神経成長因子BDNFを増やす8つの戦略 その1(運動編)

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BDNFエクササイズ 運動

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1.運動によるBDNF効果(認知症・アルツハイマー)

 

歩くことは人間にとって最良の薬である

ヒポクラテス

脳由来神経栄養因子(のうゆらいしんけいえいよういんし、BDNF; Brain-derived neurotrophic factor)

概要

神経細胞回復の鍵を握るBDNF

以前は、脳神経細胞は一度死んでしまうと、二度と復活しないということが定説だったが、今では少なくとも海馬や背外側前頭前皮質などある特定の領域では、神経細胞が再び回復するとされている。

 

脳神経細胞を成長させる因子にはBDNFとNGFが知られているが、特にBDNFが、非常に重要な鍵を握っており、BDNFをいかに多く増やしていくかが、短期記憶を司る海馬細胞を回復させるため、ひいては脳機能の低下を防ぐために重要になってくる。

運動のもっとも重要な認知機能効果はBDNFの増強

運動の認知機能改善への作用は多岐にわたるのだが、運動のもっとも大きな利益はBDNFが増加することにあると多くの研究者の間で考えられている。

であれば、単純にBDNFを投与すればいいんじゃないかと思うのだが、BDNFを含むニュートロフィンに基づいた治療法はほとんどない。

BDNF治療が難しい理由

・BDNFの分子サイズが大きいためそのまま投与しても脳のゲート(脳関門)を通過しない。

・脳への直接投与はリスクが大きく、限られた研究しか行われていない。

・副作用をもたらさない分子の特定がむずかしい。

・BNDFを不自然に過剰産生すると、うつの原因になる可能性がある。

rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-04-17

・BDNFを含むニュートロフィンは分子化合物として体内で拡散していくことがむずかしい。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12403983

などなど多くの治療への応用が難しい理由があるようだ。

 

いずれにしても投与的な治療ができない以上、運動や日光浴など内因的に増強させる方法によってBDNFを増加させていくしかないようだし、それが不必要に生体の恒常性を乱さずにすむだろう。

 

1 運動

運動がなぜ脳によいのか

「運動が健康に良い」ということにはそれほど異論はないと思うけど、それがなぜ脳の機能や認知活動にまでも良いのか、認知症の治療に有効なのかということの具体的な中身は、あまり知られていないようにも思う。

運動は、筋肉をつけるとか、身体の健康に良いと思っている方がとても多いのだが、本当は脳へ与える影響のほうが大きいのである。

 

おすすめの書籍

「脳を鍛えるには運動しかない!」

自分自身も運動の重要性を感じて数年前から始めているけれども、その時の大きなきっかけになったのはこの本。これを読んでいなければ運動を始めていなかったかもしれない。

 

運動の脳への効果だけに絞っても多岐にわたるが、脳に血液と成長因子が多く送り込まれることで、記憶力、学習能力、認知能力が高まり、老化防止に劇的な効果が見られる。

運動が認知症患者にとって、なぜ重要なのか、その理由をざっと書いてみる。

 

運動が脳に良い6つの大きな理由
1.  燃料補給の効率性

運動によって脳へ燃料(酸素とブドウ糖)が行き渡るようになる。

※ブロックされると脳の神経細胞が損傷を受け喪失してしまう。

2. 血管拡張と栄養補給

運動によって増えるセロトニンやドーパミン、ノルエピネフリンなどの神経伝達物質は、脳血管を拡張したり収縮したりする。

脳血管のまわりに脳神経終末の複雑なネットワークが走っているため、脳血流が増えると脳神経細胞の特に壊れやすい末端に栄養がいきわたり、活性、修復作用がすすむ。

3. アセチルコリンの増加

運動によって神経伝達物質であるアセチルコリンが増加する。

※認知症薬であるアリセプトはアセチルコリンを増加させる薬

4. 神経細胞の結合強化

脳細胞を守る成分ANP、BNP、eCB、GABA、セロトニンが運動によって増加し、脳の炎症を下げ、神経細胞のつながりが強まる。

5. 線維芽細胞増殖因子の放出

体の組織、ニューロンの成長を促す線維芽細胞増殖因子の放出を誘発する。

6. BDNFの増加

そして、運動によって、BDNFというタンパク質が放出される。

 

 

運動強度とBDNF増加の関係

そこで、まず運動といっても意味が広すぎて、何をどの程度運動していいのかわからない。

そこでまず、どれだけ運動するとBDNFが増えるのかを調べてみた。

運動の激しさによって増加するBDNF

以下のグラフが、運動強度とBDNFの関係を表した図である。

 

