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DHEA-Sulfate・DHEA
デヒドロエピアンドロステロン-サルフェート(dehydroepiandrosterone-sulfate)
概要
DHEAの役割
DHEA
ja.wikipedia.org/デヒドロエピアンドロステロン
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、もっとも豊富に存在するステロイドホルモンであり、脳内の細胞を含め多くの細胞が受容体を有する。
豊富なDHEA-S
DHEA-SはDHEA-Sulfateの略でDHEAが硫酸化された形態、DHEAに硫酸基(硫黄原子一個と酸素源4個)が結合している。DHEA-SからDHEAに代謝されるが、DHEA-Sに戻ることも可能。
血中を循環するDHEAの98%はDHEA-Sで、循環するステロイドホルモンの中で最も豊富な量をもつ。
謎の多機能性ホルモン
病態生理学におけるDHEA-Sの正確な役割、機能はよくわかっていない謎なホルモン。
その他のホルモンと異なり独自の分泌パターンをもつ多機能性ホルモンである。
疫学研究では、低レベルのDHEAは、心血管疾患、代謝疾患、神経学変性疾患と関連があることが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16042365/
回復が難しいDHEAレベル
DHEAレベルは一度低下を始めると、それを元に戻すフィードバックメカニズムは備わっていないため、回復は難しくなる。
加齢によって低下するDHEA
副腎から分泌されるDHEAは年齢とともに低下する。
DHEA-Sレベルは20代半ばにピークを迎え、年に2~4%低下してゆく。70歳までに約20%徐々に低下する。
www.life-enhancement.com/magazine/article/2994-what-you-should-know-about-dhea
加齢のバイオマーカー
加齢によってテストステロンおよびアンドロステンジオンレベルが急激に減少するのに対して、DHEA-Sは徐々に減少する特徴を示すため高齢化のバイオマーカーとして考えられている。
DHEA、DHEA-Sの役割
BBBの透過性
DHEA-Sは血液脳関門を透過しない。対照的にDHEAは血液脳関門を容易に横切る。
ニューロン新生と可塑性
DHEA-Sの産生は副腎に加えて脳内でも合成され、脳の機能、発達に関わる役割をもつことが示唆されている。
DHEAは血漿よりも脳内で高い濃度を保ち、個人差があることがわかっている。またDHEA-Sも脳内でDHEAから合成されている可能性がある。
脳において、DHEA-Sは一般にGABA-A受容体に非競合的アンタゴニストとして作用する。DHEA-SはNMDA受容体のポジティブなアロステリックモジュレーターとして作用する可能性がある。
低濃度のDHEA-Sの低濃度は神経保護性でありえるが、高濃度のDHEAは神経保護効果をもつこともあれば神経毒性ともなりうる。
DHEA-Sの神経新生および可塑性への役割は、BDNFレベルへの影響をおよぼすことによる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2725024/
DHEAと脳体積の相関
低いDHEAレベルは、大うつ病患者の脳サイズの縮小と相関する。
高いコルチゾールと低いDHEAの比は、大うつ病患者の海馬体積がより小さいこと関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27428086
作業記憶力と相関
DHEA、DHEA-Sレベルは認知機能と相関しており、特に女性の高いDHEAレベルは作業記憶、注意力、発話の流暢性と相関することが見出されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27346998
神経幹細胞の維持と分裂
DHEAはヒト神経幹細胞の維持と分裂に関与することが示唆される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14973190/
神経アンドロゲン受容体活性の二重効果
DHEAは神経伝達物質受容体を調節し、神経アンドロゲン受容体を介して、遺伝子の転写活性をアップレギュレーションに影響をおよぼしえる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14556282/
アポトーシスの阻害と促進
DHEAはAkt活性化によってアポトーシスを阻害するが、DHEA-Sは反対にAktを減少させアポトーシスを増加させる。
この2つの神経ステロイドのバランスが神経系の発達と維持に重要な役割を果たす。
カテコールアミン合成
