティックトックはイスラエル政府の要請に迅速に対応し、パレスチナ側の投稿を削除した。パレスチナ人の投稿は「扇動」として削除される一方、ユダヤ人過激派によるアラブ人襲撃を呼びかけるヘブライ語の投稿は放置された。シェイク・ジャラ地区の強制退去に関するハッシュタグは削除され、パレスチナ人活動家のインスタグラム・アカウントはシャドウバン(表示制限)された。

フェイスブック内部文書は、アラビア語コンテンツがヘブライ語より厳しく取り締まられている実態を暴露した。同社はイスラエル担当の政策ディレクターを置くが、パレスチナ担当者は存在しない。メタ社の独立監督委員会はパレスチナ人投稿の削除にバイアスがあったと認めたが、抜本的な改革には至っていない。ユーチューブではパレスチナ人の動画が「暴力」として削除される一方、IDFの宣伝動画は放置される二重基準が存在する。

結論

イスラエルの防衛産業は世界的な軍拡競争の恩恵を受け、今後も成長が予想される。ウクライナ戦争はヨーロッパ諸国の防衛費増加を促し、イスラエルはその主要な供給国となるだろう。しかし、国際世論は徐々にイスラエルに批判的になっており、アパルトヘイト認定を受けたことで、投資家の間でもイスラエル企業からの撤退(ダイベストメント)が広がりつつある。著者は、イスラエルがユダヤ人の安全保障とリベラルな価値観の間で選択を迫られていると指摘する。パレスチナの実験室は世界にエスノナショナリズムのモデルを輸出し続けているが、その持続可能性には疑問が生じている。

想定読者・前提知識・読みどころ

  • 想定読者:イスラエル・パレスチナ問題に関心のある一般読者、国際政治・防衛産業・監視社会に関心を持つ学生や研究者、シオニズムや中東情勢について批判的視点を得たいと考えている読者。
  • 前提知識:イスラエル・パレスチナ紛争の基本的な歴史(1948年建国、1967年六日間戦争、占領の継続)に関する予備知識があると理解が深まる。ただし、著者は専門用語を説明しながら進めるため、初心者でも読み進められる。
  • 分量・難易度:約400ページ。ジャーナリスティックな文体で、学術書ほど難解ではないが、多くの固有名詞や事例が登場するため集中して読む必要がある。
  • 読みどころ
  • 第1章と第2章はイスラエル防衛産業の歴史と9/11以降の展開を示す導入部であり、本書全体の基盤となる。
  • 第4章と第5章はイスラエル技術の世界への輸出実態を具体的に描いており、関心に応じてここから読むことも可能。
  • 第6章(NSOグループとペガサス)は本書の中核をなす章であり、現代の監視資本主義を理解するうえで特に重要。
  • 第7章はソーシャルメディアと検閲の問題に焦点を当てており、デジタル権利に関心のある読者に示唆に富む。
  • 序論と結論は著者の立場と主張が明確に示されており、全体の論旨を把握するのに有用である。

占領を輸出する国家の論理:実験室としてのパレスチナという視座

イスラエル・パレスチナ問題をグローバル監視資本主義の接続点として読む

『パレスチナ研究所』の要約を読んでまず感じたのは、この本がイスラエル批判の常套的な枠組みを巧妙にすり抜けているという驚きだった。通常、この問題の議論は「占領は正義か非か」という道徳的対立軸か、あるいは「二国家解決の可能性」という政治プロセスの話に収束しがちだ。しかし本書は、イスラエルの防衛産業と監視技術を「パレスチナという実験室で鍛えられたグローバル商品」として捉え直すことで、地域紛争の枠を超えた構造的批判を可能にしている。

この視座の核心は単純だ。イスラエルはパレスチナ占領を通じて、抵抗運動の鎮圧、人口管理、情報収集、国境封鎖のノウハウを蓄積し、それを世界中の権威主義政権や国境管理機関に「戦場テスト済み」のラベルで販売している。つまり、占領はイスラエルにとってコストではなく、競争優位性の源泉であり、ビジネスモデルの中核をなしている。

この視座が生成的に開くのは、まず「イスラエル問題」を単独の地域問題として扱うことの限界だ。NSOグループのペガサスがサウジアラビアでジャマル・カショギ殺害に関与し、メキシコでジャーナリストの携帯電話をハッキングし、インドで政権批判派を監視している。EUのフロンテックスはイスラエル製ドローンで地中海の難民を監視し、米墨国境ではエルビット・システムズが監視塔を建設している。これらはすべて「イスラエルとパレスチナの間の何か」ではなく、グローバルな監視・抑圧のインフラストラクチャーがパレスチナという実験場で鍛えられ、世界各地に展開されている現象として理解すべきだ。

では、この「実験室」という概念をさらに拡張してみよう。被占領地域が技術開発のテストフィールドになるのは、イスラエルに固有の現象ではない。グレッグ・グランディンは『Empire’s Workshop』で、米国がラテンアメリカを「帝国の作業場」として使い、そこでカウンターインサージェンシー技術を鍛えたと論じた。中国は新疆ウイグル自治区で監視技術を実証し、それを「一帯一路」諸国に輸出している。ロシアはシリアでの軍事介入を通じて最新兵器の実戦テストを行った。

