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sd-LDL/超悪玉コレステロール
キーワード:small dense LDL,酸化LDL(MDA-LDL),LDL-p,
概要
これまで、悪玉コレステロールとされていたLDLが基準値内であっても、動脈硬化に進みやすい人が一定数存在しており、近年の研究でLDLの粒子サイズによってリスクが大きく異なることがわかってきた。
LDL自体は現在では悪玉コレステロールとは認識されていない。
sd-LDLの問題
- 細胞壁を通過しやすい
- 化学的酸化反応産物の生成時間が短い
- 細胞表面の遊離コレステロール濃度が低い
- コレステロールだけでなく脂溶性の抗酸化物質の含有量も少ないため、酸化ストレスの影響を受けやすい
- LDL受容体への親和性が低い。
- 異化速度が遅い
- 血中の滞在時間が通常のLDLの1.5倍長い(正常LDLが平均2日に対してsd-LDLは5日間)
- フォスフォリパーゼA2活性が亢進する。
- 細胞表面リン脂質の含有量が減少 apoB-100の専有面積が増加する。
- 細胞外基質であるプロテオグリカンとの結合能が強い。
以上の理由により、sd-LDLは血管壁に蓄積しやすく、かつ酸化LDLになりやすいため、動脈硬化を引き起こしやすいと考えられている。
www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/4/43_444/_pdf
sd-LDLの測定
LDL小型粒子は比重が重いためsd-LDL(small dense LDL)と呼ばれる。大型の粒子はld-LDL(large dense LDL)
- sd-LDL 粒子径は25.5nm以下 比重 1.040 – 1.063gml
- 通常のLDL 粒子径25.5nm以下 比重 1.019 – 1.044g/ml
インスリン抵抗性はsd-LDLの生成を誘導する。
www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/4/43_444/_pdf
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%9D%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA
non-HDL-C、dLDL-C、cLDL-C値からのsdLDL-C濃度の推定。
academic.oup.com/ajcp/article/136/1/20/1765955
LDL粒子サイズを小さくする8つの要因
LDLはコレステロールだけでなく、中鎖脂肪酸、脂溶性ビタミン、抗酸化物質をも運搬し、供給する。
しかし、LDL粒子が運搬することのできる量には限りが有り、中鎖脂肪酸の数値が増加するにつれ、コレステロールの運搬量は減少する。
肝臓は多くのコレステロールを体内に運ぼうとするために、多くのLDL粒子を産生する。これによりLDL粒子数が増加し、LDLの粒子サイズは小型化する。
chriskresser.com/what-causes-elevated-ldl-particle-number/
メタボリックシンドローム
最高レベルのLDL粒子数を有する参加者は、最低レベルのLDL-Pを有する参加者よりもメタボリックシンドロームを有する可能性が2.8倍高かった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21960651
30万人規模の研究で、LDL粒子数とメタボリックシンドローム(インスリン抵抗性、肥満、高血圧)との強い関連が見出された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15345795
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16157765
インスリン抵抗性
インスリン感受性はLDLの粒子サイズにほとんど影響を与えない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9361685
高炭水化物食
伝統的に食されている日本や韓国の高炭水化物食は、中性脂肪の増加とsmall-dense-LDLの形成に寄与する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15530146/
血液の高い粘度(高フィブリノーゲン)
高フィブリノーゲン血症は、sd-LDLと関連する冠動脈心疾患リスクの増加に寄与しうる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10728949
甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンはまた、肝臓および他の組織の細胞表面上のLDL受容体の発現を増加させる。甲状腺機能低下症では、細胞上のLDL受容体の数が減少する。
これにより血清からのLDLクリアランスが減少することにより、高いLDLレベルを誘導する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22205712
無症候性の甲状腺機能低下症患者(T4,T3正常、TSH高値)のLDL粒子数は高い。
LDL粒子数は甲状腺ホルモン補充療法後に減少する。
academic.oup.com/jcem/article/97/2/326/2836270
炎症(高CRP)
血症CRPレベルの上昇は、sd-LDL粒子を伴う冠状動脈疾患リスクを高める。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12615259
感染症
コレステロール高値の症例と、Chlamydia pneumoniae、H. pyloriのような十二指腸潰瘍を引き起こす細菌、ヘルペス、サイトメガロウイルス、ウイルス感染と、高コレステロールと関連することがいくつかの研究で示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21454155
CagA陽性ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)感染患者では、ApoB、LDL粒子数、中鎖脂肪酸濃度、高感度CRPが有意に上昇。冠動脈アテローム性動脈硬化症に関与する可能性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20503072
