
『THE COINTELPRO PAPERS:Documents from the FBI’s Secret Wars Against Dissent in the United States』
Ward Churchill, Jim Vander Wall2002
目次
- 序文/ Preface
- 序論/ Introduction
- 第1章FBI文書の削除を理解する / Understanding Deletions in FBI Documents
- 第2章COINTELPRO – CP, USA(米国共産党)
- 第3章COINTELPRO – SWP(社会主義労働者党)
- 第4章COINTELPRO – プエルトリコ独立運動
- 第5章COINTELPRO – ブラック・リベレーション運動
- 第6章COINTELPRO – ニューレフト
- 第7章COINTELPRO – AIM(アメリカン・インディアン運動)
- 結論COINTELPROは今もなお生きている / COINTELPRO Lives On
本書の概要
短い解説:
本書は、FBIが1950年代から1970年代にかけて実施した公式な対内諜報活動(COINTELPRO)の文書を写真複製で多数収録し、米国政府が公民権運動・反戦運動・黒人解放運動・プエルトリコ独立運動・先住民運動などの政治的活動をいかにして「無力化」しようとしたかを実証する。著者らは「COINTELPROは名前を変えて現在も継続している」と論じる。
著者について:
ウォード・チャーチル(クリーク/チェロキー・メティス)はコロラド大学ボルダー校でアメリカン・インディアン研究を担当。アメリカン・インディアン運動のコロラド支部共同ディレクターでもある。ジム・ヴァンダー・ウォールは先住民の主権運動を長年支援し、FBIの対内諜報活動に関する著作を多数発表。両者は『Agents of Repression』(1988年)の共著者でもある。
テーマ解説:
- 「法の支配」の仮面:FBIは「法執行機関」という公式の役割の背後で、憲法で保護された政治的活動を違法に破壊してきた。
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継続性のテーゼ:COINTELPROという名称は1971年に廃止されたが、手法と目的は「テロ対策」などと名称を変えて現在も継続している。
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文書証拠の力:FBI自身が作成した内部文書を提示することで、政府の公式説明と現実の乖離を「FBI自身に語らせる」手法を採る。
キーワード解説:
- COINTELPRO(Counterintelligence Program):FBIが1956年から1971年まで実施した対内諜報活動の公式名称。対象組織の「混乱・信用失墜・無力化」を目的とした。
- ブラック・パンサー党:1960年代後半に活動した黒人解放組織。FBIは「最大の脅威」と位置づけ、殺害・逮捕・偽装文書などで組織の破壊を図った。
- エージェント・プロヴォカトゥール:組織に潜入し、違法行為を扇動・誘導して標的を逮捕・抹殺するための工作員。FBIが広く用いた手法。
- ブラック・バッグ・ジョブ:FBIの用語で、許可なく事務所や住宅に侵入し文書を盗撮・押収する違法捜査手法。
- アナニマス・レター:FBIが標的組織内の対立を煽るため、偽の差出人名で送付した匿名書簡。本書では多数の実物が収録されている。
- キー・アクティビスト:FBIが「無力化」すべき最重要人物として指定した活動家。マーティン・ルーサー・キングJr.も対象となった。
要点要約
本書は、FBIが公式にCOINTELPRO(対内諜報活動プログラム)と称した1956年から1971年までの活動を中心に、それ以前・以後を含む約70年間にわたる米国政府の政治的抑圧の実態を、FBI内部文書の写真複製と著者による分析を通じて明らかにする。
著者らは冒頭で、FBIは「犯罪捜査機関」としての表向きの姿とは裏腹に、設立当初から政治的異議申し立てを封殺するための「秘密警察」として機能してきたと論じる。1919年のマーカス・ガーベイに対するフレーム工作や、1950年代のアルジャー・ヒス事件における証拠改ざんなど、COINTELPROという名称が使われる以前から同様の手法が用いられていたことが文書によって示される。
本書の中核をなすのは、FBIが各地の「過激派」組織に対して実施した具体的な破壊工作の記録である。共産党(CP,USA)に対してはマフィアとの対立を煽る「フードウィンク作戦」が展開され、社会主義労働者党(SWP)に対しては選挙妨害や偽装文書による中傷が行われた。プエルトリコ独立運動に対しては、組織内の派閥対立を煽り、指導者フアン・マリ・ブラスを心臓発作に追い込んだことがFBI自身の文書で自慢されている。
