アルツハイマー病の次世代治療薬(翻訳)

ブレデセン博士の発表論文

わからない用語もあったので正確な参照は原文を当たってください。

太字、赤線強調は管理人によるものです。

翻訳元

www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3779441/

Next generation therapeutics for Alzheimer’s disease

次世代のアルツハイマー病治療

デール・E・ブレデセン & バーギズ・ジョン

 

要約

今日まで、アルツハイマー病、または軽度認知症障害に本当に有効な治療法は開発されていない。

過去の失敗した経験から新しい成功アプローチを探す際に、がんやヒト免疫不全ウイルスなど、他の慢性疾患での治療上の成果例を考慮することは有益であろう。

キーワード:老化、アルツハイマー病、慢性疾患、認知症、多剤療法
 

現在の状況

認知症は世界で最も重要な医療問題のひとつであり、症候をもつ患者が3,000万人を超えて存在する。

そしてそれよりもさらに多くの人々が、認知症を発症する前段階(数十年前)の状態である可能性が高い。

World Alzheimer Report, 2009

www.alz.co.uk/research/files/WorldAlzheimerReport.pdf

米国だけでも、500万人を超える人々がアルツハイマー病に罹患しており、年間費用は2000億ドル(20兆円)2050年までには1300万人の患者が予測されている。

新生物、心血管および脳血管疾患、骨粗鬆症から糖尿病、精神病など他の多くの疾患と比較しても、アルツハイマー病は効果的な治療法開発の成功に失敗しており、懸念が広がっている。

現在に至るまでアルツハイマー病の治療開発は、なぜこれほどまでに失敗しているのだろうか?

この重大な質問への答えは、アルツハイマー病は、複合的な原因によって引き起こされている可能性が高い、ということであろう。

この答えには、少なくとも2つの要因が、アルツハイマー病と他の慢性疾患との類似性に明確に関連している。

第一の要因は、AIDS(後天性免疫不全症候群)、癌、多発性硬化症、2型糖尿病および心臓血管疾患などであり、他の慢性疾患の治療薬開発成功例から学ぶべき教訓があるであろう。

現状のアルツハイマー病治療の状況と同様に、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染は単剤治療の優先によって最小限の治療効果を得ることしかできない疾患であった。

しかし、併用療法(HAART、高HIV薬による強力な併用療法)の導入により、現在は明らかに治療可能で、持続的なコントロールが可能な疾患に変わってきている。

同様に、癌治療の主要な進歩は、多くのタイプの癌治療の基準となっている併用化学療法(Frei et al, )の導入によって起きている。

しかし、注目すべきことに、アルツハイマー病におけるフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3の臨床試験で進行中の40以上のすべての試験が、事実上単剤治療アプローチによるものである。

(Mangialasche et al, ; Piau et al,  ; Potter, ; Kushwah et al,

歴史的な前例を考えれば、おそらくこのような(単剤治療)アプローチはアルツハイマー病の治療にとって最適な方法とはならないだろう。

加齢と関連する様々な慢性疾患同士のもっとも一般的に見受けられる共通した特徴の比較が、アルツハイマー病病因の洞察に役立ち、新しい治療法を導いてくれる、ということにはつながらないだろうか?

 

承認の可能性

しかし、アルツハイマー病に対する最適な治療アプローチが、多くの成分を含むカクテル療法であるということが実際に判明した場合、カクテルアプローチに必要な開発と承認プロセスに関わる問題を考慮する必要が生まれる。

HIV治療の場合、各カクテル成分が効果を発揮することで、HIV感染に対して控えめではあるものの大きな効果があった。

しかしながら、アルツハイマー病の根底にある病因として同定された多数の機序を考慮すると、アルツハイマー病の最適な治療のためには3つ以上の異なる治療剤が必要とされることが考えられる。

より大きな懸念は、最適な治療用カクテル成分のどれもが、単独で投与された場合には、顕著な治療効果を発揮しないかもしれないということである。

どのようにして最適な組合せが特定されるのか、また最終的に臨床においての使用が承認されるだろうか?

現在のこのようなカクテル治療の最適化および承認を実現可能させるためには、現在の治療アプローチ、臨床試験方法および承認プロセスに著しい近代化が必要とされるであろう。

 

出現する病因:治療開発への影響

第2の教訓は、アルツハイマー病の病因と、骨粗しょう症、腫瘍など、他の慢性疾患の状態の根底にある病因プロセスとの間にある潜在的関係と関連する。

アルツハイマー病におけるこれまでの治療の失敗は、少なくとも部分的には、アルツハイマー病および病因の不完全な理解によるものである、ということはないだろうか?

