認知症患者の徘徊原因とアプローチ

概要

キーワード:elopement,wandering behavior,

はじめに

徘徊の認知症患者においてよく見られる行動障害であり、介護者がもっとも心労する問題のひとつ。

認知症患者の徘徊問題は評価が非常にむずかしい。

徘徊行動に、”One size fits all” 「一つの方法ですべてに適合する」説明は存在しない。

徘徊がなぜ起こるのか病因はよく理解されておらず、徘徊の理論は存在しない。

また、徘徊という事象は間違いなく存在し臨床的な用語としても扱われるにもかかわらず、定義について合意がなされていないため、信頼性の高い治療研究を設計することが困難となる。

さらに、さまざまな理由により、徘徊行動の原因や種類が個人によって異なる場合があることも、研究の困難さを高める要因となっている。

徘徊問題もまたリコード法と同様、多因子を標的としたアプローチが必要となるであろう。

徘徊研究の不足

システマティックレビュー

計画ウォーキング、ペット療法、電子モニタリング、機能スキル訓練、音楽療法、運動、電気刺激、視覚障壁、光線療法、夜間など

無作為化比較試験がほとんど存在しなどころか、徘徊行動の研究のためのスキームが欠けている。

多くの徘徊に関連する研究や臨床試験は、認知症患者の環境的要因や複雑な相互作用が考慮されずに行われている試行錯誤アプローチでしかない。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17253573

徘徊の人口

5人に1人が徘徊

2006年の海外での研究では、認知症と診断された人々5人に1人が徘徊していると報告されている。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17076588

5人に3人が一度は徘徊

米国の研究では、アルツハイマー病患者の5人に3人が認知症の経過において一度は徘徊する。アルツハイマー病患者の70%

www.alzinfo.org/articles/finding-wanderers/

50万人の徘徊患者?

国内で徘徊者の人口、社会的損失などを見積もった研究は見つからなかった。

20%の徘徊率を日本国内の280万人のアルツハイマー病患者だけにあてはめたとしても、約50万人の認知症患者が徘徊していることになる。

他の認知症患者でも徘徊行動は認められるため、実際の数はもっと多いだろう。

認知症患者の警察に届け出のあった行方不明者15000人

警察の捜索活動や通報で発見が63.7%

自力帰宅や家族による発見32.3%

3.1%に当たる471人は死亡で発見。

www.nikkei.com/article/DGXLASDG14HB2_V10C17A6CR0000/

交通事故現場の検証費用は一回10万円以上かかると言われている。

それよりも圧倒的に労力のかかる徘徊者の捜索コストや関係者の労働時間など交通事故の検証費用は下回ることは無いと思うが、同程度のコストだと控えめに見積もって毎年150億円以上の経済的損失が生じている。

認知症患者の列車事故の損害請求が話題になったが、社会全体のコストだけで見るのであれば、そういった事故が毎年100件発生したとしても、捜索費用のトータルコストにははるかに及ぼない。

(JRの損害請求額720万円×100件=)7億円 vs 150億円 

徘徊の定義

医学上臨床的に徘徊という用語そのものは一般的に認められているが、定義に関しては明確に確立されていない。

認知症の徘徊の定義は広範囲だが、概ね

・意図をせずして、ノロノロとした動きランダムなペースで、空間的な移動経路が不規則

・徘徊を行う時間が無秩序

・頻繁に行う

・反復的である

・一部の患者では補助者がいないと道に迷ったり迷子になったりする。

といった認知症患者の問題行動上として現れる症候をさす。

患者の可動性、移動能力があることが前提であるため、患者が車椅子や歩行の補助者の手助けを得ていると、介護者が潜在的な徘徊の問題に気が付かない可能性もある。

www.kindlycare.com/wandering-dementia-symptoms/#section_8

徘徊者から歩く人へ

「徘徊行動/wandering」から「徒歩旅行/wayfaring」へ

「徘徊者/wanderer」から「歩きたい人/people who like to walk」へ

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26519452

「徘徊」を病理の問題によって生じる行動を悪化した産物ではなく、成長しようとする意志として捉えケアを考えていく動きが生まれてきており、上記のような代替的なフレーズへの移行も検討されている。

Wayfinding

物理的な状況を心の中で想像したり表現したり、その表現の中に自分自身を空間的に位置づけたりする能力

Dementiafriendly architecture/認知症フレンドリー建築学

jhu.pure.elsevier.com/en/publications/dementia-friendly-architecture-environments-that-facilitate-wayfi-3

疫学

徘徊を行う患者の特性

性別・年齢

徘徊は、性別や年齢によって異なることはない。

Brazil K, Hasler A, McAiney C, Sturdy-Smith C, Tettman M.Perceptions of resident behavior problems and their clinical management in Long Term Care facilities. J Ment Health Aging 2003; 9: 35–42

