書籍『国家のように見る:人類の状態を改善しようとした特定の計画はいかにして失敗したか』ジェームズ・C・スコット 1998

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タイトル:
英語タイトル:『Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed』James C. Scott 1998

日本語タイトル:『国家のように見る:人類の状態を改善しようとした特定の計画はいかにして失敗したか』ジェームズ・C・スコット 1998

目次

  • 第一部 国家による可視化と単純化のプロジェクト / State Projects of Legibility and Simplification
  • 第1章 自然と空間 / Nature and Space
  • 第2章 都市、人々、言語 / Cities, People, and Language
  • 第二部 変革のビジョン / Transforming Visions
  • 第3章 権威主義的高近代主義 / Authoritarian High Modernism
  • 第4章 高近代主義の都市:実験と批判 / The High-Modernist City: An Experiment and a Critique
  • 第5章 革命政党:計画と診断 / The Revolutionary Party: A Plan and a Diagnosis
  • 第三部 農村の定住と生産に対する社会工学 / The Social Engineering of Rural Settlement and Production
  • 第6章 ソビエトの集団化、資本主義の夢 / Soviet Collectivization, Capitalist Dreams
  • 第7章 タンザニアにおける強制的な村化:美学とミニチュアライゼーション / Compulsory Villagization in Tanzania: Aesthetics and Miniaturization
  • 第8章 自然の飼いならし:可視化と単純化の農業 / Taming Nature: An Agriculture of Legibility and Simplicity
  • 第四部 欠落した環 / The Missing Link
  • 第9章 薄っぺらな単純化と実践的知識:メーティス / Thin Simplifications and Practical Knowledge: Mētis
  • 第10章 結論 / Conclusion

本書の概要:

短い解説:

本書は、国家による大規模な社会計画がなぜしばしば悲惨な結果をもたらすのかを理解したいと考える社会科学者、政策立案者、歴史愛好家を主な対象としている。国家の「見方」とそれが生み出す社会工学の失敗の構造的根源を解明することを目的としている。

著者について:

著者ジェームズ・C・スコットは、イェール大学の比較政治学および人類学の著名な教授であり、農業研究プログラムの責任者でもある。東南アジアの農民社会に関する深い研究実績を持ち、抵抗や国家形成の力学を探求してきた。本書では、これらの専門知識を基盤に、地理的・文化的に異なる複数の事例を比較検討し、国家権力の限界と民衆の実践知の重要性を力説する。

テーマ解説

  • 主要テーマ:国家による可視化と単純化がもたらす社会工学の失敗
  • 新規性:権威主義的高近代主義という概念を用いた失敗の理論的枠組みの提示
  • 興味深い知見:一見無秩序に見える実践的知識(メーティス)が社会のレジリエンスにおいて果たす決定的な役割

キーワード解説(1~3つ)

  • 可視化 / Legibility:国家が複雑な社会現象を計測、管理、制御するために単純化して「見える化」するプロセス
  • 権威主義的高近代主義 / Authoritarian High Modernism:科学的合理性と技術的進歩への過剰な信仰と、国家権力が結合したイデオロギー
  • メーティス / Mētis:公式の知識体系には回収されない、経験に基づく実践的・文脈依存的な知識や技能

3分要約

本書『国家のように見る』は、20世紀において国家主導で実施された大規模な社会改造計画——ソビエトの集団農場、タンザニアのウジャマー村政策、ブラジリアの建設など——が、なぜ人間の生活条件を改善するという当初の目的に反し、しばしば悲惨な失敗に終わったのかを探求する。

その核心的な原因は、スコットが「権威主義的高近代主義」と呼ぶ特定の思想的結合にある。これは、科学的合理性と技術的進歩への強い信仰(高近代主義)が、国家の権力と結びつき、社会と自然を大規模に設計し直すことを可能にし、かつ正当化する状況を指す。この思想に駆られた計画者たちは、複雑で多様で有機的に発展してきた社会秩序を「非合理的」で「非効率的」なものと見なし、それを「合理的」で「秩序立った」単純な設計で置き換えようと試みた。

