書籍紹介『コネクティブ・アクション(接続的行動)の論理:デジタルメディアと紛争政治のパーソナライズ化』2013年

抵抗戦略・市民運動複雑系・還元主義・創発・自己組織化

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The Logic of Connective Action: Digital Media and the Personalization of Contentious Politics (Cambridge Studies in Contentious Politics)

本書の要約

本書「The Logic of Connective Action: Digital Media and the Personalization of Contentious Politics」(接続的行動の論理:デジタルメディアと異議申し立て政治のパーソナライゼーション)は、デジタル時代における集合行動の新しい組織形態について分析した研究書である。著者のW. Lance BennettとAlexandra Segerbergは、現代の大規模な抗議活動や社会運動が従来の集合行動理論では十分に説明できない特徴を持つことを指摘し、「接続的行動」(connective action)という新しい概念を提示している。

本書の中心的主張は、デジタルメディアが単なるコミュニケーションツールを超え、政治的行動の組織化そのものに変革をもたらしているという点である。著者らは特に、個人化された参加形態と政治的エンゲージメントの増加に注目し、これがどのようにデジタル技術と結びついて新しい集合行動のロジックを生み出しているかを分析している。

本書は「集合的行動」と「接続的行動」という2つの行動ロジックを区別し、さらに接続的行動を「組織支援型」と「群衆支援型」の2つに分類している。これらの類型は、組織の役割や個人のネットワーク化の程度によって特徴づけられる。

本書で取り上げられた重要な事例には、ロンドンG20サミット抗議活動、環境問題に関する活動、オキュパイ・ウォールストリート運動、ロビンフッド税キャンペーンなどがある。これらの事例を通じて、著者らは異なるタイプの行動ネットワークがどのように機能し、政治的成果を生み出すかを分析している。

「『人々を第一に』などの個人的行動フレームは、他人の問題に対する感情について違いを埋め合わせるために、説得や理由付け、リフレーミングをほとんど必要としない包括的なテーマである。」

本書は、個人化されたデジタル行動ネットワークが、従来の階層的で会員制の組織に比べて、急速に拡大し、複数の問題を柔軟に扱い、適応力のある抗議レパートリーを構築できることを示している。著者らの分析によれば、これらのネットワークは「弱い紐帯」を基盤としながらも、効果的な政治的行動を促進することができる。

本書の結論では、異なる行動ロジックが衝突する場合の課題や、ネットワークが移行期に直面する困難についても議論している。著者らは、デジタルネットワーク行動の限界を認めつつも、その重要性と可能性を強調し、今後の研究の方向性を示している。

目次

  • 第1章 接続的行動の論理(The Logic of Connective Action)
  • 第2章 抗議ネットワークにおけるパーソナライズされたコミュニケーション(Personalized Communication in Protest Networks)
  • 第3章 デジタルメディアと接続的行動の組織化(Digital Media and the Organization of Connective Action)
  • 第4章 組織支援型ネットワークが公衆を巻き込む方法(How Organizationally Enabled Networks Engage Publics)
  • 第5章 ネットワーク、権力、政治的成果(Networks, Power, and Political Outcomes)
  • 第6章 結論:ロジックが衝突するとき(Conclusion: When Logics Collide)

各章の要約

第1章 接続的行動の論理(The Logic of Connective Action)

個人化された政治とデジタル時代の集合行動

第1章では、本書の理論的枠組みを構築し、2つの異なる行動ロジック——集合的行動と接続的行動——の区別を確立している。著者らはまず、2009年のロンドンG20サミットにおける「Put People First」(PPF)キャンペーンと、2011年にスペインで起きた「indignados」(怒れる者たち)のような抗議活動を比較している。両者は一見異なる組織形態を持ちながらも、デジタルメディアを中心としたパーソナライズされたコミュニケーションという共通点を持っていた。

PPFは、多くのNGOが背後で調整する「組織支援型」接続的行動であり、indignados運動は「群衆支援型」接続的行動の代表例とされる。どちらも、従来の集合的行動論理とは異なる方法で大規模な動員に成功した。

著者らは、後期近代社会における個人化のプロセスが、こうした新しい行動形態の背景にあると指摘している。1970年代以降の経済的グローバリゼーションによって、多くの社会で個人主義化と社会構造の変化が進み、従来の政党や労働組合などへの帰属意識が弱まった。その結果、より個人的で自己表現的な政治参加形態が台頭してきた。

集合的行動と接続的行動の論理

著者らは、集合的行動の論理が「フリーライダー問題」と「組織的リソースの重要性」に焦点を当てているのに対し、接続的行動の論理はむしろ「自己動機づけられた共有」と「ピア・プロダクション」に基づいていると主張する。オルソンの集合行動論を出発点としつつ、デジタルネットワーク時代には異なる組織論理が働くと指摘する。

接続的行動ネットワークでは、「個人的行動フレーム」がデジタルメディアを通じて共有され、拡散する。これらのフレームは、個人が独自の方法で問題と関わることを可能にし、イデオロギーや集団的アイデンティティの共有を必要としない。例えば「We Are the 99%」のようなフレームは、多様な個人が自分自身の言葉で経済的不平等の問題に関わることを可能にした。

三つの行動ネットワークの類型

本章の中心的な貢献は、大規模行動ネットワークの三部類型の提示である:

1. 組織仲介型集合的行動:組織間の重厚な関係性と共通の集合的行動フレーミングによって特徴づけられる。デジタルメディアは主にコミュニケーションとコーディネーションのコスト削減に利用される。

2. 組織支援型接続的行動:緩やかに結びついた組織ネットワークで、フォロワーに個人化されたエンゲージメントを促す。デジタルメディアと個人的行動フレームがネットワーク構築の不可欠なメカニズムとなる。

3. 群衆支援型接続的行動:個人の密度の高い細かいネットワークで、デジタルメディアプラットフォームが最も目に見える統合的な組織メカニズムとなる。対面活動家の行動はこれらの交差するメディアネットワークを通じて規模と公開性を獲得する。

著者らは、これらの類型は理想型であり、現実の抗議活動では重複や混合が見られることを認めている。しかし、この枠組みは異なる種類の大規模行動ネットワークを理解する上で重要な分析ツールを提供する。