アルツハイマー病の正確な理論は、ApoEε4対立遺伝子、早期卵巣摘出手術(卵巣除去、全子宮摘出手術と関連する)など、異なる要因によってアルツハイマー病リスクが増加する理由も、ある程度は説明される必要がある。(表1

そこにはメタボリックシンドローム、頭部外傷、炎症過程および高ホモシステイン血症も含まれる。

そもそもアミロイドβペプチドの生理学的役割は何だろうか?

それはアルツハイマー病の病態生理学とどのように関連しているのだろうか?

例えば、アミロイドβとタウの両方は、プリオンとして機能している可能性がある。

(de Calignon et al, ; Eisele et al, ; Yang et al,

さらには、最新理論の成果を情報源として考慮する必要があるであろう。

例えば、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)-sAPPβ、Aβ、JcaspおよびC31のアミロイド形成プロセシングに由来する4つのペプチドは、神経突起退縮、シナプス阻害、カスパーゼ活性化およびプログラム細胞死を媒介することが示されている。

(Bertrand et al, ; Lu et al, ; Nikolaev et al,

APP-sAPPαおよびαCTFの非アミロイド生成プロセシングに由来する2つのペプチドは、神経突起伸長を増加させ、アミロイドβ産生を阻害し、カスパーゼ活性化を阻害し、プログラム細胞死を阻害する。

(Deyts et al, ; Guo et al, ; Tian et al,

したがって、APPは、可塑性関連プロセスを媒介する分子スイッチとして機能し、神経突起伸長性ペプチドに対する神経突起退縮性ペプチドの比の増加とともに、因果的または偶発的にアルツハイマー病と関連するようである。

この比の低下には、BACE(β-部位APP切断酵素)への影響、またはAPPの他の部位の切断、どちらであっても、アルツハイマー病の重症度を緩和するようである。

(Bredesen et al, ; Galvan et al, ; Jonsson et al,

表1

正確な理論によって説明されるべきアルツハイマー病の特質

・これまでの治療開発成功例の欠如

・アルツハイマー病リスク要因の顕著な多様性

・高齢者におけるアルツハイマー病の高い罹患率

・ApoE4がアルツハイマー病のリスクを高めるメカニズム

・アミロイドβペプチドの生理学的役割

・アルツハイマー病病理の解剖学的パターンの広がり

・脳の可塑性領域とアルツハイマー病の病態との関連。

・なぜ一部の人々や、トランスジェニックマウスは、アルツハイマー病の症状を示さずに大量のアミロイドβペプチドを凝集するのか。

・アミロイドβとタウ病理との関係

・α7パラドックス( α7受容体は、神経変性の増強および阻害の両方を媒介することが報告されている)(Dziewczapolski et al,2009 ; O’Neill et al, 2002

 

アルツハイマー病は、他の慢性疾患と同様に、多くの根本的なメカニズムを特徴とする年齢と関係したネットワークの不均衡である。

これらのメカニズムの多くまたはすべてが、最適な臨床効果を得るために治療的に対処される必要がある。

 

アルツハイマー病、骨粗鬆症および癌

加齢の一般的な側面と関連の多い慢性疾患との共通の特徴を比較することが、アルツハイマー病病因の洞察に役立ち、新しい治療法を示してくれる可能性はあるだろうか?

骨粗鬆症および新生物(腫瘍)の両方に、ダイナミックに対立する生理学的プロセスによる年齢と関連した根本的な不均衡が存在する。

骨粗鬆症の場合、骨芽細胞および破骨細胞活性、骨発生の生理学的メディエーター、リモデリングおよび修復の間の不均衡がある。

腫瘍の場合、不均衡は癌遺伝子と腫瘍抑制遺伝子の活性、組織発生の生理的メディエーター、リモデリングおよびその修復との間に不均衡が存在する。

腫瘍の場合、ポジティブフィードバックによる追加的な特徴があり、まれに起こる体細胞突然変異はダーウィン的様式によって細胞の生存優位性が選択されているかもしれない。

類推すると、アルツハイマー病は、可塑性と関連したダイナミックに対立する生理学的プロセスが存在する。

すなわち、APPを介した誘導体ペプチド、ApoEおよびタウの発現等々、多くの異なるアルツハイマー病と関連したすべての因子によって ”シナプスブラスティック”(シナプスの作製)と”シナプトクラスティック”(シナプスの破壊)の活動、シナプス発生、維持、修復およびリモデリングが生理学的メディエーターによって調節されている。

さらに、アルツハイマー病は、腫瘍と同様にポジティブフィードバックによって疾患プロセスを選択し増幅する。

アルツハイマー病と、他の一般的な慢性の加齢性疾患との間にある類似性が、治療上示唆することとは何であろうか?

