書籍:シリア転覆工作 CIA、コントラギャング、NGOによる大量殺人の製造、偽装、販売(2012)

CIA、NED、USAID、DS・情報機関/米国の犯罪中近東・パレスチナ・イラン・シリア

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Subverting Syria: How CIA Contra Gangs and NGO’s Manufacture, Mislabel and Market Mass Murder

 

シリア転覆工作 CIA、コントラギャング、NGOによる大量殺人の製造、偽装、販売

トニー・カルタレッジ、ナイル・ボウイ 2012年 著作権所有

2012年11月

目次

  • 著者による注記
  • 第1章:反乱の構造
  • 第2章:情報管理と心理戦
  • 第3章:地域戦争の展望
  • 結論

解説

爆撃を止めるための電子書籍 – 戦争を止めるために、大嘘を暴く。シリアの「反乱」は、実際には、挑発行為者、傭兵、ワッハーブ派狂信者、腐敗したNGOを利用した、米国が企てた皮肉な陰謀である。米国、英国、イスラエルは、石油の富を人道的福祉に費やしているこの独立したアラブ社会主義国家を、リビアが同じように引き裂かれる前に、粉砕する決意をしている。周辺諸国は、アメリカというライオンの足元にへつらうジャッカルやハイエナのように、この国を滅ぼそうと狙っている。

アメリカとサウジアラビアが資金提供する陰謀は、「カウンターギャング」という戦術に転換した。テロリスト、つまり傭兵や非正規兵、CIAの外国人部隊が、デモ参加者と警察官の両方を銃撃し、建物を爆破し、罪のない村人を虐殺する。そして、その虐殺を標的とされた政府のせいだと非難するのだ!

NED(全米民主主義基金)のようなNGO(米国国務省、ジョージ・ソロス、フォード財団などが出資)は、国家が崩壊した瞬間にその残骸の一片を手に入れようと熱心に狙っている野心家の反社会的人間をリーダーとする「活動家」を支援している。企業の手先であるメディアは、この大嘘を熱心にすいあげて拡大し、一般の人々がほとんど見抜くことのできない偽りの「現実」を作り出している。

シリアを転覆させることは、「全能のドルの帝国」がシリアに引き起こそうとしている恐怖の警告であり、それは昨年のリビアに対する下品な戦争と同じ恐怖である。その戦争では、人権という大義名分と悪辣な嘘の数々を掲げ、平等主義の国家が泥と血と混沌に踏みつけられた。

シリアを転覆させることは、シリアを破壊する十字軍が、ペンタゴン(米国防総省)の非正規戦マニュアルに明確に示された戦術に従っていることを明らかにする。この戦術は、リビアを荒廃させるために最近使われたものと同じである。

 

  • 対象国で抗議の機運を高めるためにNGOに資金提供する
  • 扇動者がデモを組織し、デモ参加者と治安部隊の両方に発砲して暴力を煽る
  • 演出され、誤った説明が付けられたビデオ映像が、政権による弾圧の幻想を生み出す
  • 大手メディアは、その国の指導者が残忍な独裁者であるという大嘘を延々と繰り返す。犬に悪い噂を立てては殺す。
  • 特殊部隊の殺人部隊、CIAのアルカイダ外人部隊、狂信者、傭兵を国境の町に侵攻させる
  • 内戦を煽り、国連、またはNATOによる軍事介入の口実をでっちあげる

 

その国を石器時代にまで爆撃し、NATOのイスラムテロリスト傀儡政権に征服させる
アラブ社会主義と人民のための政府を根絶し、ウォールストリートとロンドンの銀行家に従う腐敗した一団に置き換える
レバノン、パレスチナ、イラク、イランを孤立させ、イスラエルによる中東支配を拡大させる
米国企業が「再建」と「安全保障」のために数十億ドル規模の契約を結ぶ

シリアを転覆させることは、これらの戦争が、人類の善良な本能を巧みに操り、通常は「介入」に反対する勢力、特に平和主義者や左派勢力を欺き、利用することによって、いかにして画策されているかを示している。大量殺人や、金融権力による世界的な独裁体制の維持に彼らを巻き込むのだ。

シリアの状況は、内外の敵による容赦ない攻撃を受け、本当に深刻である。どうか『シリアを崩壊させる』の情報を広めるお手伝いをしていただきたい。書評家やソーシャルメディアの活動家の方々には、ご要望に応じて無料でコピーを提供いたします。彼らには、事実を訴えることで嘘と大量虐殺を打ち負かすというこの緊急の取り組みを広めていただきたい。

川流桃桜(書評)

シリア「内戦」と呼ばれているものは、実際には西洋諸国・湾岸諸国・トルコ・イスラエルによる、イスラム過激派を代理勢力として利用したハイブリッド・テロ侵略戦争だ。所謂シリア「内戦」報道なるものは、一から十まで嘘で固められたフェイクニュースの塊だ。こうした心理戦(NATOの新用語を使えば「認知戦」)が常態化した現実を生き抜くには、与えられた情報を常に疑い、その真贋を確認する能力と習慣が不可欠になる。その為には、正しい情報にアクセスする為の経路を日頃から自分なりに模索しておく作業が重要だ。戦争プロパガンダに洗脳されてしまうと、「敵」、つまり帝国が標的とする対象を非人間化することに、何の疑問の躊躇いも抱かなくなる。日々垂れ流される「人権侵害」「独裁者」「権威主義体制」「侵略者」「軍事的脅威」等々のフレーズは、こうした非人間化を促す為の心理的トリックだが、こうした「相手は道徳的に劣った存在だ」と云うメッセージの洪水に慣らされてしまうと、相手の立場に立って物事を考える想像力が失われ、相手を理解する為に知識を得ようとする意思が消滅してしまう。そうならない為には、物凄く時間と手間の掛かることでは有るが、ひとつひとつの嘘に根気強く抵抗して行かなくてはならない。

私が本書を読んだのは2019年にもなってからで、この頃には本書で指摘されている様な諸事実は既に粗方知ってしまっていたのだが、それでもやはり状況を再確認する為には読んで良かったと思う。この本の初版は2012年だそうだが、この本には私が最初に知りたかった基本的な情報が詰まっている。もっと早くにこの本の存在を知っていれば、あれこれ試行錯誤する必要も無かったのに………とは思うが、まぁその試行錯誤の過程で私も色々と学習したので、それが無駄だったとは思わない。

著者の一人、ナイル・ボウイ氏はアジア・タイムズの特派員。もう一人のアンソニー(トニー)・カタルッチ氏は地政学分析に優れた方で、私は Global Research への寄稿で知ったのだが、2021年からは Brian Berletic と云う名(こちらが本名らしい)で、主に The New Atlas と云う Youtubeチャンネルで情報発信を行っている。私自身もそうなのだが、検閲が強化された為にTwitter等のプラットフォームから現在追放されている。軍隊経験者と云うことも有って、軍事に関する分析には定評が有り、2022年にウクライナ紛争が新フェーズに入ってからは、彼の戦況分析動画は、かなりマイナーな分野であるにも関わらず、投稿したその日の1万ビューを超えるのが常だ。デバンキング作業を行うに当たって、無論彼は自分の主張を裏付ける諸々のソースを挙げる訳なのだが、その作業が実に丁寧で、視聴者や読者が自分でその作業を追試することが出来るように常に気を配っており、個々の情報の軽重を判断する為のヒントも色々与えてくれている。単に結論だけを一方的に与えられるのではなく、「何故その結論が正しいと言えるのか」と云う検証プロセスに関心が有る方にお薦めだ。情報リテラシーを鍛えたいなら、こうした地道な作業を積み重ねて行く経験が何より重要だろう。

今は戦時だ。マスコミの「戦争報道」なるものは、実際にはそれ自体が戦争遂行の一部であって、大衆洗脳の為の心理攻撃だ。自立した思考を養い、権力者に騙されずに生き、本当に戦争に反対したいなら、与えられた情報は全て一旦カッコに入れる必要が有る。シリア「内戦」、ロシアによるウクライナ「侵攻」や「対ロシア制裁」、中国の「ジェノサイド」や「軍事的挑発」、DPRKの「核の脅威」、COVID-19「パンデミック」やパンデミック「対策」、「SDGs」や「気候変動」etc………挙げればキリが無いが、全ては嘘に基付くプロパガンダだ。別に私がここで言ったことを信じる必要は無い。全て自分自身で検証して判断すれば良い。問題なのは、洗脳された人々は検証せず、事実を確認せず、現実を直視せず、それを全く問題だとは思わないことだ。彼等は事実に合わせて自分の考えを変えるのではなく、自分の信念に合わせて事実を取捨選択したり捻じ曲げたりする。嘘を暴くことは嘘を吐いたり嘘を信じたりすることよりも難しいし面倒だが、彼等は簡単な道を選ぶ。それではいけない。自分が洗脳されていたことは、洗脳が解けた後でしか気付けないが、早目に気が付いておけば、被害も浅くて済む。洗脳状態が深まると、その信念体系は現実を無視して自己拡大再生産の悪循環に陥って引き返すのがより難しくなる。そうなりたくなければ、個人として先ず出来ることは、健全な懐疑精神を保持し、文脈を理解するのに必要な知識を学び、与えられたひとつひとつの情報について判断を急ぐ前に確認するのを怠らないことだ。本書も含めて、その助けとなってくれる足掛かりは探せば色々と存在する。だが探さなければ見付からない。情報ガラパゴス化が著しい日本人は、特に必死にならないとヤバい。

著者による注釈

「シリアへの戦争:第三次世界大戦への道」をお読みいただき、誠にありがとうございます。本書をお読みいただいた皆様の関心とご配慮に、著者は深く感謝いたします。本書の目的は、シリアにおける紛争の正確な歴史的記録を提供することである。このプロジェクトは、紛争が継続中の段階で私に依頼が持ちかけられたため、困難を極めた。このプロジェクトに関わった者たちは、私たちのさまざまな記事や結論を1つの確固たる製品にまとめる必要があると判断した。また、シリアでの戦闘が止むことがないため、今後は拡張版を制作する必要がある。

本書は、タイのバンコクを拠点とする独立系ジャーナリストであり、『Land Destroyer Report』の編集者でもあるトニー・カルタリッチ氏の寄稿記事と調査を基にしている。本書における私の役割は、これらの記事をさらに掘り下げ、首尾一貫した物語としてまとめることだった。これは、どんな作家にとっても難しい仕事である。必然的に、私の調査の多くが本書のページに記載されているが、それは、読者に対して、シリアにおける出来事について、最も詳細で、体系化された、重要な説明を提供するためである。各章をまとめた後、ニューヨーク在住のジャーナリストでStopImperialism.comの編集者であるエリック・ドレイトサーが、文章の編集と校正を手伝ってくれた。私はこの文書を作成するために、マレーシアのクアラルンプールにある自宅で3カ月間作業した。

この本の著者は、このプロジェクトが世界中の同じ考えを持つ人々とつながりを持ち、建設的に協力し、説得力のある問題や不正義に注目を集めることを促すことを願っている。この本は、ベッドサイドで読むような類の本ではないが、広く知らしめるべき非常に重要な分析や情報が含まれていることは間違いない。この本は、私たちが引用する名称、場所、出来事についてよく知らない読者にとっては、最初は混乱する可能性がある。私たちは、この情報をできるだけわかりやすく、明確に伝えるよう最善を尽くした。

この情報に反対する人々や批判者は、私たちの調査や結論を否定し、おなじみの「陰謀論者」やシリア政府の擁護者というレッテルを貼るだろう。この本の著者は、いかなる政党や組織も支持しておらず、また、この仕事のために誰からも資金提供を受けていない。これらの結論は私たちの独自の見解であり、究極的には、国家主権の優位性、国際法の尊重、そしてシリア国民が自らの政治的未来を決定する権利を信じている。その未来が彼らに押し付けられることなく。

このたびは本書をお読みいただき、誠にありがとうございます。この情報が、状況に対する皆さまの理解を深める一助となれば幸いです。本書は、シリアおよびその他の地域で早すぎる死を遂げた罪のない人々に捧げます。

ナイル・ボウイ 2012年8月24日

第1章 :反乱の構造

章のまとめ

この文書は、2011年から2012年にかけてのシリア内戦の初期段階における外国勢力の介入と、その背景にある地政学的な力学について詳細に分析している。以下が主な内容である:

シリア内戦の発端は、「アラブの春」の一環として始まった抗議運動である。しかし当初から、この運動は米国務省や様々な外国組織から資金提供を受けていた。特にMovements.orgやAlliance of Youth Movements等の組織が、若手活動家の訓練と支援に関与している。

反体制派への外国からの支援は多岐にわたっている。米国、サウジアラビア、カタール等が武器や資金を提供し、CIA職員がトルコ南部で反体制派への武器供給を調整している。また米国務省は、反体制派にサイバー戦術の訓練を提供するため7200万ドル以上を投じている。

反体制派の主力となったのは、ムスリム同胞団やアルカイダ系の過激派組織である。これらの組織は、シリアのアラウィ派やキリスト教徒などの少数派を標的とした宗派的な暴力を展開している。2012年5月のホウラでの虐殺事件では、108人が殺害されたが、その責任の所在については政府軍と反体制派の双方が非難の応酬を続けている。

ロシアと中国は、シリアへの外国介入に反対の立場を取っている。両国は2012年2月、国連安保理でのシリア介入決議案に拒否権を行使した。ロシアのラブロフ外相は、シリアの将来はシリア国民自身が決定すべきだと主張している。

文書は、シリア危機が単なる内戦ではなく、米国を中心とする西側諸国が、地政学的な目的のために意図的に引き起こした代理戦争であると結論づけている。外国勢力による武器供与や過激派の支援が、シリアの不安定化と暴力の激化を招いているとしている。 

「戦争にはもう一つのタイプがある。その激しさは新しいが、起源は古い。ゲリラ、破壊者、反乱者、暗殺者による戦争。戦闘ではなく待ち伏せ、侵略ではなく浸透によって敵を追い詰め、敵と戦うのではなく、敵を疲弊させて勝利を収める戦争。それは不安につけ込む」

ジョン・F・ケネディ

第35代アメリカ合衆国大統領チュニジアで数ヶ月にわたって続いた政治的混乱が引き金となり、「アラブの春」と呼ばれる一連の出来事が発生し、その後、北アフリカの数カ国を巻き込んだ。 平和的にデモを行おうと街頭に繰り出した人々の中には、米国務省が資金援助している組織を通じて、外国政府から訓練、資金、物資の援助を受けていた地元の反体制派もいた。これらの運動が国際メディアの注目を集めるにつれ、政府による過剰な暴力という裏付けのない報道が、その地域の各国政府のイメージを傷つけるために利用された。アルジャジーラやFOXニュースなどのメディア企業は、欧米が支援する反体制派グループへの支持を築くために世論を誘導する役割を果たした。反体制派はその後、それらの国の政府当局に対して反乱ゲリラ戦を仕掛けるために、公然と海外から武器や物資の支援を受けるようになった。

「アラブの春」に先立ち、若者活動家の勧誘、訓練、支援に関与していた組織のひとつは、2011年4月のニューヨーク・タイムズの記事で紹介されている。1 その組織、Movements.org、またはAlliance of Youth Movementsは、後に「アラブの春」蜂起への米国からの資金援助と関与を認めている。この記事では、フリーダム・ハウス、全米民主主義基金、およびその傘下の2つの組織である国際共和党研究所と全米民主主義研究所が 2008年から始まった不安定化工作の採用、訓練、支援に関与していると指摘している。ニューヨーク・タイムズの記事では組織名は挙げられていないが、米国務省の公式発表「青年運動サミットに関する発表」にリンクが張られており、そこでは確かにその組織名が挙げられている。2 青年運動連合は、企業がスポンサーとなっている一種の「クーデター大学」であり、米国務省の代理として政府を転覆させる活動家を育成する。

2011年2月26日、米国に拠点を置くブルッキングス研究所は「リビアによる新しい国際秩序の試練」と題する報告書を発行し、リビアへの介入を支持する立場から、この取り組みを「国際社会が通過しなければならない試練」と表現した。ブルッキングス研究所のドーハセンター所長であるサルマン・シェイク氏の言葉を借りれば、介入を怠れば「新興の国際秩序と国際法の優位性に対する中東の人々の信頼をさらに揺るがす」ことになる。介入が成功すれば、報告書が述べているように、「対話や真の改革ではなく自国民への攻撃に訴える他のアラブの独裁者を確実に阻止する一線を引くことになる」だろう。ブルッキングス研究所が言う「改革」とは、リビアを「国際システム」に統合することであり、保護貿易的な経済政策は排除され、外国政府や多国籍企業がその国の主権や豊富な天然資源を奪うことを認めることになる。

ムアンマル・カダフィ政権は、非武装のデモ隊に対して標的を絞った空爆を行ったとして非難されていた。その非難は、検証されていない活動家の証言が集中して寄せられたもので、国家による人道に対する罪の実行を主張するものだった。2011年3月下旬、リビア上空の飛行禁止区域の設定を義務づける国連決議1973号が採択されたことを受け、NATOは「民間人保護」を名目に、リビアの武装反体制派を支援する爆撃作戦を開始した。ブルッキングス研究所の意見に呼応するように、フランスのサルコジ前大統領は次のように述べた。

すべての指導者は理解すべきであり、特にアラブの指導者は理解すべきである。国際社会とヨーロッパの反応は、今後は毎回同じものになるだろう。すなわち、暴力で弾圧されてはならない平和的なデモ参加者の側に立つ、というものである。4

国連は、シリア南部の都市ダラアで反乱による暴力の最初の報告があったさなかに、決議1973を可決した。 主流メディアは、シリア治安部隊に対する暴力を扇動する武装反政府勢力を「平和的なデモ参加者」と表現したが、米国の上院議員ジョー・リーバーマンはシリアに外国軍の介入をちらつかせた。ダラアでは、デモ参加者がバース党本部に放火し、路上に駐車されていた車を破壊した。また、ラタキア市内の別の政府施設に放火しようとした際に、2人のデモ参加者が死亡したと伝えられている。外国からの資金提供を受けた暴徒が、現政権を退陣させることを目的として、広範囲にわたる放火や破壊行為を行うことを、責任ある政府が許容することが理解に苦しむ。確かに、デモ参加者が示した暴力は、秩序維持を試みるシリア治安部隊を故意に挑発する目的で計画されたものであった。

シリア治安部隊がその暴力に対して過剰に反応したか、あるいは適切に反応したかに関わらず、主流メディアや欧米の政治家たちは、その暴力を正当な理由として挙げて、バッシャール・アル=アサド大統領が退くべきであると主張し、ダマスカスから正当性を奪おうとした。さらに憂慮すべきことに、暴力と混乱の継続は、雇われた挑発行為者によるものとされている。こうした挑発行為者は、抗議者と治安部隊を問わず殺害するために雇われることが多く、国際的にセンセーショナルな大量虐殺を引き起こし、抗議運動と国家に対する国際的な圧力をエスカレートさせることを目的としている。シドニー・モーニング・ヘラルド紙が「アサド政権への新たな脅威としての大量虐殺」と題して掲載した記事では、シリア南部の不安定化により、政権は「ぐらついている」と述べている。さらに、バラク・オバマ米大統領から「厳しい」批判を招いた。

自国民の声を聞かず、アサド大統領は外部の人間を非難し、イランの支援を受けながら、イランの同盟国が用いてきたのと同じ残忍な戦術でシリア国民を弾圧しようとしている。5

当初、シリア政府は、抗議者や治安部隊に対する暴力行為を「武装集団」や屋上からの狙撃犯の仕業であると主張していたが、アルジャジーラなどの報道機関は、匿名の反体制派の証言のみを引用し、シリア政府が市民に対して一方的に武力弾圧を行っているという公式見解を押し通し続けている。アルジャジーラの記事「シリアの葬列で9人が死亡」には、現地特派員の証言が含まれており、次のように述べている。

(陸橋を行進する人々は)銃撃ストームに遭い、私たちの目の前で多くの人が負傷し、車は方向転換した。信じられないほど混沌とした状況だった。そして、この国の南部では、ほとんどの人が武器を所持しているようだ。誰が誰を狙って発砲しているのかは不明である。それが混乱の一因であるが、しかし、この国南部では今、非常に暴力的な事件が起こっていることは明らかだ。

意味深長ではあるが、この記述は、銃を持っているのは自分たちだけではないというシリア政府の主張を裏付けるものと思われた。謎の武装集団や屋上狙撃手に関する報道が相次ぐ中、地球の裏側で起こっているタイでの出来事は、シリア南部で政府が支援する不安定化工作とまったく同じパターンを辿っている。

2010年4月10日、タイ軍はバンコクの「民主記念塔」で、大富豪で元政治家のタクシン・チナワット氏の赤いシャツを着た支持者たちを解散させようとした。軍は放水砲とゴム弾を使用したが、不特定の武装集団が手榴弾攻撃と狙撃を組み合わせて介入し、タイ軍のロムクラオ大佐と他の6人の兵士が死亡した。軍はすぐに混乱の中で撤退し、一方、抗議者たちは混乱と賞賛の中で分裂した。謎の武装集団は抗議者たちの間を縫って進み、応戦するタイ軍に散発的に発砲した。合計23人が死亡した。デモ参加者はこの奇襲をまったく知らなかったが、警備員たちもこの攻撃が迫っていることを知らなかった可能性は低い。なぜなら、多くの警備員がすぐに倒れた兵士たちを攻撃的なデモ参加者から守ろうと駆けつけ、銃撃戦が別の場所でも続いている間、

高度な訓練を受け、準備万端の第三者が関与していたことは明らかだった。シリアのように、外国人がほとんど踏み入らず、カメラも少なく、外国や国内の映像、アマチュアやプロの映像が錯綜するような状況とは異なり、この騒乱は、外国や国内の映像、アマチュアやプロの映像が錯綜するような状況とは異なり、この騒乱は、外国や国内の映像、アマチュアやプロの映像が錯綜するような状況とは異なり、この騒乱抗議運動の指導者たちが当初は全面的に否定していたが、やがて「黒服の男たち」の映像が流れるにつれ、断片的に自白するようになった。抗議運動の国際スポークスマンであるショーン・ブーンプラコン氏はロイター通信に対し、軍の一部が彼らの運動に加担していると述べ、4月10日の大虐殺に参加した黒服の謎の武装集団もその一員であると語った。彼ら、黒服の男たちがいなければ、死傷者はもっとずっと多くなっていただろう」と述べた。 これらの武装集団のリーダーと目される反逆将軍、カッティヤ・サワッディポル(通称「セーデン」)は、以前の否定をさらに否定し、M79グレネードランチャーで武装した「接近遭遇」の訓練を受けた300人の武装集団を指揮したことを認めた。しかし、その後のインタビューでは、この発言を撤回している。8

4月10日から5月19日の抗議運動の終結を告げる大規模な放火事件までの間、連日の銃撃戦、手榴弾攻撃、狙撃により、91人の命が奪われた。この中には、9人の軍人や警察官、M79手榴弾攻撃で死亡した女性、そして仲間が放火した建物に侵入して略奪中に煙を吸って死亡した少なくとも1人の抗議者も含まれていた。残りの80人の死者の中には、ジャーナリスト、傍観者、医療従事者、銃撃戦に巻き込まれたデモ参加者が含まれていた。このような大量殺戮が必要だった理由を説明するために、謎の武装集団が自身の運動のために動いていることを認めた後、ショーン・ブーンプラコンは4月24日のインタビューでまたもや驚くべき告白をした。抗議運動のリーダーたちが、政府による9カ月以内の再選挙実施の申し出を断った理由を尋ねられた際、彼は4月10日の事件の後、彼らはタイの首相アピシット・ウェーチャチワの手が「血で汚れている」と感じ、タイ議会が解散されるのが最善だと答えた。彼はさらに、抗議運動の要求は、アピシット首相の退陣に加え、即時解散に変わったと述べた。

タイで起きた悲劇的な事件は、海外から支援を受けた野党グループに有利なように現実を歪めるために、雇われた「謎の武装集団」がどのように利用されたかという、生々しい実例を提示している。彼らの暴力には2つの目的がある。政府を退陣に追い込むほどの混乱と流血を生み出すこと、あるいは、一般市民の抗議者たちの間に高まる怒りと暴力を正当化することである。シリア情勢においては、謎の武装集団や「死の部隊」の報告により、事態は劇的に悪化し、何千人もの民間人が犠牲となった。イランのAl-Alamアラビア語ニュースネットワークが発表した報告書では、サウジアラビアと米国のCIAが連携し、シリア国内で狙撃手たちを動員して、抗議者を意図的に暗殺し、不安を煽っている様子が描写されている。報告書には、狙撃手を乗せたバイクが建物に急接近し、 狙撃手は狙撃位置につくと、デモ隊に向けて発砲した。

シリア治安部隊がその建物を取り囲み、銃撃戦が起こったとされる。記事の結末では、狙撃手が負傷し、病院に搬送されたと述べている。

Al-Alamの報道と映像は、国際メディアが引用した政府および目撃者の証言を裏付けるものであり、それらによると、「屋上にいる狙撃手」がデモ隊に向けて発砲しているという。「人権活動家」は狙撃手が治安部隊であると主張しているが、政府は武装集団がデモ隊と治安部隊の両方に発砲したと主張している。2011年4月のCNNの報道では、シリア政府高官が「正体不明の『屋上の武装集団』がデモ隊と治安部隊に発砲した」と述べたと報じている。9 活動家たちは、屋上にいたのは治安部隊の狙撃手であると信じていると述べているが、「目撃者の証言」以上の証拠は提示していない。中国のXinhuaNetは、武装集団が治安部隊と衝突し、双方に死者が出たシリア各地の複数の事件を報じた。ある攻撃では、8人の一般市民が犠牲になった。シリアの国営メディアは、暴力行為に使用された機器とともに、携帯電話にシリア以外のSIMカードが入っていたグループの証拠を提示した。

ブルッキングス研究所が2011年4月に発表した論説「シリアではアサドは退陣すべきである」では、葬儀を狙った「謎の武装集団」による暴力の連鎖が、アサドが越えた一線を意味し、今こそ退陣を求めるべきであると述べている。記事には次のように書かれている。

抗議デモがますます激化し、政権による暴力がそれに伴い、さらに国中のあらゆる地域で葬儀が増えるというサイクルが続いている今こそ、アラブ世界の「ハムレット」であるアサドは、自らの将来について考えるべき時である。アサドと、国外で彼に影響力を持つ人々は、迅速かつ秩序ある退陣の道を探るべき時である。

4月下旬、NATOはリビア上空に飛行禁止区域を設定し、武装反体制派を支援する空爆を継続した。 ホスニ・ムバラクやムアンマル・カダフィの場合と同様に、ジョン・マケイン、リンゼイ・グラハム、ジョー・リーバーマンの米上院議員3名は共同声明を発表し、バッシャール・アル・アサドは「シリアの権力の座にとどまる正当性を失った」と宣言した。さらに彼らは次のように述べた。

アサド政権に賭けを分散させたり、弁解したりするのではなく、今こそ米国は欧州および世界中の同盟国とともに、民主政府を求めるシリア国民の平和的な要求に明確に同調すべきである。

上院議員の声明は、依然として明白な不誠実さを残している。マケインとグラハムはともに、ニューヨーク・タイムズ紙が「アラブの春」に参加した反対派グループへの資金提供に関与したと公然と指摘した組織、国際共和党研究所のメンバーである。同様に、リベマン上院議員は「民主主義防衛基金(FDD)」という紛らわしい名称のネオコン系ロビー企業の一員である。この企業には、ウィリアム・クリストル、リチャード・ペール、ジェームズ・ウルジー、ポーラ・ドブリャンスキーなど、新アメリカ世紀計画(PNAC)の署名者のほか、外交問題評議会のメンバーであるニュート・ギングリッチやチャールズ・クラウトハマーなどが名を連ねている。アメリカの政治エスタブリッシュメントのメンバーは、外国政府が一般的に同意しないことを容易に非難するが、政治的反対派グループに実質的な支援を提供することは、世界中の標的国における市民の不安を煽り、国内の緊張を高めることに働いている。

ワシントンはシリアの体制転換の必要性について、一見コンセンサスに達したかのように見え、2011年までに、ムスリム同胞団などのイスラム主義ネットワークとの長年のつながりを利用して、反対派勢力を強化し、ダマスカスからの支配力を弱めることを望んでいることが明らかになった。ワシントン・ポスト紙は 2005年以降、ブッシュ政権とオバマ政権の両方が、ムスリム同胞団と提携するシリアの反対派グループに資金援助を行っていたと報じている。記事では、シリアの反政府グループへの支援キャンペーンが2つの大統領政権を越えて行われた経緯を次のように伝えている。

シリアの反体制派への米国の資金提供は、ジョージ・W・ブッシュ大統領が2005年に事実上ダマスカスとの政治的関係を凍結した後、開始された。オバマ大統領就任後も資金援助は継続され、同政権がアサド大統領との関係修復を模索していた時期も同様であった。「シリア当局は、違法な政治団体に流れる米国の資金は、政権交代を支援するものと見なすに違いない」と 2009年4月の電報には当時のダマスカス駐在米国高官の署名があった。「シリア内外の反政府派を支援する米国が後援する現行の番組について再評価することは、有益である可能性がある」と、この電報には書かれていた。

国務省報道官のエドガー・バスケスは、中東パートナーシップ構想は2005年以来、シリアのプログラムに750万ドルを拠出していると述べた。しかし、ダマスカス大使館からの電報では 2005年から2010年の間に、総額ははるかに高い約1200万ドルとされていた。電報では、米国の外交官の間で、シリアの国家治安部隊がワシントンからの資金の流れを突き止めたのではないかという懸念が根強くあると報告されている。

2002年には、当時の米国国務次官ジョン・ボルトンが、拡大する「悪の枢軸」にシリアを加えることになる。後に明らかになるが、ボルトンがシリアに対して行った脅しは、シリア国内の反体制派グループに対する秘密裏の資金援助や支援という形で実現することになる。2011年4月のAFP通信の報道で、米国務省民主主義・人権・労働担当次官補のマイケル・ポズナー氏は、「米国政府は、権威主義的な政府による逮捕や起訴から活動家を守るための新技術開発に、過去2年間で5000万ドルの予算を計上した」と述べた。同報道はさらに、「米国は世界各地で5000人の活動家を対象に訓練セッションを組織した。約6週間前に中東で行われたセッションには、チュニジア、エジプト、シリア、レバノンの活動家が集まり、彼らは自国に戻って同僚を訓練することを目的とした」ポズナーはさらに、「彼らは戻り、波及効果をもたらした」と付け加えた。この波及効果は、もちろん、シリアの国内政治危機が無政府的な宗派間戦争へとエスカレートするに至った一連の出来事を指している。

米国務省によるシリアの反体制派への長年にわたる秘密裏の支援は、特にその支援先がシリアのムスリム同胞団と関連していると報告されていることを考慮すると、依然として重要である。このグループは、1960年代から何度も蜂起を試みており、シリアの少数派であるアラウィー派シーア派を異端として長年非難してきた。Global Postの「分裂に悩むシリア自由軍」と題された記事は、シリア治安部隊と戦っている武装勢力のグループの一部が同胞団のメンバーから構成されていることを裏付けている。 ムスリム同胞団はMI6やCIAとほぼ同様に世界中に存在する組織であり、偶然にも米国が資金援助する他の「若手活動家」たちと地域全体で連携している。

シリアにおけるムスリム同胞団の歴史は数十年に遡る。 ブランダイス大学の出版物『シリアのムスリム同胞団とアサド政権』によると、1979年には「イクワン」とも呼ばれる同胞団がシリア軍士官候補生32名を襲撃し、虐殺した。これは同胞団による大規模な暴力キャンペーンの一部であり、シリア大統領暗殺未遂も含まれていた。暴力キャンペーンの激化は、1982年にハマ市のシリア軍による同胞団の包囲と壊滅の主な要因となった。同胞団は敗北後、多くのメンバーがシリアを脱出し、ロンドンに拠点を置いた。

一方、企業メディアや政府のプレスリリースでは、シリア政府が民間人を殺害していると非難していたが、シリア国内の報道では、最新のアメリカやイスラエルの武器を振りかざした武装テロ集団がダマスカス近郊を徘徊し、爆発物を仕掛けて無差別テロを実行したり、民間人を誘拐したりしていると報じられていた。2011年12月24日から2012年1月18日にかけて実施された、アラブ連盟によるシリアへの当初のオブザーバー派遣団の報告書は、シリア国営メディアの主張を裏付けている。17 報告書の内容は、アラブ連盟の閣僚委員会でこれを否定した唯一の国であるカタールに続き、主流メディアでもほとんど見過ごされた。報告書は、シリア政府が平和的なデモ参加者に対して弾圧を行っているわけではないと断固として結論づけている。さらに、報告書は武装集団が民間バス、軽油輸送列車、警察バスを爆破し、橋やパイプラインを爆破したと指摘している。アラブ連盟のオブザーバーであるアハメド・マナイ氏とのインタビューで、氏はオブザーバーの調査結果を認めなかったアラブ連盟を非難し、次のように述べた。

アラブ連盟は、自らが派遣した監視団の報告書と安全保障理事会への訴えを葬り去ることによって、完全に信用を失墜した。シリア問題の解決に参加する機会を逃したのだ。今後、アラブ連盟が提示できるものは何一つ価値を持たないだろう。

2011年4月下旬以降、シリア政府は、謎の武装集団が屋上からデモ隊や治安部隊に発砲しているという報告を頻繁に発表し始めた。欧米の主流メディアは、こうした報告をたびたび引用しながら、シリア政府による根拠のないプロパガンダであると片付けようとしたが、政府軍の死傷者数の増加は、明らかに「非武装の民間人」によるものではない。2011年3月初旬までに、NATOがリビアの反政府勢力の戦闘員を訓練し、無標識の航空機を使って武装した戦闘員をトルコの空軍基地に輸送し、自由シリア軍を支援しているという複数の報告が浮上した。The Examinerは次のように報じている。

リビアの反カダフィ勢力と戦ったさまざまな民兵組織から戦闘員が募集されている。約4,000人が反アサド勢力に加わるために志願し、1,000ドルの契約ボーナスに加え、月額450ドルの給料を受け取っている。一部の未確認情報によると、この給料は「パリパリ」と音を立てる真新しい100ドル紙幣で支払われているという。このため、一部では、これは米国の税金が使われているのではないかという見方もある。トルコに到着すると、リビアの戦闘員と武器は飛行機からトラックに積み替えられ、シリア北西部の国境沿いにあるトルコのイスケンデルン地域に位置する自由シリア軍の基地に運ばれる。彼らは、欧米、トルコ、アラブの軍事教官や、米国、英国、フランス、イタリア、サウジアラビア、ヨルダン、カタール出身の民間安全保障コンサルタント、元特殊部隊の教官から軍事訓練を受けている。19

「リビアの新たな支配者がシリア反体制派に武器を提供」という記事で、英紙『テレグラフ』は、リビア国民評議会のメンバーがシリア国民評議会のメンバーと会談し、シリア反体制派の戦闘員に資金、訓練、武器を提供したと報じた。20 リビア軍の情報筋によると、 トリポリ軍事評議会の議長であり、かつてはリビア・イスラム戦闘団(米国務省がテロ組織リストの28番目に指定)の指導者であったアブドゥルハキム・ベルハジが、国民移行政権議長のムスタファ・アブドゥル・ジャリルの命令により、イスタンブールで自由シリア軍の指導者と会合を持った。アフガニスタンで米軍と戦うタリバンに加わっていたベルハジは 2003年にマレーシアでCIAに捕らえられ、リビアに送還された。ムアンマル・カダフィは彼を投獄した。米陸軍士官学校のテロ対策センターが、米軍および連合軍と戦うためにイラクにやってきた外国人戦闘員を分析した研究によると、リビアは外国人戦闘員の受け入れ数で世界最多を記録した。21 戦闘員の大多数は、ベンガジの東約200キロにあるダーナという町からやってきた。この町では、カダフィ政権に対する反乱が始まった際にイスラム首長国が宣言された。

リビア反政府勢力の指導者であるアブドゥルハキム・ベルハジも、自らが率いるリビア・イスラム戦闘団の戦闘員が、イラクにおける外国人戦闘員の2番目に大きな部隊であることを認めている。アイルランド・タイムズ紙は、リビア軍事評議会の副議長であるマフディ・アル=ハラティが、トリポリでの職務を辞して自由シリア軍を指揮していると報じた。22 こうした膨大な量の文書による証拠や自白は、カダフィ政権の打倒を任務とする欧米が支援する武装勢力と、シリアで同じ結果を目指している勢力との直接的なつながりを示している。

シリア国営テレビが押収した武器の在庫や、テロリストが外国から武器を入手した経緯を告白する映像を放映した際、欧米メディアはこれらの報道を完全に否定し、シリア国営メディアの正当性を損なうような報道を続けた。ロンドンに拠点を置き、サウジアラビアが資金提供している新聞『Asharq Al-Awsat』の紙面で、ヒラリー・クリントンはバラク・オバマ、ニコラス・サルコジ、そしてデービッド・キャメロンに合流し、欧米の政治指導者たちが新聞社説を執筆するという異例の動きに参加した。シリアで刻々と変化し、矛盾する公式見解を補強しようという試みである。「シリアでは後戻りはできない」と題されたクリントン氏の論説は次のように述べている。

アサド大統領が、抗議運動は外国の扇動によるものだと考えているとすれば、それは誤りである。確かに、一部のシリア兵士が死亡しているのは事実であり、その命が失われたことを私たちは遺憾に思う。しかし、死傷者の大半は非武装の民間人である。23

シリア兵士が死亡したというクリントン自身の証言は、抗議者の中に武装した個人がいたことを示している。驚くべきことに、クリントンはシリア軍兵士が死亡した一方で、抗議者の未確認報告によると、死亡者の大半は「非武装の民間人」であったと述べ、抗議の暴力的な性質を肯定し否定することに成功している。ヒラリー・クリントンの長文の非難のなかで、彼女は一度たりとも、反対派に潜むとほのめかした暴力を非難しなかった。クリスチャン・サイエンス・モニター紙の「シリアの平和的蜂起は暴動に変わったのか?」などの記事は、ダラアでの発生以来、シリア紛争の暴動的性格を否定しようとして、シリア反政府勢力が暴力を振るうという報告が増えていることをねじ曲げようとしている。24 この記事は、シリア政府が自国民に対して不当に暴力を行使しており、その結果、過激派の反政府勢力による暴力の増加に関して「自業自得」であると示唆している。シリアが機甲師団や軍用機を総動員する必要性は、デモ参加者がプラカードを掲げたりスローガンを叫んだりしているだけなら、そもそもないはずである。

2011年6月、フランスは、リビアの反体制派に武器を供与したことで、国連安保理決議第1973号に違反したことを認めることになる。反体制派は、飛行禁止空域が設定されるまでは「平和的なデモ参加者」と呼ばれていたが、彼らだけでは国を掌握できないことが明らかになったため、その時点から武器が追加供与された。2011年7月下旬になっても、シリアでは反政府勢力の支持者たちが抵抗を続け、現在も続く不安定な情勢が続いている。反政府勢力の支持者たちは、デモ参加者は虐殺的な政府に対する自衛手段に過ぎないとして、自分たちの行動を正当化している。スカイニュースなどの主流メディアは、ハマでのシリア軍の攻撃により「反政府武装勢力が機関銃を発砲し、警察署に火を放った」と報じている。トルコは武器を積んでいるとされるシリア船を差し押さえたと主張し、同国の「暴力的な蜂起弾圧」に対して同国への「武器禁輸」を実施する意向を表明した。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン首相は、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領に辞任を迫るため、同国に対して厳格な制裁措置を実施することで、トルコは米国と「協調して努力している」と述べた。25

トルコ政府はシリア政府による国家による暴力の疑いのある報告を非難しているが、アンカラ自身は、シリア、イラク、イランに接する主にクルド人が住む地域で、武装蜂起に対して数十年にわたる暴力のキャンペーンを展開している。実際 2008年には、武装したクルド人分離主義者が潜伏している疑いのある村々を攻撃するために、米国はトルコの戦車が米国占領下のイラク領内に侵入することを許可した。これは、エルドアン首相がシリアが使用したと非難している戦術そのものである。ガーディアン紙は2008年の記事「イラク、トルコにクルド人との国境紛争からの撤退を要求」で、この紛争は1984年から続いており、4万人の命を奪ったと報じている。26 一方、トルコのトルコ首相が隣国シリアに対し、アサド政権を転覆させようとする外国からの資金援助を受けた武装勢力を潰そうと説教している一方で、トルコ政府は自国内で活動するクルド人武装勢力に対抗するため、イスラエルの無人偵察機を増強し、米国のプレデター無人偵察機を自国に配備する準備を進めていた。

AP通信は、「トルコ:米国、プレデター無人偵察機の配備を検討」と題する記事で、トルコが「エスカレートするクルド人反政府勢力との戦いにおいて、無人偵察機の配備を強く求めている」と報じた。トルコは、無人偵察機の配備や、反政府勢力の潜伏が疑われる町への戦車の投入に加え、反政府勢力の拠点と疑われる地域への空爆や、広範囲にわたる全国的な大規模逮捕も実施している。つまり、トルコは、国家や市民に対する反乱軍の暴力を克服しようとする中で、シリアが非難されたのと同じ攻撃的な行為を歴史的に行ってきたのである。27 アンカラが一方的に国境を越えて反乱軍を追跡したことは、近隣諸国の主権に対する重大な侵害であったが、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、および数多くの不誠実な人権擁護団体は、トルコの行動に関して予想通り沈黙を守った。フリーダム・ハウス、国境なき記者団、国際人権連盟(FIDH)といった団体は、いずれも米国国務省やジョージ・ソロスなどのウォール街の金融業者から資金援助を受けているが、こうした非難が選択的に適用されていることを示している。

シリアのクルド人はアサド政権に対する反政府運動に参加しているとされており、トルコがシリアの内政に介入していることの皮肉をさらに拡大している。エルサレム・ポスト紙は、国外在住のクルド人「活動家」たちがヨーロッパに集まり、シリアのクルド人少数派に蜂起への参加を呼びかけたと報じた。28 クルド人は、欧米諸国とその傀儡政権が、中東諸国を不安定化させ、一定の「もっともらしい否定」をしながら標的国を悩ませるために、歴史的に選んできた代理人であった。2011年9月初旬には、アルジャジーラ(カタール政府が資金提供しているネットワークであり、シリアの反体制派に武器を提供しているとされる国)が、武装したシリアのデモ参加者が700人以上の治安部隊を殺害したことを認め、「シリア:。反政府勢力との数か月にわたる内紛でシリア治安部隊の数百人が死亡したことを認めたにもかかわらず、アルジャジーラの記事は「今になってようやく」デモ参加者が武装を考えるようになったと主張し、シリア軍の大きな損失は孤立した武装反政府グループによるものだと主張することで、状況を誤って伝えている。29 このような意図的に歪められた見方によって、軍事介入を求める声が絶えず上げられることになる。