特に大規模だったのが黒人解放運動への攻撃である。マーティン・ルーサー・キングJr.に対しては自殺を促す匿名書簡が送られ、ブラック・パンサー党に対しては組織間の抗争を煽り、複数の殺害事件を誘発した。フレッド・ハンプトンとマーク・クラークの殺害事件では、FBIの潜入工作員が寝室の見取り図を提供し、実行を支援したことが文書で証明されている。さらに、ジェロニモ・プラットの冤罪事件では、FBIが証拠を隠蔽し、虚偽の証言を利用して27年間の収監を実現した。
ニューレフト(新左翼)運動に対しては、SDS(民主社会学生連盟)の内部対立を煽り、抗議運動を妨害するための偽装文書や風刺漫画が大量に作成・配布された。また、大学教授の解雇工作や、地下新聞の妨害など、教育・メディア分野への浸透も図られた。
アメリカン・インディアン運動(AIM)に対しては、COINTELPROの正式終了後も同様の手法が継続され、ウーンデッド・ニーの包囲戦やパインリッジ保留地での「恐怖の支配」を通じて、組織の壊滅が図られた。レナード・ペルティアの事件では、FBIが統合失調症の女性から虚偽の宣誓供述書を引き出し、カナダからの不当な引き渡しを実現した。
結論部で著者らは、COINTELPROという名称は1971年に廃止されたが、その手法と目的は「テロ対策」や「薬物戦争」という名目で現在も継続されており、米国社会は「親切なファシズム」へと向かいつつあると警告する。同時に、市民による監視・抵抗の可能性も示唆する。
各章の要約
序文(Preface)
ブライアン・グリックは、本書が収録するFBI文書が「米国の民主主義の再評価」を促すと述べる。1971年のメディア支部への市民グループによる侵入以降、FOIA(情報自由法)を通じて多数の文書が公開されたが、FBIはCOINTELPROという名称を捨てただけで、手法自体は「テロ対策」などの名目で継続していると指摘する。
序論(Introduction)
著者らは、アサン・セオハリスによる『Agents of Repression』への批判的書評を事例に、FBI擁護派の論法を解剖する。彼らは「FBIのAIM(アメリカン・インディアン運動)関連文書は公開されていない」と虚偽の主張を行い、司法的手続きと破壊工作を区別しようとするが、実際には両者は連続していると論じる。序論の最後で、本書の目的が「COINTELPROは今も生きている」ことを実証することにあると明言する。
第1章 FBI文書の削除を理解する
FOIAで公開されたFBI文書の大半が「国家安全保障」「捜査手法の秘匿」「情報提供者の保護」などを理由に大量に削除されている実態を解説する。著者らは、実際にはこれらの削除の多くが政治的都合によるものであり、同じ文書の異なるバージョンを比較することで完全なテキストを復元できる場合もあると指摘する。
第2章 COINTELPRO – CP, USA(米国共産党)
1956年8月28日のフーヴァー指令で正式に開始された最初のCOINTELPROを扱う。共産党員の「精神的混乱と不満の増大」を目的とし、偽装文書・内部対立の煽動・IRS(内国歳入庁)への情報提供などが行われた。特に「フードウィンク作戦」ではマフィアを利用して共産党指導者の殺害を謀る計画が承認されている。1970年までに共産党員数は2,800人にまで減少し、事実上「無力化」された。
第3章 COINTELPRO – SWP(社会主義労働者党)
1961年に開始された社会主義労働者党(SWP)への破壊工作を扱う。選挙妨害、大学教授の解雇工作(モリス・スタースキー事件)、他組織との連携阻止などが行われた。特に注目すべきは、FBIがSWP事務所に93回以上の不法侵入を行い、約1万ページの内部文書を盗撮・押収した事実である。1986年の連邦裁判所判決はFBIの違法性を認め、SWPに損害賠償を命じた。
第4章 COINTELPRO – プエルトリコ独立運動
1960年に開始されたプエルトリコ独立運動への破壊工作を扱う。FBIは現地メディアへの偽装記事掲載、指導者フアン・マリ・ブラスに対する性的中傷と心臓発作の誘発、学生組織FEPIへの工作などを行った。1967年の国連住民投票では、FBIが偽装組織を作って独立派の立場を歪曲し、米国の植民地支配を維持することに成功した。1978年のセロ・マラビージャ事件では、FBIの工作員が若い独立活動家を警察の待ち伏せに誘導し、殺害させた。
第5章 COINTELPRO – ブラック・リベレーション運動
