書籍『グレート・デバリュエーション/偉大なる切り下げ:来るべき世界通貨リセットをいかに受け入れ、準備し、利益を得るか』アダム・バラッタ

政治・思想環境危機・災害金融危機・金融崩壊・インフレ

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The great devaluation : how to embrace, prepare, and profit from the coming global monetary reset / Adam Baratta.

概要

アダム・バラッタの『The Great Devaluation』は、世界経済と金融システムの危機的状況と今後の通貨リセットについて論じた著作である。著者は連邦準備制度(FRB)による金利操作と過剰な貨幣供給が、巨大な債務バブルと格差社会を生み出したと主張する。特に注目すべきは、著者の「通貨の大幅な切り下げ」予測であり、金(ゴールド)が重要な避難先資産になると説く。

本書は2020年2月に完成し、その直後にCOVID-19危機が発生したため、著者は各章に「28日後」という追記を加えている。危機への政府・中央銀行の対応は著者の予測通りとなり、FRBのバランスシートは急激に拡大し、金価格は上昇している。

著者はエンターテイメント業界出身というユニークな視点から、過去の経済危機、特に1930年代の大恐慌と現在の状況を比較し、約90年周期の「スーパーサイクル」理論を展開する。重要な主張として、株式市場の名目上の成長は実質的な富の成長を意味せず、通貨価値の下落を考慮すると実質的には富が失われている可能性を指摘している。

解決策として著者は、金価格の意図的な引き上げ(1オンス10,000ドル程度へ)を提案している。これにより世界中の中央銀行のバランスシートが強化され、新たな通貨システムの基盤となると主張している。

目次

  1. 寄生虫(Parasite)
  2. トレーディング・プレイス(Trading Places)
  3. 少しのお金のために(For a Few Dollars More)
  4. ハッスル・アンド・フロー(Hustle and Flow)
  5. フリー・ウィリー(Free Willy)
  6. 子育て(Parenthood)
  7. ネバーエンディング・ストーリー(The Never-Ending Story)
  8. ゴールドフィンガー(Goldfinger)
  9. プロメテウス(Prometheus)
  10. 銀行家(The Banker)
  11. ライオン・キング(The Lion King)
  12. マネー・ピット(The Money Pit)
  13. 素晴らしき人生(It’s a Wonderful Life)
  14. 兆候(Signs)
  15. ブラック・スワン(Black Swan)
  16. サークル(The Circle)
  17. 感染(Contagion)
  18. ビッグ・ショート(The Big Short)
  19. メカニック(The Mechanic)
  20. ホワイト・メン・キャント・ジャンプ(White Men Can’t Jump)
  21. マトリックス(The Matrix)
  22. バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2(Back to the Future—Part II)
  23. インクレディブル・ハルク(The Incredible Hulk)
  24. ボビー・フィッシャーを探して(Searching for Bobby Fisher)

各章の要約

第1章 寄生虫(Parasite)

2020年3月3日、FRB議長ジェローム・パウエルは緊急利下げを発表した。これを皮切りに株式市場は激しく変動し、COVID-19パンデミックが広がる中で経済危機が急速に深刻化していった。トランプ大統領は「史上最高の経済」と主張し続けたが、実際には世界経済は巨額の債務に支えられた「カード城」だった。中央銀行は流動性を提供し続け、債務危機を先延ばししていた。わずか数週間で、世界中の中央銀行は前例のない規模の金融・財政刺激策を導入。大幅な通貨価値の切り下げが始まったのである。著者は今後10年間で歴史上最大の富の移転が起こると予測している。

第2章 トレーディング・プレイス(Trading Places)

過去30年間で、トップ1%の富裕層は21兆ドルの富を得た一方、下位50%は9,000億ドルの富を失った。今日、CEOは平均的従業員の360倍の収入を得ている。この格差は単なる数字ではなく、持続不可能な数学的問題を表している。ミレニアル世代は、親世代より裕福になれない初めての世代となっている。学生ローン債務が若者の投資やキャリアの妨げとなる一方、富裕層は無制限の低金利融資を受けられる。ヘッジファンドマネージャーは年間10億ドル以上を稼ぐ一方、若者は8%の金利でローンを返済している。この不平等は社会主義的政策への支持を高め、世代間の対立を生んでいる。FRBの政策がこの格差を作り出し、システムは崩壊への道を進んでいる。

第3章 少しのお金のために(For a Few Dollars More)

米国の国家債務は23.25兆ドルに達し、毎分200万ドルのペースで増加している。年間予算赤字は1.2兆ドルを超え、GDP成長率2%では到底返済できない水準となっている。さらに未払いの債務(主に社会保障と医療保険の約束)を含めると、総債務は122兆ドルに達する。世界中の主要国がゼロ金利または負の金利政策を採用し、支出を増やしているのに、債務問題が議論されていない。通貨システムは根本的に壊れており、中央銀行の金利操作が原因である。この債務危機はすでに制御不能な段階に達しており、経済成長で解決することは不可能だ。全体像を見失い、債務の山に近すぎて正しい判断ができなくなっている。

第4章 ハッスル・アンド・フロー(Hustle and Flow)

お金は最高のリターンを求めて流れる。金利が低下すると、資金は固定リターンから借り入れに流れ、金利が上昇すると逆のことが起きる。これが健全な経済におけるビジネスサイクルだ。しかし2008年の金融危機以降、FRBは量的緩和政策を導入し、金利を人為的に低く抑え続けた。この新しいお金はどこに流れたのか?銀行はサブプライム企業に融資し、大企業はこのほぼ無料の資金を使って自社株買いを行った。CEOたちは株価を上げて自身の報酬を増やした。企業のバイバックは過去10年間の株式市場リターンの50%以上を占めている。この仕組みは、銀行や企業の経営陣を潤わせる一方、経済全体の投資と成長を阻害している。2008年の住宅危機を引き起こした有毒な貸付と同じパターンが、今度は企業債務市場で繰り返されており、サブプライム企業債務市場は住宅サブプライム市場の5倍の規模に膨れ上がっている。

第5章 フリー・ウィリー(Free Willy)

無料のお金は投資家の行動を完全に変えた。かつてはバランスのとれたポートフォリオが理にかかなったが、今や「何も意味のある配当を支払わないため、すべては成長に関するものである」という考え方に変わった。債券市場は株式市場よりもさらに大きなバブルとなっている。米国債は「安全資産」と見なされてきたが、現在の利回りで投資家が豊かになるのは不可能だ。10年物国債の利回りは1.5%で、投資額が倍になるには48年かかる。一方、1980年代の平均利回り7%では投資額が倍になるのに10年しかかからなかった。市場評価の主要指標は危険信号を発している。ウォーレン・バフェットの時価総額対GDP比率は156%に達し、歴史上最も過大評価されている。シラーのCAPE PEレシオも32倍と危険水域にある。投資家はTINA(There Is No Alternative:他に選択肢がない)シンドロームに陥り、高リスク資産を保有することを強いられている。

第6章 子育て(Parenthood)

連邦準備制度とアメリカ経済の関係は、親と子供の関係に似ている。iPadに依存した3歳児が、取り上げられると激しく泣き叫ぶように、金融市場も「簡単なお金」という麻薬に中毒になっている。バーナンキ議長が2013年に量的緩和の縮小を示唆すると、市場は「テーパータントラム」を起こした。イエレン議長は市場に甘く、パウエル議長は当初厳格だったが、2018年末の株価急落後、彼も降参し、利下げを始めた。FRBのバランスシート拡大と株式市場の上昇には驚くべき相関関係がある。2008年以降、FRBのバランスシートは4.4倍に拡大し、ダウ平均も同じく4.4倍上昇した。FRBがバランスシートを19%縮小した時、株式市場も19%下落した。問題は、次の景気後退時に使える政策手段がないことだ。通常、FRBは景気後退時に金利を5%引き下げるが、現在の金利は1.5%しかない。次の景気後退時には、10〜18兆ドルの追加量的緩和が必要になるだろう。

