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概要
水素とは2つのプロトンと2つの電子からなる最小のガス分子
水素は唯一酸化ラジカルと反応することができる安定性の高いガス
水素は体の細胞に浸透、拡散しやすく他の分子との衝突速度が非常に高い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22077489
水素治療の歴史
水素が窒素の毒性を低減し呼吸の抵抗を減少させることが知られており、1995年に深海ダイビングによる高圧神経症を緩和する目的で水素が使われたのが水素治療の始まり。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7742710/
2007年に、脳梗塞モデルのラットへの水素投与が顕著な効果を示した報告をきっかけに水素研究の拡大につながる。当研究において水素の効果はヒドロキシルラジカルの消去特性に起因することが実証された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17486089/
その後水素療法に関する多くの研究および試験によって、水素の治療効果は抗酸化作用、抗炎症、高アポトーシスと関連しているのではないかと推定されている。
水素のミトホルミシス効果
水素水を飲み続けたリウマチ患者のウォッシュアウト期間においても、炎症マーカー減少の影響が示される。これは水素の直接的な抗酸化作用では説明できず、抗酸化、抗炎症関連の遺伝子発現によるものと考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23031079/
水素の投与はNrf2の活性を介して抗酸化酵素の発現を増加させることが試験管実験で報告されており、水素療法の効果はミトコンドリアの軽度の酸化ストレスを生じさせることによるミトホルミシス効果である可能性も浮上してきている。
kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24500882/
抗酸化剤としての水素
現在、神経疾患に臨床的に用いられている抗酸化物質はごく少数であり、有効性も限定的なものとなっている。水素の血液脳関門への浸透性、酸化物質のへの特異性、副作用の少なさという特徴から炎症と関連する脳卒中、外傷性脳損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患への応用が期待されている。
水素水の特性
体内に吸収されにくい水素
水素は水に溶けにくく室温100%の飽和度で0.8~1.6ppm程度。
水素(H2)の体液への溶解度も低く、体内ではほとんど吸収されない。
腸内細菌などによって産生された水素のほとんどは呼気によって排出される。
腸内細菌による水素産生
水素は体内で産生されることはないが、大腸内の多数の嫌気性細菌は、食物繊維、炭水化物などの多糖類を分解することによって水素を産生することができる。しかしそのほとんどは慢性便秘に関連しうるメタン(CH4)であり、含まれる水素はごくわずかであるため治療利用は期待できない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19830557
水素水のメリット
製作が簡単
水素生成器の場合、浄水を入れて10分程度。
自作水素水も材料を揃えて手順を覚えれば誰にでも簡単に作れる。
低コスト
自作する場合は初期費用数千円
一回の製作コスト 数円~数十円
毒性の低さ
これまでの研究で水素ガスの適用によって、致命的な副作用が生じた症例報告はない。
強力な細胞への浸透性、血液脳関門への透過性
水素水の強力な透過性は、ミトコンドリアおよびDNA、サイトゾルなどに到達し作用することが期待できる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21736547/
酸化代謝物が残らない
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26483953
水素水の長期効果
水素水を飲み続けたリウマチ患者のウォッシュアウト期間においても、炎症マーカー減少の影響が示される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23031079/
市販水素水 vs 牛乳
呼気の水素は水素水(0.6mM)摂取で2~9ppm、牛乳は約8時間後に164ppmに上昇。
体内の水素濃度は大腸発酵に強く依存する
水素は、市販の食物繊維、大豆粉、イヌリン、多数の野菜、果実および全粒粉のオリゴフルクトースなどの多数の消化できない食品を牛乳にくわえることで大腸で発酵され生成される。水素生成は通常の腸内細菌叢であれば、毎日の食事によって自然に引き起こされる。
牛乳不耐症の低い水素濃度
しかし牛乳不耐性の被験者では牛乳を飲んでも呼気の水素濃度の上昇は持続しない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19652760
適切な水素濃度の重要性
投与される水素濃度は不足、または過剰であっても副作用として毒性作用を生じることがあり、投与量の決定を疾患に応じて決定することが重要であることが示唆されているが、その最適濃度はまだ明確に決定されていない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20216947
水素水の効果
抗酸化作用をもつ遺伝子の発現
遺伝子オントロジー解析では、酸化還元に関連する遺伝子がアップレギュレートされていることが明らかになっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21512236/
抗酸化作用
ヒドロキシルラジカルの補足
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21293445
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17486089/
水素の投与によって被験者およびゲッパ類の酸化ストレスマーカーはすべて減少したが、疾患において連続的に作られるヒドロキシラジカルを補足するだけの十分な水素量が摂取可能であるのか疑問視されている。
Nrf2-Keap系の活性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24196871
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22860058
miRNAの調節
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23826519
抗炎症作用
IL-1β、IL-6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の抑制
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26993297/
NLRP3インフラマソームの抑制
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26091790/
水素は炎症性サイトカインの減少、免疫細胞の刺激の緩和が動物実験で実証されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23859555
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21048533
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20851484
水素水によるNF-κBの阻害
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21238541
抗アポトーシス効果
カスパーゼ3、12の活性低下
水素療法は、新生児低酸素虚血モデルラットの海馬および皮質カスパーゼ3、カスパーゼ12の活性を低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18603371
グレリン分泌の増加
水素水によるグレリン分泌誘導
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24253616
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22608009/
水素水がグレリンをアップレギュレートさせる。グレリンは食欲の刺激を与える以外にも、神経保護効果、認知増強活性効果をもつ。しかしグレリンのアップレギュレートはがんリスクの上昇も懸念させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25649854
オートファージーの活性