研究の射程と方法

本章の最後では、本書の研究範囲と方法論について説明している。著者らは主に経済的公正と気候変動という二つの現代的イシューに焦点を当て、イギリス、ドイツ、アメリカなどの国々における様々な抗議活動、キャンペーン、イシュー・ネットワークを分析している。研究方法としては、ウェブサイト分析、ネットワーク分析、デジタルメディア利用の調査など、多様なアプローチを採用している。

第2章 抗議ネットワークにおけるパーソナライズされたコミュニケーション(Personalized Communication in Protest Networks)

パーソナライズされた政治の課題

第2章では、2009年のロンドンG20サミット抗議に焦点を当て、「Put People First」(PPF)連合と「G20 Meltdown」連合という二つの異なる抗議ネットワークを比較分析している。この分析を通じて、パーソナライズされたコミュニケーションがどのように抗議ネットワークの組織化と効果に影響するかを検証している。

著者らは、現代社会における個人化の傾向が抗議活動の組織者に基本的なジレンマをもたらしていると指摘する。一方で、組織者は従来の会員制に頼らず、より個人化された政治参加を求める市民を動員する必要がある。他方で、効果的な集合行動のためには政治的能力の維持も重要である。

デジタルネットワークによるパーソナライズされた政治

PPFとG20 Meltdownの比較分析では、両者が抗議活動の組織化において、大きく異なるコミュニケーション戦略を採用していたことが明らかになった。

PPFのウェブサイトは、訪問者に「あなた自身のメッセージをG20に送ろう」といった個人化された関与を促し、様々なデジタル技術を通じて参加者が自分自身の言葉で危機について語ることを可能にした。対照的に、G20 Meltdownは「銀行を襲撃せよ」「金持ちを食え」といった反資本主義的なフレーミングを強調し、より厳格な集合的行動フレームを提供した。

技術的インターフェースの観点では、PPFが23の異なるデジタル・エンゲージメント・メカニズムを提供していたのに対し、G20 Meltdownは6つしか提供していなかった。PPFのウェブサイトは、ソーシャルメディアでの共有、個人的な写真や動画の投稿、独自のメッセージの作成など、多様な参加形態を可能にした。

パーソナライズされたコミュニケーションと抗議の能力

著者らは次に、パーソナライズされたコミュニケーション戦略が抗議ネットワークの政治的能力に及ぼす影響を検証している。彼らは以下の三つの側面に注目した:

1. エンゲージメントの強さ:PPFのデモには約35,000人が参加したのに対し、G20 Meltdownのデモには約5,000人が参加した。また、PPFは多様な参加者を集め、メディアからより肯定的な報道を受け、将来の活動に向けた動員能力も維持した。

2. アジェンダの強さ:PPFは柔軟性を持ちながらも、明確な政策プラットフォームを提示した。メディア報道においても、PPFの活動は46%が肯定的、53%が中立的、1%が否定的だったのに対し、G20 Meltdownは3%が肯定的、74%が中立的、23%が否定的だった。

3. ネットワークの強さ:ウェブリンク分析の結果、PPFはより密度の高い相互連結したネットワークを形成していたことが明らかになった。対照的に、G20 Meltdownの連合メンバーの多くは互いにリンクしておらず、ネットワークから脱落していた。

この分析から、パーソナライズされたコミュニケーションを採用した組織支援型接続的行動ネットワークであるPPFが、より伝統的な集合的行動アプローチをとったG20 Meltdownよりも、動員力、メディア報道、ネットワークの一貫性の点で優れていたことが示された。このことは、個人化された関与戦略が政治的効果を損なうというよりも、むしろ現代の文脈では効果的である可能性を示唆している。

第3章 デジタルメディアと接続的行動の組織化(Digital Media and the Organization of Connective Action)

Twitterをケーススタディとしたデジタルメディアの組織的役割

第3章では、2009年12月の国連気候変動会議(COP15)に関連した抗議活動に焦点を当て、異なる種類の接続的行動ネットワークにおけるデジタルメディア、特にTwitterの役割を分析している。著者らは、イギリスの「The Wave」という組織支援型の気候変動抗議活動と、コペンハーゲンでの群衆支援型の抗議活動を比較している。

重要な点として、著者らはデジタルメディアを単なるコミュニケーションツールではなく、組織化の構成要素として捉えている。彼らは「媒介された組織」という概念を導入し、コミュニケーションテクノロジーが様々な方法で集合行動を構造化し、可能にすることを強調している。

「Twitter革命」の再考

著者らは、デジタルメディアと抗議活動の関係についての単純化された議論(「Twitter革命」などの称賛や「スラクティビズム」などの批判)に疑問を呈している。彼らは、テクノロジーを文脈から切り離して分析することの問題点を指摘し、特定の政治的文脈の中でソーシャルメディアがどのように機能するかを理解することの重要性を強調している。

抗議行動のエコロジーにおけるTwitterの多面性

著者らはTwitterを抗議空間の中の「ネットワーキング・エージェント」であると同時に、より広い抗議エコロジーを覗く「窓」として捉えている。彼らはTwitterストリームを分析する際の三つの焦点を特定している:

  • 1. クロスカッティング・ネットワーキング・メカニズムとしてのTwitterストリーム
  • 2. ゲートキーピング・プロセスに埋め込まれたTwitterストリーム
  • 3. 時間の経過に伴う組織力学の変化

国連気候変動会議を取り巻く接続的行動

著者らは、ロンドンの「The Wave」抗議活動とコペンハーゲンでのCOP15気候変動会議を取り巻く抗議活動を比較分析した。これらの抗議は、それぞれ異なる方法でデジタルメディアを活用していた。

ロンドンの抗議空間は、Stop Climate Chaos Coalition (SCCC)という組織連合によって支配されており、同連合は「The Wave」という大規模なデモを組織した。コペンハーゲンの抗議空間は、より多様な活動家ネットワークによって構成され、単一の組織による支配がなかった。

二つの抗議Twitterストリームにおける組織メカニズム

著者らは、#thewaveと#cop15という二つのTwitterハッシュタグストリームを分析した。彼らは、これらのストリームがリンク共有のパターン、ゲートキーピングのプロセス、時間の経過に伴う変化の点で異なることを発見した。

#thewaveストリームは、SCCCによって中央管理され、主にデモの動員とパブリシティのために使用された。#cop15ストリームは、より広範な参加者によってソースされ、より長い期間にわたって活動し、より多くのリンクを含んでいた。