シリアの反体制派内部に反乱分子が存在することを数ヶ月間否定していた米国を拠点とする外交問題評議会は、その後、「デモ参加者」が武装しているだけでなく、現地の反体制派が総勢1万5000人の抵抗軍を形成していることを認める報告書を発行した。CFRは、この「自由シリア軍」が武器と航空支援を要請していると主張しているが、武器が外国の支援者(特にトルコ、レバノン、イスラエル、リビア)からシリアの国境を越えて密輸されているという報告が文書で提出されているにもかかわらず、である。30 CFRの報告書は、 「政権交代」を促進するためにNATOが利用できる選択肢を模索し、「偵察機、後方支援、平和維持部隊、武装無人機、戦闘機、地上部隊」の使用や、「密輸された武器」の使用などを検討している。シリア国内で活動している武装勢力が大規模であるという主張は、シリア軍が横暴を極め、無防備な市民を殺害しているという西側の主張と真っ向から対立する。「1万5000人の脱走兵」からなる軍隊が、外国からの資金、武器、外交支援を受けて、武力で国を掌握しようとしているという主張を聞くと、シリア政府がその代わりに虐殺を行っているなどとは信じがたい。フランス24は、2011年12月に44人の死者を出したダマスカスでの2件の自爆テロについて、シリアのムスリム同胞団が犯行声明を出すだろうと報じた。その根拠として、同団体のウェブサイトに掲載された公式声明を引用している。

「我々の勝利を収めたスンニ派旅団の1つが、栄光ある同胞の中から選抜された4人の神風特攻隊員による作戦を成功させ、オマヤド王朝の首都ダマスカス中心部のクファール・スースにある国家保安庁舎を標的に攻撃した。アサド派のギャング集団から多数の死者と負傷者が出た。31」と述べた。

2012年2月、ロシアと中国は、シリアへの介入はシリアの国家主権を侵害するとして、国連安全保障理事会でシリア介入決議案に拒否権を行使し、米国代表団から激しい非難を招いた。米国の国連大使スーザン・ライスは拒否権行使を「不快で恥ずべき行為」と非難し、米国務長官ヒラリー・クリントンは「昨日の国連での出来事は茶番劇だ」と嘆いた。反対派のシリア国民評議会は、モスクワと北京を「殺戮と大量虐殺のエスカレートに責任がある」と非難し、これは「無責任な一歩であり、罪に問われることなく殺害を許可するに等しい」と述べた。32 33

国連で展開された外交上の相違は、「シリア支援国グループ」の結成につながった。ニコラス・サルコジ前フランス大統領が「シリアの反体制派への支援を調整する同調する国家グループ」の結成を呼びかけた中、「フランスはあきらめない」と付け加えた。34 歴史は、パリからの外交支援の不誠実な意図をはっきりと示している。フランス植民地政府が、フランス委任統治領シリア保護領の廃止を求める人々を鎮圧するために外国の兵士を利用したように、フランスはシリアに対する外国の戦闘員への武器供与と支援にも関与している。1945年にファリス・アル=クーリー元首相が国連でシリアの独立を訴えていた一方で、フランス軍機がダマスカスを爆撃して服従させたように、フランスは再び軍事介入の考えを推進する意思を示し、制空権を駆使してアサド政権を叩き潰そうとしている。シリア政府への支援を取りやめるのは欧州諸国だけではない。アラブ世界の新たな指導者たちもまた、西洋諸国の圧力に屈することになるだろう。同様に、チュニジアでは、最近就任したモンセフ・マルズーキ大統領(財団が資金提供するチュニジア人権連盟の代表であり、全米民主主義基金を通じて米国国務省から直接資金提供を受けている。ジョージ・ソロスのオープンソサイエティ研究所)がチュニジア政府によるシリア政府の承認を撤回し、チュニスおよび同地域で新たに誕生した同盟国からシリア大使を追放するよう促した。

リビアでは、赤のイスラム主義の要素が関与しているのではないかという懸念が高まっているにもかかわらず、ワシントンは反政府勢力への支援を衰えさせることなく継続した。こうした懸念に対処しようとして、ジョン・マケイン上院議員はカダフィ大佐が失脚する前にリビアを訪問し、ベンガジの歴史ある裁判所の外に集まった群衆を前に演説し、リビアの反体制派に2500万ドルの対外支援を約束し、次のように述べた。

私はこれらの勇敢な戦士たちと会ったが、彼らはアルカイダではない。それどころか、彼らは祖国を解放しようとするリビアの愛国者たちだ。私たちは彼らを支援すべきである。36

2012年3月には、まさに同じベンガジの裁判所がアルカイダの黒旗を掲げていた。37 マケインは、米国務省のテロ組織リストに載っているリビアのイスラム戦闘団(LIFG)の東部地域の武装勢力、すなわちアフガニスタンとイラクの両方で米軍と戦った勢力を支援しようとして、世界を欺こうとした。マケインは、テロリストを口先だけで支援するだけでなく、武器、資金、訓練、航空支援といった物的支援も提供しており、これは米国法典第2339A条および第2339B条「指定された外国テロ組織への物的支援または資源の提供」に明確に違反している。マケイン氏の組織である国際共和党研究所(IRI)は、ニューヨーク・タイムズ紙で「アラブの春」の事件に先立ち、アラブ世界中の反体制派に支援を提供しているとして名指しで非難された。2011年4月にニューヨーク・タイムズ紙が掲載した記事「米国の団体がアラブの蜂起を助長」では、次のように述べられている。

エジプトの4月6日運動、バーレーン人権センター、イエメンの青年指導者エントサル・カディのような草の根活動家など、この地域を席巻した反政府運動や改革に直接関与した多くのグループや個人が、ワシントンに本拠を置く非営利人権団体フリーダム・ハウスや、国際共和協会、国家民主協会のようなグループから訓練や資金援助を受けていた。

モスクワの当局者が、アメリカが東ヨーロッパに建設を計画している弾道弾迎撃ミサイルシステムがロシアを標的に使用されないという法的保証を拒否したことに対して、強い憤りを表明する一方で、マケイン氏は北アフリカの情勢が不安定なさなかに、ロシアと中国の首脳を嘲笑した。

もし私がウラジーミル・プーチンなら、今日、KGBの仲間たちとクレムリンで少しは威張らないだろう。もし私がウラジーミル・プーチンなら、胡錦涛国家主席と、13億人の運命を左右する数人の男たちがいる海辺のリゾートで少しは安心しないだろう。

マケイン氏のIRIは、ロシアの議員や監視団から広範な批判が寄せられている中、米国が支援する複数のNGO、特に「投票の不正を暴く」ことを目的とする独立選挙委員会GOLOSに資金を提供することで、ロシアの大統領選挙の正当性に対する疑念を煽るのに一役買っている。ロシアの監視団体「シビル・コントロール」の最高経営責任者ゲオルギー・フィオドロフ氏は次のように述べた。

彼らは明らかに不安定化を狙った戦術を用いている。選挙不正に関する「最新」ニュースを人々が耳にするよう、周到に世論を誘導しているのだ。 メディアは、親クレムリン派と民族主義的な若者たちの衝突を、特殊警察が鎮圧する様子を録画して大々的に報道するだろう。 このような映像は、ロシアの選挙に対する信頼を少しでも残しているものをさらに薄めることになるだろう。

ロシアの不安定化を企てたマケイン氏の役割は、シリアに関する彼の好戦的な発言に比べればかすんでしまうだろう。マケイン氏はあらゆる機会をとらえて、シリアの反体制派に支援の手を差し伸べるよう呼びかけ、ダマスカスに対する武力行使を示唆してきた。マケインはシリアに対する米国の空爆を要求し、米国の軍事力の行使を推進しているが、米国の領土安全保障に対する信頼性のある差し迫った脅威を挙げることができない。これは明らかに処罰に値する犯罪行為であり、少なくとも精神的な不安定さを示す兆候であり、高齢の上院議員の解任理由となる。マケイン氏と同様に、リビアの首相に新たに任命された元石油研究所会長のアブドゥルラフマン・エル・ケイブ氏も、ロシアの国連大使ヴィタリー・チュルキン氏がリビアがシリアの過激派に直接資金援助、訓練、武器供与を行っていると主張したことを真っ向から否定するだろう。エル・ケイブ氏の否定は、テレグラフ紙の「リビアのイスラム指導者がシリアの野党軍と会談」といった報道と真っ向から対立する。同紙は、「リビアの新政権が、アサド政権に対する反政府勢力の拡大に資金と武器を提供した」と報じている。41 リビアのエル・ケイブとの会談で、米国務長官ヒラリー・クリントンは、米国がシリアの反体制派を組織化し、NATOによる数か月にわたる爆撃を開始する前に、米国とNATOがリビアで行ったのと似たような体制を整えていたことを認めるだろう。その結果、トリポリ、バニ・ワリド、シルトの各都市は壊滅的な包囲攻撃を受けることになった。クリントンは次のように結論づけるだろう。

考えてみてほしい。昨年の今頃、米国はリビア国民を支援する国際連合の結成に取り組んでいた。そして今日、リビア国民が平和と繁栄をもたらす新しい民主主義を築き、すべての市民の権利と尊厳を守るために、私たちはその支援を誇りを持って継続している。42

クリントンのコメントは、カダフィ大佐の残忍な暗殺に関与した反体制派が、チャドやニジェールからの移民労働者、および国内で広がっている人種的暴力のキャンペーンにおける浅黒い肌の国民を迫害しているというリビアからの広範な報告に続くものである。2011年8月下旬にリビアを訪問したウォルター・ファントロイ元米下院議員は、フランスとデンマークの特殊部隊が深夜に小さな村を急襲し、反体制派と政府派の両方を斬首したり殺害したりするのを目撃したと主張している。報道によると、

反体制派はファントロイ氏に対し、欧州軍から「中に留まるように」と指示されていたと語ったという。ファントロイ氏によると、欧州軍は反体制派に「自分たちが何をしたかよく考えろ」と告げているという。つまり、フランスとデンマークは爆撃と殺害を命じ、反体制派に手柄を横取りさせていたのだ。

NATOがリビアに介入した結果、戦闘部族や民兵が領土の支配権を奪い合うことで、リビアは恒久的な暴力と社会分裂に陥り、かつては統一されていたリビアは、不安定な国民評議会の監視下にある無数の封建領に分裂することになった。BBCの「リビア民兵がカダフィ派の町タワルガを『恐怖に陥れる』」という報道によると、カダフィ派を標的とするテロリスト民兵団により、かつて3万人が住んでいた町全体が放棄されることになるだろうと報じている。44 2012年3月には、 2012年3月には、リビアのアラブ人反政府勢力が捕らえたリビアのアフリカ系民間人に対して、カダフィ政権時代の象徴である緑のリビア国旗を強制的に食べさせている様子を捉えた不穏なビデオ映像が公開された。その映像では、捕虜に対して「旗を食らえ、この野郎」と叫ぶ声も聞こえる。

このような現実には、シリアで後に起こる出来事の明白な前兆である「すべての市民の権利と尊厳」というクリントンのビジョンは存在しない。45 2012年3月16日までに、ロイターは「トルコはシリア国境沿いに緩衝地帯を設置することを検討している」という記事で、「トルコはシリア国内に緩衝地帯を設置し、同国内の紛争から逃れる難民の増加に対処することを検討している」と報じた。46 提案された緩衝地帯は実際にはシリア領内に位置することになり、その維持にはトルコ軍の駐留が必要となる。トルコは、国内および国外で数十年にわたってクルド系少数民族に対して組織的な暴力行為を繰り返してきた国であり、1900年代初頭のアルメニア人虐殺を今も否定している。地政学的な策略を正当化する理由として「人道上の懸念」を主張する資格は、中東地域でも最も低い国である。地域覇権を狙うアンカラは、シリアの不安定化と政府転覆を狙う武装勢力にNATOの資源を流し込むための取り組みを主導し続けるだろう。2012年3月18日、シリアの首都ダマスカスのキリスト教徒居住区で、政府庁舎を狙った3件の自爆テロが発生し、推定27人の民間人が死亡した。オーストラリアは、「シリアで爆弾が炸裂、サウジアラビアが『反体制派に武器を供給』」という記事で、米国から多額の軍事資金援助を受けているサウジアラビアがシリアの反体制派に武器の供給を開始したと報じた。「サウジアラビアの軍事装備がヨルダンに送られ、自由シリア軍に供給される予定である」と、アラブ外交官のコメントを引用している。47

2012年2月には、コフィ・アナン(ジョージ・ソロス、ズビグネフ・ブレジンスキー、イスラエルのシモン・ペレス大統領、エジプトのムハンマド・エルバラダイ、リチャード・アーミテージ、ケネス・アーデルマンの側近)が作成した6項目の和平案が実施され、反体制派と政府軍の停戦が呼びかけられた。

米国の外交政策に影響を与えることで知られる企業出資のシンクタンク、ブルッキングス研究所が2012年3月に発表した出版物は、シリアにおけるワシントンの目的の本質について、さらに深い洞察を提供している。ブルッキングスの『中東メモ』は、「シリアを救う: 政権交代の選択肢を評価する」と題されたこのメモでは、シリアの反体制派がアルカイダと協力し、宗派間の暴力を増加させていることを認める内容となっている。また、コフィ・アナン氏の和平案が、シリア領内に占領された「安全地帯」を確立し、そこからさらなる攻撃を行うことを試みるために利用される可能性についても述べられている。48 ブルッキングス研究所のメモでは、アサド政権を打倒する方法について、綿密な理論を展開している。その中には、経済制裁によってさらなる不安を煽り、人権侵害を理由にシリアに積極的に介入するといった方法も含まれている。

アラブ諸国、中東諸国、および欧米諸国のパートナーと協力し、ワシントンはより効果的な人道支援を推進し、アサド政権を打倒するためのより積極的な介入オプションへの道筋を整えることができる。

ブルッキングス研究所は、厳しい予算制約と海外での戦争に国民が警戒していることを理由に、ワシントンが「後ろから主導する」戦略をとっていると主張する。ヨルダンやトルコなどの周辺諸国にシリアの過激派反体制派への支援を継続的に提供するよう圧力をかけ続けることによって、

イスラエルはゴラン高原またはその近辺に軍を配置し、そうすることで、政権軍が反体制派の弾圧からそれる可能性がある。この姿勢は、アサド政権に多面的な戦争の恐怖を想起させる可能性がある。特に、トルコが国境で同様の行動を取る意思があり、シリアの反体制派が武器と訓練を継続的に受けている場合である。

これらの同盟国は、自国の軍隊によって守られたシリア国境沿いの安全な基地を反体制派に提供しなければならない。 軍事面では、米国と協力して、武装と訓練の多くを行うことができる。 また、イスラエルを含む地域情報機関も、アサド政権を弱体化させ、反体制派を強化するために、水面下で活動することができるだろう。

ブルッキングス研究所のメモは、可能な限り費用対効果の高い手段を用いてシリア政府を転覆させるというワシントンの決意を強調している。ヒラリー・クリントン氏や他の人々は、アナン・プランによる停戦案を支持するような口先だけの対応をしていたが、報告書では反体制派への武器供与に関して次のように述べている。

あるいは、米国はアサド政権を追い詰め、弱体化させながら、地域的な敵対勢力を直接介入のコストを回避しつつ弱体化させることが依然として価値があると考えているのかもしれない。

米国は1万フィートの上空から「クリーン」な戦争を戦い、地上での汚い仕事は自由シリア軍に任せることを期待している。おそらく、イラク式の国家建設への大規模な関与を回避することさえ可能になるだろう。

ブルッキングス研究所が公表したこの不明瞭な文書は、シリアにおける「保護責任」が政治的に利用されていることを示す証拠となっている。残虐行為が、民間人を保護する口実として、シリア政府を転覆させ、米国の地政学的目標をこの地域で推進する根拠として、組織的に行われることになるからだ。シリアの混乱が続くにつれ、シリア国境付近や国内で活動する急進的武装集団による広範な流血を長引かせることで、欧米諸国が意図的にシリアを不安定化させていることを否定することはますます困難になっていった。3月下旬、マイケル・E・オハンロン(Michael E. O’Hanlon)氏(フォーリン・ポリシー誌の研究部長兼上級研究員であり、米中央情報局(CIA)のデイビッド・ペトレアス(David Petraeus)大将の外部諮問委員会のメンバーでもある)は、「シリアにおける軍事的選択肢とは?」と題する論説を執筆した。同氏は、米国の後押しによる反政府運動、武装勢力、制裁がすべてすでに始動しているものの、効果を上げていないため、表立った軍事的選択肢のみが検討されている現状を踏まえ、シリアの地政学的特性に適したいくつかの緊急時の選択肢を提案した米国の後押しによる反乱、武装勢力、制裁がすべてすでに動き出しているが、いずれも成果を上げていないため、表立った軍事的選択肢のみが検討されている。49 オハンロンが想定するシリア政府転覆のための軍事的措置には以下が含まれる。

アサドに対するクーデターを促すための、正当な戦争行為と見なされるべき懲罰的な海軍または航空作戦。これにより、シリア(その中には数百万人の民間人も含まれる)が輸出入を完全に断たれることを目的としている。オハンロンの記事では、アサドの同盟国を心理的に揺さぶり、離反させ、米国が支援する反体制派と「権力を共有」させることを目的とした空爆も提案されている。

  • アサド失脚を支援するための、より広範なバルカン半島のようなキャンペーン。オハンロン氏は、リビアに降りかかったキャンペーンに類似したキャンペーンについて言及している。バルカン半島に焦点を当てたキャンペーンは、歴史的な観点から、また、その歴史的な結果を「好ましい」ものとして書き換える数々の試みがあったためである。リビアで展開されたばかりのNATO主導の作戦を想起させるような、主要都市のいくつかの破壊を伴う作戦は、シリアの潜在的な離反者たちに、国家がNATO主導の国際介入を受けることの代償を思い知らせることになるだろう。その代償とは、シリアを永遠に分裂させ、不安定で、暴力に満ち、政治的な将来の見通しが立たない状態に陥れることである。

シリア市民のための安全地帯の創設は、トルコが選出された目的と驚くほど類似している。ブルッキングス研究所が示唆しているように、そのような地帯は、敵対行為を拡大させる拠点として悪用される可能性がある。

代替案としては、アナン氏の主導の下で実施されているように、外交努力をまず暴力の終結と人道支援へのアクセスを確保する方法に集中させることである。これは、安全地帯や人道支援物資輸送路の創設につながる可能性があるが、限定的な軍事力の行使を伴うことになるだろう。もちろん、これは米国のシリアに対する目標には及ばず、アサド政権を維持することにもなりかねない。しかし、この出発点から、適切な国際的権限を有する広範な連合が、その努力にさらなる強制措置を加えることも可能である。

オハンロン氏は、この選択肢は、上述の選択肢の1つまたは両方が成功した場合にのみ達成できる可能性があることを間接的に認めている。

オハンロン氏は、これらの選択肢をペンタゴン(国防総省)の検討用に書いたのではなく、アサド政権の同盟者や、シリア政府を支持する国内のビジネス界の関係者の不安につけ込み、シリアの体制に対して強要を行っている欧米の専門家やメディア向けに書いたのだ。シリアの反体制派は、外国人戦闘員、外国製武器、外国からの資金援助、そしてそうした外国からの援助が衰えることなく継続することを許容する国際的なコンセンサスに完全に依存していた。オルタナティブメディアが反乱勃発以来、シリアの反体制派による虐待を報道する一方で、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、12カ月間の戦闘の後、反体制派を称賛する報告書を発行した。HRWの2012年3月の報告書「シリア: 武装反体制派による人権侵害」と題されたこの報告書では、シリアの武装反体制派が組織的に誘拐、拷問、大量殺人を行っていることを詳細に述べている。50 この報告書は主に治安部隊と政府支持者に対して行われた残虐行為に焦点を当てようとしているが、民間人の被害者についても言及している。報告書には次のように記載されている。

人権侵害には、治安部隊のメンバー、政府支持者、およびシャビーハと呼ばれる親政府民兵組織のメンバーと特定された人々に対する誘拐、拘禁、拷問が含まれる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、武装反体制派グループによる治安部隊のメンバーや民間人の処刑に関する報告も受け取っている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、FSA(自由シリア軍)によるイラン国籍者の誘拐についても懸念を表明している。その中には、同グループが民間人であることを確認している者もいる。

HRWの報告書は、シリアの反体制派が容疑者を拘束し、拷問による自白を根拠に裁判なしで処刑している実態を伝えている。その他の処刑は、容疑者の所属が疑われるという理由以外には明白な罪状が挙げられていない報復として、単に実行されている。この報告書は、シリアの過激派反体制派グループは、リビアにおけるNATO支援の反体制派と同様に、無法で非道徳的な宗派主義の過激派であり、欧米の主流メディアでは「民主化運動活動家」や「非武装の民間人」として報道されていると指摘している。シリアの混乱の初期段階から、オルタナティブメディアは、反対派による組織的な暴力の戦術を報道していた。破壊行為や放火、狙撃や爆弾テロ、武装蜂起による暴力行為などである。ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書(およびその報告書に対する反応)はほとんど注目されず、ほとんどのメディアは、シリアの反体制派が実行している戦争犯罪の真の意味合いを軽視したり、歪曲したり、曖昧にしたりすることを選択した。この戦争犯罪は、米国、英国、フランス、トルコが主導するNATO、および彼らの代理である「アラブ連盟」が、シリア政府を転覆させるためのキャンペーンにおいて、拷問者、誘拐犯、大量殺人犯を支援していることを意味する。2012年4月初旬には、「シリアの友人」グループが隣国トルコで会合を開き、反政府勢力の戦闘員を再武装・再配置する方法を考案するとともに、反政府勢力から奪還した都市からシリア軍を撤退させるよう要求した。BBCは、「イスタンブール会談でシリア危機を討議」と題した記事で、シリア政権への圧力を強め、反体制派を強化する方法が「模索」されていると報じた。また、反体制派に武器を供給するとの呼びかけや、シリア軍将校の離反を促すために反体制派の戦闘員に給与を支払うとの提案もあった。51 国連安保理での拒否権行使を受けて、モスクワと北京はシリアでの流血に共謀しているとの厳しい批判と非難を受けたが、「シリアの友人たち」は、シリア全土の秩序回復を試みる政府に圧力をかけることを公然と要求し、一方で反体制派を「強化」し、武器を供給するとしていた。

同盟国が資金や物資を無差別な反乱軍に提供する一方で、欧米の指導者たちは、その後の交戦で殺害された非武装の民間人に対する「保護責任」を強調することで、偽善的に道徳的な優位性を主張した。2005年の国連イニシアティブである「保護責任(R2P)」の原則は、もし国家が自国民を保護できない場合、「国際社会」による直接介入のために主権を放棄するというものである。数ヶ月前にリビアで実際に起こっていたことと、この主張の間に明らかな矛盾があるにもかかわらず、NATOはR2Pの原則を引用し

教義を持ち出し、「民間人を保護する」ための軍事介入を開始した。しかし、NATOは民間人への支援とは程遠い対応を行い、反政府勢力の攻撃への空爆支援、反政府軍への情報および特殊作戦支援を行い、カダフィの政治的側近を組織的に標的にした。その中には、カダフィの家族の家屋への空爆も含まれ、NATOの空爆により、カダフィの子供や孫が命を落とした。

連合国は、カダフィ政権が崩壊した暁には新政権と有利な契約を結ぶことを条件に、亡命中のリビア人政治家や学者が主導する政府に外交支援を行った。英国は、NATOのリビア介入に5億ドルの予算を計上した。しかし、英国貿易・対英投資省によると、保健医療や教育から電気や水道供給に至るまで、リビアの再建に関する契約は10年間で3000億ドルを超えると見積もられている。52 リビアへの介入は、再開発契約だけでなく、リビアの広大な天然資源へのアクセスを拡大する機会によっても利益を生み出した。米国国家情報長官室が発表した報告書は、20-30年までに国際的な淡水不足が生じると警告しており、リビアのヌビア砂岩帯水層は、化石水帯水層としては世界最大級であることから、アフリカの水資源を支配するための極めて重要な戦略的要衝となる。53 リビアは 2010年時点で764億バレルというアフリカ最大の確認石油埋蔵量と世界第5位の埋蔵量を誇っている。54 NTCは、「民間人を保護する」というNATOの任務解釈に反対する国々、例えばドイツなどとのビジネスチャンスを断った。55 ロシアとカダフィ政権との間で結ばれた総額数十億ドルに上る建設および武器契約もロシアとカダフィ政権間の数10億ドル相当の建設および武器契約も再評価の対象となった。56 西側諸国が支援する国民評議会の代表団はロンドンで会合を開き、企業幹部と「リビア再建の大きな機会」について協議した。一方で、当局者は政治的支援の見返りとして、フランスの石油会社トタルに石油契約の35%を約束したとされる。フランスの情報研究センターの創設者で所長を務めるエリック・ドゥネーヌ氏は次のように付け加えた。

数週間前にリビアにいたとき、私はNTCに、欧米の銀行に凍結されている資金を返還する際に、そのお金で支払いをしなければならないことを説明しようとした。彼らは、何が起こるのかを完全に理解している。彼らは、フランス、英国、そしてこの作戦に関与していたすべての主要なNATO諸国に、多額の資金を返還することになるだろう。57

明らかに、NATOは「保護する責任」の原則を残酷に愚弄し、リビア国民に壊滅的な惨禍をもたらし、統一された国家政府を転覆させ、国家全体を分裂と混乱に陥れた。リビアにおけるNATOの作戦の失敗にもかかわらず、カダフィ打倒に加担した同盟国は、シリアにR2Pモデルを適用するよう求めた。シリア危機を外交的に鎮静化させるための取り組みの当初から、米国の政策立案者たちは、コフィ・アナンによるシリアでの「平和ミッション」は、NATOの代理勢力が完全に壊滅しないよう、「安全地帯」を設けてそこから活動させることで、シリア政権に対する国際的な圧力が強まる中、流血の惨事を長引かせるための策略に過ぎないことを認めていた。2012年4月9日、NATOの公式ブログ「Alliance News Blog」に「米国はすでにアサド政権打倒にコミットしている」というタイトルの投稿が掲載された。この投稿は、米国がシリア政府の転覆にコミットしていることを裏付けるもので、米国は「すでに(バシャール・アサド大統領の)転覆を支援することにコミットしている」が、「そこへ至る最も暴力的でコストのかからない方法を探しているだけだ」と述べている。

この記事では、米国が「自由シリア軍」に装備を提供していることを完全に開示し、さらに、コフィ・アナンが仲介した「和平合意」は、政権交代の基盤を築くための策略に過ぎないことを認め、次のように述べている。

殺戮のペースが遅くなれば、時間的余裕が生まれる。体制を弱体化させるための経済制裁を行う時間、ロシアを説得してアサド政権から離反させ、アサド政権を追い詰めるための時間、そして、反体制派とその新軍がより効果的な軍事力へと組織化するための時間である。

彼らの犯罪性をさらに深刻化させたのは、停戦を和平交渉の仲介や和解の開始に利用するのではなく、NATOが公式に戦闘の一時停止を、野党が煽る次の暴力の準備期間として承認したという事実である。NATOは、資金援助や武器供与を完全に準備していた。NATOは、軍事介入は「もし」ではなく、「いつ」行うかという問題であり、事前に定められた達成すべき目標の数によって決まることを認めるだろう。これには、シリアの反体制派がより組織化されること、軍事援助が「急進的イスラム主義者」の手に渡らないこと、そしてトルコについては、ブルッキングス研究所の文書が以前に述べたように、「シリアとの国境沿いに反体制派のための安全な避難場所を確保すること」が含まれる。

2012年4月下旬、アナン氏の「和平案」は公式に支持されたものの、戦闘を続ける反体制派に資金、武器、支援を公然と提供し続ける意向を示していた反体制派と、彼らを支援する欧米諸国およびアラブ連盟の両者から完全に拒絶された。ロイター通信は、「国連、シリアの賛同を求める大規模な支援活動」と題する記事で、国連が「支援活動家」を派遣し、シリア全土に事務所を開設して、彼らが「大規模な人道的支援活動」と呼ぶものを実施しようとしていると報じた。59 提案された停戦を完全に無視し、欧米メディアは代わりにシリア政府が義務を果たしていないと非難した。ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ(HJS)のような新保守主義者が主導するシンクタンクは、シリア政府が国連が提案した「和平合意」の条件を「連続的に違反している」と非難するだろう。アルジャジーラのレギュラー、HJSのマイケル・ワイスは、「外交的選択肢」は世論を満足させるために利用されているに過ぎず、最終的にはNATOが国連の枠外で一方的に軍事介入を行うだろうと公言している。欧米諸国がシリア国内での暴力を煽り続け、「人道的介入」を承認するよう圧力をかけ続ける中、シリア政府の「交戦状態」を理由に、軍事介入が常態化するだろう。

ほぼ連日のように、シリアの反体制派は治安部隊だけでなく、シリア全土でテロ爆弾攻撃キャンペーンを展開し、多数の民間人が死亡または負傷した。シリアの反体制派は、そのような攻撃を行う能力がないと主張しているが、その武装勢力は、NATO加盟国のトルコに避難している人員、ワシントンやロンドンに避難している指導者、そして無限に供給される小銃だけでなく、ロケット推進擲弾筒、迫撃砲、ミサイル、さらには戦車まで操る戦闘員など、非常に高度な武装をしていることが明らかになっている。シリア政府は、反体制派による停戦違反の長いリストを文書で入手したと主張した。このリストは、偏向的な欧米メディアのヘッドラインで毎日確認できるものであり、今もなお、その暴力を一方的なものと描こうとしている。

イラクのアルカイダ指導者アイマン・アル=ザワヒリが、外国からの戦闘員の参加と路肩爆撃戦術の使用を奨励し、アラブ全域のイスラム教徒に自由シリア軍への動員と支援を呼びかけた3カ月後、ロイターは「劣勢のシリア反体制派、爆弾にシフト」と題する記事を掲載した。この記事には、シリアを荒廃させる一連の爆撃の背後に反体制派がいるという反体制派自身の告白が含まれていた。60 61 これに先立ち、欧米の報道機関やシリアの反体制派指導者らは、これらの爆撃は反体制派の正当性を損なうためにシリア政府が行った「偽旗作戦」であると主張していた。62 ロイターの記事は、FSAが公式には国連の停戦を「支持」している一方で、その戦闘員たちはそれを明確に拒否しており、実際に公然と停戦違反を犯していることを認めている。また、この報告書は、国連の停戦が発効する以前に、シリア全土で治安部隊が武装した過激派と戦っていたという、シリア大統領バシャール・アル=アサドの声明を裏付ける内容となっている。報告書には次のように記載されている。

軍が都市の拠点から反体制派を追い払って以来、一部の反体制派はゲリラ戦でもアサド政権の戦車や大砲には勝てないと悟ったと述べた。シリア解放軍の報道官であるクデマティ氏は、同グループの戦闘員は現在、爆弾の「製造施設」に最も注意を集中していると述べた。「爆弾の製造と投下技術が向上するにつれ、事態は悪化の一途をたどるだろう。

シリア反体制派が無差別テロ戦術に訴える中、4月下旬にはハマ市で爆発があり、70人が死亡、市内の大部分が壊滅的な被害を受けた。

ロイター通信は反体制派の戦闘員のコメントを引用し、「人々はあまりにも貧しく、十分な数のライフル銃も持っていないため、軍隊には敵わない。だから、戦い方を工夫しようとしている」と報じた。ロイターは、取材した反体制派が「自分たちの爆弾はアルカイダとは異なり、軍事施設を狙ったものであり、決して民間人を標的にしたものではない」と主張していると主張し、読者の不安を和らげようとした。しかし、逆説的にも、ロイターの記事は、反体制派の爆撃キャンペーンは「スンニ派の反体制派」によって行われており、彼らは隣国イラクで米軍と戦うことで爆撃技術を学んだと暴露した。つまり、反体制派が自分たちとは違うと主張する「アルカイダ」そのものである。また、「シリア解放軍」の報道官は、自軍の戦闘員が爆弾の「製造施設」を運営していることを認めた。BBCは当初、シリア政府が無差別に「スカッドミサイル」をハマ市に発射したと報道したが、その後、実際には爆発は反体制派の爆弾製造施設での事故によるものだったという報告が浮上した。

2011年初頭から、オルタナティブメディアによって、シリアの反体制派は国内外のテロリストとして注目されていたが、当初の報道から1年以上経ってから、主流メディアが、シリアの反体制派が爆発物を製造し、全国に無差別に配備していたことを確認した。欧米の報道機関は、できる限りこの事実を曖昧にしようとし、その過程で自らの正当性を回復不能なまでに損なった。国連は、シリア反体制派が実際に停戦違反を犯していることを認め始めたが、それは暴力が明らかに横行し、制御不能となった後だった。米国、英国、フランス、サウジアラビア、カタールなどの「シリアの友人たち」が反体制派に武器、資金、装備、訓練、政治的支援を提供していたにもかかわらず、である。米国、英国、フランス、サウジアラビア、カタールなどの「シリアの友人たち」が反体制派に武器、資金、装備、訓練、政治的支援を提供しているため、暴力が明らかに横行し、制御不能となっている。64 5月9日、ブルッキングス研究所は予想通り、アナン氏の「和平合意」は失敗であり、外国が支援する不安定化工作を拡大してシリア軍を限界まで追い込む時が来た、と宣言した。「アナン氏のミッション・インポッシブル:なぜ誰もがシリアにおける国連の計画が成功する可能性があるなどと見せかけているのか?」と題された記事の中で、ブルッキングス研究所のドーハセンター所長であるサルマン・シェイク氏は、停戦の失敗はシリア政府の好戦性と残虐性によるものだけだとし、シリアの反体制派による文書化された、さらには認められた残虐行為については一切言及せず、次のように述べている。

国際社会がアナン氏の努力に注目し続けている一方で、アサドとその政権が依然として国際的に非難されるべき存在と見なされていないのは信じがたい。シリア政府はことあるごとに国際社会に嘘をついてきた。アサドと交渉しようとする試みはまったく無駄であると、世界はいつになったら気づくのだろうか。アサド政権はこれまで、アナン案に同意しながら、それを骨抜きにするためにあらゆる手段を講じるという時間稼ぎの戦略をうまく使ってきた。一方、国際社会は、非武装の国連監視団を導入すればシリア国内に平和がもたらされ、政権の行動が穏健化するという非現実的な論理に踊らされ、アサド政権の手の内に落ちてしまった。

また、シーク氏は、シリア政府が非合理的にシリア国民に対して残虐なキャンペーンを行っていると描写する一方で、「自由シリア軍」がトルコから軍事行動を行っていること、そしてシリア国民評議会(SNC)が

評議会(SNC)が外国の支援を受け、影響を受けた指導者層を代表していることを認めた。シェイク氏はシリアの少数民族を「傍観者」と表現したが、彼らが外国主導の不安定化に加わっていない理由については説明を避けた。実際には、シリアのキリスト教徒の大規模コミュニティを含むこれらの少数民族グループが、反乱軍の残虐行為による最大の被害を受けていた。

シリアのキリスト教徒は、シリア治安部隊ではなく、「自由シリア軍」の旗印のもとで活動するNATO支援の暗殺部隊による「民族浄化」とも呼ぶべき行為の被害に遭っている。ロサンゼルス・タイムズ紙は、「アサド後の生活を恐れるシリアのキリスト教徒」という記事で、シリアのキリスト教徒が「スンニ派イスラム教徒の多数派による新たな独裁政権」の出現を恐れていることを伝えている。

また、シェイク氏の論文では、「国内および国外の反体制派指導者たちは、自分たちの仲間を団結させるだけの資源を持っていない」という主張によって、別の真実も明らかにされている。確かに、主流メディアの支配的な論調が主張するように、シリア国民の大多数を代表する反体制派グループであれば、シリア国内で「単独」で資源を見つけるのに苦労することはないだろう。シェイクが外交的解決を放棄してアサド政権の公然たる打倒を主張しているにもかかわらず、シリアの不安定な情勢は、外国の後ろ盾を持つ暴力的な少数派によって引き起こされ、シリア国内の暴力的なスンニ派過激派と、国外から持ち込まれた多数の外国人戦闘員によって実行されていることは否定できない。シリア国内の反体制派(イスタンブールを拠点とするシリア国民評議会とは対照的)を代表する左派系政党連合で、外国の介入に断固として反対する国民調整委員会のような、あまり認知されていない多くの反体制派グループは、「自由シリア軍」の外国人との協力関係を「容認できない」としている。

2012年4月下旬には、NATOおよびその代理勢力がシリア政府を転覆させようとする努力が失敗に終わっていることが明らかになった。その主な理由は、この運動の半ば秘密裏に行なわれている外国からの支援が、依然として流れを変えるには不十分であったためである。ブルッキングス研究所は、外国の軍事介入も排除せずに、シリアの反体制派へのより明白な支援を呼びかけた。一方、主流メディアは、実際には「自由シリア軍」がテロ攻撃の悪辣なキャンペーンを展開し、アナン元国連事務総長の国連監視団の護衛車列を攻撃しようとしたことさえあったにもかかわらず、一方的であると決めつける報道を続けていた、シリア治安部隊は秩序回復のための戦いを続ける以外に選択肢がなくなった。68 この事件の後、フランスは不可解にも、シリア政府が国連監視団に十分な安全を提供していないとして非難した。それまで1年間、フランスは、この攻撃の原因となった過激派による暴力を目の当たりにしながらも、シリア政府が秩序回復を試みていることを非難していたのだ。特に暴力の激化や国境を越えた事件を通じて、NATOが支援しトルコが主導するシリアへの侵攻を正当化し、「安全地帯」を確保するための支援を構築しようと、あらゆる形や方法で国連の和平計画を妨害する外部勢力の努力が重ねられていた。そこから、ブルッキングス研究所のシェイク氏が言うように、シリア軍を限界まで「疲弊させる」ために、世界中から武器と戦闘員が絶え間なく流入することになる。

国連監視団は常に標的とされ攻撃を受け、ダマスカスを揺るがし続けた路上爆弾を辛うじて逃れた。反体制派とメディアは再び手を組み、いかなる責任も否定した。反体制派がロイターに認めたように、ダマスカスでの爆撃は政府情報局のビルを標的としたもので、反体制派が標的としていたまさにその種類のものである。反体制派がロイターに語った「軍事施設だけを標的としている」という理想主義的なコメントは、シリア軍が人口密集地の治安維持を試みた際に、まったく的外れなものとなった。軍の輸送隊や政府ビルを標的とした爆弾は、政府軍兵士と同様に、民間人の死傷者が出る可能性が高い。これが、即席爆発装置、ブービートラップ、自動車爆弾を戦場外や人口密集地域で使用することを厳しく禁止し、国際的に認められている理由であり、そのような禁止を無視する人々を「テロリスト」と呼ぶ理由である。ロイターは、反政府勢力が国外からの寄付を「より高性能な爆弾」につながる「より良い材料」に「流用」していることを認めている。また、反政府勢力が「スンニ派アラブ諸国と欧米諸国から広範な支持を得ている」大義のために戦っていることも認めている。ロイターが言及していないのは、もしあるとすれば、過激派スンニ派以外に反体制派が国内でどのような支持を得ているのか、そして、外国からの資金提供による無差別テロと殺戮で街が埋め尽くされることで、その支持がどのように影響を受けるのかということである。

2012年5月初旬、シリアの国境を越えて外国人戦闘員、武器、資金が流入し、レバノン北部で暴力が噴出していることを示す報告が浮上したことを受け、米国防総省はアルカイダがシリアに存在していることを自ら認めた。

レバノンの地元の派閥は宗派間の対立によって互いに相対し、当初の情報では、米国、イスラエル、サウジアラビアが支援する過激派グループがヒズボラとつながりのある派閥と戦っていることが示唆されていた。 過激派の指導者たちは、この暴力を「スンニ派対シーア派」として仕立て上げようとしたが、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ氏は、ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏が記録したように 2007年にこの策略を警告していた。

ナスララは、ブッシュ政権がイスラエルと共謀して、イスラム教内部の反乱や分裂を意味するアラビア語の「フィトゥナ」を意図的に引き起こそうとしていると非難した。「私の意見では、世界中のメディアを通じて、それぞれの側を互いに敵対させるための大規模なキャンペーンが展開されている。「私は、これらすべてはアメリカとイスラエルの諜報機関によって仕組まれていると信じている」と彼は述べた(ただし、この主張の具体的な証拠は提示しなかった)。彼は、米国のイラク戦争が宗派間の緊張を高めたとしながらも、ヒズボラはレバノンへの波及を防ごうとしていたと主張した。(我々が話をした数週間後、スンニ派とシーア派の対立は暴力とともに激化していった)69

レバノンの北部にある港湾都市トリポリとその周辺では、暴力が猛威を振るった。シリアから「波及した」混沌として描かれる一方で(双方とも隣国シリア政府の支持者または反対派を名乗っている)、現地の宗派間の対立に端を発する暴力であり、ハッサン・ナスララが予見した大規模な紛争に直接関連していることは明らかである。この「宗派間」の側面は、シリアでの騒乱の初期段階から地政学アナリストたちが指摘してきたことを明らかにしている。すなわち、この暴力は「民主化」への願望によってではなく、外国の干渉者の政策を推進する目的で利用された宗派間暴力によって引き起こされたのである宗派間の暴力は、いわゆる「民主化革命」のさなか、キリスト教徒、ドルーズ派、アラウィ派、そしてシリア全土の穏健派スンニ派に対する攻撃という形で現れている。

2012年5月には、ワシントン・ポスト紙が「シリアの反体制派、湾岸諸国の資金で武器流入米が調整」という記事で、シリア国内のテロリスト勢力への武器、資金、後方支援の提供に米国、サウジアラビア、カタール、その他の湾岸諸国が関与していることをさらに裏付ける事実を報じた。ワシントン・ポスト紙は、シリア国内の不安定化を煽っている外国勢力の関与を認めただけでなく、シリア大統領バシャール・アル=アサドの主張を裏付けた。すなわち、シリア国内でテロ行為を働く過激派の一部に、シリアの歴史的に暴力的なムスリム同胞団が直接武器と資金を提供しているという主張である。特に、 特に「民主化」デモの中心地として描かれていた地域で、70 これらの「火種」は、シリア軍による「弾圧」として描写された暴力に苦しめられていたが、今ではワシントン・ポスト紙も「物資が蓄積されている地域」であることを認めている。これには、トルコとシリアの国境沿いにあるイドリブ市、ダマスカス郊外、そしてレバノンとの国境沿いといった、シリアの激戦地域が含まれていた。米国とサウジアラビアから提供された武器、物資、現金が、欧米諸国がシリア政府を中傷するために不誠実にも利用しようとした停戦のさなか、シリアにおける暴力の激化を永続させるために使用された。国連の停戦合意のさなか、シリアの過激派反政府勢力は、政府による治安回復の能力を妨害するためにあらゆる手段を講じ続け、一方で、新たな武器を使用して、シリアのクルド人が支配する地域で、外国の後押しを受けた暴力的な政権転覆を試みるキャンペーンを継続した。このクルド人グループは、外国の後押しを受けた紛争からほぼ完全に排除されていた。

新たな武器の効果は、ホムス近郊の反体制派が掌握する都市ラスタンを巡る、月曜日の政府軍と反対派の衝突で明らかになった。英国を拠点とするシリア人権監視団は、政府基地を制圧した反体制派がシリア兵23名を殺害したと伝えた。