ウイルス性、細菌性感染症は、感染細胞の脂質代謝を直接変化させることが示唆されている。感染を阻止しようとする生体の防御反応により脂質が増加することが研究で示唆されている。
また、LDLは抗菌特性を有し、微生物病原体を不活性化することに直接関与しているという証拠も示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8617867
リーキーガット
リーキーガットが血中のLPSおよびエンドトキシン濃度を上昇させることにより、LDL粒子数を増加させる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC199173/
LDL粒子サイズを大きくしsd-LDL粒子数を減らす
sd-LDLの測定はさほど一般的ではない。LDL粒子サイズを規定する最も強力な因子は中性脂肪(TG)であり、LDL粒子径は、中性脂肪(TG)値と有意な負の相関を示す。
中性脂肪を低下させるアプローチはsd-LDLサイズを大きくさせる可能性がある。
sd-LDL以外ではLDL/Apo B値120mg/dlが目安となる。
中鎖脂肪酸を低下させるライフスタイル
- 体重を減らす
- 適期的な運動
中鎖脂肪酸を低下させる食品
- たくさんの野菜(繊維)
- オメガ3を含む脂肪の多い魚
- オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を含むオイル
- 規則正しい食事のリズム
- 発酵大豆食品
- ナッツ
食物性ステロール
高コレステロール血症小児および若者へのステロールを豊富に含む食事の補給(一日2000mg)は、sd-LDLを減少させ有益な効果をもたらした。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4018958/
食品に含まれるステロール
100gあたり
- ごま 714mg
- とうもろこし 177mg
- 大豆 160mg
- いんげん 127mg
- かんぴょう 118mg
- 小豆 76mg
- ブロッコリー 49mg
- 枝豆 49mg
- いちじく 31mg
www.jfrl.or.jp/jfrlnews/files/news_no57.pdf
中鎖脂肪酸を高める食品を避ける
- アルコール
- トランス脂肪(加工油、加工肉、スイーツ、クリーム)
- バター
- 過剰な砂糖摂取
中鎖脂肪酸を高める薬剤
- コルチコステロイド
- チアジド(利尿薬)
- 非選択的ベータ遮断薬
- エストロゲン
- タモキシフェン
- 胆汁酸封鎖剤
- シクロホスファミド
- 抗レトロウイルス薬
- 第2世代の抗精神病薬
スタチン?
sd-LDLへのポジティブな影響
スタチンは用量依存的にすべてのLDL粒子数を減少させる。
sd-LDLが多い冠動脈疾患患者では、高用量スタチンが効果を示した。
www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/4/43_444/_pdf
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0914508715001756
アトルバスタチン10mg/日3ヶ月間の投与は、プラバスタチンよりも高いコレステルール低下作用を示し、家族性高脂血症患者のLDL粒子サイズを増加させる。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0939475304000092
スタチンの影響なし
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9205026
シンバスタチンはsd-LDLの前駆体であるVLDL1には影響をおよぼさない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8427854
スタチンはsd-LDLの割合を高める
観察研究 スタチン療法は、sd-LDLを減少させない、もしくはsd-LDLの割合を高めることを示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2929871/
中鎖脂肪酸を低下させるサプリメント・薬剤
- フィッシュオイル
- フェヌグリーク
- にんにく抽出物
- グッグル
- クルクミン
- ナイアシン
- フィブラート系薬剤
- スタチン
フィブラート
スタチンとフィブラートの両方が高脂血症患者のsd-LDL粒子を減少させる。
スタチンはsd-LDLを含む総LDLを減少させるが、フィブラートはsd-LDLを特異的に減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17587764
フェノフィブラートの長期にわたる治療は、2型糖尿病患者の中鎖脂肪酸を低下させ、LDL粒子経を増加させる。
care.diabetesjournals.org/content/25/3/627
ナイアシン
スタチン、フィブラートおよびナイアシンがsd-LDL濃度を低下させ、LDLコレステロールを正常化させる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15671087
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15539965
onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1520-037X.2004.3129.x
認知症関連
LDLは血液脳関門を通過しない。しかし高い中鎖脂肪酸と低いHDLコレステロールを有する被験者では、血液脳関門の機能変化により影響を受ける可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23635406
血管性認知症患者の低密度リポタンパク質(LDL)粒子サイズ、および頸動脈内膜厚(IMT)は逆相関しており、独立した危険因子である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15045695
36例のアルツハイマー病患者の1年間の追跡調査 75%にBBB障害、47%に異常脂質血症が見られた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22654903/