植林はいかにして多次元の貧困を緩和するか?
How Can Tree Planting Alleviate Multidimensional Poverty?

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ノラ・マルテツシュレーガー著

グローバルリサーチ 2022年5月18日

テーマ 環境、貧困、社会的不平等

私たちの世界は今、多くの深刻な問題に直面している。現在の世界的なパンデミックを除けば、最も緊急に取り組むべき2つの問題がある。それは、地球の環境破壊と、特に地方に住む多くの人々の深刻な貧困と耐え難い生活環境だ。すべての人にとってより良い、持続可能な未来をつくるために、私たちはこれらの地球規模の脅威に対して共同の努力と地域的な解決策を必要としている。

植林は、この点で多くの利益をもたらす戦略の一つである。果樹や換金作物の木を農村地域と一緒に植えることで、収入や雇用の機会を生み出すと同時に、環境条件を改善し、気候変動の適応と緩和に貢献することができる。

樹木の生態学的な利点は長年にわたってよく知られている。また、ここ数十年、多次元貧困(貧困は金銭的な価値だけでは測れないという仮定)への注目も高まり、社会的影響に関する関心や研究も徐々に進んできている。しかし、樹木と多面的貧困の関係を具体的に示す包括的な研究は、まだ不足している。

しかし、果樹の植林事業とそこから得られる収入が、金銭的な貧困の緩和だけでなく、生活のさまざまな分野に直接的な影響を与えることは明らかである。しかし、土地所有権の問題や伝統的な性別役割分担の問題など、すべての人が平等に恩恵を受けられるわけではない。

モロッコにおける多面的貧困緩和のための樹木の可能性に関する研究

モロッコにおける果樹と多面的貧困の関係について、High Atlas Foundation(HAF)の協力のもと調査を行った。HAFは米国とモロッコを拠点とするNGOで、農業、エンパワーメント、青少年育成、教育などの分野で持続可能な開発プロジェクトに注力している。設立以来、モロッコで400万本以上の果樹を植え、現在では地域社会と連携して14の苗床を運営している。

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今回初めて、ハイ・アトラス山脈のトゥブカル村の2つの村で 2020年の世帯調査を実施し、これらの植林事業がもたらす社会的効果を幅広く調査することができた。両村は、立地や環境、村の規模や構造などの条件は非常に似ているが、植林の状況には大きな違いがあった。クルミ、サクランボ、リンゴを中心とした植樹本数は、一方の村が25世帯で2,856本、もう一方の村が23世帯で579本と、約5倍も多いことが報告されている。

もっと読む:植林は貧困削減と気候変動の抑制につながる

植林による貧困削減の可能性を探るため、果樹農業と貧困の多面的な関連性、そしてモロッコの特殊な状況について調査した。そのため、健康、教育、生活水準の側面から貧困を測定する多次元貧困指数(MPI)をツールとして使用し、現地の状況に適合させた。

このような多面的なアプローチにより、従来の金銭的な尺度にとどまらない、貧困という現象のさまざまな側面を明らかにすることができた。多次元的な貧困の概念は、所得や消費の尺度だけで貧困を定義するものではない。むしろ、アマルティア・センの能力アプローチのように、教育、ジェンダー、健康状態、居住地、社会保障など、貧困から解放された自己決定的な生活を送る能力に直接または間接的に影響を与える様々な要素を包括することができる。

調査の結果、木の多い村は貧困レベルが有意に低いことがわかった(MPIが低く、多次元的貧困と認定された人々の人口シェアが低い)。さらに、この村の人々は、多重苦が少ないだけでなく、ほとんどのMPI指標において個人的な苦も少なかった(衛生状態の改善といくつかの資産の所有を除く)。特に、長期的な子どもの死亡率、子どもの就学率、世帯の主な調理用燃料に大きな差が見られた。具体的には、ここ数十年の間に子どもを亡くしたという世帯は少なく、学齢期の子どもはより多く学校に通い、ガスなどのクリーンな調理燃料を使う世帯が多くなっていた。