イスラエルの特異性はむしろ、この「実験室」モデルを商業ベースで全面的に展開し、民主主義国と権威主義国を区別せずに販売している点にある。しかも、その販売戦略は単なる製品の機能説明ではなく、「我々はイスラム過激派との戦いの最前線だ」「西洋文明の防波堤だ」というイデオロギー的な物語と一体化している。この物語は、購買国に対して「イスラエル式の強硬策を採用すれば、テロや難民問題を解決できる」という幻想を同時に販売する。

ここで、著者が暗に示しているが明示的には論じていない一つの含意を引き出してみたい。それは、イスラエルの武器・監視技術輸出が、購買国の国内政治に及ぼす「学習効果」だ。

インドはカシミールでイスラエル式の占領手法を導入した。ハンガリーのオルバン政権はペガサスを使って政権批判派を監視した。これらの国々は単に道具を買っただけでなく、イスラエルのイデオロギー——すなわち「特定の民族・宗教集団を優遇する国家」というエスノナショナリズムのモデル——も同時に輸入している。本書は、イスラエルが「民主主義の灯台」ではなく「エスノナショナリズムのモデル国家」として機能していると論じるが、これは輸出されるのがハードウェアだけではないことを意味する。ソフトウェア——国家の在り方そのもの——もまた輸出されている。

この視座は、権威主義化を各国の内政問題として単独で扱うことの問題性を露わにする。インドのヒンドゥー・ナショナリズム、ハンガリーのオルバン主義、ブラジルのボルソナロ政権——これらはそれぞれ独立した現象ではなく、イスラエルというモデル国家が提供する「エスノナショナリズムのフラットパック」を現地仕様にカスタマイズしたものとして読み解くことができる。

しかし、ここで一つの反転を試みてみよう。もしイスラエルの輸出モデルが「戦場テスト済み」をセールスポイントにするなら、その逆の動き——すなわち「倫理テスト済み」の技術開発——は可能だろうか。あるいは、そもそも「倫理テスト」という概念自体が、イスラエル式の実証主義的アプローチの枠内に留まっているのではないか。

この問いは並行図書館の実践と接続する。イスラエルが占領地で技術を鍛えるように、私たちは別の場所——たとえば協同組合、自治共同体、先住民の自治地域——で「支配ではなくケアの技術」を鍛え、それを輸出するモデルを想像できるだろうか。実際、本書は触れていないが、パレスチナ側にもスマートフォンを使った非暴力抵抗のネットワークや、占領下でのコミュニティ・レジリエンスの実践がある。これらは「実験室」ではないが、別の形での「知の蓄積」を生んでいる。

ここで著者の沈黙に注目すると、本書はイスラエルの輸出モデルの強靭さと拡がりを描くことに注力し、それに抗する技術倫理や代替モデルの可能性にはほとんど踏み込んでいない。これは本書の意図的なスコープであろうが、読者としては「ではどうするのか」という問いを突きつけられる。制度的投資家がイスラエル企業からダイベストメントを始めているという事実は、ひとつの方向性を示すが、それはあくまでネガティブな圧力だ。ポジティブな代替モデルは、本書の外にある。

もう一つ、このテキストが示す「ブーメラン効果」について考えたい。コロナ禍でイスラエルはパレスチナ人向けに開発した監視技術を国内のユダヤ人市民にも適用した。これは、占領のための技術がいつでも支配者の本国市民に向けられることを示している。この逆流は、権威主義的技術の輸出が最終的に輸出元の民主主義を蝕むという、より一般的な教訓を含む。

米国がイスラエル技術を国境管理に使うとき、それは米国内のマイノリティへの監視強化と地続きだ。EUが難民監視にイスラエル製ドローンを使うとき、それはEU市民のプライバシー侵食と無関係ではない。技術は「あちら向け」と「こちら向け」にきれいに分離できない。この「ブーメラン」の視座は、イスラエルを単独で批判するだけでなく、すべての輸入国に対しても「お前たちの民主主義はどうなるのか」という問いを投げかける。

要約すると、本書が提供するのは「イスラエルは悪い」という単純な告発ではなく、「占領をビジネスモデルに転換するシステム」という分析枠組みだ。この枠組みは、イスラエル・パレスチナ問題をグローバルな権威主義技術の流通ネットワークの一部として位置づけ、各国の国内政治と結びつけて理解することを可能にする。

本書を読んだ前後で読者の道具箱に加わるのは以下の視座だろう。

第一に、イスラエルの行動を道徳的に糾弾するだけでは不十分で、それがどのような経済的・産業的・外交的構造に支えられているかを問う必要性。第二に、各国の権威主義化や監視強化を「単独の国の問題」としてではなく、グローバルな技術輸出・イデオロギー輸出の連鎖として捉える視点。第三に、技術は中立ではなく、その開発・テストの現場が後にその技術の使用法を決定するという認識。

最後に、この考察が開いたまま残す問いはこうだ。もし「戦場テスト済み」の対極として「生活の場で鍛えられた」技術倫理のフレームワークを構築するとしたら、その「実験室」はどこにあり、どのような実践を蓄積しているのか。イスラエルのモデルが強靭なのは、それが単なる製品ではなく、国家の生存戦略と一体化しているからだ。それに対抗するには、同等に強靭な別の生存戦略——支配ではなく共助に基づく——を可視化し、実践する必要がある。そのような「並行実験室」はすでに世界各地に存在しているかもしれないが、本書はそれを語らない。語らないからこそ、読者の側で探し始める余地が残されている。