抗議エコロジーにおける変化するTwitterの力学

時間の経過に伴うハッシュタグストリームの変化も分析された。#thewaveは抗議の日に短い高まりを見せた後、急速に消えていったのに対し、#cop15は会議前から会議後の長い「長い尾」を通じて継続し、その間に使用パターンが変化した。

特に注目すべきなのは、#cop15ストリームが時間の経過とともに「リソース探索」パターンを示したことである。COP15会議が終了し、抗議活動が減少するにつれて、ツイートに含まれるリンクの割合が増加し、主にNGO、活動家組織、および代替的情報サイトにリンクするようになった。著者らはこのパターンが、減少するネットワークがその構造を安定させ、他のネットワークに移行しようとする試みであると解釈している。

結論:ソーシャルメディアの文脈化

この章の分析は、ソーシャルメディアがコンテキストから切り離されて分析されるべきではないという主張を支持している。TwitterなどのソーシャルテクノロジーはXJX組織的エージェントとして機能し、抗議空間を構成する。しかし、これらは他の多くのメカニズムの一部であり、その役割は特定の政治的文脈によって形作られる。

異なる種類の接続的行動ネットワークでは、ソーシャルメディアが異なる組織的役割を果たしている。組織支援型ネットワークでは、Twitterのような技術は組織によって戦略的に展開され、群衆支援型ネットワークでは、より分散した集合的なゲートキーピングパターンが現れる。

第4章 組織支援型ネットワークが公衆を巻き込む方法(How Organizationally Enabled Networks Engage Publics)

NGOネットワークの公共関与のパターン

第4章では、イシュー・アドボカシー・ネットワークの組織と、それらがどのように公衆を関与させるかに焦点を当てている。前章で扱った抗議活動とは対照的に、ここでは長期的なイシューに関するネットワークを分析している。特に、経済的公正(フェアトレード)と環境/気候変動に関する組織ネットワークを、イギリスとドイツという異なる国の文脈、さらには国家レベルとEUレベルという異なる統治レベルで比較している。

個人化された政治、複雑なイシュー、NGO

著者らはまず、現代のNGOが直面する課題を概説している。グローバリゼーションは多くの政策問題をより複雑にし、政策プロセスは国家の境界を超えて拡大している。同時に、多くの市民は従来の会員制組織への参加よりも、個人化された形での政治参加を好む傾向がある。これにより、NGOは緩やかなネットワークを形成し、デジタルメディアを活用して個人化された関与を促進するようになっている。

比較分析の方法論

著者らは、複数のイシュー・アドボカシー・ネットワークを同定し、それらの公共関与の特性を測定するための革新的な方法論を開発した。まず、各国のフェアトレードと環境/気候変動ネットワークについて、ウェブクローリング手法を用いてネットワークを把握した。次に、それらのネットワーク内の組織ウェブサイトに見られるデジタル・エンゲージメント・メカニズムを総合的に調査した。

公共関与は以下の4つの次元で測定された:

  • 1. 一方向の情報(ニュースレター、政策声明など)
  • 2. インタラクティブな情報(フォーラム、フィードバック機能など)
  • 3. 高度に構造化された行動(寄付、組織への参加など)
  • 4. 共同制作された行動(抗議、イベント開催など)

異なる政治的文脈におけるネットワーク組織と公共関与

分析の結果、以下のパターンが明らかになった:

  • 1. 国家レベルのネットワークは、EUレベルのネットワークよりも大幅に高いレベルの公共関与を示す傾向があった。これは、イギリスとドイツの両方のフェアトレードと環境ネットワークで観察された。
  • 2. イギリスの国家レベルのフェアトレードおよび環境ネットワークは、非常に類似した公共関与パターンを示し、どちらも高いレベルの公共関与を持っていた。
  • 3. 対照的に、ドイツの環境ネットワークは、イギリスの同等のネットワークよりも大幅に低いレベルの公共関与を示した。著者らはこれを、ドイツにおける環境政治の「制度化」に関連づけている。緑の党が政府で影響力を持つドイツでは、環境NGOはより制度的なアクセスを持ち、直接的な公共動員への依存度が低い。
  • 4. EUレベルのネットワークは、国家レベルのネットワークとは異なる組織パターンを示した。EUレベルのネットワークは、より階層的で、組織間のクロスリンクが少なく、「スター」型のネットワーク構造を示した。

著者らは、これらの差異が政治的機会構造の違いを反映していると主張している。特に、EUレベルでは、NGOは「代理公衆」となり、直接的な公共関与を疎かにする傾向があるという。これは、しばしば議論されるEUの「民主的赤字」を反映している可能性がある。

ネットワーク組織と接続的行動の可能性

この章の分析は、組織支援型接続的行動ネットワークが様々な政治的文脈の中でどのように機能するかについての理解を深めている。著者らの主張によれば、NGOのネットワークが公衆を関与させる能力は、政治的機会構造によって大きく影響される。

イギリスのフェアトレードと環境ネットワークは、緩やかに結びついたネットワーク組織と豊富なデジタル関与メカニズムの組み合わせによって、高いレベルの公共関与を達成できた。対照的に、ドイツの環境ネットワークとEUレベルのネットワークは、より制度的な政治アクセスを持っていたため、公共関与の度合いが低かった。

第5章 ネットワーク、権力、政治的成果(Networks, Power, and Political Outcomes)

ネットワーク権力と政治的成果の概念化

第5章では、接続的行動ネットワークにおける権力の性質と、それらのネットワークが政治的成果を生み出す能力について検討している。著者らは「権力シグネチャー」という概念を導入し、これを「ネットワーク内のアクターの間で認知(威信と影響力)が集中しているか分散しているかの程度」と定義している。

著者らは、ネットワーク理論の「権力の法則」を応用して、異なる接続的行動ネットワークの権力シグネチャーを分析している。彼らは以下の3つの権力シグネチャーを区別している:

  • 1. 急勾配の権力曲線:少数の支配的なアクターに権力が集中
  • 2. 穏やかな権力曲線:より多くのアクターが認知と影響力を共有
  • 3. 分散した権力シグネチャー:複数の層からなるネットワークのネットワークで、認知が分散し、動的

組織支援型ネットワークにおける権力:ロビンフッド税キャンペーン

著者らはまず、イギリスの「Robin Hood Tax」(RHT)キャンペーンを分析している。これは金融取引への課税を推進する組織支援型の接続的行動ネットワークであった。

