The Ageless Brain: How to Sharpen and Protect Your Mind for a Lifetime (English Edition)
本書の要約
「The Ageless Brain」(邦題:不老の脳)はニューヨークタイムズベストセラー「The End of Alzheimer’s」の著者であるデール・ブレデセン博士による最新作である。本書では、脳の老化と神経変性疾患は遺伝子に関係なく完全に回避可能であるという革命的なアプローチを提示している。
著者は長年にわたる臨床研究と実践から、認知機能低下を予防・逆転させるための具体的な戦略を解説する。脳の健康を生涯にわたって保つための方法として、食事、運動、睡眠、ストレス管理、脳トレーニング、デトックス(解毒)、サプリメントなどの包括的なアプローチを提案する。
ブレデセン博士の核心的な主張は、認知機能の低下は「ネットワーク不全」であり、複数の要因(エネルギー代謝異常、炎症、毒素、栄養不足など)が重なって起こるということである。これらの要因を特定し対処することで、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患を予防し、さらには症状を逆転させることができると説く。
特に印象的なのは、100歳を超えても認知機能が健全な「認知ガイドスター」と呼ばれる人々の例や、神経変性疾患から回復した患者の成功事例である。これらの事例は、適切なケアと介入によって生涯にわたる認知機能の維持が可能であることを示している。
本書は、20代から90代まで、あらゆる年齢層の読者に対して、認知機能低下は避けられないという諦めを捨て、積極的に脳の健康を守るための行動を起こすことを促している。ブレデセン博士は、病気が進行してからではなく、早期に予防的措置を取ることの重要性を強調し、読者に具体的な検査や介入方法を提供している。
目次
第1章 パフォーマンスと保護(Performance and Protection)
第2章 侮辱に侮辱を重ねる(Adding Insults to Aging)
第3章 100歳とそれ以降に可能なこと(What Is Possible at One Hundred and Beyond?)
第4章 利益で死にゆく(Dying of Profit)
第5章 あなたの「なぜ」を特定する(Identify Your Why)
第6章 測定によるアプローチ(A Measured Approach)
第7章 老化なき脳のための食事(Eating for an Ageless Brain)
第8章 脳のスパンのためのワークアウト(The Brainspan Workout)
第9章 クレンズと回復(Cleanse and Restore)
第10章 脳の柔軟性(The Brain’s Flex Factor)
第11章 毒素の冒険(The Toxic Adventure)
第12章 微生物の心(The Microbial Mind)
第13章 すぐにできること(Soonism)
第14章 老化なき脳のための処方箋(Prescription for an Ageless Brain)
各章の要約
第1章 パフォーマンスと保護(Performance and Protection)
認知機能低下は年齢による「正常な」現象ではなく、様々な原因によるものであり、予防・改善が可能である。脳は常に「性能と保護」のバランスを取っているが、このバランスが崩れると認知機能が低下する。進化の過程で脳は「保護」よりも「性能」を優先するよう設計されたため、短期的な性能を犠牲にしても長期的な保護を確保する必要がある。アルツハイマー病などの神経変性疾患は以前のように避けられない運命ではなく、早期発見と適切な治療により症状の緩和や予防が可能である。(173字)
第2章 侮辱に侮辱を重ねる(Adding Insults to Aging)
脳の老化は年数だけでなく、様々な「侮辱」の蓄積によって促進される。最大の「侮辱」は砂糖であり、インスリン抵抗性や炎症を引き起こす。その他の侮辱には、有毒金属、環境汚染物質、病原体、ストレスホルモン、過度の電磁波などがある。これらの侮辱は「エネルギー供給」「栄養素」「ホルモン」に影響を与え、脳機能を低下させる。脳は「進化上の限界」まで設計されており、多くの侮辱を受けると、エネルギー効率の良い部分を優先し、記憶や認知機能などの「余分な」機能を犠牲にする。これらの侮辱に対処することで、認知機能低下を防ぐことが可能である。(219字)
第3章 100歳とそれ以降に可能なこと(What Is Possible at One Hundred and Beyond?)
