我が国の「食料安全保障」への新たな視座(抜粋)
「食料安全保障に関する研究会」報告書 平成 22 年 9 月 10 日

強調オフ

食糧安全保障・インフラ危機

サイトのご利用には利用規約への同意が必要です

www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/report1009.pdf

第2次大戦直後の日本の食料自給率が、100%であったことを考えれば、食料自給率が高いことが直ちに食料安全保障が確保されていることを意味するものでないことは明らかである。

1.3 食料安全保障の柱は、食料・農業・農村基本法にあるとおり
  • (1)国内生産
  • (2)輸入
  • (3)備蓄

の3点であると言える。

本研究会では、別紙1のとおり、多種多様な供給リスクを、便宜上、以下に大別した。

  • ①偶発的リスク
  • ②循環的リスク
  • ③政治的リスク
  • ④構造的リスク

集落機能の崩壊がもたらす農業の機能不全や、農業協同組合(JA)、農業委員会などの機構や組織の問題

動植物の病気についても、偶発的に発生しているものと考えられ易いが、実際は発生・拡大については構造的なリスクと理解すべき面もある。

輸入の途絶

有事に備えた法整備

2.14 日本では不測時における食料安全保障に関する法律として、食糧法、国民生活安定緊急措置法等が存在し、これらは、適正な流通体制及び価格、増産体制等を目的とした法律である。他方、スイスでは食料に限らずすべてを網羅した危機管理法である「国家経済供給法」が存在する。ドイツでは、「食料供給保証法」の他、「経済供給保障法」「輸送保証法」、「水供給保証法」、「労働保障法」に加え、平時の危機を想定した「食料準備法」がある。政府による公的介入が必要とされるような状況には、日本でも食料安全保障のみを規定した個別の法律の束では真に有効、迅速な対応を行うことは難しく、有事法制の中に食料安全保障もしっかりと位置付ける必要がある。

必要最低限の食料供給を確保するのに最も重要な要素が農地である。戦後、日本には約500 万ha 以上の農地があったにもかかわらず、人口7千万人が飢餓に喘いだ。現在の農地面積(約 461 万 ha)では、有事における不作の発生や、海外からの肥料輸入が途絶した場合、必要最低限とされる1人1日当たり 2020kcal を供給することは難しいであろう。

2.18 有事の際には、熱量効率の高い作物への生産転換を行うだけではなく、耕作放棄地を含め、今まで利用されていなかった土地の農地への転換が必要となる。限られた農地で、有事の際の国民への食料供給を確保するためには、国内生産基盤の脆弱化が懸念されている現在の日本においては、農林水産省が定める必要最低限の食料(1人1日 当たり 2020kcal)の供給をいかに確保するか、具体的にその方策を示す必要がある。そのため、

  • ①農地の集約化
  • ②農地転用を始めとする土地利用調整に係る法令の厳正な適用
  • ③農業技術の喪失等による生産能力の構造的な低下への対応
  • ④技術革新による生産性の向上等

により、国内の安定供給はもちろんのこと、将来的には、国際的に通用する生産基盤を早急に確保することが課題と言えよう。ただし、これらの対応に当たっては、コスト・ベネフィットについて十分に検討すべきである。

世界人口の2%にも満たない 日本が穀物の世界貿易量の約1割を輸入しており、食料バイヤーとしての国際的な地位は依然として高い。

また、主要な食料輸出国が欧米先進国であるのに対し、主要な輸入国はアジア、アフリカ地域であり、仮に日本が国際市場で大量に調達する必要が生じた場合、人道的な観点からの配慮は必要であるものの、日本の経済力をもってすれば食料を調達できないという事態は想定し難い。

2.22 嗜好や品質がどこまで本質的なものかという議論もあるが、1993 年の国内における米の不作時において、タイ米など輸入米は確保できており、かつ、小麦は十分に供給されており、代替品となるパンに関しては、供給にまったく問題がなかったにもかかわらず国内が騒然としたことは記憶に新しい。また、微妙な品質の違いが食品メーカーの業績を大きく左右することになりかねないほど、品質確保への要求は高い。

過去、米国は 1973 年に大豆禁輸、1979 年に対ソ穀物禁輸を行っている。しかし、その際に市場を失い、結果的に大きな損失を招いた教訓から、今では米国は最も信用できるサプライヤーと評価されるに至った。他の輸出国も米国の教訓は熟知しており、長期にわたって輸出規制という手段を用いる可能性は低いと考えられる。

国家貿易については、戦後の日本企業の購買力や信用力が低かった時代において、各企業が単独では十分に量的確保ができないおそれがあった。そのため、シングルデスク(単一窓口)を導入することにより、購買力や信用力を高めることが必要とされた。しかし、現在の日本企業の存在感を考えれば、国際市場で十分な量を確保できなくなるおそれは小さく、今日において国家貿易に依存すべき理由はなくなっていると言えよう。

