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MCI・初期・中期・末期でのリコード法
概要
リコード法の効果を判断することの難しさ
リコード法が難しいという以前の問題として、リコード法を行って本当に改善するのかどうか、多くの人が気になるところだろう。
しかしリコード法の改善可能性は、いわゆる36の穴がどこにあるのか、どれだけあるのかを知る検査を行うことは当然のこととして、家族の協力、本人の意志、協力的な医師の存在、経済的コストなど多くの環境要因も関係してくる。
その判断は本人や家族はもとより、リコード法の医師や関係者であってもむずかしい。
患者さんによって異なる難易度と目的地
「リコード法で認知症は改善しますか?」という質問は「歩いて山に登れますか」という質問に似ている。
患者さんによってその難易度は「富士山へ登る」~「エベレストへ登る」ほどの違いがあり、達成基準も山頂への登頂を目指すのかトレッキングをするだけなのかでも大きく異るからだ。夏季の富士山なら、誰の力も借りずに一人で登れる人が多いのではなかろうか。
エベレストは、完全に無理だと思った方もいるかもしれない。しかし周到に計画しお金をかけて人的、物的サポートを利用することで、イメージされているよりも一般の方でも登れる山にはなってきている。(そういった意味もを込めてエベレストとしている。)
リコード法も似たようなところがある。サポートと本人のやる気、ある程度の予算があれば厳しいケースでも実行は可能だ。問題は日本国内ではそのサポート体制がまだ未整備であり不十分な項目を各自で埋めていかなければならないことだ。
これは(もっとも難しいケースでは)自力でエレベストに登りなさい、と言っているようなものだ。。
取り掛かるタイミング
難易度を決定する大きな要因のひとつとして「リコード法の開始時期」がひとつあげられる。早ければ早いほど、改善回復の見込みは高まる。
では、アルツハイマー病が進行したケースではどうすればよいのか、リコード法を取り組んでも駄目なのだろうと考えられる方も多いだろう。
また、MCI・SCIと比べると、初期・中期・後期と後半になるほど単に実行の難易度が高まるだけではなく、改善可能性の度合いの予測も難しくなる。
ただし、登山の比喩で述べるなら、登頂(完全な完治)を諦めるとしてもなお登る(QOLを目指す。進行の低下を遅らせる)というトレッキング的な選択もあるということは伝えておきたい。
攻めのリコード法・守りのリコード法
もう少し簡単な言い方をすると、リコード法には攻めのリコード法と、守りのりコード法がある。
攻めのリコード法は、単に維持するだけではなく改善、そしてその改善された状態を長く続けていくことを目的とする。本来のリコード法といってもいい。初期までであれば一般の健康な高齢者のレベルにまで回復することを意味する。
守りのリコード法はこれは管理人の造語だが、撤退戦だ。短期的には改善することもあるかもしれないが、長期的には進行は止められない。リコード法を実行することで本来の進行よりも遅い速度で低下していく可能性は高いし、その条件であればそれほど難しいことではない。
しかし、守りのリコード法(撤退戦)は、単に低下を遅らせるだけではなく、認知機能がスコアテストでは低下しても患者本人の人格をできるだけ保ち、一般に起こりうる興奮や攻撃的な態度を和らげ、夜間の睡眠もしっかりとってもらうことで、介護者の共倒れを防ぐことを重点におくものと定義したい。一言で言えば進行スピードの低下とQOLの改善だ。
以下、管理人がこれまで得た情報、経験を元に、その改善可能性とステージごとの課題について考えられることをありのままに書いてみた。
主観的な意見と表現が多分に含まれているため、あくまで判断材料のひとつとして参考にしてもらいたい。またリコード法は進化し続けているため、あくまで現時点での(2019年)改善可能性を反映させた情報であることも留意してほしい。
SCI・MCI 軽度認知症障害
SCI・MCIで実行しないという選択肢はない
SCI、MCIであればブレデセンプロトコルは、100%すべきと断言できる。
ブレデセンプロトコル(リコード法)を行ってもっとも大きな改善結果を得られるのは、SCI、MCIの患者さん。
リコード法と言わずとも、少なくともそれらに準ずる代謝障害への改善治療、取り組みは行うべきで、行わないのは無知か狂気のどちらかとしか思えない。
いやそれは選択だと言う考え方もあるかもしれない、しかし、その選択によって生じる甚大な結果を鑑みると、それは考え方というよりも思想。
そのような自由主義的思想に基づいて選択しないというのなら反対しない(むしろ尊重する)、しかし、それならオートバイのヘルメット着用義務もなくして選択にするべきだ、これはそのレベルの話。
そしてもっとも実行されない SCI・MCI、、
一方で本人の症状が深刻ではなく、皮肉にもリコード法に取り組もうというモチベーションがそもそも働かない。
またリコード法に取り組むとしても、コグノスコピーの検査を省略したりと、多くの方がまだMCIだからと、検査をしないまま不完全に実行してしまう。
おそらく、SCI、MCIの最大の課題は深刻さの欠如と実行率の低さだろう。
症状は軽度でも実は末期
SCI、MCI(軽度認知症障害)という言葉が非常に良くないのだが、
軽度というのは症状が軽度にすぎないということであって、
細胞レベル、分子レベル(病理学的には)ではすでに末期。
こういった体感的な症状と実際の進行のギャップが激しい病気であることが世間的に認知されていないことが災いし、「まだ自分は軽度だからそんなたくさんの検査もいらないし、治療そこまで必要ないだろう」と判断されてしまう方がほとんど。
