『Man a Machine』Julien Offray de La Mettrie 1748
『人間機械論』ジュリアン・オフレ・ド・ラ・メトリ 1748年
目次
- 序文 / Preface
- 第一部 人間の本性について / On the Nature of Man
- 第1章 物質と思考 / Matter and Thought
- 第2章 人間と動物の比較 / Comparison of Man and Animals
- 第3章 脳と精神 / The Brain and the Mind
- 第4章 感覚と経験 / Sensation and Experience
- 第二部 機械としての人間 / Man as a Machine
- 第5章 身体のメカニズム / The Mechanism of the Body
- 第6章 道徳と自然法 / Morality and Natural Law
- 第7章 教育と環境 / Education and Environment
- 第8章 結論 / Conclusion
本書の概要
短い解説：
本書は、人間の精神活動を含むすべての生命現象が物質的なメカニズムによって説明できるとする唯物論的立場を徹底的に論証する。当時の宗教的・哲学的権威に挑戦し、人間を複雑な機械と見なす画期的な理論を提示する。
著者について：
著者ラ・メトリ（1709-1751）はフランスの医師・哲学者である。医学的知識に基づいた観察と実験を重視し、デカルトの動物機械論を発展させて人間機械論を提唱した。その急進的な思想ゆえに迫害を受け、オランダ、そしてプロイセンに亡命している。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ：人間機械論 – 人間の思考や感情を含むすべての活動が物理的・生理的メカニズムによって説明できるという理論
- 新規性：医学的観察に基づく唯物論 – 当時の形而上学的主流に対して、解剖学や生理学の知見に立脚した哲学的方法
- 興味深い知見：脳の可塑性 – 教育や環境によって脳の構造と機能が変化し、思考能力が発達するという考え
3分要約
本書『人間機械論』は、人間を複雑な機械と見なす唯物論的立場を体系的に論証した画期的な著作である。ラ・メトリは、思考や感情を含む人間のすべての精神的活動が、脳を中心とした身体の物理的・生理的メカニズムから生じると主張する。
序文では、偏見にとらわれずに真理を探究する姿勢の重要性が強調される。著者は、人間の魂についての二つの系統的な哲学——唯物論と霊魂論——を比較し、後者の誤りを指摘する。特にデカルトやライプニッツの説を批判し、観察と経験に基づく医学的アプローチの優位性を主張する。
第一部では、人間の本性が詳細に検討される。思考能力が物質の属性である可能性が論じられ、人間と動物の連続性が強調される。脳の構造と機能の分析を通じて、精神活動の物質的基盤が明らかにされる。感覚と経験が知識の唯一の源泉であり、言語や思考さえも感覚的経験から発達すると論じられる。
第二部では、人間機械論の具体的な含意が探求される。身体の生理的メカニズムが詳細に記述され、心臓の拍動や筋肉の収縮などの生命現象が、単なる物理的プロセスとして説明される。道徳や自然法も物質的な基盤を持ち、社会的な構成物ではなく生物学的な本能に根ざすと論じられる。
教育と環境の重要性が強調される点は特筆に値する。著者は、人間の知的能力が生得的なものではなく、教育と経験によって形成されると主張する。この見方は、当時の生得観念論に対する強力な批判となっている。
結論では、人間機械論の哲学的・倫理的含意がまとめられる。この理論が、人間の謙虚さと相互理解を促進すると論じられる。すべての人間が同じ物質的原理に従うという認識は、偏見や差別の根拠を失わせ、より人道主義的な社会を可能にするのである。
ラ・メトリの人間機械論は、科学的方法に基づく哲学の先駆けとして、後の唯物論哲学や科学心理学に大きな影響を与えた。その革新的な思想は、現代の神経科学や認知科学の先駆けとも評価できる。
各章の要約
序文
著者は真理探究における勇気の重要性を強調する。人間の魂に関する既存の哲学的システム——唯物論と霊魂論——を概観し、観察と経験に基づく医学的アプローチの優位性を主張する。デカルトやライプニッツの理論を批判し、自然と啓示の調和を論じる。偏見から自由であり、感覚的経験を導きの糸とする方法論の必要性が説かれる。
第一部 人間の本性について
第1章 物質と思考
思考能力が物質に内在する可能性が論じられる。著者は、物質が思考するかどうかという問いは、物質が時を刻めるかどうかという問いと同じくらい無意味だと論じる。ライプニッツのモナド論やデカルトの心身二元論を批判し、観察可能な事実に基づく理論構築の重要性が強調される。医学的観察が哲学的理解に不可欠であると主張する。
第2章 人間と動物の比較
人間と動物の連続性が詳細に論証される。脳の構造の類似性、学習能力、感情の表出など、多数の比較観察が提示される。特に、類人猿が適切な教育によって言語を習得する可能性について論じられる。人間の優越性は程度の差であって質的差異ではないことが強調される。著者はこう述べる。「人間と動物を分かつのは、組織化の差異に他ならない」
第3章 脳と精神
脳の構造と機能の分析を通じて、精神活動の物質的基盤が明らかにされる。脳の大きさ、しわの複雑さ、部位ごとの機能分化などが詳細に記述される。想像力、判断、理性、記憶などの精神的機能が、すべて脳の物理的状態に依存することが論証される。脳損傷による精神機能の変化が、この依存関係の証拠として提示される。
第4章 感覚と経験
すべての知識が感覚的経験に由来すると論じられる。言語や思考さえも、感覚的印象の複雑な結合から発達すると説明される。著者は、生得観念の存在を否定し、人間の精神を感覚的経験によって刻まれる「感覚的なスクリーン」に譬える。教育の重要性が強調され、人間の精神的発達が感覚的経験の蓄積として理解される。
第二部 機械としての人間
第5章 身体のメカニズム
身体の生理的メカニズムが詳細に記述される。心臓の拍動、筋肉の収縮、消化などの生命現象が、単なる物理的・化学的プロセスとして説明される。死後も続く組織の運動——心筋の拍動や筋肉の収縮——が、生命の機械的性質の証拠として提示される。著者はこう述べる。「身体は時計に過ぎない」
第6章 道徳と自然法
道徳的感情さえも物質的な基盤を持つと論じられる。自然法は信仰や啓示ではなく、生物学的本能に根ざすと説明される。罪悪感や後悔の感情も、身体の生理的状態に依存する。著者は、宗教的道徳観に対して自然の道徳観を対置し、後者の優越性を主張する。すべての生物が幸福を求める自然の傾向を持つことが強調される。
第7章 教育と環境
教育と環境の重要性が詳細に論じられる。人間の精神的発達が、生得的素質よりも教育と環境によって決定されると主張される。脳の可塑性が強調され、適切な教育によって精神的能力が大幅に改善されると論じられる。社会的環境、気候、食事など、外的要因の影響が詳細に検討される。
第8章 結論
人間機械論の哲学的・倫理的含意がまとめられる。この理論が人間の謙虚さと相互理解を促進すると論じられる。すべての人間が同じ物質的原理に従うという認識は、偏見や差別の根拠を失わせる。著者は、自然に対する畏敬と感謝の念を持ち、相互に人道主義的に振る舞うことの重要性を強調する。
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