
英語タイトル: 『Attack the System: A New Anarchist Perspective for the 21st Century』Keith Preston 2017
日本語タイトル: 『システムを攻撃せよ:21世紀のための新しいアナキストの視座』キース・プレストン 2017
本書の概要
短い解説:
本書は、21世紀の新しいアナキズム運動のための理論的・戦略的基盤を構築することを目的としている。著者プレストンは、従来の左翼的文化規範に縛られない、反国家・反帝国・反プルトクラシーのポピュリスト運動を提唱する。
著者について:
キース・プレストンは、現代アメリカの急進的反国家運動の代表的な思想家の一人。AttacktheSystem.Comの創設者であり、無政府資本主義から左翼アナキズム、ポピュリズムに至るまで幅広い思想的影響を受けつつ、従来の左右イデオロギーを超克する「アナルコ・プルーラリズム」を提唱する。学生時代にアナキズムと出会い、以後、反帝国主義と国家批判を中心的な活動テーマとしている。
テーマ解説:
本書は、従来の左翼的・カウンターカルチャー的なアナキズムを批判し、反普遍主義的な「アナルコ・プルーラリズム」を理論的枠組みとして提示する。
キーワード解説
- アナルコ・プルーラリズム:特定の経済システムや文化的価値観を普遍化せず、多様なコミュニティの自治を認める思想。
- 第四世代戦争:国家の戦争独占が終焉し、非国家主体が主要な戦略的プレイヤーとなる新たな軍事パラダイム。
- パン=セセッション:中央政府から地域やコミュニティが一斉に分離・独立する抵抗戦略。
- 全体主義的人間主義:リベラルな人権言説の形をとりながら、実際には文化的画一性と国家統制を強化する現代の支配的イデオロギー。
- プロパガンダ・オブ・ザ・ディード:理論的な議論ではなく、直接行動や武力闘争によって政治的目的を達成しようとする戦術。
3分要約
本書『ATTACK THE SYSTEM』は、キース・プレストンが2001年から2013年にかけて発表した26の論考を集めたアンソロジーである。プレストンは、19世紀末から20世紀初頭の第一次波、そして1960年代以降の新左翼に由来する第二次波を乗り越える、「第三の波」としての21世紀アナキズム運動の理論的基盤を構築しようとする。彼の主張の核心は、現代のアナキズム運動が左翼的な社会運動(反人種差別、フェミニズム、環境保護など)やカウンターカルチャー的なライフスタイルに固執し、本来の目標である「国家・帝国・プルトクラシーの打倒」から逸脱しているという批判にある。プレストンは、伝統的なアナキズム理論を再評価しつつ、左翼イデオロギーや階級決定論を乗り越えるために、ニーチェ、マックス・シュティルナー、エルンスト・ユンガーの思想を新たな哲学的基礎として位置づける。
本書の主要な理論的枠組みは「アナルコ・プルーラリズム」であり、その中核は反普遍主義と急進的な地方主義である。これは、一つの「正しい」政治・経済システムを強制するのではなく、多様な価値観や文化を持つ共同体(アナルコ・コミュニスト、リバタリアン、宗教的共同体、さらには民族主義者までも含む)が互いに独立し、共存することを可能にするメタ・システムを目指す。著者は、このビジョンを実現するための戦略として「パン=セセッション」を掲げる。これは、単一の州や地域だけでなく、都市部、農村部、特定のアイデンティティを持つコミュニティなど、あらゆる規模の政治的単位が中央政府から分離し、自らの領土内で自律的な社会を建設する運動である。
プレストンは、現代の敵を「ネオリベラル帝国主義」とそれを支える「全体主義的人間主義」と呼称する。これは、民主主義や人権という名目のもとにグローバルな支配を強化する米帝国とそのエリート層を指す。彼は、伝統的な国家対国家の戦争は終焉し、今や「第四世代戦争」と呼ばれる国家と非国家主体との間の非対称な紛争が主流になっていると分析する。非国家主体による軍事力の行使(「テロリズム」と呼ばれるものも含む)は、国家の暴力独占の衰退を示す歴史的プロセスの一部である。したがって、アナキストもまた、理論的な議論や道徳的な説得に留まらず、ポピュリズムに訴えかけ、場合によっては武力闘争を辞さない、現実的かつ多層的な戦略を持つべきだとプレストンは論じる。このためには、アナキスト自身が「有徳な過激派」のヴァンガードとなり、左派・右派・中道を横断する反国家・反帝国の「諸派連合」を組織することが不可欠である。
目次
- 序文 / Introduction
- 第一部 哲学的基礎 / Part 1 – Philosophical Foundations
- 第1章 ニーチェの予言 / The Nietzschean Prophecies
- 第2章 マックス・シュティルナー再訪 / Max Stirner Revisited
- 第3章 エルンスト・ユンガー:あるアナルヒの毅然たる人生 / Ernst Jünger:The Resolute Life of an Anarch
- 第二部 ネオリベラル帝国主義のグローバル秩序への批判 / Part 2 – Critiquing the Global Order of Neoliberal Imperialism
- 第4章 哲学的アナキズムと帝国の死 / Philosophical Anarchism and the Death of Empire
- 第5章 世界の反帝国主義者よ、団結せよ! / Anti-Imperialists of the World, Unite!
