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Born to Run 2: The Ultimate Training Guide
BORN TO RUN 2
THE ULTIMATE TRAINING GUIDE
クリストファー・マクドゥーガル著
Born to Run
Natural Born Runners
Running with Sherman
エリック・オートン著
The Cool Impossible
目次
- 第1部:BORN TO RUN
- 1 走る自由な感覚
- 2 ウッダースを追いかけて
- 3 初心に帰る旅 – 10分で
- 3.1 カバロの最大の秘密
- 4 スタート
- 5 レース前の軽食
- 第2部:自由な7日間
- 6 食事:フォークはコーチではない
- 6.1 2週間のテスト
- 6.2 エイドステーション:キャリー流2週間のテスト
- 6.3 ランニング中のレシピ
- 6.4 エイドステーション:血液検査
- 6.5 食べ物:行動項目
- 7 フィットネス:マスターメカニックになる
- 7.1 脚力を鍛えるツールキット
- 7.2 フィットネス:行動項目
- 8 フォーム:簡単なフォームの作り方
- 8.1 10分でできる5分間の修正
- 8.2 完璧なランニングフォームのプレイリスト
- 8.3 フォーム:行動項目
- 9 フォーカス:より速く、より遠くへ、そして永遠に
- 9.1 ギアは本当に重要か? まあ…
- 9.2 フォーカストレーニング:運動能力=意識
- 9.3 フォーカス:行動項目
- 10 フットウェア:まず、害を与えないこと
- 10.1 あなたのクイバーを構築する
- 10.2 ハンターのための捉えどころのない素晴らしさへのガイド
- 10.3 エイドステーション:素足で感じる脳
- 10.4 シューズ:行動項目
- 11 楽しみ:仕事のように感じたら、頑張り過ぎている証拠
- 11.1 さあ、出発
- 11.2 音楽を聴きながら走ろう
- 11.3 エイドステーション:アーミッシュ流ファンラン
- 11.4 楽しみ:行動項目
- 12 家族:一緒に汗を流す者たちは一緒に高みを目指す
- 12.1 ベビージョガーを極める
- 12.2 パックを準備しよう、サンタ・ムゲール流
- 12.3 エイドステーション:「教授に捧ぐ!」
- 12.4 犬と一緒に走ろう
- 12.5 犬とのランニングのベストプラクティス
- 12.6 家族:アクションアイテム
- 13 白馬からの最後の教え:自由に走れ、カボール
- 第3部:90日間の自由に走るプログラム
- 14 計画
- 15 怪我:パンク修理
- Born 2の誕生
- 索引
- 写真クレジット
本書の要約
『Born to Run 2: The Ultimate Training Guide』クリストファー・マクドゥーガル、エリック・オートン著 (2023)
本書は、自然な走り方を取り戻し、怪我なく生涯にわたって走り続けるための包括的なガイドである。著者たちはカバーヨ・ブランコ(ミカ・トゥルー)とメキシコのコッパーキャニオンに住むララムリ族の走りの知恵から着想を得て、「ラン・フリー」哲学を提唱している。
主要な概念として「フリー・セブン」と呼ばれる7つの柱がある:
- 食事:低GI食品の摂取で体のエネルギー効率を高める
- フィットネス:全身の筋力バランスを整える
- フォーム:効率的な走り方を身につける
- フォーカス:自分のペースと呼吸を理解する
- フットウェア:最小限のシューズで自然な足の動きを促進
- ファン:走ることを楽しむこと
- ファミリー:共に走ることでモチベーションと安全を確保する
本書は90日間のトレーニングプログラムを提示し、怪我の予防と修復方法も詳細に説明している。著者たちは走ることが本来、人間にとって自然な喜びであり、ストレスや苦痛ではないことを強調している。「イージー、ライト、スムーズ、そして速く」がカバーヨの言葉であり、本書の核心である。
第1部:BORN TO RUN
第1章 THE RUN FREE FEELING の要約
