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マグネシウム(認知症・アルツハイマー病)
概要
マグネシウムは体内で4番目に豊富なミネラルであり、主に細胞内に存在する。
アデノシン三リン酸の代謝において重要な役割をもち、300以上の酵素反応の補因子としての作用をもつ。
DNA、RNAの合成、複製、タンパク質の合成に必要であり、筋肉の収縮、血圧の調節、インスリン代謝、心臓の動機、運動神経による血管の緊張、神経伝達および神経筋の伝導調節に必須。
アルツハイマー病患者のマグネシウム欠乏
アルツハイマー病患者の血清、脊髄液中のマグネシウムは有意に低いことが示されている。
正確なメカニズムは解明されていないが、マグネシウム不足がアルツハイマー病の危険因子となっている可能性が報告されている。
最近の研究ではマグネシウム自体がミトコンドリアの抗酸化作用を有するようであり、マグネシウム欠乏が、酸化ストレスの増加、抗酸化物質の保護作用の減少の両方と関連していることが考えられている。
中枢神経系関連のマグネシウム欠乏症状
- 緊張感
- NMDA受容体の感受性の増加による興奮性神経伝達物質の活性
- 偏頭痛
- うつ病
- 眼振
- 感覚異常
- 記憶力低下
- 発作
- 振戦
- めまい
マグネシウムと認知症
アルツハイマー病と低いマグネシウム濃度
アルツハイマー病患者の低い血清マグネシウム
アルツハイマー病と血清マグネシウム濃度にはある程度の関連性が認められる。
マグネシウム濃度は、アルツハイマー病患者の脳組織、特に海馬で減少することが示された。[R][R]
認知機能と関連する血清イオン化マグネシウム
イオン化マグネシウム濃度は、症状のない同年齢のグループと比べアルツハイマー病患者グループで有意に低かった。両者とも血清イオン化マグネシウム濃度は認知機能(MMSE)と有意に関連していた。[R]
アルツハイマー病患者の低い脊髄液中のマグネシウム
アルツハイマー病患者の脊髄液中のマグネシウムは有意に低い。[R]
マグネシウム摂取
マグネシウム摂取によるMCI・軽度認知障害発症リスクの低下
8年間の食事中のミネラル摂取量と記憶障害を有する軽度認知障害、軽度認知機能障害の関連性を調べた調査。
マグネシウム摂取量が多いほど、記憶障害を有する軽度認知障害および軽度認知機能障害の発症リスク低下と関連していた。一方でカリウムおよび鉄の高い摂取量は、それらの発症リスク増加と関連していた。[R]
マグネシウム不足による血管性認知症リスク
自己申告による食事からのカリウム、カルシウム、マグネシウムの摂取量が多い60歳以上の日本人では、血管性認知症リスクが低下するが、アルツハイマー病との関連性は示されなかった。[R]
高いマグネシウムレベルも認知症リスクを増加させる。
血清マグネシウム濃度は低値(≧0.79mmol / L)および高値(≧0.90mmol / L)の両方が認知症のリスク増加と関連する。[R]
マグネシウムの働き
脳神経
NMDA受容体の抑制性イオン
脳内のマグネシウムイオンは、NMDA受容体でカルシウムの作用を抑制するためのイオンとして主に存在する。[R][R]
カルシウム代謝の調節
長期学習に関与する興奮性の受容体であり、内因性のカルシウム遮断薬として作用し、カルシウムの代謝調節にも関わる。
マグネシウムレベルが低いと、神経細胞の過剰な興奮およびランダムな発火と関連し、NMDA受容体のより高い活性化そして多くのカルシウムが分泌される。[R]
食事からのマグネシウム欠乏が長期間続くと脳内のマグネシウム欠乏が起こる可能性がある。[R]
カルシウム毒性からの保護
カルシウムの細胞内への過剰な流入は、毒性作用をもたらすが、マグネシウムの流入が不足していない場合にはマグネシウムがブロックすることでカルシウムの毒性を抑制する可能性がある。[R]
神経損傷後の硫酸マグネシウム投与は、神経保護効果を与える可能性があるが、静脈投与であるため、経口投与で同様の効果が得られるかはわからない。[R]
恐怖記憶の固定化を回避
マグネシウム-l-スレオニンの投与は、マウスの過剰な恐怖の記憶の固定化を防ぐ。[R]
マグネシウム投与は、マウスの坐骨神経再生を促進し、炎症反応をダウンレギュレーションする。[R]
パーキンソン病