これを見ると、酸素消費量の増加に伴って、つまり激しい運動を実行した分だけBDNFが増加している。

これだと、軽い散歩運動では、治療レベルでのBDNFの増加は期待できないかもしれない。。

多くの要因でも増加するBDNF

しかし、母が走るわけでもない散歩をはじめて劇的に改善した個人例があるため、なぜだろうとさらに調べてみてのだが、実はBDNFは運動だけではなく、かなり様々な環境的要因によって増加したりすることがわかった。

そして、母が行っていた散歩運動には、そのBDNFを増加させる(この記事でとりあげてもいる)環境的要因と見事に一致していたのだった。

といっても日光を浴びるとか、寒さ暑さを感じるとか、特殊なことでもなんでもないのだが、一方で「青い鳥ここにあり」で、知らなければ、その価値を人が見落とすことでもあったりするようにも思う。

ひたすら長距離を歩いてきた人類の歴史

一説では、じぶんたちの遺伝子の仕組みの基本的枠組みは、1万~5万年まえの先祖のものからであると言われている。

その頃は、農業も始まっておらず狩猟採集で食いつないでおり、主に獲物を持久戦で捕獲するために一日20km以上歩いていたと研究で推察されている。

 

「hunter gather walking」の画像検索結果

www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3082937/Our-ancestors-FEMINISTS-Hunter-gatherer-women-forced-early-man-spend-time-LAWS-study-claims.html

運動不足は、現代の文明生活が原因とか言われたりしているけど、古代の農作業でも日々20km以上歩く運動量にまでは達っしていなかっただろう。

狩猟採集がもっと効率よく少ない活動量で食料の調達ができるなら、わざわざそれを止めてまで農耕する動機がないからだ。備蓄できるという利点はあるけど。

一万年前から始まっていた散歩不足?

そうすると運動不足もしくは歩行量は、そもそも論でいうと、農業を始めた1万年前から大なり小なりすでに始まっていたのかもしれない。

そして、運動の形態についても、先祖がひたすら歩き続けた(獲物を追いかけ続けた)結果、遺伝や代謝の仕組みが進化してきたのなら、農作業的な生活に伴う運動よりも、散歩のようなウォーキングが、遺伝的に受け継いだ元祖エクササイズといえるかもしれない。

獲物を追いかけよう

その仮説に基づくなら、散歩もただ漫然と歩くのではなく、ご先祖様が獲物を追いかけていたように、探索したりする認知活動が加わえていくことが、理にかなっているかもしれない。(示唆する間接的証拠は多くある。)

最近流行しているコグニサイズ(散歩や運動をしながら計算などの脳トレを行う。)も、狩猟生活の再現ではなかろうか。

個人的には、コグニサイズよりも、知らない道を探索するほうが、よほど効果的だと思うが…

余談だが、歩きながら引き算とか、想像しただけでもゲンナリしてしまう、と思うのは自分だけだろうか?

始めやすく飽きやすい散歩

結局、散歩が他のあらゆる運動をしのいで、優秀な方法だとする最大のメリットは、これにつきるかもしれない。

例えば、登山だとか海水浴だとか屋外の運動であれば、上記で書いた散歩以上の効果は得られるかもしれないが、いつでもすぐにできる実行のしやすさの点では、散歩を超えるものはないだろう。

ただ普通の人にとっては、実行のしやすさが飽きやすさにつながる、という問題につながるかもしれない。

そういう人は散歩の仕方に工夫を加えていくことも重要だと思う。

空間認知による海馬が鍛えられる

海馬関係絡みでよく知られている研究の話だが、ロンドンタクシーの運転手は後部海馬のサイズをMRIで調査したところ、平均的な人の海馬容積よりも有意に大きいことがわかっている。

「taxi london hippocampus」の画像検索結果

海馬の大きさはタクシー運転手の職歴の長さに比例しており、移動の時の空間認識、空間体験が海馬の成長に結びついていると考えられている。

そしてもっと興味深いのは、頭脳労働でも、空間的認知を伴わない他の職業では、海馬体積が一般人と変わらなかったことである。

ここからアルツハイマー病患者が引き出せれる教訓は、ただ頭脳を使って脳へ刺激を与えればいいということではなく、同じ頭脳訓練であっても空間的な認知刺激を与える必要がある、ということになるだろう。

 

