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認知症・アルツハイマー病患者の焦燥性興奮・動揺・激越・不穏・暴言への原因
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概要
アルツハイマー病患者の興奮・身体的攻撃・暴言 (agitation)への対応は、精神神経症状(NPS)の中でも、もっとも難しい症状のひとつ。
※「興奮/焦燥性興奮」 =「その人の要求や意識障害の錯乱によって生じたとは考えられない不適当な言語、音声、運動上の行動をとること」
この症状は長く継続し、疾患がより進行した段階で生じる可能性が高く、中等度から重度のアルツハイマー病患者の20~50%が興奮症状を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16239180
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15190997
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5530006/
認知障害研究における「興奮」の暫定的定義(国際精神医学協会)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4301197/
進行との関連
焦燥性興奮は重度のアルツハイマー病への急速な進行とも関連している。
焦燥性興奮、攻撃性とアルツハイマー病の進行の関連について確定的な証拠はないが、病理学的な進行と攻撃性には関連があると考えられている。
持続的
進行性アルツハイマー病患者の焦燥性興奮症状は、神経精神症状(NPS)の中でも、もっとも持続性をもつ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9075466
介護者の負担
介護者の生活の質は、アルツハイマー病患者の興奮性、攻撃性、不安、脱抑制、過敏性、不安定性、総精神神経症状スコアと負の相関が存在する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15956266
高い社会的コスト
興奮性、攻撃性をもつアルツハイマー病患者の介護では、そうではない患者と比べて一日あたり3.5時間の無償の介護時間がかかる。
これは外来患者では年間で10709ドル(118万円)の損失となる。(米国)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11445614
イギリスの研究では、焦燥性興奮を有するアルツハイマー病患者では、一年間の社会的ケアのコストが2倍になることが報告された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9916370
複雑なメカニズム
アルツハイマー病の焦燥性興奮、攻撃性に関する神経生物学の理解が十分ではなく、第三の交絡因子(遺伝、環境など)が存在することから、複数のメカニズムが非因果的に複雑に結びついている。
このことが興奮症状への効果的な治療方法を開発する際の大きな障壁となっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23562430
www.trci.alzdem.com/article/S2352-8737(17)30045-8/fulltext
環境要因
アルツハイマー病患者の興奮、攻撃性は、身体拘束率、日中のベッドの滞在時間、病室の小ささ、機能的ではない居住空間など、環境要因と相関していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9670873
家族の関与・介護施設への訪問数
家族の訪問は、認知症患者の興奮症状を著しく減少させたが、30分以内には元に戻ってしまうことが直接的な観察によって見出された。訪問者が配偶者であるか子供であるかによる有意差は見られなかったが、訪問時の楽しさや不快感は認知症患者の興奮行動の数に大きく関係していた。
journals.sagepub.com/doi/10.1177/15333175010160030
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15804627/
痛み・疼痛
認知症患者の自己申告による疼痛は、攻撃性(BEHAVE-ADスケール)と強い関連性があることが見出された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25790457
疼痛治療は、不平、否定的、繰り返しの発話、質問、非難、言葉による攻撃などの興奮行動に応答することを見出した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23611363
ランダム化比較試験 疼痛コントロールによる特別養護老人ホーム居住の中等度から重度の認知症患者の興奮を有意に減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21765198/
不快感
認知症高齢者の興奮行動は、認知症の重症度、不快感と有意な関係を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11326214/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2213647/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10320435/
機能障害
言語的な興奮行動は機能的な障害のある人で示される傾向にある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10320435/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2317299/
うつ病、妄想、幻覚、便秘症状
特別養護老人ホームの居住者の身体的攻撃・暴言は、うつ病、妄想、幻覚、便秘症状と関連していた。
尿路感染症、気道感染症、発熱、疼痛、レクリエーション活動への参加は、身体的攻撃性とは有意に関連していなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16801512
レビー小体型認知症・FTD
アルツハイマー病であっても、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症
脳の組織の異常タンパク質が併発していることがあることから、鑑別の必要がある。