RHTキャンペーンは、オックスファム、グリーンピース、地球の友などの著名なNGOによって支援されていた。キャンペーンのウェブサイトは、個人の参加を促すための豊富なパーソナライズされた行動フレームとインタラクティブなメディアを提供していた。例えば、訪問者は郵便番号を入力し、個人的なストーリーを共有することができた。

ネットワーク分析では、RHTネットワークが穏やかな権力曲線を持つことが示された。キャンペーンの調整サイトがネットワークの頂点にあったが、その後の権力の低下は緩やかであり、多くの組織がリンクと認知を共有していた。

組織支援型ネットワークにおけるキャンペーン成果の広範な評価

著者らは、イギリスの経済的公正ネットワーク全体でキャンペーンの成果を分析した。彼らは、22のアクティブなキャンペーンを特定し、それらのネットワーク権力シグネチャー、公共関与の強さ、およびメディア報道の関係を測定した。

分析の結果、ネットワーク内のキャンペーン支援の権力集中度(ネットワーク内のどれだけの組織がキャンペーンを支援しているか、およびそれらの組織のネットワーク内での位置)がメディア報道と強く相関していることが分析によって示された。つまり、より多くの組織に支援され、ネットワーク内でより中心的な組織によって支援されているキャンペーンほど、より多くのニュース報道を受ける傾向があった。

群衆支援型ネットワークにおける権力:オキュパイ・ネットワーク

著者らは次に、アメリカの「Occupy」運動を分析した。これは「群衆支援型」接続的行動の典型例である。オキュパイ運動は2011年9月に始まり、1000人ほどの抗議者がウォール街を行進し、ズコッティ公園でキャンプを設営したことが発端となった。

オキュパイは様々なデジタル媒体を活用し、数週間のうちに全米および世界中で数百の都市に広がった。運動の中心的なパーソナル・アクション・フレームは「We Are the 99%」であり、これは「Chris」という個人がTumblrのマイクロブログを開設したことから始まった。このフレームはSNSプラットフォームを通じて急速に広がり、最終的にはマスメディアにも取り上げられた。

著者らは、オキュパイを「ネットワークのネットワーク」として分析している。オキュパイの組織構造は、都市ごとのウェブサイト、ツイッターアカウント、フェイスブックページ、ライブストリームなど、複数の層からなるネットワークで構成されていた。この複雑なネットワーク構造では、ツイッターが異なるネットワーク層を「縫い合わせる」重要な役割を果たしていた。

オキュパイの権力シグネチャーは、RHTのような組織支援型ネットワークとは大きく異なり、「分散した」特徴を持っていた。認知と影響力は複数のネットワーク層に分散しており、時間とともに動的に変化していた。

異なる政治的ネットワーク、類似の成果

著者らは、非常に異なる権力シグネチャーを持つこれら二つのネットワーク(組織支援型のRHTと群衆支援型のオキュパイ)が、意外にも類似した政治的成果を上げたことを指摘している。両者は、政治的エリートや大衆レベルでの不平等に関する議論を高めることに成功した。

RHTキャンペーンは、教会の大司教、著名な経済学者、政治指導者などの支持を得て、最終的にEUの10カ国が金融取引税の導入に合意するという成果を上げた。同様に、オキュパイは不平等に関する国民的議論を喚起し、オバマ大統領を含む政治指導者たちの言説に影響を与えた。2011年12月のピュー・リサーチ調査によれば、「富裕層と貧困層の間の対立が強いまたは非常に強い」と認識する人の割合は、2009年から2011年の間に47%から66%に上昇した。

結論:ネットワーク権力と政治的文脈

著者らは、異なる権力シグネチャーを持つネットワークが同様の政治的成果を上げることができることを示唆している。この点は、組織的調整や資源の集中が効果的な政治的行動の前提条件であるという従来の考えに異論を唱えるものである。

しかし、著者らは政治的機会構造の重要性も強調している。RHTキャンペーンとオキュパイの成功は、金融危機という文脈の中で、エリートが下からの圧力に反応せざるを得なかったという事実と切り離せない。政治的成果は、ネットワークの内部構造だけでなく、それらが活動する政治的文脈との相互作用によっても形作られる。

 第6章 結論:ロジックが衝突するとき(Conclusion: When Logics Collide)

接続的行動の主要テーマの総括

最終章では、本書の主要な論点を振り返り、接続的行動ネットワークが直面する課題と今後の研究方向性について論じている。著者らは、本書の四つの中心的テーマを再確認している:

  • 1. 行動の複数のロジック:集合的行動と接続的行動は分析的に区別され、それぞれ独自の観点から理解される必要がある。
  • 2. 行動のパーソナライゼーション:後期近代社会では、市民が組織に課せられる厳格なイデオロギー的理解や関与を避け、よりパーソナライズされた形での政治参加を求める傾向がある。
  • 3. 組織としてのコミュニケーション:デジタルメディアは単なるメッセージング・ツールではなく、接続的行動ネットワークの中核的な組織原理となっている。
  • 4. 異なる形態のネットワーク組織における権力:接続的行動ネットワークは、集中的な権力構造がなくても効果的に機能し、政治的成果を生み出すことができる。

ロジックが衝突するとき

本章の中心的な主題は、異なる行動ロジックが衝突する場合の課題と緊張関係である。著者らは、同じ抗議空間内での異なるロジックの共存が時には効果的であるが、時には断片化や失敗につながることを指摘している。

特に、著者らは二つの重要な衝突地点を特定している:

1. 政治的移行期における組織的衝突:例えば、エジプトのタハリール広場やスペインのindignados運動の後、群衆支援型ネットワーク(ムスリム同胞団)が選挙などの新しい政治的文脈に適応するのに苦労した事例。モルシー大統領の支持率は当初70%あったが、短期間で40%程度に下落。経済問題や既存官僚との対立が背景にあった。官僚たちは非協力的な姿勢を取り続け、特に外交官や警察は「見えない抵抗」を続けた。

2. 動員内部での相反するネットワーク組織同じネットワーク内で、組織や行動に関する根本的に異なる理想やイデオロギーが存在する場合。

オキュパイにおける組織理想と目的構築型テクノロジーの対立

著者らは、オキュパイ運動における組織的理想と技術イノベーションの間の緊張関係について詳細に論じている。2011年秋に警察によってキャンプ地が強制撤去された後、オキュパイ活動家の一部は対面式の集会を重視し、テクノロジーを活用した組織化の可能性に抵抗した。

