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セレン・セレニウム・セレノプロテインP
はじめに
セレンは、ブラジルナッツ、魚、卵などに含まれるミネラルのひとつ。
セレンは健康上の利益が発見される戦後直後までは毒性をもつ化合物だと考えられていた。
現在は適切な量を摂取することで幅広い健康上の利益をもたらす可能性があるが、最適量が狭いミネラルとしても知られており、わずかな欠乏や過剰が有害となりやすい。
セレンの供給源
セレンを含む植物は、土壌からセレンを取り込む。そのためセレン摂取量は地域性に依存しセレンの少ない地域に住む人々はセレン欠乏のリスクがより高くなる。
ブラジルナッツ
セレンの高濃度に含む食品としてはブラジルナッツが知られているが、発育自体にセレンが必要というわけではなくそのセレン濃度は土壌に依存するため、採取地域によってセレン含有量は大きく異なる。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0889157585710253?via%3Dihub
254mcg/100g
ods.od.nih.gov/factsheets/selenium-HealthProfessional/#h2
1942mcg/100g
一般高齢者のセレン高値による死亡率の減少
135μg/ Lまでの血清セレン濃度の増加は、死亡率の減少と関連している。
独居生活をする1389人の高齢のフランス人、9年間の縦断的疫学(EVA)研究では、ベースラインでの低い血漿セレン(平均87μg/ L)は全体的な死亡率と癌死亡率の増加と関連していた。
www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)61452-9/fulltext
セレンの代謝経路
pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2015/MT/C5MT00075K#!divAbstract
食事に含まれる無機、有機のセレン(Se)はセレノプロテインに取り込むために(Se2)に変換される必要がある。
低いセレンによる認知機能の低下
脳のセレン
セレンは脳の機能に不可欠な微量元素であり、神経系において多面的な役割を果たしている。
セレンが枯渇すると、脳は他の組織を犠牲にしてでも脳のセレン濃度を維持しようとする。しかしセレンが極端に欠乏すると脳損傷を引き起こす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24760755/
そのため、脳内のセレン濃度は体内のセレンが欠乏状態にあっても比較的安定したままであるが、肝臓、腎臓など末梢内でのセレン濃度は非常に変動しやすい。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=11777029%5Buid%5D
生涯にわたる低いセレンでの認知機能低下
中国の農村に住む高齢者の調査では、生涯にわたる低いセレンレベルは低い認知機能と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17272290/
長期的な血漿セレン低値による認知機能低下
高齢者1389人の9年間にわたる縦断研究では、血漿セレンの減少は認知機能の低下と関連していた。短期間(2年間)のセレンレベルの変化では認知機能の変化と関連しなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17130689/
セレン・セレノプロテインの認知機能保護効果
ヒトでの研究では、セレンおよびセレノプロテインが、認知機能の低下に対する防御効果の役割を果たすことが示唆されている。
コホート研究では、低血漿セレニウム(<66.7μg/ L)の参加者では、より高い参加者(> 82.3μgの/ L)に比べてパフォーマンススコア、MMSEスコアが有意に低下した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20687175/
アルツハイマー病患者の低いセレン
アルツハイマー病患者の低い血清セレン
アルツハイマー病患者の血清セレニウムは少ないことが研究でわかっている。セレンの減少は抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼの減少と関連していることを示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28595794
アルツハイマー病患者の低いマグネシウム・銅、亜鉛・鉄、セレン
血漿中のマグネシウム・銅、亜鉛・鉄、セレン濃度、赤血球GPx、SOD、CAT活性は対照と比べてアルツハイマー病患者で有意に低く、抗酸化酵素活性の変化による酸化防御システムの欠陥がアルツハイマー病の酸化的損傷につながる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24682919/
血清セレンはアルツハイマー病酸化ストレスと相関しない
血中セレンはアルツハイマー病の酸化ストレスと直接には関与していない可能性がある。血漿セレンおよび脳脊髄液のセレン、セレノプロテインレベルを相関させる縦断研究の必要がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24682919/