第7章 ネバーエンディング・ストーリー(The Never-Ending Story)

世界経済は負債という悪魔との取引を結んだ。短期的な痛みを回避するために容易な道を選び、下り坂を走り続けてきたが、最後の1マイルは不可能な課題となっている。経済が成長すれば成長するほど、債務の利息支出は増加し、より急な上り坂を登らなければならない。米国財政予算責任委員会によると、2029年までに利息支出だけで9,280億ドルに達すると予測されている。ドルが他の通貨に対して強すぎるため、資本が米国債に殺到している。イールドカーブの逆転は差し迫った景気後退の兆候である。著者は「2つの木の物語」を通じて、国の成長(良い木)と債務(悪い木)の関係を説明する。米国の成長の木は過去20年で2倍になったが、債務の木は7倍に成長した。2025年までに、債務の木は成長の木を大きく上回り、窒息させることになる。歴史上のすべての偉大な国家は、債務の木が成長の木を上回った時に衰退した。

第8章 ゴールドフィンガー(Goldfinger)

金は多くの人に「終末、保険、崩壊、恐怖」と関連付けられているが、これは普遍的な誤解だ。過去20年間、ダウ平均は2.5倍になったが、金は6倍に上昇した。「世界の終わり」が来ていないにもかかわらず、金は株式市場を大きく上回っている。90年前、20ドル紙幣と1オンスの金は交換可能だった。今日、1オンスの金(1560ドル)は高級スーツを購入できるが、20ドル紙幣ではポケットチーフさえ買えない。金は真のお金の形態であり、ドルは希薄化された通貨だ。金の価値を理解する最も簡単な方法は、それをドルの将来価値に対する投票と見なすことだ。ドルの価値が上がると予想するなら金を買わないほうがよいが、ドルの価値が下がると予想するなら金は最良の所有物かもしれない。「黄金律」は「金を持つ者がルールを作る」というものだ。1944年のブレトンウッズ協定は米ドルを世界準備通貨として確立したが、1971年にニクソンは金本位制を廃止した。それ以来、ドルは「アメリカ合衆国の完全な信頼と信用」によってのみ支えられている。

第9章 プロメテウス(Prometheus)

連邦準備制度は100年以上前に、J.P.モルガンやジョン・D・ロックフェラーなど少数の富裕層の利益を守るために創設された。1910年11月、ジキル島で秘密の会合が開かれ、米国の銀行システムを再構築するための計画が立てられた。この計画は、政府の監督から独立した民間銀行家によって支配される中央機関の創設を求めるもので、1913年に連邦準備法として承認された。この法律は、連邦準備銀行が発行する通貨の40%に相当する金準備を保有することを義務付けた。J.P.モルガンは「真の唯一のお金は金である」と主張し、新しい通貨が金に裏付けられることを確実にした。モルガンの目標は、政治家や政府の手に負えない、完全に独立した中央銀行を作ることだった。FRBの独立性は、その創設者が最も重要視した要素だった。今日、FRBは金が現代の通貨制度で重要な役割を果たさないと主張しているが、世界中の主要な中央銀行は依然として金を持ち、積極的に購入している。

第10章 銀行家(The Banker)

第一次世界大戦が勃発したとき、中央銀行としてのFRBは初めての危機に直面した。アメリカは当初は中立を保っていたが、モルガン銀行は連合国側に大規模な融資を行った。1915年5月、ドイツの潜水艦による「ルシタニア号」撃沈事件で多くのアメリカ人が死亡したことで、アメリカの感情は連合国側に傾いた。ある説によれば、銀行家たちは連合国への融資を保護するためにウィルソン大統領に戦争参加を促したという。アメリカが正式に参戦した後、連合国への貸付金は米国債の購入という形で返済された。しかし、モルガンへの過剰融資はまだ4億ドル不足していた。FRB初代議長のベンジャミン・ストロングは「マンドレイク法」という解決策を提案し、債券を購入して通貨を創出した。第一次世界大戦の終結後、アメリカは世界最大の債権国となり、ヨーロッパの超大国が枯渇する中、金保有量を大幅に増やした。モルガン銀行は最大の受益者となり、FRBを支配する銀行家たちは世界史上最も強力な個人グループとなった。今日でも、FRBは同じ手法で通貨を創出している。過去10年間でバランスシートを5倍以上に拡大し、8000億ドルから4.1兆ドルに増やした。

第11章 ライオン・キング(The Lion King)

第一次世界大戦後のアメリカは、若いライオンが自分の無敵の強さと王としての地位を初めて自覚したようなもので、「我こそが我が運命の支配者なり」という意識を持っていた。ヨーロッパが荒廃する中、アメリカは繁栄し、ニューヨークは国際金融の新しい中心地となった。モルガン銀行は勝者連合国に融資したことで大きな富を得た。自動車、電気、電話など新技術の普及により、中産階級の消費が拡大した。「今買って、後で払う」が新しい信条となり、分割払いが一般的になった。企業は連邦準備制度が可能にした安い金利で借り入れ、株式を買い戻した。ウォール街への資金流入が増え、株式市場は1920年代に4倍に膨らんだ。しかし、この繁栄は全米で平等に共有されたわけではなく、富の格差は拡大した。1929年10月24日「暗黒の木曜日」、株式市場は崩壊し始めた。レバレッジの自己複製ループが流動性危機を引き起こし、売りが売りを呼んだ。1929年の市場崩壊は大恐慌の引き金となり、1933年までに国内銀行の半数近くが破綻し、1,500万人のアメリカ人が失業した。金融緩和政策の暗い側面は、富の不平等を加速させることだ。恐慌の苦しみは集団的意識の変化をもたらし、FRBは最も重要な資産である独立性を失った。

第12章 マネー・ピット(The Money Pit)

1929年の崩壊に対するFRBの対応は、現代の中央銀行家から批判されている。FRBの初代議長ベンジャミン・ストロングは1928年に死去し、リーダーシップが欠如していた。FRBは「最後の貸し手」としての機能を果たすことができず、1933年までに5,000以上の銀行が破綻した。当時のFRBは弱小銀行の淘汰は必要なことだと考えていた。危機の核心は、ドルと金の価値の乖離だった。FRBの規則では、ドルは金と同等に維持されることが義務付けられていたが、1920年代の信用拡大により、金の供給量に見合わない膨大な通貨が供給されていた。ドルの価値が下がると、より多くの預金者が現金を金に交換し始めたが、銀行は需要に応えられず、次々と倒産した。通貨の品質低下は富を市民から奪う。グレシャムの法則によれば、「悪貨は良貨を駆逐する」。純度の低い硬貨が流通すると、人々は純度の高い硬貨を退蔵し、税金の支払いには悪貨を使う。1930年代初頭、預金者はドルを金に交換し、金を退蔵した。これにより経済における通貨流通が止まり、不況が深刻化した。

第13章 素晴らしき人生(It’s a Wonderful Life)

