書籍要約『インフォーマル・アーバン・アグリカルチャー:ゲリラ庭師たちの秘密の生活』 – マイケル・ハードマン、ピーター・J・ラーカム 2014

ガーデニング・農法

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English Title:Informal Urban Agriculture:The Secret Lives of Guerrilla Gardeners– Michael Hardman, Peter J. Larkham (2014)

Japanese Title:『インフォーマル・アーバン・アグリカルチャー:ゲリラ庭師たちの秘密の生活』 – マイケル・ハードマン、ピーター・J・ラーカム (2014)

目次

  • 第1章 ゲリラ的都市農業:隠された運動を掘り起こす / Guerrilla Urban Agriculture:Unearthing the Hidden Movement
  • 第2章 都市を耕す / Cultivating the City
  • 第3章 許可なき運動を掘り起こす / Unearthing the Unpermitted Movement
  • 第4章 ゲリラたちとの現場経験:あるエスノグラフィック的省察 / On the Ground with Guerrillas:An Ethnographical Reflection
  • 第5章 主要メッセージの解体:Fトゥループと女性グループの分析 / Deconstructing the Key Messages:Analysing F Troop and the Women’s Group
  • 第6章 この空間は誰のものか?当局とゲリラ庭師たち / Who Owns This Space? Authorities and Guerrilla Gardeners
  • 第7章 影響の探求:ゲリラ庭園サイト周辺のアクターへの聞き取り / Exploring Impact:Consulting Actors Surrounding Guerrilla Gardening Sites
  • 第8章 ゲリラ庭師、都市農業、食、そして未来 / Guerrilla Gardeners, Urban Agriculture, Food and the Future

本書の概要

短い解説:

本書は、許可なく都市の空地を耕作する「ゲリラ庭師」たちの実践を、参与観察に基づくエスノグラフィー的手法で描き出す。彼らの行動理由、当局との関係、地域社会への影響を批判的に検証し、これまで無批判に称賛されてきたゲリラ園芸の光と影を明らかにする。

著者について:

マイケル・ハードマンはソルフォード大学の研究者で、ゲリラ園芸をテーマに修士号と博士号を取得。ピーター・J・ラーカムはバーミンガム・シティ大学の教授で、都市形態と空間に関する長年の研究経験を持つ。両者は共同で国際的な都市農業展「キャロット・シティ」をバーミンガムで開催した。ハードマンが二年間にわたるフィールドワークを担当し、本書の観察記録は彼の視点で記述されている。

テーマ解説

ゲリラ・トラップ(Guerrilla Trap):ゲリラ園芸が常に肯定的で地域社会に有益であるという無批判な前提を戒め、その活動が時にコミュニティを排除し、環境に悪影響を及ぼしうることを示す批判的視座。

キーワード解説

  • ゲリラ園芸:所有者の許可なく他人の土地を耕作する行為。美化目的から食料生産まで多様な動機を持つ。
  • インフォーマル都市農業:許可を得ずに行われる都市内での食料栽培。本書の核心的な研究対象。
  • 許可なき開発:計画許可を得ずに行う土地利用変更。法的には曖昧な領域であり、英国の盗難法では植物の採取は窃盗罪に問われにくい。
  • ローカル・トラップ:地域スケールが常に望ましいという前提を批判する概念。本書ではゲリラ園芸にも適用される。
  • ビッグ・ソサエティ:キャメロン政権のボランティア活動推進政策。Fトゥループはこのレッテル貼りを強く嫌悪する。

3分要約

本書『インフォーマル・アーバン・アグリカルチャー』は、許可なく都市の空地を耕す「ゲリラ庭師」たちの実践を、二年間にわたるエスノグラフィー的調査に基づいて描き出す画期的な研究である。従来のゲリラ園芸に関する文献は活動を無批判に称賛する傾向があったが、本書はそのような「ゲリラ・トラップ」に警鐘を鳴らし、活動の光と影を公平に評価する。

研究対象となったのは三つのケースである。まず「Fトゥループ」は、地方自治体の職員たちが平日は雇用主である当局の土地を、週末に許可なく耕作するという皮肉なグループである。彼らは高速道路の分離帯という過酷な環境に野菜を植え、主にスリルと当局への反抗心から活動を続ける。次に「女性グループ」は、コミュニティ・ガーデンと称して裏庭を耕作するが、実質的には許可を得ていない個人用の菜園であり、「コミュニティ」という名とは裏腹に地元住民のアクセスは制限されている。最後に「ソロのゲリラ庭師」は、自宅近くの路地を食料生産の回廊に変える高齢女性であり、当局の不作為に対する不満から活動を始めた。