ひとつ示唆されることは、以下に掲げる一般的な原則を考慮すれば、アルツハイマー病治療が向上するかもしれないということである。

アルツハイマー病は、他の慢性疾患と同様に、多くの根底にあるメカニズムを特徴とする加齢と関連したネットワークの不均衡であり、最適な臨床効果を得るために、これらのメカニズムの多くまたはすべてに対して治療的に対処される必要がある。

例えば、アルツハイマー病とビタミンD欠乏症(Annweiler et al,)との関連は、ビタミンD の神経保護作用に加えて、治療の応答に最適なビタミンD血清濃度が必要であることを示唆している。

同様に、BACE阻害剤をタウ過剰リン酸化阻害剤と組み合わせることは、いずれか単独の使用よりも好ましいと判明する可能性がある。

・心臓血管疾患のような他の慢性疾患の場合と同様に、上流を標的とすることは下流を標的するよりも好ましいが、最適な結果を得るためには、その両方を組み合わせる必要があるかもしれない。

例えば、不均衡なAPPプロセシングへのが、その受容体へのエストロゲン結合の減少によって生じている場合、エストロゲンを含まない治療は準最適であり得る。

・心臓血管疾患のような他の慢性疾患の場合と同様に、予防および発症前の治療は、病因過程が後期となる治療よりも好ましい。

アルツハイマー病は事実上マルチプリオン性疾患であるため、早期よりも疾患プロセスの後期の治療に、より広範な組み合わせが必要とされる可能性がある。

例えば、アルツハイマー病の予防にはタウ過剰リン酸化阻害剤を必要としないが、アルツハイマー病の最適な治療はそのような阻害剤を必要とする。

・単剤療法に焦点を当てるのではなく、最適なアプローチは、薬理学的および非薬理学的成分の両方を含む治療のシステムを伴うものであろう。

例えば、シナプスの再構築および維持が最適な治療法の一部を形成するとするならば、

アルツハイマー病に伴う炎症の最小限度の抑制、

オートファジーの活性化(おそらくは周期的に)、

神経栄養因子の正常化、

ストレスの最小限度の抑制、

Aβオリゴマー化の阻害、

Aβクリアランスの増加、

ApoE4-タウの過剰リン酸化の減少、

プリオンタウの増幅の阻止、

記憶喪失の逆転、

コリン作動性神経伝達の回復、

によって全体のネットワークバランスが回復するであろう。

それらには、ホルモンバランス同様、ビタミンD3、C-反応性タンパク質(および他の炎症関連マーカー)、ホモシステインなどの複数の因子の正常化、増強、または投与を必要としうる。

その他、特定の抗酸化物質、食事(高血糖指数食品および飽和脂肪酸などの一定期間の回避を含む)、運動、ストレス、オメガ3脂肪酸およびレゾルビン(睡眠およびメラトニン)、シチジン(シチジン-5-ジホスホコリン) Mizwicki et al,)および他のネットワークコンポーネントも必要とするだろう。

そのようなシステムで構成されている治療法の大部分は、アルツハイマー病やアルツハイマー病の動物モデルでは控えめな効果(傾向としては統計的有意性に達していないことが多い)が既に示されているが、それらの多面的なシステムによる評価はほとんどなされていない。

しかしながら、このようなシステムアプローチによる治療を取り入れることの興味深い、そして潜在的な可能性のひとつは、単剤療法の臨床試験で失敗した薬剤候補が、システムの一部として使用された場合に有益な効果を示すかもしれないことにある。

最適なアプローチは、単剤療法に焦点を当てることではなく、薬理学的および非薬理学的成分の両者を含む治療システムをともなったものだろう。

従って、アルツハイマー病およびMCI(軽度認知障害)の最適な予防および治療法は、心臓血管疾患、骨粗鬆症および癌のような、過去の他の慢性疾患で成功した開発段階の治療法の先例によって、最終的に判明することとなるだろう。

しかし、治療システムの開発と最適化には、薬物開発、承認、投与に伴う現在の複雑な構造の根本的な近代化と合理化が必要であり、アルツハイマー病の有効な治療薬がいまだ開発されていない深刻性が増す中、そのような治療システムは真剣に考慮されるべきであると主張する。

謝辞

著者らは、利益相反がないと宣言している。

参照

 
※ 原文を参照。

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