大恐慌を背景に、1932年にフランクリン・D・ルーズベルトが圧倒的勝利を収めた。彼の「ニューディール」は財政改革、公共事業、規制を通じて大恐慌の解決を約束した。就任直後の1933年3月、ルーズベルトは全国銀行休業を宣言し、緊急銀行法を可決させた。これにより連邦準備制度は再開銀行に無制限の通貨を発行し、すべての預金に100%の保険を付けることになった。ラジオ放送を通じて国民に直接語りかける「炉辺談話」で、ルーズベルトは政策を説明し、噂を鎮静化させた。銀行が再開すると、預金者は引き出した現金の半分以上を再預金し、株式市場は一日で15%上昇した。しかし、金の退蔵問題は続いていた。1ヵ月後、大統領令6102号により、民間市民による金の所有が違法化された。これにより、連邦準備制度は自己防衛に努め、お金の供給を増やすことができるようになったが、その代償としてFRBは独立性を失うことになった。ペコラ委員会の調査結果が、ウォール街の銀行家とFRBに対する感情を悪化させた。グラス・スティーガル法案は商業銀行と投資銀行を分離し、預金銀行が証券売買を行うことを禁止した。1934年の金準備法は金の価格を20ドルから35ドルに引き上げ、世界通貨の一斉切り下げをもたらした。この法律により、米国は世界の金供給量の4分の3を保有することになった。大恐慌の影響は、FRBのイメージに大きなダメージを与え、1933年の緊急銀行法の可決によりFRBは議会に接収された。

第14章 兆候(Signs)

著者は、現在の経済状況が90年前の大恐慌前夜と酷似していると主張する。以下の5つの警告サインを指摘している:

  1. 富の格差:2020年、上位0.1%が米国の富の25%を所有し、上位1%が50%を所有している状況は、1929年と同様である。
  2. ポピュリズム:繁栄と安定は民主主義の前提条件だが、富が不平等に分配されると資本主義システムが危険にさらされる。1920年代と同様に、今日の世界でもポピュリズム運動が拡大している。
  3. 関税:ポピュリスト指導者はしばしば関税政策に頼る。フーバー大統領は1930年にスムート・ホーリー関税法に署名し、125,000以上の輸入品に関税を課した。同様に、トランプ大統領も中国やヨーロッパからの消費財に関税を課している。
  4. 資産バブル:中央銀行が金利を引き下げると、商品や有形資産の価格が金融資産のために下落する。1920年代と同様に、過去10年間の株式市場は4倍に膨らんでいる。
  5. ウォーレン・バフェット指標:市場時価総額対GDP比率は、市場が過大評価されているか判断する指標である。この比率は1929年の崩壊前に141%、ドットコムバブル崩壊前に151%に達したが、2020年1月には154%と史上最高を記録した。

これらの兆候は、サイクルの転換点が近づいていることを示している。著者は2020年代が1930年代の大恐慌と同様に感じられ、人類史上最大の富の移転をもたらすと予測している。

第15章 ブラック・スワン(Black Swan)

ブラック・スワンとは、人類の視点を根本的に変えるほど予想外で壊滅的な出来事を指す。これらの事象は予測不可能に見えるが、振り返ってみれば準備不足だった人々にのみ壊滅的だ。1929年の株式市場崩壊、2000年のドットコム崩壊、2008年の住宅崩壊はすべて、連邦準備制度の緩和通貨政策によって引き起こされた債務バブルだった。再び同じバブルが膨らみ、今度はシステム全体の再構築が必要なほどの力で膨らんでいる。著者はコロナウイルス危機が世界史上の重大な転換点となり、将来の世代が今日の大恐慌を見るのと同じように見られると信じている。

プラトンの「洞窟の寓話」は、人間の認識の限界を説明している。洞窟に縛られた囚人たちは影しか見えないが、一人が解放されて外の世界を見ると、彼の視点が永遠に変わる。同様に、一度経済システムの真実を見ると、二度と古い見方には戻れない。バブルが崩壊する前に認識して準備する人々は大きな富を築くことができる。ウォーレン・バフェットは1999年にテクノロジー株バブルを予見し、今日も同様に過大評価された市場から距離を置いている。

第16章 サークル(The Circle)

投資理論は振り子の概念に基づいている。資産は過小評価から適正価値、過大評価へと振れ、また元に戻る。しかし現代経済理論は機能しなくなり、ビジネスサイクルも壊れている。中央銀行は金利を操作して経済を活性化させようとするが、これはサイクルを歪める。

エトルリア人は90年周期の「サエクルム」という概念で歴史を理解していた。この周期では、約90年ごとに人類は同じ過ちを繰り返し、危機に陥る。これは4つの世代(約22年ごと)から成り、4番目の転換点が危機をもたらす。アメリカ史の大戦争—1776年の独立戦争、1864年の南北戦争、1945年の第二次世界大戦—はこの90年周期に沿っている。

各スーパーサイクル内には2つの重要な転換点がある。最初は周期の始まりに「ターニング」、2つ目は45年後に「覚醒」と呼ばれる。これらは社会的マインドセットを変え、旧世代と新世代の対立が危機を生む。1930年代の危機は集団的マインドセットを個人から集団へと変え、1970年代の危機は逆方向に振れた。今日、個人主義と富の格差は極限に達し、振り子が再び反対方向に向かう時だ。ミレニアル世代は社会主義的政策を支持し、次の10年間で経済政策は財政政策へとシフトする。これはスーパーサイクルの不可避的な現実であり、常に時を刻む時計のようなものだ。

第17章 感染(Contagion)

人間の条件に深く組み込まれた欠陥があり、それが人類に同じ過ちを繰り返させる。この盲点は「漸近線」という数学的曲線で説明できる。漸近線は指数関数的成長の結果であり、曲線がある点で無限大に向かって急上昇する。人間の脳は指数関数的成長を認識するのが苦手であり、これが危機の根本原因となる。

指数関数的成長の理解しにくさを示す例として、「1セントを毎日2倍にすると1ヶ月後にいくらになるか」という問題がある。多くの人は約500ドルと予想するが、実際には数百万ドルになる。別の例

別の例として、11時にグラスに1つの細菌を入れ、1分ごとに倍増して真夜中にグラスが満杯になるとしたら、グラスが半分になるのは何時か?多くの人は11時30分と答えるが、正解は11時59分、真夜中の1分前である。人間の脳は見えない脅威の指数関数的成長を認識できず、危機が顕在化する直前まで問題に気づかない。これが黒鳥現象が予想外に見える理由だ。米国の国家債務も同様の指数関数的成長を示しており、トランプはオバマの債務を倍増させ、オバマはブッシュの債務を倍増させ、ブッシュはクリントンの債務を倍増させた。国家債務は既に漸近線に達しており、将来が過去と同様であると期待する人間の思考の限界が、この破滅的な軌道を認識できない原因となっている。

第18章 ビッグ・ショート(The Big Short)

危機とはギリシャ語の「krisis」に由来し、「決断する」という意味だ。中央銀行はもう引き返せないほど遠くまで泳いでしまった。唯一の選択肢は前進し続けることだ。パウエルFRB議長は2012年に「なぜ4兆ドルで止めるのか?市場は常により多くを求める」と懸念を表明した。彼が議長になった後、金利を正常化しようとしたが、わずかな利上げで市場は崩壊しかけた。今やFRBは金利を上げることなく市場崩壊を防ぐことができない。

著者は危機に対する3つの可能なシナリオを提示する:

  1. 左回り:次の景気後退に直面して、FRBは金利を0%から負の領域に引き下げ、量的緩和プログラムを大幅に拡大するだろう。バランスシートは20兆ドルに達する可能性がある。
  2. 右回り:政府が大規模な財政刺激策を導入する。現在は極端に見える社会主義的政策が、危機時には必要な解決策となる。民主党も共和党も健全な通貨政策を支持する政治家はいない。ドイツさえも財政緊縮から離れ始めている。
  3. ブロックを飛び越える:一度に通貨の大幅な切り下げが起こる。1933年にFDRが行い、1971年にニクソンが行ったように、次の債務危機でもドルは大幅に切り下げられる可能性がある。トランプ大統領は「無料のお金」を求め、負の金利に向けて動いている。次の危機で、米国政府債務を連邦準備制度に売却し、金利をゼロ以下に引き下げることで、日本と同様に債務を消去する道を選ぶかもしれない。