逆説的にも、米国と湾岸諸国は、米国防総省がシリアにおけるアルカイダの存在を認めた後も、シリア反体制派への武器供与やその他の形での物質的支援を継続した。71 これは、テロリスト集団が、主に民間人を殺害した一連の爆破事件の犯行声明を出した後に起こった。暴力と混乱を拡大させようとしていることが認められた中、ワシントン・ポスト紙は、NATO加盟国であるトルコがNATO憲章第4条を発動し、NATOが軍事介入して、外部勢力が公然と扇動しているとされる暴力を「停止」することを迫られるだろうと宣言した。これまでの紛争とは異なり、米国のこの主張は、意図を曖昧にぼかすようなささやき声ではなく、侵略戦争を誘発する意図を公に宣言したものであり、関係者全員にとってのニュルンベルク法違反である。ここで、1938年9月のアドルフ・ヒトラーによるチェコスロバキアの不安定化キャンペーンと、NATOによるシリア不安定化の試みとの直接的な類似点が見て取れる。

国連は、米国、サウジアラビア、その他の湾岸諸国が、国連が仲介した停戦協定に直接違反してシリアの武装勢力を武装させた直接的な責任があるという事実を、不可解にも黙殺した。さらに、米国はシリアのクルド人武装勢力に武器を提供し、政府に対して「蜂起」するよう公然と脅迫した。実際には、これは隣国トルコに対するより大きな脅威であり、おそらくはアンカラにシリアに対してより攻撃的な姿勢を取らせようとする試みであるが、2万人の命を奪ったとされる紛争において、意図的にさらなる暴力を煽るという脅威は、極めて無責任であるばかりでなく、国際平和の侵害であるように思われる。7 2 レバノンとシリアの国境沿いで衝突が勃発した際、ジャーナリストのシーモア・ハーシュは、イスラム過激派を組織し、レバノンのヒズボラ、シリアのアサド大統領、そしてイラン政府を標的にするという、米国、イスラエル、サウジアラビアによる共同作戦を暴露した。

ハーシュの2007年の記事「The Redirection」は、これらの過激派が外部勢力によって代理として利用され、アルカイダと直接的なつながりを持っている事実を報告している。多くの戦闘員は、イラクやアフガニスタンで米軍と戦った経験があるか、そうしたグループと関係を持っている。

2005年、米国に拠点を置く国際危機グループの報告書によると、レバノン議会で多数派を占めるスンニ派のリーダーであり、暗殺された元首相の息子であるサアド・ハリリ氏は、父親の暗殺後に40億ドル以上の遺産を相続した。サアド氏はディニーヤ出身のイスラム過激派グループのメンバー4人の保釈金として4万8000ドルを支払った。この4人の男たちは、レバノン北部にイスラムのミニ国家を樹立しようとして逮捕されていた。 危機グループは、武装勢力の多くがアフガニスタンのアルカイダの訓練キャンプで訓練を受けていたと指摘した。

危機グループの報告書によると、サアド・ハリリはその後、議会の多数派の力を利用して、ディニーヤのイスラム武装勢力22名と、前年にベイルートのイタリア大使館とウクライナ大使館の爆破を企てた容疑で逮捕された7名の武装勢力に恩赦を与えた。(また、1987年に首相ラシード・カラミ氏を暗殺するなど4件の政治的殺人事件で有罪判決を受けていたマロン派キリスト教徒の民兵組織リーダー、サミール・ゲージア氏にも恩赦を与えた)ハリリ氏は、この行動を記者団に対して「人道的なもの」と説明した。

ベイルートでのインタビューで、シニオラ政権の高官はレバノン国内で活動するスンニ派の聖戦主義者の存在を認めた。「アルカイダのような勢力がここに存在することを許容する寛大な態度を取っている」と彼は述べた。そして、イランやシリアがレバノンを「紛争の舞台」に変えることを決定するのではないかという懸念と関連づけた。

レバノンの元首相であるサアド・ハリリは、米国、イスラエル、サウジアラビアが過激派武装勢力を使ってシリア政府を不安定化させ、暴力的に転覆させようとしている陰謀の共犯者であることは明らかである。ハリリは反イスラエル感情を装い、レバノン人が宗派間の暴力を控えるよう公然と呼びかけているが、一方で、過激派がシリアに越境し、レバノンの街で混乱を引き起こすことを主導してきた。ファウチュン500社が出資する国際危機グループが2010年に発表した報告書は、ハリリの欧米との深い関係、そして実際には欧米への依存を詳細に述べている。73 報告書はまた、ハリリの派閥(当時、フアド・シニオラが率いていた)に対する広範な米国の資金援助についても言及しており、それは過激派勢力の創出を助長した。

元情報機関高官および米国政府のコンサルタントによると、米国はシニオラ政権にも秘密裏に支援を行っている。「我々はシーア派の影響力に対抗するスンニ派の能力を強化するプログラムを実施しており、可能な限り資金をばらまいている」と元情報機関高官は述べた。問題は、そのような資金が「常に、あなたが考える以上に多くのポケットに渡ってしまう」ことだと彼は言う。「このプロセスにおいて、深刻な予期せぬ結果を招く可能性のある悪人たちに資金を提供している。我々には、気に入った人々に給料小切手にサインをしてもらい、気に入らない人々を避ける能力はない。非常にリスクの高い事業だ。

私が話を聞いたアメリカ、ヨーロッパ、アラブの政府関係者によると、シニオラ政権とその同盟国は、レバノンの北部ベカー高原や南部のパレスチナ難民キャンプ周辺で台頭しつつあるスンニ派過激派グループに、一部の援助が渡ることを許しているという。 これらのグループは規模こそ小さいが、ヒズボラに対する緩衝地帯と見なされている。同時に、彼らのイデオロギー的なつながりはアルカイダにある。

CNNは、「反アサド派の聖職者」がレバノン兵士に銃撃されたと報じている。また、ラフィク・ハリリ暗殺の際に見られたように、扇動家や外部勢力がスンニ派のイスラム教徒をシーア派との紛争に引き込もうとしている。74 緊張を煽る戦略がレバノン国民を宗派対立に導き、シリアを襲っている「民主主義」ではなく、宗派対立に端を発する不安定な情勢を再現するような、致命的な紛争へと導こうとしている。サアド・ハリリ、米国、そしてサウジアラビアが公然とシリアの安定を損なうために動いていることから 2007年にシーモア・ハーシュが指摘したすべての計画が今、実現しつつあるように見える。

欧米メディアがレバノンでの暴力を報道する際には、それがシリアから「波及した」という不誠実な描写がなされるだろう。それは、この地域全体が混沌に飲み込まれているという一般的な感覚を表現することが目的である。実際には、それはスンニ派とシーア派のイスラム教徒間の暴力を助長することに依存した意図的な不安定化であり 2003年から米国主導の外国占領と戦い、当初の成功を収めたスンニ派とシーア派の同盟を妨害するためにイラクで意図的に行われたことと同じである。ハリリは、米国、イスラエル、サウジアラビアとの同盟は、単に「スンニ派」を「シーア派の脅威」から守るための試みであるとほのめかしている。歴史上、帝国が常にそうしてきたように、ハリリが西側諸国から自国の内政に干渉するよう招かれたことは、敵対勢力だけでなく、必然的に自らの運動をも破壊し、解体する扉を開くこととなった。

国連による停戦合意にもかかわらず、欧米諸国はシリア政府が停戦を破ったと非難し続けている。ブルッキングス研究所などのシンクタンクが発表した報告書では、停戦を利用してテロリストの代理勢力を再編成し、再武装させるよう呼びかけ続けている。この政策の結果、シリアで次の破壊的な暴力の波が起こり、世界を震撼させた。2012年5月25日、ホムス市の北西に位置するホウラ地区の2つの反対派が操作した村で、34人の女性と49人の子供を含む108人が残忍に殺害された。犠牲者には至近距離で殺害された形跡が見られ、また、多くの犠牲者は喉を切られており、至近距離で処刑された形跡があった。シリア政府は、和平案を妨害しようとするアルカイダ系のテロ集団が殺害に関与したと報告したが、国連の調査官は、政府が雇ったアラウィ派民兵組織「シャビーハ」が殺害に関与したと提案した。

欧米のメディアが最初に報じたところによると、現場に到着した国連監視団が「確認」した90人の死者については、シリア政府軍の砲撃が原因であると主張していた。しかし湾岸諸国のメディアからは、特に子供たちの死因は「ナイフ」やその他の短距離武器によるものであるという相反する報道がされている。反体制派とシリア政府のSANAニュースネットワークの両方が放送した映像には、無傷の建造物の中で死亡した家族が倒れている様子が映し出されていた。湾岸諸国の報道機関が主張するように、至近距離からの小銃の発砲や刃物などの凶器が使用された結果である。SANAニュースは、一貫して不安定な情勢が続く間、テロリスト集団が残虐行為を犯したと主張している。しかし、欧米とその同盟国は、自らが支援する反政府勢力による残虐な行為を覆い隠すために、矛盾した、そして常に変化する物語を提示している。元英国情報部員のAlastair Crookeは、攻撃の性質について、それがシリアが属する文化圏の特性とは異なっていると指摘し、この虐殺にはイラク戦争における戦術的・イデオロギー的なルーツがあることを示唆している。

この種の殺害、斬首、喉を切る(子供も)、そして死体の損壊は、レバント地方のイスラム教、シリア、レバノンの特徴ではなく、イラクのアンバル州で起こったことである。そして、それは、イラク戦争と関連付けられてきたグループがシリアに戻ってきたか、あるいはアンバルからイラク人たちがやって来て加わったかのどちらかであることを強く示唆しているように思われる。この攻撃は、私たちが知っているアルカイダというよりも、ムサブ・アル・ザルカウィ(イラクのシーア派に対する全面戦争を宣言した人物)に近いものだと思う。ザルカウィとイラクは、非常に強固で偏狭な反シーア派、反イランの暴言を生み出した。アンバル出身の戦闘員たちがホムスやハマ周辺に帰郷したことで、その多くがシリアにも流入した。 そう、我々が話しているのは、反体制派の極端な極みに位置するアルカイダのようなグループのことだ。 彼らは反体制派全体から見れば少数派かもしれないが、彼らが戦争を定義しているのだ。

国連監視団がホウラに到着する前から、米国、英国、フランスはすでに「国際社会」に対してシリア政府に圧力をかけるよう呼びかけていた。欧米の主流メディアは、レバノン国境に近いホウラ地域では数ヶ月前から過激派武装勢力、物的支援、高性能兵器が自由に流入していると報じていた。フランスのローラン・ファビウス外相は、無差別爆撃や、国連およびヒューマン・ライツ・ウォッチによると民間人の拉致、拷問、殺害など、テロ戦術を用いていることが明らかになっているシリアの反体制派へのさらなる支援を呼びかけた。77 国連監視団がシリアのホウラに到着するとほぼ同時に、 シリアのホウラに国連監視団が到着すると、すぐに「自由シリア軍」と称する勢力が、ブルッキングス研究所などの欧米のシンクタンクが予測したように、国連の和平案を放棄すると公式に宣言した。英国外務省のアリスター・バート大臣は次のように述べた。

「シリア政権がホウラで32人の子供を含む92人の民間人の死に責任があるという、信憑性のある報告と思われるものに、私たちは衝撃を受けている。国連ミッションの代表は、その数字と、砲弾が使用されたことを確認している。もしこれが事実であれば、それは純粋でむき出しの残虐行為であり、私たちは最も強い言葉でこれを非難する」

ホウラでの出来事は、欧米諸国がシリアの外交官を追放するに至り、6月1日には国連人権理事会がシリア非難の決議を採択し、この事件に関する国際的な刑事調査を求めた。欧米のメディアは、シリア全土で虐殺を実行しているのはシャビーハと呼ばれる親政府派のアラウィ派民兵組織であるという、確認されていない反体制派の主張を主に伝えている。これは、6月初旬に『テレグラフ』紙が報じたところによると、アサド政権が「民兵組織を洗脳し、スンニ派が敵であると信じ込ませた」結果であるという。79 アサド大統領はシリア議会での演説で、フーラでの攻撃を「忌まわしい」と表現し、次のように述べた。

この危機は国内の危機ではない。これは、我々が団結すれば、国内の勢力によって引き起こされた外部からの戦争である。私は、この状況の終結が近いことを確認する。フーラで起こったこと…そして我々が醜悪で忌まわしい虐殺、あるいは真の残虐行為と表現したこと…怪物でさえ、我々が見たようなことは犯さない。我々は政治的な問題に直面しているのではない。もしそうであれば、この当事者は政治プログラムを提示するだろう。私たちが直面しているのは宗派間の争いを引き起こそうとする企てであり、その手段がテロリズムである。私たちは外部から仕掛けられた現実の戦争に直面しており、テロと断固として戦い続けるが、帰還を望む人々にはその扉を開いておく。まだためらっている人々には、この一歩を踏み出すよう強く促す。国家が復讐することはない。80

ドイツの新聞『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』の中東特派員ライナー・ヘルマンは、ホウラでの出来事について、反アサド派のスンニ派過激派が、政府支持派のアラウィ派とシーア派の少数派を標的にして虐殺を行ったと主張する、別の見解を発表した。

5月25日の金曜礼拝の後、700人以上の武装集団が、ラスタン、カル・ラハ、アクラバから来たアブドゥラザック・トラスとヤヒヤ・ユースフの指揮下で3つのグループに分かれ、タルドゥ近郊の3つの軍の検問所を攻撃した。 反体制派は数で優勢で、ほとんどがスンニ派の兵士たちと血みどろの戦いを繰り広げ、その大半が徴集兵であった兵士24人が死亡した。戦闘中および戦闘後、タルドゥーの住民に支援された反体制派は、サイイドとアブダラザックの家族全員を皆殺しにした。彼らは反体制派に加わることを拒否していた。殺害されたのは、ほぼすべてがホウラの少数派であるアラウィ派とシーア派の家族であった。ホウラの人口の90%以上はスンニ派である。数十人の家族が虐殺されたが、その家族はスンニ派からシーア派イスラム教に改宗していた。また、アラウィ派の家族であるシャムリアのメンバーや、協力者とみなされたスンニ派のシリア議会メンバーの家族も殺害された。虐殺直後、加害者たちは被害者を撮影し、インターネット上に投稿した動画でスンニ派の被害者として紹介したとみられる。81

フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙が発表した報告書は、シリアの反体制派に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書が、主に宗派的な理由から行われた際立った暴力事件を記録しており、その動機は反シーア派および反アラウィ派感情であり、過激派サラフィスト集団や反体制派の自由シリア軍のメンバーによる虐待が引用されていることを考慮すると、十分に信憑性がある。国連監視団は、シリア政府を非難する確固たる証拠がないため、ホウラでの虐殺の実行犯を特定できないことを認めたが、潘基文国連事務総長は、バラク・オバマ米大統領、ヒラリー・クリントン米国務長官、デービッド・キャメロン英首相によるアサド大統領退陣要求の声を代弁し、アサド政権の正当性は失われたと宣言した。西側諸国はアサド政権に対する「行動」を求める声を強め、活動家たちが主張するシリア政府は虐殺の責任さえ負っていないと非難し続けた。2012年7月下旬、ドイツ連邦情報局(BND)が発表した報告書は、アルカイダが2011年12月下旬から2012年7月初旬にかけて、シリアで「約90件のテロ攻撃」を実行したことを確認した。これには、5月25日のホウラでの虐殺への関与も含まれている。82 殺害の報告は、アサド政権が暴動を指揮していると示唆することで、シリア政府を強引に転覆させるための国民的支持を構築するという、欧米諸国の外交政策目標に沿った、あらかじめ決められた結論に合うように仕立て上げられた。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は最近、武装した反体制派に武器や物資の援助を提供して暴力を煽っている外部勢力を非難し、「彼らは国際社会を憤慨させ、シリアへの本格的な介入を開始させたいのだ」と述べた。83 殺害事件の後、ティモシー・ガイトナー米財務長官は、アサド政権が権力を放棄する日を早めるのに役立つ」強力な制裁措置を通じて、アサド政権に対して「最大限の金融圧力」をかけるよう世界に呼びかけた。その一方で、米国は国連憲章第7章に基づくシリアに対する武力行使を支持することを確約した。84もしシリア政府が、国連斡旋の「停戦」を破棄し、自由シリア軍の代表が述べたように、「彼らが理解する唯一の言語、暴力」で反対派に対処する決意を表明したとしたら、国際社会からどのような非難が寄せられるか想像に難くない。しかし、シリア政府は停戦を破棄せず、国連監視団数百人を引き続き受け入れている。それどころか、そうした主張を展開したのは反体制派であり、いわゆる「国際社会」はそうした主張に異議を唱えることはなかった。

フーラの出来事は、1939年夏に起こった出来事と比較することができる。ナチス軍は、軍事侵攻を正当化するために自らを無防備な犠牲者として描こうと躍起になり、隣国ポーランドを不当に巻き込むことを意図した国境事件を起こした。ドイツ軍が自国のラジオ局を攻撃する国境事件を演出し、ポーランドに不当な侵略行為の濡れ衣を着せるという事件の後、ヒトラーはナチスによるポーランド侵攻を命じた。皮肉なことに、これらの出来事についてだけでなく、「国民を欺く」ことに関する教訓をすべて教えてくれるのは、米国のホロコースト記念博物館である。

第二次世界大戦中、ナチスの宣伝担当者は、領土征服を目的とした軍事侵攻を正義の行為であり、自衛のために必要な行為であると偽装した。彼らはドイツを外国の侵略者による被害者、あるいは潜在的な被害者と見なし、平和を愛する国家が自国民を守るために、あるいは共産主義に対するヨーロッパ文明の防衛のために武器を取らざるを得ない状況にあると描いた。戦闘の各段階で表明された戦争目的は、ナチスが実際に意図していた領土拡張や人種戦争をほとんど常に隠蔽するものだった。これは欺瞞のプロパガンダであり、ドイツ、ドイツ占領地域、中立国の国民を欺いたり、誤った方向に導くことを目的としていた。

1939年夏、ヒトラーと側近たちがポーランド侵攻の計画を最終決定する中、ドイツ国内の雰囲気は緊迫し、恐怖に満ちていた。ドイツ国民は、一発の銃弾も撃つことなく、近隣のオーストリアとチェコスロバキアにドイツの国境が劇的に拡大したことに勇気づけられていたが、1914年世代がそうしたように、彼らは戦争を求めるために街頭に繰り出すことはなかった。1939年9月1日のドイツによるポーランド攻撃に先立ち、ナチス政権は、ほとんどのドイツ人が望んでいなかった戦争への国民的支持を獲得するために、積極的なメディアキャンペーンを開始した。ドイツの新聞は、ポーランドへの侵攻を道徳的に正当化できる防衛行動であるかのように見せるため、「ポーランドの残虐行為」を誇張した。これは、ポーランド在住のドイツ系住民に対する差別や暴力行為を指す。ポーランドの「好戦性」と「民族主義」を非難する報道がなされる中、ドイツの侵攻に際してポーランドを防衛すると約束した英国を非難する報道もなされた。

ナチス政権は、ポーランドがドイツに宣戦布告したように見せかけるための国境での事件まででっち上げた。1939年8月31日、ポーランド軍の軍服を着た親衛隊員がグライヴィッツ(グリヴィツ)のドイツのラジオ局を「襲撃」した。翌日、ヒトラーはドイツ国民と世界に向けて、ポーランドによるドイツへの「侵入」への対応としてポーランドに軍隊を派遣する決定を下したと発表した。ナチス党の帝国報道局は報道機関に対し、「戦争」という言葉の使用を避けるよう指示した。ドイツ軍がポーランド軍の攻撃を単に撃退したと報道するよう指示したのである。これは、ドイツを侵略の犠牲者と位置づけるための戦術であった。宣戦布告の責任は英国とフランスに委ねられることになった。

ベネズエラからタイに至るまで、西側諸国が支援する反体制派グループは、歴史的に見て、混乱を引き起こし、それを隠れ蓑として民間人や自分たちの運動のメンバーを暗殺し、その後に標的となった政府の責任であると非難することで、紛争を悪化させ、臨界点に達してその政府が倒れるまでそれを続けるということが判明している。フーラの大虐殺は、世界各地で発生している同様の人為的残虐行為とまったく同じ特徴を共有している。ただ、規模がより大きいだけであり、武装勢力は地元の自由シリア軍やシリア政府とはおそらく関係がなく、シリア政府が主張しているように外国の勢力が関与している可能性が高い。

シリアに蔓延する宗派間過激主義の不穏な前兆として、ジャーナリストのトリッシュ・シューは2005年にジアード・アブデル・ヌールにインタビューを行った。企業金融家であり、「ブラックホーク・パートナーズ」の創設者、そして新保守派が運営する「自由レバノン委員会」の会長であるヌールは、ユダヤ系国家安全保障問題研究所のモリス・アミタイ、アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン、そして、シリアで展開されている流血、不安定、残虐行為を煽り立てるために、PNAC署名者のポーラ・ドブライアンシー、ジェームズ・ウールジー、フランク・ガフニー、ダニエル・パイスなど、

シリアとレバノンの政権は、彼らがそれを望むかどうかに関わらず、軍事クーデターになるか、あるいは他の何かになるかに関わらず、いずれは変わることになるだろう。そして、我々はそれに取り組んでいる。誰が後任になるのかはすでに正確にわかっている。我々はブッシュ政権とともにそれに取り組んでいる。

権力によって権力を握り、権力によって支配する連中は、権力によってしか排除できない。これはマキャヴェッリの権力闘争だ。そういうことなのだ。これが地政学、つまり戦争ゲーム、権力ゲームの仕組みだ。私は60年間政治家一家に育ったので、その仕組みを熟知している。私はCIAの最高機密情報にアクセスできる。彼らは私に連絡をとり、私は彼らに助言する。私は何が起こっているかを正確に知っている。そして、これは起こるだろう。

バシャール・アル・アサドとエミル・ラフードの政権は、それが真実かどうかに関わらず、崩壊するだろう。

大量破壊兵器があったかどうかに拘わらず、イラクに行ったとき、重要なのは、我々が勝利したということだ。そして、サダムは退陣した!我々が望むことは何でも起こるだろう。イラン?我々はイランが核保有国になることを許さない。我々はイランを追い出す方法を見つけ、口実を見つけるだろう。そして、その口実が何であろうと気にしない。世界にはならず者国家の居場所はない。

嘘をつこうが、でっちあげようが、そうでなかろうが、私は気にしない。目的のためには手段を選ばない。何が正しいのか?力こそが正義だ。力こそが正義だ。それだけだ。力こそが正義だ。

つまり、サダムは自分が強いことを全世界に証明したかったということか? まあ、我々は彼よりも強い。彼は終わりだ。そしてイランも終わりになるだろうし、このようなアラブの体制はすべて終わりになるだろう。なぜなら、このような体制が存在する世界では、我々資本家や多国籍企業が活動する余地はないからだ。すべては金だ。そして権力。富だ。そして民主主義は世界中に広められなければならない。グローバリゼーションを支持したい人々は、大金を稼ぎ、幸せになり、家族も幸せになるだろう。そして、このゲームに参加しない人々は、それを望もうが望むまいが、押しつぶされることになるだろう!

シューによるアブデル・ヌールのインタビューは、ホウラ虐殺のような事件を計画するのに必要な心理的・行動的能力だけでなく、そうする意図と動機を持った犯罪者の心理を浮き彫りにしている。ヌールの誇大妄想的な振る舞いは 2007年にジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いた『ニューヨーカー』誌の記事「The Redirection(方向転換)」と一致する。同記事は、米国、イスラエル、サウジアラビア、そしてレバノンのヌール派が、シーア派主導の中東当局と行政を不安定化させるために、宗派過激派の地域軍を準備していたことを記録したものだ。ハーシュの報告書には、レバノンで元CIAエージェントのロバート・ベアー氏へのインタビューが含まれており、同氏は、米国、イスラエル、サウジアラビアが支援する宗派過激派による攻撃が予測される中、キリスト教徒を守る必要があると警告した。この攻撃は、シリアの人口の10パーセントを占めるキリスト教徒に対して行われるだろう。米国、イスラエル、サウジアラビアの共謀者は、シリア国内で宗派過激派を意図的に解き放っただけでなく、シリアのホウラで起きたような残虐行為が避けられない結果になることを十分に承知の上で、それを実行した。

何十年もの間、アルジェリアからモロッコ、エジプトからシリアに至るまで、アラブ世界のあらゆる国が、ムスリム同胞団やアルカイダのような組織に属する宗派過激派と戦ってきた。例えばアルジェリアは、世俗社会を崩壊させ、キリスト教徒やスンニ派穏健派を含む少数民族を標的にしようとする暴力的な過激派と、苦闘を続けてきた。この時期は「失われた」あるいは「暗黒の10年」と呼ばれるようになった。アルジェリアは、米国務省がテロ組織として指定しているアルカイダ・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)と対峙した。AQIMは、カダフィ大佐打倒のためにNATOが武装、訓練、資金提供、政治的支援を行っていたリビアのイスラム戦闘団(LIFG)と直接的なつながりがある。エジプトとシリアの両方において、世俗政府を暴力で転覆させようとしたのはムスリム同胞団であり、それはまさにシリアの蜂起で展開されたことと全く同じである。今日、欧米の報道機関は、エジプトとシリアが宗派過激派を封じ込めようとしていることを非難している。特にシリアでは、1982年にハマで武装した同胞団の過激派を「虐殺」したとして政府が告発されている。北アフリカおよび中東全域の世俗的なアラブ諸国の憲法、そして新たに書き直されたシリア憲法は、特に「地域」に所属する宗派政党を排除しようとしており、ムスリム同胞団やアルカイダと関連する政治運動が再び権力を握ることを防ごうとしている。

シリアの新憲法に関する国民投票、およびこの新憲法の下で行われる選挙は、いわゆる「自由シリア軍」およびその政治部門によってボイコットされるだろう。特に、彼らが地域的な所属を持つ宗派過激派であることがその理由である。欧米諸国は、シリアの改革を「笑止千万」と呼び、これらのボイコットを支持するだろう。少なくとも2007年以降、欧米、特に米国はイスラエルやサウジアラビアと協力し、レバノン、シリア、イランを直接標的にするために、ムスリム同胞団とアルカイダと直接的なつながりを持つ小規模な武装過激派グループを育成しようとしてきた。ブッシュ政権下で始まり、オバマ政権下でも途切れることなく継続しているこの動きの中で、ムスリム同胞団はすでに米国とイスラエルの支援を受けていると指摘されていた。両国は、いわゆる「イスラム」運動の「信頼性」を損なわないよう、サウジアラビアを通じて支援を行っていた。ジャーナリストのシーモア・ハーシュは、当時フアド・シニオラが率いていたレバノンのサアド・ハリリ派のメンバーが、米国の計画者とシリアのムスリム同胞団の仲介役を務めていたと報告している。ハーシュは、レバノンのハリリ派の支援者が

ワシントンでディック・チェイニーと会い、シリアのムスリム同胞団を現政権に対するいかなる動きにおいても利用することの重要性を直接伝えたと報告している。

ワリド・ジュムブラットは、昨年秋にワシントンでチェイニー副大統領と会い、アサド政権を弱体化させる可能性について話し合ったと私に語った。彼と彼の同僚たちは、もし米国がシリアに軍事行動を起こすつもりなら、シリアのムスリム同胞団のメンバーが「話し合いの相手」になるだろうとチェイニーに助言したと、ジュムブラットは語った。

政権の戦略転換がすでに同胞団に利益をもたらしている証拠がある。シリア国民救国戦線は 2005年に亡命した元シリア副大統領のアブドゥル・ハリム・ハダム氏率いる一派と同胞団を主要メンバーとする、反体制派の連合組織である。元CIA高官は私にこう語った。「アメリカは政治的にも財政的にも支援を行っている。サウジアラビアが資金面で主導的な役割を果たしているが、アメリカも関与している」と彼は述べた。現在パリ在住のハダムは、ホワイトハウスの承認を得てサウジアラビアから資金を得ているという。(報道によると 2005年には、同胞団の代表団が国家安全保障会議の関係者と会談した)元ホワイトハウスの高官は、同胞団のメンバーに渡航書類を提供したのはサウジアラビアであると私に語った。

2012年5月、ロイター通信などの報道機関は、シリアで1年以上にわたって猛威を振るっている宗派間暴力を、ムスリム同胞団のシリア支部が主導していると報じた。

同胞団はひそかに活動し、トルコを拠点とする自由シリア軍の脱走兵に資金を提供し、シリアに資金と物資を流し、少数派であるスンニ派の農民や中流階級のシリア人たちの間で支持を回復していると、反体制派の情報筋は述べている。

2012年6月5日付のブルームバーグの社説「シリア問題解決のため、アナン氏はアサドではなくプーチンと協議すべき」は、ホウラの大虐殺で発生した大虐殺の責任を共有しているとして、モスクワと北京を非難しようとした。この記事では、シリアにおける暴力が宗派間のものであることを認めている。89 「アラブの春」の当初から不誠実な形で使用されてきた「民主主義」や「自由」という言葉は、完全に捨て去られることになる。欧米の報道機関が、米国、イスラエル、サウジアラビアが長年温めてきた、長年計画されていた宗派間戦争に全面的に加担するからだ。

ホウラが示しているのは、世界が長年恐れていたシリアのスンニ派とアラウィ派の宗派間内戦が始まったということだ。アサド大統領が6月3日の演説で、国際社会の非難を招くためにテロリストが同胞であるスンニ派を虐殺したと主張したことは、笑止千万である。 証拠があるとしたら、政府軍と連携しているアラウィ派民兵組織シャビーハが犯人であることを示唆している。

シリア政府治安部隊の一部が、住宅街で反対派の戦闘員と戦う際に過剰な武力を行使し、意図せぬ民間人の死につながった可能性はあるが、シリアの多数派を占める少数民族や宗教的少数派、特にシーア派イスラム教徒、穏健派スンニ派、キリスト教徒、ドルーズ派の人々は、アサド政権の下で、欧米諸国が育成した過激派や反政府勢力による宗派間の攻撃から守られてきた。ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に発表した記事「The Redirection(方向転換)」は、ブルームバーグが公然とほのめかした「宗派間内戦」を予見していた。

レバノンで長年CIAの諜報員を務めたロバート・ベアー氏は、ヒズボラの厳しい批判者であり、イランが支援するテロ組織とのつながりを警告してきた。しかし、今、彼は私にこう語った。「私たちは、激変する紛争に備えるスンニ派アラブ人を得た。そして、レバノンのキリスト教徒を守る誰かが必要だ。かつてはフランスと米国がそれを担っていたが、今ではナスララとシーア派が担うことになるだろう」と。

ブルームバーグは、さらなる流血を回避するには、シリアの世俗社会と広大な数の少数民族や宗教的少数派を守るために明らかに努力してきたシリア政府への支援をロシアが撤回しなければならないと結論づけた。 確かに、ロシアが前大統領のドミトリー・メドベージェフの下でリビアのカダフィ政権への支援を撤回したように、ウラジーミル・プーチン大統領の下でシリア政府への支援を撤回しても、暴力の終結にはつながらないだろう。むしろ、それは紛争による暴力の終結を意味するだけであり、欧米からの資金、武器、政治的支援に後押しされた宗派過激派による、歯止めのない無法状態、残虐行為、広範囲にわたる殺戮の始まりを意味するだけである。

2012年6月初旬、シリアのキリスト教徒たちは、自由シリア軍がシリアの宗教的少数派に対して宗派間の戦争を仕掛けていると非難し始めた。国際教皇庁立宣教会のためのオンライン情報サービスであるアジェンツィア・フィデスは、シリア在住のフィリップ・トルニョル・クロス司教の証言を報告し、現地の状況を正確に裏付けた。

私たちの目の前にあるのは、完全な荒廃です。マル・エリアン教会は半壊し、平和の聖母教会は今も反乱軍に占拠されています。キリスト教徒の家々は戦闘により深刻な被害を受け、住民は何も持たずに逃げ出し、完全に空っぽになっています。ハミディアの地域は、互いに独立した武装集団の避難場所となっており、カタールとサウジアラビアから重装備と資金援助を受けている。すべてのキリスト教徒(138,000人)はダマスカスとレバノンに避難し、その他の人々は周辺の田舎に避難した。シリアの敵は、イスラム教徒とキリスト教徒の間に伝統的に存在していた兄弟関係を破壊するために、ムスリム同胞団の一部を参加させた。しかし、今日に至るまで、彼らはそれを成し遂げることができていない。むしろ、逆に反発を招き、2つのコミュニティは以前よりも団結を強めている。実際、シリア兵士たちは、外国人戦闘員、リビアの傭兵、湾岸諸国出身のレバノン人武装勢力、アフガニスタン人、トルコ人などと戦い続けている。

2012年6月7日、スーザン・ライス米国連大使は、ホウラでの虐殺を受けてシリアの政権交代を実現するために、欧米諸国は「アナン計画や(国連安保)理の権限外の行動」を取る用意があると宣言した。91 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、自国はシリアへの介入や制裁措置に反対する立場を繰り返し表明しし、シリアに対する制裁を科す試みにも反対する姿勢を繰り返し、西側諸国が平和への取り組みを妨害し、NATO主導の政権交代を正当化する口実を作るために、意図的に暴力を継続させていると非難した。ラヴロフ外相は、「シリア危機がどのように解決されるかは、明日の世界において重要な役割を果たす。世界が国連憲章に基づくものになるか、それとも力こそが正義であるという場所になるか」と警告した。ラブロフの意見は、中国、イラン、南米のALBA諸国によって支持された。これらの国々の総人口は15億人を超える。ラブロフ外相は記者会見で、欧米メディアによるシリア紛争の政治的偏向報道に反論する証拠に焦点を当てた発言を行った。ラブロフ外相は、無条件の交渉が開始され、双方が外国の影響を受けずに合意に達することができれば、シリアのアサド大統領が退陣することにロシアは同意する、と述べ、ロシアの立場を詳しく説明した。

2012年6月10日、ロシア・トゥデイは「シリア反体制派、化学兵器使用を狙う。「ダマスカスを非難」と題する報告書を発行し、NATO加盟国トルコ国内でシリア反体制派が企てている可能性のある陰謀について警告した。92 その陰謀とは、シリア反体制派がリビアで入手した化学兵器をシリアの一般市民に対して使用し、その大量死傷事件をシリア政府の責任にするというものである。もちろん、これは国連安保理を回避し、長年計画してきた政権転覆キャンペーンを実施するために探していた「開戦理由」を西側諸国に提供することになる。NATOのリビア介入の結果、カダフィの軍事兵器の多くが反体制派の戦闘員の手に渡ったと伝えられている。それ以来、アルカイダのリビア・イスラム戦闘団(LIFG)の司令官に率いられたリビアの武装勢力は、西はマリから東はシリアまで、アラブ世界全域の宗派過激派に武器を供給している。さらに、NATOによるリビア介入の結果、散在していた軍の広範な対空ミサイル兵器もリビアの武装勢力の手中に落ち、LIFGの系列組織のネットワーク全体に拡散した。これらの組織はすべて宗派過激派であり、その多くはアルカイダと直接的なつながりがある。

ワシントン・ポスト紙は「リビアのミサイルが拡散」という記事で次のように報じている。

先週、元CIAのテロ対策担当官2名が私に語ったところによると、技術者たちが最近、これらの携帯式防空システム(MANPADS)のうち800基を改修したという。その一部は、アルカイダの同盟国と見なされることが多いボコ・ハラムというアフリカの聖戦士グループ向けのものである。

米国は、核爆弾を日本に、劣化ウランや白リンをイラクに、そして枯葉剤をベトナム全土に投下するなど、他のどの国よりも敵に対して核兵器、生物兵器、化学兵器などの大量破壊兵器を巧みに使用してきた。 それゆえ、これらの兵器は最終的には代理人の手に渡ることも当然あり得る。シリア政府による多数の死傷者を出した事件や残虐行為をでっち上げようとしたことがすでに発覚しているほどあからさまに不誠実な反体制派であるため、少なくとも、民間人に対してそれらを使用するという悪意に満ちた動機を持つ過激派反政府勢力が、入手可能な範囲を超えた大量破壊兵器を配備できる可能性は十分にある。

2012年6月17日、米国はシリアにロシア製ガンシップが輸送されているという件に関して嘘をついていることが発覚した。ニューヨーク・タイムズ紙の「シリアのヘリコプターは新しくないかもしれない、と米国政府高官が発言」によると、国防総省高官は、ヒラリー・クリントン米国務長官がロシア製兵器の輸送に関する不正確な主張をした際、「ロシアを苦境に立たせるために、少し脚色を加えた」と認めた。ニューヨーク・タイムズ紙はさらに、「クリントン夫人のヘリコプターに関する主張は、中東における主要同盟国であるロシアに、バッシャール・アル=アサド大統領を見捨てるよう圧力をかけるための計算された努力の一部であると、政府高官は述べた」と報じた。この露骨な欺瞞行為と偽情報は、米国国務省、英国外務省、および世界中の西側諸国と湾岸諸国の報道機関が、シリア政府とその世界中に広がる同盟国を悪者にするために組織した捏造キャンペーンの表れである。

2012年6月21日、ニューヨーク・タイムズ紙は、2011年の反政府運動の初期段階から、代替メディアや多数の地政学アナリストが報じていたことを確認した。すなわち、アメリカCIAを含む外部勢力が、トルコ南部からシリアの反政府勢力に武器や物的支援を提供しているという内容である。ニューヨーク・タイムズ紙は、「CIA、シリア反体制派への武器供給を支援か」という記事で次のように述べている。

米国政府高官およびアラブの諜報部員によると、トルコ南部で少数のCIA職員が秘密裏に活動しており、同盟国がシリア政府と戦うために国境を越えて武器を受け取るシリア反体制派の戦闘員を決定するのを支援している。自動小銃、ロケット推進擲弾筒、弾薬、一部の対戦車兵器を含む武器は、シリアのムスリム同胞団を含む仲介者の影のネットワークを通じて主にトルコ国境から流入しており、その費用はトルコ、サウジアラビア、カタールが負担していると当局者は述べた。CIAの職員は数週間前からトルコ南部に滞在しており、その目的の一つは、アルカイダやその他のテロ組織と連携する戦闘員の手に武器が渡らないようにすることであると、米国の高官は述べた。オバマ政権は反体制派に武器を提供していないと発表しているが、シリアの近隣諸国がそうしていることは認めている。トルコに駐在するアメリカの諜報部員たちは、反体制派グループの審査を支援することで、シリア国内で拡大し変化を続ける反体制派ネットワークについてより詳しく知ることができ、新たなつながりを築くことができると期待している。「CIAの職員が現地に駐在しており、新たな情報源の開拓と人材の採用に努めている」と、アメリカの同僚から定期的に報告を受けているあるアラブの諜報部員は語った。米政府高官および引退したCIA高官は、政権は衛星画像やシリア軍の配置や移動に関するその他の詳細な情報の提供など、反体制派への追加支援も検討していると述べた。政権はまた、反体制派が初歩的な情報機関を立ち上げるのを支援するかどうかについても検討している。しかし、これらの措置や、CIA職員をシリア国内に派遣するといったさらに積極的な措置については、まだ決定されていないと彼らは述べた。95

確かに、米国と湾岸諸国の代理勢力に主導された西側諸国は、シリア政府が国連が命じた停戦を「違反」し、自国民を「保護できていない」と非難する一方で、特にムスリム同胞団などのテロリストに武器を供給してきた。ムスリム同胞団は、宗派的な過激主義、暴力、世俗的国家の標的を絞った浸食の潮流を食い止めるために、アラブ諸国全体で戦ってきた

宗派過激主義、暴力、世俗的国家の衰退を食い止めるために、アラブ諸国はムスリム同胞団と戦ってきた。皮肉にも、宗派過激主義と「テロ」と戦うと10年以上も主張してきた米国が、世界で最も暴力的で過激なテロ組織を支援してきたことが明らかになっている。これには、ムスリム同胞団に加え、リビアのイスラム戦闘団(LIFG)、パキスタンのバルーチ・テロリスト、そして現在イラクを拠点とし、イランに対する代理勢力として利用されているムジャーヒディーン・ハルク(MEK)などが含まれる。シリアへの武器禁輸措置を課そうとする試みは、一方的なものであり、国連、特にコフィ・アナンが主張しているように、一刻も早く暴力を終わらせるというよりも、長引く流血の惨事において反体制派に優位性を持たせ、欧米の代理勢力を有利にすることを目的としていることが明らかになっている。

しかし、ニューヨーク・タイムズ紙によると、いわゆる「自由シリア軍」は、わずか100ほどの小規模な部隊で構成されており、「一握りの戦闘員から数百人の戦闘員」で構成されているにすぎず、シリア政府が大規模な民衆蜂起に直面しているという見解を裏切っている。政府が大規模な民衆蜂起に直面しているというストーリーを裏切り、「自由シリア軍」が実際には傭兵、外国人戦闘員、宗派過激派の小規模な集団であり、外国の利害関係者が武器、資金を提供し、指揮を執り、シリア国内で混乱を引き起こすために結集していることが明らかになった。米国がシリアが自国民を守ることに「失敗した」と主張する一方で、同時に、終結を目指していると主張する武力紛争を煽っていることは、最高レベルの偽善であるばかりでなく、世界平和に対する犯罪であり、ニュルンベルク裁判の判例に従えば処罰の対象となる。さらに、2012年6月25日付の『TIME』誌の記事「二正面作戦」では、米国務省が武装した反体制派に暗号化やハッキング、バイラル動画の作成を教えるために7200万ドル以上の予算を組んだことが紹介されている。

ワシントンは、アサド大統領の退陣を目指すシリアの反体制派を積極的に支援しないと表明している。公式には、米国はアナン氏主導の国連プロセスに従うとし、シリアに国連監視団がいる限り、反体制派への武器売却は容認しないとしている。しかし、米政府高官が『TIME』誌に明かしたところによると、オバマ政権は、戦争と平和報道研究所やフリーダム・ハウスといった小規模な非営利団体を通じて、シリアの反体制派にメディア技術の訓練と支援を提供している。

アブ・ガッサンが制作したような残虐行為を告発する動画は、アサド大統領を地球上で最も嫌われている人物の一人に仕立て上げ、アラブ連盟を敵に回し、残る数少ない同盟国をほぼ毎日困らせている。「もし米国政府がシリアに関与しているとしても、政府は直接的な責任を取るつもりはないでしょう」と、ハーバード大学エドモンド・J・サフラ倫理センターのローレンス・レッシグ所長は言う。「インターネットの自由のためにあなたがたが展開するツールは、現行の政府が展開するツールを妨害することになり、それは侵略行為と受け取られる可能性がある」と。

このプログラムは、実際には4年前に、中国を対象として開始された。2008年、長年にわたって信教の自由を擁護してきたマイケル・ホロウィッツ氏は、バージニア州選出の共和党議員フランク・ウルフ氏に会い、北京が危険なカルトとレッテルを貼っている宗教団体、法輪功を支援するための資金を確保することを提案した。その資金は、中国の巨大なファイアウォールを回避するソフトウェアを配布し、オンライン上で組織化するとともに、外部世界と自由にコミュニケーションを取るために、反体制派を支援する目的で使われるはずだった。ウルフは1500万ドルの予算を確保することに成功した。しかし、米国の外交官たちは、その動きが北京との関係を台無しにするのではないかと恐れ、ほとんど資金は使われなかった。しかし 2009年から2010年にかけてのイラン抗議運動や昨年のアラブの春により、インターネットの自由という言葉はワシントンでより流行語的な意味合いを持つようになった。 議会はすぐに、今後3年間で使用するために国務省に5700万ドルを追加拠出した。 資金は次の3つの分野に分配される。教育と訓練、匿名化(通常は暗号化によりユーザーの身元を隠す)、