MCI患者の低い血漿セレン・ウリジン・ビタミンD
栄養状態のスクリーニングにおいて、軽度アルツハイマー病患者の血漿セレン、ウリジンが認知的に正常な郡と比べて有意に低く、血漿ビタミンDレベルにおいても同様の傾向が見られた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24614903/
血漿・赤血球、爪とアルツハイマー病の関与
血漿、赤血球、爪の低いセレンレベルは、アルツハイマー病と関連する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19948078/
システマティックレビュー セレンとアルツハイマー病
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21593562/
その他の神経変性疾患
パーキンソン病
パーキンソン病での神経毒性曝露によって、セレン欠乏食がドーパミン作動性細胞の脆弱性の一因となる可能性がいくつかの研究で示唆されている。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006899300020850?via%3Dihub
pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2013/MT/C2MT20164J#!divAbstract
セレンの投与はパーキンソン病ラットのDNA損傷を減少させ、運動の活性を高めた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25592015%5Buid%5D
筋萎縮性側索硬化症
セレン過剰環境においてのALS症例
jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/353978
ハンチントン病
ハンチントン病マウスの亜セレン酸塩保護効果
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25014023%5Buid%5D
セレノプロテインP
セレノプロテインP(SEPP)は、セレンを運ぶトランスポーターであり、ApoER2を介して脳および神経細胞へセレンを送る役割を果たすと考えられている。
脳内のセレノプロテインPはニューロンにおいて発現しており、アストロサイトにおいて合成される。血液内の主要なセレン化合物でもあり、末尾のPは血漿(plasma)のPに由来する。
セレノプロテインの発現は食事などからのSeの利用能によって調節される。
セレノプロテインPの作用
セレノプロテインPのアミロイドβ凝集阻害
試験管研究では、セレノプロテインPが銅誘導のアミロイドβ凝集を阻害することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24437729/
タウ凝集・リン酸化の阻害
セレン酵素は細胞内抗酸化剤として作用し、タウ凝集を阻害し、タウリン酸化をダウンレギュレーションする。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24914767/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19513540/
セレノプロテインPのアルツハイマー病予防効果
セレンおよびセレノプロテインPはアルツハイマー病の発症経路の多くに関与しており、アルツハイマー病予防に有益である可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26311427/
セレノプロテインPの欠乏?
セレノプロテインP欠乏によるアルツハイマー病様障害
セレノプロテインPノックアウトマウスの脳の神経変性の進行は、主に軸索であるが体性感覚皮質、外側線条体も悪化の様子が見られた。海馬の樹状突起の長さ、密度、機能的な減少も見出され長期増強の障害も示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16984644/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21636077/
加齢により増加する血漿セレノプロテインP
ヒトの脳における血漿セレノプロテインPの発現は加齢により増加する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15190254/
アルツハイマー病組織におけるセレノプロテインP過剰発現
血漿セレノプロテインPは、亜鉛、水銀、その他の金属をキレートする。
セレノプロテインPの遺伝子発現は、アルツハイマー病においてアップレギュレートされており、セレノプロテインPの発現が有機セレニウムの沈着をもたらしアルツハイマー病の病理を増強する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18997300/
セレノプロテインPは銅および鉄と三元錯体を形成する可能性があり、セレノプロテインPのキレート作用は、金属を媒介するアミロイドβ凝集およびROS生成を阻害する。
セレノプロテインPによる運動効果の減少
セレノプロテインPの欠損は、急性運動中の活性酸素を増加させ、AMPK、PGC-1αの発現を増強させる。
セレノプロテインPの作用は受容体LRP1を介する。