大規模な通貨切り下げが迫っており、投資家はドルの下落に備えて金などの資産に投資すべきだ。

第19章 メカニック(The Mechanic)

著者は現在の世界通貨システムを、最後の段階にある古い自動車のエンジンに例える。ブレトンウッズ体制が創設された1944年、その経済エンジンは新品で最高のパフォーマンスを発揮した。1971年、ニクソンは金ウィンドウを閉鎖し、通貨をファイアット(法定)通貨に変え、経済エンジンを「スーパーチャージ」した。これにより債務がエンジンオイルのような役割を果たし、パフォーマンスを向上させた。

1987年のブラックマンデーでシステムが崩壊すると、グリーンスパンFRB議長は金利を引き下げるという「新しいオイル」を注入した。その後、経済が減速するたびに、FRB議長たちは金利を引き下げ、信用を拡大し続けた。2006年にバーナンキが議長に就任した時点で、米国の国家債務は8兆ドルに達していた。従来のオイル(金利引き下げ)では不十分となり、バーナンキは量的緩和という「新しいトランスミッション液」を導入した。

パウエルはシステムが修復されたと考え、2018年に金利を引き上げようとしたが、市場は崩壊し始めた。その後、パウエルはレポ市場操作などを含む新たな流動性注入を行った。コロナウイルス危機が起きると、FRBは過去最大の対応を実施し、ゼロ金利、2.6兆ドルの量的緩和、スワップライン、ジャンク債購入など、あらゆる手段を投入した。しかし、実体経済は打撃を受け、3,300万人が失業した。一方で株式市場は上昇し、実体経済との乖離を示した。マネーマシンは加速し続け、国家債務は25兆ドルを超え、2021年末までに30兆ドルに達する見込みだ。著者は、より多くの流動性が必要になるにつれて金価格が上昇し続けると予測している。

第20章 ホワイト・メン・キャント・ジャンプ(White Men Can’t Jump)

著者は投資家に3つの質問をする:①勝ちたいか?②いつまでに勝ちたいか?③どうやって勝っていることがわかるか?最後の質問が最も難しい。「勝つときに負け、負けるときに勝ち、引き分けるときに実際は勝ったり負けたりする」というロージー・ペレスの映画の台詞は、今後の通貨大幅切り下げを理解する上で重要だ。

名目ベースでは、株式市場は常に長期的に上昇するように見える。1929年以降、ダウ平均は69倍に上昇した。しかしインフレ調整後の実質ベースでは、わずか4.6倍、年率1.7%の上昇に過ぎない。さらに衝撃的なのは、1929年から1989年までの60年間、実質ベースのダウ平均は変わらなかった。同様に、大恐慌中(1932-1942年)にダウ平均は名目で2倍になったが、ドル切り下げにより実質では10%下落した。

1964年から1982年の高インフレ期、名目のダウ平均は18年間横ばいだったが、インフレ調整後は70%下落した。ドルの価値が下がったため、株式投資家は富の70%を失った。著者は今後10年間でドルが60%切り下げられ、ダウ平均は名目で50,000ポイントに達する可能性があると予測する。しかし実質ベースでは、10万ドルの投資が2030年には8万ドルの購買力しか持たない可能性がある。金利が長期的に上昇すると金融資産には悪いが金には良く、金利が下がると逆になる。今後45年間で通貨は大幅に切り下げられ、金利は上昇するため、長期投資家は金融資産から金にシフトすべきだ。

第21章 マトリックス(The Matrix)

集合的マインドは自然界で最も強力な力であり、投資の波を決定する。投資戦略は長年、株式と債券のポートフォリオを所有することだった。しかし、もし株式と債券が完全に間違った投資方法だとわかったら?著者は金が強気の資産であり、投資家は成長戦略として金に移行すべきだと主張する。2018年8月以降、金はダウ平均を大きく上回り、45%上昇している一方、ダウ平均は5%下落している。

投資マインドセットの変化は世代を超えて起こる。支持を集め、勢いを増し、最終的に普遍的真理として受け入れられるまでに何年もかかる。コモディティと株式の比率は歴史的に極端な水準にあり、過去の同様の状況では、金がドルの価値をリセットするのに使われた。

連邦予算局は2020年の財政赤字が4兆ドルに達すると予測し、国家債務は5年以内に50兆ドルに達する可能性がある。これはFRBのバランスシートが20兆ドルに達することを不可避にする。著者はコロナウイルスを予測したわけではなく、危機への対応を予測した。お金を刷るマシンがフル稼働し、通貨大幅切り下げが始まっている。

コロナウイルス危機で、株式市場は実体経済との乖離を示している。3,000万人が失業する中、株式は30%上昇した。FRBの魔法の杖は今や誰の目にも明らかで、無条件にFRBに従う投資家は「パブロフの犬」的反応を示している。しかし、FRBは積極的にドルを弱めようとしており、これは金保有者にとって朗報だ。弱いドルは世界経済にとって良いことだ。著者は、FRBが勝利し、ドルが切り下げられ、金が急騰すると信じている。

第22章 バック・トゥ・ザ・フューチャー・パート2(Back to the Future—Part II)

我々は歴史から学ぼうとしている。バーナンキFRB議長は大恐慌の専門家として2006年に選ばれた。彼はFRBが過去の過ちから学び、同じ過ちを繰り返さないと述べた。しかし著者は彼が間違っていると考える。

メカニズムは異なるものの、問題は同じだ。今日、我々はさらに大きな債務バブルの中にいる。ポピュリズムと富の不平等が極限に達している。中央銀行は痛みを避け、必要な苦痛を回避するために全力を尽くしている。しかし、ドルを切り下げると別の種類の不況が起きる。これは通貨の切り下げによる不況だ。連邦準備制度は「学習」し、ますます多くのお金を印刷するだろう。これが唯一の解決策だ。時間の経過とともにこれは続き、増加し、通貨は切り下げられる。「FRBと戦うな」は依然として最良の戦略だが、今やFRBはドルの切り下げを望んでおり、その望みは叶えられるだろう。

物理学のニュートンの第三法則によれば、すべての作用には等しく反対の反作用がある。中央銀行の行動は、お金の流れという反応をもたらした。数十年にわたり、この資金は株式市場と債券市場に向けられてきた。FRBの政策は、莫大なリスクを取った銀行家を継続的に救済してきた。これが紙市場の急上昇と最終的に崩壊する資産バブルをもたらした。崩壊すると、FRBは銀行を救済し、一般の人々が苦しむ。すべてが富の格差の拡大につながった。新しいマインドセットの変化が起きている。

金を購入する人にとって、これは朗報だ。流動性がシステムに注入されると、金融資産は浮上し続ける。著者は今後10年間でダウ平均が40,000ポイントに上昇すると予想している。「株式が崩壊するから金を買え」ではなく、「株式が崩壊しないから金を買え」というのが新しい集団的マインドセットを理解する鍵だ。

第23章 インクレディブル・ハルク(The Incredible Hulk)

金は「反ドル」だ。1世紀以上にわたり、連邦準備制度は紙幣を真のお金の形態として宣伝してきた。FRBによれば、金は古代の遺物であり、現在の通貨システムでは役割がない。しかしFRBの存在最初の58年間、金はドルの制約であり続けた。過去40年間、FRBは金に対するキャンペーンで勝利を収めてきた。この間、富の格差は爆発的に拡大した。