そして、ユーザーが政府による検閲を回避し、自らの作品や抑圧的な政権の作品を世界中で閲覧できるようにする回避技術である。96

米国は、自らが弱体化させ打倒しようとしている「抑圧的な政権」に対して「インターネットの自由」を擁護するという、あからさまな偽善を展開している。2012年には、米国の政策立案者や代表者たちが、ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)のような物議を醸すインターネット検閲法案を繰り返し作成し、可決しようとしていた。 ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)など、物議を醸すインターネット検閲法案を繰り返し作成し、可決させようとしていた。ACTAは、インターネット上のコンテンツの削除に関するあらゆる法的監督を廃止し、著作権保有者がISPにインターネット上のコンテンツの削除を強制することを認めるもので、通常は裁判所の命令が必要なものをISPに義務付けるものであり、ISPがコンテンツの削除を行わない場合にはISPに法的責任を負わせるものである。

さらに、ACTAや同様の規制案では、インターネットユーザーが著作権で保護されたコンテンツを共有したという理由で、刑事罰を科され、インターネットへのアクセスを禁止され、投獄される可能性さえある。シリアへの外国からの介入を強く支持する米国の上院議員ジョセフ・リーバーマンとジョン・マケインは、2012年2月15日にS.2105(サイバーセキュリティ法)を、2012年3月1日にS.2151(セキュアIT)を提出した。2012年4月26日、米国下院はサイバー情報共有保護法(CISPA)を可決した。この法律は、バラク・オバマ大統領が署名して法律化されれば、言論の自由の媒体としてのインターネットに深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。TIME誌は、米国政府の当初の標的は中国であったと報じている。北京に対する反対派の活動を支援するためのサイバー対策に1500万ドルが計上された。しかし、ジョセフ・リーバーマン議員自身が次のように述べたことはよく知られている。

「中国は現在、政府が戦争の際にはインターネットの一部を切断できる。我々も同様の措置を取る必要がある」と述べたのは、ジョセフ・リーバーマン自身であった。

TIME誌の報道は、シリア紛争における外部からの干渉が際限なく広がっていることを反映しており、外国の組織がシリアの合法政府に損害を与えることを目的として、事態のあらゆる側面を入念に育成し、形作ろうとしている。さらに、TIME誌は、シリアやイランによる人権侵害に加担している企業に制裁を課すというオバマ政権の行政命令には、シリア政府にインターネットサービスをフィルタリングするために使用されているインターネット技術を販売した米国企業は含まれないと報じた。この技術は、米国政府が反体制派を訓練し、回避させるために多額の公的資金を投入したサービスそのものである。

現在進行中の課題は、ソフトウェアが双方に流れていることである。政権は米国からオンラインで人々を追跡する技術を輸入している。「これらの技術の多くは、素晴らしい善行のために利用できる」と、インターネット・イン・ア・スーツケース・プロジェクトを主導するサシャ・マインラス氏は言う。「しかし、それらはまた、ファウスト的な取引でもある」 オバマ政権は先月、シリアやイランによる人権侵害に加担する企業に制裁を課す大統領令を発令した。ワシントンのハイテクキャンペーンはアサド政権を退陣させるものではない。しかし、政権側の火力の優位性に対峙するシリアの反体制派に、ある程度の自信を与えている。訓練を終えてから数ヶ月の間、アブ・

ガッサンはすでに何十本ものビデオを撮影している。彼のAK-47とビデオカメラのどちらが強力な武器かと尋ねると、ガッサンは笑った。「AKだ!」と彼は言う。そして数秒間沈黙した。「実際、インターネットに接続できるなら、カメラの方が強力だ」

2012年6月下旬、米国で製造され、イラクでの主要な戦闘作戦で防空破壊に最後に使用されたトルコのF-4戦闘機がシリア領空を侵犯し、シリア治安部隊によって撃墜された。トルコ側は、撃墜された時点で同機は「公海に1マイル入った地点」にいたと主張している。F-4戦闘機は、最新型でもすでに30年ほど前の機体であり、最高速度はマッハ2.2、時速1,600マイル(時速2,500キロ)である。つまり、1分間で26マイル(約42キロ)の距離を移動できるということだ。つまり、2秒ごとにほぼ1マイルの距離を移動できるということだ。トルコが認める「コースを外れた」戦闘機に対して発射された対空兵器は、ジェット機がシリア領空内に完全に位置している間に発射され、発射された兵器は空中に飛び、公海上空に戻る前に航空機を迎撃するコースに乗っていたはずである。トルコが主張する「1マイル」という距離は、一般的に「マイル」という距離が比較的長い速度で移動することに慣れている人々にとっては妥当なように思えるかもしれないが、航空戦闘においては「1マイル」は「数秒」に相当する。つまり、1分間で26マイル(約42キロ)移動できるということだ。つまり、2秒ごとにほぼ1マイル(約1.6キロ)移動できるということだ。たとえトルコの主張が正しく、撃墜された際に「1マイル」の距離まで国際水域に退却していたとしても、その距離はわずか2秒間国際水域上空にあったことになる。つまり、シリアが使用した兵器は、航空機が離陸する前にすでにシリア領空で発射され、空中にあったということだ。

トルコは、隣国シリアとの間に大きな緊張関係があることを十分に認識していたにもかかわらず、シリア領空にこれほど接近するという無謀な行動に出た。また、米国製のF-4戦闘機が防空システムの偵察と無力化に果たす役割について、一般の人々は知らないかもしれない。「野性のイタチ」と名付けられたF-4は、1991年のイラク戦争の初期段階で広範囲に使用され、2,596回の出撃を行い、1,000発以上の空対地ミサイルを発射し、イラクの防空システムを破壊する作戦で200以上の目標を破壊した。おそらく、現代戦における速度、弾道、兵器の仕組みについて読者の無知を当てにしてのことだろうが、主流メディアはF-4撃墜を完全に公海上で行われた挑発行為として描こうとしている。実際には、トルコのジェット機はシリア領空で攻撃されたと主張しており、攻撃を受けるまで「公海上」にあったのは1,2秒間だけだったとみられる。シリアは、この出来事はすべてシリア領海で起こったと主張しているが、NATOは単なるレトリック以上の確かな証拠を提示できずにいる。98 トルコは、シリアの行動をNATOに対する攻撃とみなすようNATOに働きかけ、NATOは同盟条約第4条に基づく会議を開催することになる。同条項は、NATO加盟国が自国の領土保全や安全が脅かされていると感じた場合、協議を要請できることを認めている。トルコは撃墜された戦闘機に対する「相応の」報復を誓い、トルコのレジェップ・エルドアン首相は、バッシャール・アサド政権による「独裁からシリア国民を解放するためのあらゆる支援」を約束し、シリア反体制派への支援を申し出た。また、トルコ国境に近づくシリア軍は脅威とみなされ、軍事目標として対処されると警告した。

2012年6月27日、トルコは報復の敵対的脅威をちらつかせながら、厳重に警備された15門の長距離砲とその他の軍用車両からなる護衛部隊をシリア国境に派遣した。これを受けてアサド大統領は、自国が公式に戦争状態にあることを認め、勝利は過激派の反対勢力を粉砕できるかどうかにかかっていると述べた。トルコ政府高官が30基の地対空ミサイル部隊の配備を確認する一方で、トルコ・シリア国境の情勢は依然として緊迫したままであり、トルコ国防調達庁は、長距離防空ミサイルシステムに関する40億ドルの契約を求める計画を発表した。 2012年6月28日、政府庁舎を狙った2つの大型爆弾の爆発がダマスカスを揺るがし、アサド大統領はシリア政府の義務として「国内のあらゆる場所にいるテロリストを根絶する」ことを改めて表明し、次のように付け加えた。

シリア国外の、シリア国民ではないモデルは、それが大国や友好国から来たものであろうと、一切受け入れない。シリアの問題を我々ほどよく理解している者はいない。

コフィ・アナン氏は、アサド政権の代表と野党のメンバーで構成される過渡的な国民統一政府の樹立を義務付けるという、新たなシリアの解決策を提案した。これは、移行のための中立的な背景を作り出すことを目的としているが、アサド大統領には新政府での居場所はないことをほのめかしている。ロシアは、シリアの将来を他国が決定すべきだという考えに断固として反対し、決定はシリア人自身に委ねるべきだと主張した。ロシア外相セルゲイ・ラブロフ氏は次のように述べた。

我々は外部からの干渉や、処方箋の押し付けを支持しないし、支持することはできない。これは、同国のバシャール・アサド大統領の運命にも関わる問題である。

外国の軍事組織が公然とシリアに対して戦争行為を行う可能性は依然として存在しており、状況が悪化し続ければ、アサド政権に対する攻撃の先鋒となるのはトルコである可能性が高い。トルコがシリア北部の地域を併合し、かねてから提案されている一連の「人道回廊」を確立する必要性を名目に、軍事介入を行う可能性もある。シリア危機に対して公然と外国軍が介入するかどうかは別として、秘密裏に訓練され、武装し、資金提供された無法な反政府勢力によって、シリア国民はすでに戦争の恐怖を味わっている。その恐怖は、理不尽な暴力と容赦のない愚かさのすべてに満ちている。コフィ・アナンが当初提案した和平案は、双方が停戦を尊重して誠実に履行されていれば、事態を沈静化させることができたはずである。しかし、アナンとNATOおよび湾岸協力会議の加盟国は、宗派過激派に物資援助を行うことで事態をさらに悪化させるあらゆる手段を講じながら、一方的にシリア政府に暴力の責任を押し付けた。シリアで活動する外国勢力が示した破壊と欺瞞のレベルを考慮すると、バシャール・アサドが宗派間の戦闘員を武力で鎮圧しようとする野望は、正当化される可能性がある。「民主主義」という専門用語を隠れ蓑にして活動する、欧米が支援する他の多くの蜂起と同様に、暴力、狙撃手、傭兵、その他の武装挑発行為の使用は、銃口による国家不安定化という、長年にわたって確立されたパターンの一部である。間違いなく、シリアという国家と国民に対して罪を犯した責任ある個人たちが、その罪に問われる時が来るだろう。

(2012年7月1日)

第2章 :イメージ管理と心理戦

章のまとめ

この章は、シリアの内戦におけるメディア報道と情報操作について分析している。以下が主な内容である:

メディアによる報道は紛争そのものの延長線上にあり、対立する解釈の戦場となっている。欧米の主流メディアは、反体制派の主張を裏付けのない形で報じ、YouTubeの映像や匿名の証言に大きく依存している。

具体的な事例として、BBCは2012年5月にシリアの虐殺を報じる際、2003年のイラク戦争の写真を使用していたことが発覚している。また「ダマスカスのゲイの女の子」として注目を集めたブログは、実際には40歳のアメリカ人男性の創作であったことが判明している。

シリア国民評議会(SNC)の主要メンバーは、欧米のシンクタンクや政策立案機関と密接な関係を持っている。例えばバスマ・コドマーニは外交問題評議会のアラブ改革イニシアティブのディレクターを務め、オサマ・モナジェドは米国務省から資金提供を受けている。

メディア操作は組織的に行われている。2012年6月、ティエリー・メイサンは、CIAがシリアのテレビ放送を偽の映像に差し替える作戦を準備していることを暴露している。この作戦は米国の戦略的コミュニケーション担当副国家安全保障顧問が指揮していた。

NGOの報告書も偏向が見られる。「包囲下の女性たち」による性的暴力の報告書は、独自の確認ができない二次情報や三次情報に基づいており、政治的なプロパガンダの性質を持っている。

シリアのジャーナリストや活動家を狙った暴力も発生している。2012年6月には反体制派がシリアのテレビ局を爆破し、ジャーナリスト3名が死亡している。欧米メディアはこの事件を非難するどころか、「権威主義国家の象徴に対する大胆な攻撃」と称賛した。

この章は、シリア紛争における報道が、単なる取材ではなく、国家転覆を目的とした戦略的なプロパガンダの一部となっていると結論付けている。 

「ジャーナリストの仕事は、真実を歪め、平然と嘘をつき、曲解し、中傷し、拝金主義に媚びを売り、日々の糧のために国を売り渡すことだ。あなたも私もそれを知っている。独立した報道機関を称賛することがどれほど愚かなことか。私たちは裏で糸を引く富裕層の道具であり家来なのだ。私たちは飛び跳ねるジャックであり、彼らが糸を引いており、私たちはその糸に導かれて踊っている。我々の才能、可能性、そして人生はすべて他人の所有物である。我々は知的な売春婦なのだ」

ジョン・スウィントン

元ニューヨーク・タイムズ編集局長シリア危機の間中、さまざまなニュースメディアによる現地の出来事の描写は、紛争そのものの延長線上にあるものとなった。つまり、正統性を争う正反対の見解の戦場である。支配的な物語からあまりにも逸脱した報道や分析は、西洋の主流メディアでは受け入れられなかった。ロシア・トゥデイやイランのプレスTVなどの国営英語ニュース機関、および多数の独立系調査・分析機関は、シリアの出来事について異なる解釈を提供した。BBC、CNN、アルジャジーラなどの信頼性の高い主流のニュース機関は、自分たちの現実の解釈を広めるために、疑わしいYouTubeのビデオ映像やソーシャルメディアの噂話、そして反体制派のメンバーによる明らかに未確認の報告に大きく依存していた。

事実と異なる点や公式発表の誇張が数多く見られ、多くの人々が支配的な物語やそれを伝えるニュース機関に疑問を抱くようになった。

紛争中にはシリア国内からの本物の映像もいくつか出回ったが、一方で、包帯や偽の血を用意して映画のセットのような環境で反体制派のメンバーが暴力行為を「演出」している動画もあった。反政府運動が始まってまもなく、イスラエルのYnet Newsは2011年4月下旬、シリア国営メディアの主張を引用した記事を掲載した。それによると、治安部隊が、暴力行為を描写した偽造ビデオが入ったデジタルカメラ、位置情報ソフトウェア、外国のSIMカードを使用した携帯電話、血液の入ったビンを押収したという。100 Ynet Newsは、アサド政権が暴力を軽視するためにとった絶望的な行為であると主張したが、その主張を裏付ける証拠は提示せず、「活動家の証言」以上のものは提示しなかった。シリア国営SANA通信が発表した報告書によると、携帯電話とカメラは、ダラアのラクム・アル・ヒラク地区で軍人への攻撃を担当する武装集団のメンバーが所持していたという。

グループのメンバーは、偽の暴力行為を撮影するために本物の血液を入れたボトルや、火事を起こすためのガソリンの入ったボトルに加え、警備部隊に対する抗議活動で使用された棍棒、剣、金属製の器具も所持していた。101

シリア国営メディアは反体制派が軍事施設を攻撃し、暴力行為を繰り返していると多数の事例を報道したが、欧米の主要メディアは英国に拠点を置く団体を引用し、犠牲者の数が増加していると報じた。シリア人権監視団(SOHR)とシリア人権監視センター(後者はウェブサイトを持たない)は、いずれも「国内外の活動家」からの報告をまとめ、主要メディアが引用した圧倒的な数の犠牲者報告を作成した。米国政府は、全米民主主義基金などの機関を通じて国連に公式の犠牲者数を報告したシリアの非政府組織(NGO)にも資金援助を行っている。これらの機関は、米国議会および国務省から直接資金援助を受けている。

調査結果が主流メディアに認められたシリア人権団体のほぼすべてが、一見良心的なNGOや市民団体と連携しているが、それらの団体は、国際通貨基金、世界銀行、国際刑事裁判所、国連といった「国際機関」と積極的に関わっている企業から資金援助を受けている。国境なき記者団(全米民主主義基金から資金提供を受けている)は、2011年3月に「ニュースを統制しようと躍起になっている政府に狙われたジャーナリスト」と題する報告書を公表し、ロンドンを拠点とするシリア人権監視センターを引用している。一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ研究所から資金提供を受けている)は、ワシントンを拠点とするダマスカス人権センターを引用して報告書を公表している。102 ウォールストリート・ジャーナル紙は、ワシントンを拠点とするシリア人反体制派活動家で、ダマスカス人権研究センターの所長であるラドワン・ザイード氏について繰り返し言及している。103 ボストン・グローブ紙は2011年に、「活動家によると、治安部隊は少なくとも26人を殺害し、数百人に負傷を負わせた」と述べ、さらに「シリア人権団体インサンのエグゼクティブ・ディレクターであるウィサム・タリフ氏は、つい先日まで拷問されていた若い男性たちにインタビューしたと語った。そのうちの1人は爪をすべて引き抜かれており、バニヤスで昨日行われた抗議デモのリーダー格だった」と述べた。

これらの報告の信憑性を確認することは依然として困難であるが、ボストン・グローブ紙の記事は、ウィッサム・タリフ氏と彼が率いるインサン組織がバニヤスでの出来事を直接目撃していたわけではなく、スペインを拠点として「国際非政府組織」として活動していたことから、誤解を招く可能性がある。ガーディアン紙は、2011年4月の記事で、レバノンのベイルートからシリアを監視しているヒューマン・ライツ・ウォッチの研究者の言葉を引用し、報告の検証の難しさを指摘している。

私たちはデラアから間接的に入手した情報に非常に懸念を抱いている。地上には死体が散乱しており、この2日間で30人以上が殺害され、逮捕キャンペーンが行われているが、それを確認することはできない。104

シリア治安部隊による過剰な暴力の申し立てをすべて否定するのは賢明ではないが、政府による虐殺の報告については懐疑的な見方をする根拠が確固としてある。このような主張はシリアだけでなく、2011年のリビア紛争全体でもでっち上げられた。ムアンマル・カダフィが戦闘機で平和的なデモ隊を攻撃し、6,000人以上の民間人を殺害したという未確認の報告は、国連安全保障理事会が国連人権理事会からリビア・ジャマーヒリーヤ国を追放する直前に、 国連安全保障理事会が決議1973を採択する直前のことだった。これらの主張の主な情報源のひとつは、国際人権連盟(FIDH)とつながりのあるリビア人権連盟(Libyan League for Human Rights)という組織であった。FIDHは米国国務省から資金提供を受けていた。2011年2月21日、リビア人権連盟の事務局長であるソリマン・ブシュイグィール博士は、国連監視機構(UN Watch)および全米民主主義基金と共同で嘆願書を提出し、その後70以上のNGOが署名した。2011年2月25日、ソリマン・ブシュイグィール博士はジュネーブの国連人権理事会で、リビア・ジャマーヒリーヤ政府が人道に対する罪を犯し、6,000人以上の傭兵を雇って「区別なくすべての民間人を略奪し殺害している」と非難した。フランスの調査ジャーナリスト、ジュリアン・テイルが2011年に制作したドキュメンタリー映画『The Humanitarian War』では、ソリマン・ブシュイグィール博士へのインタビューを通じて、これらの主張の根拠の薄い捏造を明らかにしている。

ジュリアン・テイル:あなたはリビアにおける多くの犯罪について語っていますが、例えば3月17日には、死者6,000人、負傷者1万2,000人、行方不明者500人、レイプ被害者700人、そして難民7万5,000人という報告をされていますね。5月31日には、死者1万8000人、負傷者4万6000人、行方不明者2万8000人、レイプ被害者1600人、そして難民15万人という数字を報道している。もし我々がリビアに行ったら、これらの犯罪をすべて記録するために何をすべきか、あなたならどう助言するだろうか?

ソリマン・ブシュイギール博士: 方法はない。リビア政府は、人権、刑務所、囚人、殺害された人々、殺害されている人々に関する情報を決して提供しない。だから、推定値を出すしかない。そして、私はこの情報を誰からでも得たわけではない。私は、リビア首相から、つまり国民評議会の側から、その情報を得たのだ。首相、ミスター…ええと…待って…後で教えるよ…ワルファラ族のマフムードだ!彼がこの数字を述べ、発表したんだ。私はこの数字を使用したが、慎重を期してだ。

2011年6月28日の記者会見で、国際刑事裁判所の検察官であるルイス・モレノ・オカンポ氏は、国際刑事裁判所がムアンマル・カダフィ大佐、サイフ・アル・イスラム氏、アブドゥッラー・アル・サヌーシー氏に対する逮捕状を発行する際に使用した証拠に関する質問に答えた。同氏は次のように述べた。

検察官事務所の申請書を読んでみることをお勧めする。多くのページがあるが、確か77ページだ。我々は事実を詳細に説明しているが、そのほとんどは公になっている。また、裁判官も証拠を分析し、決定を下している。我々は検察官であり、裁判官でもあるので、もちろん事実に基づいている。我々は犯罪を証明した。それが我々のしたことだ。我々は裁判官に訴訟を提出し、1カ月と10日間、3つの異なる大陸から来た裁判官たちが独立した評価を行い、決定を下した。

オカンポが参照した文書のほとんどは、重要な証拠を隠蔽するために大幅に修正されていた。17ページから71ページまでは修正されており、まさにリビア・ジャマーヒリーヤ政府による残虐行為の証拠と証言を明らかにする部分が修正されていた。国際刑事裁判所の検察官事務所が引用した公開情報の中には、FOXニュースの記事、中央情報局(CIA)が公開した文書、ソリマン・ブシュイグィール博士のリビア人権連盟が発表したプレスリリース(NTCの当時の首相マフムード・ジャブリールから聞いたという主張を引用した国連人権理事会でのスピーチを含む)などがあった。

ジュリアン・テイル:あなたがスピーチを行った人権理事会は、あなたが国連安全保障理事会で提供した情報を調査しなかった。国連決議に直接つながる調査や証言が行われなかったことを、どう説明するのか?なぜ、あなたのスピーチがこれほど大きな影響を与え、あなたが集めたNGO連合が人権理事会を掌握し、安全保障理事会が介入して決議を採択するに至ったのか?

ソリマン・ブシュイグ博士:決定的な要因は、カダフィが自国民に対して空軍を使用したことだと思う。そして、それが道を開いたのだと思う。自国民に対して空軍を使用したことは、彼が止められないことを示していた。ベンガジでは、2日間で300人以上が死亡した。2日間で!300人以上の犠牲者だ!しかも、すべてが紙の上に記録されている。名前までだ。

ジュリアン・テイル: ええ、でも死者6,000人、負傷者1万2,000人、行方不明者500人、レイプ被害700件、そして7万5,000人の難民について、何か証拠をお持ちですか?

ソリマン・ブシュイギール博士:現在、チュニジア国内には15万人の難民がいる。チュニジア政府に聞いてみろ。チュニジア政府がそう発表したのだ。現在、チュニジア国内には15万人以上のリビア人がおり、彼らはチュニジアで難民申請を行っている。

ジュリアン・テイル:死亡者数についてだが、何か証拠はあるか?

ソリマン・ブシュイギール博士:えっ?

ジュリアン・テイル:死亡者数についてですが、何か証拠をお持ちですか?

ソリマン・ブシュイグィール博士:証拠はない。私が言えるのは、証拠がないということだ。…文書がない。アズワウィヤでは、1万8000人が死亡、負傷、または行方不明となった。1万8000人だ!アズワウィヤだけでだ!105

アルジャジーラとBBCは、リビア・ジャマーヒリーヤ政府がベンガジに対する空爆を行い、民衆のデモを鎮圧しようとしたと報じたが、ロシア軍はリビアは宇宙から監視されており、そのような攻撃は実際には行われていないと発表し、これらの出来事は完全にでっち上げられたものであることを示唆した。106 ソル・イマーン・ブキギルのイマン・ブーチギグ博士が代表を務めるリビア人権連盟と、その他70の関連NGOは、オバマ大統領、欧州連合(EU)のキャサリン・アシュトン上級代表、国連の潘基文事務総長に書簡を送り、「保護する責任」の原則を援用してリビアに対する国際的な行動を要求し、NATOによるリビアへの軍事介入を認めるよう求めた。リビア人権連盟が挙げた証拠は、これまで一度も検証されたことがなく、国際刑事裁判所による公開審査にも供されたことはない。これらの証拠はでっち上げであり、リビアの支配権を掌握するために、NATOと協力する国民評議会の根拠として使用された。

ブシュイギール氏は、これらの主張はすべて反体制派の国民評議会、特に前首相のマフムード・ジャブリー氏に依存していることを認めた。ジャブリルは、米国とイスラエルの支援を受けたアラブおよび東南アジアの政治指導者たちにコミュニケーションスキルの個人指導を行っていた国際企業JTrackのCEOであった。ジャブリルの主な顧客は、カタール首長国を統治する首長で、アルジャジーラ・ニュースネットワークの主要な出資者でもあるハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニー首長であった。アルジャジーラの番組「ash-Shariah wal-Hayat」(「シャリーアと生活」)の司会者であるカダウィは、シーア派を異端呼ばわりし、リビアの反政府勢力への支援を要求し、カダフィ大佐の処刑を求めるファトワ(宗教的判決)を下すなど、イスラム世界における分裂を煽っていることで知られている。

…カダフィを殺すことができる将校や兵士たち、そしてその中の誰であれ、彼を銃弾で撃ち、彼から国と神のしもべたちを解放することができる者たちに告ぐ。私はこのファトワ(uftî)を出す。実行せよ! 107 108

ワダ・カンファールがアルジャジーラの編集方針を劇的に転換したのは、「アラブの春」蜂起のさなかであった。この方針転換について、フランスのジャーナリスト、ティエリー・メイサンは、アルジャジーラの信頼性を完全に失墜させるものだとし、「15年かけて築き上げたものを、たった6カ月で失うことになった」と述べた。メイサンは2011年9月の記事「ワダ・カンファール、アルジャジーラ、そしてテレビ宣伝の勝利」で次のように述べている。

2011年前半、カタールチャンネルは親欧米のプロパガンダの手段として好まれるようになった。アラブの革命における反帝国主義、反シオニストの側面を隠すために多大な労力を費やし、それぞれの国において支援する人物と軽視する人物を選別した。当然のことながら、アルジャジーラの精神的指導者であるシェイク・アル・カラダウィが、カダフィとアサドが自国民を殺害していると虚偽の非難を行い、テレビを通じてジハードを呼びかけている一方で、バーレーンの国王(マフムード・ジブリルの弟子)は自国民を銃撃していたため、アルジャジーラは国王を支援した。

アルジャジーラがリビア再植民地化のプロパガンダの道具に変えられたのは、カタール首長の知らぬ間に起こったことではなく、首長の主導の下で起こったことである。湾岸協力会議はリビアへの武力介入を最初に呼びかけた組織であり、カタールはコンタクト・グループに最初に参加したアラブ諸国であった。彼は、自国の地上部隊を派遣する前に、特にトリポリの戦いの間、リビアの「反政府勢力」に武器を供給した。その見返りとして、彼は国民評議会の代理として石油貿易をすべて管理する特権を手に入れた。

マフムード・ジャブリルがリビアの公式に承認された反政府政府の指導者となったことで、トリポリのグリーン広場とバブ・エル・アジーズのレプリカがドーハのアルジャジーラのスタジオで建設され、反政府勢力がトリポリを制圧する様子を撮影した捏造映像が、実際に反政府勢力を支援するNATOによる激しい爆撃が行われる3日前に放送された。リビア国営メディアは、この捏造ビデオが作られた数日前に、その事実を警告する報道を行っていたが、計画は実行に移された。この手の込んだ心理戦は、トリポリおよびリビア全土における忠誠心と国民の信頼を低下させることを目的としていた。リビア紛争中、リビア・ジャマーヒリーヤ政府軍はカダフィ派の傭兵と称されていた。こうした非難は複数の通信社によって繰り返されたが、その主張は、カダフィが数千人のアフリカ人傭兵を雇い、彼らが民間人を殺害し、レイプを武器として使っているという、うんざりするほど繰り返された主張に基づいている。2011年2月22日、France24はアムネスティ・インターナショナル・フランスのジュヌヴィエーヴ・ガリゴス会長にインタビューを行い、ガリゴスはリビア・ジャマーヒリーヤ政府が外国人戦闘員を雇っていると主張した。

金曜日と土曜日、私たちは、弾圧を加速させるために、デモ隊と戦うカダフィ軍の中に外国人傭兵がいるという情報を入手した。

France24に出演してから5カ月後、ジュリアン・テイルがガリゴスにインタビューしたところ、彼女の見解は完全に変わっていた。

ジュリアン・テイル:アムネスティ・インターナショナルのアドバイザーであるドナテラ・ロベラはリビアに3カ月間滞在していた。彼女は、国民評議会が捕らえたリビアの民間人や外国人を、外国人傭兵として投獄しているのを目の当たりにした。この件について、何かお話いただけますか?

ジュヌヴィエーヴ・ガリゴス:反カダフィ軍の展開が始まって以来、カダフィの代理として行動する傭兵部隊の噂はあったが、2月中旬に到着し、6月下旬に出発した私たちの調査員は、罪状なしに投獄されているのは少数の人々だけであることを確認した。実際、こうした噂のほとんどは、肌の色が浅黒い人々や黒人に対する非難であった。彼らはリビア人であった可能性もある。なぜなら、リビア南部に住むリビア人は必ずしもアラブ人特有の特徴を持っているわけではないからだ。これが一種の恐怖と外国人嫌悪を生み、暴行や虐待、そして少数の投獄につながった。しかし今日、カダフィが傭兵部隊を雇ったという証拠はないことを認めざるを得ない。

ジュリアン・テイル:あなたの同僚は、傭兵を目撃していないと報告しており、これはメディアによって広められた未確認のストーリーであると述べています。彼女の主張を確認していただけますか?

ジュヌヴィエーヴ・ガリゴス:もちろんだ。ドナテラの仕事は、我々が実際に傭兵を見つけたかどうかを検証することだった。そして、我々は傭兵を見つけられなかった。例えば、彼女は、傭兵ではないかと疑われたために、上司がパン屋で働いていると証言せざるを得なかった若いアルジェリア人の話を引用している。現在、我々は、これらの噂を裏付ける兆候や証拠を何も持っていない。110

カダフィがアフリカ人傭兵を雇っているという誤った報告が流布されたことで、リビアの反体制派の間で外国人嫌悪の感情が煽られ、リビア人のみならず、ニジェールやチャドからの移民労働者に対する迫害、拘束、殺害が蔓延した。111 このような裏付けのない主張が流布されたことで、リビアへの外国の介入を正当化する口実が生まれた。この軍事的・メディア的キャンペーンは、国連やICCなどの機関が、企業所有のニュースメディアや無数の市民社会グループと協力し、そのほとんどが米国国務省から資金援助を受けていることで実現した。シリア紛争は、こうした歪んだレンズを通して解釈されなければならない。

ウォールストリートやロンドンのメディアは、2011年11月のBBCの記事「シリア治安部隊が『人道に対する罪を犯している』」のように、シリアで現在進行中の暴力に関する国連人権理事会の報告書の結論を伝える見出しを競って掲載した。112 200を超える国際的な BBCの記事は、紛争勃発以来、200を超える国際メディア機関のスタッフやジャーナリストがシリアへの合法的な入国を許可されているにもかかわらず、「調査チームのメンバーはシリアへの入国を拒否されたと述べている」と主張し、彼らの「証拠」はすべて「人権侵害の疑いについて調査するために、223人の被害者、目撃者、軍の脱走兵」とのインタビューから収集されたものだと主張している。BBCの記事は、シリア国外でインタビューされた「被害者、目撃者、脱走兵」の証言は、シリア政府を否定的に描こうとする利害関係者グループによる伝聞の域を出ないものであり、報告書の信憑性に対する疑念を即座に引き起こす。2011年11月の国連人権理事会によるシリアに関する報告書では、まさに「どのように」文書がまとめられたかが説明されている。「作業方法」と題されたセクションでは、報告書の証拠を集めるにあたっての疑わしい手段が説明されており、国連が「シリアは『人道に対する罪』を犯しており、国連安全保障理事会は行動を起こさなければならない」というあらかじめ決められた結論を下すにあたっての、深刻な利益相反が示されている(強調表示):

C. 作業方法

7. シリア・アラブ共和国における事件の被害者および目撃者へのインタビューを通じて、一次情報を収集した。インタビューは2011年9月26日にジュネーブで開始された。 軍および治安部隊から離反した人員を含む、合計223人の被害者および/または目撃者へのインタビューが行われた。

8. 委員会がその任務を遂行する上で役立つ関連情報や文書を提出するよう、すべての利害関係者および団体に公開要請がなされた。委員会は、すべての地域グループに属する加盟国、アラブ連盟やイスラム協力機構などの地域機構、非政府組織、人権擁護者、ジャーナリスト、専門家と会合を行った。報告書、学術的分析、メディア報道、音声・視覚資料も適切に考慮された。

9. 収集された情報は、国連の機密保持規則に従って厳重に管理されたデータベースに保管される。

10. 人権調査の方法論の中心には、被害者と証人の保護がある。収集された情報は機密扱いとされるが、委員会は、委員会に協力した個人やシリア・アラブ共和国のその親族に対する報復の可能性を深く懸念している。また、政府による報道封鎖に対抗しようとしてメディアに開放的に語った人々の保護についても懸念している。113

国連人権理事会の報告書は、シリア政府から何の協力も得られなかったことも述べている。表向きには、この報告書はシリア政府にとって最悪のイメージを与えるための一方的な試みであり、シリアの反体制派が語った内容に過ぎないという苦情を検証するものとなっている。NGOの関与は即座に懸念を呼び起こす。特に、報告書がこうした貢献NGOのリストをまったく提示していないことを考慮すると、そのNGOは、ジョージ・ソロスが設立した全米民主主義基金やオープンソサイエティ研究所、およびそれらの多数の子会社が推進する支配的な主張を支持している可能性が高い。「疑惑」という言葉は、この報告書全体でさまざまな形で使用されており、国連人権理事会の「証拠」の薄弱性をさらに明らかにしている。一方で、証言、証言者、そして国連報告書の作成に関与したNGOはすべて、当然ながら「機密扱い」となっている。米国の全米民主主義基金が発行する『Democracy Digest』誌の2011年8月号の記事「シリア軍は『緊張状態』、クリントンが反体制派活動家と面会」では、シリアにおける人権侵害を報告している複数のNGOを挙げ、ロンドンを拠点とするシリア人権監視団やワシントンを拠点とするダマスカス人権センターを引用している。114

シリア人権監視団のラミ・アブドゥルラフマン代表は、英国のウィリアム・ヘイグ外相と直接面会した。ヘイグ外相は、NATOによるリビア攻撃を推進する上で重要な役割を果たしながら、同様にロンドンでリビアの反体制派指導者を優遇していた。

リビアで「人権活動家」たちが国際刑事裁判所や国連で使用された証拠をでっちあげていたことを今になって認めているように、シリアからの「証拠」は依然として「機密扱い」のままであり、確認することは不可能である。シリア人権監視団はシリアにおける人権侵害の証拠を独占的に提供する情報源の一つとなっているが、同団体自体は財務報告書や会員の構成に関する背景情報を公表していない。シリア危機の間、AFP、AP通信、CNN、MSNBC、CBS、BBCなどの通信社や欧米の大手新聞の多くが、このオブザーバトリーを引用し、数百人のメンバーが現地で活動し、写真や動画でシリアにおける証拠を記録しながら、外国の報道機関と連携して透明性と客観性を保ちながらシリアの「人権」状況を「観察」し、その手法を実証している、という印象を与えた。2011年12月のロイターの記事「コヴェントリー – 有名なシリア活動家の意外な拠点」は、シリア人権監視団とその運営者であるラミ・アブドゥルラフマーン氏について、さらに詳しい洞察を提供している。

数時間しか眠らず、常に携帯電話を耳に当て、2つの電話が鳴っている状態の、おそらくシリアで最も注目されている人権団体の敏腕ディレクターは、非常に多忙な人物である。「衝突は起きているのか?彼はどのようにして死んだのか?「ああ、彼は撃たれた」とラミ・アブドゥルラフマン氏は携帯電話に向かって言った。銃声と死の話題は、彼がシリア人権監視所を運営するコヴェントリーの2ベッドルームのテラスハウスとは不釣り合いである。国際メディアからの電話に対応していないときは、アブドゥルラフマン氏は数分先の妻と経営する洋服店にいる。シリアのバシャール・アル=アサド大統領による鉄の支配に反対する蜂起が3月に始まって以来、同氏はほぼすべての主要な報道機関から取材を受けている。同氏が経営する人権監視所は、シリアの出来事に関するニュースの主要な情報源となっている。家庭的な雰囲気に囲まれて――幼い娘が作ったきらびやかなカードや「ベスト・ダッド」と書かれた腹巻をつけた猿の人形――

アブドゥルラフマンはノートパソコンと電話を傍らに座り、紛争と人権侵害の情報を収集し、それらをまとめてからインターネットにニュースをアップロードしている。115

アブドゥルラフマンは、10年以上前にシリアを脱出し、それ以来英国に住んでいることを認めている。そして、「アサドが退陣する」までは帰国しないつもりだ。現在自分が住んでいる国が長年「政権交代」を標榜してきた政府を公然と非難し、その報道手法が誰にも確認できない疑わしい電話取材を含むという人物にとって、不正行為に走る可能性はほぼ避けられないように思われる。アブドゥルラフマンがシリアの反体制派メンバーから電話を受けたり、信頼性に欠ける情報を欧米の報道機関に流したりしていないときは、英外務省に出入りして、同じくシリア大統領バシャール・アル=アサドの退陣を公然と求めているウィリアム・ヘイグ外相と直接会っている姿が目撃されている。アブドゥルラフマン氏の情報源としての信頼性は疑わしく、また「観察」対象から3,000マイル近く離れた場所にいるという明白な不利な点があるため、シリア紛争に関する信頼できる情報を求める外部の観察者にとっては、アブドゥルラフマン氏は信頼性に欠ける情報源である。

シリア紛争中、BBCやCNNなどのメディアは、シリア国内の英語を話す反体制派活動家を積極的に取り上げた。最も著名な人物は、英国とシリアの二重国籍を持つダニー・ダヤム、または「シリアのダニー」である。デイエムは自由シリア軍に加わりたいと主張し、たびたび飛行禁止空域の設定を求め、米国、イスラエル、NATOにシリアの空軍基地への空爆を懇願した。116 デイエムの信頼性は、銃声の音を立てたり、カメラの外でリラックスした様子を見せたりする彼の映像がリークされ、CNNのアンダーソン・クーパーとのインタビューでヒステリックな「被害報告」を行う役になりきった後、急落した。クーパーは自身の番組で、CNNのようなネットワークは「独自に確認できない」活動家メディアに頼らざるを得ないのだと主張し、デイエムを擁護しようとした。デイエムは、リークされた映像で「銃撃の準備をするように彼に言ったか?」と尋ねている様子が映し出されていたにもかかわらず、口頭で自身の潔白を証明しようとして非常に苦労していたにもかかわらず、である。放送中、デイエムは「どうやって入手したのかわからない。これはすべてプライベートなことだ。削除しておくべきだった。「すべて削除しなければ」と緊張した様子で述べた。一方、クーパーは、捏造を認めるような発言をしていたことについて、まったく触れようとしなかった。

政治的・個人的自由の拡大を求めるレズビアンのシリア人活動家、アミナ・アブダラ・アラフ・アル・オマリは、かつては著名な英語ブログの執筆者であった。オマリの人気ブログ「ダマスカスのゲイの女の子」は、ガーディアン紙などの主流メディアの注目を集め、ガーディアン紙は「政府による弾圧に抗議運動が苦戦する中、シリアの反体制派の想像力を掻き立てたことで、このブログはますます人気が高まっている」と報じた。2011年5月の記事「ダマスカス在住のゲイの少女がシリア反乱のヒロインに」で、ガーディアン紙は次のように書いている。

保守的な国では、彼女は反乱のヒーローとは考えにくいかもしれない。女性で、ゲイで、アメリカ人のハーフであるアミナ・アブドゥラは、シリアの反体制派の想像力をかきたてている。彼女のブログは、政府による残忍な弾圧に直面する抗議運動が苦戦を強いられる中、一躍注目を集めるようになった。2週間前、彼女のブログは「My Father the Hero(私の父はヒーロー)」というタイトルの投稿で大きな注目を集めた。この投稿は、彼女を逮捕するためにやって来た2人の治安部隊員と対峙した父親が、サラフィストであり外国のスパイであるという罪を着せられたという感動的な内容であった。

アブドゥラの家族は政界とつながりが深く、政府やムスリム同胞団に親戚がいるが、彼女はその親戚の名前を明かさないことを好んでいる。彼女は、政治的に活動することは「自然なこと」だったと語る。「残念ながら、私の人生の大半において、シリアの政治に関心を持つことは、単に観察し、個人的に意見を述べるだけを意味していました」しかし、抗議運動が勃発し、アブドゥラがそれに加わり、自身の経験をブログに書き始めたことで、状況は変わった。「催涙ガスが私たちに投げ込まれました。催涙ガスを浴びて嘔吐する人々を目にした。私は自分の口と鼻を覆い、目は痛んだ」と、彼女はデモの後に書いた。「これが常態化すれば、今後はニカブを身に着けるのが非常に現実的な選択肢になるだろう」117

シリア治安部隊は2011年の蜂起時にオマリを拉致し、LGBTコミュニティと国際メディアから国際的な非難を招いた。『ダマスカスのゲイの女の子』のブロガーがシリアで銃を突きつけられて誘拐された。シリア国家治安部隊とバース党民兵が誘拐に関与したと非難し、米国務省が懸念を示した。118 オマリ氏の拉致に対する国際的な非難の声が高まる中、40歳の米国人の作家トム・マクマスター氏は、「シリア革命のインスピレーションを与える英雄」は、実際には彼がでっちあげた精巧な架空の人物であったことを認めた。

「アミナ・アラフ・アル・オマリ」がシリア治安部隊に拉致されたという全くの作り話が欧米メディアによって信憑性を与えられた一方で、18歳のザイナブ・アル・ホスニが「シリア治安部隊によって明らかに斬首され、身体を損壊された」状態で発見されたという報道には同様のヒステリーが巻き起こった。活動家の兄に自首するよう圧力をかけるために治安部隊に拘束された」という、ハフィントン・ポストの劇的な報道で引用された内容である。119 この報道は、彼女の殺害におけるシリア政府の役割を強調しようとあらゆる試みを行い、「アサド家は、あらゆる反体制の兆候を残忍に粉砕することで、40年以上にわたってシリアの権力を鉄のグリップで維持してきた」と述べた。しかし、数日後、ザイナブ・アル・ホスニはシリア国営テレビの放送に元気な姿で再び登場した。ハフィントン・ポストの続報「ザイナブ・アル・ホスニ、斬首されたとされる女性、テレビに登場」には次のようにある。