医療関係者もアルツハイマー病は治らない病気だという認識であり、SCI、MCIについても診断自体がむずかしく、アルツハイマー病への進行を抑制できる実証された改善方法はないという考えが支配的になってしまっていることが大きく影響している。
これは、ブレデセンプロトコルの問題というよりも、これまで認知症の実態に蓋をしてきたわれわれ社会の側の問題であろう。
認知症ロシアンルーレット
人によってどの程度リコード法を実行すべきか、開始時期だけではなく、タイプなどによっても大きく異なる。
例えば3割程度の実行率でも、実際発症を食い止めることはある。
そのため検査ができないからといってやらないのではなく、やはり実行しておいたほうがよいことには間違いない。ただし、そのことがわかるのは発症後だ。。
これは認知症ロシアンルーレットをしているようなもの、、
SCIだから、MCIだから検査は不要とは考えず、可能な限り検査を行い、リコード法水準のアプローチを実行してほしい。
リコード法改善事例<MCI>
健忘性軽度認知症障害(MCI)実行機能障害
健忘性軽度認知症障害(MCI)計算障害
健忘性軽度認知症障害(MCI)
健忘性軽度認知症障害(MCI)実行機能障害
健忘性軽度認知症障害(MCI)脳萎縮
www.omicsonline.org/open-access/reversal-of-cognitive-decline-100-patients-2161-0460-1000450.pdf
アルツハイマー病初期
一定の人たちで大きく改善
初期の患者さんでは一定の人たちで改善が認められている。具体的な改善率は明らかになっていない。米国でも患者さんによって実行率が20%であったり80%であったりとバラバラであるため、その中で平均的な改善率を算出することが無意味と判断したのかもしれない。
初期の開始時期にもよるが、リコード法の実行が100%に近いレベルでなされるなら85~90%程度の改善率があり、辞めた仕事への復帰といったレベルにまで改善することは、けして特殊な事例ではないようだ。
リコード法をどこまでできるか
問題は、特に日本では完全なリコード法を実行することはむずかしく、不完全なリコード法でどこまで改善してくれるのかということだ。
リコード法の障害、難易度を決定する要因は多くあるため、このことの判断自体もむずかしい。
自分の経験の範囲だと、不完全ながらもとにかくスタートを切り、その後積極的に学習して、自分のバイアス(思い込み)を利用しつつも修正していくポジティブなタイプの参加者は、いくつか上記の記事に掲げる障害があったとしても乗り越え改善を示す人たちが多い。メンタルな要素、患者との関係性も大きい。
ただ検査で障害に見落としがあると、長期的には改善に一定の歯止め感が生じるように見受けられる。(なのでやはり検査が大事)
進行抑制としてのリコード法
それより不完全なリコード法であっても、中期への進行を食い止める可能性は十分にある。 少なくともアリセプトなどの抗認知症薬よりもQOLと進行を先延ばしする可能性は十分にある。(さすがに「サプリを3つ摂ってブロッコリーを食べるようにしました」というのでは無理だが。。)
中期がもっとも介護者がつらい時期を過ごすと考えられているため、それ以上の進行を食い止められるのであれば、たとえリコード法が十分にできないとしても、やってみるべきだろう。
個人差、そして環境的な運の要素も含むため単純には言えないが、検査と実行率によってその後の改善率が敏感に変動し、また体感的な意味での利益を感じやすいのがこのステージの方たち。
リコード法改善事例<初期>
健忘性アルツハイマー ApoE3/3
健忘性アルツハイマー ApoE3/4 実行機能障害、計算障害、灰白質の萎縮
健忘性アルツハイマー ApoE4/4 海馬容積1パーセンタイル以下
健忘性アルツハイマー 実行機能障害
健忘性アルツハイマー ApoE3/4
www.omicsonline.org/open-access/reversal-of-cognitive-decline-100-patients-2161-0460-1000450.pdf
アルツハイマー病中期
判断がもっともむずかしい
アルツハイマー病中期または後期、そして80歳、90歳の高齢者では、実行にかかる時間やコストと得られる対価の判断が、技術的にも倫理的にもむずかしくなる。
まず、中期・後期では検査によって問題をすべて特定する必要がある。このこと自体が国内では簡単ではない。
またリコード法の実行そのものに対して、本人の実行能力も進行にともなってより低下するため、その分だけ周囲のサポートも必要になる。
根治療法的なBPSD対策として
中期では一部で相当な改善(日常生活の多くが自分で行えるレベル)を示す患者さんも少なからず存在する。
アルツハイマー病中期はもっと大変な時期とも言われているため、踏み込んで実行できる場合には、BPSD(認知症の行動・心理症状)の緩和の観点から大きな利益があるかもしれない。
これは中期・後期に限らないが、リコード法を実行している家族の方が、患者さんとそれまでモヤがかかったような意思疎通であったのが、再び感情面での交流ができるようになったという声をよく聞く。
また、そういった報告をされた方が必ずしもリコード法を必要十分に行っているかというと、そういうわけでもない。
介護殺人に至った介護者へのインタビューなどで「介護をそのものよりも家族である患者と意思疎通ができないのが一番つらかった」という声もよく耳にする。この意義は、けして認知機能評価テストなどでは測れない。
そのため、完治を目指すというよりも、妻の失われた人格を取り戻す、夫と再び交流を交わしたい、攻撃的であったり興奮する症状の緩和をより根治療法的に目指すという方向で検討してみることをおすすめしたい。
特異的3型の著効例?