記憶障害
多すぎる選択肢
認知症患者は選択するための十分な情報をワーキングメモリに保持することができないため、多くの選択肢に直面すると急激に混乱することがある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5588787/
妄想
アルツハイマー病患者の妄想は、攻撃的行動の予測因子
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9526180/
病理学的要因
アミロイドβ
アミロイドβ凝集および神経原線維変化の蓄積は、神経変性をもたらし神経回路およびシナプス結合の混乱、神経伝達物質系の不均衡をもたらすことから、神経精神症状、焦燥性興奮、攻撃性に大きな役割を有する可能性が高い。
加えて、アルツハイマー病患者では、アミロイドβ、タウが前頭皮質、側頭皮質などの脳の特異的領域に蓄積することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22229116
タウ・リン酸化タウ
神経原線維変化の増加に伴う疾患の進行は、アルツハイマー病患者の焦燥性興奮と関連する可能性がある。
しかしタウは興奮症状の重症度(激しさ)とは相関しないことも報告されている。
europepmc.org/abstract/med/16434124
タウリン酸化
興奮、攻撃的行動を有するアルツハイマー病患者の前頭皮質では、リン酸化タウと総タウの比に有意な相関関係があった。タウリン酸化の低下は症状の軽減をもたらす可能性を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22382406/
軽度のアルツハイマー病患者において、タウ、リン酸化タウは無関心とは有意に関連するが、アミロイドβとは相関していない。
精神病、興奮性、うつ病は脳脊髄液のアミロイドβ、タウ、リン酸化タウとは相関していなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18536520
眼窩前頭皮質、前帯状皮質(ACC)におけるタウ沈着と、興奮性、攻撃性の有意な相関関係。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11261510
代謝の低下
前頭葉・側頭葉
前頭葉、側頭葉の代謝低下による不安、うつ病スコアとの相関関係
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8555751
グルコース代謝低下
興奮/攻撃性および過敏性/不安定性を有するアルツハイマー病患者は、右側頭側、右側前頭側および両側帯状皮質のグルコース代謝の低下を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28215899
血流低下
脳右半球と行動異常
脳右半球の機能不全は、行動異常と関連していることが報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3517248
右上頭側回・右下側回
SPECTイメージング研究
身体的な興奮行動は、右上頭側回(Brodmann 22)、右下側回(Brodmann 47)の低い局所血流と有意に相関していた。
口頭興奮行動は、左下前頭回(Brodmann 46、44)、左島(Brodmann 13)の低い局所血流と有意に関連していた。
精神病症状は、直角回(Brodmann 39)、右後頭葉(Brodmann 19)の低い局所血流と有意に相関していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3933703/
右中内側側頭領域の低灌流が、アルツハイマー病患者の攻撃性症状と相関していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15534184/
脳灰白質密度の低下
妄想は、左前頭葉の灰白質密度の低下と関連していた。
無関心は、両側の前帯状回および前頭皮質、左尾状核の頭部、ならびに両側被殻における灰白質密度の低下と関連していた。
焦燥性興奮は、左島内、両側帯状前帯状皮質の灰白質密度の低下と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18669506
脳の萎縮
縁辺縁萎縮症
縁辺縁萎縮症は、軽度の認知障害およびアルツハイマー病における激越および攻撃性と関連している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23253778
前頭皮質、前帯状皮質
動揺は、前頭皮質、前帯状皮質を含む特定領域の容積減少と関連する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23253778/
左島皮質・帯状皮質
焦燥性興奮、攻撃性は、左島内、および両側帯状皮質(ACC)の灰白質密度の低下と負の相関があることが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18669506
興奮/攻撃性は、左下前頭/島内および両側後脾臓皮質の萎縮と負の相関を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4600424/
MRIスキャン 右側後部萎縮が激越、攻撃性と有意に関連していた。
journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137121
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21805370
神経伝達物質
コリン作動性、ドーパミン作動性、セロトニン作動性、GABA作動性、およびノルアドレナリン作動性の不均衡は、興奮/攻撃性と関連していた。
・セロトニン作動性機能障害
・ノルアドレナリンの代償応答による過活動による興奮
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11904135
ci.nii.ac.jp/naid/110002320161
前頭皮質、ACC、眼窩前頭皮質、扁桃体、は、興奮性回路の一部を形成することが提案されている。前頭前皮質の機能不全の可能性
しかし、興奮がより一般的になるアルツハイマー病の後期の段階では、ニューロンおよびシナプス喪失範囲が広がり解釈を難しくする。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1568163717302908?via%3Dihub
セロトニン作動性