ある女性が水曜日にシリア国営テレビに出演し、先月拘束中に治安部隊によって斬首され、身体を損壊されたと広く報道されたシリア人の若い女性であると主張した。同局は、このインタビューは外国の「メディアによるねつ造」を否定する目的で行われたと述べた。国営テレビのインタビューで、ザイナブ・アル・ホスニと名乗る黒い服を着た若い女性は、兄弟から虐待を受けたとされるため、7月下旬に実家から逃げ出したと語った。彼女は、家族は自分が生きていることを知らないと述べ、母親に許しを求めた。「私はとても生きているし、将来結婚して、登録したい子供を持つつもりなので、真実を話すことにした」と彼女は語った。120

米国務省およびその広大なメディアおよび情報資産のネットワークと歩調を合わせ、シリアの紛争地域における同性愛者や女性に関する正当な懸念を無責任に歪曲し、アサド政権を根拠なく悪者にしようとする試みが、120のメディア機関によって行われた。2011年のリビア蜂起の際には、欧米のメディアは、ムアンマル・カダフィが自ら数百人の女性へのレイプを命じたとヒステリックに報道した。この主張は未確認であり、スーザン・ライス大使などの米国高官が国連安保理決議第1973号を支持する材料として主張したものである。

カダフィ政権による犯罪や人権侵害は、それだけでも十分にひどいものである。なぜ、カダフィ軍がバイアグラで勃起した兵士たちによるレイプストームを繰り広げたなどという話をでっち上げる必要があるのか、疑問に思うのは当然である。おそらく、それは「トラウマを抱えた人々の想像力をかき立てる」ような話だから広まったのだろう。この話はあまりにも真剣に受け止められたため、ファイザー社にリビアへのバイアグラ販売中止を求める手紙を書く人々まで現れた。 本来ならもっとよく知っているはずの人々が、故意に国際社会に誤った情報を流そうとしたのだ。

バイアグラの話は、アルジャジーラが反体制派の協力のもとで最初に流したもので、アルジャジーラに資金提供しているカタール政府がこれを好んだ。その後、この情報はほぼすべての欧米の主要なニュースメディアによって再配信された。国際刑事裁判所のルイス・モレノ・オカンポ検察官は、世界中のメディアの前に姿を現し、カダフィ大佐が「レイプの可能性を高める」ために部隊にバイアグラを配布したという「証拠」があること、そしてカダフィ大佐が数百人の女性に対するレイプを命じたことを述べた。モレノ・オカンポ氏は「カダフィ自身がレイプを決断した」という情報があること、また「リビアでは政府に反対する人々をレイプするという方針があった」という情報があることを主張した。さらに、バイアグラは「ナタのようなもの」であり、「バイアグラは集団レイプの道具である」と叫んだ。

国連安全保障理事会で驚くべき発言をした米国大使のスーザン・ライス氏は、カダフィ大佐が自軍兵士にバイアグラを支給し、集団レイプを奨励していると主張した。彼女は主張を裏付ける証拠を一切提示しなかった。実際、米軍および情報機関の関係者はライス氏の見解を真っ向から否定し、NBCニュースに対し「リビア軍がバイアグラを支給され、反政府勢力の地域で女性に対する組織的なレイプを行っているという証拠はない」と語った。6月10日までに、リビア情勢に関する国連人権調査団を率いるシェリフ・バシウニ氏は、バイアグラと集団レイプの主張は「大規模なヒステリー」の一部であると示唆した。実際、バシウニ氏のチームが「発見した」レイプや性的虐待の「疑惑のあるケース」はわずか4件であった。「レイプが組織的に行われているという結論を導くことができるだろうか?私の意見では、それはできない」

国連に加えて、アムネスティ・インターナショナルのドナテラ・ロヴェラ氏は、フランスの日刊紙リベラシオンとのインタビューで、アムネスティは「レイプの事例を発見していない」と述べた。被害者に会っていないだけでなく、被害者に会った人物にも会っていない。カダフィがばらまいたとされるバイアグラの箱については、戦車が完全に燃え尽きた近くで、そのままの状態で発見された。

「包囲下の女性たち」という組織は、シリア治安部隊が若い女性を無差別にレイプし、その他の残虐な行為を行っていると、その出版物「究極の攻撃:シリアによる国民への恐怖政治としてのレイプの使用」で非難している。「包囲下の女性たち」は、通常は政府軍である複数の加害者が、女性たちを自宅で集団レイプし、被害者を動けなくするために薬物を注射し、「性器を焼いたり、ネズミを詰め込んだり」していると報告している。

疑いなく、これらの行為は厳しく非難されるべきであるが、その報告書が親しみを込めて述べているように、現実との関係は依然として不明である(強調表示)。

シリア政府軍およびその他の勢力が、紛争が続く中、シリアの女性、男性、子どもに対して、ひどい性的暴行を行っているようだ。シリアはあまりにも危険であり、また、調査スタッフも少ないため、私たちは独自にこれらの話を確認することはできないが、これらの話は、シリア紛争に関するニュースやNGOの報告書の中で、同様の話を伝えるものとも一致している。

シリア紛争に関する報道における主流メディアと関連NGOの二枚舌を考慮すると、欠陥のある支配的な物語に一致する一貫性を理由に、残虐行為の疑いのある報告を正当化しようとするいかなる団体の信頼性も、特にその団体自身が次のように認めている場合には、非常に疑わしい。

紛争下における性暴力の研究には、十分に文書化された課題や限界があり、私たちのデータはシリア紛争の全体像を表すものではありません。私たちの報告はすべて二次情報または三次情報であり、独自に確認することはできません。

これらの声明を踏まえると、Women Under Siegeが発表したレイプと暴力の統計は、疑わしいというだけでなく、矛盾に満ち、本質的には人権侵害を悪用した操作的なプロパガンダであり、数多くの文書化された侵害行為の根源である介入的な現状を積極的に支持していると結論づけられる。この団体は、その報告書が未検証であることを認めているが、以下の統計は、その目的が明らかに政治的なものであることを示している。

政府による加害者が、追跡できた攻撃の大部分を占めている。61パーセントが、男女に対する攻撃であり、さらに6パーセントは政府軍とシャビーハが共同で実行したものである。これらの兵士や将校が女性に対するレイプの58パーセントを実行したとされている。シャビーハ(私服民兵)の加害者は14パーセント、政府とシャビーハが共同で実行したのが5パーセント、そして別の加害者または加害者不明が26パーセントである。私たちが確認した女性に対する性的暴力事件の42パーセントでは、被害者が一度に複数の人物から攻撃されたとされている。これは集団レイプの割合が非常に高いことを示唆している。

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Women Under Siegeの組織についてさらに詳しく知るには、この団体の創設者でありフェミニストのリーダーであるグロリア・スタイネムの経歴を調べるのがよいだろう。1967年2月21日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事「CIAが資金援助する遠足: 何百人もの学生が世界的な集会に派遣された」という記事では、1958年にCIAにスカウトされ、マルクス主義に対抗する左派リベラリズムを推進する目的で「独立調査サービス」と呼ばれる活動家組織を率いていたとシュタイネムが報告している。123 CIAの支援を受けながら、シュタイネムはヨーロッパ各地で共産党が主催する若者向けのフェスティバルに参加し、新聞を配布したり、他の参加者の報告を行ったり、暴動を扇動する手助けをしていた。

「Women Under Siege」は、スティーンムの「Women’s Media Center」のプロジェクトであり、この「Women’s Media Center」自体が、ジョージ・ソロスの「Open Society Institute」、フォード財団、タイズ財団、ニューヨークライフ、Google、国連、AT&T、 ライフタイム、アメリカ自由人権協会(ACLU)などから、2011年の年次報告書に記載されている通り、直接的な資金援助を受けている。124 間違いなく、スティーンムの組織は、米国国務省、全米民主主義基金、そしてシリアを不安定化させ、その政府を転覆させることに加担しているさまざまな情報機関や軍事機関の議題を推進している。

欧米の主流メディア機関と関連NGOの二枚舌的な編集方針は、シリアへの介入を義務付ける国際決議に反対する国々を非難するなど、アメリカの外交政策目標に完全に都合の良い現実の一面を提示する方向に働いている。アムネスティ・インターナショナルのキャンペーン「ロシア: これ以上の言い訳はなし、シリアの流血に反対して立ち上がろう」というキャンペーンでは、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とセルゲイ・キスリャク大使に宛てたメッセージを事前に用意し、シリア政府への武器輸送を停止し、バシャール・アサドに対する国際刑事裁判所の起訴状を承認するよう促すよう、読者に呼びかけた。

私は、安全保障理事会がシリアを国際刑事裁判所に付託し、人道に対する罪およびその他の国際法違反を確実に認定することを求めます。

バッシャール・アル・アサド大統領およびその側近の資産を凍結し、シリアに対する即時の武器禁輸措置を講じることを求める。125

シリアに対する武器禁輸措置という考えは、一見もっともらしく聞こえるかもしれないが、CIAなどの情報機関やシリアの武装反体制派の支援者たちの行動を見れば、そのような禁輸措置は形骸化し、反体制派への武器供与に関しては完全に無視されることが確実である。

アムネスティ・インターナショナルは、シリア国内にひそかに存在する欧米諸国と湾岸諸国の存在によって明らかに煽り立てられた暴力と不安を、あたかもロシアがNATOの新たな介入を前に降伏を拒否した結果であるかのように歪曲しようとしている。アムネスティの報告書は、国連がシリアの反体制派の主張のみに基づいて作成した捏造の死者数を引用し、ホムス市とその周辺にシリア軍と装備が配備されていることを嘆く前に、シリア治安部隊と戦う重武装の武装勢力の主要な活動拠点として知られていたホムス市について言及している。米国務省から直接資金提供を受けている)アムネスティ・インターナショナルのような組織が、読者に対して「今すぐ寄付を:1ドルでも多くの寄付で悪と戦おう」などと甘い言葉で呼びかけ、「ロシアがシリアにおける人道に対する罪に対して断固とした態度を取るまで、あと何人の犠牲者が出る必要があるのか?」などと皮肉な質問を投げかけるのは、アムネスティ・インターナショナルが「正義、自由、真実、尊厳が否定されている場所で人々を守る」という使命に反する活動を行っていることを明らかにしている。

アムネスティ・インターナショナルの事務局長スザンヌ・ノッセル氏は、米国務省で国際機関担当副次官補を務めた後、アムネスティのトップに就任した。また、ウォール・ストリート・ジャーナルの戦略・業務担当副社長、 (外交問題評議会の「創設」企業会員である)マッキンゼー・アンド・カンパニーのメディアおよびエンターテイメント部門のコンサルタントも務めていた。126 アムネスティ・インターナショナルや同様の組織を詳しく調べると、米国の外交政策の利益を明確に代弁する人々がこれらの団体の運営に携わっているにもかかわらず、このような組織が公平であると見なされることが不可解である。さらに、アムネスティ・インターナショナルは、ジョージ・ソロスの「オープンソサエティ・インスティチュート」、英国国際開発省、欧州委員会、その他の企業出資の財団から資金援助を受けている。127 こうした驚くべき利益相反は、欧米諸国の政府や企業の代表者によって資金提供され運営されている組織が、人権の卓越性といった高潔な大義を悪用して、自分たちの政治的アジェンダを遂行していることから生じている。

2012年5月28日、BBCはシリアのホウラで起きた虐殺の描写に 2003年のイラクでの虐殺の写真を使用していたことを認め、元の写真を撮影したマルコ・ディ・ラウロ氏は「誰かが意図的に他人の写真をプロパガンダに利用している」と述べた。この状況を受けてテレグラフ紙が掲載した記事には次のように書かれている。

写真家のマルコ・ディ・ラウロ氏は、この画像が使用されているのを見て「椅子から転げ落ちそうになった」と語り、また、この企業が情報源を確認しなかったことに対して「驚きを隠せない」と述べた。この写真は、実際には2003年3月27日に撮影されたもので、バグダッド南部の砂漠で発見された骸骨を収めた数十個の白い遺体袋を飛び越える幼いイラク人の子供が写っている。この写真は、本日BBCニュースのウェブサイトに「シリア、フーラでの虐殺に非難の声が高まる」という見出しで掲載された。キャプションには、この写真は活動家から提供されたもので、独自に検証することはできないが、「フーラで埋葬を待つ子供たちの遺体であると考えられている」と記載されている。128

この事件は、シリア危機を形作る支配的な物語の信憑性を再び問うものであり、「民主化活動家」が持ち出す未検証の「証拠」に対する懐疑論をさらに後押しするものである。ホウラでの虐殺によって引き起こされた国際的なパニックを受け、ガーディアン紙などは「シリア軍が砲撃し、少なくとも90人が死亡」という見出しの記事で、英国外務省のアリスター・バート大臣が「砲撃による死者が発生した」と主張していることを伝えた。。129 ロシア外務省が、反体制派のメンバーが短距離兵器を使用して虐殺に加担した証拠を提示した報告書を発表した後、ガーディアンは「フーラ虐殺の生存者が語る、家族が虐殺された経緯」という記事で、親政府派の民兵のメンバーが虐殺を行ったと主張する村人の匿名証言を引用し、記事の論調を転換した感情を操るようなこの記事の論調は、「シリア革命評議会のメンバーである町の年長者」が作り出したとされる匿名の少年の証言をそのまま引用したものであり、その後に「我々は独自にこの証言を検証することができず、安全上の理由から少年の名前を公表しないことにした」と述べている。

この証人の証言は疑いなく悲惨なものであるが、ガーディアンの修正された記事では、シリア軍が戦車から降りてきて目の前で自分の家族全員を殺害したのを目撃したと主張する、反体制派が提供した匿名の少年の証言を具体的に引用している。 ガーディアンは、その一方で、彼らは軍ではなく、「銃とナイフ」を持って装甲車両から降りてきた「アル・シャビーハ」と呼ばれる非正規軍であったと主張している。目撃者が武装した男たちが親政権派の民兵であるとどうしてわかったのかという質問に対して、彼は「なぜ彼らが誰なのか私に尋ねるのですか?私は彼らが誰なのか知っています。私たちは皆知っています。彼らは政権軍と彼らと共に戦う人々です。「それは真実です」と答えた。ガーディアンの報道は、匿名の若い目撃者が述べた主張を裏付けることも、検証することもできなかった。同様に、ガーディアン紙の記事「脱走したシリア空軍将校が語る、子供たちの虐殺を目撃した」では、頭髪を剃り上げた長髪の男たちが、シリアのホウラ村を襲撃しながら「シャビーハ万歳、アサドよ、よく見ろ」と叫んでいるのを、300メートルほど離れた場所にある自宅から目撃したと主張する「空軍将校」の証言を伝えている。ガーディアン紙は、この薄弱な証言が「ホウラ虐殺の決定的証拠」であると主張している。

その将校は、「車や軍用トラック、バイクに乗った武装勢力」を目撃したと主張しているが、これはガーディアンが先に紹介した証人の証言と矛盾している。その証人は、武装勢力は戦車や装甲車から降りて殺戮を行ったと主張している。「彼らは装甲車でやって来て、戦車もいくつかあった」と少年は言った。この矛盾は説明されておらず、ガーディアンは髭を生やした男たちの身元、将校の身元、そして彼の証言を確認できていない。さらに、ガーディアンは、自宅から300メートル離れた場所にいた「将校」が、男たちの身元や行動をどうやって見分け、彼らの会話をどうやって聞いたのかを説明できていない。300メートル(サッカー場3面分に相当)という距離は、人間の声が何を言っているかを聞き分ける能力、また、見ず知らずの他人を武装勢力のどちらのグループに属する人物であるかを見分ける能力のいずれにおいても、限界を超える距離である。ガーディアンの「亡命した軍人」によると、彼は砲撃や突撃銃の発砲が聞こえるほどの距離から、展開する出来事を認識することができたという。シリア危機の間、ガーディアンとBBCは、ホウラで無責任に報道された内容の裏付けとなる実際の証拠を提示できなかった。

2012年6月初旬に起きた不穏で非常に示唆に富む事件では、シリアで合法的に活動しているだけでなく、紛争の両側面を報道しようとしている数少ない欧米人ジャーナリストの一人である英国のチャンネル4のアレックス・トムソンが、反体制派に故意に誘導され、政府軍に殺害されてプロパガンダに利用されるという罠に陥った。トムソンの個人ブログ(チャンネル4)で紹介された「シリアの非武装地帯で銃撃されるように仕組まれた?」では、シリア紛争の両陣営の戦闘員にインタビューを試みるなど、欧米メディア、特に英国メディアの報道とは対照的に、双方の暴力について語っている。トムソン氏のレポートでは、「反体制派」勢力の間にも分裂があるように見えると述べている。シリア軍との戦闘に専念しているように見える組織化された戦闘員がいる一方で、より陰湿な「第3者」が関与しているように見えると述べている。トムソン氏は、この第3者が意図的に彼と彼のチームを死の罠に導いたと指摘している。これは、シリア政府自身や、世界各地の独立系地政学アナリストによる声明を裏付ける内容である。すなわち、外国の傭兵や宗派過激派で構成される実質的な第三者が存在し、暴力や残虐行為の大半を実行しているという内容である。

トムソン氏は、国連監視団に同行して「自由シリア軍」が支配する地域を訪れた際の苦難について、次のように述べている。

私たちは、来たときと同じ安全な道で脱出することを決めた。双方の、両方の検問所が私たちの車を覚えているだろう。突然、黒塗りの車に乗った4人の男たちが手招きして、私たちを追うように合図した。私たちはその後ろについて移動した。別のルートに導かれた。実際には、自由砲撃地帯にまっすぐ導かれたのだ。自由シリア軍に、無人の真ん中で封鎖された道路を走るように言われた。その瞬間、銃声が響き渡り、私が経験した中で最も遅い3点ターンを経験した。私たちは近くの脇道に逃げ込み、叫び声を上げた。そこも行き止まりだった。狙撃地帯に戻り、私たちを導いてきた道まで車を走らせるしかなかった。予想通り、罠に私たちを導いた黒い車がそこにあった。私たちが姿を現すとすぐに、その車は走り去った。反体制派が意図的に私たちを罠にはめ、シリア軍に撃たせたことは明らかだ。ジャーナリストの死はダマスカスにとって都合が悪い。幼児の喉を背骨まで切り裂くような戦争において、ジャーナリストを殺害ゾーンに満載したバンで送り込むことがそんなに大したことだろうか? 個人的な恨みなどない。133

トムソンの記事を読んだ際に真っ先に浮かぶ疑問は、反体制派が外国人のジャーナリストを殺害してプロパガンダに利用し、その死をシリア政府のせいにしようとしているのであれば、なぜ男性、女性、子供を殺して同じようにシリア政府のせいにしないのか、という当然の疑問である。おそらく、シリアにおける最も悪質なメディア操作の事例は、フランスのジャーナリスト、ティエリー・メイサン(Thierry Meyssan)氏が2012年6月の記事「NATOによる大規模な偽情報キャンペーンの準備」で明らかにしたもので、シリア国営テレビの放送を、ドーハとリヤドのスタジオで撮影した偽の映像に差し替えることを目的とした情報操作活動について述べている。

数日後、早ければ6月15日(金)の正午には、シリア人が自国のテレビ局を見ようとすると、画面にはCIAが制作したテレビ番組が映し出されることになるだろう。スタジオで撮影された映像には、シリア政府の責任とされる虐殺、デモを行う人々、大臣や将軍が職を辞する様子、アサド大統領が国外に逃亡する様子、反体制派が大都市の中心部に集結する様子、そして大統領宮殿に新政権が樹立する様子などが映し出されることになるだろう。この偽情報の作戦は、ワシントンから直接管理されており、米国の戦略的コミュニケーション担当副国家安全保障顧問であるベン・ローズが指揮している。この作戦の目的は、クーデターの道筋をつけるためにシリア人を落胆させることである。ロシアと中国の拒否権行使に不満を抱くNATOは、このようにしてシリアを不法に攻撃することなく征服することに成功するだろう。シリアの実際の出来事についてどのような判断を下そうとも、クーデターは民主化への希望をすべて打ち砕くことになる。

アラブ連盟は衛星オペレーターのアラブサットとナイルサットに対し、シリアの公共放送および民間放送(シリアTV、アル・エクバリーヤ、アド・ドウニア、チャムTVなど)の放送停止を正式に要請した。アラブ連盟はすでに、リビアのジャマーヒリーヤ指導部が国民とコミュニケーションを取れないように、リビアのテレビを検閲する前例を作っている。シリアにはヘルツネットワークがなく、テレビは衛星のみで機能している。しかし、放送が遮断されても、画面が真っ黒になるわけではない。実は、この公式決定は氷山の一角に過ぎない。我々の情報によると、この1週間で幾つかの国際会議が開催され、偽情報キャンペーンの調整が行われた。最初の2つは技術会議で、ドーハ(カタール)で開催された。3つ目は政治会議で、リヤド(サウジアラビア)で開催された。最初の会議には、アル・アラビーヤ、アル・ジャジーラ、BBC、CNN、フォックス、フランス24、フューチャーTV、MTVといった衛星テレビ局に組み込まれた心理作戦(PSYOP)担当者が集まった。1998年以来、米軍心理作戦部隊(PSYOP)の担当者がCNNに組み込まれていることは周知の事実である。それ以来、この慣行はNATOによって他の戦略的メディアにも拡大されている。

彼らは、ホワイトハウスのベン・ローズのチームが考案した「ストーリーテリング」の台本に基づいて、事前に偽の情報をでっち上げた。相互に検証する手順が導入され、各メディアは他のメディアの嘘を引用することで、テレビ視聴者に対してその嘘を信憑性のあるものに見せかけた。参加者はまた、シリアとレバノンのCIAテレビ局(Barada、Future TV、MTV、Orient News、Syria Chaab、Syria Alghad)だけでなく、40のワッハーブ派の宗教テレビ局も徴発し、「キリスト教徒はベイルートへ、アラウィ派は墓へ!」という掛け声のもと、宗派間の虐殺を呼びかけた。2011年、フランス24は契約に基づき、リビアの国民評議会の情報省の役割を担った。トリポリの戦いの間、NATOは偽のスタジオフィルムを制作し、アルジャジーラやアルアラビーヤを通じてそれを放映し、首都の中央広場にリビアの反政府勢力の幻影を映し出したが、実際には彼らはまだ遠くにいた。その結果、トリポリの住民は戦争に敗北したと思い込み、抵抗をすべて諦めてしまった。今日では、メディアは戦争を支援するだけでなく、自ら戦争を仕掛けることさえある。

メイサンのブレイクスルー報告は、主流メディアの役割と、非協力的な国家の政府転覆を目的とした好戦的な外交政策を支援するために、まったくの虚構の物語を広める能力について、貴重な洞察を提供している。アラブ連盟が衛星運営者に、NilesatとArabsatの衛星によるシリアのテレビチャンネルの放送停止を要請する電話を増加させたため、シリア政府は、シリア国民の声を封じようとするグループを非難し、その作戦を停止させることに成功した。135 2012年6月下旬、シリアの反体制派は、 (ジャーナリスト3人を含む)を殺害した。136 反体制派は爆発物でスタジオを破壊した。この攻撃は、前日に欧州連合(EU)がシリアのラジオ局やテレビ局に制裁を課す決定を下したことの延長と見られている。間違いなく、シリア大統領バシャール・アル=アサドの軍が、欧米の主張に同調するジャーナリストを誘拐し殺害していたならば、容赦ない「人道に対する罪」の非難、欧米の数々の「国際機関」への言及、そして自称国際調停者たちによる非難が続いていただろう。しかし、加害者はNATOの支援を受けているテロリストであり、この攻撃は欧米の報道機関から非難されるどころかむしろ称賛され、ロイター通信は「権威主義国家の象徴に対する最も大胆な攻撃のひとつ」と報じた。137 ジャーナリストのティエリー・メイサンは破壊されたスタジオの現場から報告し、次のように述べたと伝えられている。

シリアを巡って繰り広げられているメディア戦争において、誰が真実を語っているのか、あなたは疑問に思っていることだろう。背景には、この国は内戦とひどい弾圧の対象となっていると主張する者たちと、その代わりにこの国は外国勢力によって攻撃されており、傭兵部隊と洗練された特殊部隊が送り込まれ、インフラの破壊と標的を絞った暗殺を行っていると主張する者たちがいる。何が起こっているのかを理解するには、プロパガンダのシステムを思い出さなければならない。プロパガンダとは、一方の側からの話に酔わされて誤った情報を与えられ、他方では相反する情報を受け取れないようにされることである。このようなことが起こるためには、矛盾するメディアは検閲され、破壊されなければならない。

自由なメディア戦争のさなか、シリア国内で独自に活動しているとされるハッカー集団が、支配的なメディアの物語に対抗しようとして、欧米のメディアやアルジャジーラなどの報道機関をハッキングした。シリア電子軍として知られる著名なハッカー集団は、アルジャジーラが「ワシントンとテルアビブの目標を達成するために、シリア国民の間に反乱を煽るような偽りの捏造ニュース」を放送しているとして、同局を大胆に非難した。そして、同集団は、同国の不安定な情勢を継続的に報道しているアルジャジーラの「シリア・ライブ・ブログ」と、アルジャジーラの「ストリーム」ツイッター・アカウントを標的としたサイバー攻撃を行った。2012年7月初旬に実施された攻撃では、ハッカーがTwitterアカウントにアクセスし、反体制派のメンバーが宗教的少数派やアサド政権支持者であるという理由でシリア軍人や民間人を拷問、処刑、斬首しているとされる動画を含む、オルタナティブメディアが公開した記事を送信し始めた。ハフィントン・ポストのジャーナリストによる最近のインタビューで、シリア電子軍の匿名のリーダーは、同グループはシリア政府とは無関係に活動していると主張し、「我々は誰からも支援を受けていない。2011年3月15日に多数のテロリストが国内に広がっているのを目にした時からこの活動を始め、自国を守ることを決意した」と述べた。139

2012年7月13日、ハマの北西約22マイルに位置する人口1万1000人の村、トレムセで100人以上が虐殺された。活動家たちは、シリア政府が大砲、戦車、ヘリコプターを使用したと報告し、虐殺の背後に政府軍がいることをほのめかした。メディア各社が最初の報道を行った後、米国の国連大使スーザン・ライス氏は自身のTwitterアカウントに「トレイムセの虐殺の報道は悪夢的だ。国連安保理によるシリアへの拘束力のある措置の必要性を劇的に示している」と投稿した。

ライス大使はシリア政府を侮辱し、国連監視団が現地に到着する前、調査が行われる前、写真やビデオが公開される前にもかかわらず、さらなる国連決議をシリア政府に突きつけた。この即座の国家軍への非難は、米国の指導力の欺瞞と不正を反映しており、また、西側諸国の地政学的および地経済的な私的な目標に敵対的な者を起訴することしか望まない国際刑事裁判所(ICC)の下での国際正義の現状を反映している。アルジャジーラが伝えたトレムサでの目撃証言によると、

アルジャジーラは、FSAが隣接するアラウィ派の村を攻撃した後、政府軍が報復として発砲したと主張している。シリア国営SANA通信は、軍や警察の検問所を攻撃し、混乱を巻き起こして公務員の出勤を妨害するよう命じられていた重武装した非シリア人アラブ人4名を拘束したと報じた。140 トレムセの事件後、現場にいたシリア軍は、 マシンガン、狙撃銃、ロケットランチャー、迫撃砲、爆発装置、ガスマスク、双眼鏡、衛星無線装置、ビデオカメラ、大量の火薬、TNTの鋳型、および高爆発性のC4物質が備蓄されていた反体制派の武器貯蔵物を押収した。141

2012年7月14日付のニューヨーク・タイムズ紙の記事「戦闘の詳細:シリアの大虐殺に関する報告」は、トレムセでの虐殺の報告は、重武装したシリア軍と軽兵器を装備した地元の反体制派の戦闘員との衝突であり、後者が犠牲者の大半を占めたという方がより正確であると主張している。また、トレムセの死者のうち女性は含まれていなかったと伝えられているが、シリア国民評議会が発表したリストでは、犠牲者は19歳から36歳の男性とされている。トレムセは、暴力が勃発する前の20日間、200人から300人の武装勢力の活動拠点となっていたとされる。ニューヨーク・タイムズ紙の報道はさらに次のように述べている。

トルメスで多数の死傷者が発生したことが発表されると、ホウラやその他の同様の事件と同様に、欧米の指導者たちは一斉に民間人に対する大量殺害を非難した。トルコを拠点とし、自由シリア軍と呼ばれる緩やかな連合軍の表向きの指導者であるリアド・アル・アサド大佐は木曜日、アラビア語テレビ局アルジャジーラに対し、その町には反体制派の戦闘員はいなかったと語った。トレムセで実際に何が起こったのかは依然として不明であるが、入手可能な証拠は木曜日の出来事がシリア政府側の説明により近いことを示唆している。しかし、シリア政府当局者は、あらゆる暴力行為は「外国のテロリスト集団」の仕業であると非難するいつもの用語で説明を補った。政府は、シリア軍が「テロリスト」に「甚大な損失」を与えたと発表した。

シリア政府高官の離反は、危機が続く間、ほとんど見られなかったが、紛争開始から17カ月目になってようやく、注目すべき離反が報告された。そのうちの一人であるナワフ・ファレス氏は、元治安部隊のトップで、現在はカタールに身を寄せているシリアの駐イラク大使である。ファレス氏は、他の者たちにも自分にならうよう呼びかけるビデオメッセージを公開し、劇的な離反を遂げた。テレグラフ紙とのインタビューで、ファレス氏は、自身がダマスカスに協力して隣国イラクでの米軍占領と戦わせたジハーディスト部隊が、シリア国内で相次ぐ致命的な自爆テロ攻撃に関与していたことを認めている。143 しかし、ファレス氏はシリア政府自身が反政府勢力を非難する目的で、政府庁舎に対する自爆テロという偽装テロ攻撃を計画したと非難している。主流メディアが報じた相反する報道は、外国のアルカイダと連携する戦闘員が単独でシリアに侵入したことを裏付けている。「アルカイダの指導者がアサド政権の打倒を呼びかけ」(AP通信)、「米国高官: イラクのアルカイダがシリアのアサド政権に対する戦いに参加」(マクラッチー)、「アルカイダのザワヒリがシリアのアサド追放戦争を呼びかけ」(AP)といった見出しが示すように、主流メディアが報じた相反する報道は、外国のアルカイダと連携する反体制派が残虐行為を犯していると非難する陰謀に、バッシャール・アル・アサド大統領が「協力」しているというファレスの主張の不合理性を示している。

ファレス氏は「アルカイダ」がシリア治安部隊と爆撃作戦を調整しているという証拠を一切提示していないばかりか、彼の主張は、ロイター通信が2012年4月に報じた、政府治安部隊が使用する軍事兵器や戦術が優勢であるにもかかわらず、自由シリア軍がテロ爆撃に「戦術転換」したという数か月にわたる報道内容と真っ向から対立している。この記事では、イラクで米英軍と戦うことで腕を磨いたシリアの過激派が、シリア政府と協力するのではなく、その爆弾製造能力を駆使するためにFSAに加わったと説明している。ナワフ・ファレスは、大げさな日和見主義者のように見える。自分の役割を演じようとし過ぎたために、つまずいてしまい、両足がしっかりと口の中に埋まってしまったのだ。ファレスは、自国民に対するテロ爆弾キャンペーンを実行している「聖戦部隊」を支援していると主張する、耐え難い「体制」を放棄した。しかし、シリア国民に対する爆弾キャンペーンを明白かつ明白に実行している過激派組織に参加したに過ぎない。タイムリーな記事で、テレグラフは、イスラムカリフ制の樹立を試みる過激派戦闘員が、トルコとイラクの国境にまたがるイドリブ県とアレッポ県の一部の地域で公然と活動しており、アルカイダの旗がはためいていると報じている。

匿名希望の自由シリア軍反体制派の一人は、「アブ・サディークと名乗る男が率いるアルカイダの一派がデール・テゼズを掌握した」と語った。「私はそこの革命評議会のメンバーだった。突然、新しい考え方が生まれた。アブ・サディークは3カ月間、その地域の首長、つまり王子として君臨した。私はコーランに手を置き、彼に従うように言われた。「彼は宗教的な国を築こうとしていた。民主主義ではなく、宗教的指導者が権力を握ることを望んでいた。彼は自爆テロを、その地域の政府軍と戦う手段として使おうとしていた」144

リビアでカダフィ政権下の元政府高官たちが反体制派の国民評議会に合流したように、シリアの政府高官たちが離反した背景には、国際的に認知された反体制派のシリア国民評議会と協力することで、将来、より大きな利益や地位を得ようという思惑がある可能性は依然として高い。シリア国民評議会は、反体制派グループの唯一の存在というわけではないが、その代表者やスポークスマンは、欧米のシンクタンクや政策立案者たちとの協調姿勢や深い関係性により、最も広く認知されている。そのため、英国のウィリアム・ヘイグ外相は次のように宣言した。

「私は数分後にシリア国民評議会の指導者たちと会談する予定だ。我々は他の国々と同様に、彼らを正当なシリア国民の代表者として扱い、承認するつもりだ」145

2012年7月にジャーナリストのチャーリー・スケルトンがガーディアン紙に発表した暴露記事「シリアの反体制派:誰が発言しているのか?」では、シリア国民評議会の幹部メンバーが、ビルダーバーグ・グループが実施する年次総会などの非公開会議に出席していることと、欧米の最も権威ある政策機関やシンクタンクとの密接なつながりが詳細に説明されている。146 そうした人物の一人に、フランス系シリア人の学者バスマ・コドマーニがいる。彼女はシリア国民評議会の幹部スポークスパーソンであり、1967年の

それ以来、ロンドン、パリ、エジプトを行き来しながら、フォード財団の中東・北アフリカ地域におけるガバナンスおよび国際協力プログラムを主導した。 バスマ・コドマーニは 2005年9月に米国を拠点とする外交問題評議会(Council on Foreign Relations)が設立した研究イニシアティブ、アラブ改革イニシアティブ(Arab Reform Initiative、ARI)のエグゼクティブ・ディレクターに就任した。ARIは、「アラブ世界の改革と民主化」を推進することを目的とした研究所である。より具体的には、ARIは、元米国国家安全保障顧問のブレント・スコークロフト氏が議長を務める外交問題評議会の「米・中東プロジェクト」内の外交官、情報将校、金融関係者からなるグループによって設立された。したがって、コドマーニ氏は、元フランス情報局長官のジャン=クロード・クッスラン氏が代表を務める国際外交アカデミーの研究ディレクターでもある。

2012年2月、彼女は2008年にフランスのテレビ番組で「この地域にはイスラエルが必要だ」とイスラエルを擁護したことが物議を醸した。コドマーニは後に、これらの発言を撤回すると警告したが、その理由は「現地の抵抗勢力がより軍事化するか、外国が介入するしかない」という反対派の主張を挙げ、「現政権との対話は不可能だ。我々は、異なる政治体制に移行する方法についてのみ議論することができる」147 Kodmaniは後にAFPの取材に対し、「次のステップは、あらゆる合法的手段、強制手段、武器禁輸、さらには武力行使によって体制に順守を強いることを認める国連憲章第7章に基づく決議が必要だ」と述べたと報じられた。外国の軍事介入を求める意思は、シリア国民評議会(SNC)のオサマ・モナジェド氏のような当局者にとって、必要不可欠な条件であるようだ。モナジェド氏は、SNCのウェブサイトで「ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、フォーリン・ポリシー・マガジン、USAトゥデイなど、著名な国際メディアで広く引用され、インタビューを受けている」と紹介されている。

モナジェドが2012年7月にハフィントンポストに寄稿した論説「無関心の代償:なぜ世界はシリアに介入しなければならないのか」では、国際社会は「安全地帯を確立し、そこから反体制派が訓練や再武装を行い、避難や医療支援を受けられるようにすることで、実効性のある抵抗勢力を育成する道義的義務がある」と主張している。148 この記述は、ブルッキングス研究所が2012年3月に発表したメモ「シリアを救う:政権交代の選択肢の評価」とまったく同じである。モナジェドは、反体制派の衛星チャンネル「バラダ・テレビ」の創設者兼ディレクターであり、ワシントン・ポスト紙が報じたところによると 2006年以降、米国務省などから600万ドルもの資金援助を受けている「正義と発展のための運動(MJD)」の元広報部長である。149 モナジェドは、 2009年に米国のシンクタンク、チャタム・ハウスの主催で行われた「シリアの政治的未来を展望する」というイベントに、モナジェドはパネリストとして参加した。マドリッドを拠点とするシリア人権団体INSANのディレクターであるウィッサム・タリフ、シリア国民評議会の代表で、連邦政府から資金援助を受けている米国のシンクタンク、米国平和研究所の上級研究員であるラドワン・ザイードもパネリストとして参加した。2012年2月、Ziadehはエリザベス・チェイニー、カール・ローブ、ジェームズ・ウールジーらとともに、オバマ大統領宛ての公開書簡でシリアに対する外国からの介入と経済制裁を求める呼びかけを行った。

シリア国民評議会の上級役人たちに長年にわたって政治的・組織的な支援が提供されていることは、欧米で享受してきた特権的な生活に影響されてきたシリアの政治的反対派の指導的人物たちの不誠実な本性を示している。バース党による政治体制には欠点がないわけではないが、英国外相ウィリアム・ヘイグ氏やその他の人々が主張するように、長年亡命生活を送り欧米で教育を受けたシリア人学者グループを「シリア国民の正当な代表者」と認めるべきだという指摘は、彼らや彼らの組織が代表していると主張する民主主義の原則をあざ笑うようなものであり、何らかの決定的な嘲笑である。ガーディアン紙に掲載されたジャーナリスト、チャーリー・スケルトンによる調査報道に対して、同紙の「外交担当編集者」ジュリアン・ボーガーは「米国によるシリアからのニュース操作は誤情報だ」と反論した。この中傷的な記事は、スケルトンを「陰謀論者」と決めつけることに全面的に依存している。ボルジャー氏は、スケルトン氏の論文で取り上げられた調査結果を批判的に評価することなく、学術的エリート主義と編集者の見下した態度を象徴するようなやり方で、馴れ馴れしく「影の勢力」を信じているというありきたりの中傷を著者に浴びせた。ボルジャーはスケルトンを歴史家で学者のウェブスター・タープレイと結びつけ 2001年9月11日の出来事に関する公式見解に疑問を呈したことを理由に、彼らの信用を落とそうとしている。そして、シリアでは支配的な見解である「圧政的な政府が容赦なく虐殺を行っている」という主張を喧伝し、ゆがんだ国際刑事裁判所に状況の調査を要請している。150

こうした疲れ果てた反論が示すものは何かといえば、それは、シリアでの出来事に関する支配的な物語に埋め込まれた巨大な矛盾を、それらの個人、知識人、学者、アナリスト、専門家、コメンテーター、報道機関が取り上げようとせず、真剣に認めようとしないということである。彼らの思索は、彼ら自身の個人的な弱さ、驕り、不誠実さを反映している。疑いなく、企業ニュースメディアが、腐敗したNGOや欧米の諜報機関の隠れみの、そして国連と連携して行っている行為は、世界に対して、不誠実で使い古された物語を系統的に提示することで、主権国家を妨害しようとする大胆な試みである。シリアで繰り広げられているメディア戦争は、紛争の重要な要素であり、シリア政府を転覆させるために、反体制派を公的に正当化する唯一の手段であるかもしれない。シリア国内からの目撃証言の中には妥当なものもあるかもしれないが、それらの証言の矛盾や、国連のような組織が証言を包括的な機密事項として隠蔽するやり方は、組織レベルでの捏造や二枚舌に対する疑いをさらに深めるだけである。主流メディアの信頼性と正確性を疑う人々が増えるにつれ、シリアでの出来事に関する報道は、編集方針に深刻な欠陥があるだけでなく、世界中の何百万人もの命を犠牲にして軍事的な事業を全面的に支援するという姿勢を反映している。オルタナティブメディアは限界に苦しみ、欠点がないわけではないが、独立系のジャーナリストや政治アナリストは、シリア危機について世界に伝えられてきたことを疑問視し、批判的に評価しようと試みる中で、支配的な物語の悪意と知的誠実さの欠如を暴くことに成功している。編集方針の透明性、ジャーナリズムの誠実さ、そして単純な正直さによってのみ、将来、同様の紛争が暴露され、回避される可能性がある。

(2012年7月15日)

第3章 :地域戦争の可能性

章のまとめ

この章は、シリア内戦の地域的・国際的な影響とそれが引き起こす可能性のある広域紛争について分析している。以下が主な内容である:

トルコの役割は重要である。トルコはシリアの反体制派に武器や避難場所を提供し、NATOの前線基地として機能している。しかしこの政策はトルコ自身にとってリスクを伴う。特にクルド人分離主義者の活動が活発化する可能性がある。

イラクのクルド自治政府指導者マスード・バルザニは、トルコとの関係を強化し、イラクのマリキ政権を弱体化させるために米国から支援を受けている。バルザニはシリアのクルド人を反体制派に参加させようとしているが、成功はしていない。

イスラエルの立場は複雑である。イスラエルはシリアの不安定化を望んでいるが、それがイランとの全面戦争につながることは避けたいと考えている。イスラエル軍の上級将校たちは、ネタニヤフ政権のイランに対する強硬路線に公然と反対している。

ロシアと中国は、シリアへの外国介入に断固として反対している。両国は国連安保理でシリア非難決議に拒否権を行使し、外交的解決を主張している。この姿勢は、上海協力機構(SCO)の枠組みの中で、米国の一極支配に対抗する新しい多極的な世界秩序を目指す両国の戦略の一環である。

イランは、シリア危機の解決に向けて重要な役割を果たそうとしている。イランは、アナン和平案を支持し、シリア国内の諸勢力間の対話を促進しようとしている。しかし米国は、イランの建設的な関与を認めようとしていない。

ブルッキングス研究所の報告書は、米国がイランに対して軍事行動を起こすための口実として、意図的な挑発を計画していることを露骨に記している。これには、イラン国内の少数民族を利用した不安定化工作や、テロ組織MEKへの支援などが含まれる。

この紛争は、シリア一国の問題ではなく、中東全域の地政学的な力学を巻き込んだ代理戦争である。その結末は、世界の秩序と勢力均衡に大きな影響を及ぼすことになる。

 

「当然のことながら、一般市民は戦争を望んでいない。ロシアでも、イギリスでも、アメリカでも、ドイツでも。それは理解できる。しかし結局のところ、政策を決定するのはその国の指導者であり、民主主義であろうが、ファシスト独裁であろうが、議会であろうが、共産主義独裁であろうが、民衆を従わせるのは常に簡単なことだ。声があろうとなかろうと、民衆は常に指導者の意のままに動かすことができる。それは簡単だ。民衆に攻撃を受けていると伝え、平和主義者を愛国心の欠如と国の危険に晒す者として非難すればいいのだ。どの国でも同じことが言える」

