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概要
プリオンとはタンパク質でできた感染性因子。プリオン仮説によると異常に折り畳まれたタンパク質(ミスフォールディングプロテイン)が、DNAや核酸を介さず正常な構造のタンパク質を同様の異常構造に変えていくことで伝播する性質をもつ。
狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病などの感染因子を説明する用語として用いられてきたが、その伝播する仕組みはまだ明確に解明されていない。
プリオンと神経変性疾患
近年の研究で、神経変性疾患におけるアミロイドβ、αシヌクレイン、タウ、TDP-43などの異常タンパク質が、プリオンと類似して伝播(プリオン様伝播)することが報告されており、アルツハイマー病を含めた神経変性疾患の発症メカニズムのひとつとしてプリオン仮説が浮上してきている。
実際、プリオンの病原性は、プリオン自身の感染増殖能力だけではなく、その結果生じるアミロイド原繊維の指数関数的自己増殖によって生じる可能性がある。
同様に、神経変性疾患において見られる病原性のアミロイド凝集体が毒性をもつことは十分に実証されているが、このアミロイドの自己増殖的な過剰産生に、このプリオンが関与していることがいくつかの研究において支持されてている。
正常型プリオンタンパク質 (PrP C)
Prion Protein (cellular and common) = PrP c
脳や心臓、肝臓、など多くの組織、臓器において発現が認められているが、特に脳、神経細胞において高い発現が認められる。
プリオンの神経保護作用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17573534/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5489426/
神経新生
PrP cのニューロンにおける成長因子としての働き
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16313516/
アポトーシスの抑制
プリオンPrP cはストレス誘導性タンパク質1(STI1)と相互作用により、細胞死を防ぐ神経保護シグナルを誘導する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16339028/
抗酸化作用
PrP CはSOD活性を有し、ニューロンを酸化ストレスから保護する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28413194
銅の緩衝材
PrP cは銅と結合することにより銅の緩衝材として働く。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11214928/
NMDA受容体阻害
PrP cは銅イオン(Cu2+)との親和性が高く、NMDA受容体の調節阻害作用により神経保護作用を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25490055
α7ニコチン性アセチルコリン活性
α7ニコチン性アセチルコリン受容体の活性化はPrP c発現によって調節され、オートファジーを活性化することにより神経保護効果をもつ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26295309
低酸素
PrP cのもっとも支持されている機能のひとつは、低酸素損傷に対する神経保護。脳虚血後PrP c発現がアップレギュレーションされることが報告されており、PrP cの過剰発現は虚血性モデルマウスの梗塞体積を有意に小さくする。一方で癌の侵襲性を促進する可能性をもつ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28066187
免疫機能
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16968391/
アミロイドβプリオン(Aβ-PrP)の神経毒性
一方で正常型プリオンタンパク質(PrP c)は、アミロイドβオリゴマーの細胞表面受容体として同定されており、アミロイドβオリゴマーの神経毒性を伝達させる作用ををもつ。アルツハイマー病においては(PrP sc)とアミロイドβオリゴマーが結合することで、BACE1阻害タンパク質の妨害により、アミロイドβ産生が増加する。
脂質ラフトは海馬ニューロンに強く集中しており、アミロイドβオリゴマーと細胞プリオンタンパク質(PrP c)が相互作用することで記憶障害を誘発する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20445063/
アミロイドβからアミロイドβプリオンへの移行
アルツハイマー病の疾患プロセスにおいて、アミロイドβがアミロイドβプリオンに移行しアミロイドβプリオンが拡散することにより疾患症状が悪化する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16148934
矛盾する研究結果
(PrP c)の除去または過剰発現が海馬シナプスの可塑性、オリゴマー誘導による記憶障害に関与しない研究も存在し議論と的となっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20665634/
アミロイドβモノマー・原繊維との結合
これらはアミロイドβオリゴマーのサイズおよび立体配座の違いによって生じている可能性がある。最近の研究ではプリオン(PrP c)はアミロイドβオリゴマーではなく、プロトフィブリルと高い親和性を有することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26719327/
プリオン(PrP c)の治療標的
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4204584/
感染型プリオンタンパク質 PrP Sc
Prion Protein scrapie (cellular and common) = PrP sc
プリオンタンパク質(PrP Sc)は、正常型のプリオンタンパク質(PrP C)形状を変化させて、感染性のアイソフォームに変換させる能力をもつ。(ScのSはスクレイピー)変換されたプリオンタンパク質(PrP Sc)はさらに別の(PrP C)を変換させてゆくことで指数関数的に増殖し伝播していく。このメカニズムはまだ解明されていないが複合的要因により生じる可能性が示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20445063/
(PrP c)も(PrP Sc)もアミノ酸配列は同じだが、(PrP C)は分子構造が定義されているのに対して、(PrP Sc)の三次元構造は分散型であり、さまざまな種類があるが明らかになっていない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16148934
プリオンの驚異の耐性
