主に運動のスタートと継続 20のヒント
意志に頼らない!
やる気があればできるは幻想
宮城県沖で震度5強の地震があった時、市民の87%が「津波が来る!」と思い浮かべたが、実際に津波避難の行動をとった住民は1.7%しかいなかった。
これは正常性バイアスの例だが、人はやるべきことがわかっていて、やろうと決意しても、そのとおりに行動できるようには人間はそもそもできていない。
だからこそ、やるべきことに対して「精神論」ではなく、「創意工夫」が必要になる。
環境の工夫
特に「環境的な創意工夫」は、もっとも重要になってくる。
単純な例で言うと、朝早く起きて散歩する時に「よし、明日散歩するぞ!」と気合を入れることではなく、「目覚まし時計をセットする」ことである。
それでも難しければさらに環境的な工夫を加えていく。そのためのリストを以下に書き連ねているので、それらを参考にしながら行動を直接意志によって継続させようとするのではなく、継続の工夫を継続することに努力資源を投下してもらいたい。
基本計画
目標設定
1.到達可能であること 例一日2000歩歩くなど
2.到達するための方法、手順がわかっていること。
3.客観的な具体性をもたせる。記録をとる 散歩→歩数計 有酸素運動→心拍計
ヒント
・何のために運動をするのか、運動を嫌だと感じる理由を打ちのめす骨太の理由を作る。
・目標達成が困難な理由を書く。目標に予め悲観的になることは実行した時の成功とのギャップによりモチベーションアップとなる。
最終ゴールではなくプロセスに集中
大きな目標を思い描いて努力するのではなく、どれだけ以前にいた位置よりも前進したのか「前進度」に焦点をあてる。
トリガーの設定
運動を始める時に、例えば「朝8時に必ず始める」といった感じでスケジュールをまったく新しく作ってしまうのではなく、
「朝食を食べた後の流れで」
「家族が通勤する時に一緒に出て、散歩する」
「電車にのったら駅を一つ前でおりる」
「掃除をした後で」(掃除の前に運動着に着替える)
といったように、トリガーとなる毎日の行動とセットで運動を設定する。
ランニングウェアを寝床に置いておくというのもトリガーのひとつ。
記録をつける
スマホなどで多くの支援アプリがあるため、そういったものを利用しても良いし、ノートに記録しても良い。
また、運動に限らないが認知機能テストは必ずリコード法実施の前に測っておく。リコード法実施前のテストは逃すと二度と知ることができない。MMSE、長谷川式も受けておくと良いが目が荒いため、MoCA-JやブレインHQを優先的に受けておく。
具体的に数字として知ることは、体感とは比べ物にならないパワーをもっている。後で人に伝える時でも、良くなったよというよりもMMSEが5点上がったというほうがはるかに説得力をもつ。
レベル設定を行ってみる
課題に難易ごとにレベルを設定してみる。
例
レベル1 散歩1000歩
レベル2 散歩2000歩
レベル3 散歩4000歩
レベル4 散歩8000歩
レベル5 早足散歩5000歩
レベル6 有酸素運動10分(心拍数120~)
レベル7 有酸素運動20分(心拍数120~)
レベル8 有酸素運動30分(心拍数120~)
レベル9 有酸素運動 週3日 合計90分以上
レベル10 有酸素運動 週5日 合計150分以上
習慣化のステージ
第1~3週 もっともつらい時期
一番つらい時期、この時期に必要なことは継続内容ではなく継続すること。
どれだけ行うかよりもまず習慣化に全エネルギーを注ぐ
生活に大変化を起こすようなことをせず、超簡単で確実にできることだけを始める。とにかく大変化を求めず脳が拒否反応を示さないよう騙し騙し少しずつ変えていくこと。
この期間は、「今日は一日よく運動したなあー」は失敗を意味する。
「ちょっと物足りないなあ」で終われば成功。最低この生ぬるさを3週間続ける。
継続するということだけをルールとし、その内容は問わない。例えばどうしても散歩が気乗りしない日は50歩だけ歩くなど。
それさえも気乗りしない場合は、身の回りの掃除から初めてみる。(掃除だけで終えても良いことを前提にするのがポイント)
第4~7週 つらい感覚がなくなる時期
「やめたい」という感覚が薄らいでくる。モチベーションが生まれ始める時期であるため、この時期にモチベーションを高める行動を行う。
第8~第10週
運動そのものが快適に感じる時期、しかしここで油断が生じやすく気を抜いてしまい元に戻る可能性もある。
第11~13週
マンネリ化の時期、変化や刺激が必要となる。
30日チャレンジ
グーグルのマット・カッツが提案する「30日チャレンジ」
なんでも良いので、新しいことを30日だけチャレンジすることを取り入れてみるというもの。
30日間続ければければその運動はやめて、違う運動に切り替える。
30日続けば、その運動は残っていく可能性も高い。
運動だけに集中
運動に取り組んでいる時は、他のリコード法治療はひとまず置いておく。欲張ると挫折する確率が高まる。ストレスが強くかからない程度に取り入れる。