- 第三部 新しいアナキストの視座 / Part 3 – A New Anarchist Perspective
- 第6章 国家に抗して / Against the State
- 第7章 なぜ私はアナルコ・プルーラリストなのか(その1) / Why I Am an Anarcho-Pluralist, Part One
- 第8章 なぜ私はアナルコ・プルーラリストなのか(その2) / Why I Am an Anarcho-Pluralist, Part Two
- 第9章 アナルコ・プルーラリズムとパン=セセッション / Anarcho-Pluralism and Pan-Secessionism
- 第四部 戦略的定式化 / Part 4 – Strategic Formulations
- 第10章 自由とポピュリズム / Liberty and Populism
- 第11章 国家の粉砕 / Smashing the State
- 第12章 第四世代戦争と国家の衰退 / Fourth Generation Warfare, and the Decline of the State
- 第13章 国家に対する武力闘争 / Armed Struggle Against the State
各章の要約
第一部 哲学的基礎
第1章 ニーチェの予言
プレストンは、ニーチェを単なる既存の左翼的ヒーローではなく、「神の死」がもたらすニヒリズムを真正面から見据えた最も先見性のある思想家として位置づける。ニーチェの思想は、進歩主義や合理主義といった西洋文明の根本的な前提を破壊し、現代の危機を予言した点で重要である。著者は、現代のリベラル・ヒューマニズムやポリティカル・コレクトネスが、キリスト教に代わる新しい「信仰」に過ぎず、ニーチェが警告したニヒリズムの危機を先送りしているに過ぎないと論じる。21世紀のアナキズムは、このニヒリズムの危機を認識し、ニーチェ的な「力への意志」を取り戻すべきだと主張する。
第2章 マックス・シュティルナー再訪
シュティルナーの「エゴイズム」の哲学を、アナキズムの新たな基盤として再評価する章。プレストンは、自然法論や功利主義といった従来のリバタリアニズムの道徳的基盤を「空虚な抽象概念」として退ける。人間の本性とは本質的に自己中心的であり、社会的な調和は客観的な道徳ではなく、自発的な秩序と力の分散によってのみ達成されると論じる。国家との闘いは、道徳的・知的議論ではなく、物理的な力の衝突であるとし、シュティルナーの「万人の万人に対する闘い」というシニカルな視点こそが、アナキスト闘争の現実的な基盤を提供すると結論づける。
第3章 エルンスト・ユンガー:あるアナルヒの毅然たる人生
第一次大戦の戦闘体験を描いた『鋼鉄の嵐の中へ』で知られるドイツの作家エルンスト・ユンガーを取り上げる。プレストンは、ユンガーがナショナリズムやナチズムから距離を置きつつも、ブルジョア的な安全や快適さを拒否し、危険や闘争を通じて自己を鍛錬する「戦士」のエートスを体現した点を高く評価する。ユンガーが『エウメスヴィル』で展開した「アナルヒ」概念は、国家や社会の支配を受け入れず、しかしそれと積極的に敵対もせず、状況を冷徹に観察し、自己の価値観を貫く態度であり、プレストンが理想とする現代のアナキスト戦士の心理的モデルとして提示される。
第二部 ネオリベラル帝国主義のグローバル秩序への批判
第4章 哲学的アナキズムと帝国の死
2003年のイラク戦争開始時に書かれた本章では、新保守主義の台頭を分析しつつ、それがやがて現在のオバマ政権が代表するような国際主義的なリベラルヒューマニズムに取って代わられることを予見する。プレストンは、「民主主義」という普遍的理念の名の下に行われる現代の帝国主義を「全体主義的人間主義」と呼び、これが真の敵であると論じる。アナキストの役割は、古い左翼・右翼の枠組みを超え、反帝国主義と反国家を核とする真にポピュリストな運動を再建することだと主張する。
第5章 世界の反帝国主義者よ、団結せよ!