著者の一人(Bennett)がオキュパイ活動家と協力して開発した「ConsiderIt」というオンライン審議プラットフォームの例が紹介されている。このプラットフォームは対面集会を補完し、より広いコミュニティとのアイデア共有を可能にすることを目的としていたが、中核活動家からは限定的な関心しか得られなかった。

この事例は、技術中心の断絶が、イデオロギーや集合的フレーミングの典型的な対立とは異なる種類の組織的分裂を引き起こす可能性を示している。異なる組織理想を持つ活動家が同じ抗議空間に共存する場合、テクノロジーの役割についての根本的な不一致が運動の推進力を弱める可能性がある。

今後の展望

本章の結論では、接続的行動ネットワークの研究における今後の方向性を提示している。著者らは、接続的行動がより広範な政治的文脈の中でどのように機能するかについての理解を深め、失敗する場合と成功する場合の条件をより詳細に検討する必要性を強調している。

彼らはまた、接続的行動の成果を評価するための新しい方法の必要性を指摘している。彼らによれば、「彼らは世界を変えたのか?」という厳しい基準だけでなく、日常的な政治的異議申し立ての文化的側面や、将来の行動のための種まき効果などの側面も考慮すべきである。

例えば、オキュパイ運動の「消失」を宣言する批評家もいるが、運動のアイデアや実践は地域レベルの多様なイニシアチブに散らばり、継続していることを著者らは指摘している。これらには、Occupy Our Homes(差し押さえに抵抗する活動)やOccupy Sandy(ハリケーン・サンディの被災者支援活動)などが含まれる。

著者らは、「現地で考え、グローバルに行動する」という古くからのマントラが、個人的言説がネットワークを通じて伝わり、一般大衆や権力者に対して、普通の人々が公共圏での発言権を持っていることを思い出させるように、様々な形で生き続けていると主張して本書を締めくくっている。

コネクティブ・アクションとデジタルメディアの政治学についてのAI考察

by Claude 3

21世紀の社会運動の新たな組織形態

この文献は非常に興味深い分析を提供している。デジタルメディアと現代の集合行動の関係性について、特にコネクティブ・アクション(connective action)という概念を中心に、従来の集合行動論とは異なる視点から社会運動を捉えなおしている。まず内容を整理しながら、その本質的な主張を掴んでいこう。

著者たちは従来の集合行動(collective action)とは異なる「コネクティブ・アクション」という概念を提唱している。これは、デジタルメディアを単なるコミュニケーションツールではなく、組織化の原理として捉える視点だ。コネクティブ・アクションには、「組織支援型」と「群衆支援型」の2種類があり、従来の組織仲介型の集合行動と合わせて3つの理念型を提示している。

従来の集合行動論では、個人は集団の中で明確なアイデンティティを持ち、リーダーシップや資源動員、イデオロギー的なフレーミングによって動員される。一方、コネクティブ・アクションでは、個人はよりパーソナライズされた関与を通じて政治に参加し、デジタルメディアが組織構造そのものとして機能する。

疑問が浮かぶ。この区別は本当に有効なのだろうか?従来の社会運動論との違いは何なのか?単にテクノロジーの進化による変化を記述しているだけではないのか?

著者たちの議論を追っていくと、この区別は単なる技術的な問題ではなく、より本質的な社会変化に根ざしていることがわかる。彼らは後期近代社会における個人化の進行に注目している。政党、労働組合、教会などの従来の集団的アイデンティティの基盤が弱体化し、個人がより自律的に政治に関わるようになっているという。

確かに、現代社会では伝統的な集団への帰属意識が薄れ、個人がより流動的にさまざまな問題に関わるようになっている。特に若い世代は、特定の組織や運動に長期的にコミットするよりも、自分の関心に応じて柔軟に参加できる形態を好む傾向がある。この変化は単なる世代の問題というよりも、社会構造の変化を反映しているのだろう。

具体例を考えてみよう。2009年のG20ロンドン・サミット抗議行動やウォール街占拠運動(Occupy Wall Street)は、この新しい行動様式を示している。特に「私たちは99%だ」というスローガンは、多様な人々が個人的な物語を共有しながら連帯できる「パーソナル・アクション・フレーム」として機能した。

しかし、疑問は残る。このようなゆるやかな連帯は、持続的な政治的成果を生み出せるのだろうか?組織的な基盤がなければ、一時的な盛り上がりに終わってしまうのではないか?

文献のケーススタディを見ていくと、コネクティブ・アクションも一定の政治的成果を上げていることがわかる。例えば第5章で分析されている「ロビン・フッド税」キャンペーンは、組織支援型のコネクティブ・アクションとしてかなりの成功を収めている。また、Occupy運動も「不平等」という問題を政治的アジェンダとして定着させることに貢献した。

興味深いのは、これらの運動がもつ「ネットワークの力の署名」(network power signatures)の違いだ。組織支援型のコネクティブ・アクションは、穏やかな傾斜をもつ権力分布を示し、複数の組織が緩やかに連携している。一方、群衆支援型では、権力はより分散的で動的な性質を持つ。しかし、これらの異なる組織形態が同様の政治的結果をもたらす可能性があるという点は注目に値する。

ここで考えるべきなのは、「成功」をどう定義するかという問題だ。従来の社会運動研究では、政策変更や制度改革といった具体的な成果が重視されてきた。しかし、コネクティブ・アクションの場合、その成果はより多様かつ分散的かもしれない。例えば、社会的言説の変化、問題意識の拡散、新たな行動レパートリーの創出なども重要な成果と考えられる。

私は次に、著者たちの理論的枠組みの強みと限界を考えてみたい。この理論の強みは、デジタルメディアの役割を単なる道具としてではなく、組織化のロジックとして捉えている点だ。これは「メディアは単なるメッセージの伝達手段」という従来の理解を超えている。また、現代社会における個人化と政治参加の変容を結びつけて考察している点も優れている。

一方で、いくつかの限界も感じる。まず、この理論はある種の二項対立(集合的 vs. コネクティブ)を前提としているが、実際の社会運動はもっと複雑で多様な形態をとる。また、デジタルメディアへのアクセスや利用能力の格差(デジタル・ディバイド)に関する考察が限定的だ。さらに、コネクティブ・アクションの持続可能性についての疑問も完全には解消されていない。