試行錯誤
どういう運動が良いか試行錯誤することに加えて、どういう運動なら運動が継続するかといった工夫をすることそのものが運動継続のための大きなモチベーションになる。
運動が嫌だなと感じた時に、そのなぜを分析して対処法を一つ一つ問題解決していく。
協力関係
誰が喜んでくれるのか
リコード法を実行し、認知症が回復して誰が喜んでくれるのか?という質問
周囲へ運動宣言
家族、または友人、SNSなどで運動をすると宣言して自分にプレッシャーをかけていく。
運動仲間を見つける
同じレベルの運動仲間を見つける。相手にやる気があればなお良い。
介護者がお手本に
介護者に対して言葉で鼓舞しようとするのではなく本人の心に同調する。
その後介護者自身も情熱的に運動を行うことで、患者が自分も頑張らなければと考えることを目指す。特に筋トレなどは介護者の頑張りようが患者にも大きく影響を与える。
本人が他の人への規範モデルになる
運動仲間がいる場合、仲間に対して自分が運動を行う規範モデルになっていくことを意識する。
いくつかの運動継続成功例は、運動を行う本人が運動グループ内で他者を励ます役割を担うことで、運動の継続が有意に高まっている。
運動仲間がいない場合は、将来的に他の認知症患者さんが励みになるモデルとなっていくことを考えてみる。
モチベーションを高める工夫とコツ
代謝障害・神経系の問題を予め解決しておく
よしやるぞというやる気はホルモンや神経伝達物質と深く関係しあっている。テストステロンや甲状腺ホルモン、ドーパミン、アドレナリンなどの分泌障害による欠乏は、根性論で解決できるものではない。
えてしてホルモン療法は危険だという思い込み、それを行ってくれる病院や検査を探すところから始めなければならないため、後回しになってしまいがちだ。
しかし、リコード法が本人の意思、アドヒアランスに強く依存して実行しなければならないことを考えると、むしろ意志力のベースラインを底上げしていく上で、最初に優先的に取り組むべき。
乾燥甲状腺ホルモン、エストラジオール、DHEA、プロゲステロン、テストステロン(男性は特に)などを、リコード法の基準に照らし合わせて予め対処しておく。
自分の行動報酬はなにか?
人によって幸福感のカテゴリーが大きく異なるように、何が自分を行動させるのか、行動が継続するのかその感情カテゴリーも異なる。
例えば、自分が決断したという意志が強く行動の継続に影響を与える人もいれば、自分の決断かどうかよりも、他者から期待されて自分が役に立っているという感情が自分を大きく動かすタイプの人もいる。
このあたりを自分で理解しておくことも重要だが、介護者さんが患者本人の報酬を考える時、つい自分を基準に考えてしまいがちなので注意が必要だ。
101個の小さな目標
101個のゴールを用意
小さな人生の目標をあらかじめ紙に書き出しそれを到達していくことを目指す。
ライフイベントとなる、ゴールとして達成感が味わえる最小量として考える。
例
1.散歩の30日チャレンジ
2.市中の花屋さんを10件まわってお気に入りの花を買う。
3.スクワットが50回できるようになる。(黒柳徹子さん)
4.スクワットが75回×2できるようになる(森光子さん)
5.孫と富士山に登ってみる
報酬
2ヶ月後の大きな報酬
報酬は手に入れるまでは働くが、手にしてしまうと効果がすぐに消えてしまう。
大き目のご褒美を未来に設定することで報酬効果を持続させることができる。タイミング的には2ヶ月後の報酬が最も効率的だとブレダ応用科学大学の研究によって報告されている。
2ヶ月後に、例えば温泉旅行をする、孫とでかけるなど、少し大きな、それを想像することで幸福感を味わえるような報酬を設定すると効果的。
運動の意義を確認
運動の価値や意義を感じていない場合、それを継続していくことはむずかしい。
定期的に関連本を読んだりして運動で得られる利益を確認していく。
参考書籍
脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方
運動のパワーワードを貼る
自分がこれは!思った運動の意義や効用、名言などの文章をまとめて、トイレだったり、部屋など普段目に見える場所に貼っておく。
気合ではなく五感に訴える
視覚情報
根性ややる気、意思力で運動を行おうとしない。視覚的な工夫で行動に移させる。
例えば朝散歩するのであれば、ベッドの横に散歩用のスポーツウェアと運動靴を用意しておく。
手順の短縮
着手するまでの手順を予め短くしておくこともポイント。
逆に、やめたいこと、遠ざけたいことは、行うまでの手順を複雑化させる。
テレビを見てしまうのであれば、見てはいけないと念じるのではなく、テレビのリモコンを目に見えないところに置くといった、環境への工夫が重要。
触覚情報
例えば縄跳びであれば、ひとまず縄跳びをすることと関係なく、縄跳びの道具を触ってもらう。能動的に触れることによって、脳に対して縄跳びをするという指示が無意識に送らられるといった脳の仕組みを利用する。