認知機能を維持したまま100歳を超えて生きることは可能であり、現在世界には約75万人の百寿者がいる。100歳でも良好な認知機能を維持している「認知的ガイドスター」と呼ばれる人々は、鮮明な記憶力、複雑な問題解決能力、新しいスキルを学ぶ能力、高度な論理的思考力、感情的つながりの維持、感情的安定性、精神的・身体的創造性を示している。著者の父親フィリップは92歳まで認知機能を維持した好例である。100歳までの健全な「脳のスパン」を達成するためには、意図的かつ科学的なアプローチが必要だが、早期に始めるほど容易になる。(196字)
第4章 利益で死にゆく(Dying of Profit)
製薬業界は認知症治療薬の効果があまり高くないにもかかわらず、高額な価格設定で利益を追求している。レカネマブ(商品名レケンビ)は年間26,500ドル(約400万円)もするが、効果は限定的で副作用のリスクがある。アルツハイマー病協会は製薬会社から資金提供を受け、症状がなくても生体マーカーが陽性ならアルツハイマー病と診断するよう提案する。これは製薬会社の利益のためであり、ブレデセン博士の包括的アプローチは高い成功率を示しているにもかかわらず、医学界ではあまり知られていない。利益優先の医療システムでは、予防や根本原因への対処よりも、薬物治療が重視される。(213字)
第5章 あなたの「なぜ」を特定する(Identify Your Why)
健康的な選択をするために最も重要なのは「なぜ」を見つけること。長期的な脳の健康を維持する動機付けとなる強い理由が必要だ。認知症患者ブルースは4歳の娘のために治療に取り組む強い動機を持っていた。脳の健康のためのライフスタイル変更は困難だが、特に症状が出る前に予防的に取り組む方が、認知症になってから治療するより容易である。強い「なぜ」があれば、食事や運動習慣の変更といった困難な課題にも取り組める。家族や愛する人のためという理由は、脳の健康を維持する最も強力な動機となる。(178字)
第6章 測定によるアプローチ(A Measured Approach)
脳の健康状態を評価するためのバイオマーカーと検査について解説している。グルコース代謝(空腹時血糖、ヘモグロビンA1c、空腹時インスリン)、ケトン体、アポリポタンパク質B(ApoB)、高感度C反応性タンパク質(hs-CRP)、ホモシステインなどの一般的な検査が重要である。脳特異的マーカーとしては、GFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、p-tau 217(リン酸化タウ)、NfL(ニューロフィラメント軽鎖)が早期の脳変化を検出できる。これらの検査は35歳から5年ごとに行うことで、認知症の前兆を早期に発見し、予防措置を講じることが可能になる。脳のMRIや睡眠の質の評価も重要である。(193字)
第7章 老化なき脳のための食事(Eating for an Ageless Brain)
脳の健康維持には「KetoFLEX 12/3」と呼ばれる植物中心の低炭水化物食が最適である。この食事法は植物性食品を80%以上含み、ファイトケミカル、食物繊維、単価不飽和脂肪とオメガ3脂肪酸が豊富で、穀物や乳製品を含まない。砂糖や単純炭水化物を避け、低水銀の野生魚、放し飼い鶏肉・卵、草飼い牛肉を適量摂取する。就寝前3時間の絶食と12時間以上の断食窓を設け、軽度のケトーシス状態を維持する。これにより代謝の柔軟性が促進され、インスリン感受性が回復する。加工食品や高フルクトースコーンシロップは避け、腸内細菌叢のサポートのためにプロバイオティクスを含む発酵食品を摂取する。(216字)
第8章 脳のスパンのためのワークアウト(The Brainspan Workout)
脳の健康維持には5種類の運動が重要である。①有酸素運動:脳への酸素供給を増やし、神経新生を促進する。②筋力トレーニング:インスリン感受性を改善し、代謝調節機能を高める。③高強度インターバルトレーニング(HIIT):ホルメシス効果でミトコンドリア機能を向上させる。④血流制限トレーニング(BFR/KAATSU):軽い負荷で効率的に筋肉を成長させる。⑤酸素補給運動療法(EWOT):脳へのエネルギー供給を促進する。これらの運動は週に3~4回、30分以上行うことが推奨される。最も重要なのは継続可能な運動を見つけることである。(199字)
第9章 クレンズと回復(Cleanse and Restore)
