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「どうやったら○○できるでしょう?」に対する答は
「何か試しましたか?」である。
森博嗣 「浮遊研究室」
概要
当然のこと一般人がこれを、どうやって実行していくかには相当な努力や創意工夫が必要だ。逆に言えば実行方法を簡便化し、誰でも実行できようにする仕組みを作ればそれだけで、有効な認知症の薬剤の開発に匹敵する価値をもちうるだろう。
個人でも実行可能なMENDプログラム(現リコード法)の簡易版を紹介したい。
この記事で紹介しているプログラムは、ある認知症患者の抱える臨床的な課題に従ってそれぞれ組み立てているため、簡易版という言い方には語弊があるかもしれない。
また、本来のMENDプログラムは臨床検査にもとづき、プログラムが計画されるため、このプログラムをそのまま真似すればいいというわけでもない。
ただ、プログラム内容を見る限り、そのほとんどが、検査のいかんに関わらず実行する必要がある基本を抑えたものをピックアップしている例と思われる。
また、副作用が生じるような項目も見られないことからある簡易的、予防的な一例とし捉えることには大きな問題はないと思う。
67歳の女性アルツハイマーの回復プログラム例
食事
・炭水化物の摂取を控える
・野菜、果物、魚の摂取量を増やす。
・食事から加工食品、小麦粉などに含まれるグルテンを排除
サプリメント
・ビタミンB12(メチルコバランミン)
・ビタミンD3、DHA・EPAを摂取
運動
・一週間のうち4~6日、最低30分は運動
断食
・夕食を食べてから翌日の朝食までの間、12時間何も食べない。
・就寝3時間前からも何も食べない。
ストレス対策
・ストレスを減らすためヨガ開始
・仕事のストレスを減らすために、1日のうち2回、20分間瞑想
睡眠
・睡眠時間が1日 4~5時間であったものを7~8時間に増やす。
衛生管理
・歯の衛生を保つために、電動歯ブラシと電動フロッサ使用。
雑記
おそらく、これを見た人の多くは、「なんだこんなことか」と他の本やサイトでも語られる凡百の意見と同じだと思われたのではないだろうか。
自分も昔は似たような考え方をもっていので、そう思ってしまう気持ちは非常によくわかる。
おそらくリコード法の最大の難問は、そういった思い込みをどう克服していくかにあるのではないかと思う。
どんなに運動が嫌だと思っている人でも、津波が来るぞと言われれば1キロでも2キロでも走るはずだ。
それは津波の場合、その恐怖が明確にイメージ可能で走って逃げれば命は助かると認識しているからこそだろう。
だが、運動すればと認知症が改善すると言われても、その理屈もわからなければ津波のような描けれるイメージも沸き起こらない。
そして運動がどれだけ本当に認知症の改善に影響を与えるか、本人に確信がないことも実行するうえでの潜在的な障害となる。
このMENDプログラムの実行で家族性アルツハイマーを患っていた67歳の女性が回復したとされている。
仕事は続けていたが、物忘れに2年間悩まされ、4桁の番号を覚えれず、ペットの名前を忘れてしまい、仕事をやめようとしていたところだったらしい。
症状としては軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への移行期あたりだろう。家族性のため医者からは見放されていたらしい。
これぐらいの進行レベルであれば、上記のMENDプログラム(現リコード法)でも改善できる可能性があるということだ。
リコード法の実行は、子育てのようなものだと思ってほしい。
子育てで大事なこととはなんだろうか。
愛情だろうか、しつけだろうか。教育だろうか、きちんとした食事だろうか。
たしかにどれかが大事だと優先順位をつけることはできるかもしれない。
だが、例えば愛情が大切だからといって、しつけや食事をほったらかしにするということは考えられないのではなかろうか。その意味においてこの問いは間違っているだろう。
リコード法も同様で、その人の代謝障害によってより食事を重要視しなければならないということはあっても、食事だけをきちんとすればいい、脳トレだけをすればいいというわけにはいかない。
もちろんエビデンスに基づいた治療法なので、それぞれの治療プログラムに抑えるべきポイントというものはあるのだが、その効果は全体を通して実行することで初めて実力を発揮する。
どの治療法をどれだけやったら効果がでるかということに関しては、その人の代謝障害の穴がどこにあるのかにも依存するのだが、概していえば全体の実行率が一定量に達することで、しきい値効果が生まれ大きな改善につながると考えてもらいたい。
個々の治療プログラムをそれぞれ実行することにより、体内のプリオンネットワークがしきい値に達する。
この時初めてこの治療プログラムの真価が発揮され、認知症回復の道筋が見える。
デール・E・ブレデセン
以下のようにイメージとしてもらいたい。
つまり、仮に25個あるプロトコルのうち3割をこなしても、効果が30%あるかというと、そうではなく10%しかないかもしれない。
しかし25個あるうちの20個以上を実行すると80%の効果を超えて、90~95%の効果が生まれる、といった風に考えてもらえればわかりやすいかもしれない。
しかし、代謝障害の診断が正確につけば、通常全部を行う必要はなく、タイプによっては実行しなければならないプロトコルは半分かそれ以下にまで圧縮できる。
アルツハイマー病が進行するほど必要なプログラムは増大する。
運動や睡眠、栄養、半日断食のような強力で広範囲に及ぶプロトコルを飛ばしてしまうと、他を9割こなしていても、効果が激減するだろう。
また、ここで紹介しているMENDプログラム(現リコード法)は簡易的にアレンジされたものなので、ここに書かれてあるプログラムの7割を実行すればボーナスがつくという意味ではなく、これをすべて実行してオリジナル版の5~7割に相当すると考えたほうがいいかもしれない。
びっくりするような好プレイが、勝ちに結びつくことは少ないです。
確実にこなさないといけないプレイを確実にこなせるチームは強いと思います。 イチロー
このプログラムは、けして、適当にアルツハイマー病に良さそうなものをかき集められているわけではない!
重要なポイントは、個々の項目を見て、「なんだそんなことか」とか「これじゃあ治らないだろう」と決めつけるのではなく、全体としてのプログラムに本質があることに気づいて欲しい。
特に一発逆転の秘策を求める発想は、認知症の場合ご法度。
このプログラムはすでに個人に調整された上のものであるが、認知症予防として考えるなら最強のプログラムだろう。
プログラムの診断基準の目安は以下の記事。
診断が難しければ、フルバージョン、オリジナル版を見て「これは自分が今やっていないな」という不足分の項目を見つけ出して、埋めていくことも、ひとつの活用の仕方かもしれない。
別の記事でも書いたが、うちの母に、およそ考えつくあらゆる治療法を試したが、運動だけは長いことできていなかった。
そのまま何年かすぎ、やっと運動をするきっかけを掴んで初めたのだが、その時の目をみはるほどの改善は未だに忘れられない。
これは、運動そのものの効果も当然あったとは思うが、アルハカ母の場合、運動という穴がぽっかり開いていたのだろう。
また、それまでボトルネックになって他の治療効果が停滞していたところ、運動を初めたことで、一気にその他の歯車も回り出したのではないかとも推察している。
サプリや医薬などが基本的にひとつの穴しか埋めないのに対して、運動は非常に効果の範囲が広く、運動一つで屋根に空いた少なくとも10個の穴を埋めてくれる。
そう考えると運動は、歯車のひとつと考えるのではなく、歯車を回す潤滑剤に近いと考えるべきかもしれない。
初期をすぎたアルツハイマー病ではより難易度がはるかに高まるため、この簡易的なMENDプログラム(リコード法)をすべて実行しただけでは、手札が少なすぎるだろうとも感じている。