女性では徘徊を行う傾向が低いという研究報告

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11113981

抗精神病薬の使用

抗精神病薬の使用が、徘徊と関連する大きな可能性がある。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11113981

Schonfeld L, King-Kallimanis B, Brown LM et al. Wanderers with cognitive impairment in Department of Veterans Affairs nursing home care units. J Am Geriatr Soc 2007; 55: 692–699

衛生管理の手助けを必要としない

施設において重度の認知障害を有し、社会的に不適切な行動を示し、施設への入居時に衛生管理サポートの必要性の低い入居者では、徘徊行動が消失する可能性は低い。

歩行、移動能力を依存していた入居者では徘徊行動が止む可能性が高かった。

医学的合併症を有し、歩行のサポートが必要な入居者では徘徊へと移行する可能性が低かった。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19603420/

短期記憶障害・肺炎・反復質問・長期記憶課題・痛み・便秘

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11113981

徘徊の時間帯

看護施設での徘徊が始まるピークは、朝5時から7時半の間

onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1046/j.1365-2648.2003.02781.x

徘徊の有害事象

徘徊のリスク

24時間以内に発見されなかったアルツハイマー病患者の死亡率は46%

1995年 Robert Koester、David Stooksburyによる研究

栄養欠乏

徘徊があまりにも過剰に行われると、患者のカロリー消費が増加し、

・体重減少

・疲労

・睡眠障害

・社会的孤立

・早い時期の施設への収容

・怪我

などにより事故や迷子、栄養失調のリスクが高まる。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10579599

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16025697

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15633945

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15633945

骨折リスク

養護老人ホームの徘徊しない患者に比べて、徘徊する患者では骨折リスクが2倍になっているとの報告。

Ballard C, O’Brien J, James I, Swann A. Dementia: Management of Behavioural and Psychological Symptoms. Oxford: Oxford University Press, 2001

拘禁、鎮静剤の誘発

徘徊は過剰な拘禁や鎮静剤などの仕様を誘発するかもしれない。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3290465

高価な介護費用

徘徊患者への介護費用はよりコストがかかるとの報告

onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/gps.930040209

介護者のストレス増加

Ballard C, O’Brien J, James I, Swann A. Dementia: Management of Behavioural and Psychological Symptoms. Oxford: Oxford University Press, 2001

概日リズムの変調

夜間の歩行の増加は概日リズムの混乱を引き起こす。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11495390

徘徊の原因

徘徊の原因は理解が進んでいない研究分野で、病因は未解決のままである。

文献からは、病理学、社会心理学、人と環境の相互作用という3つの病因へのアプローチが主に提唱されている。

生物医学・病理学

右頭頂部の機能不全

右頭頂部の機能不全を伴い、神経回路の機能障害によって徘徊につながる。

また徘徊は、空間認識と記憶の機能障害から生じる可能性もある。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14521683

左側頭葉、頭頂葉の血流低下

またアルツハイマー病患者では非対称性の低灌流がよく見られており、徘徊をする認知症患者ではそうではない認知症患者よりも、左側頭葉、頭頂葉においてより深刻な脳血流の低下が示されている。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16116584

視覚運動障害

非対称性の脳低灌流の結果として視覚運動障害が徘徊と関連する可能性がある。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12690056

局所脳血流の低下

・身体的な興奮行動 

右上頭側回(Brodmann 22)右下前頭回(Brodmann 47)

・口語での興奮症状

左下前頭回(Brodmann 46,44)、左島皮質(Brodmann 13)

・精神病症状 

右角回(Brodmann 39)、右後頭葉(Brodmann 19)

www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3933703/

社会心理学

欲求不満の解消

ニーズを満たしたいという感情や環境要因が、徘徊のリスクにつながる可能性がある。

欲求不満には内的な不快感と外的な不快感があり、それらが結びつくと異常行動が生じやすい。

例えば、トイレの援助が必要であるという内的な不快感に、環境的に騒々しいという外的な不快感が結びつくと異常行動が出現し、多くの人が安全な場所や親しい人を探そうとして徘徊にむすびつく傾向がある。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23629815

Mayhew M. The growing challenge of Alzheimer disease part 2. J Nurse Pract 2005; 1: 149–156

大うつ病

徘徊行動は、中程度から重度のうつ病、妄想、幻覚、および睡眠障害と関連していた。

その他に、神経遮断薬の使用、性別が男性であることも、徘徊行動と重要な関連性をもっていた。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10340188

人・環境との相互影響

精神障害、混乱、暗い環境、退屈な状態、ストレス、緊張、不安、自制心の欠如、運動不足、中枢神経系疾患、心不全

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8975029

徘徊と認知症の関係

徘徊は、認知症障害である近似記憶、長期記憶、時間と場所の志向性、会話への応答能力の深刻さと相関する。

onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/gps.930040209


MMSEで13点以下のスコアの患者で、徘徊行動が起こり、典型的には1~2年間続く。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18728950