パーキンソン病患者の中枢神経系では低いマグネシウムレベルと共に高いアルミニウムレベルが観察され、疾患の病因に寄与する可能性がある。[R]
外傷性脳損傷
マグネシウムの投与は、外傷性脳損傷(TBI)後のラットのp53発現を減少させる。[R][R]
老廃物排出を促進するアクアポリン4の回復[R]
外傷性脳損傷患者への短期的な硫酸マグネシウム注入は、神経保護的ではなく頭部損傷治療に悪影響をおよぼす可能性がある。[R]
急性外傷性脳損傷治療での硫酸マグネシウムの効果 システマティックレビュー
硫酸マグネシウムで治療された患者では、患者のGOSスコアのわずかではあるが境界で有意な改善およびGCSスコアの有意な改善が見られた。
カルシウム受容体と競合することによって脳血管攣縮を予防し脳血流を増加させ、TBI患者の転帰を改善する潜在的な可能性がある。
硫酸マグネシウムはTBIの心的外傷後脳血管攣縮を軽減することができるが、その主要な利点は、潜在的には、過剰な脳血管拡張、血圧低下、そして最終的に脳灌流が低下してしまうことに対して硫酸マグネシウムがバランスを取り戻すことにある。[R]
ミトコンドリア機能
全細胞に含まれるマグネシウムの3分の1がミトコンドリアで占めている。
マグネシウムはヒトのエネルギー源であるATPと複合体を形成する。[R]
マグネシウムはミトコンドリアの恒常性に関与し、Mg2+を介して細胞のエネルギー代謝とストレスの脆弱性を決定する。[R]
高齢者の筋肉機能のの維持
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2669297/#R1
サブスタンスP
マグネシウム欠乏はサブスタンスP分泌増加につながる。
不安症状
システマティックレビュー 不安症状、ストレス軽減への各キレートタイプのマグネシウム投与 [R]
DHEAの上昇
グリホサート
2型糖尿病
高齢の2型糖尿病患者の88%がRDAのマグネシウム推奨摂取量を下回っており、37%が低マグネシウム血症の診断を満たしていることが示された。
マグネシウム摂取量とHDLには正の相関が見られ、トリグリセリド、BMI、体脂肪率、胴囲と逆相関していた。
マグネシウム摂取量の少なさは代謝異常、うつ病と関連。
より高い身体活動を行うグループではより低い血清マグネシウムレベルを示した。これらは尿中や汗で失われている可能性がある。[R][R]
メタアナリシス マグネシウムの摂取量100mg増加によって、糖尿病の発症率が15%低下[R][R]
マグネシウムの摂取量がもっとも高いグループではもっとも低いグループと比較して2型糖尿病の相対リスクを36%低下させた。[R]
マグネシウムの評価
むずかしいマグネシウム欠乏の評価
正常範囲ではない正常範囲マグネシウムレベル
現在正常範囲とされる0.7~1mmol/Lの血清マグネシウムレベルは健康な集団の統計値から推定されたものだが、これらはマグネシウム欠乏症の不明瞭な代謝障害(例えば血管の石灰化など)などが考慮されていない。
また、血清、尿中マグネシウムは有酸素運動などによっても減少する。
ICUに入院した患者179人中119人で、低レベルの赤血球マグネシウムレベルが見出された。
最適なマグネシウム濃度は0.80mmol/L以上とすべき。[R]
血漿マグネシウム濃度が0.863mmol / L未満では糖尿病リスクが3.25倍に増加
世界的に深刻なマグネシウム欠乏
低マグネシウム血症はかなり一般的であり、人口の多くでマグネシウム欠乏により深刻な公衆衛生上の問題となっている可能性がある。
アメリカでは約半数の人々がマグネシウムの推定平均必要量よりも少ない量を食事から得ている。
マグネシウム欠乏は骨粗鬆症、高血圧、心血管疾患、メタボリックシンドローム、糖尿病、いくつかの慢性疾患リスクと関連していることが示されている。[R]
台湾の高齢者の血漿マグネシウムレベルは、0.863mmo/L以下で3.25倍に上昇した。[R]
健康と考えられている高齢者の多くがマグネシウム欠乏症である可能性がある。[R][R]
ブラジルの明らかに健康な大学生の42%で赤血球マグネシウムが異常値であることがわかった。
ほとんど見逃される低マグネシウム血症の診断
医師によって低マグネシウム血症と診断されマグネシウムが処方された低マグネシウム血症の患者はわずか10%であった。[R]
細胞内のマグネシウム濃度と相関しない血清マグネシウム濃度
