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”核心”の周りをうろうろすればするほど、価値あるものに出くわす確率が高くなる。
ラリー・ペイジ
ブレデセンプロトコル 書籍
書籍「The End of Alzheimer’s」(英語)
「リコード法」については、ブレデセン博士の出版書籍「The End of Alzheimer’s」(アルツハイマー病の終焉)(英語)に詳しく書かれており、(2017年7月出版)詳細を知りたい方、プログラムを本格的に実行される方には必携の書です。
※一部学術的な難しい記述もありますが、全体としては一般向けに比較的わかりやすい英語で書かれてあります。
「アルツハイマー病 真実と終焉」(日本語翻訳)
2018年2月より日本語訳が出版されています。
英語訳ですが、第二作も発刊されています。
ブレデセンプロトコル(リコード法)の特徴
ブレデセンプロトコル(リコード法)は、一般的には統合医療に分類されるのかもしれませんが、これまでの統合医療や東洋医学とも大きく違いを見せるのは、あくまで現代医学的な分析手法からスタートしており、作用機序に基いてそれぞれの治療方法が生化学的な理由から組み立てられている点にあります。
全体観的なホーリズムに基づく還元主義批判は、世間でよく見られる現代医療批判のひとつですが、少なくとも私が理解する限り、リコード法は還元主義的な視点も持ち合わせており、その過剰な方向性に対してバランスを図ろうとしているものです。
一方で標準型の現代医学とも、そのプロトコルに大きな違いがあり、単一標的単一薬剤という捉え方ではなく、病因を全体の代謝障害としてとらえ、その人個人に合わせて(臨床検査値や遺伝子、病歴など)複合的なアプローチ(投薬、運動、食生活等々)をとって治療プログラムが組み立てられています。
こういった個々の発症原因に着目しながら根治療法を目指す次世代医療モデルに、機能性医学というものがあります。これは、主に発症メカニズムが複雑な慢性疾患、生活習慣病などに対してアメリカなどで一部の研究者、支持者によって支持されている治療法です。
ブレデセン博士はアルツハイマー病も慢性疾患同様に複雑な代謝障害がその根底にあると考え、機能性医学的な医療アプローチを積極的に組み合わせたともいえます。
ブレデセン博士サイト www.drbredesen.com/
以下は専門家向けの投稿論文ですので、内容的に難しくなりますが、ブレデセン博士の概略的な解説はこちらを参照してください。
アルツハイマー病の次世代治療薬(オリジナル・英語)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3779441/
シリコンバレーでの講演 「アルツハイマー病の逆転」(英語)
多くの類似性
私がこのプログラムの存在を知ったのは2015年頃です。
偶然にも母が昔から実行している数多くの改善策と重なっており、はからずも、母はこのブレデセンプロトコル25項目中20項目以上を初期の段階からすでに実行していることに気がつきました。
もちろん、シナプス恒常性バランスのようなものを個人のわたしが想定していたわけではありませんが、個々の治療ターゲットは医療論文をベースに加えていったため、重複していたことは必然だったのかもしれません。
アルツハイマー病には36の要因がある
ブレデセン博士は
「たとえていえば、認知症患者の屋根(代謝)には36個の穴(病因)が開いてるようなもの」
「人によって、たとえば運動面に大きな穴が空いていて、ほかの面の穴は小さかったりする。」
という例えでアルツハイマー病の原因を説明しています。
そして
「しかし、ひとつの薬を摂っても、ひとつの屋根の穴を塞ぐことしかできない。」
「製薬会社は1つの穴に対して非常に優れた対処法を開発する。それがアルツハイマー病に効果がないことにはなんの不思議もない」
とも述べています。
そのたとえを広げるなら、たまたまテレビやホームページなどで目についた、治療法にとびつくというのは
「あちこちで雨漏りしている屋根で、どこかわからずに屋根瓦を一枚交換しているようなもの」でしょう。
引き続いて
「いい知らせもあり、われわれは36個の穴(因子)すべてを塞ぐことができる。」
とも語っており、具体的にその穴が何であるかも明示されています。
確率の問題?
これが、一箇所の雨漏りでしかないのであれば、たまたま運良く実行してみた改善策が効いたというようなこともあるかもしれません。
宝くじの一等がどれほど当たらない確率だとしても、くじを引く人が一定数いれば、中には当たる人がいるのと同じことです。
奇跡のガンサバイバーは、そういったケースで助かっている人もいるかも?と想像しています。
しかし、仮に10個の穴が開いているのなら、それは一等を当てるとまで言わないにしても、何万、何十万とある因子の中で宝くじを10回連続してあてないといけないような偶然に依存することになります!