1980年、投資可能資産の8%が金または金担保証券に投資されていた。今日、その割合はわずか0.25%だ。一方、FRBのバランスシートは1300億ドルから4.1兆ドルに32倍拡大した。金に対する需要とドルに対する需要の変化は正確に相関している。公式にはFRBは金に役割がないと主張するが、世界中のすべての主要中央銀行が金を保有し、積極的に準備金を増やしている。「黄金律」は依然として関連性がある:「金を持つ者がルールを作る」。

解決策は何か?著者は革命的な提案をする:FRBが金の市場価格を操作し、1オンス10,000ドルに引き上げるのはどうか?FRBは開かれた市場操作を通じてこれを簡単に達成できる。世界中のすべての国が金価格の上昇から利益を得る。すべての中央銀行のバランスシートは同じ問題を抱えており、金は価値のある唯一の資産だ。

10,000ドルの金価格は、世界中のすべての中央銀行のバランスシートを7倍強化するが、FRBのバランスシートは238倍強化される。これにより、米ドルは今後50年間、世界の取引通貨として続けることができる。これは「新しい金本位制」ではなく、中央銀行は金の購入と売却を含む開かれた市場操作を通じて金利と通貨供給を操作できる。金価格の引き上げは1933年に大統領令によって達成され、その後株式市場は3年で3倍になった。1971年、ニクソンは同様の行動を取り、米ドルをフィアット通貨にした。今日、FRBを攻撃し、政治的抵抗に関係なく金融政策を引き継ぐ意思のある大統領がいるかもしれない—ドナルド・トランプやジョー・バイデンだ。

第24章 ボビー・フィッシャーを探して(Searching for Bobby Fisher)

著者は2019年8月14日の年次ゴールドサミットで「グレート・デバルエーション」と題したプレゼンテーションを行った。そこで彼は、来るべき通貨リセットを「マスターに対してチェスをプレイし、ミスを犯す—チェックメイトまであと数手」に例えた。このプレゼンテーションは、本書が基づいている90分のプレゼンテーションである。

コロナウイルス危機は、世界的な債務の蔓延と相まって社会的マインドセットを変化させる予測不可能なパンデミックである。予期せぬ危機ではあったが、まさに時宜を得たものだった。

はじめに 真夜中まであと1分

10年前に、私が金融作家となり、金と世界経済をテーマにした世界有数の論客になると言われたなら、私は絶対に頭がおかしいと言ったことだろう。10年前、私の人生は今とはまったく違っていた。当時、私の人生はエンターテインメントに夢中だった。大学卒業後の20年間は、ハリウッドで「俳優」から「脚本家」、「監督」、そして「プロデューサー」へとステップアップしてきた。私は根っからのストーリーテラーである。私が最も情熱を注いでいることだ。

しかし、7年前、ある物語に出会ったことがきっかけで、私はエンターテインメント・ビジネスから完全に離れることになったのである。この物語は、知れば知るほど、誰も知らない、誰も語らない、そして誰もが聴くべき物語であることに気づかされた。そして、この物語を世界中の多くの人に伝えることが、私の人生の使命だと思うようになった。正直なところ、当初は自分がこの話を伝えるのにふさわしい人物かどうか自信がなかったが、それ以来、自分が得た啓発を、それを必要としている世界中の多くの人々と共有することが私の義務であると考えるようになった。私は本やニュースレターを書き、受賞歴のあるビデオを制作し、複数のドキュメンタリーやウェビナーを指揮し、さらにはアニメーションや童話も制作してきた。私は世界中で講演を行い、私のプレゼンテーションは何万人もの人々に購読されている。

では、私がこれまで語ってきたこの物語は何なのだろうか。それは、私の最初の著書『Gold Is A Better Way and Other Secrets Wall Street Doesn’t Want You to Know』のタイトルでもあるのだが、最もシンプルな形で語られている。この本の目的は、人々の投資に対する見方を変えることであった。ウォール街のモデルがいかに壊れているか、そしてなぜ金が世界で最も誤解されている資産であるかを説明している。この本は全米でベストセラーになった。

『Gold Is A Better Way』が反響を呼んだのには、いくつかの大きな理由があると思う。第一に、私が市場について退屈に書いているインサイダーではなく、新鮮な視点で見て、語っているという点である。もうひとつは、私が正しかったということだ。2018年8月14日に「Gold Is A Better Way」を出版した。そのときから、金の価格は1192ドルから今日の1498ドルまで、25%上昇した。同じスパンのダウ・ジョーンズは25%下落している。このスプレッドはまだ始まったばかりで、今後10年で大きく広がるだろう。私は、今後10年間で、金は株式を8倍上回るパフォーマンスを示すと予測している。だから、私は手持ちの投資資金をすべて金の現物につぎ込んでいるのである。

なぜ、そう言い切れるのか?私は、人類は90年前と同じ過ちを犯そうとしていると考えている。マーク・トウェインの有名な言葉に、「歴史は繰り返さないかもしれないが、韻を踏むことは確かだ」というものがある。1930年代に起こった世界恐慌は、1920年代の絶頂期にあった人々には理解不能な出来事であったろう。しかし、この時の出来事は、次に起こることの素晴らしいロードマップになっている。まず株式市場が崩壊し、次に景気後退、そして世界恐慌が起こり、そのすべてが通貨リセットで終わるという順番だ。本書は、それがどのように起こるのか、そしてなぜ人類が今後も同じ過ちを犯し続けるのかについて書かれている。「大安売り」は、まさにこのような理由から、人々に注意を喚起し、リスクを予見するためにタイトルとして選ばれた。

本書は、投資、金、世界経済に関する他の本とは一線を画していることを、はじめから知っておいていただきたい。意図的にそのようにデザインされている。私はストーリーテラーだ。それが私のユニークな才能だ。私の目標は、この物語を理解できるように、そして説得力のある方法で伝えることだ。そうすることで、あなたは最大限の恩恵を受け、あなたの富を向上させるための行動を取ることができるのである。私は、この種の本によく見られるような複雑な言葉を使わないように心がけたいと思う。むしろ、絵やイメージ、童話、わかりやすい例え話などを使って、ストーリーをシンプルにするよう努める。そして、この世界を見る新しいレンズを提供することで、ようやく物事を明確に見ることができるようになるのである。

この物語はあなたを驚かせると思うし、一度聞けば今まで聞いたことがないことにさらに驚かれることだろう。ヒーローと悪役、そして危険とリスクが登場する。権力、それを支配する者、そしてそれを維持するために行われている途方もない努力の物語である。すべての偉大な物語がそうであるように、この物語にも始まりと終わりと中盤がある。誰もがこの物語の影響を受けるが、この物語が起こっていることに気づいている人はほとんどいない。だからこそ、私はこの物語を語らなければならないのである。

世界経済、ドル、連邦準備制度、そして宿敵である金の物語である。

世界経済、ドル、連邦準備制度、そして宿敵である金の物語である。この物語は最初から、混乱するようにできている。連邦準備制度は、権力者たちによって作られた。権力者たちは、普通の人には理解できないような新しい言葉や考えを生み出した。普通の人には理解できない新しい言葉や考え方を生み出した。実際、用語が分かりにくいほど、質問は少なくなった。時間が経つにつれて、話が進むにつれ用語はますます混乱し、規則は常に変化し、市民はかつてないほど混乱するようになった。

