リコード法 36項目 オートファジーの活性
※ 免責事項をお読みください。
記事目次
オートファジーの役割
オートファジーとは、細胞に備わっている細胞内の不要なタンパク質を分解する仕組みのひとつ。
・異常なタンパク質を分解して蓄積を防ぐ
・過剰に合成されたタンパク質の分解
・栄養飢餓などによりタンパク質をリサイクルしてアミノ酸を供給
・細胞質内に侵入した病原微生物の排除
など、生体の恒常性維持に関与する。
3つの主要なオートファジー
マクロオートファジー
オートファジーとだけ書かれるとき、通常このマクロオートファジーを意味する。
細胞質成分やオルガネラを包んだオートファゴソームがリソソームと融合してオートリソソームを形成し、包んだ内容物を分解する。
マイクロオートファジー
直接リソソームの膜から細胞質成分を取り込み内部で分解する。
シャペロン介在性オートファジー
シャペロンと分解基質の複合体をリソソーム膜上の受容体(LAMP-2A)が認識してリソソーム内に取り込み分解する。
square.umin.ac.jp/molbiol/proffessional2.html
神経変性疾患におけるオートファジー
アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、家族性パーキンソン病などの疾患では、オートファジー経路に異常が生じており、疾患の発症機序に多くの影響を与えている。
オートファジーがタウ凝集体、アミロイドβの蓄積と関連して、アルツハイマー病の進行に対する保護因子として機能することは、これまでの研究で実証されてきている。
オートファジーの複雑なネットワーク
オートファジーには基盤的な180のタンパク質候補が関与しており、相互作用により複雑にオートファジーネットワークが築かれていることがわかってきた。
神経変性疾患におけるオートファジー経路への介入としてmTORが第一世代の標的として知られているが、オートファジーの複雑な仕組みが解明されるにしたがってより多くの薬物標的が必要となることが強調されてきている。
オートファジーの診断
オートファジーの臨床的に有用なバイオマーカーはまだ研究されていない。
アルツハイマー病
アミロイドβへの影響
アルツハイマー病におけるオートファジーの役割にはまだ議論の余地がある。
多くの研究が、オートファジーの活性によるアミロイドβおよびアミロイドβ発現の低下を報告している。
一方で、いくつかの研究ではアルツハイマー病の病因にオートファジーの活性が関与していることも報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22108004/
オートファジーのリスクとベネフィット
アルツハイマー病の初期段階のおいてのオートファジー誘導剤は新しい有効な治療を提供する可能性がある。
対照的に、アルツハイマー病後期においてオートファジーを活性化させることは、アミロイドβ産生の加速により疾患の重症度を高める可能性がある。
Beclin1
遺伝学的には、オートファジーの主要な役割を担うBeclin-1の発現レベルが、アルツハイマー病の疾患の初期において低下していることが報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18497889/
Beclin1の欠乏は、ハンチントン病の原因とされるハンチントンの蓄積の増加と関連する。
オートファジーと関連する経路
MAPK経路
ERKシグナル伝達
JNKシグナル伝達
p38シグナル伝達
DUSP1(二重特異製ホスファターゼ1)
タウオパチー
オートファジー阻害によるタウの凝集
オートファジーの阻害は、タウクリアランス速度の低下およびタウの凝集を促進する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18294209/
リソソーム形成誘導
リン酸化タウはオートファジーの基質であることが示されている。
剖検ではオートファジー関連タンパク質であるAtg8(LC3)およびp62/SQSTM1はリン酸化タウと共局在しており、おそらくこれらのタンパク質はオートファゴソームに包まれたままリソソームによっては分解されていないことを示唆する。
このことからリソソーム形成の誘導は、タウオパチーに対する効果的な治療戦略であると考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26936765
メトホルミン
臨床試験 メトホルミンによるTORC1阻害、PP2A活性を介したタウリン酸化阻害
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21098287/
トレハロース・メチレンブルー
トレハロースおよびメチレンブルーはタウ凝集体を減少させ、タウオパチーマウスモデルにおいてニューロンの生存を改善することが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22361619/
リソソーム
神経変性疾患におけるリソソーム機能不全
オートファジーの障害は、特定のリソソーム蓄積障害(ライソゾーム病)と関連している。
※リソソーム蓄積症(LSD)はリソソーム機能の突然変異によって引き起こされる代謝障害。
いくつかのリソソーム蓄積障害では、広範囲の神経変性、細胞内のタウタンパク質凝集体、神経炎症などアルツハイマー病と病理学的な類似性を有する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18067990
脂質組成はアルツハイマー病患者で有意に変化している。
スフィンゴ脂質の蓄積のオートファジーへの影響
スフィンゴ脂質の蓄積は、オートファジーの誘発を促進する一方で、オートファジーの効率的な代謝回転を損ないスフィンゴ脂質の蓄積を増加させる。
スフィンゴ脂質の蓄積は、APP C末端フラグメント(APP-CTF)のリソソームによる分解を減少させ、γセクレターゼ活性が刺激される。
これにより、アミロイドβの分泌と産生の両方が増加する。
www.jneurosci.org/content/31/5/1837
リソソーム障害の改善
リソソームクリアランスの重要性
少なくともインビトロにおいて、リソソームクリアランスが損なわれると、オートファジーの誘導による病理が悪化する。そのため
・リソソームクリアランスの阻害因子を緩和する。
・または、疾病のより早期の段階においてオートファジーを刺激することにより、リソソームクリアランスの阻害因子を前もって除去する。
ことが、アルツハイマー病などの脳疾患におけるオートファジー誘導治療を成功させるための前提となる。
セントロフェノキシン
老化または疾患により蓄積したリポフスチンは、リソソーム系の効率を低下させる可能性がある。
