神経伝達物質ガンマアミノ酪酸(ギャバ)の健康効果
概要
GABA(γ-アミノ酪酸)は、ヒトの脳の抑制性の神経伝達物質としているアミノ酸のひとつ。
英語の頭文字をとってGABA(ギャバ)と一般に呼ばれている。
ガンマアミノ酪酸以外にも、アミノ基のつく位置によってアルファアミノ酪酸、ベータアミノ酪酸、があり、それぞれAABA、BABAと省略される。アーバ、ババ?
GABA受容体
主要なGABA受容体にはGABA A受容体とGABA B受容体が存在する。
GABA A受容体
抗不安、催眠・鎮静、抗けいれんなどの生理機能に関与する。
ベンゾジアゼピン系の薬剤はGABA A受容体だけに作用する。
GABA B受容体
GABA A受容体に比べると、効果に多くのステップを要するため応答が遅く、活性による催眠、鎮静、記憶障害の影響が少ない。
バクロフェン、フェニバットなどの薬剤が作用する。
GABAとグルタミン酸のバランス
ニューロンの動作速度を低下させることで、不安を解消し落ち着かせる。
グルタミン酸塩とバランス関係にある。
ただしGABAの代謝メカニズムは複雑で単純な拮抗関係ではない。
journal.frontiersin.org/article/10.3389/fendo.2013.00059/full
GABA濃度が低いと、グルタミン酸が過剰となり、興奮毒性をもたらし細胞死につながる可能性がある。
GABAは海馬、小脳、脊髄などに存在、
グルタミン酸とGABAとバランス補正
興奮性(グルタミン酸)系と阻害性(GABA /グリシン)系との間の歪んだバランスの補正が治療標的となる。アカンプロセート(Nアセチルホモタウリン、飲酒欲求を抑える薬)およびバクロフェン(GABA作動薬、中枢性筋弛緩剤)の組み合わせが、in vitro でGABA /グリシン作動性およびグルタミン酸作動性経路における標的の調節により神経保護効果を示し、ADマウスの認知障害を緩和した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25566747
アルツハイマー病とGABA
アルツハイマー病患者のGABA低値
アルツハイマー病患者は脊髄液中のグルタミン酸およびグリシンレベルが高く、血清中のアスパラギン酸およびグリシンレベルが高い。
脊髄液中のアスパラギン酸は低く、血清中のアスパラギン酸およびGABAが低い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9660105
AD初期の段階ではGABA受容体は保たれている
アルツハイマー病の非常に初期の段階では、GABA、ベンゾジアゼピン受容体を発現する新皮質および辺縁系のニューロン・シナプスは保たれている。
MCI患者においては、新皮質後部のニューロンシナプス消失に先行して機能的変化が起こる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20306034
AD初期のGABA受容体の機能不全と後のニューロン減少
海馬におけるGABA作動性ニューロンは、アミロイドβ42の神経毒性により機能不全を起こしやすい。
しかしニューロン数の変化はより後の段階で起きる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22232004
GABA阻害による認知障害
GABA抑制による記憶障害
GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与
www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2008/20080821_1/20080821_1.pdf
GABAの代替経路活性による認知障害
低酸素によりGABAの代替経路が活性化され、γヒドロキシブチレート(GHB)がアルツハイマー病の初期段階において、認知障害を引き起こしているかもしれない。GHBは急性の神経保護作用だけでなく、認知障害を引き起こす有害作用ももつ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26617286
GABAの障害による海馬神経新生阻害
ApoE4ノックインADマウスでは、GABA作動性ニューロン機能障害が海馬神経新生を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19951691
興奮毒性に対するGABAの補償応答
アルツハイマー病ではデフォルトニューロンネットワークの破壊が記憶障害の根底にあり、GABA作動性回路の変性はその破壊に主要な役割を果たす、もしくは興奮毒性に対しての補償応答である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26941642
GABAは脳関門を通過するのか?
GABAは血液脳関門(BBB)を通過しないため、サプリメントによる摂取の効果はあまりないと言われていたが、そのほとんどがウサギやイヌを使ったデータで、GABAに余分なOH基がついていたり、投与方法に問題があるとされている。
またラットの実験ではGABAは脳へ入る速度に対して、GABAが脳から出る速度が16倍もあるため、このこともBBBを通過する証拠が過小評価されているのではないかという指摘もある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11595763
現在は、少量であれば通過するという多くの研究報告があり、また脊髄液中のGABA濃度や血清中の一酸化窒素など、いくつかの因子によってGABAのBBB透過率が変動することもわかっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4594160/
変動するGABA脳関門透過率!