国家がこのような社会工学を実行するための前提条件が「可視化」である。国家は効果的に課税し、治安を維持し、資源を動員するために、自らの支配下にある人口、土地、資源を「読み取れる」ようにする必要がある。そのために、固定した姓の導入、標準的な度量衡の制定、土地の地籍調査、都市の格子状計画など、複雑な現実を単純化し、標準化する膨大な作業が行われる。この「地図化」された単純化は、現実をある程度は反映しているが、必然的に現実の豊かで文脈依存的な側面の多くを切り捨てる「薄っぺらな」記述である。

問題は、この「薄っぺらな単純化」が、計画の「現場」に存在する膨大な「メーティス」——経験を通じて獲得された実践的知識、技能、ノウハウ——を無視し、軽視することである。農民の土地に対するローカルな知識、職人の匠の技、都市居住者の生活の知恵といったメーティスは、公式の科学には捕捉しきれないが、社会や経済が実際に機能するために不可欠な要素である。国家の画一的計画は、この生きたメーティスを破壊し、社会の適応能力と回復力を弱体化させる。

したがって、社会計画の失敗は、単なる技術的ミスや実行上の問題ではなく、ある特定の「見方」——国家の視点から複雑な社会を単純化して把握しようとする見方——と、それに基づいて現実の多様性と実践知を押しのけようとする権力的介入に起因する。スコットは、より謙虚で、漸進的で、ローカルな知識を尊重する「メーティスに優しい」社会計画のアプローチを提唱する。成功する介入は、既存の社会的実践と共に働き、それを完全に置き換えようとしないものなのである。

各章の要約

第一部 国家による可視化と単純化のプロジェクト

第1章 自然と空間

国家は支配を効果的に行うために、その領域と人口を「可視化」可能にする必要があった。この章では、森林を「科学的」林業という観点から単純化して管理しようとした試み(ドイツの科学林業)や、土地を幾何学的な区画に整理する地籍調査など、自然と空間を国家的論理に従って再編成するプロセスを検討する。これらの措置は、税収の確保や資源の動員には有効であったが、生態系的にも社会的にも豊かな複雑性を排除し、しばしば持続不可能なシステムを生み出した。国家は現実を「地図化」するが、その地図は現実そのものではなく、管理のための抽象化された単純化なのである。

第2章 都市、人々、言語

可視化のプロジェクトは物理的環境にとどまらない。国家は人口に対しても、固定した姓の導入や標準言語の制定を通じて個人を識別可能にし、住民を「読み取り」管理しやすい単位に分類する。都市計画、特にバロック様式や近代的な格子状計画は、権力の示威と社会的統制の手段として機能する。これらの計画は、複雑で有機的に成長した中世の都市を「非合理的」と見なし、直線的な大通りと均質な区画によって秩序と美観(国家的美学)を押し付ける。このように、人々とその居住空間の標準化は、国家権力の強化に寄与するのである。

第二部 変革のビジョン

第3章 権威主義的高近代主義

社会工学的大失敗の核心にある思想的背景を「権威主義的高近代主義」として概念化する。これは、科学技術の進歩によって社会を合理的に設計できるという強い信念(高近代主義)が、国家権力と結びつき、さらにプロジェクトを推進するために市民社会が弱体化している状況下で現れる、特異で強力なイデオロギーである。この章では、ル・コルビュジエの都市計画やヴァルター・グロピウスのデザイン理論などにみられる高近代主義の特徴(単純化、視覚的秩序への信仰、個人の無視など)を詳述し、これが如何に専制的な国家の欲望と親和性が高いかを論じる。

第4章 高近代主義の都市:実験と批判

権威主義的高近代主義の具体例として、ル・コルビュジエの「輝く都市」構想と、それが実際に具現化されたブラジルの新首都ブラジリアの建設を検証する。ブラジリアは、機能分離、自動車中心、幾何学的なデザインによって、完全に合理的で秩序だった都市を創造しようという壮大な実験であった。しかし、この計画は住民の日常生活の複雑な要求(メーティス)を無視したため、人々は計画外の「衛星都市」に流出し、非公式の経済や社会活動が発生せざるを得なかった。ブラジリアは美学としては成功したかもしれないが、生活の場としては失敗であった。

