書籍『戦争への運命:アメリカと中国はトゥキディデスの罠から逃れることができるのか?』2018年

中国・中国共産党、台湾問題新世界秩序(NWO)・多極化・覇権

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Destined For War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap? 

本書の要約

『運命の罠―中国と米国は戦争を避けられるか』は、ハーバード大学教授のグレアム・アリソンが、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが指摘した「新興勢力と既存大国の間に生じる構造的緊張」という歴史的パターンを現代の米中関係に適用した著作である。

アリソンは過去500年間に同様の構造的緊張関係が生じた16の事例を分析し、12件が戦争に至ったと指摘する。彼が「トゥキディデスの罠」と名付けたこの現象は、台頭する中国と世界覇権国アメリカの間に不可避的な緊張を生み出している。中国は「偉大な復興」を目指し、アメリカはその優位性を維持しようとする中で、両国は軍事力増強、領土紛争、貿易戦争などの局面で対立している。

一方で、アリソンは戦争は避けられないとは主張せず、戦争を回避した4つの事例から平和への手がかりを探る。彼は、核兵器の存在、経済的相互依存、国際機関での協力など、米中が平和的共存に向けた道筋を提示している。

本書は、米中対立の構造的理解を促し、政策立案者や市民に対して、両国の行動原理を理解し、合理的な対応を求めるものである。歴史の教訓を活かし、トゥキディデスの罠を回避するための12の手がかりを提示している。

目次

序文 導入 第1部 中国の台頭 第1章 「歴史上最大の主役」 第2部 歴史からの教訓 第2章 アテネ対スパルタ 第3章 500年 第4章 イギリス対ドイツ 第3部 暴風雨の接近 第5章 もし中国が米国のようであったならば 第6章 習近平の中国が望むもの 第7章 文明の衝突 第8章 ここから戦争へ 第4部 戦争は避けられないのではない 第9章 平和への12の手がかり 第10章 ここからどこへ行くのか 結論

序文(Preface)

本書の中心的テーマは「トゥキディデスの罠」である。台頭する勢力が既存の支配勢力を脅かすとき、警鐘が鳴り、危険が近づいている。中国とアメリカは現在、戦争への衝突コースにある。過去500年間の16の事例を調査し、12件が戦争に終わり、4件がそうならなかった。本書は中国についてではなく、グローバル秩序における中国の台頭の影響についてである。トランプと習近平は両国の偉大さを体現する理想的な主役となる。(273字)

導入(Introduction)

本書は「トゥキディデスの罠」を探求する。台頭する勢力が支配的勢力を置き換えようとするとき、戦争の危険が高まる。アテネの台頭とスパルタの恐怖が戦争を不可避にしたというトゥキディデスの洞察は、今日の中国とアメリカの関係を理解する上で重要である。中国は急速に台頭し、アメリカの覇権に挑戦している。今日の世界では、ドイツと英国の関係が最も近い類似例である。戦争は不可避ではないが、現在の軌道では、今後数十年間の戦争は可能性以上のものとなっている。(233字)

第1章 「歴史上最大の主役」(”The Biggest Player in the History of the World”)

リー・クアンユーは「中国は歴史上最大の主役となる」と予測した。彼は中国を深く理解し、1980年以降の中国の変容を目撃した。中国はGDPで米国を追い抜き、経済、軍事、技術のあらゆる面で台頭している。中国の発展は前例のないスピードと規模で進行し、2011年のアメリカの「アジア・ピボット」にも関わらず、中国はアメリカを追い越す勢いである。中国は「一帯一路」などの国際的取り組みを通じて影響力を拡大し、アジア諸国を引き付けている。(204字)

第2章 アテネ対スパルタ(Athens vs. Sparta)

トゥキディデスは「アテネの台頭とそれがスパルタに植え付けた恐怖が戦争を不可避にした」と述べた。スパルタは軍事国家としてギリシャを支配していたが、ペルシャ戦争後に台頭したアテネは海軍力と経済力で挑戦した。両国は30年平和条約を結ぶなど戦争回避を試みたが、コルキュラとコリントスの紛争をきっかけに緊張が高まった。アテネのメガラ制裁令に対するスパルタの反発により、ついに紀元前431年、両国は全面戦争に突入した。これは利益、恐怖、名誉をめぐる構造的ストレスに起因する「トゥキディデスの罠」の最初の犠牲者となった。(221字)

第3章 500年(Five Hundred Years)

過去500年間に台頭する勢力と既存勢力の間で発生した16の事例のうち、12件が戦争に終わった。著者は5つの事例を詳しく分析する。1941年の真珠湾攻撃は、アメリカの経済制裁に追い詰められた日本が選んだ選択だった。それ以前には日本が清とロシアに挑戦し勝利した。ビスマルクはフランスを挑発して戦争を始めさせ、ドイツ統一を実現した。17世紀のイングランドはオランダの貿易覇権に挑戦し、16世紀にはハプスブルク家がフランスに対抗した。これらの事例から、台頭する勢力と既存勢力の間の構造的緊張が戦争を引き起こす傾向があることがわかる。(226字)

第4章 イギリス対ドイツ(Britain vs. Germany)