本書の中核をなす章。1919年のマーカス・ガーベイへのフレーム工作に始まり、1967年8月25日の公式COINTELPRO発動以降の黒人解放運動への組織的破壊工作を詳細に扱う。
主要な標的と手法:
- マーティン・ルーサー・キングJr.:自殺を促す匿名書簡(1964年11月)、性的放蕩の偽装テープ、ノーベル賞受賞後の信用失墜工作
- マルコムX:FBIが組織内対立を煽り、暗殺に間接的に関与
- ブラック・パンサー党:組織間抗争(US組織との対立)の煽動、潜入工作員による寝室見取り図の提供(フレッド・ハンプトン殺害)、偽装文書による指導者間の対立促進
- ジェロニモ・プラット:虚偽の証言と証拠隠蔽による27年間の冤罪収監
FBIは「キー・アクティビスト」を「あらゆる容疑で逮捕し、保釈金を払えなくする」戦略を公式に承認していた(110頁)。
第6章 COINTELPRO – ニューレフト
1968年のコロンビア大学占拠事件を契機に開始された新左翼運動への破壊工作を扱う。SDS(民主社会学生連盟)を標的とし、12項目の「マスタープラン」に基づいて偽装文書・風刺漫画・内部対立の煽動・大学教授の解雇工作などが行われた。
特筆すべき事例:
- トム・ヘイデンとデイヴィッド・デリンジャーを「キー・アクティビスト」に指定(180頁)
- タンプル大学SDSに対する「シベリアン・ビートル」風刺漫画キャンペーン(205-207頁)
- ジャン・セバーグ女優への偽装妊娠報道(214-219頁)—後に自殺に追い込まれた
- リベレーション・ニュース・サービス(LNS)の内部対立煽動工作(194-196頁)
第7章 COINTELPRO – AIM(アメリカン・インディアン運動)
1971年のCOINTELPRO公式終了後も継続された先住民運動への破壊工作を扱う。著者らは「COINTELPROという名称がなくなっただけで、手法はむしろ激化した」と論じる。
主要な事件:
- ウーンデッド・ニー包囲戦(1973年):FBIが主導権を握り、71日間の包囲戦を実施。FBIエージェントのリチャード・G・ヘルドが戦術を指揮(250-254頁)
- パインリッジ保留地の「恐怖の支配」:1973-1976年に60人以上のAIM支持者が殺害され、342人が暴行を受けたが、FBIは「人員不足」を理由に捜査を怠った
- レナード・ペルティア事件:FBIが精神障害のある女性から虚偽の宣誓供述書を引き出し、カナダからの不当な引き渡しを実現。裁判ではFBIの弾道鑑定官が偽証したことが後に判明(296-297頁)
結論 COINTELPROは今もなお生きている
著者らは、COINTELPROが1971年に公式終了した後も、FBIは以下のような新たな名目で同様の活動を継続していると論じる:
- 「テロ対策」:CISPES(エルサルバドル連帯委員会)への潜入・妨害工作(1980年代)
- 「麻薬戦争」:政治活動家の「犯罪者」化と長期収監
- 「組織犯罪対策(RICO)」:オハイオ7事件などへの適用
さらに、レキシントン女子刑務所の高セキュリティ棟(HSU)やマリオン連邦刑務所における「行動変容」施設の存在を挙げ、COINTELPROの手法が刑務所システム全体に拡張されていると警告する。結論部では、市民による監視・抵抗の必要性を訴え、具体的な活動団体の連絡先を掲載する。
想定読者・前提知識・読みどころ
- 想定読者:米国の政治史・社会運動史に関心のある研究者、ジャーナリスト、活動家、およびFBIの歴史的役割を批判的に検証したい一般読者。
- 前提知識:米国の公民権運動(1950-60年代)、ベトナム反戦運動、ブラック・パンサー党、アメリカン・インディアン運動などについての基本的な知識があると理解が深まるが、必ずしも必須ではない。本書自体が豊富な解説を提供する。
- 分量・難易度:全563頁(文書の写真複製を含む)。専門用語(COINTELPRO、ELSUR、ブラック・バッグ・ジョブ等)が頻出するが、本文中で解説される。英語原文の文書が多数収録されているが、著者による日本語相当の解説が付されている(本書は英語原著)。
- 読みどころ:
- 議論の中核:第5章(ブラック・リベレーション運動)と第7章(AIM)が本書の最重要章。FBIの破壊工作の具体的な手法と結果が最も詳細に描かれている。
- 入門的観点から:まず序論と第1章でFBI文書の性格を理解し、その後関心に応じて第5章(黒人運動)または第7章(先住民運動)から読むとよい。
- 現在との関連:結論部(第8章)は、COINTELPROが「テロ対策」という名目で継続されている現状を論じており、現代の政治状況に関心のある読者にとっても示唆に富む。
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