グリシン
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概要
グリシンはタンパク質を構成するアミノ酸のひとつ。アミノ酸の中でもっとも単純な形であり、立体異性(D体、L体)がない。
グリシンは、脳内で活性と抑制作用の両方の役割を果たすことができる。
グリシンの供給源
グリシンは半必須栄養素と呼ばれることがあり、体内での合成と食物からの両方か供給される。
肉や魚介類には100gあたり、1~2g、卵は100gあたり0.4g含まれる。
グリシンはコラーゲンに多く含まれており、アミノ酸の約3分の1がグリシンで構成されているため、グリシンを摂取するには最高の供給源。
体内でも合成されており、主な経路はグリシンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(GHMT)一日2.5gのグリシンを生成する。
10gのグリシン欠乏
食事からは1.5~3gを消費するが、グリシンの生合成能力は、必要なコラーゲンの供給量を満たしておらず、70kgの体重で10gも不足する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20093739
グリシンの役割
結合組織障害
グリシンは体内でもコラーゲン合成に重要な役割を果たしており、安定性のために3分の1がグリシンとして用いられる。そのためグリシンの変異は骨形成不全症など、さまざまな組織の結合障害をもたらす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12362985
酵素の構造変化
グリシンは、酵素の構造や機能において重要な役割を果たしており、酵素活性部位に柔軟性を与えることによって、酵素が基質と結合するために立体構造を変化させることができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9013553
重要な化合物の前駆体
グリシンは以下の生物学的に重要な化合物を合成する前駆体。
- ポルフィリン
- ヘム
- クレアチン(グリシン+アルギニン+メチオニン)
- グルタチオン(グリシン+システイン+グルタミン酸)
- プリン
- RNA/DNA合成
- 胆汁酸(+タウリン)
神経伝達物質
興奮性と抑制性
グリシン自体が、GABAやアグマチンに類似したシグナル伝達系を有する神経伝達物質。抑制性であり、GABA作動性システムと協調して働く。
海馬にはグリシン受容体が発現しており、ニューロンの興奮に対して抑制効果をもつ。グリシンは海馬を介したシグナル伝達に関与しており、グリシン作動系とグルタミン作動系の両方に関与する。
興奮性神経伝達物質
NMDA受容体は、2つのグリシンが結合した(GluN1)サブユニットとグルタミン酸が結合した(GluN2)ユニットで構成される四量体。
そのため、グリシンは興奮性であるグルタミン作動性神経伝達に役割を果たす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20716669
カリウムと塩化物の輸送が損なわれている場合は、グリシンは興奮性として作用する可能性がある。
グリシントランスポーターによる調節
グリシンのNMDA受容体でのグリシン濃度は、グリシントランスポーター(GlyT1、GLYT2)によって調節される。
GlyT1がシナプス間隙からグリシンを除去するために運搬するのに対し、GlyT2はグリシンの神経終末への再取り込みに必要。それによってシナプス小胞の神経伝達物質の再補充を可能にする。
GlyT1対立遺伝子変異マウスでは、NMDARが過剰活性している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16417482
グリシンは緩衝システムによって100μM以上の濃度によって、濃度依存的にNDMAシグナル伝達を増強するものと考えられる。
pharmrev.aspetjournals.org/content/50/4/597
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9862928
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11115334
グリシンの作用
AGEsの減少
2型糖尿病ラットモデルへのグリシン投与は、主にHbA1c、血清と眼の水晶体の両方での最終糖化最終産物(AGE)濃度を減少させることを介して、糖尿病性白内障の発症と進行を有意に遅らせることが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22355255
ヒト成長ホルモン(hGH)の増加
高用量のグリシン(22.5g)の健康な被験者への投与は、血清ヒト成長ホルモン(hGH)レベルを有意に増加させた。グリシン投与後hGHは急速に上昇し最大でベースラインの3.6倍の増加を90分後に示し、180分後でも60%の上昇が持続した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/622050
肝機能の保護効果
アルコール肝障害に対する保護
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14581719/
アルコール投与のラットへのグリシン治療は、アルコールにより示した脳浮腫を著しく低下させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15236634
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14581719
低酸素
グリシンはラットの低酸素による肝臓の微小循環障害を改善する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8779976/
酸化オイル
グリシンまたはグルタミン酸の併用投与は、酸化油による肝臓の障害に対して著しい回復を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28091680/
急性肝不全
グリシンとウリジンは、ラットのD-ガラクトサミンによる肝毒性を防ぐ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10051475
抗炎症
グリシン投与は、NF-κBk活性化を阻害し、ラットの出血性ショックにおける肝障害を防ぐ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11705702/
エンドトキシン毒性の抑制
敗血症、エンドトキシン、出血性ショックの保護作用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11395604/
腫瘍壊死因子、炎症、およびマクロファージの活性化はグリシンによって阻害される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8760112/
睡眠
ラットモデルでは、グリシン摂取により、体内温度が低下し、血管の拡張が増加することでラットの睡眠を改善した。
翌朝の疲労感の軽減
就寝3時間前のグリシン3gの投与は、女性の翌朝の疲労を軽減し、自己申告による睡眠の質を改善する。
onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1479-8425.2006.00193.x
寝付きを良くする
睡眠に不満を抱える健康な人へのグリシン3gの投与は、睡眠潜時までの時間と、徐波睡眠に到達する時間を短縮し、主観的な睡眠の質の改善が報告された。レム睡眠と睡眠構造には影響を与えなかった。
onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1479-8425.2007.00262.x
VIPの増加
軽度の睡眠障害を抱える健康な人への就寝前のグリシン3gの投与は、血漿メラトニン濃度や概日リズムと関連する時計遺伝子(bmal1、Per2)には影響を与えなかったが、血管作用性腸管ポリペプチド(VIP)の増加が観察された。
睡眠の主観的な改善は一日しか持続しなかったが、コンピューターを使った反応時間テストのパフォーマンスは大幅な改善を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22529837
概日リズムへの作用と低体温
内因性のグリシンはおそらく、グルタミン酸に対する感受性を調節することによって、概日リズムを同期させる。外因性のグリシンの投与はこの調節作用を増強する可能性があり、視交叉上核のNMDA受容体を活性化することによって体温調節(低体温)と概日リズムを調節する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4397399/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4397399/