血清のセレノプロテインPレベルは、運動の効果を阻害する予測指標となりうる。
first.lifesciencedb.jp/archives/16289
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27731835
セレノプロテインM
セレノプロテインMは小胞体に局在し、チオール-ジスルフィド交換に関与すると考えられている。
in vitro研究ではセレノプロテインMは、カルシウムシグナル伝達を調節し、酸化ストレスから保護することが示されている。
セレノプロテインMは脳で高いレベルで発現しているが、ノックアウトマウスの実験では学習や記憶障害とは関連しないことが観察されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23880772/
レプチン耐性・肥満
セレノプロテインMはレプチンシグナル伝達を調節することを通してエネルギー恒常性に関与する可能性が示唆されている。
セレノプロテインM欠失のマウスは成人病型の体重増加と肥満の増加をもたらした。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19117545/
セレノプロテインT PACAP誘導・インスリン分泌
セレノプロテインTは小胞体に局在し、おそらく形質膜への輸送を担う。
セレノプロテインTはin vivoにてPACAPの標的と遺伝子して同定されている。
セレノプロテインTは膵臓β細胞で高発現しており、PACAP誘導のインスリン分泌、血糖調節する可能性が示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18198219/
セレノプロテインS
セレノプロテインSは、セレノプロテインTと同様、原形質膜に局在する。
セレノプロテインSは小胞体関連の分解、炎症、タンパク質複合体の輸送に影響を与える。
セレノプロテインS多型は、高血圧、インスリン高値と相関しており、心血管リスクがより高い。また小胞体ストレスに応答して増加することがわかっており、2型糖尿病における酸化ストレスを相殺する保護的役割を果たす可能性がある。
セレン投与研究
認知機能改善
セレン投与によるMCI患者の認知機能改善
軽度認知障害患者への約280μg/日に相当するブラジルナッツと毎日のサプリメント投与は、6ヶ月にわたる認知能力の改善と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25996565/
PP2Aの活性・タウリン酸化の減少
セレン(セレン酸ナトリウム)の投与はアルツハイマー病モデルマウスのPP2Aアゴニストとして作用し、ホスファターゼを活性させタウタンパク質のリン酸化を急速に減少させ、空間学習および記憶を改善させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20537899/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20643941/
セレンの水銀毒性軽減効果
メチル水銀は脳の酸化防止作用を有するセレン依存性酵素の合成を阻害し、セレニウムの生物学的利用能を損なう。組織のメチル水銀レベルは組織セレニウムと逆相関。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18761370
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25064324
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21106535
セレンの作用は低~中用量の水銀レベルにおいて保護効果を発揮する。
www.jstage.jst.go.jp/article/indhealth1963/13/3/13_3_93/_article
食事に含まれるセレンの少なさは、メチル水銀に対する毒性リスクを高める関係にある。土壌のセレニウムが少ない地域においてメチル水銀を多く含む魚の摂取は懸念材料となりうる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20561558
セレンと甲状腺ホルモン
セレンの橋本病改善効果
橋本病を患う若年者への6ヶ月間200mcgのセレニウム投与は、血清抗甲状腺ペルオキシダーゼレベルの有意な減少を引き起こした。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17696828
橋本病へのセレン補給治療 メタアナリシス
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20883174
TSH、fT4の減少
パイロット研究 セレン投与により血清TSH、fT4濃度が有意に用量依存的に減少、fT3については有意な効果は見られなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25740851
血清セレン・セレノプロテインP
橋本病または甲状腺機能低下症の患者ではグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)およびセレノプロテインPの両方が低い傾向にあった。血清セレニウムレベルでは健常者と有意差がなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26854239