DHEA-Sは、カテコールアミン合成および分泌に影響する。DHEAが影響を与える神経伝達物質は、5-HT、ドーパミン、グルタミン酸、GABA。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22032408/
ドーパミンを急上昇
DHEA、DHEA-S両者とも、ドーパミン放出を刺激することができるが、その経路は異なっている。
DHEA-Sはドーパミン産生に関わるチロシンヒドロキシラーゼレベルをアップレシュレートすることにより、ゆっくりと持続的にドーパミンを増加させるのに対して、DHEAはより強力で短期的にドーパミンレベルを急上昇させる。
うつ病との関わり
DHEAは精神病、うつ病へも重要な役割を有しており、高いDHEAレベルをもつ大うつ病患者では、抗うつ治療薬による症状の緩和を示す傾向にあり、特定のDHEAレベルを維持することが治療効果を高めることが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27693848
抗酸化作用
DHEA投与は過酸化水素によるNT2ニューロンの脂質化酸化速度を低下させる。(NT2ニューロンはプロオキシダントの曝露によってアミロイドβ産生に関与するBACE酵素の発現を誘導する。)
この神経保護効果は、神経栄養作用ではなくDHEAの抗酸化作用に起因する可能性がある。
抗炎症作用
DHEAおよびDHEA-Sは、TNF-α刺激によるNF-κB活性化に対して阻害効果をもつ可能性が示唆されている。
心血管への保護効果
6年間の追跡調査の結果、低レベルのDHEA-Sを有する閉経後の冠状動脈疾患女性患者の心血管死亡率および全体死亡率は高かった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20739385/
血清DHEAレベルが100μg/ dL増加により、全死亡原因36%の減少、心血管死亡率48%の減少と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2946952/
認知機能の臨床効果
高いDHEA-Sと実行機能、集中力、記憶力との関連
21~77歳の女性295人 高い内因性のDHEASレベルを有する女性は、高い実行機能、集中力、作業記憶と関連する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18073302/
低いDHEA-S、E2レベルとMMSEの関連
MMSEスコアが21以上の755人の参加者(男性410人、女性345人)
3年間の追跡調査 ベースラインでの低いDHEA-sレベルグループ(45.3μg/dl以下)ではHEASレベル、MMSEスコアの両方でより大きな減少と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19620821/
高いDHEA-Sと認知障害の異常な相関
特別養護老人施設の集団では、女性で高いDHEA-Sおよびエストラジオールレベルと認知障害に正の関連があった。
これらの知見に対する1つの潜在的な説明は、高いエストロゲンレベルがプロゲステロン受容体を誘導し、それによってGABA /ベンゾジアゼペン/ Cl 2イオンチャネル複合体に対する副腎プロゲステロンの効果を増大させることである。
高用量のプロゲステロンは若い女性に記憶障害を誘発し閉経後の女性にトリアゾラム(睡眠導入剤)の健忘作用を増強する報告がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10664831/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8144828/
健康な高齢者への認知能力に影響を与えない
二重盲検無作為化プラセボ対照試験 55〜85歳の男性110人、女性115人
1年間のDHEA50mgの補給は、健康な高齢者の認知能力や幸福に利益を与えない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18482290/
ストレス下での注意力の改善
二重盲検無作為化プラセボ対照試験 高齢者へのDHEA50mg/日の2週間の投与は、ストレス暴露後においてのみ投与群がプラセボ群よりも優れた注意力を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9802132/
脂質プロファイルへの影響
閉経期前後の女性60人への DHEA50mg /日の3ヶ月間の経口補給
テストステロンの増加、コルチゾールの減少、HDLの減少
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10566625
言語の流暢性とADLの改善