プリオンを失活させることは非常に難しい。プリオンタンパク質はβシートが3%しか含まれていないにも関わらず43%が織り込まれいるため、タンパク質の分解に対して非常に強固な耐性をもつ。プリオンはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)による消化に耐え、乾燥や化学薬品による処理を行っても数年間感染性を維持する。200度の温度に1~2時間耐えることが可能であり電離放射線に対しても耐性を有する。
プリオンの概日リズム
PrP mRNA発現はメラトニン合成(ZT18~20)に先行して、ZT14にピークに達する。PrP Cがノルアドレナリン作動性、ドーパミン作動性シグナル伝達、メラトニン合成に影響を及ぼすメカニズムを有する可能性を示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29149024
加齢によるプリオン活性
アルツハイマー病ヒト脳において、アミロイドβ、タウのプリオン様活性は寿命と共に低下する。
stm.sciencemag.org/content/11/490/eaat8462.short
脳アミロイドのシード仮説
赤 アミロイド形成 青 たんぱく質凝集
- A 内因性のたんぱく質が生理学的な条件下ではアミロイドは形成されず、たんぱく質凝集も誘発しない。
- B プロテオスタシスネットワークにより除去されるため、アミロイドは効率的に形成されず寿命までに逃げ切れる。
- C シードが効果的作用すると、アミロイド形成を高めマウスの加齢に伴ってたんぱく質を凝集させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3963807/
プリオノイドと神経変性
多くの細胞内たんぱく質は病理学的な凝集を起こしやすいだけではなく、隣接する細胞に伝染することがあるという考えが支持されつつある。
- プリオン病(PrPsc) 感染する
- アルツハイマー病(アミロイドβ) 感染する
- タウオパチー(タウ) おそらく感染する
- パーキンソン病(αシヌクレイン) 宿主から組織へ
- 全身性アミロイドーシス(SA) 感染する
- ハンチントン病(polyQ) 感染する
- 2型糖尿病(IAPP) ??
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20064386
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22312444
- A アミロイドβ/老人斑(アルツハイマー病)
- B タウを含む神経原線維変化(アルツハイマー病)
- C αシヌクレイン(パーキンソン病、レビー)
- D TDP-43(ALS)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3963807/
αシヌクレインのプリオン様伝播
不溶性α-シヌクレイン原線維のマウスへの脳内注射は、プリオン様増殖機構を介して内因性マウスα-シヌクレインの凝集を誘導し得る。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23466394/
TDP-43
プリオンドメインは一般的にミスフォールディングを起こしやすいが、TDP-43のミスフォールディングによる病理学的変異は特にプリオン様ドメインによって引き起こされる傾向を高める。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006899312000546
プリオン障害の治療標的
αセクレターゼ活性
Aβ-PrP c下流メディエーター活性化防止のためのαセクレターゼ活性標的
www.j-alz.com/editors-blog/posts/prion-protein-and-alzheimers-disease
www.natureasia.com/ja-jp/nm/pr-highlights/8645
αセクレターゼ活性
- 運動
- レスベラトロール
- EGCG
- セレギリン
- ジンセノサイドRe
- ラクトフェリン
- アトルバスタチン
- クリプトタンノシン
ADAM10酵素活性(αセクレターゼ活性酵素)
- クルクミン
- レスベラトロール
- アセチル-L-カルニチン
- メラトニン
- ビタミンA
- ジンゲロール
- メタロチオネイン3(MT3)
- ドネペジル
- スタチン
HSP70
HSF1活性化剤と、Hsp90阻害剤の組み合わせによるHSP70を誘導。これらの二つの薬剤の相乗効果により、ショウジョウバエのHSP70が二倍に上昇し、PrPを50%減少させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3921213/
プリオンフィブリル切断活性を有するHsp104にはHsp70が必要
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3413357/
- バコパ・モンニエリ(ストレスがない時)
- テプレノン
- スカルキャップ
- 芍薬
- アップルサイダービネガー
- グルタミン
- 朝鮮人参
- 初乳
- にんにく
- HSP入浴法
- ベータアラニン
- L-アラニル-L-グルタミン
- シサンドラ・シネンシス(シサンドリンB)
https://alzhacker.com/hsp/
Sirt1活性
Sirt1活性は、プリオンタンパク質が介在する神経細胞死を調節することにより、神経保護効果をもつ可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21074897/
緑茶カテキン EGCG
EGCGのSirt1活性化経路によりプリオンが介在する神経毒性に対する神経保護効果を有する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4496391/
- レスベラトロール
- リポ酸
- ニコチンアミドリボシド
- クルクミン
- ゴツコラ
- 亜鉛
- ビタミンD
- オリーブオイル
- DHA
- PQQ
- 運動
- cAMP活性剤 フォルスコリン
- プテロスチルベン
- EGCG
- ケルセチン
- ニガウリ
- NAD活性剤
- アピゲニン
- ロイシン
- フルクトース
- フィセチン
- リコピン
- 概日時計(BMAL1、PER2)
- LLLT
- CREB
- C/EBP-α、β抑制(ザクロ)
- 寒さ
- ニコチン
- メトホルミン
- アスピリン
- PDE5阻害剤
金属キレート・金属ホメオスタシスの改善
これまでの疫学的研究は、マンガン、銅、鉛、鉄、水銀、亜鉛、およびアルミニウムなどの職業上の曝露は、神経変性疾患およびプリオン様疾患の発症の危険因子であることが示されている。
PrP cのプリオン増殖の詳細な仕組み、機能は謎のままであるが、いくつかの機能は遷移金属イオンと結合する能力と関連したいた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27581199/
金属イオンはPrP cに対して異なる親和性で結合することができ、(PrP c)→(PrP Sc)変換へ影響をおよぼす。
銅
銅欠乏食はプリオン病感染マウス生存期間を短くする。しかし銅を豊富に与えられマンガンを不足させたマウスでは大幅な生存期間の延長が観察された。
一般にマンガン量の変化はマウスの生存期間には有意な影響を与えない。
銅がプリオン病を防ぐのか促進するのか不明なままであるが、銅がPrP cおよびPrP Scの切断において非常に複雑な役割を果たすことを支持する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19635464/