なぜ、複雑さが重要なのか?それは、利害関係があまりにも大きく、現実があまりにも明白だったからである。連邦準備制度は、当初は少数の裕福な銀行家と業界の巨頭を富ませるために作られた機関である。ロックフェラー家、ヴァンダービルト家、カーネギー家、モルガン家などがそうであった。この制度は、ロックフェラー、ヴァンダービルト、カーネギー、モルガンといった一部の富裕層が潤うように作られたもので、その動機は永遠に秘密にしておかなければならない。ロックフェラー、ヴァンダービルト、カーネギー、モルガンなどである。そのため、モルガン家の人たちは、自分たちが人民の利益になっていると言いながら、歴史上の君主たちを凌ぐほどの富と権力を手に入れることができた。

どのような仕組みだったのだろうか。連邦準備制度の設立によって、中央銀行が市民の貨幣を合法的に差し押さえることができるようになった。中央銀行が、市民の貨幣を合法的に押収することを可能にした。その設計によって、貨幣供給量の拡大と大衆から少数者への金貨の流出が可能になった。

これらの人々は、少なくともしばらくの間は、それをやり過ごすことができた。貪欲と腐敗が度を超し、債務危機を引き起こし、世界恐慌と呼ばれる世界的な経済崩壊に至るまでは、である。そのときまで、この制度は解散するにはあまりにも強力だった。通貨制度にあまりにも不可欠だったのだ。破綻した後、消滅するどころか、政府と政治家に乗っ取られてしまった。過去90年間、連邦準備制度は、銀行家と政治家の間で、支配権を行ったり来たりしてきた。政治家が支配することで、途方もない返済不能の債務が拡大し、 銀行家の支配は、投資家階級を豊かにする大規模な金融資産バブルを可能にした。長い間、銀行家と政府は共謀してきた。今日、我々は資産バブルと返済不能の負債の両方を抱えている。

この制度がまだ生きている間は、どちらの側もこの制度の本質を決して認めないだろう。量的緩和、連邦資金金利、実質金利、オーバーナイトレポオペ、スワップライン、外貨交換、インフレ、デフレ、そして今やマイナス金利、イールドカーブコントロールと、ドルを巡るストーリーが展開するにつれ、そのルールを定義する言葉はさらに複雑になっている。用語や考え方があまりに混乱するので、ほとんどの人は理解しようともしない。理解しようとする人は、難解さから利益を得続けているインサイダーである。

権力は腐敗し、絶対的な権力は絶対的に腐敗すると言われている。米ドルを支配することによって振るわれる権力は、どちらの側にとっても維持するには大きすぎるものだった。そのたびに彼らは権力を乱用し、そのたびに大規模な債務危機を引き起こしてきた。そのたびに、危機は相手側からの権力の奪取を許す。再びその危機の段階に来ている。ただ今回は、連邦準備制度は続行しないだろう。大規模な切り下げがその終わりとなる。

1930年代の大恐慌は、格差が二極化した20年代の後に起こった。大恐慌の原因となった債務危機は、多くの点で今日の我々が目撃しているものと同じに見える。我々は90年前にいたところから一回りしたのだと思う。この映画は以前にも見たことがある。私は今、この類似点を皆さんと共有し、リスクを認識し、準備のための最良の方法を評価することが目的である。

先日、私はカナダに飛び、バンクーバー資源投資会議に招かれ、20分間のプレゼンテーションを行った。この年次イベントは2020年1月20日に開催され、1万人以上の人々が参加した。貴金属、鉱業、世界経済に関する最新情報を学ぼうと、世界中から参加者が集まっていた。

その週末に私が行った講演は、通貨システムの脆弱性と、世界経済が前例のない債務危機の真っ只中にあり、最も予測不可能な触媒によってノックアウトされる可能性があるというものであった。私は、このような出来事はおよそ90年ごとに起こり、その時、人類は前途の全体像を変えてしまうほど大きな出来事に耐えている、と主張した。今、世界はそのような出来事に遭遇しようとしており、世界経済の低迷により、その出来事は通貨システム全体のリセットにつながると主張した。タイトルは「The Black Swan」。

世界の債務が指数関数的に増加していることが、目に見えない死のウイルスに似ていることを強調するために行ったプレゼンテーションである。私は、グラスの中でウイルスが増殖していく様子を映したビデオを用意した。夜11時に、グラスの中に1つの致命的な細菌を入れて実験を始め、それが1分ごとに2倍になり、真夜中にはグラスが完全に満杯になるとしたら、グラスが半分になるのは何時だろうか、というのが私の聴衆に投げかけた質問である。

この実験のポイントは、人類がなぜ同じ過ちを何度も繰り返し続けるのかを浮き彫りにすることであった。その理由は、指数関数的な成長が起こっていることを認識するのが苦手だからである。このコンセプトを証明するために、ほとんどの人は午後11時30分にグラスが半分になっていると推測する。正解は、グラスが半分になるのは、午前0時1分になってからである。もちろん、その時点で止めるには遅すぎるのですが。

私は、このデモは、過去20年間に指数関数的に増加した米国の国家債務の問題を表現するのに適していると考えた。トランプは、オバマの借金を倍増させ、ブッシュの借金を倍増させ、クリントンの借金を倍増させる勢い。借金の指数関数的な増大は、漸近線を引き起こした。そのとき、曲線は90度の角度で無限大に向かってまっすぐに伸びていくのである。私の結論は、国の借金は制御不能の致命的なウイルスと化し、すでに抑えきれないほど急速に増大している、というものであった。この時、私は、COVID-19と呼ばれる実際の致命的なウイルスが、世界中に指数関数的に広がっていることを知らなかった。私が講演している間、人類は致命的なコロナウイルス、つまり現実のブラックスワンを過小評価している最中だったのである。

考えてみれば信じられないことだが、コロナウイルスの大流行による経済津波は、「Great Devaluation」が予測するようなクラッシュではない。むしろ、世界経済のダッシュボードに「チェックエンジン」のランプが点灯したようなものだと思えばいいのだ。本書のメッセージの重要性を確認するために、これほどタイムリーな(あるいは恐ろしい)警告はないだろう。今、誰もがよく知っているように、わが国の経済は「史上最高」でもなければ、「強い」わけでもない。制御不能の負債と財政のトリックで構築されたトランプの家なのだ。もちろん、コビド19のウイルスは予測不可能であった。私は危機を予測したのではない。予測したのはその対応である。

このプレゼンテーションで私は、経済的ショックは避けられないものであり、どこからともなくやってくるものであることを強調した。ブラックスワンの結論は、次の経済ショックは深刻な不況を引き起こし、FRBはバランスシートを20兆ドル拡大せざるを得なくなり、我が国の国家債務はまもなく50兆ドルに達するというものであった。このすべてが2027年までに起こると予測したのである。このプレゼンテーションは、その後、インターネット上で拡散された。

これまでのところ、この危機に対する政府の対応、つまり金利をゼロ%に引き下げ、即座に6兆ドルの救済を行ったことは、この予測が正確であったことをさらに証明するものである。この先も何兆ドルもの景気刺激策があることは間違いないだろう。彼らにとってはそれしか考えられないのだ。世界の経済エンジンがあと数マイルは持つようになるかもしれないが、ご存知のように、エンジンのチェックランプを無視できるのは、エンジンが完全に停止するまでの間だけである。

かつて人生には、死と税という2つの保証があった。しかし、このリストに3つ目の保証を加えることができると私は信じている。政府債務は世界的に爆発的に増加し続けるだろう。これからの唯一の解決策は、お金をもっと刷ることだ。だからこそ、私はこの物語を続けなければならないのだ。The Great Devaluation は、Gold Is A Better Way が終わったところから話を始める。しかし、この物語は、単に投資家に金の購入を勧めるよりもはるかに大きなものである。この「The Great Devaluation」のストーリーは、今日の二極化した世界の状況、なぜ我々は皆こんなに怒っているのか、その怒りを引き起こしたのは誰か、そして世界が直面する避けられない次のステップについてのストーリーなのである。