軽度から中等度の認知障害(MMSE10-28)を有する65~90歳 27人の女性への6ヶ月間のDHEA25mg投与 血漿テストステロン、DHEAおよびDHEA-Sを2~3倍増加させたが、エストラジオールレベルは増加させなかった。 言語の流暢さとADLに有意な改善を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20497239/
DHEAレベル
DHEA-Sの概日リズム
DHEA-SもDHEAもアルブミンと結合しているが、DHEA-Sがより強くアルブミンと結合しており、DHEAのバルクにもなっている。
DHEA-Sは、循環からの代謝クリアランスが遅くなる。
またDHEAは通常午前中に腎臓から迅速に分泌されるが、DHEA-Sは強い概日リズム変動示さず、長い生物学的半減期をもつ。日による変化も少ない。
そのため、DHEA-Sの測定はより安定したDEHAの指標とみなすことができる。
DHEA-S 高値
DHEA-Sの高値は、心疾患、糖尿病、ガンに対する保護効果を示す可能性がある。
DHEA-S 低値
副腎不全は、DHEAおよびDHEA-Sの副腎産生の低下につながる。
一般的にはDHEA-Sレベルは、DHEAレベルと比例し、アンドロゲンの欠乏または過剰の臨床症状と密接に相関する
健康感の低下
低レベルのDHEAは年齢とは関係なく、主観的な健康感の低下、さまざまな病状の両方に関連していることが報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8917605/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10366167/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18075764/
特に心理社会的な慢性ストレスを感じている個人はDHEA低値を示すことがある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24015247/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19816052/
燃え尽き症候群とDHEA-S低値の関連性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4595129/
ステロイドホルモン 代謝図
DHEA-S 検査値
リコード法 最適値
男性 400-500 mcg / dl (4000-5000ng/ml)
女性 350-430 mcg /dl (3500-4300ng/ml)
リコード法のホルモン最適値は一般基準値の上限値を上回り、おそらく一般にもっとも議論のあるエリア。
これは、DHEAおよびDHEA代謝産物の欠乏が脳の萎縮シグナル(ダウンサイジング)に大きく寄与することから、その歯止めをかけるための認知機能低下抑制に焦点をあてた治療用量として設定されている。(後期高齢者であれば少し低めの用量でも良い。)
少なくとも初期の段階ではこの最適値を目指す必要があり、一度認知機能が正常化したのなら様子を見ながら一般基準値の上限まで下げていくことは可能。
一般基準値 51-60歳
男性 38-313 mcg / dl (380-3130ng/ml)
女性 8-188 mcg /dl (80-1880ng/ml)
一般基準値 61-70歳
男性 24-244 mcg / dl (240-2440ng/ml)
女性 120-133 mcg /dl (120-1330ng/ml)
一般基準値 71以上
男性 5-253 mcg / dl (50-2530ng/ml)
女性 7-177 mcg /dl (70-1770ng/ml)
投与方法
投与量だけでなく投与のタイミングが重要と考えられている。
DHEA-Sの神経保護性濃度は逆U字型の用量反応曲線に従う。
(つまり、低すぎても高すぎても神経保護作用が大きく低下する)
ライフエクステンション社の投与プロトコル
DHEAの最適用量は、個人によって大きく異なる。
一般推奨量
一般的な推奨用量は15~75mgを一日3回に分けて摂取。
多くの研究では、大多数の高齢者の血清DHEAを若返らせるために1日50mgが投与されている。
認知症患者例
軽度から中程度の認知障害の高齢女性への投与研究では25mg/日のDHEA摂取により、認知スコアが上昇し、日常生活活動に必要な能力の喪失を防ぐことができた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20497239
高用量投与
より大きな投与量はより強力な効果を示すようであり、男性健常者へ300mg/日のDHEAの7日間の投与により、気分と記憶が改善され、夜間のコルチゾールレベルが低下、記憶関連脳領域の神経インパルスを変化させた。