第6章では、異なる行動ロジックが衝突する場合の問題が取り上げられている。特に興味深いのは、テクノロジーに対する姿勢の違いがもたらす組織的葛藤の分析だ。Occupy運動では、対面的な集会を重視する活動家とテクノロジーを通じたより広範な参加を促進しようとする開発者との間に緊張関係があった。この緊張が、警察による強制排除後の運動の転換を制限した可能性がある。

私はこのコミュニケーション分析を現代日本の文脈に当てはめて考えてみる。例えば、2015年の安保法制反対運動では、SEALDsのようなゆるやかな学生組織がSNSを活用して若者を動員した。これは伝統的な左派運動団体とは異なる組織支援型のコネクティブ・アクションと見ることができる。また、2019年の気候マーチでは、グローバルな「Fridays For Future」の枠組みの中で、個人がSNSを通じて自発的に参加する群衆支援型の要素も見られた。

さらに注目すべきは、著者たちが「アクター・ネットワーク理論」(ANT)を採用し、テクノロジーを「非人間の行為主体」(actant)として捉えている点だ。これにより、デジタルネットワーキングメカニズムが単なるツールではなく、ネットワーク内の行為主体として機能することが理論的に説明される。第3章で論じられているように、ハッシュタグやハイパーリンクといったデジタルメカニズムが、抗議空間の構造化や情報の流れの調整において重要な役割を果たしている。

しかし、著者たちは必ずしも技術決定論的な立場をとっているわけではない。彼らは、テクノロジーだけでは社会運動の成功は説明できず、政治的機会構造や資源、イデオロギー、組織的要因なども重要だと強調している。これは公平な見方だと思う。

コネクティブ・アクションと民主主義の再考

コネクティブ・アクションの概念は、民主主義に関する議論にも新たな視点をもたらす。参加民主主義論者のキャロル・ペイトマンは、人々の参加そのものが民主主義の重要な価値だと主張した。この観点からすると、コネクティブ・アクションが可能にするより広範な参加は、それ自体が価値を持つ。

他方、代表制民主主義の観点からは、持続的なアドボカシー組織の役割が重要だとする見方もある。第4章で分析された欧州レベルのNGOネットワークは、EU機関との関係において公衆参加よりも政策的影響力を優先する傾向があった。これは「民主主義の赤字」問題と関連している。

この緊張関係は、民主主義のあり方に関する根本的な問いを投げかける。制度化された政治過程を通じた間接的な影響力と、より直接的で個人化された参加の間のバランスをどう取るべきか。コネクティブ・アクションは、この問いに新たな視点を提供している。

もう一つ重要な点は、コネクティブ・アクションが持つ適応能力と再結合能力だ。著者たちは、コネクティブ・アクションネットワークは比較的容易に再形成・再目的化できると指摘している。これは、「Think globally, act locally」という古くからのマントラが、デジタルネットワークを通じてより効果的に実現できることを示唆している。

例えば、Occupy運動は主流メディアの注目を集めなくなった後も、住宅差し押さえ反対運動や災害支援活動など、様々な地域レベルの活動に形を変えて継続した。これらの活動は、大きな制度的変革をもたらさなかったかもしれないが、日常生活に公共圏の価値観を浸透させるという重要な役割を果たした。

ここで考えるべきなのは、社会変革のタイムスケールだ。短期的な政策変更だけでなく、長期的な文化的・言説的変化も重要だという視点が必要だろう。コネクティブ・アクションは、後者において特に効果的かもしれない。

日本社会への理論的適用と課題

この理論的枠組みを日本社会に適用する場合、いくつかの文化的・制度的特殊性を考慮する必要がある。日本では伝統的に「集団主義」や「同調圧力」が強調され、個人よりも組織への忠誠が重視される傾向があった。また、政治参加率の低さや市民社会組織の弱さも特徴的だ。

しかし、若い世代を中心に政治参加の形態は変化している。例えば、「#KuToo」運動や「フライデーズ・フォー・フューチャー」など、SNSを活用した個人化された参加形態が増加している。また、東日本大震災後の反原発運動では、従来の左派運動とは異なる多様な参加者がSNSを通じて動員された。

同時に、日本では「中間支援組織」の役割が重要だ。NPOセクターや地域コミュニティ組織は、伝統的な集合行動とコネクティブ・アクションをつなぐ橋渡し的役割を果たす可能性がある。例えば、「NPO法人みんなのコード」のようなテクノロジーを活用した新しいタイプの市民団体が増えている。

日本社会における重要な課題は、デジタル・ディバイドの問題だ。高齢化社会である日本では、若者と高齢者の間でデジタルメディアへのアクセスや利用能力に大きな格差がある。このため、コネクティブ・アクションが世代間の分断を深める可能性もある。また、日本では「匿名性」が政治的発言において重要な役割を果たしており、これがパーソナル・アクション・フレームの形成や拡散に影響を与える可能性がある。

さらに、日本の政治システムは比較的閉鎖的であり、新しい社会運動が政策決定過程に影響を与えるのは困難だ。このため、コネクティブ・アクションが短期的な可視性を獲得しても、長期的な制度変革につながりにくい構造的問題がある。

エコーチェンバーとフィルターバブルの問題

著者たちは十分に展開していないが、コネクティブ・アクションの重要な批判点として「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」の問題がある。パーソナライズされた参加は、同じ意見を持つ人々の間での情報循環を促進し、社会的分断を深める可能性がある。

特にアルゴリズムによって媒介されるSNSでは、この傾向が強まる懸念がある。例えば、Facebookのニュースフィードアルゴリズムは、ユーザーの既存の好みや信念に合致するコンテンツを優先的に表示する傾向があり、これが「確証バイアス」を強化する可能性がある。

イーライ・パリサーが『フィルターバブル』で論じたように、インターネットの個人化は、共通の公共圏を分断し、民主的な討議を困難にする恐れがある。コネクティブ・アクションが、こうした分断を超えて異なる意見や立場の人々の間の対話を促進できるかは、今後の重要な研究課題だ。

コネクティブ・アクションとポピュリズムの関係

もう一つ深く掘り下げるべき問題は、コネクティブ・アクションとポピュリズムの関係だ。パーソナル・アクション・フレームの包括性と感情的訴求力は、ポピュリスト的な動員と親和性を持つ可能性がある。実際、トランプ支持のネットワークやブレグジット運動などでも、SNSを通じたパーソナライズされた参加が見られた。

