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MTHFR遺伝子(C677T,A1298C) 認知症・アルツハイマー
概要
MTHFRとはmethylenetetrahydrofolate reductase = メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の英語を頭文字で表したもの。
5,10メチレンTHFを5メチルTHFに変換する際に必要となる酵素。
※MTHFRは通常酵素を指すが、遺伝子を意味する場合もある。
MTHFRは体内の重要な酵素で、DNAを修復し、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする代謝プロセス。DNAのメチル化回路に関わる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27973419
DNAメチル化回路の主な役割
- 解毒作用
- 免疫機能
- DNAの発現
- エネルギー産生
- 気分、情緒の安定
- 炎症コントロール
DNAメチル化の機能低下と関連する慢性疾患
- 循環器疾患
- 癌
- 糖尿病
- 神経疾患
- 自閉症、他のスペクトル障害
- 慢性疲労症候群
- アルツハイマー病
- 妊娠中の流産、その他妊娠に関わる問題
- アレルギー、免疫系、消化器系の問題
- 精神障害
- 老化
葉酸代謝・メチオニン代謝へ影響をおよぼす要因
代表的なMTHFR遺伝子
ヒトのMTHFR遺伝子は30種類以上が存在すると研究者によって推定されている。
もっとも研究されているMTHFR遺伝子は、以下の3つ
・C677T rs1801133
・A1298C rs1801131
・G1793A rs2274976
MTHFR突然変異には突然変異対立遺伝子が一つあるヘテロ接合型と、
突然変異対立遺伝子2つのコピーがあるホモ接合型がある。
※ヘテロは異なる、ホモは同じ、という意味
C677T(A222V)
www.snpedia.com/index.php/Rs1801133
rs1801133(C; C) 正常
MTHFR C677T = ヘテロ接合型(1つの変異)
メチル化効率は60~70%に低下する。
MTHFR C677T = ホモ接合型(2つの変異)
メチル化効率は10~20%に落ちる。
ホモシステイン高値、B12および葉酸値が低値、より重篤性が高い。
※C677T ホモ接合型 = T677T (C677TはMTHFR遺伝子を意味する場合と、変異を意味する場合がある。)
C677Tと関連する可能性のある疾患
- 認知症、うつ病、偏頭痛
- ADHD、統合失調症、パーキンソン病、聴覚障害、てんかん
- 自閉症スペクトラム障害、糖尿病腎症、抹消腎疾患
- AA 男性の不妊症(アジア人集団)
- 心臓血管疾患、脳卒中、心臓発作、深部静脈血栓症
- 白内障、脱毛症
- 大腸炎の重症化
- がん(前立腺がん、卵巣がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、脳腫瘍、肺がん、腎臓癌、結腸癌、頭頚部がん)
- ホモシステイン高値
A1298C(E429A)
www.snpedia.com/index.php/Rs1801131
・rs1801131(C;C) 葉酸代謝の障害
アルツハイマー病および血管性認知症の発症確率に関与
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22015309
脳脊髄液のアミロイドβのレベルと有意に関連
G1793A
・G1793A rs2274976 (G;G) 正常
G1793Aのヘテロ接合性遺伝子は、葉酸およびビタミンB12濃度の境界型また欠乏レベルを示した。G1793A突然変異のヘテロ接合性遺伝子型を有する2型糖尿病患者の高ホモシステイン血症およびビタミン欠乏症は、毎日の葉酸補給によって正常値に達した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16865747
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17691219
MTHFR遺伝子変異の人口比率
MTHFR遺伝子変異の人口比率は地域によって異なる。
MTHFR C677T = ヘテロ接合型(C;T)
MTHFR遺伝子の変異はレアな問題ではなく、ヘテロ接合型、ホモ接合型のどちらか、つまり1つ以上の変異がある人はアジアでは人口の40~60%、二人に一人は該当する。
MTHFR C677T = ホモ接合型(T;T)