私の中の元映画プロデューサーは、この物語を最もインパクトのある効率的な方法でまとめたいと考えている。エンターテインメントビジネスでは、この説明をログラインと呼び、映画やテレビ番組、あるいはこの場合は本がどんな内容かを簡潔にまとめ(1~2文)、読者を引きつけ、物語の中心的な対立を記述する。例えば、サンドラ・ブロックとキアヌ・リーヴス主演の映画『スピード』のピッチは、”Die Hard on a bus “であった。この公式に従って、あなたがこれから読む『The Great Devaluation』のストーリーは、”映画『グラウンドホッグ・デイ』と世界恐慌の出会い “だと言えるだろう。

1930年代の世界恐慌は、10年以上続き、世界がかつて経験したことのないほど大規模な富の移動が行われた。2020年代に起こる世界大恐慌は、さらに痛みを伴い、さらに大きな富の移動を目撃することになるだろう。本書は、その類似点を明らかにし、なぜ通貨の大幅な切り下げが避けられないのかを説明し、世界大戦を再び起こさずに必要なリストラを可能にする解決策を提示するものである。

私はアウトサイダーでありながらインサイダーになった。この7年間、私はインサイダーの言語を学ぶことに専念し、皆さんのためにすべてを解釈できるようになった。この本がハーバード・ビジネス・スクールで教えられることはないだろうが、そうあるべきだろう。良い知らせは、今後 10 年間に莫大な富を得るために、アイビーリーグ校の学位は必要ない、ということだ。ただ、歴史を思い出せばいいのだ。

ジョージ・サンタナヤの有名な言葉に、「過去を思い出せない者は、それを繰り返す運命にある」というのがある。未来を予測したい人は、過去を理解し、記憶していればいいのだ。したがって、「大いなる切り下げ」は、投資家に過去の過ちを思い出させようとするものであり、警鐘を鳴らすためではなく、むしろ、将来やってくるもの、避けられない世界通貨のリセットに備え、多大な利点を提供するものである。その時は来たのだ。我々は今、真夜中まであと1分しかない。

筆者注

今日は2020年5月10日、母の日である。大安売り』の最終稿は、11週間前の2020年2月14日に提出された。コロナウイルスが提示した経済ショックの大きさとスピードから、出版社の許可を得て、第1章を新たに追加し、第1部と第2部の章に “28取引日後(More or Less)”という補遺を加えた。これらの補遺は、最新のデータポイントを強調し、読者が各章の中でなされた論理と予測を吟味する貴重な機会を提供するものである。

大安売りはリアルタイムで展開される予言である。コビド19型コロナウイルスの影響はまだ始まったばかりで、現時点では未知数だが、究極のブラックスワンとして、我々の未来のすべてを変えていくことになると信じている。私は作家として、変化のスピードに挑戦している。フォワード・シンカーとして、私は予測の早期の正確さに圧倒される。この稀有な組み合わせにより、読者は未来への明確な窓を得ることができ、評価に深い洞察を加えることができるはずである。

 

 

『The Great Devaluation』についての分析と考察 by Claude 3

アダム・バラッタの『The Great Devaluation』は、現代の金融システムが破綻の瀕にあり、大規模な通貨切り下げと金融リセットが必然であるという挑戦的な主張を展開している。エンターテイメント業界から金融アナリストへと転身した異色の経歴を持つ著者が、90年周期の歴史的パターンを基に2020年代の経済的激変を予測する本書は、従来の経済学の枠組みに根本的な疑問を投げかけている。

バラッタの中心的主張は複数の層から成り立っている。第一に、中央銀行主導の通貨政策が歴史的な債務バブルを生み出し、その破裂は不可避であるという診断。第二に、金融資産の名目上の成長が実質的な富の増加を意味せず、インフレ調整後の実質リターンは想像以上に低いという指摘。第三に、約90年周期の「スーパーサイクル」理論に基づく大規模な社会経済的転換の予測。第四に、金を中心とした通貨システムへの回帰という解決策の提案である。これらの主張の妥当性を徹底的に検討していこう。

まず、債務バブルの分析について。著者は米国の国家債務が指数関数的に増加していると指摘する。実際、財務省のデータによれば、米国の国家債務は1980年の9,000億ドルから2020年には27兆ドル以上に膨れ上がり、GDP比で見ても著しい上昇を示している。特に重要なのは、トランプ政権下でこの増加が加速したことであり、2020年のCOVID-19危機への対応でさらに急激に増加した。

この債務増加のパターンを「漸近線」の数学的概念を用いて説明する著者の分析は独創的である。人間の認知バイアスにより、指数関数的成長の最終段階まで危機を認識できないという心理学的洞察も説得力がある。しかし、この分析には重要な問いが残る。世界最大の経済大国であり世界の基軸通貨発行国である米国は、他の国々とは異なる「特権」を持っているのではないか。MMT(現代貨幣理論)の支持者が主張するように、自国通貨建ての債務を持つ主権国家は技術的には破綻しないという反論も検討する必要がある。

次に、著者のFRB分析について掘り下げたい。バラッタはFRBの創設が一握りの銀行家エリートによる秘密計画であったと主張する。1910年のジキル島会合に関する記述は歴史的に確認されている事実だが、その解釈については様々な見方がある。エドワード・グリフィンの『ジキル島の怪物』など、FRBに批判的な文献を引用しながらも、著者は単純な陰謀論に陥ることなく制度的分析を展開している点は評価できる。

しかし、FRBの政策決定過程の複雑性や、グローバル金融システムにおける各国中央銀行間の相互依存関係についての分析が不足している。バーナンキ、イエレン、パウエルといった歴代FRB議長の個人的な政策選好や、FOMCにおける集団的意思決定プロセスが十分に考慮されていない。また、議会による監視やFRBの法的枠組みについての制度的分析も限定的である。

著者の「スーパーサイクル」理論は、歴史的パターンの観察に基づいた興味深い仮説である。エトルスカ人の「サエクルム」概念から発展させた約90年周期の理論は、アメリカ史の主要な転換点(独立戦争、南北戦争、第二次世界大戦)とおおよそ一致する。しかし、この周期性は選択的な事例選択によるものではないか、という疑問も生じる。例えば、第一次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争などの重大な紛争はこの周期に当てはまらない。

また、20世紀後半から21世紀にかけての技術革新、グローバル化、情報革命などの構造的変化が、歴史的パターンの継続性にどのような影響を与えるかという点についての考察が不足している。過去のパターンが将来も継続するという前提には、「今回は違う」可能性についての検討も必要だろう。

著者の最も独創的な洞察の一つは、名目上の資産価値と実質的な購買力の乖離に関する分析である。1929年から1989年までの60年間、実質ベースのダウ平均が本質的に変化していなかったという指摘は、長期投資に対する従来の常識に挑戦するものだ。この分析は実際のデータに基づいており、多くの投資家が見逃している重要な視点を提供している。

しかし、この分析にはいくつかの方法論的な問題がある。まず、株式のトータルリターンには配当が含まれるが、著者の分析では株価のみに焦点が当てられている。歴史的に見て、株式投資のリターンの相当部分は配当から得られており、これを無視することは結果を歪める可能性がある。また、特定の期間(1929-1989年など)を選択することで、結論を操作している可能性も考慮すべきだ。