これらのケース研究から浮かび上がるのは、ゲリラ園芸が常に地域社会に利益をもたらすわけではないという事実である。Fトゥループは地域住民とほとんどコミュニケーションを取らず、持続不可能な野菜を植えては放置し、サイトを荒廃させる。女性グループは「コミュニティ・ガーデン」と称しながら実際には鍵をかけて立ち入りを制限し、生産物の大半を自分たちで消費している。両者とも地域住民を計画プロセスから排除し、自分たちの価値観のみで空間を再編成している。

なぜ彼らは許可を得るという正規のルートを選ばないのか。本書はその理由を「計画システムへの否定的な認識」に見出す。両グループとも、許可を得るプロセスは過剰な書類作業と官僚主義を伴い、自分たちの創造性を奪うと信じている。特にFトゥループは雇用主である地方自治体への反感と、キャメロン政権の「ビッグ・ソサエティ」に組み込まれることへの強い拒否感から、合法的な移行を頑なに拒否する。彼らは「いたずら」のスリルを何よりも重視している。

しかし本書は、ゲリラ園芸がまったく無意味だと断罪するわけではない。Fトゥループの活動に触発されたパブの女将が、自分も野菜を育てたいと志すようになった事例は、彼らの「象徴的な」農業が確かに影響を及ぼしたことを示す。また女性グループの週二回のコミュニティ・ランチは、経済的に困難な地域で住民に温かい食事と社交の場を提供している。問題はそのプロセスと帰属意識にあるのであって、活動自体の価値ではない。

本書の方法論的貢献も見逃せない。研究者が単なる観察者に留まらず、グループに深く入り込みながらも主体的には参加しないという「受動的参与観察」の手法は、違法行為に近い活動を研究する際の倫理的枠組みを提供する。ハードマン自身は特別警察官という立場にありながら、観察対象の違法性が刑法上の問題に該当しないことを確認し、透明性を保って調査を進めている。

結論として著者らは、ゲリラ園芸を無条件に賞賛するのでも全面否定するのでもなく、その活動が持つ「ゲリラ・トラップ」を認識した上で、いかにして正規のルートに移行させるかを問う。彼らが提案するのは、自治体がゲリラたちの自主性とスリルを維持しつつ、安全で持続可能な形で協働する道筋である。都市農業への関心が高まる今日、本書はその「隠された側面」に光を当て、より建設的な議論の基盤を提供する。

各章の要約

第1章 ゲリラ的都市農業:隠された運動を掘り起こす

本章は本書の導入として、ゲリラ園芸という現象の定義と研究の必要性を提示する。著者らは、ゲリラ園芸を「許可なく他人の土地を耕作すること」と定義し、その活動が従来の学術研究で軽視されてきたことを指摘する。特に、美化目的ではなく食料生産を目的とするゲリラについては、ほとんど研究が存在しない。本書の目的は、この「鉄のカーテン」の向こう側にある活動を明らかにし、ゲリラたちの日常的実践とその影響を分析することだと述べられる。著者らは自身の研究方法として、参与観察とインタビューを組み合わせたエスノグラフィー的手法を採用したことを説明する。「ゲリラ中心主義」から脱却し、コミュニティの声も拾い上げるバランスの取れた研究を目指すと宣言する。

第2章 都市を耕す

本章は都市農業(UA)に関する包括的な文献レビューを提供する。古代ローマから現代の勝利農園、コミュニティ・ガーデン、垂直農場に至るまで、都市での食料栽培の歴史と多様な形態が概観される。特に食料安全保障の問題が焦点となり、世界人口の増加に伴い食料生産を70%増加させる必要があるというFAOの予測が紹介される。しかし英国では依然として70%の食料を輸入に依存している。著者らは、キューバのハバナ(26,000以上の都市農園)やデトロイト(放棄地の活用)などの国際的事例を参照しつつ、英国の計画システムが都市農業の障壁となっている現状を批判する。特に「ローカル・トラップ」の概念を用いて、「地域産が常に良い」という前提を問い直す必要性を強調する。

第3章 許可なき運動を掘り起こす

本章はゲリラ園芸運動の歴史と現状を詳細に描き出す。1973年のニューヨーク「グリーン・ゲリラズ」を現代運動の起源とし、リチャード・レイノルズのウェブサイト(guerrillagardening.org)が運動のグローバル化に果たした役割を分析する。著者らは、ゲリラ園芸に関する既存の学術文献が極めて限られていること、またその多くが活動家自身による自己肯定的な記述であることを批判する。特に注目すべきは、活動の違法性に関する議論である。英国の盗難法では「野生のキノコや花の採取」は窃盗罪にならないとされる一方、植物を「切断」する行為は違法となりうるという法的曖昧領域が指摘される。著者らは「隠れたネットワーク」としての運動の特徴を、メリチの社会運動理論を用いて分析する。