ただ、より重篤性をもつホモ接合型(二つ以上の変異がある)はアジアでは人口の約1割。地域差が大きい。
アルツハイマー病 DNAメチル化
エピジェネティック
アルツハイマー病リスクとエピジェネティック変化
最近の研究ではエピジェネティック発現は、アルツハイマー病を含む脳障害の発症に寄与する重要な要因である可能性が示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15164071/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20944598
アルツハイマー病患者での高メチル化
アルツハイマー病患者の死後の脳生検では、MTHFR遺伝子プロモーター領域の特定の遺伝子座が健常者と比べ高メチル化されていたことが示された。
journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0002698
アルツハイマー病の初期段階、前頭側頭葉変性およびレビー小体型認知症の脳の複数の領域(上側頭回、中側頭回、海馬、海馬傍回)において異常なレベルの5mCおよび5hmCが見いだされた。神経変性性、認知症の初期段階でこれらのメチル化の変化が役割を果たしている可能性を示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27889911
5-メチルシトシン(5mc)
5-メチルシトシン(5mc)は、DNA塩基のシトシンがメチル化されたもの。最も研究されているDNAメチル化状態であり、遺伝子転写の制御に関わる。
5mC → 5hmC → 5fC → 5caC → C → 5mC
5-ヒドロキシメルシトシン(5hmC)遺伝子発現の促進
5-ヒドロキシメルシトシン(5hmC)は、DNAピリミジン塩基の一つであり、TET酵素により5mCから変換される。
5mCは比較的組織に一定の割合で分布しているのに対し、5hmCは組織分布にかなりのばらつきがある。特に中枢神経系で高濃度に存在し、大脳皮質で最も高い割合の5hmCが観察され、次いで脳幹、脊髄、小脳と続く。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21203455/
5hmCは、遺伝子発現またはDNAの脱メチル化により遺伝子発現を促進する機能的役割を果たしていると考えられている。
epigenie.com/key-epigenetic-players/important-dna-methylation-factors/5-hydroxymethylcytosine-5hmc/
海馬領域のメチル化
アルツハイマー病患者の海馬では、メチル化の減少と増加の両方が報告されており、海馬のサブ領域でDNAメチル化のレベルが異なることがが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23582657/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24012631/
DNAのメチル化は老齢期のアルツハイマー病に重要な役割を果たす。MTHFR遺伝子変異は、記憶喪失を呈するほとんどの高齢患者で生じる。
MTHFR アルツハイマー病リスク
MTHFR変異によるアルツハイマー病へのリスク
- マイクロRNA(miRNA)のエピジェネティック効果
- S-アデノシル-1-メチオニン(SAM)欠乏
- エピジェネティックドリフトの増加
- ホモシステインの増加
- 葉酸代謝の低下
- テロメア異常、DNAの安定性への影響
- ビタミンB12欠乏 アミロイドβの増加
- PP2Aの減少(PP2A酵素の低メチル化) リン酸化タウの増加
- うつ病
高レベルのホモシステインがもたらす有害な影響
血管への影響
- 血管内皮機能を低下させ、誘導型一酸化窒素合成酵素を低下させる。
- 一酸化窒素を介した脳血管の内皮機能障害
- 血液関門の漏出
- 血栓症を引き起こす
- 神経細胞死、タウタングルの蓄積につながる脳血管虚血
- コレステロール合成を増加させる脂質代謝への影響
- アポリポタンパク質合成をへらす
- 脳アミロイド血管障害を引き起こす
神経系への影響
- NMDA受容体を直接的に活性し、興奮毒によるニューロン細胞死を引き起こす
- ホモシスチン酸とシステインスルフィン酸を介した興奮毒性によるNMDA受容体の活性化
- 過酸化物および活性酸素種の生成によって誘導される酸化ストレス
- 抗酸化酵素の活性低下
- βアミロイドの形成と沈着
- βアミロイドまたはホモシスチン酸を介した神経毒性効果の増強
