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リコード法 タイプ診断
複数のタイプを一人の患者さんがもつことは一般的
患者さんによって、大きく1型、2型、3型という大きな区分を設けることが可能だ。
しかし、実際には一人の患者さんがひとつのタイプに完全に属するケースということはめったにない。
例えば大きくは1型の炎症性という診断であっても、20%はホルモンに問題のある2型、10%は夜間の酸素呼吸に問題がある3型といったように混じり合っていることもある。
そのため、どのタイプに属するかは、ひとつの傾向的な理解として捉えてもらいたい。
治療中のタイプの変化
また、タイプが治療の経過で変わるということもよくある。あるタイプが改善することで、他のタイプの問題が浮き上がってくることはめずらしくない。
1型 炎症性
患者は慢性炎症をもち、炎症がアルツハイマーに反映されたタイプ。
アルツハイマー病の患者の脳内では、炎症性誘導サイトカイン、ケモカイン、急性期反応因子、NF-κBの相互拮抗作用、サーチュインSIRT1(減少)が関与しているとの知見がある。
インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、高ホモシステイン血症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能低下症および高コルチゾール血症などの代謝異常も存在しうる。
アミロイドβペプチドの食作用は、アルツハイマー病患者の炎症により低下する。
他の多発性硬化症や脳炎などの神経炎症性疾患と異なるのは、アルツハイマー病の炎症は先天性免疫系を伴い、ミクログリアの炎症、アストログリアの活性化が含まれ、全身炎症の証拠がある。
ApoE4は炎症誘発作用があるため、この1型と関連性がある。
炎症は不適切な食生活(トランス脂肪酸など)や慢性感染症と関連していることがある。
広範な脳萎縮がない場合は、海馬萎縮を示す。
評価項目
- C反応性タンパク(CRP)が増加
- アルブミンのグロブリンに対する比率が減少
- IL-6が増加
- 腫瘍壊死因子 TNF-αが高値
- NF-κBの活性
- 不適切な食生活
患者が1型の炎症性のみだった場合、炎症を要因となる基底疾患を特定し、後はその鑑別に従ったプロトコルを実践することになる。
炎症性のタイプは、リコード法に良く反応し早い改善を示す。
高血糖、インスリン抵抗性、リーキーガットはこれらに含まれる。
2型 萎縮性
炎症マーカーは増加しないが、他の代謝異常が存在する型
インスリン抵抗性、ビタミンD欠乏症、高ホモシステイン、卵巣摘出に伴うホルモンバランスの崩れ、テストステロン、エストラジオールの減少、ニューロトロフィン低下、などの非炎症性の危険因子。
ニューロンネットワークを支えるのに必要な栄養因子が減少。
これらの危険因子がどの程度アルツハイマー病の病因に寄与するのかははっきりとわかっていないが、理論的なメカニズムは存在する。
(例、ホモシステインは、プロテインホスファターゼ2A(PP2A)機能の翻訳後修飾を介した還元を介してタウリン酸化を増加させるなど、)
評価項目
- エストラジオール↓
- プロゲステロン↓
- テストステロン↓
- インスリン抵抗性↑
- ホモシステイン値↑
- 血清ビタミンD(カルシトリオール)↓
- IGF-1、テストステロン、T3(トリヨードチロニン)↓
- 栄養欠乏
- マグネシウム、亜鉛、カルシウム、カリウム、ビタミンA、B2、B6、B9、B12、C、E
- ApoE4アレルは1または2である傾向
- 早期子宮/卵巣摘出(ホルモン補充療法を行わなかった)の経歴
ホモシステイン、インスリン抵抗性が高いことが多い。
高感度CRP、IL-6は低値であるかもしれない。
低コレステロール
高齢者に多い傾向 70代、80代
2型もApoE4と関連性がある。
2型の萎縮性は、炎症性タイプよりも10年遅く症状が始まる。
炎症性と同様、記憶障害があるが、計算能力や言語機能は保たれる。
炎症タイプと違うのは炎症性マーカーは正常より低い傾向を示すことにある。
細胞の萎縮プログラムが発動された状態にあり、治療の反応は炎症性タイプよりも低い。
1.5型 糖毒性(炎症性と萎縮性の合併)
1型の炎症性の特徴と2型の認知機能を維持する因子の欠乏という特徴をあわせもつ。