コレステロールと血糖値の低下
ランダム化比較試験 水素水の補給は、2型糖尿病患者の脂質代謝およびグルコース代謝を改善する。 一日900ml/日 8週間の投与
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19083400
MMP2、MMP9の低下
水素の投与による虚血ラットのニトロチロシンの発現およびMMP-9の活性の低下
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20423721
VEGFの低下
試験管モデルにおいて水素は血管内皮増殖因子(VEGF)の転写およびタンパク質からの分泌をダウンレギュレートさせる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18175936
水素水の疾患への効果
アルツハイマー病
水素水は、ADモデルラットにおいて、JNK、NF-κBの阻害により酸化ストレスおよび炎症を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21238541
海馬損傷の抑制
水素水の経口投与は、マウスのセロトニンレベルの低下を防止した。10週間の水素水投与で老齢マウスの海馬領域CA1、CA3のニューロン損失を防止し、マウスの認知障害を改善した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2872234/
ApoE4キャリアのMCI患者において有意な効果
軽度認知障害患者への水素水(0.4MPaの飽和レベル)300ml/日 の投与 ランダム化比較試験 1年後のADAS-cogに対照群との有意差はなかった。しかしApoE4キャリアではADAS-cogおよびワードリコールタスクスコアにて有意に改善を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29110615
パーキンソン病患者
水素水の連続投与または乳糖摂取による腸内細菌生成の水素では、限定的な効果しかなかったが、(継続的ではなく)断続的に水素水を飲ませることで、ラットのパーキンソン病を予防効果を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22608009
ランダム化比較試験パイロット研究 水素水1000ml/日 投与群ではパーキンソン病疾患評価尺度UPDRSスコアが対照群と比べ有意に高かった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23400965/
ランダム化二重盲検 パーキンソン病患者への投与 5mM水素水500ccを一日2回
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4865993/
外傷性脳損傷
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22742936
水素水は急性の外傷性脳損傷への有効で害のない治療法。マウスへの水素水投与は、外傷性脳損傷、脳卒中、および低酸素症によって生じるAQP-4、HIF-1およびMMPの発現および機能の変化を半分にまで減少、病理学的タウの発現を完全に遮断。
水素水が浮腫およびBBBの破壊を防御する。
水素水がミトコンドリアATP産生を促進する可能性。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25251220
低酸素性虚血脳症
低酸素性虚血性脳症の新生児に5ml/kgの水素水を10日間投与、血性NSE(ニューロン特異エノラーゼ)、IL-6、TNF-αのレベルを低下させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28352827
口腔内衛生
ランダム化比較試験 歯周炎の患者へマグネシウムスティックによって生成された水素水(200~300ml×4~5回/日)の飲用。日常的な歯周炎の健康状態が改善し、歯周炎治療の効果を高めた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4665424/
細菌は水道水と比較して、テストされた4つの細菌すべてに対して抗菌活性を示した。
口腔内には700種類の菌が存在すると推定されており、いくつかの菌株は虫歯、歯周病などの原因となる可能性がある。水素水はこれらの菌を除去することにより口腔衛生に良い影響を与える可能性がある。
水素水をうがいに使うと、口腔内の連鎖球菌形成を有意に減少させる。in vitro
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28087297
その他
創傷の治癒
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24020833
抗がん効果
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21042740
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19192719
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18175936
筋肉疲労を軽減
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3395574/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28474871
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26866650
エネルギー代謝の亢進
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22146674
onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1038/oby.2011.6
胃腸の損傷予防
bmccomplementalternmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/1472-6882-14-81
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3925872/
肺の保護効果
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26182997
肝臓の保護
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24127924
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23682614
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24127924
腎臓の保護
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21959999
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20388631
痛みの軽減
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23374763
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24941001
まとめ
- 脳へ到達し副作用も少なく作用する抗酸化剤はほとんどない中で、水素はそれらを兼ね備えており、神経変性疾患への抗酸化剤としての総合的な優秀さに特徴がある。
- 比較的な安価な機材で、個人作成できることも大きなメリット。
- ApoE4患者に効果あり。直接的にはおそらく炎症性である1型により有効、Nrf2活性によるホルミシス効果、グルタチオン増強などの間接効果としては3型により有効。
- リコード法関連の炎症検査値だと、高感度CRP、A/G比率、コルチゾールなど
- 予防レベルでは著しい効果を示す可能性があるが重篤患者への臨床的な効果は限定的、しかし作用メカニズムから推定するとすべての認知症患者さんに効果がありえる。
- 炎症、酸化ストレス度合いに応じた用量・用法が必要だが、最適値はまだ決定されていない。
- 動物実験では著効を示すが、ヒトではばらつきが見られる。
- 健康な腸内細菌を保有している健常者では、水素は体内で十分量作られる。
- おそらく水素水をあえて飲むことの効果は、水素の直接的な酸化ラジカルの補足作用よりも、関連遺伝子の発現が大きく関与している。これにはNrf2活性によるミトホルミシス効果が関与している可能性がある。
そのため、水素によって特異的な疾患などの治療効果を求めるなら高濃度の摂取によってピークを作る必要があるかもしれない。