リコード法患者の中期から著効例のいくつかは、毒素が大きく関係していて中期に差し掛かったケース。
例えば、その他の代謝障害が大きくは進行していないにもかかわらず、マイコトキシンなどの毒素によって大きく認知機能が低下し中期と診断されたケースでは、その原因が取り除かれることで、大きな改善を示しているパターンがひとつとあるようである。
将来の見通しも含めて
ひとつ考慮しておいたほうがよいことに、リコード法の実行により改善とともに、初期や中期の状態で現状維持される可能性もある。
その場合、介護の立場として最も大変な中期の時期が長く続いてしまう可能性があり、また維持費用についても踏まえておく必要があるだろう。
リコード法改善事例<中期>
健忘性アルツハイマー ApoE 3/3
・53歳女性 MoCA:10→16点
・81歳女性 MoCA:10→12点 主観的に著しい改善
・62歳女性 MoCA:9→17点 仕事に復帰
アルツハイマー病 複数の障害
・78歳男性 MoCA:9→13点 服を着替えられるようになる
健忘性アルツハイマー 実行機能障害
www.omicsonline.org/open-access/reversal-of-cognitive-decline-100-patients-2161-0460-1000450.pdf
アルツハイマー病 重度/末期
どれだけ末期でも改善しないというルールはない。末期でも改善する患者さんを見てきている。
ブレデセン博士
MoCA:0~4点 MMSE:0~11点 (重度)0~10点
目指す目標の違いを理解する
大きな回復を目指そうとすれば、当然中期よりも難易度は上昇する。しかし、このステージで目指すべきはMoCAやMMSEの上昇というよりは、進行抑制して延命してもらう・または患者の症状や苦痛を和らげる、介護者の負担を緩和するといった対症療法的な改善が主となるかもしれない。
そういったことが理解され、周囲でできることを淡々とやってみるという選択であれば、割り切りゆえの容易さがあるとも言えるかもしれない。
例えば寝たきりだった患者さんが歩けるようになっただけでも、大喜びをする介護者さんもおられる。このステージでの介入の是非は改善可能性だけではなく介護者さんの感じ方、受け取り方という要因も大きいように個人的には感じている。
限定的な改善可能性に努力を注げられるか
アルツハイマー病後期においては、リコード法を実践して完全に復活したという事例は今の所存在しない、しかし例えばMoCAという認知機能評価テストで0点であった患者さんが5~9点にまで上昇したという臨床的には非常に大きな改善例が、一般化はできないものの複数報告されている。
完全な回復は示さないとはいえ、改善した事例では喋ることができなくなっていた末期の患者さんが、「再び喋ることができるようになった」、「簡単なコミュニケーション、意思疎通がとれるようになった」など、リコード法を行って良かったという患者さん家族もけして少なくない。
一方で、(中期でも少し言及したが)大きな改善を示し当初は感激はしたものの、介護負担が長期間持続する可能性が生じてきたことで、複雑な心境に立たされている家族の方もいる。
リコード法を始める前に
患者さん本人がなぜリコード法を実行しているのか理解や記憶ができない中で、無理やり実行を押し通そうとしても、本人はやる気もなく、介護全体が行き詰まってしまう。
- 本人・家族、介護者関係者全員の理解と納得
- リコード法がどの程度実行できるか
- 改善または進行抑制した後の介護者、家族を含めた人生設計、予算
この判断自体が難しいためこのように言うことも心苦しいのだが、中期・後期の方はこの3点を、特に家族間で可能な限り明確に話し合って取り組まれることが望ましいだろう。
そして、リコード法の実行をある時点であきらめる時もある。
リコード法改善事例<末期>
・74歳男性 MoCA:0→3点 (4.5年改善を維持)
ApoE 3/4 健忘性アルツハイマー
MRI 海馬容積ボリューム <1パーセンタイル
・57歳男性 MoCA:0→5点 MSQ:36→16
・50歳男性 MoCA:0→9点 (浴室を使えるようになる)
・63歳女性 MoCA:3→4点 (主観的に著しい改善)