- Cdk5などのタウキナーゼを活性化し、タウタングルの蓄積を引き起こす。
- 神経細胞周期を刺激しタウタングルの形成とニューロン細胞死を引き起こす。
- DNA損傷を引き起こし、DNA修復を制限し、アポトーシスを引き起こす
- アミロイド遺伝子のプロモーターのDNAシトシンメチル化などのSAH阻害メチル化反応を増加させ、エピジェネティックな効果を引き起こす
- PP2A活性を阻害しタウタングルの蓄積を引き起こす。
- ホスファチジレタノールアミンのメチル化を阻害する。
- アミロイド形成につながる小胞体ストレス反応を刺激する。
- 免疫系を活性化する。
- SAM依存性のカテコールアミン合成および他の神経伝達物質の合成を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22313030/
MTHFR 677 と MTHFR 1298
MTHFR 677 と MTHFR 1298は、アルツハイマー病、血管性認知症の病因として重要な役割をもつ。
回帰分析では、C677TおよびA1298C対立遺伝子のホモ接合では、アルツハイマー病発症確率が2.5倍、血管性認知症発症率は3.7倍に増加。
A1298Cのヘテロ接合、またはホモ接合のみでは、血管性認知症発症率は2.2倍増加したがアルツハイマー病発症率のリスクは増加しなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22015309?dopt=Abstract
MTHFR 677
アルツハイマー病リスクの増加
MTHFR C677T多型はアルツハイマー病の増加したリスクと関連している
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26820674
重症化するC677Tアルツハイマー病患者
アルツハイマー病症例において677T突然変異多型は対照群と比べ3倍高い。
T/T多型(11.6%)の患者では重度のアルツハイマー病症例が最も多かった。
アルツハイマー病リスクへのMTHFR多型の影響は、ホモシステイン、ビタミンB12、コレステロールレベルとは無関係である可能性がある。
MTHFR多型は高感度マーカーとして高システイン血症に寄与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24223459
アジア人との関連
メタアナリシス MTHFR C677T多型とアルツハイマー病の関連性はアジア人の集団で有意な関連が認められたが、白人集団では見られなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21663380
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20600372
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27382194
大気汚染によってリスクが上昇
アルツハイマー病感受性へのMTHFR C677T多型の影響は、大気汚染のレベルによって上昇する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28085050
MTHFR 1298
関連する可能性のある疾患
線維筋痛、IBS、慢性疼痛、慢性疲労症候群、偏頭痛、不眠症、頭痛、物忘れ、過敏性腸症候群、高血圧、うつ病、不安、パニック障害、統合失調症、双極性障害、気分障害、ADD、ADHD、学習困難、行動障害、アルツハイマー病、パーキンソン病などの精神疾患、流産、勃起不全
栄養素からのアミノ酸合成能力の欠損(BH4回路)
- フェニルアラニンの分解
- セロトニン合成
- メラトニン合成
- ドーパミン合成
- ノルアドレナリン合成
- アドレナリン合成
- アンモニアレベルの上昇
- 一酸化窒素の低値
A1298C遺伝子での有意な影響
チュニジアのアルツハイマー病患者集団では、MTHFR C677T変異とアルツハイマー病との間に有意な関連性は示されなかった。(p = 0.087)しかし、MTHFR A1298C遺伝子とは有意に異なっていた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23659764/
高齢者でのアルツハイマー病リスク
A1298Cのホモ接合およびヘテロ多型は、高齢者の高いアルツハイマー病有病率(92.5%)を示した。MTHFRはマーカー候補となりえる
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26401555
A1298C遺伝子の影響は少ない?
