PACAP
概要
※PACAP = Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide
ja.wikipedia.org/wiki/下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)
PACAPは血管作動性腸管ペプチド(VIP)と類似する作用をもつ、神経ペプチドの一種。
PACAPに対応するPAC1、VPAC、VPACの3つの受容体が存在する。
PACAPは特異的受容体であるPAC1受容体に結合し、cAMPレベルを上昇させる。
PACAPは膵島から分泌されるインスリン分泌調節因子であり、知られている物質の中では、膵臓β細胞のインスリン分泌をもっとも強く促進する。PAC1は下垂体刺激ホルモンとしても機能する。
多彩な神経保護作用をもつPACAP
PACAPは神経組織を中心に幅広く分布する。当初ADNPを活性化させるペプチドホルモンとして発見されたが、その後の研究で、神経栄養因子、神経保護、神経伝達物質、免疫調節剤、血管拡張剤として作用、αセクレターゼを強力に活性するなど、多彩な生理学的作用に関わることがわかってきた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3157688/
アルツハイマー病患者で減少するPACAP
PACAPの特異的受容体であるPAC1は、アルツハイマー病で障害を受けた中枢神経系領域に局在する。ヒトの死後の解剖研究では、アルツハイマー病患者の皮質のPACAPはアルツハイマー病ではない正常な脳と比較してPACAの発現が減少していたことが観察された。
n.neurology.org/content/82/10_Supplement/I11-1.010
ADマウスの嗅内皮質、中間頭部回、上前頭回、および一次視覚野を含む複数の脳領域にてPACAPが減少。
アルツハイマー病の重症度とPACAPには密接な関係があり、PACAPのダウンレギュレーションがアルツハイマー病発症に寄与している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24719484
PAC1受容体のアップレギュレーション
PACAPは、軽度認知障害(MCI)のステージで低下し始める。
PACAPの減少は領域特異的であり、上前頭回(SFG)、中側頭回(MTG)のPACAPレベルが認知能力と最も強い相関があることを見出した。
PACAP受容体であるPAC1は、MCI患者の前頭葉においてアップレギュレーションを示しており、アルツハイマー病患者では見られないことから補償応答が働いている可能性が示唆される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5924703/
認知機能と逆相関するPACAP
脳脊髄液、上前頭回、中側頭回におけるPACAPレベルは、認知症の重症度と逆相関している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5924703/
PACAPの神経保護効果
ADマウスへの長期の鼻腔内のPACAP適用は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の非アミロイド形成性プロセシング、脳由来神経栄養因子、抗アポトーシス性Bcl-2タンパク質の発現増加を刺激、糖化最終産物RAGEの強力な減少を引き起こした。
PACAP、ソマトスタチン – ネプリライシンカスケードの活性化により、マウス脳におけるAβ分解酵素ネプリライシンの発現も増強された。
ミエリンの成長と合成
PACAPとVIPは、ラットのミエリンたんぱく質の発現を増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24246222
ADNP発現を刺激するPACAP
PACAPが強力にADNPミトコンドリアRNAの発現を刺激する。
www.ihop-net.org/UniPub/iHOP/gs/119322.html?ID=119335
IL-6の分泌による神経保護作用
PACAPは、アストロサイト、ミュラー細胞からIL-6の分泌を促進する。
IL-6は炎症性サイトカインとして知られるが、MPO活性の抑制、脳血液関門の完全性の保護など、脳虚血障害において神経保護作用を示すことが明らかになっている。
www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.111.626648
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4471691/
概日リズムに関わるPACAP
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19109992
PACAPの受容体PAC1受容体の欠損は、マウスの視交叉上核におけるVIP mRNAの概日リズムを変化させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17196185/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12086606/
大うつ病障害と関連するPACAP遺伝子変異
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19914336
PACAPを増やす
ジンセノサイドRh2
ラットのアストロサイトにおけるPACAP遺伝子発現および細胞増殖の刺激
www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK92776/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3659622/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18313848
ミノサイクリン・ドキシサイクリン
ミノサイクリンはPAC1受容体へのリガンド結合を促進させ、PAC1受容体の活性化を増強させる。
linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0028390815301969
慢性ストレス・不安
ラットへの7日間の慢性的ストレス曝露は、PACAP、PAC1受容体、BDNF発現の劇的な増加を示した。(分界条床核のPACAP発現を選択的に10倍増大)
※分界条床核は嫌悪や不安、恐怖などの不快な情動の生成に関わる。
VIP、VPAC受容体、その他のストレスペプチドは対照と比較して変化を示さなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19181454
BDNF
ラットのPACAP発現は、内因性のBDNFによって誘導される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24968020
黄体形成ホルモン(LH)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19926922
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19342443