ここで重要なのは、コネクティブ・アクションという形態自体には政治的方向性が内在していないという点だ。それは左派的にも右派的にも、進歩的にも保守的にも活用され得る。例えば、「フェイクニュース」の拡散もまた、パーソナライズされたコンテンツ共有の一形態と見ることができる。

このことは、デジタルメディアリテラシーや批判的思考の重要性を浮き彫りにする。コネクティブ・アクションの民主的潜在力を実現するためには、単にテクノロジーへのアクセスを拡大するだけでなく、それを批判的・反省的に利用する能力を育成することが不可欠だ。

資本主義的プラットフォームの役割と矛盾

著者たちが十分に展開していないもう一つの重要な点は、商業的プラットフォームに依存することの矛盾だ。Twitter、Facebook、YouTubeなどの営利企業のプラットフォームが、しばしば反資本主義的なメッセージの拡散に利用されるという皮肉がある。

これらのプラットフォームはユーザーデータを商品化し、アルゴリズムによって情報の流れを制御している。また、政府の監視や検閲の要求に応じる場合もある。このことは、コネクティブ・アクションが依存するインフラの政治経済学的分析の必要性を示している。

Occupy活動家の一部がオープンソースのソフトウェアやプラットフォームの開発を重視していたのは、こうした矛盾への認識の表れだろう。しかし、商業プラットフォームの広範な普及と使いやすさは、多くの活動家にとって実用的な選択を余儀なくしている。

長期的な社会変革の視点

最後に重要な点として、社会変革のタイムスケールとプロセスについての考察を深めたい。著者たちも第6章で触れているように、コネクティブ・アクションの「成功」を評価する際には、短期的な政策変更だけでなく、長期的・文化的な変化も考慮する必要がある。

例えば、Occupy運動は制度的な改革をもたらさなかったかもしれないが、「99% vs. 1%」という言説を広め、不平等問題を政治的アジェンダに押し上げた。また、住宅差し押さえ反対運動や災害支援活動など、様々な地域レベルの活動に形を変えて継続している。

レイモンド・ウィリアムズが言うところの「感情の構造」(structure of feeling)の変化や、グラムシの言う「文化的ヘゲモニー」の変容は、即時的には測定困難だが、長期的な社会変革において決定的に重要だ。コネクティブ・アクションは、こうした文化的・言説的変化において特に効果的かもしれない。

この視点からすると、社会運動の「成功」を政策変更や制度改革だけで測ることは不十分だ。日常生活における実践や言説の変化、新たな行動レパートリーの創出、そして市民社会のエンパワーメントといった多面的な効果を評価する必要がある。

総合的評価と今後の研究課題

総合すると、ベネットとセガーバーグの『The Logic of Connective Action』は、デジタル時代の社会運動と政治参加を理解するための画期的な理論的枠組みを提供している。コネクティブ・アクションという概念は、従来の社会運動論では捉えきれない現象を説明するための強力な分析ツールとなっている。

特に評価すべき点は以下の通りだ:

  • デジタルメディアを単なるコミュニケーションツールではなく、組織化の原理として捉え直した点
  • 後期近代社会における個人化の進行とそれに伴う政治参加の変容を理論的に接続した点
  • 集合的行動フレームとパーソナル・アクション・フレームの質的差異を明確化した点
  • ウェブ・クローリングやデジタル・エンゲージメント分析など、革新的な方法論を導入した点
  • 異なるタイプのネットワーク組織における権力の分布とその政治的帰結を実証的に分析した点

今後の研究課題としては、以下の点が挙げられる:

  • グローバル・サウスや権威主義体制下でのコネクティブ・アクションの可能性と限界
  • デジタル・ディバイドとその政治的含意のより詳細な分析
  • コネクティブ・アクションとポピュリズムの関係
  • 商業的プラットフォームへの依存がもたらす矛盾と限界
  • 長期的な社会変革プロセスにおけるコネクティブ・アクションの役割
  • パンデミックやAI技術の進展など、新たな文脈でのコネクティブ・アクションの形態

結論として、この著作は社会運動研究のパラダイム転換をもたらすものであり、デジタル時代の民主主義と市民参加を理解するための不可欠の理論的貢献だ。同時に、この理論の適用範囲と限界についても、より多様な文脈での検証が求められる。

コネクティブ・アクションの概念は、単に社会運動の分析ツールとしてだけでなく、より広く現代社会における「個人と集団の再編成」を理解するための視座として価値がある。個人化が進む社会において、人々はどのように連帯し、共通の問題に取り組むのか。この問いは、社会運動の領域を超えて、現代社会の根本的な課題に関わっている。

最後に、社会変革のプロセスにおいては、様々な形態の行動や組織が相互補完的な役割を果たすことを忘れてはならない。コネクティブ・アクションと従来の集合行動は、対立するものではなく、異なる状況や段階で異なる効果を発揮する可能性がある。重要なのは、それぞれの強みと限界を理解し、状況に応じて適切な組織戦略を選択することだろう。

本書から学ぶ実践的知識

はじめに

スマートフォンを手に、SNSで情報を共有する。自分の考えを発信し、同じ思いを持つ人々とつながる。こうした行動が、実は現代の社会運動の基盤となっている。

「The Logic of Connective Action(つながりの行動の論理)」という著書では、私たちが日常的に使うデジタルメディアがどのように社会運動を変化させているかを詳細に分析している。著者のW. Lance BennettとAlexandra Segerbergは、経済的公正や気候変動などの問題に焦点を当て、新しい形の社会活動の仕組みを解き明かしている。

この研究で分かったこと

「つながりの行動」という新しい社会運動の形

かつての社会運動といえば、労働組合や政党、教会などの組織が中心となり、強いリーダーシップのもとで人々を動員するものだった。しかし今日では、もっと緩やかでパーソナルな形の社会運動が増えている。

例えば、2011年のアメリカで起きた「オキュパイ・ウォールストリート」運動では、「私たちは99%だ」というシンプルなメッセージが広がった。このメッセージは、多くの人々が自分自身の経験や物語として共感し、SNSで共有したことで爆発的に広がったのである。この運動には明確なリーダーはおらず、組織的な構造もなかった。それでも、経済格差に関する議論を社会に巻き起こし、オバマ大統領のスピーチにまで影響を与えた。