街中を散歩する

「街の中を散歩する」というと、一見何でもないことなのだが、実はこれ、本当にすごいことなのである。

移動中の視覚対象はほぼ100%が動的な空間認識で、360度すべてが変化する。

オブジェクトだけをとっても、歩いている時、一軒家、ビルディング、看板、垣根、電柱、信号と雑多でランダムな形状をすべて物体的に認識する必要がある。

歩行する地面も車道、歩道、路側帯、河川や公園内、横断歩道、段差の認識、階段や坂、踏切これらすべて、歩く際には見えないルール(暗黙知)が存在し、それらを理解していなければ街を歩くことはできない。

また、その上で、全方位的に向かってくる車や自転車、歩行者をそれぞれその特性を理解して避けながら(しかも効率よく)、目的地に向かって進んでいかなければならない。

 

このことはあまりにも日常的なこととなっているため、けして人は驚かないのだが、目的地へ向かって街の中を歩くというのは、かなり高度な認知活動が必要なのである。

これだけ目まぐるしく同時多発的にオブジェクトの特性を理解して行動をとらなければならない環境は、自然の中には存在しない。

室内で足踏み昇降機を踏んでたり、フィットネスジムでルームランナーを走っていたのでは、そういった空間認知刺激はまったく起こらない!

 

しかし、知り慣れた道を歩くと、すでに脳内にあるネットワークを使って実行されるため、どうしても刺激としては弱くなってしまう。

できるかぎり、普段通らない道、知らない道を歩き回って、脳に刺激を与えていくことが重要

脳の可塑性を高めるという点から言えば、認知症患者にとって、おそらくこれは必須といってもいい。

 

ただ注意してほしいのは、知らない道を歩くといっても考えずに人について、歩くだけだとかだと効果は間違いなく半減する。

「ここはどこだ」「あそこへ行くと、どこへ出るのだ」などと本人が考えながら歩くのが重要なポイントである。

その際、その街や地域のおおまかな全体図を頭のなかで作ろうとすることと、さらに効果的に働くだろう。

「wandering city」の画像検索結果

その観点から言うと、知らない場所を”歩いて”旅行することには、認知機能を改善させる要素がてんこ盛りに詰まっていると思う。

個人的には「旅先で歩くことは最強の脳トレ」だと思っている。

 

<まとめ> 知らない道を毎日歩こう(歩いて旅をしよう!)

 

散歩中のできごとを語ってもらう

歩いた道を記憶できれば、後で頭のなかで歩いた道をトレースするのも、かなり有用な脳トレになるだろう。

これは周囲の人が、どこへ行ったのか、どこを通ったのか、散歩中に何か発見があったかなどを聞いてあげるといい。

 

是非毎回、習慣化するまでしつこく「散歩中どんな発見があったか」を聞くということを繰り返して欲しい。

そうすることで、本人が散歩中にもっと周囲を観察するようになり、そのことが高度な認知訓練にもつながるからだ。

 

発見といっても、別に大げさな話ではなく、新しいカフェや店がオープンしたのならその様子を聞くとか、女性であれば道端に咲いている野花や、お花屋さんにある花のことについて聞くのもいいかもしれない。すれ違った人の人生を想像してみる、とか言うのもいいかもしれない。

ただ、同じテーマをずっと聞き続けるのではなく、定期的に変えたほうがいいだろう。

<まとめ> 散歩中の出来事を語ってもらおう!

 

徘徊の効能?

そして、もうひとつ、、そう考えると「徘徊」は認知症の単なる問題症状として捉えられているが、半ば迷う程度の徘徊であれば海馬機能の回復には非常に効果的な要素がつまっており、「実は本人が病気から治ろうとしている本能的な行動なのではないか?」と思うこともある。

※家族の方からはそれどろこじゃないと怒られそうだが、、

 

<まとめ> 可能な範囲で徘徊は許容しよう。(小声)

 

補足:運動と認知機能の研究

無作為比較対象研究 6ヶ月間のウォーキングプログラム アルツハイマー病後期の高齢者21名 平均年齢84歳

参加者 日常生活活動指数(ADL)23% 歩行テスト20%改善、と有意に改善。

MMSEは13%低下に対して、対照群はMMSE47%低下。

journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1533317511418956


無作為化比較対照研究 初期~中期のアルツハイマー病患者40人 4ヶ月間の家庭運動プログラム(コミュニティーベースの歩行運動) MMSEが2.6ポイント有意に上昇

onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-6712.2011.00895.x/abstract;jsessionid=C60409F179FD57A0625C23930B4D9EC9.f03t04


アルツハイマー病患者の日常生活活動への運動効果 システマティックレビュー

・介入には、有酸素運動、筋力、バランス、コーディネーショントレーニングの要素が含まれている必要がある。

・長期ケア施設、家庭でのプログラム実行においても同等に有効

www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5360200/

 

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