ヘルマン・ゲーリング

ドイツ帝国議会議長

中東での不愉快な戦争と占領という悪質な10年を経て、シリア危機がより大きな地域紛争へと発展する可能性は、憂慮すべき事態である。このような戦争は、宗派間の対立を煽り立てて混乱を巻き起こし、アサド政権の崩壊を誘発しようとする試みによって広がっていく。その結果、シリアにおける世俗的ナショナリズムの基盤が脅かされ、バシャール・アサドの最も緊密な外交同盟国であるイランとの緊張が高まることになる。米国とその同盟国がシリアの不安定化を図り、経済制裁によってイランを孤立させ、ペルシャ湾における米軍の存在感を増大させていることは、戦争と外交的混乱への傾倒が続いていることを意味している。サウジアラビアからトルコまで、米国と同盟を結ぶ新興イスラム諸国は、シーア派の拡大を阻止したいというイデオロギー上の願望と、地域覇権を握りたいという野望から、シリアの武装反政府勢力を支援するために連携している。イスラエルがイランへの先制攻撃の権利を主張し続ける中、テルアビブは、レバノン南部に拠点を置く政治的・軍事的なシーア派組織であるヒズボラとテヘラン間の重要なパイプを断ち切り、パレスチナの抵抗勢力を孤立させる手段として、ダマスカスを転覆させることを考えている。シリアの反体制派がアサド政権にさらなる圧力をかける中、忘れてはならないのは、テヘランへの道はダマスカスを通っているということだ。
2010年の米軍特殊部隊の非正規戦マニュアルのページには、シリア紛争の反乱的な性質についてさらに深い洞察が示されている。非正規戦の戦術を定義することを目的としたこのマニュアルは、米議会の承認なしに数十年にわたって違法に秘密裏に行なわれてきた作戦の青写真となっている。この文書は、米国が自国の利益を追求する名目で他国の内政に違法に干渉し、その国を転覆させ不安定化させることを目的とした外交政策を、いかにして免罪符を得て実施しているかを示している。

米国特殊作戦軍(USSOCOM)司令官は、非正規戦(UW)を「レジスタンス運動や反乱勢力が、敵対勢力による支配が否定されている地域において、地下組織、補助組織、ゲリラ部隊を通じて、またはそれらと協力して活動し、政府や占領軍を強制、混乱、転覆させることを可能にする活動」と定義している。米国の非正規戦(UW)の取り組みの目的は、米国の戦略目標を達成するために抵抗勢力を育成し維持することで、敵対勢力の政治的、軍事的、経済的、心理的な脆弱性を突くことにある。当面の間、米軍は非正規戦(IW)作戦に主として従事することになる。151

上述の非正規戦作戦の標的は、歴史的に米国の外交および経済的利益と歩調を合わせることを拒んできた主権国家である。これらの秘密工作は、綿密に計画され、段階的に実施される。まず標的となる住民に心理的な影響を与えることから始める。その後、標的となる国家に浸透し、反体制派グループに訓練と装備を提供し、政治的な転換が強制的に実施されるまで続ける。

図1-3 非正規戦の段階
フェーズI:準備

抵抗勢力と外部の支援者は、心理的な準備を行い、既存の政府や占領軍に対して国民を団結させ、米国の支援を受け入れるよう国民を準備する。

フェーズ2:初期接触

米国政府機関は、同盟国政府亡命政府または抵抗勢力の指導者と調整し、米国の支援を求める。

フェーズ3:浸透

特殊部隊(SF)チームが作戦地域に潜入し、基地との通信を確立し、抵抗組織と接触する。

フェーズ4:組織化

特殊部隊(SF)チームが抵抗組織の幹部たちを組織化し、訓練し、装備する。重点はインフラの整備にある。

フェーズ 5:増強

特殊部隊(SF)チームが幹部たちを支援し、効果的な抵抗組織へと拡大する。限定的な戦闘作戦が実施される場合もあるが、重点はあくまでも開発にある。

フェーズ6:実戦

非正規戦(UW)部隊が通常戦力との連携または戦闘停止までの間、戦闘作戦を遂行する。

フェーズ7:移行

非正規戦(UW)部隊は国家の管理下に戻り、正規軍に移行するか、または動員解除される。

このマニュアルの内容は、国際法の原則、国家主権、そして対象となる国家における変化への備えや政治的な願望を無視したものとなっている。主流メディアはアラブ諸国における政治的暴動の「自発性」を強調しているが、2010年の米軍特殊部隊の非正規戦マニュアルの内容は、対象国で活動する抵抗勢力の反乱的な性質を驚くほど明確に示している。その注目すべきセクションのひとつでは、「反乱またはレジスタンス運動の構造」を項目別に列挙し、対象国の政府の正当性を損ない、最終的に転覆させることを目的として、「地下活動」から「ゲリラ活動」に至る不安定化の段階を細かく詳細に説明している。

図2-2. 反乱またはレジスタンス運動の構造
  • 政治、経済、社会、行政、その他の状況に対する不満、国家の願望(独立)またはイデオロギーやその他の変化への欲求
  • プロパガンダや政治的・心理的影響により政府の信用を失墜させ、より広範な不満の雰囲気を醸成する
  • 扇動、好意的な世論の形成(国益を擁護)、既存の制度への不信感の形成
  • 扇動、不安、不満の増大、行政、警察、軍、国家組織への浸透、ボイコット、怠業、ストライキ
  • 外国の組織者や顧問、外国のプロパガンダ、物資、資金、武器、装備の浸透
  • 抵抗組織の幹部候補の勧誘と訓練
  • 労働組合、学生、民族組織、および社会のあらゆる部分への浸透
  • 破壊的組織の、その国の生活のあらゆる分野への浸透
  • 民族戦線組織および解放運動の設立、外国のシンパへの呼びかけ
  • 戦線組織の拡大
  • プロパガンダの強化、国民の心理的な反乱への誘導
  • 政府に対する公然・秘密の圧力(ストライキ、暴動、混乱
  • 抵抗組織の強さと政府の弱さを示すための地下活動の増加
  • 士気(政府、行政、警察、軍)の徹底的な低下
  • 政治的暴力と妨害の増加
  • 小規模なゲリラ活動
  • 大規模なゲリラ活動

シリアの状況においては、2010年の非通常戦マニュアルで説明されている「抵抗の構造」は、標的とされた住民に対する心理作戦や武器・物資の流入から、反体制派の戦闘員の行動に至るまで、蜂起のあらゆる側面を反映している。反体制派の戦闘員は、シリア政府に対する行動の規模を徐々に拡大し、その行動を「大規模ゲリラ活動」と称するにふさわしいものとしている。少なくとも、この米軍文書の内容は、外国政府を転覆させるという外交政策目標を達成するために、米国が国家支援によるテロリズムを推奨していることを認めるに等しい。米国の高官や外交官が民主主義の原則を公に喧伝する一方で、ワシントンの「非正規戦争」作戦は、小規模な武装集団が住民から強制的に正当性を認められるようにすることに重点を置いている。
「ほとんどのシナリオにおいて、レジスタンス運動は、政府を支持する少数派と、レジスタンス運動を支持する少数派の武装勢力とが存在する住民と対峙することになる。レジスタンス運動が成功するには、中間層の住民を説得し、レジスタンス運動を正当な存在として受け入れさせる必要がある。政治的権力を掌握するために、反政府勢力が受動的な住民を必要とすることはある」

「テロとの戦い」を口実に主権国家への軍事介入や占領が行われる時代にあって、このような悲惨な「非正規戦」の戦術が、ムジャーヒディーン(後に「アルカイダ」と呼ばれる)と呼ばれる戦闘員の連合に資金提供するために使われたことを忘れてはならない。この組織の疑わしい起源は、 1970年代後半から1980年代にかけてのソ連・アフガン戦争中に、ロバート・ゲーツ国防長官(当時)とズビグネフ・ブレジンスキー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)が提唱した政策構想に端を発している。152 一般に信じられていることとは逆に、狂信的な武装集団への資金援助や支援はソ連軍侵攻後に始まったものではなく、それより数年前から行われていた。1980年代には、ムジャーヒディーンは英雄や自由の戦士として公に描かれており、ハリウッドはアフガニスタンでの武装抵抗を美化するような作品を制作していた。CIAがアフガニスタンのソ連との10年にわたる戦争を煽り立てた一方で、アフガニスタンで戦った人々の多く(特にCIAが武装、訓練し、送り込んだ外国人戦闘員)は、世界で最も悪名高いテロリスト集団のいくつかを結成することになる。その多くは現在、米国および英国の外国テロ組織リストに記載されている。アフガニスタンのムジャーヒディーンやオサマ・ビン・ラディンのアラブ人戦闘員を訓練し、武装させるという形で米国がアフガニスタンに介入したことは、殺戮と長期化を招いた10年間の戦争の主要な要因のひとつとなった。この戦争により、アルカイダというテロ組織が正式に確立され、ソ連がアフガニスタンから撤退した後も、1990年代後半にセルビアからの独立を求めたコソボの動きの中で戦い続けた。

アルカイダの訓練を受けたコソボ解放軍(KLA)の武装勢力はセルビア軍の反発を買い、これがNATOによる介入の口実となった。

NATOの参戦により、最終的には国家が分割されることになったが、一方でCIAなどの組織が急進的な反政府勢力の戦闘員を支援していることが明らかになった。アルカイダは、崩壊したソビエト連邦の後に残った空白を埋める存在となり、1990年代を通じて、ワシントンの不当な国防費の支出と海外における膨大な戦術的保有物の拡大を正当化する存在となった。アルカイダは、米国と英国の諜報機関から秘密裏に支援を受け続け、サウジアラビアから資金援助を受けていた。また、他の多くの過激派グループも同様であり、最終的には世界各地でアルカイダと統合し始めた。CIAが支援したテロリスト集団には、リビアのイスラム戦闘団(LIFG)がある。この集団は、1980年代初頭にムアンマル・カダフィを打倒するためにCIAが武装・訓練したリビアの過激派によってアフガニスタンで結成された。リビアを武力で占領しようとする試みが何度か失敗した後、これらの戦闘員はアフガニスタンに戻り、占領する米国と戦った。この時、アフガニスタン人はもはや「勇敢」ではなく、むしろ中世的な後進国であり、西洋の民主主義と国連が承認する国家建設を必要としていると描写された。一方、リビア人はアフガニスタンで米国と戦い続け 2003年に米国がイラクに侵攻すると、今度はそこで米軍と戦い始めた。

米軍がアフガニスタンを10年以上占領し、戦闘がかつてないレベルに達する中、リビアのカダフィ政権に抵抗したように、リビアのイスラム戦士たちは再びNATOから軍事支援と外交的支援を受け、米国務省と英国外務省から外交的承認を受けた。これは、アフガニスタンのムジャヒディンが西側の外交政策を代表してソビエトの膨張主義に抵抗したのと同じである。これは、当初はこれらの武装勢力を英雄視し、その後、10年近くにわたる戦争で世界で最も軽蔑される悪党と見なし、そして再び英雄として浮上したという物語である。米陸軍士官学校テロ対策センターの報告によると、リビア東部地域は世界でも最もテロリストが集中している地域の一つと考えられており、ムアンマル・カダフィは、ダーナの都市を中心に、NATOが支援する反政府運動の震源地であるベンガジで、この地域の外国支援を受けた武装勢力を排除するために、約30年にわたって戦い続けてきた。

米国が画策した「アラブの春」の余波で権力を奪取したムスリム同胞団やスンニ派イスラム主義のさまざまな政治派閥は、シーア派とスンニ派のイスラム教徒間の宗派間対立を煽り、イランやシリア、レバノンで活動するヒズボラの政府を弱体化させることを目的とした政策の副産物である。スンニ派の連合の形成については、地政学アナリストのウェブスター・タープリー博士が指摘している。同博士は、これらの革命によって誕生したさまざまな新政権は、「米国と英国の中東戦略を支えるために利用できる」と述べている。アラブ諸国とスンニ派諸国(特にエジプト、サウジアラビア、湾岸諸国、ヨルダン)のブロックを結集し、イスラエルの参加を得て、シリア、ヒズボラ、ハマス、およびさまざまな急進派勢力を含むイランのシーア派ブロックと衝突させる」という

この分析を裏付けるものとして、ジャーナリストのシーモア・ハーシュが『ニューヨーカー』誌に2007年に発表した記事「The Redirection: 「テロとの戦いにおける政権の新たな政策は、敵に利益をもたらしているのか?」という記事である。ハーシュの記事は、米国、サウジアラビア、イスラエルが実際に同盟関係にあることを認める証言を記録している(サウジアラビアと有力なスンニ派組織が「反シオニスト」であると見せかけようとする試みにもかかわらず)。さらに、米国がアルカイダと関係のある過激派戦闘員やテロリストの地域ネットワークを物質的に支援していることも確認している。ハーシュは、レバノンのヒズボラを弱体化させることを目的とした秘密作戦を実行するためにワシントンがリヤドと協力し、サウジアラビアとイスラエルと戦略的に手を組んだ政策転換について述べている。その主な理由は、両国がイランを現実的な脅威と認識していることにある。この政策転換の主な要素は、シリアを弱体化させようと、イスラム教の過激派グループを強化し、イスラム教の過激派グループがダマスカスに対して好戦的な態度を取るように仕向けたことである。これは、イランがアラブ世界で影響力を及ぼす主な手段であり、基盤であるシリアを弱体化させる試みである。

シーア派が多数派を占めるイランを弱体化させるため、ブッシュ政権は事実上、中東における優先事項を再構成することを決定した。レバノンでは、政権はイランの支援を受けるシーア派組織ヒズボラを弱体化させることを目的とした秘密作戦において、サウジアラビア政府(スンニ派)と協力した。米国はまた、イランおよび同盟国シリアを標的とした秘密作戦にも参加している。これらの活動の副産物として、イスラム教の過激な思想を信奉し、米国に敵対的でアルカイダに共感するスンニ派過激派グループが強化された。154

ハーシュは、秘密工作への政策転換の立役者として、ディック・チェイニー元米副大統領、エリオット・アブラムズ元国家安全保障問題担当大統領補佐官、ザルマイ・ハリルザド元駐イラク大使、そして悪名高いバンダル・ビン・スルタン王子(前サウジアラビア国家安全保障問題担当顧問)を挙げている。

ワシントンがテヘランとその中東における影響力を弱体化させるための取り組みにおいて、バンダル王子(ジョージ・H・W・ブッシュの親しい友人でありビジネスパートナーであり、彼を「バンダル・ブッシュ」という愛称で呼んでいた)の重要性は過小評価できない。22年間駐米大使を務めたバンダールは、ハーシュ氏に「我々には2つの悪夢がある。イランが核兵器を保有することと、米国がイランを攻撃することだ。むしろイスラエルにイランを空爆してほしい。そうすれば彼らを非難できるからだ。もしアメリカがやれば、非難されるだろう」と。バンダールは駐米大使在任中、シリアの政治的影響力拡大を阻止するという共通の目標を持つ米国の高官たちと緊密な関係を築いた。ハーシュは、イラン、イラク、バーレーン、レバノンで多数派を占め、スンニ派からは異端と見なされている宗教的少数派シーア派の台頭を恐れたサウジアラビア政府高官が、その莫大な富を財政的なてことして利用したことを強調している。テルアビブ、リヤド、ワシントンの同盟国にとって、スンニ派の過激派は「シーア派の三日月地帯」という地政学的な台頭に比べれば、欧米にとってそれほど脅威ではない。これは、イラクに対する戦争の先頭に立っている米国が取るには皮肉な立場である。米軍が対処した反乱勢力の暴力事件のほとんどは、過激派スンニ派勢力によるものだった。ジョージ・W・ブッシュ前大統領は、イラクにおける米国の占領に抵抗する戦士たちに物質的支援を提供するために、テロリストがイランとシリアの領土を行き来することを許していると非難した。イラクにおける計画と実行の面でブッシュ政権自身が失敗したことは、イランの干渉の結果であると正当化された。イランがイラクに干渉しているという証拠を固めるため、米軍はイラク国内で数百人のイラン人を逮捕し尋問した。その多くは、戦火に苦しむイラクに人道支援や医療支援を行っていた人々であった。

ブッシュ前政権の国家安全保障会議の元高官であるフライント・レヴェレット氏は、イラクに関するこの新たな戦略について、「偶然や皮肉など何もない」と私に語った。「現政権は、イラクにおけるアメリカの利益にとって、イランはスンニ派の反乱勢力よりも危険で挑発的であると主張しようとしている。しかし、実際の死傷者数を見れば、スンニ派がアメリカに与えた打撃の方が桁違いに大きい。「これはすべて、イランへの圧力を高める挑発行為の一環である。いずれイランが反応し、政権は彼らを攻撃する好機を得るという考えだ」155

ハーシュの記事は、レバノン国内にテロ組織の安全地帯を創設するためにサウジアラビアと米国と緊密に連携し、隣国シリアの不安定化に一役買ったレバノンの元首相、サアド・ハリリの役割についても詳細に説明している。

サウジアラビア政府は、米国の承認を得て、シリアのアサド大統領の政府を弱体化させるための資金と後方支援を提供する。イスラエルは、アサド政府にこのような圧力をかけることで、同政府がより協調的になり、交渉に応じるようになると信じている。シリアはヒズボラへの武器供給の主要ルートである。サウジアラビア政府は 2005年にベイルートで起きた元レバノン首相ラフィク・ハリリの暗殺事件についてもシリア政府と対立している。サウジアラビア政府は、この事件の黒幕はシリア政府であると確信している。億万長者のスンニ派であるハリリ氏は、サウジアラビア政府およびバンダル王子と密接な関係にあった。

ムスリム同胞団は、反イスラエル、反米、そして反西洋であると一般的に描かれることが多い。しかし実際には、ハーシュの2007年の報告書が明らかにしているように、シーア派の拡張主義を阻止することを目的とした米国、イスラエル、サウジアラビアのエリート層にとって、ムスリム同胞団は最適な手段であった。この組織は、シリアだけでなくエジプトでも長年にわたり支援と直接的な資金援助を受けてきた。ムスリム同胞団の一般党員は、指導者たちが語っていることを信じているに違いない。指導者たちは、反イスラエル、反アメリカの暴言を大衆向けに売り込むプロの扇動家であることが証明されている。彼らは、アラブ世界に対する欧米の意図に完全に加担している。ハーシュは、レバノンのハリリ派の支援者がワシントンでディック・チェイニーと会い、シリアのムスリム同胞団を政権打倒の動きに利用することを優先すべきだと個人的に伝えたと報告している。

ワリド・ジュムブラットは、昨年秋にワシントンでチェイニー副大統領と会い、アサド政権を弱体化させる可能性について話し合ったと私に語った。彼と彼の同僚たちは、もし米国がシリアに軍事行動を起こすつもりなら、シリアのムスリム同胞団のメンバーと話し合うべきだとチェイニーに助言したとジュムブラットは述べた。

ハーシュの暴露記事は、少なくとも2007年以降、米国とサウジアラビアの支援が同胞団に利益をもたらし始めたことを詳細に説明している。

政権の戦略転換がすでに同胞団に利益をもたらしている証拠がある。シリア国民救国戦線は 2005年に亡命した元副大統領のアブドゥル・ハリム・ハダド氏率いる派閥と同胞団を主要メンバーとする、反体制派グループの連合である。元CIA高官は私にこう語った。「アメリカは政治的にも財政的にも支援を行っている。サウジアラビアが財政支援で主導的な役割を果たしているが、アメリカも関与している」現在パリ在住のハダム氏は、ホワイトハウスの承認を得てサウジアラビアから資金を得ているという。(2005年には、同組織の代表団が国家安全保障会議の関係者と会談したと報道されている

報道によると 2005年には、同組織のメンバーの代表団が国家安全保障会議の関係者と会談した)元ホワイトハウスの高官は私に、サウジアラビアが同組織のメンバーに渡航書類を提供したと語った。

確かに 2007年に詳細にわたって説明された策略は、サウジアラビア、イスラエル、米国の人々に対する現実の脅威から守るためではなく、彼らの指導者の地域覇権主義という野望に対する現実の脅威から守るために、明らかに実現した。

バンダルや他のサウジアラビア人はホワイトハウスに対して「宗教原理主義者たちを厳しく監視する」と保証した。彼らの我々へのメッセージは「我々がこの運動を作り出し、それをコントロールできる」というものだった。サラフィストに爆弾を投げさせたくないわけではない。誰に投げさせるかだ。ヒズボラ、ムクタダ・サドル、イラン、そしてヒズボラやイランと協力し続けるシリア人だ」158

ペルシャ湾における詩的正義

地域的な宗派間の対立が激化することは、中東、特にサウジアラビア王国における「ブローバック」の可能性という点で、重大な意味合いを持つ。サウジアラビアには石油資源が豊富な東部州にかなりの数のシーア派少数派が存在しており、サウード家はイランの工作員が地元のシーア派住民と積極的に協力し、この地域を不安定化させようとしていると信じている。政権交代や不安定化を狙われた国々が躊躇したり、自国の秩序回復を積極的に試みたりする中、シリアの国家を徹底的に破壊しようとしてきたアラブ諸国にとって、真の自国発の革命が起こる可能性は恐ろしいものだ。サウジアラビア王国で実践されている超保守的なイデオロギーであるワッハーブ派は、多くの一般的なイスラム教の慣習を、イスラム教の不純物や革新であるとして排除している。リヤドはシリアに民主化と人権尊重を呼びかけているが、サウード家が統治するサウジアラビアは、政党が禁止され、姦通、魔術、イスラム教からの離脱に対する処罰として公開処刑による死刑が科されることもある絶対主義国家である。

中世ヨーロッパを彷彿とさせる統治体制の下、ワッハーブ派のイデオロギーは意見の相違を厳しく禁じている。サウード家はサラフィストの宗教的権威を掌握し、ファトワ(イスラム法における法的宣告)を発令して、自らの揺るぎない権威を正当化している。石油の主要輸出国であり、米国の同盟国でもあるため、ワシントンはサウジアラビアの絶対王政の明白な偽善に対してほとんど目をつぶっており、他の国々が偽りの理由で非難されている原則をサウジアラビア政府が自由に侵害することを許している。2011年2月下旬、シーア派が多数派を占めるバーレーンで、シーア派住民の政治的自由と平等の拡大、およびハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ国王の退陣を求める抗議活動が勃発した。 9 恐ろしいことに、ハマドはサウジアラビア主導の湾岸協力会議(GCC)の半島盾部隊(PSF)に、湾岸協力会議の半島盾防衛協定に基づき、戒厳令と3カ月間の非常事態宣言を発令する前に反対派の抗議活動を鎮圧するよう要請した。バーレーンとサウジアラビアの

バーレーン独立調査委員会(BICI)が発表した報告書によると、バーレーンとサウジアラビアの軍は、マナマのパール広場において非武装の市民デモ隊に対して悪質な攻撃を仕掛け、過剰な武力行使を継続している。

バーレーン情勢がエスカレートする中、政府は、サウジアラビアの反動政権が国内のシーア派少数派の蜂起を恐れて意図的に宗派間の対立を煽るような扇動的な発言を繰り返しているため、イランが不安定化を煽っていると非難した。サウジアラビア国内のスンニ派多数派によるいかなる蜂起の可能性も低減させるためである。161 2011年2月以来、サウジアラビアでは、主に東部の州のカティーフとアウジャイーヤで、政治犯の釈放と表現の自由を求めるデモが定期的に抗議者によって行われている。2011年3月5日、サウジアラビア内務省は「あらゆる形態のデモ、行進、抗議、およびそれらを呼びかける行為は、イスラム法(シャリーア)の原理、サウジアラビア社会の価値観や伝統に反し、公共の秩序を乱し、公的利益や私的利益に危害を加える結果となるため、禁止する」との声明を発表した。162 2012年2月、サウジアラビアの東部州アル・アウヤミーヤで著名なシーア派指導者ニムル・バクル・アル・ニムル師が逮捕・拘留されたことで、体制に対する国民感情に火がつき、公然たる反対運動や、広範囲にわたる抗議行動がまれに発生するようになった。この抗議行動は、ヒジャーズ州のスンニ派地域、さらにはメッカや政治的中枢であるリヤドにまで広がった。アル・ニム氏は、シーア派の少数派に対するサウジアラビア当局の対応を批判し、弾圧が続けば政権が転覆すると予測した上で、石油資源が豊富な東部の州の分離独立を呼びかけたとして、拷問されたとされている。

2012年7月、CIA長官のデイビッド・ペトレアスはジェッダに飛び、サウジアラビア国王アブドラ・ビン・アブドゥルアジーズ・アル・サウードと会談した。国王は、この地域の「混乱した状況」を理由に、国内の治安部隊に厳戒態勢に入るよう命令した直後のことだった。1 63 会談で何が話し合われたのかについての報道は出ていないが、ワシントンが懸念しているサウジ王家内部の権力闘争、アブドラ国王の健康状態、シーア派活動家や反政府デモ参加者に対する暴力的弾圧の激化といった問題について、両者が話し合ったと推測できる。石油輸出による莫大な財源にもかかわらず、失業、汚職、不十分な住宅といった慢性的な問題に対処するために、数千人の王子や王女たちが独自の連合を結成し始めたことで、王家内部の深刻な亀裂が明らかになった。

2010年6月に体制強硬派のナエフ・ビン・アブドゥルアジーズ王子が死去したことで、サウジアラビア王国の移行の脆さが露呈した。ナエフ王子は国内の治安と情報機関を統括し、サウジアラビア国内で活動するアルカイダとその関連組織による治安上の脅威を取り締まることで知られていた。死去前には、国内の若年層の失業問題を緩和するための福祉政策を導入したが、これはサウジアラビア王国で深刻化する問題に対する不十分な解決策であると受け止められた。 89歳の国王アブドラの健康状態が悪化していることから、ナエフは事実上サウジアラビアを支配していると見られていた。また、イランとヒズボラの両方を攻撃的に非難し、イランとヒズボラが意図的にイラクとレバノンのスンニ派住民を弱体化させていると非難した。ネイエフの外交政策の目標のひとつは、イランとの緊密な関係を理由に、シーア派のイラク指導者ムクタダ・アル・サドル、アンマル・アル・ハキム、ヌーリ・アル・マルキ首相を失脚させることだった。

1979年のイランイスラム革命以来、湾岸アラブ諸国はイランが自国の利益を脅かす存在であると認識し、イランとの関係強化を模索してきた。サウジアラビアは、バーレーンと自国のシーア派が多数を占める東部州における不安定な情勢は、イランの聖職者層によって煽られていると考えており、宗教的少数派がテヘランの利益を代弁していると見ている。サウジアラビアがバーレーンとの経済同盟を強化しようとしているのは、おそらく、イランがこの地域に対して領有権を主張していることと、そのような連合の設立に反対していることが動機となっていると思われる。

「バーレーンに対するイランの歴史的な領土主張について言及し、イランの国会議員はサウジアラビアの計画を非難した。『もしバーレーンが併合されるべきであるならば、それはサウード家ではなくイスラム共和国のものとなるだろう』と。より公式な反応としては、イラン外務省報道官のラミン・メフマンパラストが、「サウジアラビアのような近隣諸国による市民への弾圧、軍事介入、治安介入、そしてバーレーンとサウジアラビアの連合形成計画のような計画は、我々の見解では、事態を悪化させる不適切な措置である」と述べた。 バーレーンは、今後数ヶ月間、サウジアラビアとイランの間の重要な戦略的戦場であり続けるだろう。

国内のシーア派住民を非難し、疎外する一方で、サウジアラビアの国営放送は、シリアのアサド政権に対するジハードを呼びかけるサラフィストの宗教指導者たちの激しいレトリックで占められている。湾岸同盟諸国の協力のもと、シリアで活動する自由シリア軍やその他の反体制派のメンバーに対する給与体系を正式に定めるまでに至っている。隣国のカタールでは、ハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニー首長(Sheikh Hamad bin Khalifa Al Thani)の退陣とカタール国内の米国軍基地の撤去を求める全国的な呼びかけが反体制派グループによって行われているが、サウジアラビア王国は、人口の約半分が18歳未満であり、王族の上層部が高齢化し、その抑圧的で反動的な姿勢がますます認識されるようになった今、国内で反乱が起こる可能性に恐れをなしていることは間違いない。。165 「改革の見せかけ」が、8カ月間に2度も王位継承者を選出する忠誠評議会を結成することであるような国では、サウード家打倒を求める国内の政治運動の高まりによって、サウジアラビア王国は麻痺状態に陥る可能性がある。アサド大統領に真の改革を実行し、「殺戮マシンを停止する」よう呼びかけたアブドラ国王の偽善は、サウジアラビアの路線の不誠実さを示している。なぜなら、サウジアラビアがシリアの宗派間紛争を支援することは、国家主導の聖戦以外の何者でもないからだ。

サウジアラビアは、イランがこの地域だけでなく自国内の勢力バランスをも傾けるのではないかという恐怖に駆られている。サウジアラビアには、主要な油田地帯である東部州に多数派のシーア派が存在しており、同州では宗派間の緊張が高まっている。ヴァリ・ナスル氏によると、王族は、イランの工作員が地元のシーア派と協力して、国内で発生した多くのテロ攻撃に関与していると考えている。「今日、イランに対抗できる唯一の軍隊であるイラク軍は、米国によって壊滅させられた。現在、核保有能力があり、45万人の常備軍を持つイランと対峙しているのだ」(サウジアラビアの常備軍は7万5000人である)ナスルはさらに、「サウジアラビアには相当な資金力があり、ムスリム同胞団やサラフィー主義者たちと深い関係がある」と述べた。サラフィー主義者とは、シーア派を背教者とみなすスンニ派の過激派である。「前回、イランが脅威となった際、サウジアラビアは最悪のイスラム過激派を動員することができた。一度彼らを野に放てば、もう元には戻せない」166

サウジアラビアがシリアの不安定化に加担しているのは、最終的にはイランのアラブ世界における影響力を削ぎ、ダマスカスにスンニ派の絶対主義衛星国家を樹立させることを目的としていると見られている。イランに対する国際的な禁輸措置により、サウジアラビアの石油生産量は過去30年間で最高水準に達しており、イランの核施設を攻撃する場合には、サウジアラビアとその湾岸同盟国がイスラエルと米国を軍事的に支援することはほぼ確実である。167 サウジアラビアは、イランの政権交代だけでは満足しないだろう。シーア派国家を完全に弱体化させることで、自国の地域覇権を追求しているのだ。サウジアラビアは、テヘランの資源を奪取し、民族的な境界線に沿ってイランの領土保全を脅かすことを目的とした反政府運動を支援し、イラン北西部のクルド人、南東部のバローチ人、西部のアラブ人に対して、自らの自治を求めて武装蜂起するよう奨励している。リヤドは、動揺する国民をなだめるために、莫大な財源を福祉プログラムや補助金に投入しているが、サウジアラビア王国は、サウード家の絶対君主制を揺るがす岐路に立たされている。サウジアラビア王国と湾岸諸国の同盟国がシリアでの蜂起を熱心に支援する動きを見せる中、歴史家であり地政学アナリストであるウェブスター・タープリー博士は、王政の不安定化を予見し、反動的な支配階級であるリヤドの指導者層に対して、フランス革命を熱狂的に支援したものの、やがて断頭台の刃に晒されることとなったブルボン朝の王族、ルイ・フィリップ・ジョゼフ・ドルレアンの事例を検証するよう警告を発している。

トルコとクルド問題

トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン首相とアフメト・ダウトオール外相の指揮の下、トルコの外交政策は、これまで標榜されてきた「ゼロ問題」政策から積極的な転換を図り、シリア国家に切り込む侵略的な急先鋒へと変貌した。シリアに地理的に近いトルコでは武器密売が横行し、トルコ・シリア国境は、アンカラの全面的な加担のもとで避難してきた反乱軍の戦闘員たちの火種となっている。シリアとの国境の軍事化が進むトルコは、紛争の深刻さを示す不穏な兆候であり、この地域にとって疲弊を招く結果となる火種がいつ爆発してもおかしくない状況にある。2012年5月には、外交問題評議会が、マデリン・オルブライト元米国務長官、スティーブン・J・ハドリー元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら25名が率いる独立タスクフォースを後援し、彼らは「米土関係: 新パートナーシップ」と題された。168 この文書は、シリアとイランに関してトルコが米国にどのような利益をもたらすことができるかという文脈で書かれており、トルコの指導者たちを中東全域にわたる欧米の野望のために自滅させるような空約束を欠いているわけではない。CFRは、米国とトルコの同盟関係を強化し、新たな関係が米国とBRICS諸国(おそらくインドを除く)との協力の可能性を上回るものになると主張しているが、これはトルコの指導者たちに誇大妄想を抱かせ、シリアとイランに対する攻撃の先陣を切るようそそのかし、その見返りとして欧米諸国がトルコの地域覇権主義を支援するという、見下したような政治的パフォーマンスである。2012年7月下旬、ロイター通信は、サウジアラビアの副外相であるアブドゥラジズ・ビン・アブドゥラ・アル=サウード王子が公式訪問中に要請した、シリア国境から約100キロ離れたトルコ南部の都市アダナにある反体制派の基地の存在を確認した。アダナにはインジルリクの米軍・NATO基地もあり、アメリカが直接的に秘密裏に関与しているのではないかという疑いが強まった。カタールに拠点を置くロイター通信の情報筋は次のように語った。

「3つの政府が武器を供給している。トルコ、カタール、サウジアラビアだ」とドーハの関係者は語った。アンカラは武器供給を公式に否定している。「武器はすべてロシア製だ。明白な理由は、彼ら(シリア反体制派)はロシア製武器の使用訓練を受けていること、そしてアメリカが関与したくないからだ。武器はすべて闇市場から調達されている。武器を入手する他の方法は、シリア軍から盗むことだ。「彼らは武器庫を襲撃している」 情報筋はさらに、「トルコは自国の脆弱な監視能力の改善に躍起になっており、無人偵察機と監視システムの提供をワシントンに懇願している」と付け加えた。しかし、その懇願は失敗に終わっているようだ。「そのため、民間人を雇ってその仕事をさせている」

トルコの地位が米国情報機関の従属的な一部門にまで低下したことは、エルドアン首相にとって大きな代償を伴う可能性がある。シリア国家の崩壊により、シリア北部で活動するシリアのクルド人反政府勢力とトルコ国内のクルド人武装抵抗勢力との連携が深まり、反政府運動がトルコ東部へとさらに拡大し、結果として国内が不安定化する可能性があるからだ。トルコ国内のクルド人少数民族は総人口の4分の1以上を占め、クルディスタン労働者党(PKK)が率いるクルド人自治区での分離独立運動を数十年にわたって戦ってきた。シリアのクルド人反政府勢力が流入することでクルディスタン労働者党が勢いづけば、トルコの国内安全保障に即座に脅威をもたらすことになる。

クルディスタンは、トルコ東部、シリア北東部、イラク北部、イラン北西部を包括する、おおまかに定義された地理的文化地域であり、民族主義団体が歴史的に独立国家の樹立と、既存の国境内でのより大きな自治権を求めて戦ってきた地域である。イラク北部のクルディスタン地域政府(KRG)の指導者であるイラク人クルド人のマスード・バルザーニー氏は、トルコの政策を操るために米国が利用するのに適した候補者であることが証明されている。バグダッドのイラク中央政府は、イラクの主権を回避するものとして、バルザニ氏の地方当局との取引を強く非難している。バルザニ氏は、イラク・クルディスタンの豊かな油田地帯を支配しており、エクソンモービルやシェブロンといった企業が合計1,124平方キロメートルの面積を取得している。

石油は国際市場に輸出される予定であり、イラクとトルコのキルクーク・ジェイハン・パイプラインが輸出先として利用される可能性もあるが、クルディスタン地方に豊富に埋蔵されている石油や天然ガス(天然ガスは3兆~6兆立方メートル、石油は450億バレル)を輸送するルートとしては、東地中海に面したシリアのラタキア港の方が魅力的である。トルコは国内経済を活性化させるためにエネルギー消費量を増やすことを決定しており、トルコのエネルギー大臣であるタネル・ユルドゥズ氏は、バグダッドがクルド自治政府がトルコのエンジニアリングおよび建設会社であるSiyah Kalem社にクルディスタンの天然ガスを輸出するエネルギー取引を違法に承認したと断言しているにもかかわらず、クルディスタン地域政府との経済協力に熱心に取り組んでいる。トルコにとって、マスード・バルザーニー氏は戦略的同盟者である。なぜなら、トルコのシリアおよびイラクに対する外交政策は収束しつつあるからだ。イラクはトルコにとって第2位の貿易相手国であり、トルコの120億ドルの貿易の半分以上はバルザニ氏のKRGとの取引である。バルザニ氏はビジネスパートナーとしてだけでなく、トルコ国内のクルド人武装勢力による問題を、同地域のさまざまなクルド人派閥のための新たな政治的軌道を先導することで解決できる重要な人物としても見られている。

2012年4月、バルザニ氏はワシントンを公式訪問し、米国の同地域への投資を促進するための米・クルディスタンビジネス協議会を設立した。バラク・オバマ大統領、レオン・パネッタ国防長官、ウィリアム・バーンズ国務副長官、ヒラリー・クリントン国務長官、ジョー・バイデン副大統領と会談した。イラクのシーア派首相ヌーリ・マリキは、イランとの関係を深め、外交的にアサド政権を支援したことで、米国とトルコの支持を失った。米国は当初、イラクにおけるシーア派政権が、米国の占領に強く抵抗するスンニ派過激派を弱体化させるのに役立つと期待してマリキを支援したが、これはマリキ政権下でシーア派急進派民兵組織の強化につながった。当然のことながら、ワシントンから戻ったバルザーニーはイラク中央政府に対して厳しい非難を展開した。

アル・ハヤト紙に対して「イラクは破滅に向かっており、独裁政治への回帰だ」と述べ、アルビルに戻るとイラクの指導者たちを集めて会議を開き、マリキから国を「救い」、「急進的な解決策」を模索すると語った。

バルザニ氏が言及しているのは、イラクからのクルド人分離独立の可能性についてであることは間違いない。これは米国にとって魅力的な戦略であり、トルコも自国の利益につながる状況下では、この動きを自ら支援するだろう。バルザニ氏はトルコの資金で派閥のリーダーたちを買収し、さまざまなクルド人グループ間の相違点を調整しようとしてきた。シリアのクルド人たちにアサド政権打倒の反体制派に合流するよう説得しようとしたことさえある。トルコのエルドアン首相はイスタンブールでバルザニ氏と直接会談し、シリア国家の組織的崩壊を画策するペルシャ湾岸諸国と歩調を合わせ、バグダッドのマリキ政権を非難する先頭に立った。

「イラクが直面している政治危機の根底にあるのは、イラクの政治家たちが民主的かつ普遍的な原則に基づく政治を追求するのではなく、権力を集中させ、他者を排除しようとしていることだ。イラクの危機を煽ったマリキ首相がトルコを非難するに至った誤解の背後には、このような政治に対する誤った理解があることは事実である」170

再び、絶対主義的な湾岸諸国と歩調を合わせ、イラク政府を悪者にしようとする根本的な動機は、同盟国を締め上げ、イラクのクルド人とスンニ派指導者間の関係を促進することでイランを孤立させ、それによってバグダッドのマリキ政権を弱体化させることにある。2007年に実施されたヒズボラの指導者ハッサン・ナスララのインタビューでは、民族や宗派に沿った地域における地政学的な再編成の可能性について言及している。

ナスラッラーは、ブッシュ大統領の目標は「この地域における新しい地図の作成」であると信じていると述べた。彼らはイラクの分割を望んでいる。イラクは内戦の瀬戸際に立たされているのではなく、すでに内戦状態にある。民族浄化と宗派浄化が起こっているのだ。イラクで日々起こっている殺戮と強制移住は、イラクを宗派と民族的に純粋な3つの地域に分割することを目的としている。これはイラク分割の前段階である。長くても1,2年のうちに、スンニ派地域、シーア派地域、クルド人地域が完全に分離独立するだろう。バグダッドでさえ、スンニ派地域とシーア派地域に分断される恐れがある」171

アンカラがバルザニの野望を煽り、イラク北部のアルビルを首都とする独立したクルド人国家を率いるよう仕向けるのは、クルディスタン労働者党(PKK)が主導するトルコ東部のクルド人反政府勢力を鎮圧する上で、クルディスタン地域政府が中心的な役割を果たすことを期待しているからである。アンカラへの国賓訪問で、バルザニはクルド人武装勢力の問題について次のように述べた。

武器では何も得られない。PKKは武器を捨てなければならない。私は、PKKがイラク北部で勢力を拡大することを許さない。もしPKKが武器を手に事を進めるなら、その報いを受けることになるだろう。

バルザニ氏は、PKKがイラク北部のクルド人から広く共感を得ているにもかかわらず、トルコ寄りの路線を貫いている。その主な理由は、アンカラ、ドーハ、リヤドに資金力のある強力な支援者がいれば、財政的にも政治的にも力を得ることができると彼が考えているからだ。反動的なアラブの君主制国家は、マリキ首相のイラクがイランの影響力拡大の厄介な前哨基地であると認識している。彼らは、シリアに向けた外交政策にクルドの要素を加え、PKKがダマスカスのバッシャール・アル・アサド政権との旧同盟を再燃させるのを阻止しようとしている。シリアのクルド人(同国の人口の約10%を占める)を説得してアサド政権に対する反乱に参加させることにバルザニが成功するかどうかは、シリア東部にクルド人自治区を設置するという彼らの分離独立要求を支援するかどうかにかかっている。シリアに対するアンカラの政策は微妙なバランスを保っており、国外のクルド人自治を支援する一方で、国内で同様の希望を抱く運動を容赦なく鎮圧しているという点で、根本的に偽善的である。アンカラが国内のクルド民族主義を弾圧する立場にあることを踏まえると、イラクのクルド人やその他の国際派閥への支援は、国民の強い反発を招く可能性が高く、トルコ国内に飛び火するシリアでの反政府活動につながる可能性がある。

経済開発の誤った判断の例として、トルコ南東部の小さな村ハサンケイフの地元住民や歴史的・考古学的に重要な地域に、深刻な影響を及ぼす政治的要素が根底にあるものがある。これは、約9,500年前まで遡る記録が残る、最も古い継続的に人が居住する集落のひとつである。アンカラの国営水力発電所は、水位を上昇させ、現在では乾燥している渓谷を浸水させることで、チグリス川流域に甚大な生態系への被害をもたらす水力発電のイリジュダムの建設を推し進めている。トルコは世界でも有数の地熱エネルギー供給国であるが、ハサンケイフのイリジュダムの建設により、人口3,000人の村全体とかけがえのない文化遺産が水没することになる。ダムが完成しても、トルコの総エネルギー需要の2%未満しか発電できないにもかかわらずである。173 アンカラは、このプロジェクトの主な目的の一つは、 イラク・トルコ国境の山岳地帯で活動するクルド労働者党の拠点の音を消すことであると、アンカラは公に宣言している。174 シリアとイラクの両政府は、このプロジェクトを非難し、トルコが上流にダムを建設することで、他国のティグリス川沿いに住む約5万5000人に影響が及ぶことを深刻な懸念事項として挙げている。数多くの古代文明の遺物や、預言者ムハンマドの近親者であると考えられているイマン・アブドゥッラーの墓を含む遺跡の破壊は、トルコに対するクルド人の反発を煽ることは間違いない。175