GABAが脳脊髄液に豊富にあるとGABA自身によって血液脳関門の透過性が低下する。
これはGABAがすでにあるときには、それ以上とっても脳への影響は少なく、脳内のGABAが不足している時に摂取すると脳への取り込み効果が高まる。
GABA不足時にはGABA単体のサプリメント摂取が効果を持つ可能性がある。
GABAを高める6つの戦略
1. GABAサプリメントによる直接補給
GABAサプリメントの効果はある
二重盲検 30名の健常な若者へGABAサプリメント800mgを投与、計画的行動、抑制するコントロール能力を向上させることが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26227783
しかし、GABAのBBB通過メカニズムが不明であるため、サプリメントの摂取が直接、脳へ影響およぼすかについてのコンセンサスはまだ得られていない。
※GABAサプリメントが腸内環境へ影響をおよぼした可能性もある。
2. GABAの脳取り込み能力を高める
一酸化窒素を高める
一酸化窒素があるとGABAの血液脳関門透過性が有意に増加する。
ラットのBBBの透過性が約4倍増加。
一酸化窒素を増やすアルギニンと同時接種することでGABAをより多く取り込める。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11849830
筋力トレーニング
筋力トレーニングによってNO(一酸化窒素)も増加するため、脳へのGABA取り込み濃度も高まる。
筋力トレーニング > GABA濃度の上昇 > 免疫反応性GH(irGH)、免疫機能性GH(ifGH)の放出
つまり、筋トレを行って時間が経つと、GABAが増え、脳への取り込みも増えるようになっている。うまいことできているものだ。
筋トレ30分後にGABAを直接補給することで、さらに脳へGABAの影響を与えることができるかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18091016
ピペリン
黒こしょうに含まれるピペリンおよびアナログのSCT-64が、GABAのBBB透過性を高める。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27018328
3. 脳内でGABA合成を高める
ビタミンB6(P-5-P) 補酵素
GABAは、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸からデカルボキシラーゼおよびピリドキサールリン酸(活性型ビタミンB6)が補酵素として用いられ合成されるため、ビタミンB6の不足はGABA合成の抑制へとつながる。
4. 腸内細菌にGABAを産生してもらう
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)
乳酸菌ラクトバシラス(Lactobacillus)およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は、腸内神経系のGABA濃度を増加させることができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25526825
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22612585
ラクトバチルス・ラムノサス(JB-1)
ラクトバチルス・ラムノサス(JB-1)はマウスのGABA受容体発現により、抗不安、抗うつ行動を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21876150
GABAがBBBを通過しなくても、腸内神経系の影響による間接効果により脳への影響を与えている可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4594160/#B44
ラクトバシラス(Lactobacillus)
5. サプリメント・薬剤によるGABA受容体の活性
ビタミン・ミネラル
イノシトール
ビタミンD
マグネシウム
カリウム
亜鉛
オメガ3脂肪酸
アミノ酸
タウリン
GABA-A、GABA-B受容体の両方へ結合する。
L-テアニン
Nアセチルシステイン、
グリシン
5-HTP
ハーブ
カヴァ(Kava)
カヴァに含まれるカバインがGABA A受容体をアロステリック効果により活性する。
カヴァの抗不安効果はベンゾジアゼピンに匹敵、肝機能に問題がある人は肝毒性に注意。ハーブの中ではもっとも強力なGABA活性剤
ヴァレリアン
バレリアンに含まれるバレリニック酸がGABA A受容体サブユニットを介してGABAを調節する。
ラベンダー
GABA活性により軽度にGABAが上昇
バイカレイン
GABA A受容体を活性
ガバペンチン
GABAトランスポーターを活性
遠志
緑茶
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17175819
アシュワガンダ
セントジョーンズワート
カモミール
GABA 薬剤
GABA作動薬
ランダム化、プラセボ二重盲検 AD軽度から中等度 159人の被験者
EHT0202(塩酸エタゾラート)GABA-A受容体モジュレーターおよびPDE-4インヒビターとして作用する化合物 用量の増加に伴い早期離脱者、中枢神経関連の有害事象が観察された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21222604
ペントバルビタール
ApoE4ADマウスにGABA A受容体増強剤ペントバルビタール(鎮静睡眠剤)を投与することにより、GABAシグナル伝達を強化し、学習および記憶障害を回復させた
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26888940
GABA輸送体活性化剤の治療効果
GABA輸送体の活性化剤であるガバペンチンの低用量投与によってアルツハイマー認知症患者7人全員が、印象的かつ臨床的に有意な治療反応を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23686029
GHRH投与によるGABA濃度の増加
MCIの高齢者へGHRHの投与、すべての脳領域でGABA濃度が増加。
前頭皮質におけるN-アセチルアスパルチルグルタミン酸(NAAG)濃度を増加させ、後部帯状体においてミオイノシトール(MI)濃度を減少させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23689947
6. GABAの体内合成を高める
瞑想
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1935861X12001532
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306987799909210
ヨガ
journals.sagepub.com/doi/abs/10.2466/pms.109.3.924-930
高周波反復経頭蓋磁気刺激
GABA受容体のアップレギュレーション
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25877359