そして、そんなことが現実には確率的にありえないという意味において、アルツハイマーサバイバーも存在しないのでは?と考えることもあります。
昔から存在していた認知症の多因子説
アルツハイマー病の発症原因は複合的な要因によってもたらされるという多因子説自体は、突飛な説でもなんでもなく、ひとつの有力な仮説として20年以上まえから存在していました。アミロイド仮説が途中で有力になってきたことから、多因子説が没落していったというアルツハイマー病治療研究の歴史的経緯があります。
www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph107.html
多因子性(Multifactorial)にも多遺伝子性(Polygenic)や環境因子を加味する考え方、さらにはアルツハイマー病とひとつで言っても、実は異なる疾患なのではないかという多症候群説などもあります。多症候群説に賛同する研究者は増えてきているようです。
生物学にエレガンスを求めてはいけない、進化は偶然によって進むものだから。多くの若い生物学者たちが、オッカムのかみそりで自分ののどをかき切っている
フランシス・クリック
2つか3つの薬剤を組み合せればより高い効果があるのではないか、という程度の発想はすでに他の多くの研究者もしていたように見受けられます。
ブレデセン博士の際立つ手法は、多因子説に真正面から取り組み、個別医療、精密医療、遺伝子検査等、先駆的な手法から、従来の検査手法も含めて、投薬という狭い枠組みを超え、作用機序と控えめな臨床データして有効と判断したものを体系的に組み合わせ、大胆にシステム全体を構築したといえます。
複雑系を想定したネットワーク治療
ブレデセンプロトコルはアルツハイマー病を生態系のように複雑系の病気として捉えており、生き物さながらニッチ戦術と共生型戦術を組み合わせて、個々のエビデンスだけでなく、もっと包括的な視点から戦略を組み立てているといえるかもしれません。
簡単には述べましたが、還元主義、実証主義が支配する現代医療のまっただ中にいる地位のある人物が、こういった新しい哲学に基づく立場に立って具体的なアクションをとるというのは、文字通り人生を賭した覚悟がなければできません。
理念ではなく観察から生まれたブレデセンプロトコル
「もしあなたが10年前に研究室に来て、私に瞑想とヨガと栄養療法の重要性について話してほしいと言われたら、私は笑い飛ばしていたことでしょう!」
デール・E・ブレデセン博士 (インタビューにて)
正統派の基礎研究者
ブレデセン博士の論文や経歴を見ればわかりますが、ブレデセン博士はもともと、東洋思想だとか、統合医療、などといった思想や理念を抱いていて研究していたわけではありません。(MITで数学、基礎科学の研究をしていたというユニークな経歴はありますが、)
ブレデセン博士が発見した依存性受容体が、単一の分子化合物ではなく複数の因子(ニューロトロフィン)の欠乏によってプログラム細胞死が発動したことで、単剤標的という考え方に対する疑念を感じだしたきっかけとなったそうです。
(そしてまさに、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)が、依存性受容体として振る舞うということを後に発見していきます。)
患者さんと直接関わる臨床研究と違い、確実さ、正確さ、再現性を重要視する基礎研究を30年続けてきた方が、現在の単一標的治療がもつ原理的な限界を感じ取り、ここまでより実際性のある治療プログラムを広める立場に転向したということにも、大変興味深く感じます。
トップダウン方式(東洋医学)の治療の限界
ブレデセン博士と類比するのもなんですが(汗)、私自身、(すでに前記事で述べていますが)出発点においては、ブレデセン博士のように観察結果(帰納的な推測)に基づいて、包括的な治療プログラムや世界観にたどりついたというわけではありません。
もともと、東洋医学や複雑系、創発現象などといったマクロ視点の分野に興味を持っていたため、(後には生化学的な裏付けにも気を配るようになりましたが、)その出発点においては大きい枠組みから(演繹的に)個々の治療策を選択するということをしていました。
ある特定の理念や考え方にもとづいて治療や健康法を実行する方は、自分も含め、とても多くおられますが、こういった因果的な機能を組み合わせたトップダウン方式の治療は、既存の問題について速攻で対応する時には大きな力を発揮するものの、複雑な事象だったり、未知の治療領域には通用しにくく、知識を広げて応用していくことも難しかったりします。
わたしの場合、現実的に解決しなければ直近の問題があったため、治療思想Aが通用しなければ治療思想Bへと、古今東西にあるあちこちの医療哲学、理念にジャンプすることで、その枠組を乗り越えようとしていました。
生化学的なアルツハイマー病治療の道標
一方で、そのことによる煩雑さ、最大公約数的な解には近づくものの、結局治せないものは治せないというもどかしさも感じていました。
必ずしも物理主義、還元主義者でもないのですが、そうやって探求していく中で生化学の構成的で根底的な説明力に大きく魅了されていったという面もあります。
とはいえ、生命科学、生化学の世界の広大な海は複雑難解すぎて、どこをどう泳げばいいのか見当もつきません。(特に認知症などの神経変性疾患に関しては)
半ば独学で西洋医学的な治療方法を模索していたところ、ブレデセンプロトコル(リコード法)は私が個人では到底たどりつけなかった、認知症患者が抱える生化学的な問題、検査手法、治療法を網羅しており自分の抱えている弱点を補完し、道標になるのではないか、という期待の中で関わりを深く持つようになっていきました。
次の記事
次はリコード法が専門家から、どのような批判があるのか取り上げていきます。
リコード法 専門家の批判・医療制度
この記事も少しむずかしいので、興味のある方以外は飛ばしてもらっても構いません。