これは、短期的な実験用量であり継続的な補充は推奨されない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16231168
その他、統合失調症患者がDHEAを200mg/日、6週間投与により、注意力、視覚、運動の持続能力が改善され、疾患症状の緩和に寄与した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16974191
再検査
DHEAの最適投与量を決めるには、DHEA療法を開始して3~6週間後に再検査を行う。
DHEA投与量を決定するための評価は、DHEAではなくDHEA-Sの検査が望ましい。
男性
DHEA療法を開始する前に、男性はPSA(前立腺特異抗原)レベルを測定し、直腸診に合格しなければならない。
前立腺がん患者が、DHEA補充療法を行うかの判断は難しい。医師に相談し、低用量DHEA15~25mg投与を検討してみる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19013497/
2年間のDHEA50mg投与は、高齢男性の前立腺容積またはPSAの増加を示さなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17050889/
前立腺がんリスクを減らすためのサプリメント
- ビタミンE 400〜800IU/日
- セレン 200〜600mcg/日
- メガソイ抽出物 1〜2カプセル/日
(40%イソフラボン抽出物) - リコピンエキス 20〜40mg /日
- ソウパルメット果実エキス 160 mg、1日2回
- ピグム樹皮エキス 50 mg、1日2回
- ネトル抽出物 120 mg、1日2回
- ガンマトコフェロール 210 mg/日
女性
DHEAのエストロゲンへの影響を評価するために、DHEAの検査だけでなく、エストロゲンとテストステロンの検査を含めた上で投与量を決定する。
エストロゲン依存性の癌と診断された女性は、DHEAを投与する前に医師に相談する必要がある。いくつかの研究では、血清DHEA高値が乳がんに対して保護効果をもつことが示されているが、乳がん患者へのDHEA投与の効果を評価する研究は十分ではない。
女性の推奨併用サプリメント
- メラトニン 0.5〜3mg/日 夜
- ビタミンEコハク酸塩 400〜800IU/日
- メガソイ抽出物 135mg/日
(40%イソフラボン抽出物) - インドール-3-カルビノール 200mg/ 1日2回
- ビタミンD3 1000〜1400IU
- ガンマトコフェロール 210 mg
肝疾患
肝疾患(ウイルス性肝炎や肝硬変など)を患っている患者は、DHEAを舌下服用するか、またはDHEAクリームを局所使用することで、肝臓に入るDHEAの量を減らすことを検討する。
www.lifeextension.com/Magazine/2001/5/briefs/Page-01
DHEA-Sレベルに作用する薬物
DHEA-Sレベルを低下させる可能性のある薬剤
- コレスチラミン
- フィッシュオイル
- ビタミンE
- 抗高脂血症薬(スタチンなど)
- ドーパミン作動薬(レボドパなど)
- インスリン
- 経口避妊薬
- コルチコステロイド
- 中枢神経系に作用する薬剤(カルバマゼピン、クロミプラミン、イミプラミン、フェニトインなど)
DHEA-Sレベルを増加させる可能性のある薬剤
- メトホルミン
- ニコチン
- カルシウムチャネル遮断薬
- プロラクチン(神経弛緩薬)
- トログリタゾン
www.mayocliniclabs.com/test-catalog/Clinical+and+Interpretive/113595
アルツハイマー病
ある研究では対照と比べたアルツハイマー病患者の血清DHEA-S濃度は減少していたが、脊髄液中のDHEA-S濃度は上昇していた。
この脊髄液中の高いDHEA-S濃度は別の合成経路により産生されたと推測されている。
DHEA:DHEA-Sの比率の重要性
認知機能の低下はDHEA濃度よりも、DHEA-S濃度の低下がより強く関連している。
またDHEA、DHEA-Sいずれかの絶対濃度よりも、DHEA:DHEA-Sの比率が重要となってくる。
DHEA-S:コルチゾール比率の減少は、認知障害と関連し海馬容積と相関する。(MMSEとは有意に相関しない)
DHEA、DHEA-Sの変動
アルツハイマー病患者のDHEAまたはDHEA-S血清濃度は可変的であり、正常値または低値であったり、初期の認知機能低下を予測するケース、そうでないケースがある。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780123694430500296
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2725024/