第4章 ゲリラたちとの現場経験:あるエスノグラフィック的省察

本章では、実際のフィールドワークの記録が提示される。三つのケース――Fトゥループ(地方自治体職員からなるグループ)、女性グループ(無許可のコミュニティ・ガーデンを運営)、ソロのゲリラ庭師――へのアクセス方法と観察プロセスが詳細に記述される。Fトゥループの五つの「フェーズ」にわたる活動が時系列で追跡され、彼らが最初は花だけを植えていたが、後にナスタチウム(食用花)、エンドウ豆、ホウレンソウなど edible crops を導入する過程が描かれる。同時に、メンテナンス不足でサイトが荒廃する様子も克明に記録される。女性グループについては、季節ごとのコミュニティ・ランチと菜園の状態が観察され、「コミュニティ・ガーデン」という名に反して実際には立ち入りが厳しく制限されている実態が明らかにされる。

第5章 主要メッセージの解体:Fトゥループと女性グループの分析

本章では、第4章の観察データを理論的に分析する。Fトゥループについては、意思決定がリーダーのサラに一元化されている階層的構造が批判される。リチャード・レイノルズが推奨する「分散型リーダーシップ」とは対照的に、この構造は参加者の定着率低下を招いている。食料生産に関しては、実際には収穫・消費されない「象徴的な」都市農業に留まっており、土壌汚染の危険性にもかかわらず警告表示もない。女性グループについては、「コミュニティ・ガーデン」という名称とは実態が乖離していることが批判される。メンバー自身が「アロットメント」(個人用区画菜園)と呼び、鍵をかけて一般住民のアクセスを制限し、生産物の大半を自分たちで消費している。著者らは両者を「無意識のゲリラ」(女性グループ)と「意識的なゲリラ」(Fトゥループ)として対比し、ゲリラ園芸のスペクトラムの広がりを示す。

第6章 この空間は誰のものか?当局とゲリラ庭師たち

本章では、なぜゲリラたちが許可を得るという正規ルートを拒否するのかが分析される。Fトゥループの場合、雇用主である地方自治体への反感、計画許可プロセスへの過剰な官僚主義認識、そして「いたずら」のスリルへの欲求が主要な動機として挙げられる。特にキャメロン政権の「ビッグ・ソサエティ」に組み込まれることを強く拒否しており、「もしビッグ・ソサエティの一部だと言われたら、二度とやりたくなくなる」というアンナの発言が引用される。女性グループの場合、リーダーのモンが過去に計画部門とのネガティブな経験を持ち、「アロットメントと呼ぶとたくさんの許可が必要になる」という認識から、意図的に「コミュニティ・ガーデン」という名称を選んだ。両者とも、合法的なルートを取れば自分たちのコントロールを失うという「主権」へのこだわりを共有している。

第7章 影響の探求:ゲリラ庭園サイト周辺のアクターへの聞き取り

本書で最も批判的な章であり、ゲリラ園芸が地域社会に及ぼす実際の影響が検証される。Fトゥループのサイト周辺のパブ常連客への聞き取りでは、活動に気づいていない人々が多数いる一方、気づいている人々からは「野菜をこんな場所に植えるなんてありえない」「すぐに荒れ果ててしまう」といった否定的意見が寄せられた。特に「シンボリックな」農業のメッセージはほとんど伝わっていない。女性グループについては、コミュニティ・ランチに参加する住民からは「新鮮な野菜が食べられて良い」という肯定的意見がある一方、「もっとガーデンに自由に入れるようにしてほしい」という要望も聞かれた。著者らは、両グループとも「ゲリラ・トラップ」に陥っていると結論づける。すなわち、「地域のための活動」という主張とは裏腹に、実際には自分たちの価値観を空間に押し付け、地域住民を排除している。

第8章 ゲリラ庭師、都市農業、食、そして未来

最終章では、研究の知見が総括され、将来の研究課題が提示される。著者らは、ゲリラ園芸を無条件に賞賛する「ゲリラ・トラップ」を回避しつつ、その潜在的価値を認めるバランスの取れた視点を主張する。Fトゥループに触発されてパブの女将が自ら野菜を育て始めた事例は、たとえ「象徴的」な活動であっても影響力を持ちうることを示す。今後の課題として、ゲリラたちを正規のルートにいかに移行させるかが挙げられる。その際に重要なのは、彼らの「スリル」と「自主性」を維持しつつ、安全性と持続可能性を確保する枠組みである。方法論的には、本書が採用した「受動的参与観察」の手法が、違法行為に近い活動を研究する際のモデルを提供すると述べられる。最後に、著者らはより多くの研究者が「野生のゲリラを観察」することを呼びかけ、この分野のさらなる発展を願う言葉で結ぶ。


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