リポフスチン分解剤として知られるセントロフェノキシン(メクロフェノキサート)は、よりリソソーム系の改善に役立つ可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2506844
リソソーム蓄積症の治療戦略
・スフィンゴ脂質合成阻害剤
・アロプレグネノロン
・神経炎症の低減
・薬理学的シャペロン
・オールトランス型レチノイン酸
・リチウム
・CLEARネットワーク
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3153126/
オートファジー治療戦略
早期治療・生活改善
これまでのオートファジー誘発物質によるマウスモデルの疾患発症の成功例は、早期においての薬物投与である。
このことは、オートファジーによる薬物療法が安全性を有する必要があることを示唆する。
オートファジーはとりわけ、栄養素、成長因子、エネルギー代謝の変化に対する恒常性反応であることから、食事療法、カロリー摂取の調整が長期的に安全にオートファジーを増強させることが可能になる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23921753/
ホルモン補充療法
低すぎるまたは高すぎるエストロゲンおよびER(小胞体)ストレスはインスリン抵抗性を促進する。
エストロゲンは、オートファジーの小胞の成熟を促進する。
エストロゲンの減少は、リソソーム成熟の障害をもたらしえる。
プロゲステロンはオートファジーの活性化により神経保護効果を発揮する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23891729
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24443716
オートファジーの性差
mTOR阻害によるアルツハイマー病への効果は男性と女性で異なる。動物実験で得られたデータに基づくと、性別によって異なる介入が必要であることが浮かび上がってきている。
インスリン抵抗性の増加はアルツハイマー病におけるオートファジー不全の特徴である。
女性の性ホルモンと関連するオートファジーの脆弱性が、女性に見られるアルツハイマー病病理の重症度の大きさに寄与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29988365
オートファジー標的
TORC1阻害剤
ラパマイシン
クルクミン
レスベラトロール
ラトレピルジン
AMPK活性剤
リチウム
トレハロース
ポリフェノール
ケルセチン
カテキン
ナリンゲニン
ベルベリン、クルクミンなどのアルカロイド
複数のオートファジー標的
PP2A調整剤
フィンセチン
メトホルミン
カテプシン活性
Hsp70
リソソーム膜安定剤
抗酸化剤
コレステロールの調節
カルパイン阻害剤(シルデナフィル)
TFEB活性剤(クルクミン)
pH 酸性化
GSK-3β阻害剤(バルプロ酸、リチウム)
cAMP増強剤(フォルスコリン)
ホスホジエステラーゼ阻害剤
ドーパミン受容体D2・D3
ドーパミン受容体サブタイプD2、D3はオートファジーの正の調節因子。
D1、D5は負の調節因子
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29786666
オートファジー誘導剤
Ulk1経路
mTORと独立したオートファジー誘導経路
ULK1キナーゼ-AMPK経路は、mTORとは独立して、cAMP-IP3経路またはカルパイン-G刺激タンパク質(Gsα)経路の刺激を介してオートファジーをアップレギュレーションすることが可能
リチウム、ベルベリン
Ulk1経路を標的とするオートファジー誘導因子であるリチウムおよびベルベリンは、ADマウスにおいて、APPプロセシングの調節およびアミロイドβレベルの減少を介して、オートファジーを誘導し、神経保護効果を発揮することが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21187954/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22459600/
トレハロース、カルバマゼピン
トレハロースとカルバマゼピンの両方が、mTOR非依存性のオートファジーを介してADマウスに防御効果を及ぼすことが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24236985/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23305067/
TFEB活性
転写因子EB(TFEB)は、オートファジーとリソソーム生合成のマスター制御遺伝子。
TFEBはALS、パーキンソン病の蓄積タンパク質による細胞毒性の抑制のための標的候補でもある。
TFEBはPGC1-αによって活性化される。
クルクミン
クルクミンはTFEBに直接結合してTFEBの転写活性を増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27689333
カルパイン阻害剤
カルパスタチン(カルパスタチンは内因性のカルパイン阻害剤)
シルデナフィル
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5300003/
シャペロン
タンパク質の折りたたみをサポートする分子シャペロンの多くはATPアーゼであり、アルツハイマー病と関連するベシクルATPアーゼ(V-ATPase)は以下の働きを有する。
・リソソーム成分の折りたたみや運搬を促進する。
・タンパク質分解を妨げる蓄積脂質を除去する。
薬理学にシャペロンを活性させることで、アルツハイマー病におけるV-ATPアーゼ、パーキンソン病におけるATPアーゼ ATP13A2などを標的とするアプローチが可能となるかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21331254
IP3抑制
リチウム
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24738557/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16874097
トレハロース・ラパマイシン
IP3濃度を低下させる薬剤(リチウム、トレハロース、ラパマイシン)とラパマイシンと組み合わせによる相乗効果
リチウムとバルプロ酸の併用療法
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18640245