メタアナリシス A1298C変異型はアルツハイマー病リスクと関連しない可能性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28281392
その他の遺伝子
rs1801133およびPICALM rs3851179の多型がアルツハイマー病の病因に関与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25359311
TCN2 776C→G多型は、アルツハイマー型認知症と負の関連
ビタミンB12の利用能を変える可能性がある。
MTHFR1298AA遺伝子型患者に対する保護的役割を示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25395544
検査と治療
MTHFR遺伝子検査
輸入代行を使わなければならないが、多くの遺伝子検査が可能なためトータルではコストを抑えられる。
その他の遺伝子検査会社
国内の民間検査ではC677Tのみの検査が可能
MTHFR多型への対処法
MTHFR多型への対処法は確立されているわけではなく、MTHFRを専門とするドクターによっても治療メソッドに違いがある。
またメチレーション回路、その他の回路はMTHFR遺伝子以外の多くの遺伝子や、食事、ライフスタイルといった影響も受けるため、MTHFR検査で多型が分かったからといって自動的に決まった対処法が導き出されるわけでもない。
リコード法でもMTHFR遺伝子は推奨される検査項目としてあげられているが、一般的にMTHFR遺伝子突多型の患者への治療として用いられる活性型ビタミンB12、B6葉酸は、血液中のB12、B6、葉酸、ホモシステインなどの測定から実際の投与、投与量などが判断される。
アルツハイマー病の専門家ではないがMTHFRの専門家ベン・リンチ博士の基本プロトコルを紹介しておく。管理人のプロトコルも参考にさせてもらっている。
管理人のプロトコル
C677T遺伝子(C; T)変異が一つ(ヘテロ接合型)
変異が一つあっても65%の葉酸代謝能力は維持されるため、当サイトで紹介しているリコード法の内容を実行していれば、(ビタミンBコンプレックスの摂取を含む)新たに改善策や対処法などを加える必要はない。
C677T遺伝子(T; T)変異が二つ(ホモ接合型)
・リコード法の基本内容が確実に実行されていれば、二つの遺伝子変異への対応はすでに7~8割は行われている。
・毒性の感受性リスクが高いため、毒性曝露を食事、環境から除去する必要性がより強く求められる。
・ビタミンBコンプレックスの代わりに以下のビタミンB製剤を用いる。
一日1~半錠から初めて様子を見ながら、3日ごとに半錠ずつ増やしていく。
すでに当サイトで紹介しているビタミンBコンプレックスなどを摂取しているユーザーなら2錠あたりから始めてもいいかもしれない。
一日3錠まで増やしてキープ。
さらに増やすべきかは血清のB12、B6、葉酸、ホモシステイン値をチェックして判断。
・MTHFR多型であるのみならず、実際にメチル化機能低下に伴う慢性疾患を発症している場合はSAM-eの摂取を推奨。冷蔵庫保管
他の薬剤・サプリメント
葉酸を阻害する薬 避妊薬、メトトレキセートの摂取を避ける。
ビタミンB12の吸収を阻害する
ビタミンCが大量にあるとメチルコバラミンが破壊されてしまうため、ビタミンCの一回の摂取量を500mg以下に抑える。
食事
小麦グルテンを避ける。
タンパク質量はkgあたり0.7g 多すぎても少なすぎてもいけない。
乳製品を避ける。乳製品がどうしても必要な場合はヤギのミルクを使う。
加熱、貯蔵、調理にプラスチック容器を使わない。
ホモシステイン値が上昇する場合はメチオニン制限食を実行
生活改善
飲料水、シャワー、お風呂の塩素を除去する。
汗をかいて毒素を排出する週間(サウナ、汗をかく運動)
HEPAフィルター空気清浄機を使用する。
カーペットは使用しない。タイル張りまたはトルエン、キシレン、酢酸エチルなどの揮発性有機化合物の少ない低VOC木材を使用した床にする。
水銀アマルガムは除去する。
過剰なメチル葉酸で起こりうる副作用
頭痛、発疹、過敏症、不安、関節痛、筋肉痛、不眠症、・うつ病
副作用が生じた場合は、メチル葉酸の摂取量を減らす必要がある。
または、100mgのナイアシンを摂取してみる。
※ナイアシンを摂取すると過剰なメチル基がナイアシンと結合して、副作用を低下させる可能性がある
感染症、ライム病を有する人がMTHF、B12を用いたメチレーション療法を行うと状況が悪化する可能性がある。