質の高い睡眠は脳の「クレンズ」(浄化)に不可欠である。特に深い睡眠中に「グリンファティック系」と呼ばれる脳の浄化システムが活性化し、一日の侮辱による毒素や老廃物を洗い流す。理想的な睡眠は1日7~8.5時間、深い睡眠1時間以上、REM睡眠1.5時間以上、酸素飽和度94%以上が目標。睡眠の質を向上させるためには、就寝前のスクリーン使用を避け、照明を徐々に暗くし、就寝・起床時間を一定に保ち、睡眠時無呼吸症を治療し、就寝3時間前から食事を避けることが重要。ストレスも睡眠に影響するため、瞑想などのストレス管理技術も効果的である。(214字)
第10章 脳の柔軟性(The Brain’s Flex Factor)
脳の可塑性(ニューロプラスティシティ)は、生涯にわたって新しい神経回路を形成・再編成する能力であり、認知機能を維持する鍵である。マイク・マーゼニッチ博士の研究により、脳は生涯を通じて可塑性を維持できることが示された。この可塑性を活用するためには、毎日小さな認知的挑戦、毎月中程度の挑戦、毎年大きな挑戦をすることが効果的である。社会的つながりの維持も脳の可塑性を促進し、その発達を刺激する。また、40ヘルツの光や音による刺激、経頭蓋磁気刺激、微弱電流刺激などの技術も脳の可塑性を促進する可能性がある。心理療法も神経可塑性を促進し、認知機能の維持に役立つ。(209字)
第11章 毒素の冒険(The Toxic Adventure)
脳の老化・変性を加速させる重要な要因として「毒素」がある。これには有機毒素(農薬、除草剤など)、無機毒素(重金属など)、生物毒素(カビ毒など)が含まれる。カビ毒は特に問題で、スタキボトリス、アスペルギルスなどから産生される毒素は脳機能に深刻な影響を与える。重金属(鉛、水銀、カドミウムなど)は水道水や大気汚染を通じて体内に入り、神経変性を促進する。マイクロプラスチックも血液脳関門を通過し、脳に蓄積する。これらの毒素への曝露を減らすために、家のカビを除去し、水道水をろ過し、有機食品を選び、プラスチック容器の使用を避け、汚染地域を離れることが推奨される。(204字)
第12章 微生物の心(The Microbial Mind)
微生物が脳の健康に与える影響は甚大である。パーキンソン病はデスルフォビブリオという腸内細菌が原因となる可能性がある。腸と脳のつながり(腸脳相関)により、腸内微生物の不均衡は神経炎症を引き起こす。プロバイオティクス(発酵食品)とプレバイオティクス(食物繊維)の摂取で腸内細菌叢を改善できる。口腔内の病原菌(特にポルフィロモナス・ジンジバリス)も認知症リスクを高める。COVID-19などの感染症は神経炎症を悪化させ、認知機能を低下させる。性感染症や虫媒介感染症(ライム病など)も脳の健康に悪影響を及ぼす。微生物バランスの維持が脳の老化防止に重要である。(208字)
第13章 すぐにできること(Soonism)
脳の健康を維持するために「すぐに」取り組めるアプローチについて解説している。バイオアイデンティカルホルモン療法(BHRT)はエストラジオールやプロゲステロンなどの天然ホルモンを補充し、認知機能を向上させる可能性がある。セノリティクス(老化細胞除去薬)はゾンビ細胞を排除し、脳機能を改善する。ペプチド療法は血液脳関門を通過しやすく、神経保護効果がある。成長因子(BDNF、NGF、IGF-1など)は神経細胞の生存と可塑性を促進する。幹細胞療法はまだ研究段階だが、神経再生の可能性を秘めている。細胞のリプログラミングは老化の根本原因に対処する革新的なアプローチである。これらの介入は今すぐか近い将来に利用可能となるだろう。(218字)
第14章 老化なき脳のための処方箋(Prescription for an Ageless Brain)
老化なき脳のための総合的アプローチを提示している。35歳から定期的にp-tau 217、GFAP、NfLなどの早期検査を受け、生物学的年齢を測定する。異常がある場合は、インスリン抵抗性、炎症、毒素、感染症、栄養不足などの根本原因を特定する。基本的な介入として、植物中心の低炭水化物食、有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ、質の高い睡眠(深い睡眠1時間以上、REM睡眠1.5時間以上)、ストレス管理、脳刺激、デトックス、ターゲットを絞ったサプリメントが必要である。例として、ApoE4遺伝子を持つスーザンとパーキンソン病の前兆があるカールトンの症例が紹介されている。早期発見と包括的アプローチで100歳を超えても認知機能を維持できる。(230字)