多くの研究がPrP cによる銅恒常性への関与を示唆している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12859667/
細胞外の銅濃度はPrP c量に強く急速に影響を及ぼす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15670838/
デオキシコール酸の条件下でPrP cとマンガン(Mn2+)が結合したPrP-Mn複合体は、PrP res形成の補因子となりうる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15758042/
マンガン
マンガンは自然発生的なPrP Scへの変換を誘導する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19844576/
マンガンキレートはプリオン感染マウス脳のPrP Scレベルを減少させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20456001/
マンガン濃度の増加は銅濃度と逆相関する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11579148/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11829763/
亜鉛
(PrP c)は亜鉛(Zn2+)とも結合するが、銅よりも低い親和性を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5243831/
遺伝子サイレンシング転写因子(REST)
リチウム
リチウムは部分的にRESTを介して、プリオン誘導による神経毒性からニューロンを保護する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28545972
プリオン障害の治療標的・化合物
胆汁酸
胆汁酸はプリオン病モデルマウスにおいてPrP cからPrP Scへの変換を減少させることが見出されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25972546
胆汁酸の高用量投与(1.2 g/kg /日)は有益ではない。マウス
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29784843
0.03〜0.05g/kg/日
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19935406/
TUDCA(タウロウルソデオキシコール酸)
TUDCAの多彩な治療効果
ROS産生の阻害、ERストレスの減少、ミスフォールディングタンパク質の安定化、アルツハイマー病などの神経変性疾患における抗アポトーシス剤、糖代謝の改善、
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4030606/
ALS治療におけるTUDCA
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5024041/
ジンセノサイドRg3
ジンセノサイドはオートファジーフラックスを介してニューロンのPrP 誘導細胞障害を保護しミトコンドリア損傷を軽減することが示された。in vitro
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27911875
バイカレイン・バイカリン
ブルースカルキャップに含まれる成分は(PrP Sc)形成を阻害し、濃度依存的にすでに形成されたPrP Scフィブリルを不安定化させた。 in vitro
バイカレインは血液脳関門を通過することができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3281244/
フコイダン
海藻のフコイダンは(PrP Sc)腸内感染後のマウスの疾患発症を遅らせる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17438058/
ラクトフェリン
ラクトフェリンはミトコンドリア機能障害を予防することにより、神経細胞におけるプリオンタンパク質誘発性の細胞死を防ぐ。
www.spandidos-publications.com/ijmm/31/2/325
キナクリン(マラリア治療薬)
キナクリンによる(PrP Sc)への矛盾する効果。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4000840/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4211922/
来なくリンのアミロイドβ40原繊維形成阻害効果。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18330854
フルピルチン(非オピオイド鎮痛剤)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3339720/
フルピルチンのN-メチル-d-アスパラギン酸拮抗作用による神経保護効果、
クロイツフェルト – ヤコブ病、アルツハイマー病、多発性硬化症治療への展望。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19505216
プラバスタチン
シンバスタチン治療は、スクレイピー感染マウスの生存率を有意に増加させた。(超高用量)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19282428/
スタチンの利益なし
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5721927/
セファロスポリン系抗生物質セフィキシム
newatlas.com/alzheimers-antibiotic-drink-yale-polymer/57848/
www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(18)31932-6
トラゾドン ジベンゾイルメタン
en.wikipedia.org/wiki/Trazodone
en.wikipedia.org/wiki/Dibenzoylmethane
www.bbc.com/news/health-39641123
抗うつ薬である塩酸トラゾドンと、抗がん剤として試験されている化合物であるジベンゾイルメタン(DBM)は、プリオン病マウスのほとんどの脳細胞損傷サインの出現を防ぎ、FTDマウスの記憶を回復させた。さらに両方のマウスモデルで、薬剤が脳萎縮を減少させた。
トラゾドンは認知症の後期の患者の症状緩和治療に使用されているため、これらの患者に安全であることがわかっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5445255/
2000の医薬品と天然物のスクリーニング
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12970413/