もともとは2型に含まれていたが、この混合型が一般的に見られるため後に1.5型に区分けされた。
評価項目
- 血糖値は慢性的に高い。
- 糖質などの過剰摂取、(トランス脂肪酸も含まれる)
- 高血糖によりインスリン抵抗性が生じることによる栄養不良 →2型リスクを増幅
- 1型、2型も含め、脳の萎縮モードが発令されている。
2型糖尿病、2型糖尿病境界型に見られる。
3型 毒性
3型は、1、2型と根本的に異なるプロセスによって生じる疾患であり、毒性に曝露したことによってアルツハイマー病が引き起こされるタイプ。
他のタイプとは遺伝的、臨床的、生化学的に明確に区別がつく。
レビー小体型認知症も3型と関連性がある可能性がある。
特異的な理由が存在し、それぞれが重複していることもある。
3型の発症因子・毒素
- 有害金属(水銀、鉛、カドミウム、ヒ素など)
- 生物毒性(カビ胞子、真菌、エンドトキシン、マイコバクテリア)
- 化学曝露(農薬、BPA)
- 血清銅↑
- 全身麻酔の使用
- 睡眠時無呼吸症候群
大半は一般的なCIRS(慢性炎症反応症候群)の基準と合致していなくても、CIRS患者と似た異常検査値が見出される。
1型、1,5型、2型と明確に臨床症状も、根本原因も異なるタイプ
・ApoE4遺伝子保有者よりもApoE3遺伝子保有者に多い。(陽性のケースもある)
※一般的にはアルツハイマー病の危険因子とされるApoE4陽性が、3型アルツハイマーに限ってはリスクを減少させる可能性もある。
・比較的若い年齢40代後半から60代前半で、大きなストレスの後に発症する。
・症状は記憶の喪失よりも、計算、会話、想起、整理整頓などの認知能力の問題から始まる。
・うつ病や注意欠陥などの精神症状が一般的に見られる。
評価項目
- 海馬領域だけでなく皮質全体に萎縮が見られる
- MRIでFLARE画像の特異的な所見、神経炎症と血液漏出
- 血清亜鉛が低く銅が高い。
- 最初は、前頭側頭型認知症、うつ病、非定型アルツハイマー病と診断される。しかしPET診断や脊椎穿刺の異常からアルツハイマー病となる。
ホルモン異常が見られ、HPA軸が機能障害を起こしている。
- コルチゾールの低値
- リバースT3の高値
- 遊離T3低値
- プレグネノロン低値
- エストラジオール低値
4型 血管性
4型は血管と関係する疾患、アテローム動脈硬化、心血管疾患など。
以前は血管性の認知症はアルツハイマー病とは無関係であると考えられていたが、ここ数年の研究で、血管の異常がアルツハイマー病にも重大な影響を与えることがわかってきた。
アルツハイマー病の患者さんの40%で血管性の問題を抱えている可能性がある。
評価項目
毛細血管の損傷によって引き起こされる。
- ホモシステイン 高値
- リポ蛋白A 高値
- CRP 高値
- エンドトキシン(LPS)高値
- テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン 低値
Hachinski 虚血スコア
www.noge.or.jp/html/2005old/gaiyou/kango-bu/byoutou/suke-ru/hirai.htm
5型 外傷性(TBI)
5型は頭部外傷の既往歴があるケース
自動車事故など、物理的な障害、またはストレスやトラウマによる化学的な損傷により、アルツハイマー病関連のアミロイドタンパクが生成される。
多くの場合一時的な外傷ではアミロイドは除去されるが、例えばアメリカンフットボールやボクシング選手など、慢性的な外傷や脳震盪が続くことによってアミロイドβの蓄積が引き起こされる可能性が高まる。
アルツハイマー病患者の50%で、TBIとは診断されないものの、問診をするとスポーツなど事故歴があることが判明しており、患者はそういったことを自ら述べることはないため、検査されることもなく見逃されている。MRIでの検査は重要。
典型例ではアミロイドタンパクではなく、タウタンパクによる神経原線維変化を特徴とするアルツハイマー病と関連する。
萎縮性のタイプ2と部分的に関連しており、シナプス形成へのサポートが必要。
参考
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4789584/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4586104/