第5章 革命政党:アヴァンギャルドの役割

革命政党(特にレーニン主義的政党)は、権威主義的高近代主義のプロジェクトを実行するための「アヴァンギャルド(前衛)」として機能した。この章では、革命政党が如何に自らを、大衆の真の利益を理解する科学的知識の保有者と位置づけ、大衆の「後進的」な習慣や信念(メーティス)を軽視する傾向にあるかを論じる。党は、自らのイデオロギー的ビジョンを実現するために、社会を徹底的に再組織化することを使命とする。この「前衛」の自己認識と組織的規律が、大規模な社会実験を強力に推進する一方で、現場の現実からの遊離を深刻化させるメカニズムを説明する。

第三部 農村の定住と生産に対する社会工学

第6章 ソビエトの集団化、資本主義の夢

ソビエト連邦における農業集団化は、本書のテーマを体現する最も悲惨な事例である。スターリン政権は、零細な個人農業を「非効率的」で「後進的」と見なし、大規模で機械化された集団農場(コルホーズ・ソフホーズ)への強制的な再編を推し進めた。この計画は、農業を国家的に可視化し管理しやすいものにすると同時に、農民という国家にとって従順でない階級を解体することを目的としていた。しかし、この急進的な変革は、農民の土地と季節に関する膨大なメーティスを無視し、また農民の激しい抵抗を招き、壊滅的な飢饉(特にウクライナのホロドモール)と長期的な農業生産性の低下をもたらした。

第7章 タンザニアにおける強制的な村化:美学とミニチュアライゼーション

アフリカのタンザニアでジュリウス・ニエレレ大統領が推進した「ウジャマー」政策を分析する。これは散村で居住する農民を、国家がサービス(学校、医療など)を提供しやすく、かつ社会主義的共同生活を営むための計画された村落に強制的に移住させる試みであった。スコットは、この政策の背後には、開発の論理だけでなく、視覚的秩序と管理的便宜性を追求する「国家的美学」、すなわち人々を整然と配置された「ミニチュア」の村落に再配置したいという欲望があったと指摘する。この画一的な村落計画は、地域の生態や農民の生活様式に適合せず、広範な抵抗と経済的停滞を引き起こした。

第8章 自然の飼いならし:可視化と単純化の農業

近代的モノカルチャー農業(単一作物大規模栽培)を、国家と資本による自然の「可視化」と「単純化」の究極の形態として位置づける。在来農業が持つ作物の多様性、輪作体系、複雑な生態的相互依存関係は、国家にとっては「読み取り」にくい。これに対して、均質な遺伝子を持つ単一作物を直線的に植え、化学肥料と農薬に依存する工業的農業は、計測、管理、収奪が極めて容易である。しかし、この単純化は生態系的に脆弱であり、長期的には持続不可能である。この章は、農業の歴史が、国家的・資本的な単純化の論理と、それに抵抗する自然および農民のメーティスのせめぎ合いであったことを示す。

第四部 欠落した環

第9章 薄っぺらな単純化と実践的知識:メーティス

社会工学の失敗において軽視されてきた決定的に重要な要素が「メーティス」である。これは、古代ギリシャの概念で、公式の科学的知識とは異なり、長年の経験を通じて獲得される実践的知恵、技能、状況判断能力を指す。船乗りの航海術、職人の技、農民の土地の知識はすべてメーティスの例である。メーティスは文脈依存的、流動的、そしてしばしば形式化できない性質を持つ。国家の「薄っぺらな単純化」は、この豊かで複雑なメーティスの世界を捉えきれず、破壊してしまう。真に持続可能で成功する制度や実践は、必ずこのメーティスを組み込んでいるのである。

第10章 結論

本書の議論を総括する。権威主義的高近代主義のプロジェクトが失敗するのは、それが社会的なものも自然的なものも含む、あらゆる機能的な秩序が持つ必然的な複雑性を過小評価し、その中心に位置づけるべき実践的知識(メーティス)を軽視するからである。スコットは、社会変革に対するより慎重なアプローチを提唱する。それは、既存の社会的実践から学び、小規模で漸進的な介入を行い、多様性を許容し、何よりもローカルな人々のメーティスを尊重する「メーティスに優しい」計画である。国家は、全てを設計し直そうとするのではなく、人々が自らの生活をより良く営むのを支援する役割を見いだすべきなのである。

 


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