トルコがシリアに対して強硬な姿勢を貫く結果、アンカラはロシアおよび中国との実質的な貿易関係やエネルギー開発プロジェクトを危険にさらす可能性がある。トルコのメルシン・アクユ原子力発電所の建設は、ロシアにとって200億ドルと見積もられる最大の海外投資であり、先進的な経済発展を目指すアンカラのエネルギー部門の発展に役立つ。176 経済協力からアンカラとモスクワの両国が相互に利益を得ていることを考えると、トルコが国連の権限外でシリアに軍事介入しない限り、両国の関係を大幅に縮小する可能性は低い。両国は、トルコ領海を通過してロシアの天然ガスをヨーロッパに輸送するサウス・ストリーム・パイプライン・プロジェクトに合意しており、両国間の貿易額は5年以内に1000億ドルに達する見込みである。ロシアがトルコの産業、通信サービス、銀行機関に多額の投資を行っていること、またメドベージェフ前大統領が提唱した「ハイレベル協力協議会」の設立を考慮すると、ロシアは、ロシア外務省からの批判の声はあっても、両国の外交・政治姿勢をより近づけることで自国の利益を守るために、トルコの侵略行為には目をつぶるつもりなのかもしれない。7月下旬、ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、シリアとの国境検問所が武装勢力に占領されたことについて、トルコを批判する声明を発表した。

「いくつかの情報によると、これらの検問所は、どう考えようとも、自由シリア軍ではなく、アルカイダと直接つながりのあるグループによって占領された」と、ラヴロフ氏はキプロスの外相との共同記者会見で述べた。「我々はこれを再確認している」とラヴロフ氏は述べ、アサド大統領の政権の反対派による領土獲得を欧米諸国が急いで祝うべきではないと示唆した。「もし、テロリストによる領土の占拠というプロセスが我々のパートナーによって支援されるのであれば、シリアに対する彼らの立場、そしてその国で彼らが何を達成しようとしているのか、その答えを聞きたい」と彼は述べた。177

モスクワからの皮肉にもかかわらず、トルコがシリアでの好戦的な行動により上海協力機構(SCO)への加盟を拒否される可能性の方が、ロシアとの貿易関係が大幅に凍結される可能性よりも高い。トルコは2012年の上海協力機構(SCO)北京サミットで対話パートナーの地位を認められ、弱体化した欧州連合(EU)への加盟を断念し、代わりにSCOとの統合に再び焦点を当てている。178 トルコは地理的に戦略的に近いことから、中国にとって貴重な貿易相手国であり同盟国である。中国とトルコを結ぶ「新シルクロード」によって、中央アジアのエネルギー潜在力を開発するという野望を共有している。トルコ軍がシリアに物資を輸送するロシア船の妨害を試みた事例は、両国の関係を確実に悪化させるだろう。しかし、アンカラは10億ドル以上と推定される対露輸出貿易を積極的に危険にさらしている。

シリア危機を通じて、NATOの隠れた短剣としてのトルコの無責任な行動は、同国を非生産的な侵略の道へと導き、同盟国や近隣諸国との緊張を高め、自国の選出された政治家を失脚させた。とりわけ、共和国人民党の議員でありトルコ議会の一員であるレフィク・エル・イリマズ氏は、シリアに「CIAとモサドのスパイの群れが自由に潜入している」として、自国の国境がハブとなっていることに強く反発し、トルコの外交政策を非合理的で失敗に終わっていると批判した。

同氏は、その地域の住民たちが、見知らぬ人々の存在に苛立ちを募らせていると指摘した。トルコ警察は、スパイたちがさまざまな種類の身分証明書を所持しているにもかかわらず、依然として沈黙の傍観者であるとエル・イマズ氏は述べた。また、議会からの承認なしにトルコ領内に米軍とイスラエル軍の兵士を駐留させている当局を非難した。エル・イルマズ氏のコメントは、月曜日に共和党のオスマン・ファルク・ロゴウル副代表がトルコ与党の公正発展党を非難し、シリアの不安定化を煽っていると発言した後に発表された。ロゴウル氏は、トルコ政府がシリア国境に軍隊と車両を派遣して事態を悪化させていると批判した。

アンカラが自国内に武装勢力を受け入れる用意があること、また、ダマスカスとの交渉をためらっていることは、大きなリスクをはらんでいる。トルコの民族的に多様な社会がイスラム主義と世俗主義の線でますます分裂しているこの時期に、エルドアン首相は、トルコ国家に多大な犠牲を強いることになるシリアでの戦争を支持するよう、大多数の意見を説得することができないでいる。「シリア政府崩壊への対応策」について「幅広い緊急事態計画」を協議するためにワシントンおよびテルアビブと緊密に連絡を取り合いながら、アンカラはシリア国民評議会、自由シリア軍、シリア・ムスリム同胞団を支援し、財政的支援も行い、シリア政府の打倒に全力を傾けている。2010年5月に、ガザ封鎖突破を試みたトルコ船を阻止しようとしたイスラエル軍特殊部隊がトルコ人9人を殺害した事件をきっかけに両国の関係は大きく悪化したが、その後、再びアサド政権に対抗するために協力するようになった。

正常化されたトルコ・イスラエル関係は、アサド政権に対する協力の機会も開くことになる。トルコが政治面と地域面で主導権を握り、イスラエルが情報と追加の実用的資産を提供するのだ。もちろん、イスラエルの貢献は、シリアの反政府運動にイスラエルが関与しているという印象を与えないよう、目立たないようにしなければならない。このため、アサド氏に対するトルコとイスラエルの協力関係はさらに価値が高まる。なぜなら、イスラエルは追跡不可能な資産を提供することで、トルコのアサド政権弱体化の努力を支援できるからだ。180

イスラエルのモサドは、2011年3月にシリア南部で反政府運動が始まった当初から、サラフィストの戦闘員や武装反政府勢力にひそかに支援を行ってきた。さらに、彼らはイラクのマスード・バルザーニー率いるクルド人地域政府と連携するシリア北部のクルド人分離独立派にも支援を提供している。181 クルド人分離独立主義は、外国勢力がシリアの領土保全を弱体化させ、民族や宗教の線に沿って小国化し、従順な政治的実体を形成するための手段として選ばれている。テルアビブにとって、この戦略はイスラエルの拡張主義の根幹であり、最大の敵であるイランを孤立させる役割を果たしている。

イスラエルとペルシャへの道

1967年の六日戦争以来、イスラエルはシリア南西部のゴラン高原として知られる地域を不法占拠している。この地域はテルアビブにとって、淡水供給量の3分の1を占める重要な地域である。182 歴史的に、イスラエルはゴラン高原の石油および天然ガス埋蔵量の調査に関心を示してきた。この取り組みは、シリアとの和平交渉を行っていた前政権下で中断されていた。テルアビブの石油輸出への依存度を減らすため、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の政府はシリア国内の市民の不安定な情勢に乗じてゴラン高原での試掘を承認した。これは、もし実際にエネルギー資源が発見された場合、国際的な騒動とイスラエルのアラブ人隣国との潜在的な紛争を引き起こす可能性が高い。183 シリア国内の反乱の炎を煽りながら、ネタニヤフとネタニヤフとイスラエル国防大臣のエフード・バラックは、シリア国内の反乱の火に油を注ぎつつ、情勢が悪化した場合、イスラエルはシリアの兵器貯蔵庫を標的に攻撃を行う用意があると主張している。184 ネタニヤフはヨルダン川西岸地区におけるパレスチナ国家樹立を公式に支持すると発表したが、 ネタニヤフ政権が招集したイスラエルの法律家委員会は、ヨルダン川西岸地区の法的地位を決定するために、パレスチナ人の土地は「占領下にはない」と結論づけ、国際世論を無視して、入植地の前哨基地の建設継続はイスラエル法の下では完全に合法であると結論づけた。ネタニヤフ政権は、イスラエル議会が同地域の既存の住宅の一部を遡及的に合法化する法案を否決した後でさえ、2012年6月に占領下のヨルダン川西岸地区における入植者用住宅850戸の建設を承認した。185 一方、イスラエルのイスラエルの外相アヴィグドル・リーベルマンは、パレスチナ人に土地への帰還の権利を一切認めないというテルアビブの姿勢を主張し、「難民一人たりとも」と強調しているが、民族や宗教を理由としたアパルトヘイトは、イスラエル政府の政策として承認されている。186

1952年、イスラエルの国防大臣モシェ・ダヤンは、テルアビブの究極の目標は「イスラエル帝国」の創設であると熱弁を振るった。ネタニヤフの保守政党リクード党は、修正主義シオニズムのイデオロギー的基盤に基づいて設立され、ユダヤ人が現代において、聖書に記されたイスラエルの地であるヨルダン川西岸(ヨルダン川西岸地区)とサマリア(ヨルダン川西岸地区)に定住し、エジプトのナイル川の河岸からユーフラテス川の岸辺まで広がる石油資源に恵まれた地域を占領することを推進している。1967年の六日戦争でヨルダンとエジプトからヨルダン川西岸地区とガザ地区を奪取したことを受け、より広範囲にイスラエル入植地を建設する「大イスラエル」運動が発足した。イスラエルのリクード党は、ゼエヴ・ヤボチンスキーの思想に基づいて設立された。ヤボチンスキーは「大イスラエル」の設立を呼びかけた人物であり、この概念はイスラエルの首相の父であるイスラエルの歴史家ベンツィオン・ネタニヤフによって受け入れられた。ネタニヤフは2012年に死去する前のインタビューで次のように語っている。

「聖書は砂漠の男についてこれほど悪いイメージは他にないとしている。なぜか?なぜなら、彼はどんな法律も尊重しないからだ。「砂漠では自分の好きなように行動できるからだ」と、

ベンツィオン・ネタニヤフは述べた。「紛争に向かう傾向はアラブ人の本質にある。彼は本質的に敵なのだ。彼の性格は妥協や合意を一切許さない。彼がどんな抵抗に遭おうと、どんな代償を払おうと関係ない。「彼の存在は永遠の戦争そのものだ」イスラエルも同じであると彼は指摘した。「2国家解決策は存在しない」ベンツィオン・ネタニヤフはそう述べた。「ここには2つの民族は存在しない。ユダヤ民族とアラブ人口が存在するだけだ。パレスチナ民族は存在しない。だから、架空の民族のために国家を創設するわけにはいかない。彼らはユダヤ人と戦うために民族を自称しているだけだ」187

このような大幅な領土拡大を公然と主張するプログラムは、イスラエルの政策目標の主流から外れてしまったが、超保守的シオニズムの信奉者たちは、イスラエルの拡張主義をユダヤ民族の揺るぎない義務と見なしている。 間違いなく、このような野望に最も挑戦している国はイスラム共和制のイランである。核保有国イスラエルは、おそらく中東で最も有能な軍隊を統制しており、第二次世界大戦前のヨーロッパのユダヤ人ほど脆弱ではない(ネタニヤフはしばしばホロコーストとイランが差し迫った脅威であることを対比させる)。しかし、ネタニヤフ政権は、イランが核兵器製造能力を開発するのを防ぐため、他国の同意なしにイランを攻撃する権利を主張している。

イスラエル国防軍のベニー・ガンツ中将など、イスラエル政府高官はネタニヤフ政権の国防政策を公然と批判している。ガンツ中将は、シリアの化学兵器輸送部隊を攻撃しないよう助言し、さらなる慎重さと自制を促した。189 元モサド長官のメイール・ダガン氏は、ネタニヤフ政権のイラン攻撃計画を公然と批判し、 イラン攻撃計画を「私が聞いた中で最も愚かなこと」と批判し、広域にわたる地域紛争の危険性を警告している。190 ネタニヤフは、テヘランの外交政策は地球外の事柄に導かれているとほのめかし、イランで実践されているシーア派の宗教的信念を批判している。イスラム教の創始者であるイマーム・マフディーの直系の子孫が、混乱と退廃の時代に現れ、イスラム教の正しい解釈によって秩序をもたらすという預言を信奉している。

60ミニッツのインタビューで、メイール・ダガン氏はイラン政権の合理性を強調したが、元シンベット(イスラエル情報特務局)局長のユヴァル・ディスキン氏は、イランへの軍事攻撃を求める声に公然と反対し、テルアビブが状況を悪化させていると非難した。192 こうしたイスラエルの高官たちは、イランへの直接攻撃がもたらす可能性のある影響を懸念しているが、その一方で、ほとんどの者がテヘランの政権交代を主張している。元モサド長官のエフライム・ハレヴィは、イランがイスラエルに「実存的脅威」をもたらしているという主張は、ユダヤ人の歴史的苦境をほのめかすことで国際社会の支持を集めようとするテルアビブの策略に過ぎないと主張している。193 ハレヴィは、イランとイスラエルが正式に合意を結び、イランが原子力エネルギープログラムを軍事転用しないことを保証すべきだと強調している。これにより、イランは「ここ数か月の間、事実上追放されていた国際社会に再び受け入れられる」ことになる。国際的な制裁やイランに対する石油禁輸措置により、インフレが急騰し、イラン国内の食料価格は25~125%上昇し、人口の60%がテヘランから支給される現金補助に頼っている。194 イラン通貨が急落し続け、商品価格が急騰し続ける中、イスラエルの元外相であるシャロモ・ベン=アミー氏は「国家通貨が数週間のうちに50%の価値を失うと、経済崩壊は目前に迫っている」と警告している。195 ハアレツ紙は、イスラエル外務省高官の匿名のコメントを次のように報じている。

これはイランに対する制裁ではない。むしろ、これはイスラエルの攻撃計画を抑制するために西側諸国が課している制裁なのだ。イスラエルが攻撃の意図について公言しなければ、このような事態は起こらなかっただろう。イラン人は恐怖に怯えている。店頭で何が起こっているのか理解しなければならない。市民は差し迫った攻撃を心配して食料品を棚から手当たり次第に掻き集めている。インフレは高騰し、通貨価値は半分に下落した。これらはすべて恐怖の証である。196

イラン外相のアリ・アクバル・サレヒが公の場で核兵器開発を放棄する一方で、イランの科学者たちは、国際原子力機関(IAEA)の査察官の監督下で、放射性医薬品や産業用同位体の開発のためにウランを20%まで濃縮していると主張している。197 過去に疑わしい活動が報告されたフォードウ濃縮施設やパルチン軍事施設など、イラン国内の施設をIAEAの査察官に査察させることで、イランは自国の核開発計画の透明性を確保する努力をしてきた。国際原子力機関(IAEA)のハンス・ブリクス前事務局長は、イランの核活動に関するIAEA自身の報告書に異議を唱え、IAEAが米国とイスラエルからの未検証の情報を基にしていると非難している。198 IAEAの2012年5月の報告書は、 IAEAとの完全な協力体制のもとでの濃縮技術の進展を挙げ、イランの核活動が兵器化されていないことを確認した。199 米国の核兵器製造計画の元責任者であるクリントン・バスティン氏は、2011年12月、イランの核兵器製造能力の現状に関してオバマ大統領に公開書簡を送った。バスティン氏は次のように繰り返し述べている。

イランの遠心分離施設で生産される最終製品は、兵器には使用できない六フッ化ウランの濃縮ウランである。このガスを金属に転換し、部品を製造し、危険で困難な技術を用いて高爆薬と組み立てるには、保障措置が完全に実施されている備蓄から3トンの低濃縮ウランガスを転用した後、何年もかかるだろう。 その結果として製造される兵器がミサイルによる発射を意図している場合、その威力は1キロトンに相当する通常の高爆薬の威力に匹敵する。 200

イランの核開発計画に関するバスティン氏の評価は、テヘランの遠心分離機で生成される六フッ化物を兵器化することは非現実的であり、非常に非効率的な核兵器しか製造できないことをさらに強調している。イランがこのような方法で核兵器を製造することを選択した場合、核抑止に必要な90%の濃縮レベルに達するには数年を要するだろう。2012年3月、ロイターは「情報によるとイランの核の脅威は差し迫っていない」という特別レポートを発表し、米国、欧州の同盟国、そしてイスラエルさえもが、テヘランは核兵器を保有しておらず、製造する決定もしておらず、核弾頭を搭載可能な核兵器を保有するにはまだ何年もかかるという点で一致していると結論づけた。201 イランが核兵器を製造する能力を有していないという証拠があるにもかかわらず、また、テヘランが核兵器開発を試みている兆候もないにもかかわらず、イスラエルの指導者たちは、2012年11月の米国大統領選挙前にイランに対する軍事攻撃を行う権利を主張している。202 2012年7月にブルガリアでイスラエル人観光客5人が死亡したバスを標的としたテロ攻撃を受けて、ネタニヤフ首相は直ちに声明を発表し、ヒズボラとイランが攻撃の責任があると非難した。

イランは国際社会によって、その正体がテロ支援国家であることが暴露されなければならない。そして、世界で最も危険な政権であるイランが世界で最も危険な兵器を開発することを阻止するためにあらゆる手段を講じるべきである。

イスラエルがシリアの化学兵器輸送部隊を直接攻撃し、シリア領内に侵入したり、イランの核施設を攻撃したりする可能性は、地域全体と世界経済にとって危険な結果をもたらすだろう。テヘランから発信される制度的反ユダヤ主義の主張とは逆に、イスラム共和国の創設者であるルーホッラー・ホメイニー師は、ユダヤ教をイスラム教を生み出した一神教の同じ木の由緒ある分派であると述べている(イスラエル以外の地域で中東に最も多くのユダヤ人が住んでいるのはイランである)。一方、国営メディアはユダヤ人とシオニストを区別しており、後者は。204 米国の政策立案者たちは、非公開の会議では、イランが核兵器を入手したとしても、それは自存自衛と、国境を接する中東地域で着実に拡大している影響力を守るためであると認めているが、一般市民に伝えようと必死になっているメッセージは、ハルマゲドンを招くことを熱望する非合理的な終末論的テオクラシー(神権政治)というものである。ランド研究所が発表した報告書は、イランが数十年にわたって化学兵器を保有していることを指摘し、軍部隊がこれらの兵器を厳格に管理していることを説明している。そのため、これらの兵器が「テロリスト」、あるいはヒズボラの手に渡る可能性は低い。205 イランの広範な化学兵器備蓄が未だ非国家主体の手に分散されていないという事実、そして、これらの軍事部隊がイランの核兵器を管理することになるという事実も、イランが自己防衛と自衛によって突き動かされているという結論を裏付けるさらなる証拠となる。

イランが核兵器を持つべきかどうか、あるいはユダヤ人に対する大量虐殺を企てているかどうかという議論が続くなか、テヘランに対する戦争は周到に計画され、すでに静かに始まっている。米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所は、カーネギー財団、ロックフェラー財団、フォード財団からの助成金によって設立され、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、ロッキード・マーチン、エクソン、ボーイング、ゼネラル・エレクトリックなどの企業スポンサーから資金援助を受けている。2009年には、ブルッキングス研究所が「ペルシャへの道はどちらか?」と題する長大な報告書を発行し、米国がテヘランの政権交代に影響を与える方法を検討した。206 報告書の冒頭には、米国の外交政策理論家であるズビグネフ・ブレジンスキーが理事を務めるスミス・リチャードソン財団からの謝辞が引用されている。ブルッキングス研究所の戦略が検討する軍事的選択肢の規模は、その作戦の成否に関わらず、それを後援する防衛請負業者に莫大な利益をもたらすだろう。この報告書は、イランはアメリカの中東における利益と影響力を損なう厄介な国家であるという率直な宣言で始まっている。イラン・イスラム共和国がアメリカ合衆国自身の安全保障に直接的な脅威をもたらす可能性について、一度も言及されていない。実際、イランは、軍事行動を正当化するような挑発行為を意図的に避けている国家として描写されている。イランの動機は、イデオロギー、ナショナリズム、安全保障の追求であるとされている。これは、外国勢力に侵略され占領された近隣諸国の状況を考慮すると、非常に理解できる。問題の核心は、米国のこの地域における関心は安全保障ではなく、イランと対峙する動機となっているということである。このテーマは、156ページにわたる報告書の至る所で繰り返し述べられている。

制裁(p.39)

イランの体制転換や軍事攻撃(米国またはイスラエルによる)を支持する人々にとっては、まずこの選択肢を試すべきだという強い主張がある。イランの体制転換を促すには、イラン国民に対して、彼らの政府はイデオロギーに凝り固まり、国民にとって最善の策を拒否し、その代わりに自国を破滅に導くだけの政策にしがみついていると説得することが大いに役立つだろう。この場合の理想的なシナリオは、米国と国際社会が、イラン国民がその取引を支持するほど魅力的な前向きな誘因のパッケージを提示し、その結果、体制側がそれを拒絶するというものである。

同様に、イランに対する軍事作戦は、世界中で非常に不評を買う可能性が高く、その作戦に必要な後方支援を確保し、その作戦による反動を最小限に抑えるために、適切な国際的背景が必要となる。国際的な非難を最小限に抑え、(不本意であっても、あるいは隠れてはいても)最大限の支持を得る最善の方法は、イランが素晴らしい申し出を受け取ったものの、それを拒否したという確信が広く行き渡った時に攻撃することである。その申し出は、核兵器の獲得を望み、間違った理由でそれを手に入れようとしている政権でなければ断るようなものではないほど、良いものだった。そのような状況下では、米国(あるいはイスラエル)は自らの行動を「怒り」ではなく「悲しみ」によるものと表現することができ、少なくとも国際社会の一部は、イランが「自ら招いたこと」として、非常に有利な取引を拒否したと結論づけるだろう。

イランに対する政権交代、そして恐らくは軍事行動さえも、既定路線であるかのように語られている。ブルッキングス研究所は、制裁を口実に、段階的にエスカレートする手段として、必要であれば戦争も辞さないという姿勢で、政権交代を後押ししている。ブルッキングス研究所は、政権交代を伴わないまま、イラン政府に強制的に制裁を加えることを提案している。提案されているインセンティブは、実際のものというよりも、アメリカが課した経済的処罰からの救済策のように見える。ブルッキングス研究所は、イランが核兵器を製造する動機となる現実的な懸念に対処するために、アメリカによる侵攻による「安全保障の保証」を提案している。このインセンティブを実現するには、アメリカの中東における軍事力の削減など、具体的な行動が必要であると指摘している。ブルッキングス研究所自身、今後数十年間は実現可能性が極めて低いことを認めている。

ブルッキングス研究所は、この時点で、米国はどのような状況下でもイランに優位な立場を与えるべきではないという大胆な主張を展開している。また、ワシントンが中東地域におけるテヘランの役割について曖昧な態度をとるべきではないとも主張している。この「説得」という選択肢は、すでに失敗に終わっているように見える。無意味な申し出によってイランから譲歩を引き出すことも、追加制裁を効果的に行うために必要な国際的支持を結集することもできなかった。ブルッキングス研究所の報告書は24ページで、真の脅威は核兵器の配備ではなく、むしろ核兵器が持つ抑止力であり、それによってイランは米国の侵略を恐れることなく、米国がこの地域に及ぼす影響に対抗できる、と指摘している。つまり、戦いの場は平らになり、米国は自国の地域的利害に関してイランの国家主権を認めざるを得なくなる可能性があるということだ。報告書は、イランの指導部は攻撃的ではあっても無謀ではないと認めている。核兵器の保有は、米国やイスラエルの核抑止能力を考慮すると、絶対的な最終手段として使用されることになるだろう。

侵攻(p.65)

米国が、より多くの国際的支持を得るため、米国国内の支持を喚起するため、あるいは侵攻の法的正当性を確保するために侵攻を決断するとしたら、イランが挑発行為に出るのを待つのが最善の策であり、その場合、侵攻の時期は無期限に延びる可能性がある。1979年の革命以来、たった一つの例外を除いて、イスラム共和国は自ら進んで米国の軍事的対応を誘発したことは一度もない。しかし、ワシントンが戦闘を望んでいるのであれば、そうした行動を取る可能性はあった。

したがって、アメリカによる侵攻を正当化するような行動をテヘランが起こす可能性は否定できない。また、ワシントンがそのような挑発行為を求めているのであれば、テヘランがそうする可能性を高めるような行動を取ることも可能である(ただし、挑発行為をあからさまにし過ぎると、逆に挑発行為を無効にしてしまう可能性もある)。しかし、挑発行為に出るのはイランの側であり、イランは過去においてほとんどの場合、挑発行為を警戒してきたため、米国はイランからの挑発行為がいつ起こるのかを確実に知ることはできない。実際、挑発行為が起こらない可能性もある。

この抜粋は、米国の政策立案者が、さもなければ実行不可能な全面侵攻を正当化するために、意図的に他国を挑発することについて公然と語っているに他ならない。もしこのような裏切り行為が、アメリカ人の数千人の命、そして恐らくはイラン人の数百万人の命を犠牲にして、企業から資金提供を受けているシンクタンクの会議室で公然と語られているのだとしたら、彼らは記録に残らないようなどんなことを語っているのだろうか? 実際、ブルッキングス研究所も認めているように、イランとの通常戦争は現在不可能である。 懸念されるのは、彼らが、アメリカが「適切な」挑発行為を提示されさえすれば、不可能ではないと考えていることだ。

ブルッキングス研究所の専門家はさらに、ワシントンはそうした挑発行為を確実に起こさせるために「確実な行動」を取ることができると主張している。

さらにブルッキングス研究所は、イランはすでに、アメリカの挑発行為には反応しないという極端な手段を取っており、全面侵攻が求められる場合には、挑発行為は段階的なイベントという形を取る可能性があるという見解を示している。

イランに対する連合戦線(p.66)

欧州、アジア、中東のほとんどの国民は、イランと国際社会(イランと米国は言うまでもなく)の間の現在の相違から派生する、米国によるイランに対する軍事行動には断固反対している。テヘランが支援する9.11テロ事件のようなことが起こらない限り、彼らの考えが変わることは考えにくい。ワシントンが支援を求める多くの民主主義国や、いくつかの脆弱な独裁政権にとって、この国民の反感は決定的な要因となる可能性が高い。例えば、サウジアラビアはイランの核開発計画やレバノン、イラク、パレスチナ自治区での悪事を働いていることについて、非常に憤慨している。しかし、これまでのところ、

サウジアラビアはイランに対するいかなる軍事作戦も支持しないことを明確にしている。もちろん、今後方針が変わる可能性はあるが、どのようなことがあれば方針が変更されるのかは想像しがたい。

この状況では、GCC諸国がイランに対する軍事作戦を支持するまでには至っていない。では、何が起こればそうなるのだろうか?確かに、イランが核実験を行えばそうなる可能性はあるが、その時点では、ほぼ間違いなく手遅れである。米国がイランに侵攻するつもりなら、イランが実際に核兵器を開発する前に行いたいはずであり、開発後ではない。湾岸地域で現指導部よりもはるかにイランを阻止する決意を持った新たな指導者が誕生しない限り、イランが武力行使についてGCCの態度を変化させるような行動を取る可能性を知ることは難しい。

抜粋部分で言及されている湾岸地域における「新たな指導者」が誕生するかどうかは別として、サウジアラビアなどの米国の同盟国がシリアの反体制派に資金援助や支援を行っていることは、サウジアラビア王国の外交政策と湾岸協力会議の政策が、この地域における米国とイスラエルの目的に沿ったものであることを示している。ペルシャ湾岸諸国の指導者たちは、シリアで実行されているような反乱や心理作戦のような隠密な手段で不安定化をもたらすことを、ワシントンやテルアビブが主導するような公然たる軍事対決や攻撃よりも好むことは間違いない。

挑発行為の演出(84~p.85)

米国が空爆を実行する前に、イランの挑発行為をその正当な理由として挙げることができれば、はるかに望ましい。明らかに、イランの行動がより無謀で、より致命的なものであり、挑発行為でないものであればあるほど、米国にとっては都合が良い。もちろん、米国が他国にその駆け引きを認識されることなく、イランをそのような挑発行為へと駆り立てることは非常に困難である。(成功の可能性がある方法としては、秘密裏の政権交代工作を強化し、テヘランが公然、あるいは半公然と報復するよう仕向けるというものがある。そうすれば、それはイランの侵略行為による挑発行為ではないと主張できるだろう。

このオプションは、イランが時折行うように、適切に挑発的な行動に出るまで保留しておくのが得策であることを示唆している。その場合、空爆を断行するという確固とした政策というよりも、むしろ、イランが米国に空爆を正当化するような挑発行為を行うという日和見的な期待が強くなるだろう。しかし、それは空爆の使用がイランに対する米国の主要な政策とはなり得ないことを意味する(たとえそれがワシントンの熱望するものであったとしても)。単に、イランがそのための口実を提供しない限り、空爆は主要な政策ではなく、あくまでも他のオプションの付随的な偶発事として位置づけられる。

主権国家を戦争に駆り立てるための欺瞞的な策略が再び見え隠れしている。ブルッキングス研究所は、イランが米国との武力衝突に関心がないことを何度も指摘している。「秘密裏の政権交代工作」への言及は、さらなる政治的エスカレーションとそれに続く軍事介入への圧力をかける手段として用いられている。このような戦略は、リビアやシリアで展開された暴力的なシナリオを描写しており、外国からの支援が暴力の行使を促し、それに対して各国政府が対応を迫られ、その対応が外国の介入拡大のきっかけとなる。ブルッキングス研究所は、このような挑発行為は、世界中で「ゲーム」が行われているという疑いを招くことなく実行されなければならないと指摘している。これは、長年にわたって制度化されてきた侵略や外国による破壊工作を主流が認めることによって、信頼性が失われることをほのめかしている。

外国資金によるカラー革命(p.105)

米国は革命を促進する上で、複数の役割を担うことができる。政権の国内のライバルに資金援助し、組織化を支援することで、米国は政権を奪取する代替の指導者を生み出すことができる。イラン政策委員会のレイモンド・タンターが主張するように、学生やその他のグループは「デモを行うために秘密裏の支援を必要としている。彼らはファックスを必要としている。インターネットへのアクセス、資料を複製するための資金、自警団に暴行されないための資金も必要だ」と、イラン政策委員会のレイモンド・タンター氏は主張している。さらに、米国が支援するメディアは、体制の欠点を強調し、さもなければ目立たない批判派をより目立たせることができる。

米国はすでに、イラン国民にフィルターを通さないニュースを届けるペルシャ語の衛星テレビ局(ボイス・オブ・アメリカ・ペルシャ)とラジオ局(ラジオ・ファルダ)を支援している(近年、これらはイランにおける民主化推進を目的とした米国の公的な資金援助の大部分を占めている)。米国の経済的圧力(おそらく軍事的圧力も)は、体制の信頼性を失墜させ、国民が対抗勢力の指導力を求めるように仕向けることができる。

ブルッキングス研究所の政策立案者たちは、イラン国内、あるいはその他の標的国において、市民の不安を煽りそうな状況を作り出すことを公然と要求している。彼らは、その不安を煽るための資金提供と組織化を提案し、国内および国外のメディアを利用して、人々の認識を操作し、米国が支援する反テヘランのプロパガンダを永続させることを提案している。このモデルは、不安定化を狙うほぼすべての国で使用されており、通常は全米民主主義基金(NED)のような組織、いわゆる「独立系メディア」組織、および「さもなければ不明瞭な批判者をより目立たせる」人権NGOによって資金提供されている。NEDが資金提供する中東民主主義プロジェクトは、エジプトからシリアにまで広がる不安定化を煽る米国の公式見解を中東全域に広める宣伝機関のひとつである。ブルッキングス研究所は、米国の国営放送局であるボイス・オブ・アメリカ(VOA)のペルシャ語放送を公然と挙げているが、その他の例としては、東南アジアのNEDが資金援助するタイのPrachataiや、東ヨーロッパのラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)がある。RFEは、放送理事会(BBG)傘下のVOAの子会社であり、ヒラリー・クリントン国務長官も理事を務めている。この「民主主義推進」のグローバルネットワークは、マスメディアに彼らの主張を流し込み、マスメディアはそれをそのまま繰り返したり、信頼できる情報源として引用したりする。ブルッキングス研究所が、これらの機関が中東全域で米国の利益を保護し拡大することを目的としており、イランが米国の利益に挑戦する能力を弱体化させることを目的としていることを認めたことは重要である。この認可は、これらのさまざまな機関が民主主義の促進や自由の保護、あるいは真の安全保障上の脅威から米国を守ることを目的としているのではなく、むしろ米国の地政学的および戦略的目標を達成することを目的としていることを決定的に示している。

軍事力による民衆革命の支援(109~p.110)

したがって、もし米国が聖職者政権に対する反乱を煽ることに成功した場合、ワシントンは、テヘランが反乱を鎮圧するのを防ぐために、何らかの軍事的支援を行うべきかどうかを検討しなければならないかもしれない。この要件は、イランにおける民衆革命が、他の地域で発生した「ビロード革命」のモデルには当てはまらないことを意味している。重要なのは、イラン政権は「おやすみなさい」と静かに眠りにつくつもりはないかもしれないということだ。むしろ、多くの東ヨーロッパの政権とは異なり、死闘を繰り広げることを選ぶかもしれない。そのような状況下で、革命勢力に外部からの軍事支援がなければ、彼らは単に失敗するだけでなく、虐殺される可能性もある。したがって、米国がこの政策を追求するのであれば、ワシントンはこの可能性を考慮しなければならない。この政策には、イラン軍を弱体化させる方法、あるいは軍に支援を要請する政権指導者の意欲を弱める方法を盛り込むか、さもなければ米国が介入して政権を打倒する準備を整えておく必要がある。

はっきり言えば、外国からの資金提供を受けた暴動を企てた後、イラン治安部隊による秩序回復のための予測可能な弾圧を「阻止」するには、その運動が潰されないように何らかの抑止力や軍事支援が必要となる。このシナリオはリビアで現実のものとなった。外国から資金援助を受けた反政府勢力は、反乱が始まった直後に「非武装の民間人」とみなされ、カダフィ軍によって武装蜂起が鎮圧されるのを防ぐためにNATO軍が介入する前であった。

米国が支援するテロリズム(p.113)

米国は、イラクを拠点とするイラン国民抵抗評議会(NCRI)やその軍事部門である人民聖戦士(MEK)のようなグループと協力し、サダム・フセイン政権下で武装し、イスラム教徒政権に対してゲリラ活動やテロ活動を行っていた数千人のメンバーを支援することができる。NCRIは現在武装解除されているはずだが、それはすぐに変更される可能性がある。

  • ムジャーヒディーン・ハルク武装レジスタンス運動(117~118ページおよびp.121)

米国の代理勢力となり得る可能性があるとして注目されている最も著名な(そして最も論争を呼ぶ)反体制派グループは、おそらくMEK(ムジャーヒディーン・ハルク)が設立した政治運動であるNCRI(イラン国民抵抗評議会)であろう。批判派は、このグループは非民主的で不人気であり、実際には反米であると考えている。これに対し、このグループの支持者たちは、イラン政権に対する長年にわたる反対運動や、政権に対する攻撃や情報収集活動の成功実績から、米国の支援に値すると主張している。

また、このグループはもはや反米ではないと主張し、以前の非難の正当性を疑問視している。米国の支援者の一人であるレイモンド・タンター氏は、MEKとNCRIはテヘランの政権交代を目指す同盟関係にあり、また、情報収集の有益な代理人としても機能していると主張している。MEK最大の諜報活動の成功は 2002年に提供した情報により、イランのウラン濃縮の秘密施設が発見されたことである。

擁護派の主張にもかかわらず、MEKは米国政府の外国テロ組織リストに依然として掲載されている。1970年代には、このグループはイランで3人の米軍将校と3人の民間請負業者を殺害した。1979年から1980年にかけてのアメリカ人質事件の際には、グループはアメリカ人質を捕虜にする決定を賞賛し、グループの指導者たちが9月11日の同時多発テロを公に非難する一方で、グループ内では祝賀の声が広がっていたと、エレイン・シオリノが報告している。確かに、このグループはテロ攻撃を実行しており、それはイラン政府に対するものなので、MEKの支持者たちはそれを正当化することが多い。例えば、1981年には、当時イスラム共和制党の本部を爆破し、70人もの幹部が死亡した。さらに最近では、1998年から2001年の間に、イランの民間および軍事施設を標的とした1ダース以上の迫撃砲攻撃、暗殺、その他の襲撃事件について、このグループが犯行声明を出している。少なくとも、このグループとより緊密に協力するためには(少なくとも表立った形で)、ワシントンは同グループを外国テロ組織リストから除外する必要がある。

ジャーナリストのシーモア・ハーシュが『ニューヨーカー』誌に発表した記事「イランに我々の仲間?」は、米国務省がテロ組織に指定しているイランの反体制派グループ、ムジャーヒディーン・ハルク(MEK)のメンバーが 2005年からネバダ州の基地で、米軍統合特殊作戦司令部(JSOC)から通信、暗号、小部隊戦術、武器の訓練を受けていたことを明らかにしている。2005年からネバダ州の基地で統合特殊作戦軍(JSOC)により通信、暗号、小部隊戦術、武器の訓練を受けていたことを記録している。207 JSOCは、イランの主要な通信システムへの侵入方法をMEKの工作員に指導し、同グループがイラン国内の電話やテキストメッセージを傍受し、その情報を米国の諜報機関と共有することを可能にした。このグループは、イランの核科学者の暗殺や、イランのナタンツにある核施設を妨害するマルウェア「スタクスネット」の仕込みに関与したとされている。208

MEKは、米国が支援するイランの国王モハンマド・レザー・パフラヴィーの君主制を揺るがすことを目的としたマルクス主義的イスラム大衆政治運動として、1965年に設立された。このグループは、1979年のイスラム革命後、当初はホメイニ師率いる革命聖職者たちと手を組んだが、やがて権力闘争から体制から離れ、1981年にはイラン革命防衛隊に対して都市ゲリラ戦を展開した。その後、この組織はサダム・フセインに庇護され、イラク領内からイランへの攻撃を仕掛けた。その過程で、推定17,000人のイラン国民が死亡した。209 MEKは、パリを拠点とするイラン国民抵抗評議会(NCRI)の主要構成員として存在している。「亡命国会」を自称し、イランにおける「民主的、世俗的、連立政権の樹立」を目指している。サダム・フセイン政権崩壊後、イラクにおける国連特別代表マーティン・コブラーは、MEKの反乱軍をバグダッド空港近くの旧米軍基地に移転させるための取り組みを組織した。これは、MEKとシーア派主導のイラク政府との間で激しい衝突が起こるのを避けるためであり、イラクの米国大使館と国務省の全面的な支援を受けていた。210

MEKは長年にわたりイスラエルから物的支援を受けており、イスラエルはパリの政治拠点からイランへの放送で同組織を支援していた。一方、MEKとNCRIは米国にイランの核開発計画に関する情報を提供していると伝えられている。MEK部隊による残虐行為の事例が文書で記録されているにもかかわらず、NATOの元最高司令官ウェスリー・K・クラーク元米陸軍大将、元ニューヨーク市長ルドルフ・ジュリアーニ氏、元9/11委員会委員長リー・ハミルトン氏といった元政府高官は、 米国務省の外国テロ組織リストからムジャーヒディーン・ハルクを削除するよう支持した。211 米国財務省の最近の調査では、ムジャーヒディーン・ハルク組織はイスラエル政権とサウジアラビアから資金援助を受けていることが明らかになっている。212 侵略国は、イランに対する戦争を開始した場合、おそらくMEKの部隊を反体制派の武装勢力として利用し、シリアの友愛団体がシリア国民評議会を反体制派の「正当な代表」として承認したように、喧伝されている「亡命議会」、イラン国民抵抗評議会をイランの「正当な代表」として承認する可能性もある。

潜在的な民族派代理人(p.113)

例えば、米国は、革命以来、さまざまな時期に体制と戦ってきたイランの不満を抱える諸民族(クルド人、バルーチ人、アラブ人など)と主に協力するという選択肢を取ることができる。民族派の反体制運動の連合、特にペルシャ人反体制派と組み合わせれば、体制の安定に深刻な脅威をもたらすことになる。さらに、これらのグループ自身が引き起こす不安定化は、国内における体制を弱体化させる可能性がある。少なくとも、体制は反乱鎮圧に資源を割かなければならなくなるだろう。最悪の場合、不安定化は時間をかけて体制の信用を失墜させ、ライバルに対する体制の立場を弱体化させる可能性がある。

この報告書全体を通して見られる恥知らずな強がりを差し引いても、ブルッキングス研究所がイラン政府に対する本格的な武装反乱への資金援助、訓練、扇動を公然と提唱している「反乱の扇動」と題されたセクションほど不安を煽るものはない。報告書では、後にシーモア・ハーシュの著書『戦場の準備』で取り上げられることになるアフヴァーズのアラブ人分離主義者についても言及されている。ハーシュは、このオプションがすでにイラン国内で動き出していることを暴露している。214 また、イラン国民に対する武装テロキャンペーンの実行において、米国の支援を受ける可能性があるものとして、北部のクルド系民族や東部のパキスタン近郊のバローチ族反政府勢力についても言及されている。CIAは物資と訓練の提供を担当することになり、ブルッキングス研究所はより直接的な軍事支援の選択肢も考慮すべきだと提案している。「代理を見つける」という小項目で、ブルッキングス研究所は民族間の緊張を利用することで不安を煽ることができると説明している。同研究所は、多くの少数民族が依然として同胞であるペルシャ人とともにナショナリズムを優先事項としていることを嘆いている。

米軍兵士を殺害したとして、米国の公式テロリストリストに載っているにもかかわらず、ムジャーヒディーン・ハルクはブルッキングス研究所の報告書の中で十分に考察されている。「安全な避難場所と避難経路の発見」という小見出しの項では、ブルッキングス研究所は、米軍が現在占領している国々で、米国が資金援助するテロリスト集団をかくまうさまざまな方法や、作戦行動の合間に彼らをイラン国内に運び入れる方法について説明している。確かに、米国がMEKへの武器供与と資金援助を実行に移した場合、米国自身が「テロ支援国家」となるだろう。MEKは、政治的反対派だけでなく一般市民も無差別に標的にしている紛れもないテロ組織である。それにもかかわらず、彼らは潜在的な代理勢力とみなされており、一見無意味な「外国のテロ組織」リストから削除するかどうかを検討する際には、米国の外交政策を推進する上で彼らが役立つかどうかという点のみが考慮されている。

軍事クーデターの扇動(123ページ~p.124)

クーデターの実行は大変な作業であり、特にイランのように外国の影響力や干渉に対して偏執的な国家ではなおさらである。米国はまずイラン軍(おそらくは治安部隊も)のメンバーと接触しなければならない。それだけでも非常に難しい。イラン人はアメリカ人に対して過敏に反応するため、米国は「仲介者」に頼らざるを得ないだろう。仲介者は第三国の国民であり、米国のために働く。これは常に大きな複雑性を伴う。そして、米国はそれらの人脈を利用して、クーデターを企てようという意思と能力の両方を持つイラン軍関係者を特定しようとするだろう。これはさらに困難なことである。米国人がイラン軍将校と接触することさえ難しいのに、クーデター未遂で命や家族を危険にさらすことをいとわない特定の人物と接触することはなおさら難しい。

もちろん、もしワシントンがイランでのクーデターを支援しようとしていることをはっきりと示せば、クーデターの首謀者が米国に接触してくる可能性はある。しかし、これは非常にまれなケースである。クーデターの首謀者が他国の政府に接触しようとすれば、通常は発見され、殺害されることが歴史が示している。さらに、米国にやって来て、この政府やあの政府の打倒を支援してくれるよう依頼する者の大半は、偽者であるか、あるいは標的となる政府の反情報部員であることが多い。

ブルッキングス研究所の報告書では、少なくとも1つは成功するだろうという期待のもと、民衆革命、反乱、クーデターというすべての選択肢を同時に使用することが提案されている。また、対象となる政権をさらに追い詰めるために、それらの間で「有益な相乗効果」を生み出す可能性についても言及している。ブルッキングス研究所の報告書自体も、米国がイランで「クーデターを成功させた」という歴史的な前例に言及しており、1953年の「オペレーション・アジャックス」をその代表的な例として挙げている。