こうした開発の進歩の多くは、1990年代からコミューンで始まった植林事業がきっかけとなり、豊かさが増してきたことに起因している。何人かのコミュニティメンバーは、それ以来起こった多くのポジティブな変化を強調した。例えば、前コミューン議長のモハメド・ヒンミは、繁栄が人口の流動性を高め、その結果、都市部などでの雇用や教育の機会が増えたと述べている。

しかし、果樹は家計の収入源であるだけではない。果樹の果実は健康に良い影響を与え、家族の食生活を豊かにし、親や子どもがより健康的な生活を送るための重要な要素となっている。このように、樹木は家庭の糧や収入に貢献し、貧困のさまざまな側面を緩和するために利用されているのである。このほかにも、人や環境に与えるポジティブな効果は数多くあるが、今回実施した調査で観察できたのはその一部のみである。

隙間に入り込む弱者たち

果樹の植林は人間の生活の様々な側面に良い影響を与えるが、これらの恩恵は主に一部の特権階級にのみ適用され、最も弱い立場の人々は富や社会発展の恩恵を平等に受けられない場合がある。

特に男女平等の観点からは、果樹の植林のみに焦点を当てたプロジェクトでは、土地や家計を男性が支配しているため、村の女性の利益は非常に限られており、女性の見通しが改善されないことが多い。このことは、裕福なトゥブカル村では、男性の就学率や就業率が高い一方で、女性については同じことが言えなかったことからも明らかである。実際、植樹の少ないもう一つの村の方が、ほとんどの貧困指標で総合的に悪い結果となっているが、女性の教育や雇用への参加率は、個人と集団の意識と行動により高いものとなっている。

確かに、両村とも女性の失業率は89〜100%と、依然として高い水準にある。しかし、村人の中には女性や少女の教育を充実させようと努力している人もおり、ある村では中等学校に通う少女も出てきており、この地域の大きな発展につながっている。自助努力の仕組みを作り、女性に力を与えることは、単に富を増やすことよりも、生活状況の改善に大きな影響を与えることは明らかである。

また、土地を持たない貧しい農民も、植林による共栄のためには、少なくとも小さな土地や家庭菜園が必要なため、見過ごされがちな存在である。そのため、植樹の恩恵を受けられるかどうかは、土地の広さに大きく左右される。逆に言えば、より多くの土地を所有し、より多くの木を植えることができる人は、当然、より多くの利益を得ることができる。

その結果、植林事業の実施とモニタリングが不十分だと、社会階層が強化され、本当は貧困の解消が急務である人たちが置き去りにされてしまうという問題がある。土地のない人への土地の提供や共同体への植樹は、こうした傾向に歯止めをかけるのに役立つだろう。

前へ進む

そのため、最も脆弱なグループに手を差し伸べ、植林の恩恵をすべてのコミュニティメンバーに行き渡らせるために、特別にターゲットを絞った介入が必要だ。この調査によって、HAFは新たなプロジェクトを再考し、インスピレーションを得ることができた。ハイ・アトラス・ファウンデーションは現在、トゥブカル村の1つで、使われていないコミュニティの土地に有機栽培の庭を作り、木の苗床を作るという女性たちのプロジェクトを実施するための資金パートナーを求めているところである。また、既存の苗床は完全に女性の管理下に置かれている。さらに、女性たちはHAFがファシリテートするエンパワーメント・ワークショップに参加することで、自分たちの生活状況を改善するための行動を起こしている。

このようなエキサイティングなプロジェクトは、今後、果樹が多面的な貧困に与えるポジティブな影響をさらに向上させるだろう。より多くのNGO、研究者、開発実務者がこのようなプロジェクトの大きな可能性に気づき、地球上のより良い未来のために植樹に協力することを期待しよう。

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