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11495390

アルツハイマー病患者に多い徘徊

アルツハイマー病患者の26%、血管性認知症患者の18%が徘徊行動をとる。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8422268


アルツハイマー病初期では12%、血管性認知症では9%、進行後のアルツハイマー病後期では37%、血管性認知症では28%で徘徊行動が起こる。

アルツハイマー型認知症では、他の認知症よりも徘徊を行う可能性が全体的に高いが、重症化するとそれぞれの認知症に有意差はなかった。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10340188

徘徊へのアプローチ

徘徊行動の原因を知る

5つの徘徊要因に基づいた28項目の質問票

Algase Wandering Scale(AWS)

テストによって徘徊のパターンを調査し、不安、うつ病、攻撃性、薬物関連運動障害(例、アカシジア)などによる徘徊であるかどうかを切り分けていく上で重要な測定

journals.sagepub.com/doi/10.1177/153331750101600301

英語、アクセスが必要

徘徊行動を止めない

これまでの徘徊の対策は、徘徊者を外に出さないように物理的な障壁を設けたり、身体的な制約を加えることが主流であったが、現在は徘徊を防ぐよりも安全な歩行を促進する方向へと対応策が移りつつある。

徘徊者として分類してしまうことがが、患者が他の場所で社会的に不適切な行動ををってしまうなど破壊的な行動にむすびつき、それによって介護の側も強制性をもったものとなってしまう可能性がある。

認知症患者の自立性を確保しつつ、リスクを最小限にとどめる、両者のバランスを目指したアプローチ。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17493188


認知症の問題とされる徘徊は、認知症患者の無意味に見える行動を記述するために用いられる。

しかし、徘徊は行動症状と同様に、理解可能な理由によって起こる。

それらは環境による刺激であったり、身体的不快感、心理的苦痛など、人間として必要な反応である。

www.alz.org/national/documents/brochure_DCPRphases1n2.pdf

徘徊の利点

徘徊行動は身体活動を維持することで、体力を増強し治療効果を生む可能性

journals.sagepub.com/doi/10.1177/1533317510365342


徘徊行動は、刺激や社会的ふれあいを提供したり、移動能力を維持するために役立つ。また皮膚の障害を防ぎ、便秘を予防し、気分の落ち込みを防ぐことができることも含む。

www.alz.org/national/documents/brochure_DCPRphases1n2.pdf

徘徊行動への心理的障壁による防止

これまで徘徊を防ぐために、拘束、薬物、ドアの施錠などによって介入がなされてきた。

認知機能障害を有する人々では、健常者とは異なる環境刺激に反応することがあるため、音や画像、匂いなどを用いた徘徊の防止策について検討する。

ドアノブを隠す

出口の変更

ドアを鏡にする

ドアやドアノブをカモフラージュする

床を階段状のストライプ模様にする

こういった研究はバイアスに弱く、強い証拠は見つかっていない。

得られた証拠は短期であり、かかるコストによっては実用性に欠けるかもしれない。

cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD001932/abstract

「floor  wandering dementia camouflage」の画像検索結果

ウォーキング・音楽療法

システマティックレビュー 

危険な徘徊を防ぐための非薬理学的介入の有効性

介入を推奨する強い証拠は存在しない。エクササイズには弱い証拠が存在する。

実践的、倫理的にはウォーキングと音楽療法は最も受け入れられる徘徊への介入方法である。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17096455

音楽療法のメタアナリシス

www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5432607/

電子デバイスの利用

www.bmj.com/content/346/bmj.f3603

電子タグの利用の倫理的問題

www.bmj.com/content/346/bmj.f3606

蛍光色素の衣服

高齢者の衣服に蛍光染料を塗り、紫外線の照射によりビデオカメラによって可視化される。

送信機の紛失やバッテリー切れなどの問題を回避することができる。

europepmc.org/abstract/med/24111431

リスペリドン

リスペリドンはの使用はプラセボ群と比べ、アルツハイマー病患者の積極性と徘徊行動減少させ、夜間の睡眠時間を増加させた。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15157345

LLLT

12週間の近赤外線光治療により、破壊的な行動(キレる、身体的な攻撃、徘徊)が減少した。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5568598/

当サイトでも、LLLTで徘徊がなくなったという報告を寄せてもらっている。

スローストロークマッサージ

Slow-Stroke-Massage(商標)

プロダンサーClaudia Bergによって開発されたマッサージ器具、手技、オイルを使ったマッサージ

スローストロークマッサージは、アルツハイマー病患者の興奮した口語表現を消散させなかったが、徘徊、歩調、抵抗などの身体的な興奮行動へのは適用可能であった。

www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10603811/

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