システマティックレビュー アルツハイマー病患者の焦燥性興奮はセロトニン作動性の欠乏症と関連するもの、関連しないもののなど相反する証拠がある。
いくつかの証拠では、セロトニン作動性のサブタイプである5-HT 1Aおよび5-HT 1B受容体が、興奮性、攻撃性症状と強く関連している。
頭葉と側頭皮質における5-HT 6:ChAT比が攻撃性と相関する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14571255
セロトニントランスポーター(5-HTT)は、身体的攻撃性をもつアルツハイマー病患者ではアップレギュレーションされている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20625884
ドーパミン
全体的にドーパミン作動性の機能は興奮症状を有するアルツハイマー病患者では比較的保たれている仮説が支持される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9779662/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28334978
ノルアドレナリン
最も強い攻撃性を示したアルツハイマー病患者の死後の分析では、LCニューロンの大きな損失が見出された。
蓄積された証拠からは、ノルアドレナリン作動性レベルと興奮症状は逆U字用量反応モデルが支持される。
アルツハイマー病におけるLCニューロンの喪失によるのの代償的過活動は、注意力の喪失、脱抑制、感情の喪失につながる。
攻撃的な患者の海馬では低いノルアドレナリンレベルを示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24685637
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11904135/
アセチルコリン
側頭部および前頭部皮質のコリンアセチルトランスフェラーゼおよび、またはアセチルコリンは、アルツハイマー病の攻撃的な行動を関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15707619
前頭皮質および側頭皮質におけるChAT:DA、ChAT:D1の比率は、アルツハイマー病患者の過剰行動、攻撃的行動と負の相関がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11094098
興奮症状を示すアルツハイマー病患者の低いα4β2 ニコチン性受容体結合
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28162919
GABA
アルツハイマー病のGABA作動性機能不全は、BPSDに寄与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15362248
GABA A受容体の正のモジュレーターは攻撃性を高めることに関連している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16325649
アルツハイマー病患者のGABA作動性の混乱とBPSDの相関
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16870038
炎症性サイトカイン
サイトカイン
炎症性サイトカインとアルツハイマー病神経精神症状の関連
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21753171
IL-1β
炎症性サイトカインIL-1βとアルツハイマー病患者の激越症状との関連 夜間のコルチゾール上昇
onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/gps.2381
IL-6・IL-10
炎症性サイトカインIL-6と不安は逆相関を示す。
抗炎症性サイトカインであるIL-10は、うつ病と逆相関を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25224917
IL-6
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28794151
TNF-α
血清TNF-α、IL-6は攻撃性、興奮などの精神神経症状の頻度を二倍に増加させたが、CRPとは関連していなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21753171
ナチュラルキラー細胞の活性
特別養護老人ホームで激しく興奮症状を示す16人のアルツハイマー病患者では、IL-1βの増加、ナチュラルキラー細胞の減少が午前中、夜間とも興奮前、興奮後に生じた。
onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/gps.2381
クラステリン
en.wikipedia.org/wiki/Clusterin
クラステリンは、上皮細胞や神経細胞等、多くの細胞や母乳、血漿、尿等、体液性物質から分泌される主要タンパク質。
体内の広範囲に存在し、膜組織の再生やリン脂質の輸送、細胞外シャペロンとしての役割など、多くの生理的機能を有すると考えられている。
腎臓変性疾患、前立腺癌、卵巣癌、アルツハイマー病、神経変性疾患等、酸化ストレスと関連する疾患に関与しており、クラステリン遺伝子変異は、アルツハイマー病の発症リスクと統計的に関連することがわかっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20603455
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4963458/
クラステリンの血漿/血小板比率
クラステリンの血漿/血小板比率は、アルツハイマー病患者の興奮、無関心、過敏性、運動異常行動と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24921239
BDNF
健忘性軽度認知性障害(MCI)またはアルツハイマー病患者の血漿BDNF濃度は攻撃性と相関していた。攻撃性のマーカー候補
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24253237/
ApoE4
ApoE4対立遺伝子を保有するアルツハイマー病患者では攻撃的症状のリスクが高いことが示される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15314125/