さらに、株式市場全体のパフォーマンスと個別企業や特定セクターのパフォーマンスを区別する必要がある。テクノロジー企業や医薬品企業など、イノベーションを通じて実質的な価値創造を達成している企業も存在する。こうした点について、著者の分析はやや単純化されている。

金への投資を推奨する著者の主張については、歴史的データに基づいた詳細な検証が必要だ。確かに金はインフレヘッジとして機能する可能性があり、1971年から1980年にかけて金価格は16倍、2000年から2011年にかけては約8倍に上昇した。しかし、金価格が常に上昇し続けるという保証はなく、長期的には実質リターンが低い期間も存在する。1980年から2000年にかけて金価格は実質ベースで大幅に下落した事実も考慮すべきだ。

著者が提案する金価格の意図的な引き上げ(1オンス10,000ドル程度へ)という解決策は、大胆かつ創造的である。この提案が実現した場合、中央銀行のバランスシートが強化され、新たな通貨システムの基盤となる可能性はある。しかし、この提案には重大な実践的・政治的障害が存在する。

まず、金価格を人為的に引き上げることは、既存の金保有者(主に中央銀行や富裕層)に巨大な富の移転をもたらす。これは平等主義的価値観と衝突する可能性がある。また、金価格の急激な上昇は、国際的な通貨混乱や資本規制の導入を引き起こす可能性もある。さらに、新興国や債権国(特に中国)がこのような一方的な通貨システムの変更に抵抗することも予想される。

現代の金融システムは、1930年代や1970年代と比べてはるかに複雑化・グローバル化している。デリバティブ市場の規模は推定1,000兆ドルに達し、国際的な資本移動は規制緩和によって加速している。こうした状況下での通貨リセットは、著者が想定している以上の混乱をもたらす可能性がある。

世代間対立に関する著者の分析は社会学的に興味深い視点を提供している。ベビーブーマー世代(1946-1961年生まれ)とミレニアル世代(1982-2004年生まれ)の対立が経済政策に影響を与えるという主張は、現代の政治動向を考える上で有用な枠組みだ。実際、若年層における社会主義的政策への支持増加は、統計的に確認されている現象である。

しかし、この分析はやや単純化されている面もある。世代内の経済的格差(例えば富裕なミレニアル世代と貧困なベビーブーマー世代の存在)や、人種・教育・地域といった他の社会的分断線についての考察が限定的だ。また、世代間の富の移転(遺産相続など)が世代間対立にどのような影響を与えるかという点も検討する必要がある。

COVID-19危機への政策対応に関する著者の予測は、驚くべき精度で的中した。FRBのバランスシートの急激な拡大や、大規模な財政刺激策の導入は、著者が予測した通りの方向性を示している。しかし、その後の展開(特にインフレの急上昇とFRBの金利引き上げ)については本書の執筆時点では予見されていなかった。現在のFRBによる積極的な金利引き上げは、著者の「FRBは金利を上げられない」という主張と矛盾するように見える。

しかし、より深く考察すると、現在の金利引き上げが持続可能かどうかという疑問が生じる。債務負担の増加やリセッション懸念により、FRBは最終的に政策転換を余儀なくされる可能性もある。2023年3月のシリコンバレー銀行の破綻など、金融システムの脆弱性を示す事象も発生している。このような状況は、著者の長期的な予測を完全に否定するものではないかもしれない。

技術的・イノベーション的側面についての著者の分析は限定的である。デジタル通貨(CBDCを含む)の台頭や、ブロックチェーン技術の発展が将来の通貨システムに与える影響についての考察が不足している。また、人工知能やロボティクスなどの技術革新が労働市場や所得分配に与える影響についても十分な分析がない。

地政学的な視点も拡充の余地がある。米中対立の深化や、ロシアのウクライナ侵攻に見られる地政学的分断が国際通貨システムに与える影響についての分析が限られている。「脱ドル化」の動きや、BRICSなどの新興国ブロックによる代替的決済システムの模索などについても考察が必要だろう。

実践的な投資戦略という観点からは、著者の「金への投資」という勧めについて、より具体的な検討が求められる。現物金、金ETF、金鉱株、ロイヤルティ会社など、金への投資手段は多様である。それぞれのリスク・リターン特性や、ポートフォリオ全体における最適な配分についての分析があれば、読者にとってより実用的な価値があったであろう。

また、著者の予測するシナリオに備えるための金以外の投資戦略(例えば、インフレ連動債、不動産、必需品セクター、分散型デジタル資産など)についての考察もあれば、より包括的な投資指針となっただろう。

歴史的分析においては、著者は1930年代の大恐慌と現代の状況の類似点を強調しているが、重要な相違点についての検討が不足している。現代のセーフティネット(失業保険、預金保険など)の存在、中央銀行の政策手段の拡充、金融規制の強化などは、1930年代とは異なる要素である。

また、大恐慌からの回復において第二次世界大戦が果たした役割についても、より深い分析が必要だ。戦時経済への移行と戦後の経済成長が、今日の状況にどのような示唆を与えるかという点は重要な検討課題である。

最後に、著者の道徳的・倫理的立場についても考察したい。バラッタは富の極端な集中や、中央銀行政策による富の不平等な分配に対して批判的な立場を取っている。この道徳的感覚は多くの読者に共感を呼ぶものだが、同時に著者自身が推奨する金投資が、結果的に既存の金保有者(富裕層や中央銀行)を利することになるという矛盾も存在する。

総合的に評価すると、『The Great Devaluation』は主流の経済理論に挑戦する大胆かつ刺激的な著作である。著者の予測の精度については時間が証明するものだが、債務問題、富の格差、通貨システムの脆弱性という基本的な問題提起は、現代経済を理解する上で極めて重要な視点を提供している。

金融システムの歴史と現状に関する著者の分析は、一般的な経済書では扱われない深い洞察を含んでおり、特に「木の高さではなく、根の深さに注目せよ」という著者の比喩は、多くの投資家が見落としている本質的な視点を捉えている。一方で、著者の提案する解決策には実践的・政治的障害が存在し、技術革新や地政学的変化の影響についての分析には拡充の余地がある。

しかし、著者がエンターテイメント業界出身という異色の経歴を持ちながら、複雑な経済概念を一般読者に理解しやすく伝える手法は非常に効果的である。映画のタイトルを章のタイトルとして用いるなど、物語性を重視した構成は、難解な経済理論を身近なものとしている。

COVID-19危機とその後の政策対応は、著者の多くの予測を裏付けるものとなった。しかし、その後のインフレ高進とFRBの積極的な金利引き上げは、著者の予測と部分的に矛盾するようにも見える。この点については、今後の展開を注視しながら著者の理論の妥当性を評価していく必要があるだろう。

バラッタの『The Great Devaluation』は、経済学の専門家ではなく「外部からの視点」で書かれた書籍であり、それゆえに従来の経済学の枠組みを超えた大胆な分析が可能になっている。専門知識の不足による限界はあるものの、その自由な発想と歴史的パターンへの鋭い洞察は、現代の複雑な経済状況を理解する上で貴重な視点を提供している。

最終的に、この著作は読者に「木の高さ」(名目上の数値)ではなく「根の深さ」(実質的な価値)に注目するよう促している。この視点の転換こそが、著者が最も伝えたかったメッセージであり、将来の経済的激変に備えるための重要な指針となるだろう。バラッタは、2020年代が歴史的な転換点となり、通貨システムの根本的な再評価が行われると予測している。この予測が正しいかどうかは時間が証明するものだが、彼の問題提起は現代経済の構造的脆弱性を理解する上で不可欠な視点を提供している。

 

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