多くのクーデターは国内で発生しているが、外国が支援したクーデターの歴史上の明白なモデルとして、モハンマド・モサデク首相の政府を転覆させ、レザー・パフラヴィー国王の支配を復活させた1953年のクーデター「オペレーション・アジャックス」がある。 CIAと英国諜報機関は、クーデターを実行するために、ファズロラ・ザヘディ将軍を支援し、彼とその支持者たちに資金と宣伝を提供し、彼らの活動の組織化も支援した。(p.150)

「ペルシャへの道」のページを読んだ人が、現在の「国際社会」をまったく正当性のないものと理解しないなどということはありえない。西洋の指導者たちは、歴史的に、競争相手を抑制し排除するための無数の法律を策定してきたが、一方で自分たちは「国際社会の利益」に適合させるために世界から搾取し強要する、あからさまな犯罪行為を完全に野放しにしてきた。この報告書は、イラン国内だけでなく、世界中で使用される可能性のあるあらゆる選択肢を網羅している。米国が資金提供した「アラブの春」が現実のモデルであることから、報告書で概説されている方法論が、いかにして政権を不安定化させ打倒し、侵略戦争を誘発するために使用されてきたかが明白に見て取れる。この種の報告書が広く配布され、一般に公開されることが不可欠である。その手法と、攻撃的な西洋の外交政策の立案者を暴露することが重要である。報告書自体が何度も述べているように、彼らの策のほとんどは、その考えを「世界の他の国々が認識することなく」実行するために、秘密裏に「もっともらしい否定」を必要とする。

テヘラン政権の欠点にもかかわらず、議員や高官はシリア問題に関して国際協力、対話、現実主義を提唱している。2012年8月9日、イランは国際諮問会議を主催し、シリア国内のテロリストの手に渡る外国からの武器の流れを断つこと、実質的な停戦の仲介、人道支援の調整、外国の干渉を受けないシリア国民の改革への権利の支持を求めるために、30カ国の代表者を集めた。215 ロシア、中国、インド、パキスタン、インドネシア、ベネズエラなどの国々を含む、世界の人口の半分以上を占める国々の代表者が参加したこのユニークな会議は、シリア政府が欧米メディアが描くほど「孤立」しているわけではないことを示している。米国は会議の重要性を軽視し、イスラム共和国がバッシャール・アサド政権を支援していると批判した。イランのシリアに対する姿勢は、イラン外相のアリ・アクバル・サレヒが執筆した2012年8月のワシントン・ポスト紙の社説に最もよく表れている。

イランは、すべての人々の利益となる解決策を求めている。シリア社会は、民族、信仰、文化の美しいモザイクであり、バッシャール・アサド大統領が突然失脚すれば、粉々に砕け散るだろう。その場合、秩序ある政権移行が実現するという考えは幻想である。管理された政治的移行へのロードマップなしに急激な政治的変化が起こった場合、世界で最も敏感な地域のひとつを不安定化させる不安定な状況に陥るだけである。イランは問題ではなく、解決策の一部である。過去10年間に世界が目撃してきたように、イランは、混乱に陥った他の2つのイスラム教国であるイラクとアフガニスタンにおいて安定化の役割を果たしてきた。中東地域の安定は、世界の平和と安定にとって最も重要である。

テヘランは、アナン国連事務総長の6項目計画を支持し、シリア政府と反体制派の間の協議を促進する意思を示している。サレヒ外相は、国際監視の下で自由かつ公正な大統領選挙に国民が参加する権利を確保するような政治改革をテヘランが支持していることを繰り返し表明している。さらに、イランは「シリア危機解決へのいかなる外国の干渉や軍事介入」にも反対し、イラン赤新月社を通じてシリアに医療・人道支援を提供している。217 確かに、シリア紛争の外交的解決に向けたイランの努力は、敬意と適切な評価に値する。イランのアプローチの合理性は、最終的には、国際社会の責任ある実行可能な一員としてのイランの価値を証明するものである。

中露の立場

シリア紛争が国際世論を二分する中、ロシアと中国は外国軍の介入を認める国連安全保障理事会決議の採択を妨げるとして、非介入主義の立場を貫いてきたが、厳しい批判にさらされている。最も有名な例としては、ヒラリー・クリントン米国務長官が、シリア問題におけるロシアと中国の立場に対して「代償を支払うことになる」と警告したことが挙げられる。これを受けてロシア外務省は、バッシャール・アサドを支援し、シリアにおける流血と民間人の死に共犯しているという非難を明確に否定した。2 18 クリントンがアサド政権打倒の試みにおける「進展の妨げ」としてロシアと中国を非難しようとしている一方で、米国自身の正当性が損なわれていることが、米国が自分勝手で非常に実現不可能なアジェンダに世界をうまく従わせることができていない理由である可能性が高い。ロシアと中国の外交政策の背景にあるイデオロギーは、中国の国連大使である李宝東が最もよく要約している。

我々は誰かを誰かから守るつもりはない。我々が本当に望むのは、その国の主権が守られ、その国の運命がシリアの人々の手に委ねられることである。219

米国務省の必死の誹謗中傷と威嚇的なレトリックは、拡大する中露同盟が、北京とモスクワの発展と安全保障にとって不可欠な戦略的に重要な地域への欧米諸国の侵入を直接妨げている時期に現れた。「人権保護」や「米国の理念」を隠れ蓑にした欧米諸国の外国介入の冒険主義とは対照的に、台頭しつつある上海協力機構の外交姿勢は、外部勢力が独立国家とその政府の将来を決定するモデルよりも、国家主権の原則を重視するものである。

外交に関する批判はしばしば控えめなものだったが、セルゲイ・ラブロフ外相は、シリアの武装反政府勢力に対する欧米の支援に対するモスクワの断固とした姿勢により、ロシアを国際的な意思決定の中心に再び引き戻した。

これはテロを直接的に是認するものである。これをどう理解すればいいのか?これは邪悪な立場である。これに対する我々の態度を表現する言葉が見つからない。つまりこれは、「国連安保理が我々の望むように動くまで、このようなテロ行為を支援し続ける」という意味である。

ロシア大統領に復帰して以来、リビアにおけるNATOの軍事行動を強く批判していたウラジーミル・プーチン大統領は、アサド政権と反体制派シリア国民評議会の双方と、トルコのエルドアン首相、イスラエルのネタニヤフ首相、そしてオバマ米大統領と個人的に接触し、事態のさらなる悪化を防ぐための努力を続けている。プーチン大統領とラブロフ外相は、国連特使コフィ・アナン氏の6項目からなる和平案に厳格に従う姿勢を示している。この和平案は、即時の暴力停止、対話、国連支援による停戦を求めている。プーチン大統領は、アサド政権が武力によって打倒された場合、内戦が止むことなく続くことを警告し、対話と現実主義こそが事態を沈静化させる唯一の手段であると主張している。

現職のシリア当局と武装反体制派は、話し合いを組織し、国の将来について相互に受け入れ可能な妥協点を見出すための力を結集しなければならない。我々は、以下の手順が取るべき行動であると考える。すなわち、暴力を停止し、交渉を行い、解決策を探り、将来の社会の憲法上の基礎を固め、その後に構造改革を導入する、という手順である。逆の順序で行うと、混乱を招くだけである。221

ロシアの姿勢は、欧米諸国と湾岸諸国によるシリアの計画的な不安定化を綿密かつ客観的に記録してきた独立系ジャーナリストや地政学アナリストたちの間で高まりつつある世界的なコンセンサスを反映している。シリアに関する欧米諸国の人道主義的レトリックに騙されてはならない」と主張するロシアの国連大使、ヴィタリー・チュルキンは、疑わしい「シリアの友人たち」グループとその姿勢の根底にある侵略性と欺瞞性を次のように振り返っている。

彼らはいわゆる「シリアの友人たち」と協力している。実際、これはシリア政府の敵である国々のグループだ。私は彼らをシリア国民の敵とは呼ばないが、シリア政府を転覆させたいと考えているのは確かだ。その結果が非常に悲惨であることは無視している。このような政策は、アサド大統領の政府が単に個人や個人グループではないため、必然的に悲劇を伴う。彼らはシリアの人口の一定の割合を占める集団であり、何十年も存在してきた特定の権力構造である。それを崩壊させれば、相当な混乱と流血を引き起こすことになるだろう。対話を通じてそれを改革することが、より理にかなった行動方針であり、ロシアが主張していることでもある。

テロ支援を拒否するという道徳的な要請とは別に、ロシアには、旧ソ連圏で唯一残っているロシアの軍事基地である地中海のタラズ港の港湾権を維持することに戦略的利益がある。タルトゥースの海軍基地はアップグレードされ、ロシアの核搭載可能な軍艦の恒久的な地域基地として宣言された。欧米諸国は、ロシアが推定5億ドルに上る防空システム、整備されたヘリコプター、戦闘機をシリアに納入したことについて論争を巻き起こそうとしている。モスクワが流血を煽っているという非難や、Mi-25ヘリコプターを輸送中のモスクワの船舶に対する貿易制裁措置により、シリアへのロシアの防衛物資輸送に関する契約が2007年から2008年の間に締結されたにもかかわらず、ロシアと米国の外交関係はさらに悪化している。 223 7月下旬、モスクワは改修ヘリコプターの引き渡しを延期することで合意した。一方、ロシア海軍の艦隊が、シャバネンコ海軍中将の指揮する対潜駆逐艦をはじめとする10隻の軍艦と10隻の護衛艦からなる艦隊を編成し、海兵隊を乗せた揚陸艦とともに東地中海に進入した。224 2011年5月、ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相は、「NATOはシリア政権打倒を目的とした軍事作戦を計画しており、その遠大な目標はイラン攻撃の橋頭堡を準備することである」と警告した。さらに、NATO軍事同盟は「西側諸国の見解と一致しない国家」のみに干渉することを目的としていると強調した。ロシアのフェドセンコフ提督は、地中海に展開するロシアの軍艦は2012年9月に予定されている海軍演習の準備中であり、シリアでの軍事任務は遂行していないと述べた。

ロシアと中国の間には長年にわたる相互不信の歴史があるが、両国には経済部門を発展させ、自国の影響圏におけるアメリカの軍事的拡大に抵抗するという共通の利害がある。米国が艦艇の60パーセントをアジア太平洋地域に移動させる計画を発表した後、モスクワは、合同演習の増加や、2012年4月に実施された黄海での中露合同海軍演習への道を開くなど、中国との軍事協力の強化を発表した。2012年4月に黄海で行われた中露合同軍事演習に道を譲ることを発表した。226 ラヴロフ外相は、ミサイル防衛システムを世界各地に配備することで軍事同盟を拡大しようとするワシントンおよびNATOの取り組みに対して、モスクワと北京が強く反対していることを強調した。ロシアと中国は、西側諸国の軍事ブロックの拡大主義と、東ヨーロッパにおけるミサイル防衛システムの配備に反対している。モスクワは、NATOの東方への拡大が続き、ウクライナやグルジアなど、ロシアの伝統的な影響圏と見なされてきた旧ソ連諸国にまで及ぶ可能性があることに危機感を抱いている。また、北京は、アジア太平洋地域へのアメリカの軍拡、台湾への武器売却の継続、南シナ海における領有権問題でフィリピンを支援することに懸念を示している。ロシアと中国は、互いの主権と領土保全を守り、2015年までに二国間貿易を1000億ドルに増やすことで、今後も両国のパートナーシップを強化していく意向である。ラブロフ外相は、アメリカによる覇権主義と軍事的侵出に対して、モスクワと北京の両国が強く反対していることを強調している。

ロシアと中国は、多極的な国際関係モデルの確立、より公平で民主的な政治・経済システムの形成、国際的な緊急課題の解決における国連の中心的調整機能の強化を支持している。

当然のことながら、ロシアと中国の指導者は、イランに対する軍事力の行使に断固として反対している。ワシントンとテルアビブが、テヘランの核開発阻止に関して「あらゆる選択肢を維持する」と主張し続けているためである。228 プーチン大統領は、 プーチン大統領は、ロシアが主導するユーラシア経済・軍事ブロックの創設計画を実行に移し始めている。その計画は、ロシアとベラルーシの二国間連合国家の形成から始まり、制限や制裁措置を含む、その連合の内部問題に影響を及ぼそうとするあらゆる外国の試みに抵抗することを誓っている。就任後、プーチン大統領は、ロシア独自の防空および宇宙防衛とともに、核兵器のさらなる開発の必要性を強調し、2020年までに核戦力については75~85%、宇宙および防空については70%の割合で近代兵器の開発を増加させるよう命じた。

我々は軍拡競争に参入するつもりはないが、我々の核戦力、および航空宇宙防衛手段の信頼性と有効性について疑いの余地はない。核兵器は依然としてロシアの主権と領土保全の最も重要な保証であり、地域的な均衡と安定を維持する上で重要な役割を果たしている。229

ワシントンおよびNATOが、物議を醸している東ヨーロッパにおけるミサイル防衛シールドに関して、モスクワとの協力に強く反対していることへの反応として、ロシアは大陸間弾道ミサイルシステムを強化することで、攻撃型兵器能力の開発に着手した。ロシア戦略研究所の主要研究員であるウラジーミル・コージン氏は、NATOの拡大がロシア領土の国境にまで及んでいることによる脅威について、次のように詳しく述べている。

米国が戦略および戦術核戦力の大幅な近代化を進め、欧州および世界的なミサイル防衛システムの展開が継続している中、新たなミサイル計画は正しい方向への一歩である。このような組み合わせは、別個に運用されるミサイル防衛よりも、ロシアおよびその同盟国や友好国にとってさらに大きな脅威となる。ワシントンは、NATOの5月のサミットが示したように、ロシア国境近くにまったく正当化できない多層ミサイル防衛構造を構築することに対するロシア指導部の懸念、および、より挑発的ではなく、より効率的なミサイル防衛構造を構築するというロシアの提案を無視し続けている。

オバマ大統領は、イランからの攻撃の可能性に備えるため、東ヨーロッパにおける弾道弾迎撃ミサイルシステムの構築を支持している。当初、モスクワはNATO当局に対して、このAMBシステムがロシアを標的にするために使用されないという保証を迫ったが、当局はそれを法的に保証することはできなかった。231これに対して、ロシアの前大統領ドミトリー・メドベージェフは、「ロシアは西と南に近代的な攻撃兵器システムを配備し、それによって欧州における米国のミサイル防衛システムのどの部分も排除できる能力を確保する」と警告した。

またメドベージェフ氏は、2010年に締結された戦略兵器削減条約(SORT)からの離脱を示唆した。これは、米国とロシアが相互に核兵器の備蓄を削減する取り組みである。シリアでの紛争は、モスクワとワシントン間の緊張が高まり、軍事衝突が起こる可能性がある多くの火種の一つである。モスクワと北京の政府には欠点がないわけではないが、シリア紛争における両国の姿勢は、新興国の組織的な影響力が増大し、国際情勢に影響を及ぼしていることを示している。上海協力機構の加盟国が貿易の拡大、インフラの構築、相互利益的な平和的経済発展に重点を置く中、プーチン大統領が米国は「無敵の幻想」に苦しんでいると主張したことは、今後の展開を洞察する上で貴重な洞察を提供している。

(2012年8月12日)

結論

「長い間堕落させられ、動物同然になってしまった人々は、あるいはそれ以上に、絶対に自由を要求することはないだろう。彼らは専制君主に対して復讐するかもしれないが、それは専制君主個人に対する復讐であり、専制政治を排除するためのものではない。それは人民にとって何の利益にもならない。なぜなら、それは頭痛を胃痛に置き換えるようなもので、別の病と置き換えているだけだからだ」

アブド・アル=ラフマン・アル=カワキビー

シリアの哲学者、汎アラブ統一論者

バッシャール・アル=アサドのシリアが直面している問題の複雑さは計り知れない。反政府運動に対して、ダマスカスは他の政府と同様に反応しているが、シリア軍の自制の欠如と個々の軍人の不祥事は、残念ながら多くの命を奪う結果となっている。
一般的に語られている歴史とは異なり、シリアを荒廃させている紛争は土着の内紛ではなく、また好戦的な独裁者が「自国民を殺害する」という物語でもない。この状況がどのように解決されるにせよ、主権国家の政府を転覆させるために、外国の同盟国が破壊工作やテロリズムといった無制限の戦術を駆使しようとした試みとして記憶されるべきである。

国連が発表した公式の犠牲者率は依然として非常に疑わしいが、この国家が支援する不安定化キャンペーンの犠牲となり、早すぎる死を遂げた罪のない人々を忘れてはならない。シリアで政治的な移行が起こるとすれば、それは対話を通じてであり、武力によるものであってはならない。そうした移行が起こる前に、シリア政府には、一般市民に秩序と安全を回復する責任がある。同盟諸外国がダマスカスの運命を決定するために集まる中、シリア国民が自らの政治的運命を決定する権利が見落とされているように見える。

シリア国民は、自国の将来とバッシャール・アル=アサドの運命を、国民全体で決定しなければならない。紛争開始から18カ月目にして、北部の都市アレッポが反乱の震源地となっている今、シリアで最も著名な知識人の一人に注目が集まっている。もし彼が生きていれば、生まれ故郷を飲み込んでいる暴力に最も心を痛めているであろう人物だ。アブド・アル・ラフマン・アル・カワキビーは1849年にアレッポで生まれ、アラブ世界全体における世俗主義と団結の推進者であった。団結、自由、社会主義を唱えるカワキビーの哲学のナショナリズム的な要素は、ガマール・アブドゥル・ナーセルなどのアラブの指導者のイデオロギー的基盤となり、後にシリアのバース党にも影響を与えた。アル=カワキビーは専制政治に対する嫌悪感を熱心に語っていたが、「専制政治は暴力ではなく、漸進主義と穏健さをもって戦わなければならない」と警告した。彼が認識していたように、専制政治は武力によって打倒することはできず、「頭痛を胃痛と取り替える」危険性がある。アル=カワキビーはむしろ、進化と漸進的な変化、そして教育による社会全体の変革を好んだ。

アル・カワキビーは、イスラム社会の衰退を目の当たりにして悩んでいたが、同時代の他の思想家たちとは異なり、この傾向を外部要因ではなく、反動的なイスラムの専制君主のせいだと考えていた。アル・カワキビーの理論は、現在においても非常に的を射ている。なぜなら、イスラム世界の多くで、分裂と宗派間の暴力が蔓延しているからだ。宗派間の対立は歴史的に植民地支配者や帝国主義者たちによって利用され、コミュニティ同士を敵対させてきた。 世俗的なシリア国家が崩壊した場合、それに代わる政治的実体は、はるかに利己的で専制的なものになる可能性がある。シリア国民は困難な選択と不確かな未来に直面しており、それは地域的にも国内的にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。もし外部勢力がシリア国家に「民主主義」を押し付けるようなことがあれば、その結果として誕生する政治体制は、間違いなく、罪のない人々の命を犠牲にして反政府運動と暴力を煽ってきた外国勢力の従属国として機能することになるだろう。

2012年7月下旬に『フォーリン・ポリシー』誌が発表した記事「アサド後のシリアを計画する静かな取り組みの内側」は、米国がダマスカスに傀儡政権を樹立するために用いている手法を明らかにしている。233 米国国務省は「米国平和研究所」を通じて、シリアの反体制派グループと直接協力し、「移行戦略文書」と呼ばれる新しいシリア憲法の策定に取り組んでいる。米国平和研究所は米国政府の直属機関であり、マイケル・ポズナー氏をはじめとする米国務省の現職職員や、ジェームズ・ミラー氏をはじめとする国防総省の職員が米国平和研究所の理事会のメンバーを務めている。こうした事実を認めることは、いわゆる「シリアの反体制派」が、米国政府の完全な策略であり、シリア国民を代表するものではないという、その絶対的な非合法性を証明している。ワシントンの比類なき犯罪性は、ニューヨーク・タイムズ紙の「米国、シリア政府の強制打倒に焦点を当てる」という暴挙ともいえる記事に如実に表れている。この記事は、外国が支援するテロリストが失敗し、シリア軍による秩序の回復が差し迫っていることを事実上認めているようなものだ。

オバマ政権は、シリアでの紛争の外交的解決に向けた努力をいったん放棄し、代わりに反体制派への支援を増強し、同じ考えを持つ諸国による連合を結成して、バシャール・アサド大統領の政府を強制的に転覆させるための努力を倍加させていると、米国政府高官は述べている。「アサド政権の計画的な解体を目論んでいる」と、ワシントン近東政策研究所のシリア専門家、アンドリュー・J・タブラー氏は言う。「しかし、どんな管理された解体作業でも、何かがうまくいかない可能性はある」と。234

シリアでは、事態は非常に悪い方向に向かっている。そして、ワシントンの手足となって悪事を働く者たちの行為を正当化するような暴言は、何ら警戒を要するものではない。

おそらく、編集上の不誠実さを最も如実に示す例は、米国外交問題評議会の中東研究上級研究員であるエド・フセインによるものだろう。2012年8月の記事「シリアにおけるアルカイダの恐怖」では、アルカイダのテロリストを擁護し、彼らを自由シリア軍に組み入れることを主張している。これは、読者に認知的不協和を植え付けようとする試みとしか言いようのないものであり、一貫した信念体系の中で相反する考えを同時に抱く状態である。

シリアの反体制派は、アルカイダが加わっていなければ、今日、はるかに弱体化していたであろう。概して、自由シリア軍(FSA)大隊は疲弊し、分裂し、混乱し、非効率的である。西側諸国に見捨てられたと感じている反体制派は、アサド政権の優れた兵器とプロの軍隊と対峙する中で、ますます士気を失っている。しかし、アルカイダの戦闘員は士気を高めるのに役立つかもしれない。ジハーディストの流入は規律、宗教的熱狂、イラクでの戦闘経験、湾岸地域のスンニ派支持者からの資金援助、そして何よりも致命的な結果をもたらす。つまり、FSAは今アルカイダを必要としているのだ。235

イラク、アフガニスタン、その他の地域で10年以上にわたって米国が駐留することを正当化するために利用されてきたのと同じテロ組織を擁護する主張は、無節操な偽善と学問的な無責任さを露骨に示している。 明白な動機を持たない外国勢力によるシリアのあからさまな不安定化を、上場テロ組織を利用して行うことを、良心的に、あるいは自己保全の観点から容認できる国家は存在しない。フセイン氏の論評は、シリアに対する米国の立場が、いかに絶望的で奇妙な非論理性に満ちているかを証明している。それは、ワシントンが長年非難してきたまさにその怪物たちを支援する意思があることを特徴としている。

それに追随するように、フォーリン・ポリシー誌は2012年8月に「シリアのイスラム主義者たちに喝采を」という文字通りのタイトルの記事を掲載した。著者のゲリー・ガンビル氏は、ネオコン・ミドルイースト・フォーラムの編集長であり、シリア政府は「イスラム主義者たちがいなければ、今日のような窮地に陥ることはなかっただろう」と認めている。これは、同盟関係にある外国政府と彼らのメディアが試みて失敗した、シリアにおける暴力は「民主化活動家」ではなく宗派過激派の仕業であるという主張を覆すものである。後者の存在は、特に前者による暴力や破壊行為を正当化し、その行為を隠蔽するために、欧米メディアによって誇張された。ガンビル氏は、このテーマに関する欧米の報道の中で、おそらく最も異常な主張を展開しながら、テロリズムへの「2つの賞賛」を続けている。

イスラム過激派(その多くはイラクで米軍と長年戦ってきた経験を持つ)は、世俗主義者よりも単に戦闘能力が高いだけだ。アサド大統領は、かつての聖戦の同盟者たちが完成させた戦術、特に自爆テロや道路脇に仕掛けられた爆弾に対抗するのに非常に苦労している。

ガンビル氏は、自国の兵士を殺害した男たちを熱烈に賞賛し、無差別テロ戦術を駆使して戦場で活躍した彼らの腕前を称賛している。この戦術により、アラブ世界全体で何万人もの民間人が死亡または負傷している。ガンビル氏は、ワシントンは宗派過激派の「政治的優位」について「ほとんど何もできない」と不誠実な主張をし、レバント全域に広がる暴力の台頭と、アラブ世界全域におけるムスリム同胞団の奇跡的な復活を、アメリカの利益と偶然にも一致するものとして描いている。

シリアの聖戦士たちがイランとそのアラブの代理勢力と戦うことに専念している限り、私たちは彼らを静かに応援すべきである。煙が晴れる前に、非常に醜いものとなるであろう紛争から距離を置きながら。イランの地域覇権主義の野望が炎上した後で、獣を飼い慣らす時間はいくらでもあるだろう。

ガンビルが「応援」しているテロリストたちが、平和な地域社会を破壊し、人種や宗教を理由とした暴力を犯し、矛盾した虚構の「テロとの戦い」に10年以上にわたって何百万人もの欧米軍を巻き込み、無数の罪のない人々を殺害してきたことを忘れてはならない。欧米諸国がこうしたテロリストたちを支援しているという認識が一般市民の間で広がるにつれ、ガンビル氏や彼が代表する勢力に対して、深刻な、おそらくは暴力的な反発が起こらない方がむしろ考えにくい。

ロイター通信が2012年8月に「リビアの自由戦士がシリアの反体制派と合流」という二枚舌的なタイトルで報じた内容は、独立系の地政学アナリストや代替ニュースソースが数ヶ月間報じてきたことを裏付けるものであり、リビア・イスラム戦闘団(LIFG)のメンバーがシリアに駐留し、シリア政府に対する攻撃を主導していることを伝えている。237 リビア・イスラム戦闘団は、 国連決議1267(1999)および1989(2011)に従い、アルカイダの関連組織と指定されている。この指定は、アルカイダの最高司令部に複数の著名なLIFGテロリストが就いていることを指摘したものであり、また、米国務省および英国内務省の両方から、それぞれ外国テロ組織および 238 米国および英国のテロ対策法、特にリスト掲載テロ組織または禁止テロ組織への実質的支援の提供に関する規定に明確に違反して、英国は2012年8月、リスト掲載テロ組織を含む武装戦闘員に「非殺傷的実用的支援」と称する500万ポンドを供与すると発表した。これは、米国、英国、北大西洋条約機構(NATO)が、トルコ、サウジアラビア、カタールとともに、アルカイダの指定関連組織に故意に資金援助していることを意味し、これは米国と英国の反テロ法に違反するだけでなく、国連決議にも反している。239

米国国務省のウェブサイトには、指定された外国テロ組織(FTO)のリストが掲載されており、そのリストにはアルカイダ(#3 7)とLIFG(#2 8)が明確にリストアップされている。ページの下部では、国務省は「指定による法的影響」を次のように示している。

1. 米国国内にいる者、または米国の管轄下にある者が、指定されたFTOに「実質的支援または資源」を故意に提供することは違法である。(「実質的支援または資源」という用語は、18 U.S.C. § 2339A(b) 1)で「通貨または金融手段、金融証券、 金融サービス、宿泊施設、訓練、専門家の助言または支援、隠れ家、偽の書類または身分証明書、通信機器、施設、武器、致死物質、爆発物、人員(1人以上の個人、または自分自身を含む)、輸送手段(ただし、医薬品または宗教的資料は除く)」と定義されている。18 U.S.C. § 2339A(b) 2) は、これらの目的のために「『訓練』とは、一般的な知識とは対照的に、特定の技能を習得させることを目的とした指導または教授を意味する」と規定している。18 U.S.C. § 2339A(b) 3) は、これらの目的のために「『専門家の助言または支援』とは、科学的、技術的、またはその他の専門知識に基づく助言または支援を意味する」と規定している。

2. 指定されたFTOの代表者および構成員が外国人である場合、それらの人物は米国への入国が認められず、特定の状況下では米国からの退去を命じられる(8 U.S.C. §§ 1182 (a) 3)(B)(i) IV)-(V), 1227 (a) 1)(A)を参照)。

3. 指定されたFTOまたはその代理人が利害関係を有する資金について、その保有または管理を行っていることを知った米国の金融機関は、当該資金の保有または管理を継続し、財務省外国資産管理局に当該資金を報告しなければならない。240

シリアとリビアにおけるテロ組織への加担と幇助に関する米国と英国の不祥事と犯罪性は、重罪であり反逆罪である。両国におけるテロ対策法に基づき、以下の要求を立証することができる。

米国国務長官ヒラリー・ローダム・クリントンは、米国の法律 USC § 2339A & 2339B(指定された外国テロ組織への実質的な支援または資源の提供)により、即時辞任および裁判を受けるべきである。

米国連大使スーザン・ライスは、米国の法律 USC § 2339A & 2339B(指定された外国テロ組織への実質的な支援または資源の提供)により、即時辞任および裁判を受けるべきである。

英国の反テロリズム・犯罪・治安法(2001)に基づき、英国外務大臣兼第一国務大臣ウィリアム・ヘイグの即時辞任と裁判。

ヒラリー・クリントンの世代の前の世代、すなわち第二次世界大戦の世代の人々は、あの世界的な悲劇に対して「二度と繰り返さない」と誓った。彼らはまた、世界中の何百万人もの人々を互いに殺し合わせるような死闘へと駆り立てるような嘘や策略に対しても「二度と繰り返さない」と誓った。ヒラリー・クリントンの捏造と、虚偽の上に築かれたさらなる戦争を押し付けようとする試みは、その誓いを裏切るものであり、文明の基盤と原則を脅かすものである。ヒラリー・クリントンがその職務を継続することは、彼女以前のブッシュ政権全体と同様に、米国の信頼性と誠実さを永遠に汚す妥協を意味する。オバマ政権は、ヒラリー・クリントンを国務長官に、スーザン・ライスを国連大使に任命したことで、シリア国民に対するこの暴力的な陰謀を継承し、永続させただけでなく、米国に残された誠実さと世界的な善意に対する不名誉と緊張をも継承し、永続させた。新たな軍事冒険を担うことのできない米国経済のためにも、新たな傷跡を刻む余地を見出すことのできない米国の名誉のためにも、ヒラリー・クリントンとスーザン・ライスは辞任すべきであり、議会および産業界の関係者は、かつては広大だった米国の潜在能力を軍事的覇権の追求に浪費する者たちへの支援を取りやめるべきである。

国務省の「指定による法的影響」では、指定された外国テロ組織への「隠れ家」の提供を明確に禁止しているが、

同時に、アメリカのネオコンは、2012年7月に「外交政策イニシアティブ(FPI)」と「民主防衛財団(FDD)」が発表した書簡の中で、シリア国内に「安全地帯」を設けるための支援をバラク・オバマ米大統領に「要請」している。この書簡は、フォーリン・ポリシー誌の記事「保守派がオバマ大統領にシリアでの『安全地帯』設置を要請」に掲載されたもので、イラク侵攻の共謀者であるエリオット・アブラムス、カール・ローブ、ポール・ブレマー、および。241 両機関は、企業、財団、政府からの資金提供を受け、アメリカン・エンタープライズ研究所のような大規模シンクタンクの延長として、一般市民の支持がほとんど、あるいはまったく得られていない攻撃的な政策の裏で、コンセンサスを捏造する役割を担っている。公開書簡で最も憂慮すべき点は、シリア上空の飛行禁止区域の設定を呼びかけていることかもしれない。

我々は、議会と緊密かつ継続的に協議し、地域パートナーと協力して、すでに解放されたシリア国内の地域を空軍がパトロールする「安全地帯」を確立するための即時措置を講じることを強く要請する。これらの安全地帯をアサド政権の軍および非正規軍によるさらなる侵略から守るだけでなく、シリア独裁政権の化学兵器および生物兵器による脅威を無力化するためにも軍事力を活用すべきである。

ロイター通信の2012年8月の記事「シリアの化学兵器確保には数万人の軍が必要になる可能性がある」は、シリアへの直接軍事介入の恐ろしい可能性を示している。

米国およびその同盟国は、バッシャール・アル・アサド政権崩壊後に化学兵器および生物兵器の確保のために数万人の地上軍をシリアに派遣する必要があるという最悪のシナリオについて協議していると、米国および外交当局者が語った。

匿名を条件に語った外交筋2名によると、当局の最悪の懸念が現実のものとなった場合、5万から6万もの地上部隊が必要になる可能性があり、さらに追加の支援部隊も必要になるという。しかし、6万人の軍隊でも平和維持活動には十分な規模ではなく、兵器保管場所の警備に必要な人数に過ぎない。外交筋は、イラク占領軍のような様相を呈しているものの、その人数では十分ではないと警告している。242

ウォールストリートジャーナルが引用した匿名の米政府高官は、シリア政府が「反体制派の反乱軍や民間人、おそらくは民族浄化作戦で」使用する可能性があるとして、化学兵器を貯蔵庫から持ち出していると報告した。243 この情報を入手していると主張するにもかかわらず、米政府高官は、これらの兵器が移動されている場所や具体的な兵器の種類を明らかにすることを拒否し、「シリアのサリンガスの備蓄について最も懸念している」とだけ述べた。シリア政府は、メディアによる偽情報や軍事的破壊工作という形で、1年以上にわたって政治的、経済的、外交的な攻撃に耐えてきた。 論理的に考えれば、シリア政府が化学兵器を使用する理由を問うのが自然だろう。なぜなら、そうすれば欧米諸国は、国連安全保障理事会での合意形成の欠如という障害を回避するための口実を手に入れることができるからだ。答えは簡単だ。化学兵器の使用を検討しているのはシリア政府ではなく、同盟関係にある外国勢力と彼らのテロリスト代理である。米国は以前から、紛争の「バランスを傾ける」ことで自分たちに有利に運ぶと述べており、化学兵器の脅威と使用がダマスカスを強制的に転覆させることを正当化するために使われる可能性は極めて高いと思われる。

シリア紛争の勃発当初から、事態の沈静化を試みる一連の外交的措置には、外国による公然たる軍事介入の可能性が不愉快な影を落としていたが、それらの努力は今や悪化している。シリア情勢の予測が困難であることを踏まえると、現在進行中の危機がどのような結果を招くかを予測することは難しいが、以下の事態が起こる可能性とその影響については考慮しなければならない。

  • アサドが武力で反乱を鎮圧しようとする。これは、アルジェリアなどの国々がAQIMに所属する反乱分子を成功裏に鎮圧した事例を反映したものである。この行動方針は、外国勢力が傭兵の使用を増やし、反乱軍に化学兵器や生物兵器を含むより危険な兵器を提供し続けるならば、事態をさらに悪化させる可能性がある。シリア治安部隊が秩序を回復し、反乱を鎮圧できない場合、トルコ領へのいかなる本物の、あるいはでっち上げの残虐行為や侵入も、国連安保理の承認の有無に関わらず、公然たる軍事介入を促すのに十分な引き金となる可能性がある。そうなれば、トルコとシリアの国境では銃撃戦が繰り広げられ、アンカラはシリア北部の領土を占領しようとするだろう。イランはアサドに軍事支援を提供する可能性が高いが、ロシアと中国は不干渉政策を採っているため、その行動は予測が難しい。この時点から、より広範囲にわたる地域紛争に発展する可能性が出てくる。

アサドが武力によって反乱を鎮圧することに成功し、反政府武装勢力が離散し、降伏して農村部や近隣諸国に避難する。シリア治安部隊は活動を強化し、人口密集地での秩序維持を試みる。軍は緊迫した地域を確保し、ある程度の日常が再開されるが、爆撃や国境侵犯、その他の攻撃は小規模ながら継続する可能性がある。アサドは国内の治安維持を強化し、国際的に非難される存在となる。シリアは厳しい経済制裁下で苦しみ続けることになる。アサドが権力を維持し続け、意味のある改革や政治的多元主義を実現できなければ、国内の反対派が再び問題となり、穏健派が反対派の派閥に傾く可能性もある。政治的混乱が起こるが、反乱軍の活動をうまく鎮圧できれば、治安情勢は安定する可能性もある。

  • 反乱軍が政権を奪取するか、外国の軍事介入の結果として、アサド政権が武力によって崩壊する。反乱軍が攻勢を強め、領土を占領して優勢を維持することができれば、武装集団がアサド支持派、アラウィ派、シーア派、およびキリスト教徒やドルーズ派などのその他の宗教的少数派を迫害する可能性がある。これは、カダフィ大佐の失脚後にリビアの LIFG 戦闘員が行った行為を反映したものである。化学兵器が反体制派によって使用され、アサドを非難し介入を正当化する材料として使われる可能性もある。あるいは、アサドが外国の軍隊が国に一斉に侵入することを撃退するために合法的に使用する可能性もある。その結果誕生する暫定政府は治安維持に苦慮し、指導者の分裂により首尾一貫した政策を実施できない可能性が高い。政治的混乱が続き、宗派間の緊張が高まる中で武装集団による活動が継続する可能性もある。このシナリオの長期的な影響は想像しがたいが、もし事態が長期化すれば、不安定さと人々の苦悩が際立ったものになるだろう。

ウォール街とロンドンの世界的な覇権は、「人権」、「自由」、「民主主義」という建前を背景に築かれてきた。現代の西洋文明は、まさにこれらの原則が侵食されていることで特徴づけられるが、帝国主義、企業の独占化、海外での軍事侵略を偽装するためにそれらを利用することは、公然のものとなり、ますます効果的でなくなっている。ワシントンがシリアにおける計画的な不安定化キャンペーンにおいて、欧米諸国の「進歩を妨害している」としてモスクワと北京を非難している一方で、欧米諸国自身の正当性が失われていることが、欧米諸国の身勝手ででっちあげた、実現不可能な政策に世界人口の大多数の代表者たちを納得させることに成功していない真の理由である可能性が高い。米国がシリア政府の転覆を試みて失敗した場合、また、成功したとしても、その可能性は高いが、西側の信頼性と制度の信頼性は著しく低下し、今後の策はさらに実行が難しくなるだろう。

西洋の経済と地政学的な力が崩れ、その影響力が微妙でなくなり、敵対的になるにつれ、株主はより安全な投資先を求めるようになるだろう。金融、政治、戦術的な面でである。帝国を維持するには、西洋が依然として保有している巨大なグローバルインフラストラクチャーに依存することになるが、このインフラストラクチャーは、ライバルとなる覇権国と個々の国家の両方からの競争に直面している。帝国はまた、自国の制度への信頼や軍事力の脅威といった心理的な要因によっても築かれる。こうした概念が、社会、経済、技術のパラダイムの変化によってますます疑問視されるようになった世界において、西洋はあらゆる面でますます弱体化している。西洋がすべきことは、崩壊しつつある帝国にしがみつき、実施される前から時代遅れとなったグローバルなパラダイムの構築に躍起になるのではなく、この変化する世界に適応することである。

包括的な覇権を確立しようとする企ての背後にある企業や金融機関の利益をボイコットすることは、その失敗を加速させ、確実に成功させるだろう。そうではなく、地域や国家レベルで、人々のために、人々によって真の制度を創設することが、腐敗した国際制度が時代遅れになった後も、私たちが混乱に陥らないことを確実にするだろう。

信じがたいことかもしれないが、シリアの問題は暴力や武力蜂起、政治的混乱ではない。経済や社会の問題でもない。これらはシリアの真の問題から派生した症状に過ぎず、それゆえ、これらの症状のみを治療しようとする解決策は、表面的で一時的な緩和をもたらすだけである。多くの地政学アナリストは、このことを理解しているが、それでも、特に暴力の終結というこれらの症状の即時的な治療を推奨している。確かに、それによって状況は一時的に沈静化するだろう。しかし、問題の根源が暴かれず、解決策が策定されず、適切に推進されないのであれば、最終的には失敗に終わる。シリアの問題は、「自由シリア軍」や「シリア国民評議会」にあるのではない。また、それらの傘下で活動する無数のテロ組織にあるわけでもない。そうではなく、これらのグループを創設し、資金援助し、武器を提供し、戦略的・政治的にその活動を永続させているのは、企業と金融業者による外国の利害関係である。

シリアの問題は、ウォール街とロンドンの注目を集め、世界覇権をめぐる彼らの地政学的野望の真っ只中に自らを置くことになったことである。

アナリストらは、シリアのいわゆる「反体制派」と即座に交渉合意を結ぶことで、シリアの政権交代を求める欧米の野望を弱体化させることが優先されるべきだと考えている。 ある程度の信頼性をもってこれを試みるだけでも、最終的に和解が失敗に終わったとしても、外国による不安定化に対抗してシリアが体制を立て直すのに必要な時間を稼ぐことができるかもしれない。シリアの場合、交渉による合意に達するためにこれほどまでに多くの時間が費やされてきたため、多くの人々が、そもそもこの暴力を西側諸国と湾岸諸国の同盟国が作り出しているという事実を見失ってしまっている。そして、彼らの代理である「反体制派」の運動は、この不安定化の猶予を避けるために、交渉による合意の妥当な条件をすべて拒否しているのだ。勢いを断ち切ることによって、欧米諸国は、意味のある停戦が成立した場合、近い将来にこの破壊活動を再び引き起こすことができないのではないかと恐れている。この一時的な猶予という目標を超えて、この紛争を推進する同盟諸国の基盤、そして世界中で同様の暴力と政治的混乱を引き起こすキャンペーンの根底にある、より深く幅広い解決策が存在する。NATOとその傭兵、代理機関、NGO、メディア(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、国際刑事裁判所、さらには国連自身も)が政府を動かしているという、妥協した利益関係を特定し、暴露することが、シリアやその他の国々が直面している問題を真に解決する第一歩である。

シリアの計画的な暴力と不安定化のキャンペーンの主な加害者として、これらの利害関係者を暴露することは、欧米がでっち上げた支配的な物語の正当性を損なうためのあらゆる試みにおいて、絶対的に必要である。シリア危機をこのような悲惨な段階にまで引きずり込んだ活動に関与した外部勢力には、責任を取らせなければならない。シリアで活動する外国勢力が示した破壊と欺瞞の度合いを考慮すると、反政府勢力を武力で鎮圧するというバッシャール・アサドの野望は正当化されるかもしれない。経済制裁の解除を含め、シリアの人々を正常な状態へと移行させるためのあらゆる努力がなされなければならない。この重要な段階において、シリア政府は市民の安全を確保するために可能な限りの自制を行うべきである。シリア政府が秩序を回復し、国民に完全な安全を保障するまでは、実現可能な政治的移行について合意することはできない。バシャール・アサド政権は、反対意見を正当化し、表現の自由を促進する具体的な改革を継続しなければならない。一方で、「自由シリア軍」に属する個人は、武力行使の対象とならないよう、武装を解除しなければならない。シリアへの外国軍の介入と政権交代の両方が意味することは、シリア国民と地域全体にとって受け入れがたい結果をもたらすということである。たとえ国内の関係者が解決策に合意したとしても、シリアの人々がこの紛争から立ち直るには何年もかかるだろう。シリア国民の大多数が指導者の交代を望んでいるのであれば、世界はその願いを尊重しなければならない。しかし、そのような決定は、国内の治安情勢が秩序ある状態へと移行した後でなければ下せない。平和、妥協、紛争回避という柱の上に築かれた安定を重視する人々は、シリア国民の側に立ち、この暗黒の時代から彼らを導き出す手助けをしなければならない。

(2012年8月24日)

 

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