「ラン・フリー!」はカバーヨ・ブランコの戦いの叫びだ。これは単なる「自由に走れ」という意味を超えて、怪我から自由に、ストレスから自由に、高価な靴や装備から自由に走ることを意味する。マクドゥーガルは、『Born to Run』出版後、世界中から「あなたは私の人生を変えた」というメッセージを受け取った。彼自身も、エリック・オートンのトレーニング法により、常に怪我に悩まされていた状態から、好きな時に好きなだけ走れるようになった。マクドゥーガルが医師から「走ることは体に悪い」と警告されていたのと対照的に、彼はオートンのシステムを信じ、多くのレースを完走した。ある日、バード・イン・ハンドというアーミッシュの人々が主催するハーフマラソンで、彼は走ることができる喜びを再確認した。エリックは彼を単なるレース参加者ではなく、生涯走り続けられる人間に育てていたのだ。
第2章 CHASING WOBBLES の要約
「ウォブル(ぐらつき)」とは、走る際の体や足の微妙な不均衡のことで、すぐに怪我につながる。オートンのメソッドでは、ウォブルをいち早く発見して修正することを重視する。カリフォルニアで行われた写真撮影セッションでは、オートンがプロのウルトラランナーたちにシンプルなエクササイズを指導し、それぞれの走りの弱点を見つけ出した。例えば、シャリス・ポプキーは壁スクワットをすると手が無意識に腰に行き、ジェンナ・クロフォードは脚が震えた。フットボール選手だったマーゴット・ワッターズも手術後にオートンのメソッドで回復し、60代になった今でも200マイルレースに参加している。著者は人間が地球上で最も優れた長距離ランナーであるという進化論的背景を説明し、「裸で汗をかく」能力こそが他の動物にない強みだと強調している。
第3章 JOURNEY BACK TO THE BEGINNING – IN TEN MINUTES の要約
走り方を変えることは難しい作業ではなく、むしろシンプルであるべきだという考えが示されている。実際、人類の生存がランニングに依存していたならば、それは幼児から高齢者まで簡単に学べるスキルでなければならなかった。「ラン・フリー」になるには3つの要素に集中すべきだ:
- フラットなフットウェア
- クイックなケイデンス(歩調)
- 友人を見つける
これらは10分で学べる。方法は簡単だ:
- B-52sの「Rock Lobster」の曲をかける
- 壁から一歩離れた場所に背を向けて立つ
- 曲を流す
- ビートに合わせてその場で走る
これだけで、姿勢、足の着地、ケイデンスという完璧なフォームの3つの要素が身につく。著者はカバーヨ・ブランコとのランニング体験を振り返り、彼から学んだ重要な教訓は「イージー、ライト、スムーズ、ファスト」という順番だったことを強調している。
第3.1章 CABALLO’S GREATEST SECRET の要約
カバーヨ・ブランコ(ミカ・トゥルー)の最大の秘密は、走ることの「なぜ」に焦点を当てたことだった。この章では、ネイティブアメリカンのランナー、ジョーダン・マリー・ブリングス・スリー・ホワイト・ホーシズ・ダニエルの物語が紹介される。彼女は2019年のボストンマラソンで、失踪・殺害されたネイティブアメリカンの女性に注目を集めるため、顔に赤い手形をペイントして走った。ネイティブアメリカンの女性は他のアメリカ人より10倍殺害される可能性が高いにもかかわらず、その問題はほとんど注目されていない。ジョーダンの行動は、走ることを個人的な競争や運動を超えた、より大きな目的のために使う力強い例となった。同様に、カバーヨ・ブランコも自分自身のためだけに走るのではなく、ララムリ族の走る文化を世界に広め、彼らを支援するためにウルトラマラソンを主催した。走ることは単なるスポーツではなく、より大きな目的を持つときに真の力を発揮するということが示されている。
第4章 GETTING STARTED の要約
多くの人は走ることを逆の順序で学んでいる。初心者は「ゆっくり走り、上達すれば速くなる」と考えがちだが、これは逆だと著者は主張する。まず生の速さを身につけ、それが長距離を走るための強さとスキルを与えてくれる。ララムリ族の子どもたちは短距離の球遊びでスピードを身につけてから長距離に進む。速く走ることは優れた教師であり、足の着地や姿勢など、良い走りのフォームを自然と生み出す。
90日間の「ラン・フリー」再起動プログラムはこの考えに基づいている。まず小さな一歩を踏み出し、大きなジャンプへとつなげる。より速く、より強く、怪我に強くなり、走ることを一生の喜びとするためのスキルを習得できる。本章では、初心者、ダブラー(経験はあるが一貫性がない人)、ベテランそれぞれの準備段階が説明されている。また、怪我がある場合の対処法も示されている。