抗ウイルス効果
200μg/日までのセレン含有マルチビタミン・ミネラルサプリメントは、ウイルス感染(例、HIV、IAV)ならびにHIV、結核菌の同時感染において化学療法の安全、安価なアジュバント療法としての利用可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4288282/
HIV患者
アスピリンとセレンの投与はHIV産生を阻害することが試験管、動物研究で示されている。ナイジェリアの人々へのセレン・アスピリン療法は有意に体重を増加させ生活の質を改善することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19169336
セレン欠乏症とHIV感染
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3892587/
2型糖尿病リスク
T2Dリスクと性差
メタアナリシス セレン曝露による2型糖尿病リスクの増加
セレンの補給は糖尿病のリスクを11%増加させる。このリスク増加は女性よりも男性で強い反応が見られた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29974401
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17620655/
メトホルミン
メトホルミンはセレノプロテインPの発現を抑制する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19576170/
セレン酸投与研究
セレン酸の投与 前立腺がん患者への非盲検第一相
最大耐用用量は60mg/日
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20648008/
セレノメチオニン
食品中に含む天然の有機セレン
メチオニンと結合しており容易にタンパク質へ取り込まれる。セレニウムサプリメントと基本的には体内で同じ効果をもつと考えられているが、セレニウムよりも吸収率が良い。同等の用量で約2倍の血清セレン濃度が得られる。
セレノメチオニンによるシナプス障害の回復
セレノメチオニン投与はADマウスのシナプス障害を回復させ、タウの発現と過剰タウリン酸化を減少し、炎症を改善することにより認知障害を改善した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24577479/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20687175/
セレンの欠乏原因
食事に含まれるセレン不足
炎症性腸疾患
腎臓病
アルツハイマー病
コルチコステロイドの使用
避妊薬の使用
クロザピン
肝硬変
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4625587/
セレン投与方法
摂取量<参考>
検査を行う
爪、または毛髪セレニウム濃度を測定 基準値内(脳セレンレベルを反映)
血清セレン濃度を測定 110~150ng/dl
未検査
一般推奨摂取量 50mcg~
認知症予防 100mcg 定期的にオフ期間をもうける。
認知症・MCI患者 200mcg 一年を超えて摂取する場合は検査してから
短期的な害のない最大用量 700~800mcg
検査済
毛髪または爪のセレニウム濃度、血清セレン濃度の両方を計測。
150ng/dlを超える → 全員摂取しない
最適値内110~150ng/dl 摂取する
水銀曝露、甲状腺機能の低下、ウイルス感染、高い炎症応答、メトホルミン摂取、パーキンソンまたはパーキンソン型アルツハイマー
100~200mcg/日 → 定期的に検査 超えればストップ
最適値内110~150ng/dl 摂取を控える
運動量が低い、糖尿病、
110ng/dlを下回る → 全員摂取する
200~600mcg
セレニウム摂取においては運動などによるホルミシス活性目的の酸化ストレスを高目に取り入れていく必要がある。
セレン過剰摂取による症状
皮膚炎や脱毛、爪の変形、爪の脱落、顔面蒼白、末梢神経障害、舌苔、うつ状態、胃腸障害、呼気のニンニク臭、運動失調、呼吸困難、神経症状、下痢、胃腸障害、疲労感、焦燥感、心筋梗塞、腎不全
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%B3
セレン含有食品
ナッツ、シリアル、キノコ、にんにく、
魚、貝、牛肉、遅筋、小麦胚芽、オート麦、全粒粉、玄米
セレン強化酵母
にんにく、玉ねぎ、ブロッコリー
セレン酸・亜セレン酸ナトリウム
魚、キャベツなど、ブラジルナッツ
ブラジルナッツにはセレン以外の抗酸化成分も含まれているため、セレン欠乏が疑われる場合はセレンサプリメントと組み合わせるのも一案。
セレンの血中濃度の上昇
ビタミンD
セレンサプリメント
セレニウム複合体(セレノシステイン含有)
一般、認知症予防、ウイルス感染、免疫疾患、甲状腺機能低下症、概日リズム障害
ライフエクステンション スーパーセレニウム複合体 100カプセル
セレノメチオニン
甲状腺機能低下症
一日一錠、空腹時又は食後
セレン酸
水銀曝露、セレン検査での欠乏、脳内(脊髄液内)セレンの低値、タウ阻害、パーキンソン、肝硬変患者