私たちの日常生活に目を向けると、こうした「つながりの行動」は至るところに見られる。例えば、環境問題に関心を持つ人々が、個人的な経験や考えをSNSで共有し、それが環境保護団体の活動と結びつき、環境意識の高まりを生み出している。フェアトレード商品を選ぶという個人的な消費行動も、デジタルメディアを通じて共有されることで、より大きな社会的影響力を持つようになっている。

個人化された政治参加の時代

研究者たちが発見したもう一つの重要な点は、政治参加の「個人化」である。かつては政党や団体に所属し、その主張に従って行動するというスタイルが主流だったが、今日では多くの人々が自分自身の判断で、自分に合った形で参加するようになっている。

例えば、イギリスの「ロビン・フッド税」キャンペーンでは、金融取引への課税を求める運動が展開されたが、参加者は自分の言葉で支持理由を表明し、SNSで共有することが奨励された。このキャンペーンは最終的に成功し、いくつかのEU加盟国で実際に政策として導入されている。

私たち一人ひとりの日常でも、こうした個人化された参加形態が見られる。例えば、気候変動への関心から、自分の「カーボンフットプリント」を減らす努力をしたり、その経験をSNSで共有したりすることが、より大きな社会変革につながっている。

コミュニケーションが組織になる

従来の見方では、コミュニケーションは単なる情報伝達の手段だった。しかし、この研究では、デジタルメディアを通じたコミュニケーション自体が組織機能を果たすことが明らかになっている。

例えば、Twitterのハッシュタグは単なるラベルではなく、情報の流れを整理し、人々を結びつける「組織的な仕組み」として機能する。2009年のコペンハーゲン気候変動会議の際には、#cop15というハッシュタグが世界中の活動家、政治家、一般市民をつなぎ、リアルタイムで情報を共有する場となった。

私たちの日常でも、LINEグループやFacebookページが地域コミュニティの活動基盤になっていることがよくある。災害時の情報共有や助け合いの場として機能したり、地域の問題解決のための議論の場になったりしている。

実際に活用できるポイント

個人の声を効果的に伝える方法

この研究から学べる一つ目のポイントは、個人の声を効果的に伝える方法である。社会的な問題に関心があるとき、自分の個人的な経験や感情をストーリーとして共有することが有効である。例えば、環境問題について単に「環境を守るべきだ」と主張するよりも、「私の住む地域ではこんな環境変化が起きている」という具体的な経験を共有する方が、多くの人の共感を得られる。

また、シンプルで共有しやすいメッセージを作ることも重要である。「私たちは99%だ」や「人々を第一に」といったシンプルなフレーズは、それぞれの人が自分なりの意味を込めることができるため、広く共有されやすくなる。

デジタルツールの戦略的な活用

二つ目のポイントは、デジタルツールの戦略的な活用である。SNSの活用は単にメッセージを発信するだけではなく、他の人々と対話し、協力関係を築くことが重要である。例えば、環境保護活動に関心がある場合、単に情報をシェアするだけでなく、地域の清掃活動の様子を写真付きで共有したり、参加者の声を紹介したりすることで、より多くの人の関心を引くことができる。

また、複数のプラットフォームを使い分けることも有効である。TwitterやInstagramなどの公開性の高いプラットフォームで広く情報を発信しながら、LINEやFacebookグループなどでより深い議論や具体的な行動計画を立てるという使い分けが可能である。

既存の組織との協力関係

三つ目のポイントは、既存の組織との協力関係を築くことである。「つながりの行動」と従来の組織的な活動は対立するものではなく、相互に補完し合うことができる。例えば、地域の環境問題に取り組む場合、個人のSNS発信と環境NGOの専門知識や資源を組み合わせることで、より効果的な活動が可能になる。

実際、多くのNGOや非営利団体は、個人の参加をより柔軟に受け入れるようになっている。オックスファムなどの国際NGOは、支援者が自分の言葉で団体の活動を共有することを奨励し、それが新たな支援者を呼び込むきっかけになっている。

注意点や気をつけること

「クリックティビズム」の限界

デジタルメディアを通じた社会参加には限界もある。単にオンライン上で「いいね」をしたり、投稿をシェアしたりするだけでは、実質的な社会変革につながらない場合がある。これは「クリックティビズム(単なるクリック活動主義)」と呼ばれることもある。

効果的なデジタル活動には、オンラインとオフラインの活動を組み合わせることが重要である。例えば、SNSでの情報発信と並行して、地域での対面ミーティングや具体的なアクション(デモや署名活動など)を組み合わせることで、より大きな影響力を持つことができる。

分断や対立の可能性

デジタルメディアを通じた運動は、時に分断や対立を生む可能性もある。例えば、「オキュパイ運動」では、デジタル技術を積極的に活用するグループと、伝統的な対面式の活動を重視するグループの間で対立が生じた。

また、SNSのアルゴリズムは似た意見を持つ人々を結びつける傾向があるため、「エコーチェンバー(同じ意見が反響するだけの空間)」が形成される危険性もある。異なる意見や背景を持つ人々との対話を意識的に追求することが重要である。

持続可能性の課題

デジタルを中心とした運動は、急速に広がる一方で、持続性に課題があることも認識しておく必要がある。例えば、オキュパイ運動は短期間で大きな話題となったが、物理的な拠点(公園などの占拠場所)を失った後は、勢いを維持するのが難しくなった。

持続的な変革を目指すなら、一時的な盛り上がりだけでなく、長期的な関与の仕組みを考える必要がある。例えば、定期的なオンライン・ミーティングの開催や、小さな成功体験を積み重ねる活動設計が有効だろう。

まとめ

デジタルメディアの普及により、社会運動や政治参加の形は大きく変化している。組織中心の「集合行動」から、個人のつながりを基盤とした「つながりの行動」へと移行しつつある。この変化は、私たち一人ひとりに新たな参加の可能性を開いている。

日常生活の中で、自分の関心事や価値観をSNSで共有する行為は、単なる個人的な表現ではなく、社会変革のきっかけになり得る。環境問題や経済格差など、大きな社会課題に対して、私たち一人ひとりが自分なりの方法で声を上げ、行動することが、これまで以上に意味を持つ時代になっている。

ただし、オンライン上の活動だけでなく、リアルな対面関係や具体的なアクションを組み合わせることで、より効果的な変革が可能になることを忘れてはならない。デジタルとリアルの両面から、より良い社会を作るための一歩を踏み出してみませんか?

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