第5章 PRE-GAME: MOVEMENT SNACKS の要約
「ムーブメント・スナック」は、短時間で行える遊び感覚の動きのことで、新しい動きに対する脳の抵抗を和らげる準備運動として機能する。これらは体の動きの範囲を評価し、隠れた問題箇所を特定するのにも役立つ。
ジュリー・エンジェルとジャレッド・タバソリアンはムーブメント・スナックを考案し、新しいスキルを習得する上で最大の障壁は筋力や調整力ではなく自信であることに気づいた。「動ける範囲が広いほど、感情的に安全に感じる。安全に感じるほど、幸せで不安が少なくなる」とジャレッドは説明する。
本章では、「デッドバグ・ベリー・ブレス」「クイック・フィート・ウィズ・パートナー」「ディープ・スクワット」「ウォームアップ・シン・ボックス」「ベア・クロール」「ストレート・レッグ・ベア・クロール」「スリー・ポイント・クラブ」「ニンジャ・ジャンプ」など、様々なムーブメント・スナックが詳細に説明されている。これらはいずれも1分程度で行え、体と心を運動に備えさせる効果がある。
AI:「ラン・フリー哲学」についての考察
『Born to Run 2』を読むと、マクドゥーガルとオートンが提唱する「ラン・フリー」哲学の核心が見えてくる。この本は単なるランニングガイドではなく、現代人が失ってしまった自然な走り方と走る喜びを取り戻すための総合的な指南書だ。まずは本書の根底にある核心的な考え方について掘り下げてみよう。
「ラン・フリー」という概念は、カバーヨ・ブランコ(ミカ・トゥルー)の哲学に由来している。彼の「ラン・フリー」は単に「自由に走る」という意味を超えて、怪我から自由に、ストレスから自由に、高価な靴や装備から自由に、そして競争のプレッシャーから自由に走ることを意味している。これは現代のランニング文化への根本的な挑戦だ。
現代のランニングカルチャーは何が問題なのだろうか?本書によれば、商業主義、過剰な技術依存、そして「苦しみは成長のために必要」という誤った信念によって歪められている。特に靴産業は科学的根拠のない「安定性」や「モーションコントロール」といった概念を利用して、実際には怪我のリスクを高める可能性のある製品を販売してきた。
興味深いのは、著者たちが進化論的観点からランニングを捉えていることだ。人間は地球上で最も優れた長距離ランナーとして進化した。「裸で汗をかく」能力は他の哺乳類にはない特徴で、これにより人間は暑い日でも持久力で獲物を追い詰めることができた。この見方に立つと、現代のランニングシューズやテクニックは、本来の人間の能力を妨げる人工的な障壁と見ることができる。
本書の中核となるのが「フリー・セブン」と呼ばれる7つの柱だ:食事、フィットネス、フォーム、フォーカス、フットウェア、ファン、ファミリー。各要素を詳しく見ていこう。
まず「食事」について。著者たちはフィル・マフェトンの低GI食アプローチを採用している。これは体が糖質よりも脂肪を主な燃料源として使えるようにするため、インスリンスパイクを引き起こす高GI食品を避けるというものだ。この考え方は進化的に理にかなっている。人類の歴史の大部分において、砂糖や穀物への依存はなかった。狩猟採集民が高タンパク、高脂肪の食事で長距離移動していたことを考えれば納得できる。
「フィットネス」では、著者たちは全身のバランスと特にフットコアの強化を重視している。従来のトレーニングでは見逃されがちな足の筋肉群が、実は安定したランニングの基盤だという考え方だ。「100アップ」のような伝統的技術を現代に復活させているのも興味深い。
「フォーム」については、シンプルだが革命的なアプローチを提案している。「ロック・ロブスター」を使った10分(実際は5分)のフォーム修正法は、高いケイデンス(約180歩/分)と自然な着地を習得するための効果的な方法だ。カルマ・パークの例は、正しいフォームを身につけることで慢性的な怪我から解放された証拠として示されている。
「フォーカス」は、ローマ軍団からインスピレーションを得ている。3つの主要なギア(All Day、Threshold、Full Burn)を理解することで、状況に応じて適切なペースを選べるようになる。これは現代のランナーが見逃しがちな重要な側面だ。
