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甲状腺刺激ホルモン/thyroid stimulating hormone
甲状腺ホルモン関連記事
T4(サイロキシン)/T3(トリヨードチロニン)/rT3(リバースT3)
概要
一般的なTSHの作用メカニズム
甲状腺ホルモン濃度を感知するセンサーが下垂体のTSH産生細胞に存在する。fT3やfT4が一般的な正常範囲にあっても、その人のセンサーにより不足していればTSHは上昇し、不足していればTSHは減少する。
つまりfT4が正常範囲であってもTSHが高値だったり低値だったりする。
わずかにfT4が下がってもTSHは上昇し、わずかにfT4が増加してもTSHは減少する。
そのため、TSHは正常値である場合は、fT4、fT3も正常であると通常みなされることから、甲状腺疾患スクリーニングの検査項目として扱われる。
リコード法
「TSHは脳下垂体の応答によりTRHの指令によって放出されるホルモンであり、視床下部で作られる。理論的には甲状腺機能が低下すると脳下垂体を刺激しようとTSHが増強されうる。つまり高いTSHは低い甲状腺機能の働きを示唆する。」
「一般的な甲状腺刺激ホルモン検査の基準値はTSH 0.4~4.2mIU/Lだが、リコード法においてはTSHが2よりも高い場合は懸念材料となる。そのため、その他の甲状腺ホルモン値を検査することが重要となってくる。」
TSHの異常値
アルツハイマー病患者のTSH、T4異常値
アルツハイマー病患者では一般的にTSH(甲状腺刺激ホルモン)とTT4(総テトラヨードチロニン)が有意に異常値を示す。
jim.bmj.com/content/61/3/578.long
脳血流と逆相関するTSH
アルツハイマー病患者の右大脳半球および下側頭領域の脳血流とTSH値が逆相関していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20975518/
女性の高リスク
女性では、甲状腺ホルモンの低値および高値の両方が、アルツハイマー病発症リスクと強く関連する。(男性ではない)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2694610/
TSHの低値または高値は女性のアルツハイマー病発症リスク増加と関連していたが、男性では関連が見られなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18663163/
TSHの新基準
アルツハイマー病の発症リスクと、TSHレベルが1.0未満または2.1を上回るレベルを維持していた女性との間に相関が認められた。
この1.0~2.1の範囲外であった人のアルツハイマー発症リスクは2倍以上であった。
現在の健全とされるTSHレベルの基準範囲は0.5〜5.0の間である。
米国臨床内分泌専門医協会(AACE)は0.3〜3.0の範囲に狭めることを提案したが、全米臨床生化学協会はTSHレベルが2.5を超えないようにすることを提案する。
www.holtorfmed.com/can-thyroid-dysfunction-cause-alzheimers-disease/
TSHレベルは2.0以上で異常となる可能性がある。
TSHの低値
TSHのAD発症予測指標
TSHレベルの低下は、エピソード記憶の低下に先行することがあり、MCIからアルツハイマー病への移行の予測指標となりえる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15854779/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16869339/
血清TSHの低値はアルツハイマー病のリスクと相関する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26897535
TSHと脳血流の逆相関
アルツハイマー病患者ではTSHが非常に低い傾向
血清TSHと、右大脳半球の中および下側頭区域において脳血流が有意に逆相関
FT4濃度と、アルツハイマー病患者の恐怖および疲労感情の自己報告に有意な関連。
アルツハイマー病患者では、TSHの概日リズムが現れない。
健常者では19~20時が一番低く2時が一番高い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23739900
シナプス可塑性への影響
TRHおよびTSHおよび他の甲状腺ホルモンの減少がAD被験者のシナプス可塑性に影響を与える可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10452218/
TSHの高値
TSH高値の血管性認知症リスク
TSHは高齢者のMCIまたはアルツハイマー病の発症リスクと関連していなかったが、TSHの高値は血管性認知症の発症リスクを増大させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21430364
無症状の甲状腺機能低下による認知機能への影響
TSH高値だが血清T4レベルは正常である無症状の甲状腺機能低下症であっても、認知試験のパフォーマンスに影響を与える可能性があることが示されている。
Monzani F, Del Guerra P, Coraccio N, Pruneti CA, PucciE, Luisi M, Baschieri L (1993) Subclinical hypothyroidism:neurobehavioral features and beneficial effect of L-thyroxine treatment. Clin Invest 71, 367-371.
TSHとコルチゾールの関連
健康な若年者のTSHとコルチゾールには明確に関連があることを示唆する。
fT3およびfT4レベルはコルチゾールとの関係は明らかでない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23111240
エストロゲン低値
エストロゲンはHPT軸を介して甲状腺へ間接的に影響を与える。
卵巣摘出ラット(卵巣かからエストロゲンが分泌される)ではTSHレベルが増加し、T3およびT4レベルは減少を示した。
bmcresnotes.biomedcentral.com/articles/10.1186/1756-0500-2-173
TSHの概日リズム
健常者では正常なTSHの概日リズムを有していたが、アルツハイマー病患者では概日リズムによるTSHの変動が現れず、対照群より有意に低かった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23739900
TSH低値の一般的要因
・ストレス
・HPA軸の活性
・コルチゾール、CRH、ACTH
・飢餓によってレプチンが低下>TRH刺激が抑制>TSH分泌が低下
TSHの改善に必要な栄養素
・ヨウ素の摂取 0.4mg以下、最大0.8~1mg (甲状腺ホルモンの合成に必要)
・セレニウム 100~200mcg (T4をT3に変換するのに必要)
・クロム (セレニウムがクロムの排出を増加させる)150~250mcg
・適度な亜鉛(過剰な亜鉛はFT3、FT4を減少させる)
・ビタミンA(甲状腺ホルモン受容体に結合する)
筋肉異化作用
空腹時の甲状腺ホルモンを投与すると、筋肉に異化作用が高まる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/454518