マグネシウムのほとんどは細胞内に含まれているため、マグネシウムの血清濃度は全身のマグネシウムレベルとはほとんど相関しない。
マグネシウムのたった1%が細胞外液中に存在し、0.3%が血清中に見出される。
アルツハイマー病患者のマグネシウム濃度
血清、血漿中の濃度と相関しない脳内マグネシウム濃度
アルツハイマー病患者と一般健常者の間では血清マグネシウム濃度に実質的な差が見られないにも関わらず、脳内ではアルツハイマー病患者だけ減少している可能性がある。
アルツハイマー病患者患者の血清マグネシウムは正常だが、脊髄液中のマグネシウム濃度が有意に低いことが観察されている。[R]
毛髪中マグネシウム
毛髪中のマグネシウムは、血清マグネシウムよりも安価で侵襲性の低い細胞内マグネシウムの評価の代替と考えることができるかもしれない。[R][R]
アルツハイマー病患者の毛髪マグネシウムは、MMSEスコアとは関連を示さない。健常者との比較において、血清と毛髪に有意な差は認められなかった。[R]
赤血球マグネシウム濃度
脳脊髄液(CSF)マグネシウム、毛髪マグネシウム、血漿マグネシウム、および赤血球マグネシウム濃度は、健常者と比較してアルツハイマー病患者で有意に減少する。[R]
基準値
一般基準値
マグネシウムの基準範囲は 0.76~1.15mmol/l
しかし多くのマグネシウム研究者によれば、血清マグネシウム濃度の適切な基準限界は0.85mmol/l
マグネシウム欠乏
マグネシウム濃度0.7mmol/lでは、90%の患者に臨床的なマグネシウム欠乏症が見られる。
マグネシウム濃度0.75mmol/lでは、50%の患者に臨床的なマグネシウム欠乏症が見られる。[R]
低マグネシウム濃度は2型糖尿病患者の腎機能の急速な低下と関連しており、血清マグネシウム濃度が0.85mmol/l以下のときに、急速に増加し始めた。
より精度の高いイオン化マグネシウム
血清中に存在するマグネシウムの60~70%はイオン化した化合物として存在する。
イオン化されたマグネシウム濃度およびマグネシウム負荷試験はより正確。
血清イオン化マグネシウム濃度の参照範囲 0.54~0.67mmol/l
電解質異常
低マグネシウム血症は、低カリウム血症および低カルシウム血症などの他の電解質異常と関連することが多い[R]
マグネシウム欠乏を引き起こす要因
ライフスタイル
- 絶食中
- 妊娠中
- 激しい運動[R]
- 絶食
サプリメント
- カルシウムサプリメント・カルシウムの過剰補充
- カフェイン[R]
- 吸収性の悪いマグネシウム(酸化マグネシウムなど)の過剰摂取[R]
- 乏しいセレン摂取量[R]
- ビタミンDの過剰または欠乏[R]
- ビタミンB6(ピリドキシン)不足[R]
食事要因
- 脂肪分、糖質の多い食事
- 加工食品・過剰なリンの摂取(無機リン酸塩)
- フィチン酸を多く含む特定の穀物
- グリホサートを含む食品
- 塩分の低い摂取量
- アルコール[R
-
アルミニウム 食物中のアルミニウムはマグネシウムの吸収を5分の1に低下させ、マグネシウムの滞留を41%減少させ、骨中のマグネシウムを減らす。[R
医薬・治療
疾患
- アルコール依存症
- アルドステロン症
- セリアック病[R]
- 胃酸の減少
- 肥満手術(小腸バイパス手術)
- ガン
- 1型、2型糖尿病
- 下痢
- 心理的ストレス(交感神経の過剰活性)
- 酵素機能不全
- 長期の授乳
- 長過ぎる月経
- 副甲状腺機能亢進症・副甲状腺機能低下症
- 腎疾患
- 心不全
- 血液透析
- 高インスリン血症
- インスリン抵抗性
- クローン病
- 潰瘍性大腸炎
- 長期の下痢、嘔吐
- 肝疾患
- 代謝性アシドーシス
- 膵炎
- 副甲状腺膵炎
- 副甲状腺摘出手術
- 腹膜透析
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5786912/
昔よりも少ない農産物のマグネシウム含有量
野菜、穀物に含まれるマグネシウム濃度は過去数十年にわたって報告されている。
これはおそらく、緑の革命と関連して、土壌のミネラルやビタミン濃度が変化したことに起因する。カリウムは植物マグネシウムの拮抗ミネラルであり、土壌へのカリウム大量散布も植物のマグネシウム減少を引き起こす。[R]