「フットウェア」では、最小限の靴を推奨している。高いヒールやクッション性のある靴は地面からのフィードバックを減らし、自然なフォームを妨げるという考え方だ。この章では、アルトラの創設者ゴールデン・ハーパーの経験談も紹介され、靴業界の問題点を浮き彫りにしている。
「ファン」と「ファミリー」は、ランニングの社会的側面を強調している。ルイス・エスコバーの「Born to Run ウルトラマラソン・エクストラバガンザ」や、サンタ・ムヘレス・ランニングクラブ、フィッシュタウン・ビアランナーズなどのコミュニティ事例は、ランニングが単なる個人的な運動ではなく、共同体験であることを示している。
この哲学の深層で最も興味深いのは、「ウォブル(ぐらつき)」という概念だ。これは体や足の微妙な不均衡のことで、長期的には怪我につながる。著者たちは、最新の科学技術や装備ではなく、基本的な動きやエクササイズ、そして自然な走り方の習得によってウォブルを識別し修正することを提案している。
本書のもう一つの重要なテーマは、「モーター」(エンジン)としての呼吸だ。適切な呼吸とペース配分は、ランニングパフォーマンスの鍵だという考え方が示されている。レアード・ハミルトンの言葉「酸素はあなたの体のすべての細胞に火をつける。息が失敗を決定づける」は、この視点を明確に表している。
怪我の扱い方も注目に値する。著者たちは「怪我」ではなく「機能不全」という言葉を使い、問題は体そのものではなく、動き方にあるという考え方を示している。伝統的な治療法(休息、氷、抗炎症薬)は症状を一時的に和らげるだけで、根本的な原因には対処していないという指摘は重要だ。
さらに深く掘り下げると、本書は現代社会の価値観への挑戦でもある。「シンプルなものが最も優れている」「自然に近いほど良い」「共同体験が個人的達成より重要」といった価値観は、テクノロジーとインディビジュアリズムに傾倒した現代社会への反論を含んでいる。
カバーヨ・ブランコの物語は、本書の精神的支柱となっている。彼がメキシコのコッパーキャニオンでララムリ族と共に過ごし、彼らの走りの知恵を学んだことが、この哲学の起源だ。ララムリ族が高価な装備なしで怪我なく長距離を走れる理由は、彼らが幼い頃から正しいフォームを習得し、走ることを苦しみではなく喜びと捉えているからだという洞察は重要だ。
本書の最終章でカバーヨの死が語られているのは意味深い。彼は2012年に行方不明となり、ニューメキシコのギラ荒野で亡くなっているのが発見された。著者は「カバーヨの死よりも彼の人生に焦点を当てる」ことを選び、彼の精神を称える最良の方法は「彼の足跡をたどり、自由に走ること」だと結論づけている。これは単なる感傷ではなく、本書の哲学の本質を示している。
90日間のラン・フリープログラムは、これらの原則を実践に移すための具体的なロードマップだ。体を強化し、正しいフォームを習得し、食事や怪我の対処法まで網羅した包括的なアプローチとなっている。
この本を読んで最も印象的なのは、ランニングについての根本的な考え方の転換を促している点だ。多くの人がランニングを「痛みを伴う義務」と捉えているが、本書はそれを「自然な喜び」へと転換しようとしている。「イージー、ライト、スムーズ、そして速く」というカバーヨの言葉は、この哲学の本質を表している。
しかし、いくつかの批判的視点も考慮する必要がある。この本で推奨されている低GI食アプローチは、すべての人に適しているわけではないかもしれない。また、最小限の靴への移行は、適切に行わなければ怪我のリスクがあることも事実だ。さらに、アフリカの部族やアメリカの先住民など、特定の文化の走りのスタイルを「理想化」することには、文化的appropriationの要素も含まれている可能性がある。
それでも、本書の核心的なメッセージ——人間は走るために生まれてきたということ——は説得力がある。現代社会の中で失われてしまった自然な動きと喜びを取り戻そうという呼びかけは、単なるフィットネスの域を超え、より健全で充実した生き方への招待となっている。
「ラン・フリー」哲学は、実際のところ「走る」ことだけに限定されない。それは、私たちの体と環境と仲間との関係を見直し、より自然で喜びに満ちた生き方を選ぶという、より広い人生哲学でもある。だからこそ、この本は単なるランニングガイドを超えて、現代社会における人間性の回復についての深い考察となっているのだ。