第一次世界大戦前、英国海軍のチャーチルは独国の脅威に対抗するため大規模な艦船建造を指揮し、外交的和解を模索した。1907年のクロウ覚書は、ドイツの意図よりも能力を重視し、ロンドンが対抗措置を取るべきと進言した。急速に産業発展するドイツはヴィルヘルム2世の下、「世界強国」を目指して海軍増強を開始。ティルピッツ提督は「危険艦隊」を建造し、英国は北海に艦隊を集中させ、フランスやロシアとの関係を改善した。1914年危機では、セルビアとオーストリア・ハンガリーの衝突がドイツとロシアの対立に発展し、ベルギー侵攻を機に英国が参戦した。戦争は不可避ではなかったが、構造的緊張が危機を増幅した。(233字)

第5章 もし中国が米国のようであったならば(Imagine China Were Just Like Us)

19〜20世紀初頭のアメリカがテオドア・ルーズベルト大統領の下で行った強硬外交を振り返る。海軍次官から大統領になったTRは、スペイン・アメリカ戦争でキューバの「解放」、ベネズエラ国境紛争でのモンロー主義の執行、コロンビアからのパナマ分離工作によるパナマ運河建設、アラスカとカナダの国境紛争での強硬姿勢など、西半球での覇権を確立した。「ルーズベルト系」は米国の警察権を宣言し、米国の覇権に抵抗する国々への干渉を正当化した。当時の米国の行動を現代の中国と比較すると、中国の行動はまだ抑制的といえる。(207字)

第6章 習近平の中国が望むもの(What Xi’s China Wants)

習近平の「中国の夢」は中国を再び偉大にすることだ。文化大革命で苦難を経験した習は、党を再活性化し、ナショナリズムを強化し、経済革命を推進し、軍を強化するという4つの課題に取り組んでいる。大規模な反腐敗キャンペーンで党内の立場を固め、習は中国の権力を強化し、「中華民族の偉大な復興」という目標を掲げた。経済面では「一帯一路」構想で影響力を拡大し、南シナ海では軍事基地を建設して「戦って勝つ」能力を高めている。習の目標は東アジアでの米国の覇権に挑戦し、中国中心の地域秩序を構築することである。(211字)

第7章 文明の衝突(Clash of Civilizations)

サミュエル・ハンティントンの「文明の衝突」理論は、文化的相違が米中関係の根本的障壁となっていることを示唆する。両国は5つの重要な違いを持つ:中国は権威、階層、集団を重視し、アメリカは自由、平等、個人を重視する。中国は人種的に一体性を定義し、アメリカは多様性を包含する。中国は内政と外交を同一視し、アメリカは分離する。中国は外部干渉を嫌うが、アメリカは普遍的価値を広めようとする。中国は世紀単位で考え、アメリカは短期的思考をする。さらに中国の戦略文化は迂回、漸進的優位性構築、軍事力の最終手段的使用を特徴とする。(215字)

第8章 ここから戦争へ(From Here to War)

米中間の戦争は不可避ではないが、小さな火種が大規模な衝突に発展する危険がある。4つの事例(朝鮮戦争、中ソ国境紛争、台湾海峡危機、現在の中国海)が示すように、中国は「積極防御」戦略で米国の想定を裏切る行動をとることがある。戦争シナリオには、南シナ海での艦船衝突、台湾独立の動き、第三国による紛争、北朝鮮崩壊、経済対立から軍事衝突への発展など多様なパターンがある。特に宇宙・サイバー攻撃や軍事コマンド構造への攻撃は誤解や誤算を招き、核戦争にエスカレートする恐れがある。(209字)

第9章 平和への12の手がかり(Twelve Clues for Peace)

過去500年間で戦争を回避した4つの事例(ポルトガル対スペイン、ドイツの台頭、米国対英国、米ソ冷戦)から12の手がかりを導き出した。上位権威の存在、制度的拘束、必要と欲求の区別、タイミングの重要性、文化的共通性、核兵器による相互確証破壊、核保有国間での熱戦の回避、核戦争リスクへの備え、経済的相互依存、同盟関係の慎重な管理、国内実績の決定的重要性といった教訓がある。これらの教訓は米中関係に適用可能であり、双方が譲歩と制約を受け入れることで戦争を回避できる可能性を示している。(222字)

第10章 ここからどこへ行くのか(Where Do We Go from Here?)

米国は中国との関係において新戦略が必要だが、すぐに新しい「中国戦略」を作るのではなく、真剣に考え直す時間が必要である。現状維持を目指す「関与しつつヘッジする」戦略は矛盾しており、他の選択肢を検討すべきだ。著者は4つの戦略的選択肢を示す:①イギリスの対米政策に学ぶ「受容」、②冷戦期のソ連に対して行った「体制転覆」、③米ソデタントのような「長期平和の交渉」、④「関係再定義」による核戦争、核拡散、テロ、気候変動といった共通脅威への協力。最終的に両国は国内課題に集中し、平和共存の道を見つける必要がある。(222字)

結論(Conclusion)

トゥキディデスは人間の選択が歴史を形作ると信じた。運命論に陥らず、ペリクレスやアテネ人たちは自らの選択で戦争を招いた。キューバ危機では、核戦争に至る多くの道筋があったが、ケネディとフルシチョフは慎重な選択で回避した。米中関係においても同様の知恵が必要で、核保有国間で全面戦争は選択肢になり得ないこと、相手の核心的利益を理解すること、明確な戦略を持つこと、国内課題を優先することが重要である。シェイクスピアが言うように、我々の運命は「星の中ではなく、我々自身の中にある」のだ。(210字)


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