19世紀の古典的アナキストが反植民地闘争の最前線にいたことを歴史的に検証し、現代のアナキストも同様の役割を再び担うべきだと主張する。プレストンは、マルクス主義が帝国主義の理論的批判において劣っていたにもかかわらず、20世紀にヘゲモニーを獲得した理由を分析する。結論として、21世紀のアナキズムは、階級や文化的アイデンティティに還元されない、あらゆる抑圧された人々と諸派連合を組む「反帝国主義的なポピュリズム」として再定義されるべきだと論じる。
第三部 新しいアナキストの視座
第6章 国家に抗して
古典アナキズムにおける「総合主義」の伝統を復権させ、多様なアナキスト諸派が共通の敵に対して統一戦線を張る必要性を説く。プレストンは、アナキズムをキリスト教のようなメタ・システムとして捉え、アナルコ・サンディカリスト、アナルコ・キャピタリスト、さらには「ナショナル・アナキズム」のような新たな潮流まで包含する枠組みを提案する。
第7章 なぜ私はアナルコ・プルーラリストなのか(その1)
アナキスト諸派間の激しい対立(菜食主義、銃規制、LGBTQ問題など)を分析し、これらの対立は普遍的な正解を求めるから生じると論じる。プレストンは、「アナルコ・プルーラリズム」の第一の原理として、結束のための最小限の共通目標(国家権力の地方への分散)に集中し、それ以外の文化的・経済的な差異については、各コミュニティの自治に委ねる実用的な解決策を提示する。
第8章 なぜ私はアナルコ・プルーラリストなのか(その2)
前章に続き、プレストンは、現代アナキスト運動の極左的な文化規範(ポリコレ)を強く批判する。現実の革命後には、リベラルな都市から保守的な農村まで、多様な価値観を持つコミュニティが出現するはずであり、アナキストが自分たちの価値観のみを押し付けることは、かえって新しい抑圧を生むと警告する。そのため、アナキストの役割は、新しい社会の青写真を描くことではなく、誰もが互いから「セセッション」できる条件を整えることであると結論づける。
第9章 アナルコ・プルーラリズムとパン=セセッション
自身の理論に対する誤解を解きつつ、その定義を明確にする章。プレストンは、「アナルコ・プルーラリズム」とは反普遍主義と急進的な地方主義であり、「パン=セセッション」とはすべての政治的単位が中央政府から離脱する権利の戦略的な拡張であると再定義する。これは特定のイデオロギー(左派や右派)を勝利させる運動ではなく、「国家そのものを打倒する」という一点においてのみ結束する運動であると強調する。
第四部 戦略的定式化
第10章 自由とポピュリズム
2006年に書かれた本章は、プレストンの戦略論の集大成である。彼は、地下運動と表立った政治活動(選挙、コミュニティ組織化)を組み合わせた「二重戦略」を提唱する。具体的には、アナキストが小政党(リバタリアン党、緑の党など)に潜入し(エントリズム)、組織内での影響力を拡大した上で、反税、反帝国戦争、銃規制反対などを共通項とした左右のポピュリストによる「諸派連合」を結成する。最終目標は、大統領選挙などの国政選挙をボイコットしつつ、地方議会や保安官レベルでの勢力を拡大し、地域ごとの事実上の独立へと導くことである。
第11章 国家の粉砕
初期の戦略論。プレストンは、従来のリバタリアン運動(CATO研究所など)や左翼アナキズムの戦略的失敗を批判する。国家を打倒するためには、NRAやACLUのような既存の圧力団体にアナキストが浸透し、国家と対立する利害を持つあらゆる集団(ギャング、宗教カルト、農民、マイノリティ・ナショナリストなど)と「共通の敵」という一点で同盟を結ぶべきだと論じる。
第12章 第四世代戦争と国家の衰退
古典的アナキストによる「プロパガンダ・オブ・ザ・ディード」(思想のための行動)の歴史を、国家の暴力独占に対する最初の体系的な挑戦として跡づける。プレストンは、現代の非国家主体による軍事力(アルカイダ、ヒズボラ、麻薬カルテルなど)が国家と対等に渡り合い始めた状況を「第四世代戦争」概念を用いて分析する。これは国家の衰退を決定的に示す現象であり、アナキストも現代の军事戦略を学ぶべきだと説く。
第13章 国家に対する武力闘争
現代社会での武力蜂起の可能性を抽象的に論じる。プレストンは、アメリカ独立戦争時のわずかな支持者が革命を成功させたように、決起時の過小評価を恐れる必要はないと述べる。武力闘争は、象徴的なテロリズムではなく、機能的な妨害工作(脱走兵の獲得、刑務所襲撃、インフラ破壊)を中心に、複数の段階を経て展開されるべきだと論じる。最終的には、中央政府が機能不全に陥り、地方コミュニティが事実上の独立を勝ち取る形で革命は達成されると結論づける。
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