セルフトーク
自分に問いかける
例え「お願いします」と丁寧に言われても、命令は拒否反応を引き起こす。しかし「お願いできる?」と疑問形で問われ、こっちで選択ができるのであればやってみようという気持ちが高まるかもしれない。
これは、自分に対しても使えるテクニックで、自分自身へ「やるべきだ」と奮い立たせるよりも「やれるか?」と自問するほうが、積極的になれることがある。
「いつかはやらなければならない」と10回叫ぶ。
例えば散歩運動を今行わなかったとする。そうして認知症が進行した時のことを考えてみる。
本人は徘徊という形で運動を行うかもしれない。介護者は探索という形で、または失禁で掃除をする、万引を引き起こしたり近所ととのトラブルで、あちこち駆け回ることになるかもしれない。
つまり、今やらなければ、施設へ預けて放ったらかしということをしないのでない限り、それは通常何倍、何十倍の労苦にもなって実行しなければならなくなる。
今、自発的に行うのと、後で否応なく行うのとどちらが良いのかよくよく考えてみる。
「いつかはやらなければならない」と10回口にして、誰もいないところで叫んで見る。7回を超えたあたりで、自分自身が納得できる気持ちになってくる。
やる気を削ぐ理由を個別に解消
疲労が激しいときには行わない
運動によってますます疲労を招くと、運動が嫌なものだという神経回路が固定されてしまう。
疲労を押してでも行うべきかどうかの基準は、運動前と運動後で疲労感が上がるか下がるか。疲労感があっても運動することで、少しでも緩和されるなら始めてしまってOK。
苦手なことをやっていると思う理由
得意なことを人は面倒とは思わないのに対して苦手なことをは手間や時間がかかる。手間や時間がかかるというのは、比較の問題のため基準値、ゴール設定の問題を間違えている可能性がある。
例えば一日一万歩を最初から基準にする、当たり前だとみなすと、それに達しない場合常に苦手意識をもつことになる。
普通はそれができない、多くの人は2000歩しか歩かないということを前提にすれば、2000歩を超えて歩いた場合、それはボーナスポイント、頑張ったポイントとして作用する。
やらなきゃいけないという強制
やらなきゃいけない理由が特に人間関係であったり、家族のプレッシャーであったりすると面倒と誰もが感じる。
実際には、他者からの強制ではなく自らのやるべきだという自覚もありそれが混合になっている。しかし強制的な言葉が増えるとそれらが強調されるようになってしまう。
道の右側をたまたま歩いている時に、見知らぬ人から「道の右側を歩きなさい」と言われるとどういう気持になるだろうか。
やらなきゃいけない理由とやりたい理由の書き出し→天秤にかけてみる。
何から手をつけていいのかわからない
リコード法はとかくすることが多すぎて、何から手をつけていいのかわからず、混乱しがちで結局何もしないまま手が止まってしまうということがよくある。
そういう混乱が原因でストップしているときは、とにかく、なんでも良いから、小さなことから初めて見る。重要性はこの際無視する。
重要性は必ずしも高くないが、時系列的には先にしておかなければならない実行項目といものが存在する。
重要性だけで言うならリコード法では、病院での血清検査がまっさきに来るだろう。しかし検査機関がどこあるかわからない、調べるのもなかなか億劫だったりする。
そういうときは、例えば、まずインターネットの通販で行えるApoEの遺伝子や葉酸遺伝子の検査、毛髪ミネラル検査を申し込んで見る。
重要ではないとは言わないが、検査結果が届いてこれは一体どういう意味なんだろうと調べるきっかけにもなる。
食事であれば、食事全体を一気に整えようとするのではなく、まずスムージー作り、またはスムージーのレシピを考えてみることだけから初めてみる。
慣れた、飽きてしまった
一度ある程度習慣化した後にやってくる。新しい刺激がなくなると生じやすい。
飽きそうなタイミングで、意図的に新しい刺激を取り入れていく。
背徳感の罠に注意
呵責を感じながら決めたルールを破って行うことで得られる快楽は、ルールを破らずに行うよりも大きな快楽を得られる。つまみ食いがなぜうまいのかにも通じる話。
これを繰り返すことで報酬回路が強化されてしまい、やらないことで得る快楽が無意識のうちに癖になってしまう。
通常本人はこの罪悪感から快楽を得ていることに気づいていないことが多く、気づくだけでも脱却の一歩となる。
逆ショック療法
過激なルールを作る
誘惑に負けてしまったら、逆に誘惑を徹底的に実行するというルールをもうける。
もし運動をしようと決めていた日に、しなかった場合に一週間、運動も散歩も外出を一切してはいけないというルールをもうける。
糖質制限においてケーキを食べてしまったのなら、そのケーキを3つ食べなければならないとしてしまう。
強制力を嫌うタイプの人は、これを繰り返していると自然と欲求がわかなくなってくる。