キャベツ、レタス、トマト、ホウレンソウ中のカルシウム、マグネシウム、鉄の含有量は、1914から2018にかけて80〜90%下落している。[R]
マグネシウム吸収を高める要素
- マグネシウム欠乏
- タンパク質
- MCTオイル
- カゼインホスホペプチド
- 難消化性炭水化物(オリゴ糖、イヌリン、マンニトール、など)
- 可溶化したマグネシウム
- 溶解度の高いマグネシウム
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5652077/
マグネシウムの摂取
投与量
一般的な投与量は200~400mg
マグネシウム欠乏症が疑われる場合に投与されるマグネシウム最小用量は600mg
先進国に住む平均的な食事を摂る健常者が推奨されるマグネシウム摂取量は300mg
マグネシウムの投与量が370mgを超えると、血圧への影響が大きくなることが示された。[R]
食品
マグネシウムが豊富に含む食品には、海藻類、ナッツ、種子、未加工の穀類、ほうれん草などの緑黄色野菜がある。
マグネシウムを多く含む食品 100g中
- チョコレート 230mg [R]
- アボガド 一個(150g) 43mg [R]
- ナッツ 例カシューナッツ292mg [R]
- 納豆 115mg
- 豆腐 53mg [R]
- かぼちゃの種 535mg [R]
- そば(乾燥) 232mg [R]
- サーモン 30mg [R]
- バナナ 一本(中サイズ)32mg [R]
- 緑の野菜 例ゆでたほうれん草87mg [R]
マメ科の植物、果物、魚、肉などに中程度のマグネシウムが含まれている。
胚芽やふすまを除去した精製食品の摂取が中心の食生活では、マグネシウム摂取量が低下しがち。
吸収
マグネシウム恒常性
マグネシウムは主に小腸で吸収されるが、食品から吸収されるマグネシウムは24~76%であり、残りは糞便として排出される。
腸からのマグネシウムの吸収は摂取量に直接比例せず、マグネシウムホメオスタシスによってマグネシウム濃度が低いとより吸収が高まり、マグネシウム濃度が高いと吸収率は少なくなる。[R][R]
腎臓による調節
この調節は主に腎臓によって行われており、重度の腎不全ではマグネシウムの緩衝系が破壊されるため、ヒト細胞に過剰なマグネシウムが保持される。
低マグネシウム血症および低カリウム血症は、しばしば腎臓のカリウム分泌障害に起因する。
タイトジャンクション
マグネシウム吸収の調節は腸内腔から血液の濃度勾配は壁細胞による調節も示唆されている。
壁細胞経路の透過性はタイトジャンクションを構成するタンパク質によって構成されるが、詳しい仕組みはまだ未解明にある。
血液脳関門
マグネシウムはBBBを通過することができる。脳内のマグネシウム濃度は、血清中のマグネシウム濃度よりも高く、血液脳関門における能動的輸送によって恒常性が維持されている。[R][R]
脈絡叢からのマグネシウム輸送経路は明らかになっていない。[R]
TRPM6・TRPM7
マグネシウム恒常正に関与する遺伝子[R]
TRPM6 rs11144134
吸収率に影響を与える栄養素
ビタミンD
1,25-ジヒドロキシビタミンD は、腸のマグネシウム吸収を刺激することが示されている。マグネシウムはビタミンDの輸送体たんぱくへの結合に必要な補因子でもある。
イヌリン
食事中のイヌリン(食物繊維)など、食事中のいくつかの生理活性物質はマグネシウムの吸収率を高める可能性がある。[R]
フィチン酸
食事中のフィチン酸はマグネシウムと結合して、マグネシウムの吸収を60%減少させる。[R]
シュウ酸塩
シュウ酸塩を多く含む野菜(ほうれん草)は低い野菜よりも低くなる。[R]
葉物野菜類
葉物野菜のマグネシウム吸収率 40~60%[R]
マグネシウム摂取量
マグネシウムの理想的な摂取量は、体重に基づくべきであると多くの専門家は考えている。
例 1日4~6mg/kg
※マグネシウム-スレオニンの推奨摂取量は一日2g
カルシウムとマグネシウムの比率
一般的にカルシウムと併用することで、マグネシウムの吸収力が高まるため、多くのマグネシウム補給剤は1:2の割合でカルシウムが多く添加されている。
しかし、この比率は食事の摂取量を無視した比率であり、一般的な食生活ではカルシウムよりもマグネシウムの不足が問題であるため、1:1か、マグネシウムが若干多いぐらいの比率を推奨する研究者もいる。[R][R]