スイスにおいては、民間企業が食料を調達する際、ライセンスの発給条件として企業に調達量の一部を義務備蓄することを要請しており、この備蓄は政府の許可なしで取り崩すことができない。義務備蓄は通常の在庫よりも税率を抑え、税制面の優遇措置が取られているが、備蓄コスト自体は企業の負担である。また、有事に農地に生産転換するために確保された牧草地では“生きた備蓄(livestock)”である家畜を育成し、農地維持コストの低減および備蓄確保の同時達成を図っている。

例えば、日本の場合、家庭内備蓄については、強制することは難しく推奨にとどまる可能性が高いが、現在でも主に地方自治体の呼びかけで地震等災害時に備え自主的に備蓄をするケースもある。国民の有事における食料安全保障に対する意識を高めつつ、今後、政府としては国民にある程度の家庭内備蓄を促す可能性はあり得る。また、地域レベルでも災害対策として地方自治体が食品メーカーやコンビニ等と連携した地域備蓄を促すことも一考に値しよう。

3.2 有事の食料安全保障は、主として食料の量的確保の問題となる。ただし、嗜好 についても最低限の考慮が必要になることは、戦地でコメが足りていたにもかかわらず、他の食品が足りないことで奪い合い等の騒動が起こったことからも分かる。

(1) 輸入途絶

3.5 有事が起こらないように政治・外交的に最大限の努力をしたにもかかわらず、食料輸出国における戦争、化学事故、疫病の発生又は日本向けの重要なシーレーン断絶等のリスクが顕在化し、他国からの食料調達が不可能となるような事態が起こり得る。この場合、政府の公的介入も含めた有事体制の下、国内生産の強化及び備蓄の取り崩し、食糧法、物価統制法等による価格統制・配給の実施が想定される。

3.6 このシナリオで国民への必要最低限の食料(カロリー)供給の確保において最も重要な役割を果たすのが国内農業生産である。日本においては、危機への対応として、農林水産省による「不測時の食料安全保障マニュアル」が現時点でも存在する。国内農業生産だけで昭和 20 年代後半の水準である 1 人 1 日当たり 2020kcal の供給が可能と計算されている。しかし、どのように供給するかという運用部分について具体的なプログラムは提示されておらず、また、提示されている 2020kcal のメニューは現代の食生活とはまったく異なるもの(イモ類中心)であり、実現可能性を疑問視する声も聞かれる。

(2) 国内生産障害

3.8 化学事故、核汚染、地震などによって国内農業生産に著しい障害が発生する可能性を想定しているのがこのケースである。1986 年のチェルノブイリの事故以降、スイスを始め欧州各国で現実に起こり得る危機として対応策が検討されてきた。

3.9 このシナリオで重要な役割を果たすのは輸入による食料供給である。輸入の安定性の確保のためには民間ベースでの繋がりが重要であるが、既存の輸入先からの購入量の増大や新規輸入先の確保が求められるため、食料輸出国との外交を通じた緊密な二国間関係及びビジネス環境の整備が効果の高い対策と言えよう。

3.10 また、上記(1)及び(2)の両シナリオにおいて、備蓄が果たす役割も大きい。両シナリオが同時に発生するという最悪の場合には、備蓄が唯一の食料供給のためのツールとなる。スイスでは配給の開始までに 10 日間の準備期間が想定されており、その間はすべての食料品店が閉店する。そのため政府は、国民に家庭内備蓄を要請している。

3.11 備蓄品目及び備蓄量については、国民が備蓄にかかるコスト及びそれによるベネフィットをどのように評価し、その負担をどの程度受け入れ得るかによるところが大きく、その在り方等については、オプションを示しつつ国民に説明する必要があろう。その際、政府による食料危機時のための備蓄制度が、農家保護を目的とした市場での農産物価格下落を防止するための政府買入れ措置として利用されないようにすべきであ る。

(参考)スイスの事例

スイスでは有事(化学事故、核汚染、地震等)発生から 3 年以内に農地を拡大し、作付転換による食料増産で1人当たり2400kcal/日をまかなうロードマップを作成している。農地拡大までの期間は、平時の摂取カロリーである1人当たり 3300kcal/日から、有事発生当年は同 2700kcal/日、その後 2300kcal まで減らし、備蓄の取り崩しとわず かな輸入(その意味では完全な途絶状態は直ちに起こらないと想定)でまかなう計画を策定している。

また、必要な農地の確保や農産物生産までのプログラムおよび運営担当者、流通・情報連絡ルートに至るまで詳細に定めている。有事において実行すべき内容が具体的に提示されており、国民に大きな安心感を与えていると考えられる。

この記事が役に立ったら「いいね」をお願いします。
いいね記事一覧はこちら

備考:機械翻訳に伴う誤訳・文章省略があります。
下線、太字強調、改行、注釈や画像の挿入、代替リンク共有などの編集を行っています。
使用翻訳ソフト:DeepL,ChatGPT /文字起こしソフト:Otter 
alzhacker.com をフォロー